全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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前々から言ってるかもしれませんが私の作品の美琴は大分丸いです(性格的な意味で


#44 ゴーレム

あれから他の出口を探そうと思ったが結局は全部無駄骨に終わった

一応、ダクトも念のために調べてみたが当然ながら人ひとり入れるスペースではないので諦めた

空調が切られたのかは不明だが地下の温度が上がっているような気もして、おまけに変に非常灯が赤いためにオーブントースターに放り込まれた気分だ

 

どうも居心地が悪い

 

薄暗い道の先を見て当麻が呟く

 

「…クソ、迎え撃つしかなさそうだ、あっちは顔確かめて襲ってきたみたいだし。インデックス、お前は風斬たちと一緒に隠れてろ」

 

相手はこっちの位置を把握している

いくら広いと言えど、見つかるのも時間の問題だろう

そんな事を考えつつアラタは己の顎へと手をやる

 

「せめて人数でも分かれば、策は練れそうなんだがな」

「あぁ。けどわからない以上、先手を取らないと」

 

天道の言葉にアラタは同意する

相手がどこから来るか分からない上に、その人数も不明な今、後手に回るのは避けたい

そんな中、三毛猫(スフィンクス)を抱えたインデックスが頬を膨らませつつ

 

「とうまの方こそひょうかたちと隠れててほしいかも。あらたみたいな力を持ってるならともかく、敵が魔術師なら私の仕事なんだから」

「アホか。お前の手で殴ってなんか見ろ、逆にお前の手が痛んじまうだろうが。いいからお前は隠れてろ」

「むむむ。もしかして今までの幸運(ラッキー)が全部実力だって勘違いしてない? その右手があっても所詮とうまは素人なんだから一緒に隠れててって言ってるの」

 

何やら当麻とインデックスが言い合っている

そんな光景を見ながらおろおろしつつ、氷華はアラタに向かって

 

「あ、あの。こういう時、私が何か手伝うってことは…、ないの?」

「ないだろうな。申し訳ないけど」

 

そんなアラタの言葉に天道は頷く

そうはっきり断言されてしょぼん、と風斬は項垂れた

 

◇◇◇

 

「…また大きな揺れだね。テロリスト…だっけ」

 

ゲームセンターから出て、ワタル達は周囲を見渡す

どうやら先ほどの大きな揺れで障壁が閉まってしまったらしく、軽く騒ぎになっているらしい

完全に逃げ遅れた美琴とラモン、そしてワタルはとりあえず道を歩いていた

 

「…どうする?」

「まぁ仕方ないね。いろいろ歩いて道を探してみよう」

「ですねぇ」

 

三人は頷き合って再び道を歩く

それにしても学園都市に侵攻してくるとはそれはそれですごいなぁ、なんてワタルは思う

念のために、キバットもコートのポケットに待機させてはいるのだが

 

警備もしっかりしているこの都市に真正面から突っ込んできたのだろうか

一行が歩いていると、不意に後ろからかつかつ、と誰かが走ってくるような音が聞こえたあと、声をかけられた

 

「そこの方々! 風紀委員―――て、お姉様!?」

「えっ? …あ、黒子」

「黒子ちゃん?」

 

声にワタルと美琴は振り向き、ただ一人ラモンは怪訝な顔をする

美琴を見たあと、さらにワタルの顔を見た黒子はまた驚いたような顔を浮かべ

 

「紅葉先生まで! どうしてここに」

「どうしてって言われても。…その、友達にゲーセン行こうって誘われて」

 

そう言いながらワタルはラモンの頭をぽふん、と叩く

なんかラモンの口からはぎゅ、なんて声が聞こえたが気にしない

その言葉を信じてくれたのか黒子ははぁ、と息を吐きながら

 

「…お姉様は?」

「へ!? わ、私は―――その」

 

尾行してました、とは口が裂けても言えない

言ってたまるか

 

◇◇◇

 

その時、付近の曲がり角から足音が聞こえた

一瞬驚くがすぐに当麻は風斬とインデックスを、インデックスは風斬を庇おうとして―――結果、二人はぶつかって勢いよく転んでしまった

天道とアラタ、そしてゴウラムは僅かに身構えるだけだったが、その光景に若干ではあるが苦笑いをしてしまう

インデックスの腕に潰されそうになっているスフィンクスがみゃー、と鳴きながら前足をばたつかせた

 

「…はて。猫の声が聞こえますわね」

「それも結構近い感じだね」

「あれ? 黒子、アンタ動物興味ないんじゃなかったっけ」

「お姉様は興味がございましたね」

「べっ、別に私は、そんな事―――」

「別に隠す必要ないじゃありませんか。わたくし、存じております。寮の裏にたむろっている猫達にご飯をあげる日課を。でも体から発する微弱な電磁波でいつも逃げられて一人ぽつんとなっていることも」

「なんで知ってんのよ!?」

「…はは、意外だな、御坂さん動物好きなんだ?」

「ちょ!?」

 

曲がり角から二人の青年と少女が現れた

歩いていた彼らは床に転がっているインデックスと当麻を見て足を止め、今度は視線をアラタたちに向けてまた驚いた

同時に身構えていたアラタらは敵でない彼らが出てきて内心ホッとしている

落ち着いた様子で美琴は当麻をちらりと見やって

 

「…え、と、なにしてんの?」

「お兄様のお友達は大胆ですのね?」

「いや別に。転んだだけさ、うん」

 

とりあえずそう言い訳しておく

そんな中インデックスはそのままの態勢で 

 

「だれ? この人たち、とうまの知り合い? 短髪の人はこの前のクールビューティーに似てるけど…」

 

そんな事を言いつつインデックスは彼から身を起こす

対する美琴は戸惑いつつ

 

「え、っと…私はどちらかというとアラタの方…かな?」

 

実際二人とは面識はあるが交流が長いのはアラタだ

インデックスはふぅん、と短く声を出し美琴の前に出て

 

「私はインデックスって言うんだよ。よろしくね」

「い、いんでっくす? すごい名前ね。…私は御坂美琴、こちらこそよろしく」

 

そう言って軽く握手を交わす

結構この二人…悪くはないのかな? なんてそんな事を思いながら当麻はアラタの手を借りつつ身体を起こした

黒子やワタルらと軽い自己紹介が終わると当麻はアラタと共に軽い状況説明を行う

当然ながら魔術関連の話は省いておくこととする

 

「ふぅん? やっぱりあのゴスロリとなんか関係があるのかしら」

「可能性は高いですわね。貴方がたが聞いたとされる声の特徴を重ねても、関与してると考えた方がよろしいかと」

 

黒子は腕につけた風紀委員の腕章を改めて付け直しつつ

 

「全く。テロの侵入を許すだなんて、わたくし達風紀委員も気を入れ直す必要がありますわねぇ。報告では二組あったと聞いてましたし」

「? …二組?」

「…お兄様、侵入を許したのは二組だと申したはずですが?」

 

そう言ってじとー、と見てくる黒子

 

「…そうだっけ?」

 

そして冷静に考える

同じように彼の横では当麻がだらだらと冷や汗をかいており、インデックスに不思議がられている

 

「そうですわよ。侵入方法は全く違うとの事ではありますけど、まだ断定はできないですわ」

 

そんな冷や汗をかく当麻にインデックスは服の袖を引っ張りつつ

 

「どうしたのとうま。なんだかあらたもちょっと苦笑いしてるけど」

「や…言うの忘れてたんだけど、その侵入者の一組は俺らだ」

 

アラタは当麻の肩に手を置きながらそう言った

そんな言葉にその場の全員はは? と頭に疑問符を作り、それらを代表するようにワタルが問う

 

「…どういうこと?」

「えっと…あれですよ。なぁアラタ」

「そこで俺に振るの!? …その、なんだ? すごく簡単に言えば〝人助け〟…みたいな」

 

アラタがそう言うと一同はどういう訳か「あぁ、なるほど」みたいに首を頷かせて納得したような仕草をする

…それはそれでなんか嫌だがこの際は気にしないことにした

とりあえず空気を変えようとアラタはワタルに向かって一個聞いた

 

「ていうかワタルさんなんでここにいるんですか?」

「まぁ分かり易く言うと逃げ遅れた」

 

本当に分かり易かった

あまりにも会話が早く終わってしまったために、今度は当麻が言葉を紡ぐ

 

「え、えっと! し、白井はなんでここに?」

「はい? あぁ、わたくしは風紀委員ですので、閉じ込められた方々の救出しにきたのです。これでも空間移動(テレポート)の使い手ですので」

「なるほど。じゃあ御坂は?」

「え!? わ、私はそのっ、あ、アラタに忘れ物届けにきたの! ほら、腕章!」

 

唐突に話を振られて驚いたのか、顔を赤くしながらずい、と美琴はアラタに向かって風紀委員の腕章を差し出す

 

「あぁ、悪い美琴。なんかないなー、なんて思ってたらやっぱ忘れてたのか」

「そ、そうよ。全く」

 

アラタは美琴から受け取って改めてその腕章を腕につける

別にこの腕章がなくても問題は特にないが、それでも何かしっくりくるものがある

 

「よっし、黒子。人命優先だ、早いとこ救出作業を」

「了解ですの。お兄様は」

「敵さんを食い止める。時間を稼いだ方が救出も捗るだろう」

 

そう言いながら少し前に出て軽く屈伸をする

準備運動するアラタの隣に並ぶように当麻も歩き

 

「手を貸すぜアラタ」

「…ホントは駄目だって言いたいけど。…しゃあないか」

 

本来なら黒子の能力で真っ先に外に出て待っててもらいたいが、彼の持つ右手がそれを邪魔をする

幸いにもここはワタルに天道と戦力はそれなりだ、なら変に外に出てもらうよりここで共に戦った方が被害は少なそうだな、とアラタは考えた

そうな訳で

 

「黒子、まずは美琴とインデックスから外に」

「え!?」

「ちょっと!?」

 

当然ながらそんな声が二人から聞こえた

驚くインデックスに当麻は

 

「いいかインデックス。敵はお前を確実に狙ってきてんだ、ここにいるよりも外の方が安全なんだって」

「とはいってもそれが確実とは言えない、だからその護衛を美琴、頼めるか」

 

最もらしい理由を言われ、インデックスと美琴は言葉を詰まらせる

少し時間があって

 

「…わかった。けど当麻、無茶しちゃダメだよ?」

「アラタもだかんね。ほんっとに」

 

しぶしぶと言った感じで承諾してくれた

そんな二人を見届けて黒子は二人の肩に手を置いて

 

「では―――行きますわ」

 

そう言ってヒュン、と目の前から消える

黒子の能力〝空間移動(テレポート)〟が発動したのだ

 

「…ほう。初めて見るが、今のが空間移動(テレポート)という奴か」

「常盤台はレベル高いからねぇ。…僕も見るのは初めてだけど」

 

天道とワタルはそんな事を言いながらふと天井を見る

それに釣られて当麻とアラタ、風斬も天井を見上げた

無事にたどり着けただろうか

なんてことを考えながら当麻は風斬に向かって口を開く

 

「…悪いな、お前を残しちまって」

「い、いえ、別に私は最後でも…。それより、皆さんたちの方こそ―――」

 

風斬の言葉はゴガンっ! と聞こえてきた大きな音に遮られた

これまでと違い、爆心地が近い

通路の先から銃声の音と、怒号や悲鳴が聞こえてくる

 

「…ちっ。もう来やがったか」

「そう…みたいだな」

 

当麻の言葉に応えながら天道と当麻はその通路を睨む

先ほどまで障壁に集まっていた生徒たちは再びパニックとなっていた

一斉に離れようと走り出す…がすぐに何かにつまづき転んで将棋倒しを起こしてしまう

 

「考えている時間はなさそうだな」

「うん。バ…違う、ラモン、風斬さんの近くにいて」

「オッケー!」

「ゴウラムも。頼んでいいか?」

「うん。カザキリは守る」

 

ワタルは隣にいるラモンと呼ばれた青年にそう言って、同様にアラタもゴウラムに言い残し当麻らが睨んだ通路を見た

数十人と人がいるこの場所で戦ってしまえば必ず犠牲者が出てくる

避けられない戦いなら―――

 

「行こう、当麻、天道、ワタルさん」

「あぁ」

「任せろ」

「うん」

 

決断は早かった

 

「風斬さんはここで二人と一緒に黒子を待っててくれ」

「は、はいっ」

 

風斬が返事をした直後、四人は一斉に走り出す

正直敵の正体も、強さもわかったものではない

しかし、この戦いに巻き込んでしまえば間違いなくいくつもの命が巻き込まれる

その中には風斬だっている

 

それだけは、させちゃいけない

 

◇◇◇

 

魔術師、シェリー・クロムウェルは銃声渦巻くその戦場を歩いていた

その顔には特に何も色はなく、無表情

シェリーの前方には巨大な盾のように、石像が立っている

身長はだいたい四メートルと言った所か

彼女は空にパステルを振るい、命令を下し、ゴーレムの歩を進めた

 

それに立ち向かっているのは漆黒の装備に身を包んだ警備員(アンチスキル)

彼らは喫茶店などのテーブルを集めバリケードを形作り、そこに身を隠しながら三人セットでローテーションを組んでいる

一人が撃っている間にメンバーは装填をし、弾幕を途切れさせないように一定間隔で放ち続ける

 

(…品がないわね)

 

適当に評価を下して、さらにゴーレムを盾にし歩を進める

そんな時、カチンと何かの金属音が聞こえた

誰かが手榴弾のピンを抜いたのだ

彼はゴーレムの股下をくぐらすように投げようと―――

 

「エリス」

 

それより先に彼女のパステルが宙を切る

ゴーレムが大地を踏み鳴らし、床が波のように振動する

タイミングを奪われた男の手から手榴弾が滑り落ち―――爆発した

 

赤が見えた

 

その手榴弾はどうやら破片で傷をつけるようなものらしく、バリケードには一切被害がなかった

バリケードの奥から鉄の匂いがシェリーの鼻に届く

 

(…使う必要は…なさそうね)

 

ちらり、と彼女は手元にある数枚のメダルとメモリに目をやった

メモリは二本合ったが一本は逃走に使う際に使用して消失している

…興味本位で購入してみたが、案外役に立つものだ

そしてメダル

こちらは信号機のような奴三枚と黄色いのが三枚ほど

一つ一つに膨大な魔力が内包されており、この三枚を凝縮させるとオーズという自動人形が生成される…と聞いたことがある

しかしこのメダルは斎堵からくすねたもので、レプリカモデルらしく本来の強さはないようだ

まぁそれでも…目の前の奴らを蹴散らすには十分なはずだ

 

それらを改めて仕舞い、再びパステルを彼女は振るった

 

石の化け物を相手にするのに、彼らでは脆弱すぎる


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