全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

50 / 80
#43 閉鎖空間

天道の案内してくれたレストラン〝学食レストラン〟でひとまず昼食を食べたあと、当麻たちはゲームセンターへと足を運んだ

 

因みにその学食レストランではあろうことかインデックスが四万もする常盤台給食セットを頼んだ時はどうしたものかと思ったがなんとその金額を誘ったのは自分だ、と天道が言って奢ってくれたのだ

払った後、天道は当麻に向かって

 

「金を返す必要はないぞ」

 

と今まさに危惧していたことを言ってくれた

…当然ながら、払える分は払ったのだが如何せん四万が大きすぎるのだ

 

そんな事が起こった学食レストランでの思い出を早速回想して、今度は自分の財布を当麻は見る

つい先ほどまでそこには千円札が九~十枚くらいあったのに、もう一~二枚になっている

…ゲームセンターでも大雑把に一周くらいはすればそんなに減るんだ、と痛感した

 

「…相変わらず不幸フルスロットルだな当麻」

 

そんな彼の耳に聞こえてくるのは聞き慣れた親友の声

鏡祢アラタだ

その傍らには見慣れない女の子もいる

 

「ははは…しばらくは一日三食パンの耳だな」

「切実すぎるだな…」

 

一方、人となったゴウラムを見かけたインデックスはさらにぱぁっと笑顔になり彼女の付近へ駆け寄った

同様にインデックスを見たゴウラムも小さくはあるが微笑み、インデックスの手を取る

 

「楽しそうだね、インデックス」

「うんっ、そして貴女が来てくれたからもっと楽しくなるよっ!」

「ははっ。ありがとうインデックス」

 

短い期間ながらインデックスとゴウラムは本当に仲が良くなった

見た目は流石に全然違うが、それでも姉妹のようでもある

一方でちらりとクレーンゲームの方へと視線をやると天道がいそいそとクレーンゲームに興じていた

何故だろう、すごくシュールである

それでいてワンコインで目的のブツを入手するあたり凄い

そんな時、タイミングを計ったように当麻の携帯の着メロが鳴り響いた

当麻は携帯を取って画面を見る

どうやらメールではなく通話らしい

そんな当麻から何かを感じ取ったのか、風斬が動いた

 

「ねぇ、飲み物買ってこない?」

「え? それならとうまたちも一緒に―――」

「皆の分も買ってくるの…」

 

風斬はそう言いながらゴウラムとインデックスの手を掴み、そんな風斬たちに当麻は申し訳ない、とジェスチャーで謝りながら彼は財布を取り出してそれを風斬に放る

あたふたとしながら彼女は一度手を離して財布を受け取ると改めて手を掴み、自販機へと走って行く

そんな三人の背を見送ってから当麻は携帯に耳を当てた

アラタも三人を追いかけようとしたが、きっと女子三人の方が気楽だろう、と判断してその場に留まった

 

「…なんだったんだ一体?」

 

通話が終わったであろう当麻が携帯の画面を見ながら頭にハテナマークを浮かべている

気になったアラタは

 

「どうした?」

「いや…繋がったは繋がったんだけどさ…ほら、ここ地下街じゃん?」

 

当麻の言葉にアラタはあー…、と声を詰まらせる

地下街にいる自分たちの携帯は地上とは電波が繋がりにくい

それを改善するために携帯用の設置アンテナがあるのだが、そこから離れてしまうと途端に携帯は繋がらなくなる

 

「…まぁ、とりあえず大丈夫か」

 

そう言って当麻は携帯を折りたたみそれをポケットに突っ込む

それを見届けたアラタは今度は反対に向き直り

 

「…天道、いい加減クレーンやめないか」

「ははは。のめり込むとつい、な」

 

いつの間にか袋を調達したのか数体の人形がその袋に突っ込まれていた

どうでもいいが犬さんや猫さんが多めだった

 

 

そんな三人をやっぱり見ている人影が一人

御坂美琴である

 

「…ゲーム、センター…」

 

今現在アラタの付近にいる人は彼の友人である上条当麻と天道総司だ

それ以外にもあの女の子とは別に二人くらいまた見知らぬ女の子がいた

 

…意外にも女子の友人がいることに驚きつつ、美琴はゲーム筐体に身を隠しそのまま様子を伺っていると

 

「…あれ。御坂さん」

 

不意に背中からかけられた声に驚く

一瞬声が出そうになったがなんとか抑え、後ろを向いた

そこには紅葉ワタルとまた見知らぬ人が立っていた

…歳はアラタやその友人の当麻と同じくらいだろうか

 

「? ワタル知り合い?」

「うん。たまに常盤台で音楽講師やってるから…教え子かな」

 

ほぇー、と言いながら感心したようにその子は首を動かした

その後で美琴へと手を差し出し

 

「ボクはラモン! よろしくね!」

「え、えぇ。私は御坂美琴。こちらこそよろしく」

 

握手を交わし握り合う

テンションが少々高いラモンに、美琴はちょっと気おされる

 

「所でなにを見てたの? 隠れてたみたいだったけど…」

「え!? な、何でもないですよ!? は、はは…」

 

とてもじゃないが、尾行してましたなんて言えなかった

 

 

「とうまは、そんなに怖い人じゃないんだよ」

 

ゲームセンターのその奥にある自動販売機コーナーにて

インデックスは風斬に向かってそう言った

続けてゴウラムが

 

「そうだね、当麻もだけど、天道もアラタもみんないい人だから大丈夫」

「あ…うん。え、ッと…怖いとかそうじゃなくて…なんだろう。男の人と話すのが初めてだから…かな?」

 

そんな声を聞きながらゴウラムは風斬から受け取った小銭を自販機に入れていく

チャリン、と小気味よい音が聞こえる中、風斬は言った

 

「その…私どれが美味しいか分かんないから、その…貴女たちのおススメを、教えて?」

「? ひょうか、ジュース飲んだことないの?」

 

普通ならばどこかに引っかかりを覚える筈のその言葉に何の疑問を抱かなかったのはインデックスとゴウラムの二人がまだ現代知識が欠如しているからだった

その言葉に対し、風斬はインデックスとゴウラムの顔を見て口を開く

 

「うん。…〝今日が、はじめて〟」

 

 

いつまで経っても戻ってこない三人を心配し、探しにいった上条当麻が戻ってこない

そんなミイラ取りがミイラな状況にどうなってんだいと戸惑いながら天道とアラタの二人は三人+当麻を探して歩いて回る

 

ぐるりとあたりを見回してみるとバニーコスをした女子高生を何人か見かけた

恐らくはそう言う服の貸し出しコーナーでもあるのだろう

少し歩いて二人は目的の三人を見つけた

同じようになんかのアニメのコスプレをしている三人は今現在プリクラの操作に夢中になっており、アラタらの存在に気づいていない

因みに風斬はなんだか戸惑いつつ、インデックスに振り回されて、それにゴウラムが上手く合わせているようだ

 

目的の三人は確認した、じゃあ今度はあのウニ頭だ、となって天道とアラタはもう一度周囲を見渡した

そして見つけた

筐体の陰に隠れるように放置された、まるでゴミのような上条当麻を

 

「…、」

「…。」

 

あぁ、恐らくなんかハプニング(ラッキースケベ)な事態にでも直面してしまったのだろう

二人は両手を合わせ合掌して、未だ放置プレイを受けている当麻を起こすべく足を動かした

 

◇◇◇

 

そのドレスの女は歩いていた

名をシェリー・クロムウェル、イギリス清教の対魔術組織、必要悪の協会(ネセサリウス)のメンバー

同時にカバラの石像使いでもある彼女は笑みを浮かべてただ歩く

 

「まずは原初に土」

 

歩きながら歌うように彼女は紡ぐ

ドレスの破れた袖から彼女は魔術に使用する白いオイルパステルを取り出し、近くにある自動販売機やガードレール等に何かを書き殴っていく

 

「神は土で形作りそれに命を拭きこみ。人と名づけた―――しかしその御業は人の手で成せるものに在らず…また堕天の口で説明出来るものにもならず」

 

印を刻み、それを数えるほど七十二

そして空中にパステルを走らせて―――

 

「かくして、人の手で生まれた命は腐った泥人形止まり。…さぁて、ゴーレム=エリス。私の為に、使って笑って潰されろ」

 

最後に、パン、と手を打った

刹那、膿を潰すような音が響いた

一つや二つではなく、幾重もの

しかしその音は小さいものであったために、街を歩く人たちの耳に届くことはなかった

それ以前に、その音は人の喧噪に飲まれて消える

 

変化が起きた

 

自販機、ガードレール…書き殴った様々なものがピンポン玉サイズの大きさに盛り上がる

シェリー・クロムウェルの魔術は材料を問わない

その場にある、あらゆるものが彼女の武器だ

 

やがてその玉は横一線の亀裂が入り、それが瞼みたいに動きだし濁った白い眼球が姿を現した

彼女はハガキくらいの大きさの黒い紙を取り

 

「自動書記。標的はこいつでいいか。…? なんだこりゃ、この国も標準表記は象形文字なのか」

 

その紙に殴り書きのような文字でパステルを一閃する

そしてピン、と指で弾いて地面へと放った

 

〝風斬氷華〟と書かれたその紙が地面へと着地したその直後、何十体もの泥の眼球がその紙に押し寄せる

紙を千切り食い破り、その紙片を取り込んだ眼球はゴキブリのように四散していく

一つは地面を泳ぎ、また一つはぎょろり、と視線を動かして

 

「ここにいたか」

 

不意に聞こえた声

その主は唐突に現れる

ぐおん、と現れたその魔法陣の中から一人の男が現れる

シェリーはその男を知っている

 

「…ソウマ・マギーア」

 

同じく必要悪の協会(ネセサリウス)に属している魔術師…

ソウマは言う

 

「…何のようだ」

「別に。お前がやろうとしてることなんざ興味ないさ…俺は所用で来たんだよ」

 

ソウマは小さく笑みを浮かべる

対してシェリーはち、と心底鬱陶しそうに舌を打つ

 

「あぁそうかい。じゃあ私は行くぞ。いちいちお前になんて付き合っていられるか」

 

吐き捨てて彼女は彼の隣を通り過ぎた

そんな彼女の背中をちらりと見てソウマはなんとなく天井を見る

再び前を向いて

 

「…よし、まずはドーナツ屋だ。シュガーを買わないと」

 

呑気にそんな言葉を呟いた

 

◇◇◇

 

ゲームセンターにいると恐ろしい速度で金が減る、という事から一行は外に出た

割かし時間が立った気がするがそれでもこの地下街の喧噪が衰えることはない

しかし小さな変化と言えば学生の服装が制服から私服に変わっているところか

地下街、という場所は蛍光灯などで一定の明るさを保っているため、こう言う些細な変化で時間の変化をなんとなく読まなければならない

 

そんな訳で通行人の邪魔にならないように談笑していると、ふと風紀委員の腕章をつけた女の子が彼らの横を通り過ぎた

 

アラタはすぐに視線を外そうとしたが、その女の子がどういう訳かアラタたちを睨んでいることに気が付いた

その女の子はつかつかとこちらに向かって歩いていき、近くまで来ると

 

「ちょっとあなたたち、これだけ注意しているのになんでのんびりしてるんですか!」

 

凄い勢いで怒鳴られた

いきなり怒鳴られたことで当麻やインデックス、ゴウラムと風斬もきょとんとしてしまった

同様にアラタも驚いていたが天道は特に顔には出さず涼しげな顔でその女の子を見ていた

 

しかし目の前の少女は別に何か言っていたとは思えない…と考えて頭に直接語り掛けるように声が聞こえた

そしてこの目の前の女の子は念話能力(テレパス)の能力者なのだと悟る

同様に不意に頭の中に直接語りかけられたことで、ゴウラムとインデックス、風斬が驚いた表情をしていた

 

「了解です。こちらで誘導しておきますので貴女は職務の続行を」

「ご理解頂けて感謝します。なるべく急いでくださいね」

 

そう言ってその風紀委員の女の子は急いでまた走り出した

何が何だか分からない当麻はアラタに向かって口を開く

 

「どういう事だ? アラタ」

「すごく簡単に言うとだ。この地下街にテロリストが紛れ込んでるからシャッターを閉めるから巻き込まれないうちに早く逃げてくださいって事だ」

 

その声に当麻はギョッとした

アラタに付け足すようにテレパスの言葉を聞いていた天道が

 

「無用な混乱を避けるために、そしてそのテロリストに情報が洩れるとまずいから彼女のような念話能力(テレパス)が入り用になったらしい。幸いにも、シャッターを閉めるまでには十分ある」

「マジでか。…じゃあ急いで逃げないとな」

 

そんな訳で一行はさっさと地下街から離れよう、という事で出口に向かって小走りで移動し始めた

しかし、そこである一つの問題が浮上する

 

出口の階段付近には武装した警備員(アンチスキル)の姿が約五名ほど

皆黒いボディアーマーを着込んでおり、完全武装である

インデックスはこの街の住人ではないし、ゴウラムに至っては人へと姿を変えた存在だ

それでもゲストIDを持っているインデックスはまだいいが、ゴウラムはそんなものを発行している暇がなかったのだ

 

非常事態であるこの時では少しでも不審な人物は調べられるだろう

 

「…どうするアラタ」

「このまま行こう。…クソ、あそこに矢車さんとか立花さんとかがいれば誤魔化せたんだけどな…」

 

しかし無いものねだりをしても仕方がない

このままテロリストとの戦闘に巻き込まれるか、検問か

どちらが楽かと言われれば圧倒的に後者だ

しかしそんな考えは、いとも簡単に打ち消された

 

非日常の来訪によって

 

 

<見いつけた>

 

 

不意に、女の声がした

どこから、とアラタと当麻は周囲を見回し、天道はインデックスやゴウラム、風斬の前に立つ

そして、彼らは壁を見た

そして、見た

 

その壁の視線の先―――まるでガムのようにこびりついたその泥の中央に、眼球があったのだ

ぎょろり、ぎょろりとせわしなく動くその眼

 

風斬はきょとんとしたままだった

当麻は何が何だかまだ理解できていないでいた

天道はほぅ、と言葉を紡いだ

ゴウラムはその眼を逆に睨み返していた

アラタはその眼を見て、一瞬ではあるが思考が止まった

そしてインデックスは、冷静のその眼を見ていた

 

眼は呟く

 

<ふふ。ふっふふ…。うふふふふ。禁書目録に幻想殺し、虚数学区のカギに…おまけにクウガまでよりどりみどり。何人かわかんねぇのがいるけど、それでも困っちゃうわぁ、迷っちゃう…ほんとぉに>

 

その声は妖艶ではあったが妙に錆びていた

声は続ける

 

<ま。全員殺せば問題ねぇか>

 

粗暴な声へと切り替わる

この闖入者が誰か、正直今は分からなかった

しかしインデックスは切り捨てる

 

「土よりで出でし人の巨像…。その術式、アレンジがイギリス正教に似てるね。ユダヤの守護者たるゴーレムを強引に英国の守護天使にしてるところなんてとくに」

「…ゴーレム?」

 

当麻は思った疑問を口にする

ゴーレム…パッと思い浮かぶのは日本で有名な某RPGにでも出てくるようなあの岩の巨体だ

インデックスはその眼球を睨み

 

「神は土から人を創り出したって言う伝承があるの。ゴーレムはそれの亜種、恐らくこの魔術師は探索、および監視用に視覚の特化したこの土人形を作ったんだよ。本当は一体しか作れないけど、そのコストを小さくしてたくさんの個体を操ってるんだよ」

 

その声に、眼から聞こえる声はまた笑う

正直、理屈は全く分からなかったが、簡単に言うならば

 

「こいつがそのテロリストってことか」

「あぁ…たぶん間違いないな」

 

当麻の言葉にアラタは同意する

対して声は

 

<テロリスト。…テロリストってのは、こういうことする人らの事かしら>

 

ばしゃ、と音を立て眼球が弾けた

 

瞬間、ガゴンっ! と地下街全体が揺れた

 

その振動に、当麻は大きくよろめいた

天道はしゃがんで態勢を整えて、風斬はインデックスを支え、アラタは思わず転びそうになったゴウラムを抱き留める

 

そしてもう一度、まるで砲弾でもぶち当たったような振動が地下街全体を襲っていく

爆心地は遠い、しかしその余波は一瞬で地価全体に広まっているような感じだ

パラパラ、と天井から粉塵が零れてくる

そして蛍光灯が数回ちらついたのち、一気に全部の光が消えた

少し遅れて非常灯の光が薄暗くあたりを照らしていく

 

それまでゆっくりと出口に向かっていた人垣が雪崩のように出口に向かって突き進む

 

そして今度は足音とは別の重い音が鳴り響く

それは障壁が閉まる音だった

警備員(アンチスキル)が予定より早く障壁を下ろし始めたのだ

 

それが意味することは一つ

 

閉じ込められた

人垣が殺到した出口には近づけない

もし相手がこの事を予期していたのなら、この建物の構造、位置関係…人の流れを呼んだのだろうか

インデックスの言葉を思い出す

コストを下げてたくさんの個体を創り出す…もしかして地下街中に放ったというのか

 

<さぁ、パーティーを時間だ―――泥臭ぇ墓穴で、存分に鳴いて喚け>

 

そしてもう一度、大きな振動が地下街を揺らした―――


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。