全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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ない知恵絞って必死に頑張ってオリジナルな話を作りました
出来はクソなのであしからず

まぁ要はいつにもましてクソということだ(自信ない

なるべく楽しんで下さればいいのですが、ちょっと今回ばかりは本当に自信な略

ではまぁとりあえずどうぞ


#2 昔の話 その二

その日、道を歩いてたら研究者のような格好した男性からとあるチラシをもらった

別段内容になど興味はなかったが、それでもチラシに書かれていたある内容に目を惹かれた

 

〝貴方も能力者になれるかも?〟

 

そんなアホみたいな文章ではあったが、それでも自分はその欲求に抗えなかった

超能力が使える、という幻想(きぼう)を夢見て学園都市にやっては来たが、押されたのは無能力者という現実(ぜつぼう)

アナタはレベルゼロです、という無慈悲な言葉に何もかもどうでもよくなりそうだった

しかしそれでも今通っている学校には友人もできたし、スキルアウトに落ちることはなかったのだが

 

寮の部屋のテーブルに置いたそのチラシをじっと見つめる

時間にしておおよそ三十分、その紙を握り締めて地図に書かれてあるところに向かうことにした

寮の扉を開けて、徐にあたりを見回す

瞬間、ガチャリと同じ寮の友人である人が扉を開けて外に出てきていた

咄嗟に紙を後ろ手に隠し、その方向を見る

 

「? なに、どっか行くのか?」

「あ、あぁ。ちょっと買い物に、さ。そいじゃな!」

 

会話もそこそこに、自分はそそくさとその場から去ってしまった

そんな彼の後ろ姿を少年はじーっと見つめていた

 

 

指定された学区へと電車などを用いて移動する

場所は十七学区

なんでもこの学区では工業製品の製造に特化している学区らしく、人口は極端に少ないらしい

…そんな場所に研究所構えてる時点で怪しいが、そのときはたいして考えてなどなかった

歩き続けること数十分、視界の先にはその研究所が見えてきた

入口に足を運ぶと外から研究者の格好した女性が出てきた

 

「あ、あの、チラシを見てきたんですけど…」

「あら、協力してくれる方? いいわ、ご案内します」

 

女性の研究員は朗らかな笑顔を浮かべ、先導するように前を歩く

ここから先に何が待っているのかは分からないが、とりあえずここは彼女の後ろについて行くことにした

不意に周りを見るように自分はキョロキョロと首を動かして周囲を見てみる

研究所ってのはこんな感じなんだろうか

その間前を歩く女性は徐に襟に潜ませてある小型通信機で小さい声で呟いた

 

「―――えぇ。カモがきましたわ」

 

 

「…よし、ドライバーの調整を急げ」

「はい」

 

メガネをかけた初老の研究員はそう言って指示を飛ばす

そして目の前のベッドに横たわる少女の姿を見やる

黒い髪の、長髪の女の子だ

 

「…赤い戦士め、今に見ていろ」

 

ギリギリ、と初老の研究員は拳を握り締める

初老の研究員がこのドライバーの設計図を頂いたのはひと月ほど前だ

はっきり言えば、研究を噂の赤い戦士に邪魔されて、当時の研究所は破壊されてしまい、途方にくれていたとき、黄金の羽根とともに現れた妙な男から変なメモリと一緒にもらったものだ

怪しさ満点だったが、そのときはそんなことなど言っていられなかった

とにかく、あの赤い戦士に報復しなければ気がすまない

手始めにまず右側となるソウルの存在の確保だった

正直理由は分からないが出来上がったドライバーはソウルとボディ、二人のパーツがなければ起動できないという代物であったのだ

ひとまずソウルはなるべく親も蒸発し、何もない存在がこちらとしても都合がいい

その存在を適当に拉致しこちら側で調整を行いドライバーへと適応させた

それが目の前で横たわっている少女だ

最初こそ反抗的でクソ生意気だったが引っぱたいたり幾度も調整を加えていった結果従順になっていった

 

問題は左側の肉体、ボディの方だ

こちらの確保には今まで何度か行ってきたが全くもって成功しない

どういう原理か分からないが、ボディ側にドライバーをつけてもソウル側の女の方にドライバーが現れないということがなんどか起きた

いわば失敗した連中は人体実験などで適当に怪人にでもするとして、今度来た新しい材料はどうだろうか

…まぁ、失敗したならまた人体実験の餌にするだけだ

 

 

案内された部屋で少しのあいだ待っててくださいと言われた

共同部屋らしくその部屋にはすでに自分以外の人が一人ほどいた

女性研究員が部屋を後にし、部屋には彼と二人きりになる

すっごく気まずい

 

「…なぁ、アンタはなんでここに来た」

「え?」

 

不意に投げかけてきた言葉にビクリとする

男は続けた

 

「やっぱりチラシに書かれたあれだろ、能力者になれるってヤツ」

「あ、あぁ、それな」

「マジか。ははっ、やっぱ憧れるよなぁ能力者。せっかくここまで来たんだ、ここまできて諦めきれないよなぁ」

 

ははっ、と気さくな笑顔を浮かべる

おそらくこの男性も無能力者なのだろう

諦めきれない、という気持ちはとても理解できて、共感できる

自分も同じだからだ

 

「頑張って能力者になって、いろんなやつを見返そうぜ」

「―――あ、あぁ」

 

笑みを浮かべる彼に対し、自分はそんな苦虫を噛み潰したような顔と苦笑いで返してしまう

それから数分後、先に彼が呼ばれてこの部屋を後にする

部屋の中には自分一人となった

特に何もすることなどない、椅子に思い切り背中を預けて時間が経つのを待った

 

「…能力者、か」

 

憧れてこの街にやってきて、現実を突きつけられて

それでも学校の友人たちと馬鹿をして

吹っ切ったと思っていたけど…それでも、諦めることができなかった

 

 

「お待たせしました、こちらにどうぞ」

「あ、はい」

 

あれからどれだけ時間が経っただろうか

部屋に入ってきた女性に言われ自分は椅子から立ち上がる

そういえば先に部屋を出た彼はどうなったのだろうか

しばらく先導する女性研究員についていくと、何もないだだっ広い部屋に案内された

何もないとは言ったが何人かの研究員と片隅にパソコンを置いた机があるくらいである

中央には黒い長髪を持った女の子と、初老の研究員だけだ

 

「よく来てくれたね、身体の調子は大丈夫かな?」

「えぇ、特に問題はないです、はい」

「結構、では早速だがこいつをつけてみてくれないか」

「え? えぇ…」

 

言われたとおりに自分は差し出された変なWに見える変なのを腰に当てる

するとベルト部分が出現し、自分の腰に巻き付かれた

…なんだこれは

すると女性の体の方にも自分が巻きつけたのと同じものが現れる

 

「…次にこれだ。スイッチを押して、それの左側にセットしてくれ」

「は、はぁ」

 

言われるがままに自分はカチリとメモリのスイッチを押した

 

<JOKER!>

 

「うわっ」

 

唐突に流れたその音声にビクリとする

しばしそれを眺めてたが、意を決してセットする

それに続くように女性が緑色のメモリを起動して

 

<CYCLONE>

 

それを装着したベルトにセットする

するとその緑色のメモリが消えて、こっちのベルトに移動してきたではないか

 

「それを差し込んで、ドライバーを開いてみてくれないか」

「わ、分かりました」

 

言われるがままにそれを開く

 

<CYCLONE JOKER!>

 

音が鳴り響き、自分の身体を風とともに包んでいく

何がなんだか分からずに、自分は戸惑うばかりだった

その途中、女性が気を失ったように倒れこむが付近の研究員がそれを支える

ただひとり、初老の研究員だけが興奮したような挙動だった

軽快な音楽が鳴り響きようやく風が止んだ

 

「―――素晴らしいよ、君!」

 

自分の肩を掴んで、勢いのあまり揺らしてきた初老研究員

 

「本当に素晴らしい…! 君は逸材だよ!」

「は、はぁ…」

<―――すごいね、君。ここまでしっくりきたの初めてかも>

 

不意に声がした

自分から聞こえた声ではあるが、自分の声ではない

よく聞くとそれは女の人の声だ

 

「ほう、君が自分から口を開くとは、よっぽどなんだな」

<…>

「…ふん、相変わらず可愛くない小娘だ」

 

自分から…?

―――ここまで付き合ってしまったが、本格的にまずいところに足を踏み込んでしまったのではないのだろうか

 

「では早速だが、君には身体を馴らしてもらおう」

「え、慣らすって…」

「連れてきなさい」

 

初老研究員の言葉が飛び、入口から何名かの研究員が一人の男を連れて入ってきた

その男は、部屋に入ったとき先に待っていた男だ

あまりの出来事に息を飲む

思考が追いついていない

 

「おい、何する気なんですか!」

「君は黙って見ていなさい。…やれ」

「了解しました」

 

言われるがままに研究員は気を失っている男の首筋に注射器を突き刺し、何かを注射する

数分後、変化が訪れる

男の体が変化していく

人間の手から、化物の爪へ

華奢な体が大きく変化、いや、変貌といった方が正しいか

 

「さぁ、身体を慣らすんだ。君にはこれからも働いてもらわないとね」

「な!? ちょっと待ってくださいよ! こんな、こんなのって!?」

「抵抗しないならそれでも構わない。君はここで死ぬ、代わりなんていくらでもいるのだからね」

 

―――

あぁ、やっぱり、か

なんでこんなこと引き受けてしまったんだろうなぁ

憧れた結果が―――これか

 

<大丈夫>

 

右目が光って声がする

 

<サポートするよ。君にだけ罪は背負わせない>

「―――あぁ、お願いするよ」

 

戦うなんて初めてだ

けれどどっちみちやるしかないというのなら―――やるしかないんだ

拳を握り締め、彼は目の前の化物に向かっていった

 

◇◇◇

 

「アラタ」

 

伽藍の堂にて

その日、特に予定もなく伽藍の堂でくつろいでいたら少し真面目トーンの橙子の声に視線を向ける

 

「最近、妙な噂を聞いてな、こんなチラシをもらったことないか」

「チラシ?」

 

そう言って彼女がテーブルの上に置いた一枚のチラシ

それはあからさまな謳い文句にお誂えの言葉を添えてあった、あまりにもわかりやすいチラシだった

 

「…こんなワンクリック詐欺みてぇのに今時誰が引っかかるんだよ」

「この都市にいる彼らの欲を甘く見るなよアラタ。現に、被害に遭っている人がいるんだ。行方は今も知れていない」

「! …それって…」

「口封じのために消されたか、或いは、だな。おまけに被害に遭っているのがみんな両親のいない置き去り(チャイルドエラー)上がりばかりだ」

「…橙子、そこの場所って割れてんのか?」

「割る必要などない、ご丁寧に場所を書いているのだからな。しかし、よく警備員(アンチスキル)に悟られずにやっているなと関心すらしているぞ、多少は、だが。…行くのか?」

「あぁ。いつも通りに叩き壊す。…これ以上被害が増えるのも嫌だしね」

 

そんな言葉のやり取りをした後、出されていたコーヒーを一気に嚥下させ、大きく一度息を吐く

そしてテーブルの上に置かれた一枚のチラシを手に取り、扉へと歩き出す

その時、橙子から声がかかった

 

「忘れ物だぞ」

 

そう言ってひゅん、と橙子はアラタに向かって何かを投げ渡した

振り向いて視線を合わしたアラタは投げられたそれをキャッチする

それは割と深くかぶれる、顔を隠せるくらいの帽子だ

 

「サンキュー。じゃあ改めて行ってくる」

「あぁ。ほどほどにな」

「りょーかい」

 

最後にそう言葉を交わしてアラタは扉を開け、伽藍の堂を後にする

一番最初に来た時は夢と希望を持っていたのに、橙子の伝で裏を知ったらこれである

表と闇が深すぎる

 

「―――やれやれ。これもうわかんねぇな」

 

◇◇◇

 

あれから何度か、化物と化した人と戦った

こちらとしては自分が生き残るのに必死で、相手の生死などは正直わからない

…欲になど釣られなければ、今も平穏な日々を過ごせていたのだろうか

しかし、欲に釣られたからこそ、得られたものもある

 

「…どうしたの?」

 

それが黒髪の彼女の存在である

彼女もまた、能力者になるのを夢見て学園都市に来てみたものの、すぐに親は蒸発し路頭に迷っていた時にこの研究機関に拾われ、今に至るようだ

故に、この研究所に多少の恩義はあるが、その程度だ

何度か脱出も試みた、しかし一人ではどうにもいかず、その度に何度も叩かれた

やがて彼女は、行動を諦めたのだ

 

「いや、何でもないよ。…いつ、出られるかなって」

「―――打ち砕いて悪いけど、きっと出られないよ。ううん、どうあがいても出られない。私たちは監獄に囚われたのよ…」

 

そんな彼女もどういうわけか自分にだけは心を開き、こうして話をしてくれる

少し前にどうして話してくれるのかを聞いてみると

 

―――下心がなさそうだから

 

だそうだ

当然自分以外にもここに来た人たちはいたらしいが、皆が皆イヤらしい視線で自分を見ていたらしい

まぁ確かに彼女も可愛らしい容姿をしているし、目を奪われる気持ちもわからんでもない

しかし状況が状況でもあるし、正直そんな余裕なんてないというのが本音だ

 

「…奇跡でも起きないかぎり、私たちはここから出ることなんてないわ。…興味本位や欲求に駆られた自分を呪うことね」

「…そうさね。けど諦めたわけじゃないぞ。こっから出るときはアンタも一緒に逃げ出す」

「…物好きな人ね。いいわ、そもそも、そんなタイミング来るとは思えないけど」

 

そういう黒髪の女の子は小さく微笑みを作った

 

「そうだ、俺、アンタの名前聞いてない。…聞いていいかな?」

「? アリステラ、だけど」

「アリステラ、ね。俺、右京(うきょう)(かける)。…よろしく、アリス」

 

◇◇◇

 

チラシを持ってバスやら電車に揺られること数時間、そしてさらに歩くこと数十分

どうにかこうにか目的の場所にたどり着いた

研究所は結構大きく、データとかを消去するのは結構シンドそうだ

…ぶっ壊した方が手っ取り早い気がする

とりあえず中に入らないには何とも言えない

 

「おや、貴方…」

 

こちらに気づいたのか、外に出てきたメガネをかけた男性研究所はがこっちに声をかけてきた

あくまでも無能力者を装い(実際無能力者なんですけど)朗らかな笑みを浮かべる

 

「はい、このチラシを見てここに来たんですけど…」

「いえいえ結構結構! やっぱり学園都市に来た以上、能力者は憧れますもんねぇ!」

 

ニタニタ笑いながら彼はこちらに歩み寄って握手を求めてくる

あはは、とこっちも笑いながら握手に応じた

 

「ささ、案内しますよ、どうぞこちらに」

「えぇ、お願いしますよ」

 

そう言って彼を先頭に、研究所内へ足を入れる

彼が前を歩いているとき、徐にアラタは忍ばせていた帽子を取り出した

それを深々と頭に被って、ふぅ、と一つ息を入れる

 

「ところで―――」

 

そう言ってこちらを振り向こうとしている研究員の背中へと一気に接近し、白衣の襟首をぐっと掴む

そのまま軽く遠心力を用いて一回転し、研究所の壁へとその顔面を叩きつけた

べきぃ、と結構な感触

 

「あ、ご…!?」

 

そのままズルズルと床に倒れそうになっている研究員の意識を刈り取るように、その後頭部をさらに蹴りで追い打ちする

壁には研究員から出た鼻血がこびりつき、汚くなってしまうが、どうせこの研究所はもう使い物にならなくなる

だから―――

 

「さて。掃除と行きますか」

 

ぽきり、と指の骨を鳴らしながらアラタは研究所の床を走り出した

 

 

「…なんか騒がしくなったかな?」

「そうだね。どたばたしてる感じ」

 

先程から研究員が扉の外で走り回っている音が聞こえる

そして時折、誰かが殴られたような鈍い音も

もしかしたら、何者襲撃でもうけているのだろうか

 

「…アリス、これはもしかしたらチャンスかもしれない」

「チャンス? なんの」

「ここから逃げ出せるチャンスだよ」

「―――まさか。何が起きてるかもわからないのに。…変に希望持たせるのやめてよ…」

 

その場で体育座りをし、塞ぎ込むような仕草をするアリステラ

今まで幾度となく脱出を試みて、その度に何度彼女は絶望を味わってきたのだろうか

付き合いが短い人間である翔には理解し得ない苦しみだ

そんな時、部屋の扉が開き、中に初老研究員がドライバーが入っているカバンと一緒にやってきた

 

「…なんのようだ」

「君たちに戦ってもらうんだ、あの忌々しい赤いヤツと!」

「赤いやつ? なんですかそれ」

「やかましい! お前たちは黙って私に従っていればいいんだ、とっとと纏って殺してこい!」

 

表情を憤怒に染めて初老研究員は叫んだ

これ以上は何を聞いても無駄みたいだ

そして同時に、騒ぎが起こっていることも確認できた

―――行動するなら今しかない

ドライバーを手に持ちながら初老研究員の隙を伺う

初老研究員が背後を向いた、その瞬間―――

 

「―――るぁ!!」

 

手にしたドライバーで思いっきりその後頭部をぶったたいた

 

「あがっ!?」

 

完全に気を失うまでに、何度も、何度も

やがてぐったり倒れたまま動かなくなった研究員を見て、改めてカバンからメモリを三本取って、残りの三本をアリステラに手渡した

 

「…カケル?」

「一緒に脱出しよう、これを逃したら、きっともう機会はない」

「…だけど」

「大丈夫だ、少なくともアンタだけは外に送り出してやるさ」

 

戸惑う彼女の手を握り翔は部屋を飛び出した

その手を強く握り締める

絶対に離したりなどするものか

 

 

「ふんっ!」

 

目についた監視カメラをぶっ壊しつつ、こちらに向かってくる研究員を蹴り飛ばし、意識を狩っていく

さすがに生身の人間相手に変身などできず、その際はこちらも生身を使って攻撃をしている

…やはり誰かを殴ったり蹴ったりするのは慣れないものだ

最も、慣れてしまったら終わりなのだが

ふと、こちらに向かって一人の女性研究員が歩いてくる

佇まいから、例えるなら幹部クラスだろうか

彼女は徐に白衣の胸ポケットから一本のメモリを取り出すと、ボタンを押して起動させる

 

<BAT>

 

(…こんな場所にもメモリって売られてるのか)

 

彼女はそれを自分の体に突き刺し、その身を変えた

名前をバットドーパント

その変異を見つつ、アラタは己の腰付近に自分の両手をかざす

右手を左斜めに、左手をベルト―――アークルに沿え、りょうてを開くように動かし叫ぶ

 

「変身!」

 

叫びとともにその身を赤い鎧を纏った戦士、クウガへと姿へと買える

拳を握り直し、身構えた

 

「…よくも邪魔してくれたわね。生かしては返さないわ」

「言ってろ。どのみちこの研究所は潰す」

「―――可愛くないやつ!」

 

バットは左手に備えられた剣のようなものを振るいこちらに襲いかかってきた

その一撃を回避し、自分の背後の壁が切り裂かれた

思いのほかの威力のようだ、一撃貰えば致命的になるだろう

赤のままなら、という話だが

 

右手で繰り出されたパンチを受け止めつつ、腹部に膝を叩き込みながら膝をおらせ、追撃に蹴りを叩き込み距離を取る

 

「―――超変身」

 

呟いて赤い鎧を紫と銀の鎧へと変化させる

防御力の向上だけで、なんとかこのコウモリ怪人はなんとか出来そうな気がする

向上により相手の左腕に備え付けられてる剣を防御する必要がなくなり、ぶっちゃけノーガード戦法みたいな脳筋じみたことができる(相手にもよるのだが)

 

「ぐ…この、ガキ…!」

 

呻くバットは再度剣で攻撃してくるが、それを左手で受け止め、渾身の力を込めて腹に拳を叩き込む

そこから両手で相手を押し飛ばしもう一度距離を作った

すかさず紫から赤へと鎧を変化させ、一気に距離を詰め寄り右足に力を込める

一瞬熱くなるような感覚のあと、イージーキックをバットの体に叩き込んだ

 

「あぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

廊下を転がりバットはそのまま爆発する

同時にこんなところでやらなきゃよかったと今更思う

ばたりと気を失った女性を一緒にメモリが排出された

…彼女が今後立ちはだかるとは思えないが念のためだ、メモリを破壊しておこう

そんなことを考えながらひょいとバットのメモリを手に持った時だ

 

「とりあえずここを突っ切れば―――うおっ!?」

「か、カケルっ」

 

ドン、と体に何かがぶつかった

感触的にそれは人だ

男性は一緒に連れていた女性をかばうように前にでて

 

「! …アンタもこいつらの仲間か! ってか何だアンタ!」

 

眼光鋭く彼は言う

妙なドライバーを手に持ち、片方の手は女の子の手を握っている

状況から察するにもしかしてこの研究所の被験者、なのか

 

「落ち着け。俺はここの研究所をぶっ壊しに来たんだ」

「…そうなのか? …確かに、この研究所でアンタを見たことはないし…信じていいのか」

「信じてくれ、とは言わないがね。アンタたち以外に人はいないか?」

 

そうクウガが確認すると、男性は女の子へと一度視線を送る

送られた女の子は一瞬俯くと首を横に振った

 

「…そうか。とにかくここを出るぞ」

 

まさか生きている人に出会えるとは思わなかった

あとはこのまま何事もなく脱出して、警備員(アンチスキル)に通報できればいいのだが

そうは問屋が卸さなかった

 

「…この、クソガキどもがァ…!」

 

出口付近

割と開けた場所に出口を塞ぐように初老研究員が立っていたのだ

頭から血が出ており、傷を負っているのが見てわかる

その研究員を見て、男性が戦慄したように顔を青ざめた

 

「おいおい、タフすぎるだろあのオッサン…」

「初めからキサマらガキに頼ろうとした私が悪かったのだ。そうだ…最初からこうしておけばよかったのだ…!」

 

そう言うと初老研究員は徐にメモリを取り出し、それを起動させ、自分の体に突き刺した

 

<MAGMA>

 

初老研究員の体がみるみる変貌していき、炎を体現した化物へと姿をかえる

同時にクウガは身構え、ちらりと後ろの二人を見やる

守りながら戦えるだろうか

 

「…カケル」

「だ、だけど…」

「この人にだけ任せちゃいけない。…アイツ等から与えられたものだけど、アイツ等のためになんて使いたくないもん。…だから、誰かのために使おうよ、これを」

 

そう言って女の子はカケルと呼んでいた男性が持っているドライバーを指さした

彼は一瞬考えたように持っているドライバーを見つめ、やがて決心したように前を向く

クウガは聞いた

 

「…よくわからんが、行けるのか」

「あぁ。行けるさ、多分ね」

 

彼はそのドライバーを腰に持っていく

するとベルトが現れ彼の体に巻き付かれた

同時に女の子の方にもベルトが出現する

 

「いこう」「うん」

 

<JOKER><CYCLONE>

 

『―――変身』

 

声を揃えて二人がつぶやく

先に女の子が権限したドライバーにメモリをセットし、そのメモリが男性のドライバーへと転送される

次に男性が顕現したメモリを押し込み、今度は自分のメモリを差し込んでドライバーを開いた

瞬間、風が吹き荒れる

マグマが吹き散らす炎をかき消すように周囲に風が巻き起こる

不意に、女性の方がゆらりと倒れふした

思わず彼女を受け止め、地面に優しく横たえる

気を失っているのか?

 

男性が立っているところを見る

そこには緑と黒のカラーリングの、一人の戦士がいた

室内にも関わらず、右側のマフラーがなびいている

 

「…カラーリングがダブルとは、イナセだねぇ」

「…ダブル、いいねそれ。これからはそう名乗ろう。…俺はダブルだ!」

<―――安直。だけど嫌いじゃないよ>

 

右目の複眼が点滅し、女性の声が聞こえた

どうやら彼女の意識が今は男性のところにある、と考えていいのだろうか

…どういう原理だ

 

「―――俺がくれてやった力だというに、俺に歯向かう気か、ガキども!」

「俺はもうアンタの実験のためには戦わない! この力は、誰かのために…ありがたく使わせてもらうぜオッサン!」

「キサマらぁ…!」

「チェックメイトだな、おとなしく捕まった方がいいんじゃないか」

 

クウガはそう問いかける

マグマは両手を振り乱しながら

 

「黙れ黙れ黙れ! 俺の研究は唯一無二、キサマらのようなガキに邪魔されていいものじゃあないっ!」

 

そう言ってマグマはこちらに突進してくる

ダブルがゆっくりと歩きつつ、視界にマグマを捉えながら己の指を突きつける

そしてダブルは自分の中でかぞえていく

 

今まで実験の犠牲者たちと知りながらも、倒してしまっていたこと

自分から行動が起こせなかったこと

ずっと奴らに従っていたこと

 

己の罪はまだきっとあるだろう、だが目の前の初老研究員は、きっとそれ以上の罪を背負っているはずだ

まだ自分のは数え切れない、それでも投げかけてやるんだ

自分にも問いかけるように、この言葉を

 

「―――さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

 

まず牽制としてクウガがマグマの懐に飛び出し、一撃拳を叩き込む

瞬間ダブルが後ろから飛び出し、マグマに向かって蹴りを叩き込んだ

ダブルが向かっていったのを皮切りに、クウガは一旦下がり、倒れている女の子を守るように前に立つ

今のところ意識は完全にダブルに向かっているから、こっちを攻撃される心配はなさそうだが、念のためだ

そしてきょろきょろと何か武器になりそうなところを探す

ふと視界に入ってきた階段が目に入ってきた

上の研究室への階段の手すり―――これをへし折れば使えるかもしれない

 

アラタは跳躍しその階段まで飛んでいくと思い切り階段の手すりを破壊し一本の棒とする

 

「超変身」

 

赤からその姿を青へと変え、手に持つ獲物を専用の武器―――ドラゴンロッド―――へと変化させた

相手に反撃させちゃいけない、一気呵成に攻め込んで即効でケリをつけなければ、いつ倒れてる彼女が狙われるかわかったもんじゃない

クウガはロッドを握り直しマグマの元へと跳躍する

そのタイミングを見計らい、ダブルが一歩後ろへ下がってくれた

そこへすかさずロッドでの攻撃を当てていく

足、脇腹、と見せかけて足、腕、至る急所へと的確に当てていく

最後にマグマの胸部へとロッドを叩きつけて相手を吹き飛ばした

 

「おい、決めるぜ、ダブル」

「―――あぁ!」

 

姿を赤に戻し、クウガは両手を開き右足を後ろに下げ、腰を低くし、身構える

ダブルもドライバーから黒いメモリを取り出し、右側のスロットへとそれをセットし、軽くたたいた

 

「決めるよ、アリス」

<うん。行こう、カケル>

 

周囲に風が再度巻き起こり、ダブルの体が浮き上がる

狙いはのらりくらりと立ち上がって身構えるマグマドーパントだ

まず先に動いたのはクウガだ

彼が走り、続くようにダブルが動く

 

「うおりゃあぁぁぁぁっ!」

「<ジョーカー、マキシマムドライブ!>」

 

クウガは走りつつ宙へ飛び、その身を一回転させ威力を向上させた蹴りを

ダブルは風の助力を受け、かつその身を半分にずらすことで二倍の力を引き出す蹴りを、それぞれマグマに放った

マグマも抵抗しようと炎を繰り出そうとしたが、間に合わず一直線に二人のキックを直撃する

そのままマグマは出入り口を突き破り、ゴロゴロと地面を転がったあと、爆発した

排出されたメモリはガシャリと地面に落ち、そのまま砕け散った

 

(…いつもはそのままなのに。…ダブルのおかげかな)

<…終わった、の?>

「あぁ。…自由だよ、アリス」

 

 

「アンタ、帰る宛はあるのか」

 

戦いが終わった後、帽子を深々と被った男性がふと聞いてきた

それは女性に向けてのものだ

 

「宛、は…」

「もしないなら、ここを訪ねてみてくれ」

 

そう言いながら男は一枚の紙を手渡した

簡易的な地図と、電話番号が載っている

 

「…これは?」

「知り合いの連絡先。訳は俺が言っておくから。それとアンタ」

 

不意に翔へと視線が向けられる

一瞬ビクッとしたが、言葉を待った

 

「守ってやれよ。この子の希望は、アンタだ」

 

そう言って翔の肩を軽く拳でどついてきた

痛みなどなかったが、若干自分の体が揺れる

僅かに見える口元が、ニヒルな笑みを浮かべ始めた

 

「…じゃあ〝また〟な」

 

そう言って帽子を被った男性はその場を後にした

歩きながら携帯をいじっていたので、恐らくはついでに警備員(アンチスキル)に通報もしていくのだろう

厄介なことになる前に、自分たちもこの場から消えよう

 

「…それで、どうする?」

「どうするもないわ。せっかく招待してくれたのだもの、ここに行ってみるわよ」

「だけど、また罠かもしれない…」

「可能性はあるよ。だけど、なんでかな。あの人はそんな悪い人には見えないんだ」

 

そう言ってアリステラは笑顔を見せる

それは研究所にいたときには見たこともない、可憐な笑みだった

 

◇◇◇

 

それから時間は進んで

 

「おはようございまーす」

 

ガチャリと伽藍の堂の扉が開け放たれる

そこから入ってくるのは黒髪ロングの女の子―――アリステラである

帽子を深々と被った男が教えてくれた場所は、彼自身よく出入りしている伽藍の堂だった

事前に説明を受けていた彼女はごく普通に招き入れ、住み込みで簡単なお手伝いをさせているのだ

 

「いやしかし。私もまだ〝甘い〟な」

「? どうかしました?」

「いやなんでもない。独り言さ」

 

研究所に幽閉されていた頃は笑みも喋りもしなかった彼女は、いまこうして笑顔を振りまいている

 

「ところで、今日は彼に会うんだっけか」

「はい、学校終わりに待ち合わせしてます」

「ふふ、いいことだ。しっかし守ってもらいなよ」

 

そう橙子がからかうと僅かに顔を赤くして、ゆっくりと頷いた

 

同時刻

 

ようやく自分の寮へと戻ってきた右京翔は平凡な日常を満喫していた

もちろん、平凡ばかりでなく、時たまアリステラからガイアメモリ犯罪のことを聞くと自分もそこへ駆けつけるようになった

そこで決まって居るのは赤い戦士、クウガである

どうやらあの一軒以降、腐れ縁みたいな関係になってしまったのだろうか

 

「ういーす翔ー」

「うわっ!」

 

唐突に後ろから声をかけられてビクリとする

後ろを振り向くとそこには学校の友人である鏡祢アラタが立っていた

彼はこちらに歩いてきて手を振りつつ

 

「こうやって挨拶するのも久しぶりな気がするぜ。学校でも言ったけど心配してたんだぜ」

「は、はは、ありがとう。そんで悪かったな、色々心配かけたみたいでさ」

 

こんなしょうもないやりとりをするのも久しぶりである

こういった平凡を噛み締められるのも、今を考えればあの時助けてくれたクウガのおかげなのだな、と痛感する

 

「ところで、今日もお前は待ち合わせしてるのか?」

「え!? あ、あぁ。まぁな…ははっ」

 

唐突にアリステラのことを言われて頷いた

なるべく人目につかないように学園都市をいろいろ練り歩いていたのだが、完全には人目を巻くことは出来なかった

案の定、伽藍の堂に出入りしていることが〝偶然〟アラタにバレてしまい、こんな感じになってしまった

 

「ふふっ、仲いいなお前とあの子は。…守ってあげなよ?」

 

ふと、そんな真面目な声色でそんなことを言う

その言動に、帽子を被った男を彷彿とさせたが、そんな馬鹿なと翔は頭を振ってかき消した

 

「あぁ。ほら、急がないと遅刻するぜアラタ」

 

アラタの肩を軽く叩いて翔はその場から小走りで走り出す

これまでと同じような、平凡な日々を噛み締めるように

 

―――

 

「…ふぅ。仲良くしてるみたいでなにより」

 

翔がこの場をさっさと小走りで行ってしまったあと、アラタはふぅ、と一つ息を吐く

正直こんなアホくさい芝居すぐにバレてしまうかな、と思っていたが割と騙し通せそうだ

最も、いつかバレてしまう時が来るのだろうけど

 

「ふわぁ… お、アラタ、うぃーす」

「ん? お、当麻。おはよう」

 

こちらもこちらで、またかわらない日常を過ごそうとする

この世界にいる、誰かの笑顔を守るために




右京翔 名前右だけど左側
アリステラ ギリシャ語で左っていう意味 だけど右側

名前だけは無駄に凝ってるヤツ(ニワカなくせしてね自分

最近のグランドオーダー

沖田当てれてワシ歓喜

では次回 次回からはまた原作に戻ってくよ

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