天道総司は廊下を歩いていた
歩く理由は始業式をぶっちぎった上条当麻を探している最中だ
教室にいた時にはみんなと談笑していた時は普通だったが、教室にあのシスターとワンピースの女の子が訪問してきた時は珍しく狼狽えていた
そして始業式の時間になっても姿を現さない彼が気になって探している、という訳だ
そんなもんだから天道も堂々と始業式をぶっちぎっている
それでいいのか、というツッコミはスルーで
ふと食堂に差し掛かると変な争いの声を聞いた
「今日は始業式なんだから昼までには帰るっての!」
「そ、そんなの言ってくれないと分からないかも!」
「分かれよ! 常識だろうがこんなもんはっ!」
「とうまの常識を押し付けないでほしいかもっ! ならとうまは分かる!? イギリス仕込みの十字架に天使の力を込める偶像作りの為に、儀式上における術の行う際の方角や術者の立ち位置の関係とか! 実際メインの術の余波から身を守るための防護陣を置く場所は決められてて、そこからちょっとでもずれるとサブがメインに喰われてうまく機能しなかったり! そう言った黄金比とか、とうまはわかる!? こんなの常識なんだよほらほらっ!」
「ま、まーまー…」
…なんだこのカオス
思わずそんな事を呟いてしまうくらいその光景は自然だった
会話をしているのは上条当麻でその相手は件のシスター
そしてそんな言い争っている二人を宥めようとしている女の子
そんな天道の後ろでふと、また気配がした
それは一瞬ではあるものの天道をゾワッとさせたほどだ
恐る恐る振り返るとそこにはすごくいい笑顔な小萌の姿が
実際向けるべき矛先はその付近の天の道も入っているのだが、完全に小萌の視線は当麻とシスターらを捉えている
彼女はありったけの空気を吸い込んで、叫んだ
「何やっとるですか上条ちゃーんっ!!」
きっとこの日一番の叫びだったと思う
◇◇◇
結果、インデックスは学校の敷地の外に追い出された
ゴウラムも今はいないし、とりあえず学校の金網に寄りかかって待っていることにした
「…その、すごかったね。少し、驚いたかも」
か細い声にインデックスが振り返る
そこには風斬氷華が立っていた
インデックスはちょっとだけ俯いて、口を開く
「とうま。怒ってた」
「え…?」
「今までだって何回もケンカしたことあった。…あったけど、今回のはなんか違う気がする。全然私の言う事聞いてくれないし、笑ってくれないし…」
自分で言いながら、彼女の顔は悲しみに歪む
恐らくあの言い争いの中では内面、沈んでいたのか
「…もしかしたら、私の事嫌いになっちゃったのかな―――」
「それは違うぞ」
呟いたその時、校門から出てくる人の声を聞いた
その男は天に指を翳し
「おばあちゃんが言っていた。ケンカをするのは仲が良い証拠、そこには見えない絆がある、ってな」
「えっと、誰?」
「俺は天の道を往き総てを司る男、天道総司。上条当麻の友人だ」
「とうまの? …っていう事はあらたとも?」
「アラタとも知り合いなのか、なら話は早いな。安心しろ、当麻がお前を嫌う事はない」
「え?」
「…そうだよ」
天道の言葉に続くように風斬も口を開く
「ケンカが出来るって言うのはね、それだけでもちゃんと仲直りできるって言う証拠なの。それだけじゃ終わらないの。あの人はね、貴女とケンカをしても縁が切れないって信じてたから、安心してケンカが出来たんだよ」
「…ホント?」
「その女の子の言うとおりだ。ならお前は、ケンカなんかしない方がいいか? 確かにそれはそれでいいのかもしれないな。だがそれではずっと自分の気持ちを押し殺し、言いたいことは黙ったままで。そんな偽りの生活をしたいのか?」
「それは…いやだ。ずっと…ずっととうまと一緒にいたい」
インデックスは言う
「うん。そう思えるならきっと大丈夫。少なくとも
風斬はそう言ってインデックスに言った後、小さくこう付け足した
「…人の裸見ても普通に話しかけてくるけど」
そんな言葉を聞いて天道は笑った
そして思う
いつも通りの日常だな、と
◇◇◇
地下街にて
紅葉ワタルはある人物と二人で遊びに来ていた
いや、遊びに来ているというよりは日頃頑張っている仲間を労おうという優しさもあった
それはアームズモンスター、という自分の大切な友である
そんな訳でガルルにはコーヒーメーカーをあげドッガには人間体に合いそうなスーツをあげたのだが、バッシャーから提示されたのは、ゲームセンターで遊んでみたいとのことだった
それで今、ゲームセンターに二人はいるのだが
「…ここがゲームセンター! 略してゲーセンかー!」
それで今現在、いろいろな所を珍しそうに見て回るバッシャーの後ろでそれを見守る紅葉ワタル
「…あんまりはしゃがないでよ。問題はないと思うけど」
「わかってるってー! それにしても外の世界とかすごい久しぶりでテンション上がるのも止む無しだよ!」
そう言ってきているくるりと回るバッシャー人間体ラモン
…ところでバッシャーは一応男のはずなのになんでセーラー服着てるんだろう
違和感ないくらい似合っているのがまた妙な感じなのだが
◇◇◇
インデックスの目の前に広がる、別世界
「…これがかの地下世界なんだねとうま」
「地下街だからな、地下街」
はしゃぐ彼女に突っ込みを入れる当麻
小萌のお説教から解放され、そして始業式の後で遊びに行く約束だった二人に天道と風斬はそのまま誘われて、今ここにいるというわけだ
先ほど当麻はアラタにも連絡を入れたようで、彼とは現地で合流の予定だ
因みに当麻がここを遊び場に選んだ理由は別になく、ただインデックスがここの地下街の存在を知らなかっただけのことだ
「ま、とりあえず昼にするか。なぁインデックス、なんか希望とかあるか? あ、高いとことか行列のある店とかはナシな」
「大丈夫だよ。美味しくて安くて量もそれなりで。なおかつ隠れた名店みたいなところが良いな」
「それはそれで難しい条件を。…風斬は?」
当麻はそう言って風斬の方を向く
しかし風斬はビクン、と肩を震わせてインデックスの陰に隠れるように移動する
「…あー」
何かやったのかと心の中でおそらく呟いているのだろう
そんな当麻を風斬は彼女の陰から伺うように
「べ、別に怖いとかそう言うんじゃないの。え、っと…裸、も見られたし」
最後部分がよく聞き取れなかった当麻は「え?」と聞き返した
その傍らで天道がはぁ、と息を吐き、風斬は「見られたのに…反応薄いのは…」なんて呟いている
そんな空気を壊すようにパンパンと手を叩きながら天道は言った
「まずは食事だ。行くぞ当麻、おススメを知っている」
そう言って先を行く天道の背中を三人は追っていく
歩いてる時も、風斬はインデックスの近くにいたままだった
◇
あの後支部に顔を出してアラタはこってり絞られた
まぁ何回も電話をしていたのに連絡がなかったらそりゃ怒るだろう
おまけに状況も完全に理解していないならなおさらだ
その後で初春が一通りまとめた資料にアラタはちらりと目を通す
どうやら侵入者は女性らしく、戦った黒子によると何やら珍妙な能力を使うらしい
支部の人らは知らないが、十中八九魔術で間違いないだろう
しかし魔術師がここに来る理由が分からなかった
…いや、何となくだが見当はつく、インデックスだ
彼女の持つ十万三千冊を狙っての事か、もしくはまた別の事か
いずれにしても、ここはインデックスたちの近くにいた方が万が一が起きても対応できるだろう
幸いにもさっき当麻からこのまま地下街に行く、という感じのメールが携帯に届いた
固法からも見回りを続けててと言われたのでアラタとしてはありがたい
風紀委員としてはどうなのか、と問われればぶっちゃけダメかもしれないが
◇
「アラタ」
支部から出て自分に向かって声をかけられた
その正体は人間となったゴウラムだ
「おお、待たせて悪かった。このまま俺たちも地下街に向かうぞ」
「チカガイ? なにそれ」
「その名の通り地下の街だよ。そこで当麻やインデックス、風斬さんと合流予定だ」
「そうなんだ? …けど何だか楽しそう」
そう言ってゴウラムは笑顔を作る
その表情を見て、アラタはむぅ、と考えた
人間と同じいろいろな顔を見せる彼女には、ゴウラムと呼ぶのはなんだか彼女に悪い気がしたからだ
それに何より、他の人の前でゴウラムだなんて流石に呼べない
何か…ゴウラムとは違うピッタリな名前はないものか
そんな事を考えながら人間体となったゴウラムと共に、アラタは地下街へと足を運んだ
◇
そしてその二人を少し離れた位置で見る人影があった
その人影はお店の看板とかに身を隠しながら、その二人をスニーキング、もとい尾行している
「…あれ、なんで私こんなことしてんの」
ふと、御坂美琴は我に返った
思えばなんでことしているのだろうか
そもそも彼女は支部に忘れ物をしたアラタに忘れ物を届けようと外に出たのだ
因みに忘れ物とは風紀委員の腕章である
その程度ならと自分がやると黒子が言ったが美琴はそれを断って彼の元へ届けようとしたのだが
なんかとても仲良さげな二人の姿をうっかり目撃してしまったのだ
もう片方は鏡祢アラタだ、間違いない
しかしもう一方の女の子を美琴は知らない
長い黒髪に、角みたいなカチューシャ、それでいて黒いワンピースを着込んだその女子
なんかどこかで会ったことあるっぽい違和感があるその女子と楽しく談笑しているアラタを目撃してしまったのだ
その時の美琴はなんかわからないが迅速だった
というか、美琴としても本能みたいなものだった
気づいていたら隠れてしまっていたのだ
それでも美琴の視線は歩くアラタとその少女を捉えて外さない
己の中で芽生えつつあるその感情に、彼女は気づいていない
◇
「頼まれたものを。持ってきた」
「あっ、ご苦労様ですー」
人がまばらにしかいない職員室で、椅子に座ったままの月詠小萌がパタパタと手を振った
本日は始業式にて半日授業、現段階では部活の顧問を請け負っている先生や生徒以外に人はいない
しかし小萌は例外で、友人のレポート作成を手伝うべく、彼女は残ったままなのだ
「すみませんねー、本当は学生さんにお手伝い頼むのはいけないんですけど、どうしても手が離せなくて…」
「大丈夫。それより。この専門書で合ってる? アパートに合った本が。全部同じに見えてしまったから。少し不安」
「うん、これで合っていますよ。ありがとうです姫神ちゃん」
そう笑みを浮かべて返答する小萌に、姫神は内心で胸をなでおろした
小萌は椅子の背もたれに身体を預けて
「今日は本当にごめんなさいです姫神ちゃん。いきなり知らない人たちの所に投げ込まれて不安とかにはならなかったですか?」
「その点は。問題なかった。そんな事より。上条当麻は。何をやらかしたの?」
「そうでした! 聞いてください姫神ちゃん! シスターちゃんたちを追いかけたのならまだ許せたのですけどね、なのにあろうことかシスターちゃん以外にも女の子を連れてお喋りしてたんですよー!」
女の子、というフレーズを聞いて姫神の眼が鋭くなる
上条当麻がそんな名前を言っていた
そして校門前でインデックスや天道と話をしていた女の子
「…それ。どんな感じの人?」
「え? えっとですねー…眼鏡で頭の横から出た髪の毛が印象的で…制服はうちのとは違ってて、半袖のブラウスに赤いネクタイで、青いスカートで…なんというか、周りに気を使うというか、そんな感じですかねー」
小萌の言葉に、姫神は一度視線を外す
なんという、名前をしていたか
「…先生」
「はい?」
「風斬氷華って生徒。この学校にいる?」