全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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#40 学生生活

その辺にバイクを隠して当麻と二人、学校の校門前に来ていた

道を歩きながら、アラタは当麻に確認を取るように言葉を言う

 

「いいか当麻、念のために確認するぞ」

「おう。バッチ来い」

「ようし。…問題!」

 

当麻の了承を得て、アラタは質問を開始する

 

「校舎は二つ、奥が旧校舎で手前は?」

「新校舎。俺たちが向かうのは新校舎の三階の教室」

「正解、では、その教室の場所は?」

「右から二つ目の教室」

「正解。じゃあ俺らが利用する下駄箱の位置は?」

「昇降口の右手側!」

「オッケー! …ここまでは問題ないな」

 

小さくガッツポーズを取る当麻に、アラタはふぅと息を吐いて安堵する

記憶を失った当麻にとって本日から初めての学校となる

そこで挙動不審にならないようにアラタが補佐をすることとなったのだ

と言っても当麻自身も補習で高校には来ていたようで、あまり補佐するようなことはなかった

確認も取れたし、問題はなさそうだ

 

アラタや当麻の通う高校は都内では珍しく、土の校庭を持ついわゆるよくある学校だ

二つの校舎を渡り廊下でつないで〝工〟の字になっていたり、それこそ定番の蒲鉾みたいな形をした体育館だって完備している

 

ここまでいろいろとそれっぽく言っては来たが早い話この高校には個性がない

まぁそれでも屋上がプールな学校とか体育館の地下が大倉庫みたいな学校と並べられても困るのだが

シンプルイズベストという言葉もあるし、慣れてくるとこのシンプルさも癖になってくるものだ

 

「けど、やっぱ常盤台とかすげぇんだろうな」

「さぁな。案外普通かも知んないぜ?」

 

自分たちの高校を見つつ、二人はそんな事を言い合う

そんな時、横合いからクラクションのような音が聞こえた

いつの間にか職員用の駐車場を通り過ぎようとしていたようだ

そのクラクションを鳴らしていたのは丸っこい軽自動車だった、がよく見ると助手席がない

一人用に設計された車のようだ

 

「…いいなぁ、スクーターみたいな車だなあれ。俺も自転車くらい買ってみようかな」

「やめとけやめとけ。駅あたりにでも停めたらお前のだけピンポイントでパクられるぞ」

 

アラタに指摘されう、と当麻は言葉を詰まらせた

恐らくそのような光景が頭に思い浮かんだのだろう

正直パクられて「不幸だぁぁぁぁぁ!」って叫んでる当麻の姿が容易に想像できる

 

「あとあれ小萌先生の車だから」

「うそ!? ブレーキに足届くのか!?」

「とっ! 届かないでも運転は出来ますー!!」

 

アラタの言葉に反応した当麻の声に、小萌先生はわざわざ車のドアを開けて言い返してきた

よくよく見てみると彼女の車のハンドルは少々特殊で左右にボタンがあった

ゲームセンターにあるレーシングゲームみたいにボタンでアクセルとブレーキを操作しているのだろう

手慣れた感じで小萌先生は車を駐車し、仕事用であろう分厚いクリアファイル片手に降りてきた

 

「まったく、上条ちゃんたらまったく。夏休み終わっての第一声がそれですか? それとも鏡祢ちゃんがなんか吹き込んだとか」

「なんですかその責任転嫁。俺はあの車の所持者が小萌先生だっていっただけです」

「そ、そうですよ! うん!」

 

アラタの言葉に同意するように当麻が大きく頷く

そんな二人をじとー、と見つつ

 

「…そんなこと言って実は後ろから先生を高い高いしようとか考えてませんか!?」

「してねぇよ!? 疑心暗鬼になりすぎでしょうがっ!!」

「むしろそれは高い高いしてほしいってフラグですか?」

「違いますですよー!!」

 

そんな事を言い合いながら三人は校舎への道を歩いてく

因みに小萌先生はやけに小走りだったが他の生徒に声をかけられるたんびに立ち止って挨拶をするため、ちょっと早めに歩いている二人にすぐ追い抜かれてる

いい意味で律儀な先生なのだ

いや、世話好きと言った方がいいのだろうか

ふと、手に持っているクリアファイルが気になったのか当麻がなんとなく問いかけた

 

「先生、ところでそのクリアファイルってなんです? …まさかいきなり抜き打ちですか?」

「先生は学生時代やられて嫌だったことはやりませんよ。ほら急いで急いで」

 

小萌は当麻とアラタを急かすように

 

「これは学校とは別件です。大学の頃の友人から資料集めをお願いされましてですねー。論文で使うようで、それのお手伝いなのです」

 

それを聞いたアラタは考えるように顎に手を添えながら

 

「…そうか。先生にも学生時代はあったのよね」

「なんででしょう。鏡祢ちゃんからそこはかとない悪意みたいなのを感じるんですけど」

「気のせいです先生。ところでその論文ってどんなのなんですか?」

 

強引に話を変えるべくアラタは小萌の持っているクリアファイルに視線を移しながら問いかけた

しばし小萌はジト目でアラタを見ていたがやがてふぅ、と一息をついて

 

「難しいことじゃないですよ。AIM拡散力場のお話ですし、上条ちゃんにも鏡祢ちゃんにもなじみ深いものだと思いますよ」

 

そう小萌は言うが、アラタはまだしも当麻にとってそんな言葉馴染んですらいない

恐らく、たった今初めて聞いた言葉だろう

 

「まぁ、あれだ。一言で言うなら〝無自覚〟って奴さ。能力者が体温みたいに無意識に発してるあれみたいな」

「へぇ? たとえばあれか、御坂から微弱な磁場が漏れてるみたいな?」

 

そうそう、とアラタは頷く

そんなアラタの説明を補足するように小萌が付け足した

 

「AIM拡散力場は能力者が持つ能力によっていろいろあってですね? 発火能力(パイロキネシス)なら熱、念動力(サイコキネシス)なら圧力を周りに展開してしまう、といった具合にですね。まぁ言ってもどれも微弱なものですから精密機器を使わないと計測もできないんですけど」

 

小萌の説明でなんとなく理解したのかほえー、と頷きつつ当麻は

 

「それだとあれですか? もしそのAIMなんとかって奴を読み取る能力者がいれば〝むむ、この気配は〟みたいなことが出来るんですか?」

「あはは、そうかもしれませんねー」

「〝戦闘力たったの五か、ゴミめ…〟みたいなやり取りもあるかもな」

 

ともかくとして、世の中にはそんな物好きもいるようだ

そんな話をして三人は校舎に向かって行ったがすぐに別れる

職員用の昇降口は別にあるのだ

 

当麻はアラタの隣で小萌の姿が見えなくなるとふぅ、と息を吐いた

 

「…大丈夫か、当麻」

「あぁ。問題ない」

 

短く返答すると彼は小さく笑った

彼の生活は、ここから改めて始まる

記憶のない、騙し合う学園生活が

 

◇◇◇

 

以前補習できていたから下駄箱の位置、教室については特に問題はない

問題は上条当麻の座席位置だ

彼が補習の時は小萌と二人きりで教卓付近の席に座っていたらしいが今回はそうはいかない

とはいっても、その辺はアラタも考えてあった

 

(いいか当麻。俺は教室に入って真っ直ぐオレの席に向かう。そんでもってお前の席の机を軽く叩くから―――)

(わかった。お前から目を離さなきゃいいんだな)

 

そう耳で確認を取ると意を決したようにアラタが教室のドアを開けた

中に入って大きく視界を見回す

まだ教室の生徒総数は半分にも満たず、しかも誰も席に座っていない

しかし想定していなかった訳ではない

 

歩きつつウィース、などと付近のあいさつをしながら窓際の席へ歩いていく

そしてある一つの席の机を指先でトン、と叩いた

 

(…おっけー、そこが俺の席なわけね)

 

彼の行動をしっかりと見届けた当麻は己の席の場所を確認する

そしてアラタを追うように歩いて行って机に座って荷物を置き

 

「…ふぅ…」

 

と安堵のため息を漏らす

そんなため息を見た青髪ピアスが歩いてきながら

 

「どないしたんかみやん。まさかここまで来て宿題忘れてもうたー、なんて素敵で不幸な真実に気付いてしもた感じかいな?」

 

青髪がそんな事を言うとクラスにいる男女の視線が一斉に当麻の方に振り向いた

 

「え、上条もしかして…忘れた?」

「上条君…本当に忘れちゃったの?」

「よっしゃー! 仲間はいたー!!」

「どうせ注目浴びんのは上条だけだし俺らの不幸は軽くなるぞー! ばんざーいっ!!」

 

そして始めるコミカルな日常の一ページ

うんざりしつつも当麻はアラタへと一度表情を移し苦笑いを浮かべながら小さく口の中で〝さんきゅ〟と口にした

それにアラタも答えるようにサムズアップで応え改めてアラタも自分の机に荷物を置く

そしてギャーギャーとざわめく当麻たちの喧噪をBGMに、一度教室を出た

 

 

適当に自販機でボトル飲料を買ってきて教室に戻ってくるとすっかり当麻はクラスの皆と打ち解けていた

彼が昔の記憶を失って早ひと月

いまあそこにいる自分の友人はもう真っ白なキャンバスではない

 

だがそれは、インデックスにとっては解決にもなっていない

つい最近知り合って、ある出来事で彼女は当麻を信頼している

インデックスにとってその短い期間で培ったのは、確かな思い出なのだ

だけど、インデックスは知らない

 

上条当麻が記憶を失い、それを覚えていないという事実を

 

アラタはそのボトル飲料を飲み干してそれをゴミ箱にブチ込んでなんとなく窓を開け放った

九月の初め、少しづつ秋に染まりつつある風が髪を撫でる

 

「…なんで、俺はあの時」

 

もっと早く気付いていなかったのだろうか

あの時、気づけていれば

アイツは―――もっと自然な笑顔でいられたはずなのに

 

「…黄昏てるの。鏡祢アラタ」

 

不意に背後から声が聞こえた

振り向くとそこに長い黒髪の女の子が立っていた

その女の子の名前を、アラタは知っている

 

「吹寄」

 

吹寄制理

美人ではあるが色っぽくなく、男子からは鉄壁の女、などと言われてる鏡祢アラタの同級生

肩から鞄をぶら下げた吹寄が何か珍しいものを見るようにアラタを見ていた

 

「おはよう、吹寄」

「えぇ、おはよう鏡祢アラタ。…それで、珍しく黄昏てる理由を聞いていいかしら? 普段のお前からは想像つかないわ」

「俺だって悩むときはあるっての。お前だって悩むときあるだろう? 健康器具買うときとか」

「ぬが! …ひ、人が心配してやってるって時に…!」

 

ギリギリ、と拳を握りながらこめかみをひくつかせる吹寄にアラタは思わず苦笑いする

思えばコンビニとかで偶然会った時もこんな感じな会話繰り広げたりしたっけな、と何となく思い出す

 

「悪い悪い。別に理由なんてないよ、ただそうしたかっただけだ」

「…そう? ならいいけど」

 

心配して損した、というような彼女はふと何かを考えるような仕草をして

 

「…ねぇ、鏡祢。運営委員って興味ない?」

「? 運営委員って…」

「大覇星祭よ。今月にある学園都市のイベント」

 

大覇星祭

学園都市全体で行われる大規模な運動会みたいなものだ

 

「…えっと、何故、俺に」

「なんだかんだで気配り上手だからよ、鏡祢は。お前とだったら、きっとみんなの思い出になるような大覇星祭が出来ると思うんだ」

 

そう言って彼女からは想像もつかないようなキラキラが吹寄の周囲に現れる

 

「返事は今じゃなくてもいいわ。のんびり考えてくれればいいから」

「お、おう…」

 

アラタからその返事を聞くとうん、と頷きながら

 

「それじゃそろそろ私は教室にいくわ。またあとで」

 

短く手を振って教室に入っていく彼女の背中を見て、またアラタは笑う

…少しだけ、彼女に救われたみたいだ

 

「―――考えておこうかな」

 

可愛くないなどと言われてるが、それはきっと違う

アイツは十分可愛いじゃないかと、心の中で彼は言った

 

 

「はいはーい。それじゃあちゃちゃっとホームルームはじめまーす。始業式まで時間押してるのでサクサク進めますよー」

 

月詠小萌が入ってきたころにはもう他の生徒全員が着席していた

 

「あれ? そういや土御門は?」

「さぁ? 俺は何も聞いてないが」

 

当麻の問いにアラタは小首をかしげつつ答える

 

「出席を取る前に皆さんにビッグニュースです。なんとこのクラスに転入生が来ますー」

 

むむ、やおや? と言った様子でクラスの面々が彼女の方に向いた

 

「ちなみに転校生は女の子でーす。おめでとう野郎どもー。残念でした子猫ちゃんたちー」

 

おおおお!とクラスの男子が色めきだつ

しかしこのご時世に転校生か

それでいて女の子か、なんだろう、少しばかり心が躍る

ちらりと当麻の方を見てみると何か頭を抱えてブツブツ言ってる

 

「まぁとりあえず顔見せだけでーす。転校生どーぞー」

 

再びそんな事を言うと、教室の扉がガラガラと音を立てて開かれる

さぁどんなのが入ってくるんだと当麻と二人そっちへと視線を向けると

 

三毛猫を抱えたシスターとクワガタのような角のカチューシャをした女の子が立っていた

 

「―――」

 

思考停止

あまりにも予想外すぎてアラタも当麻も完全に固まってしまったのだ

当然ながらクラスメイト一同テンパっている

まず何しろ服装が異常だ

 

「あ、見て見てあそこあそこ! いたよ!」

「ホントだ、とうまにあらただ。これは案内してくれたまいかにお礼を言わないとだね」

「うん!」

 

彼女たちの短い会話を聞いた後、クラスの視線が一気にこちらに振り向いた

ま た お 前 ら か、と言いたげな視線が突き刺さる

 

「…あ、あれー? なのですよ…?」

 

あろうことか呼び込んだ本人もテンパっていた

 

「あ、あの先生…一体これは―――」

「てゆうか転校生って…」

「違いますよ! てかシスターちゃん! どこから入ってきたんですか! てゆうか隣の子は誰ですかーっ!」

「え? でもでも私はとうまにお昼ご飯の事を―――」

「あ、私はアラタにお弁当を届けに―――」

 

インデックスとゴウラムは何かを訴えているが小萌はぐいぐいと彼女たちの背中を追い出そうとする

まるでいつ泣き出すか分からない表情をする小萌はそのまま教室の外に出て行ってしまった

思わず追っかけようと思ったが完全にそのタイミングを失ってしまい思わず二人は届くことない手を伸ばしてしまった

 

やがて入れ替わりで黒い髪の女の子が入ってくる

 

「本物の転入生は私。姫神秋沙」

「…よ、よかった…! 姫神でよかった…! 服装も普通な制服でホントによかった…!」

 

黒い髪の女の子―――姫神秋沙を見て当麻は、はっふぅと息を吐く

同じようにアラタも安堵の息を吐く

 

そんな安心をしている最中むぅ、とアラタは改めて頭を掻いた

…いや、転校生が姫神で安堵したのも事実だが、まさか学校に来るとは思わなかった

 

大丈夫かなぁ…なんて思いながら時間は過ぎていく―――


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