全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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お久しぶりです
生きてます

最近はもっぱらシンフォギアばっか書いてます
シンフォギア書くの難しいネ
よかったら読んでくださいね
出来はいつもどおりなんですがね




#31 エターナル/クロニクル

「…攻撃が、止まった?」

 

壁に手をかけて休み休み道を歩いてたとき、ふと美琴は呟いた

攻撃が止んだことはエターナルも気になっていたようで、後方を確認しながらふむ、と口元に手を持っていった

 

「まぁ、諦めたわけではなさそうだが…向こうにこちら…というかお前の居場所を察知できるやつがいる以上、隠れるのは裏目に出てしまったな」

「分かってるわよ! いちいち声に出すな!」

 

うがーっと掴みかからん勢いで美琴がこっちを睨んでくる

しかしこちらから彼女を見ても御坂美琴の疲弊の度合いはわかりやすいものだ

仮にあの三人がこちらを歩いて追跡していて、遭遇してしまっても撃退できるかどうか

 

「…おい」

「―――なによ」

 

エターナルは美琴の前に立ち、追いかけてくるであろう方向を睨みつつ

 

「お前にはやるべきことがあるんだろう、行け。アイツらは俺が引き受けてやろう」

「なっ!? 何言ってんの!? そんなこと―――」

「そんな満身創痍の状態で相対して勝てると思うか? お前はとっとと果たすべきことを果たしてとっとと表に戻っていけ」

 

一瞬、美琴は言い返そうとも思ったが、エターナルの言っている言葉も一理あるゆえに、あまり強く言い返せなかった

手持ちのメダルはポケットに数枚だし、疲れも溜まって上手く電撃もコントロールできるかも怪しい

 

「御坂美琴」

「!」

 

不意に名前を呼ばれびくり、とする

エターナルはベルトからメモリのようなものを抜き取ると、その変身を一旦解除した

バラバラと砕け散るようなエフェクトの後に出てきたのは、男性だ

彼は黒をメインとし、赤いラインを走らせているジャケットを着込んでいる、少し年上っぽい男性だ

 

「常盤台の超電磁砲。…どんな運命の歯車が回って、〝ここ〟に来たかはわからんが…お前は〝表〟にいるからこそ輝ける女だ。仕事を片付けたら、もう〝(こっち)〟に来るんじゃないぞ」

「お、表…? 一体何の話してんのよ…?」

「知らないのならそれでいい。そら、早くいけ」

 

そう美琴に返事をするとエターナル―――大桐克実は踵を返し歩き出す

美琴は彼の背中を見えなくなるまで見送りながら、改めて反対方向を向いた

そうだ、引き受けてくれるなら、遠慮なく引き受けてもらおう

止まってはいられないだ、私は

 

◇◇◇

 

カラスアマゾンが絹旗に向かってダッシュし、距離を詰めて攻撃を繰り出す

絹旗は自分の能力、窒素装甲(オフェンスアーマー)を駆使し、相手の攻撃になんとか抵抗を試みた

繰り出される手刀に両手に纏ったアーマーでその一撃を防ぐ

 

(―――っ! 超半端ねぇ衝撃ッ…! まともにやり合うの超危険です!)

 

一度受け止めただけで絹旗は相手の攻撃力を思い知る

これでは自分に展開してある窒素の壁も役にたたず、あっさり切り裂かれてしまうだろう

予想外に次ぐ予想外

どうしたものかと考えながら視線を動かすとちらりと引きちぎられた足に目がいった

正確にはその近く―――その人物が持っていたであろう拳銃だ

絹旗は地面をスライディングし、カラスの攻撃を回避する

すかさず態勢を整えながら絹旗は拳銃を拾い上げ、銃口をカラスに向け、引き金を引く

 

ダンっ! と一発の弾丸が拳銃から射出され、それは真っ直ぐカラスの肩へと突き進み―――直撃する

衝撃に僅かにカラスは後ろへと後ずさる

いけるか、と絹旗は構えつつ態勢を整えるが…カラスは割と直ぐにこちらを見据えてきた

あまりダメージにはなってなさそうだ

 

(―――流石に、超ピンチ…っみたいですね。ですが、意地でも食い下がってやります…!)

 

 

ガタックは両肩のガタックダブルカリバーを用いて、目の前の敵に斬りかかる

袈裟に振るい、二刀で挟む込むように振るったりして攻撃に出ているが、緑のライダー―――アマゾンオメガは両手でそれを容易く防ぎ、こちらの腹部に蹴りを叩き込んでくる

 

衝撃に押され、ガタックはその場から後ずさりしつつも、目の前の敵から目を逸らさない

そうしているとオメガはベルトの右側のグリップに手をかけて、一気に引き抜いた

刹那、ベルトから取り出されるのは一本の鋭利な鎌

 

(―――、ど、どうなってんだあのベルト…! サイズ的に入らないだろあんなの!?)

 

「ゥゥオォォォォオオオオ!!」

 

そんなガタックの思考などお構いなしにオメガは手にした鎌―――アマゾンサイズを振るいガタックに攻撃を仕掛けてきた

ガタックはダブルカリバーを匠に使い、その攻撃をいなし、あるいは弾いて反撃の隙を伺う

すぐ近くで絹旗もどうにか抵抗している

しかし絹旗の能力ではあのカラスの化物は倒せない

だから何としてでも、こっちがコイツを倒さないといけないのだ

カリバーを握る両手に力が入る

もう手心など加えていられないと判断したガタックはベルト右側のスイッチを押そうとし―――

 

 

 

「そこまでにしてもらえないかナぁ?」

 

 

 

不意に聞こえてきた第三者の言葉にその場にいる人物の動きが止まる

全員が視線を向けるとそこにはひとり、白衣を着込んだ女性がそこに建っていた

 

「…どちら様でしょうか。私は貴女のこと、超知らないんですけど」

「私は知ってるよ、〝アイテム〟の人。…あ、流石に名前は知らないけど」

 

アイテムのことを知ってる、ということは少なくとも裏のことに多少の関心があるのか

どっちにしろ状況は芳しくない

ガタックと目配せしていると、白衣の女は言ってくる

 

「君たちの仕事は、そちらの女性を捕らえることだろう? 私はその知り合い…布束砥信を保護しに来ただけさ。…いや、けど人間やめてたのは知らなかったけどネ」

 

言いながらカラスを見やる

カラスはバツが悪そうに視線を逸らした

それを確認すると白衣の女はもう一度ガタックと絹旗を見る

 

「で、どう? このままだと彼女は学園都市の闇に堕ちるだけ。私としてはそれがもったいないと思ってる」

「―――悪いけど、それはできない。こっちも仕事なんだ」

 

真っ直ぐ白衣の女を見ながらガタックはそう返答した

いきなりここにやってきて女を渡せなどと、都合が良すぎる

その言葉を聞いて、白衣の女はやれやれ、といった様子で、しかし分かっていたとも取れる表情で一つのドライバーを取り出した

そのドライバーはAボタンとBボタンがある、妙なドライバーだ

彼女はAボタンを押してそれを起動させながら腰に押し当てる

 

<―――クロノドライバー…!>

 

そんな音声がすると同時に、ベルトが展開されて白衣の女の腰に装着された

彼女はポケットから透明の基盤のようなものがついている妙なデバイスを取り出し、カラスへと視線を向ける

 

「君たちは戻っていたまえ。落ち合う場所は、私の研究室だ」

「―――わかったわ。戻るわよ、悠」

「…砥信がそう言うなら」

 

煙とともに人間へと戻った二人が小走りで白衣の女の後ろを抜けて、走り去る

逃すまいとすかさず最愛が手に持っていた拳銃を数発撃つが、当たることはなくそのまま逃亡を許してしまった

 

「ちっ…、遼馬、こいつを超特急で潰しましょう!」

「そうやすやすやられてくれればいいんだけど…!」

「あいにくだけど、やられるつもりはない。…コイツはまだ試作品の段階を出てないけど…データも取りたかったところだし、ちょっと付き合ってもらうよ」

 

言いながら白衣の女は手に持っているデバイスのスイッチを押す

 

<―――オリジン=クロニクル>

 

そのまま彼女はモジュールを持っている左手を顔付近まで持っていき、ベルトに挿入しやすいように向きを整える

 

「―――変身」

 

ドライバーにモジュールをセットし、アップトリガーをそのまま左手で押し込む

それに反応するかのように、彼女の周囲に緑色のカラーリングを主とした鎧が形成されていった

 

<―――ライダークロニクル…!>

 

無機質な声が響き、その鎧が沢白に装着され、変身を完了させる

彼女の右手に現れた剣―――クロノブレンバーを手に取り、確かめるように左手を開閉させて、ブレンバーを突きつけた

 

「コイツの名前はまだ決まってなくってね。とりあえずクロニクルとでも名乗っておこうか」

「最愛、気をつけて…多分コイツ強い…!」

「遼馬こそ気をつけてください…! 超遺憾ですが、危うくなったら問答無用で撤退も辞しません…!」

 

ガタックは改めてカリバーを持ち、最愛の援護を受けながら、目の前のライダー―――クロニクルへと向かっていった

それをクロニクル―――沢白凛音は仮面の下で小さく微笑みを浮かべながら、ブレンバーを構えて相手の出方を待つのだった

 

◇◇◇

 

麦野沈利は御坂美琴が通るであろうルートに先回りし、相手が来るのを待っていた

時間にして十分か、三十分か

あまり待ってはいないと思っているが、正直退屈で五分すら長く感じたほどだ

そうして待っていると、向こうからコツコツと誰かの足音が聞こえてきた

ようやく来たか、と嬉々として音の方へと視線を向けると―――そこに御坂美琴はいなかった

 

代わりに、黒いマントのようなものを羽織った、見知らぬ仮面ライダーの姿があった

 

「―――誰だテメェ。超電磁砲のガキはどこ行きやがった」

「知らんな。アイツはアイツで当初の目的があったらしい。それを果たしに行ったんじゃないか」

 

チッとわかりやすく舌を打つと目の前の敵を殺すべく、麦野は雑草を取るような自然さで原子崩しを撃ち込んだ

真っ直ぐ突き進むそのレーザーにも似たそれは容易く目の前の命を刈り取るはずだった

だが麦野の予想は大きく外れる

ライダーが黒いマントを盾のように広げ自分の前に持ってくると、放ったはずの原子崩しはかき消されてしまった

まさかの光景に麦野の表情が固まる

ライダーはバサリとマントを翻し

 

「俺の目的は時間稼ぎだ。…こいよ、遊んでやる」

「―――上等じぇねぇか! ぶっコロしてやんよクソったれがぁ!!」

 

怒りのままに自分の周囲にテニスボールサイズの光球を生み出し、そこから何本かのレーザーを射出する

真っ直ぐ突き進んだそのレーザーは本来なら簡単に目の前の相手を貫くはずの一撃だ

だがその全ても相手のマントにかき消されてしまい、有効打にも成りえない

 

「クッソがァ…いきなり出てきて邪魔すんじゃねぇよ! 何様だぁ、あぁ!?」

 

衝動のままに球体を生み出し、そこからまたレーザーを放つ

しかし今度は素早く動き回る相手を捕らえることはできず、虚しく空を切ってしまう

 

「いい加減諦めろ。お前の相手は疲れる」

「んだとぉ!?」

 

怒りと共に麦野は相手に向かって原子崩しを放つが、やはりマントにかき消される

何度やっても同じことにいい加減麦野はイライラしてきた

っていうかそもそも目の前のこいつはなんだ?

なんでいきなり現れてこっちの邪魔をしてくる?

 

そんな麦野の思考を他所にエターナルが携帯していた無線機がピリリ、と鳴り出した

徐に無線機を取り出し、耳に付近へ押し当てると

 

「克実だ」

<克実ちゃん、美琴ちゃんのお仕事は終わったわ。彼女、消耗が激しいようだから、今日はもう帰ってもらおうと思うんだけど―――>

<ふざけないで! まだ一箇所あるのよ、こんなところで―――!>

<ダメって言ってるでしょ!? そんなボロボロの状態でまともに戦えると思って!? ここはおとなしくお姉さんの言うこと聞いてなさい!>

<何がお姉さんよ!? アンタどう見てもオッサンじゃない!>

<そうオッサン―――ってアンタ!? 今言っちゃいけないこと言ったわね!? アタシはまだそんな歳じゃないわよ!!>

<うっさい! そうとしか思えないんだから仕方ないじゃない! この変なおっさん!>

<変なおっさん!? ムッキー! アンタレディに対して最大の侮辱を―――>

 

いい加減やかましくなってきたので無言でエターナルは通信を切った

まぁ近くにはほかの仲間たちもいるだろうしまぁ大丈夫だろう

エターナルは不意にエターナルエッジを構え、その刀身に力を込める

 

「―――!?」

 

麦野がそれを視認するよりも早く、エターナルは麦野に向かってエッジを振り抜き、大きめの青い斬撃を飛ばしてきた

防ぐことも考えたが、万が一防御を抜けられてこちらが切り裂かれては意味がない

麦野は大きく横に飛んで、地面を転がり再度相手の方を向き直る

しかし、もう視界にエターナルの姿は見えなかった

 

「逃げた…!? いや、〝見逃された〟!? この私がッ…!」

 

ギリリ、と歯を食いしばるのも束の間、麦野は頭を振って再度思考に埋没する

いつの日かあの白仮面に復讐してやるとして、どうしてあんなのを雇ってまでここを潰したかったのか、思考がクリアになってくるとそこが気になった

 

「…ち、一度戻るとするか。これ以上は危険だしな」

 

もしかしたら姿を消しただけでまだ近くにいるのかもしれない

そう考えて麦野は来た道を戻っていく

―――そういえば、絹旗と鏑木はどうしてるだろうか

 

◇◇◇

 

ダブルカリバーが振るわれ、そのカリバーをクロニクルがブレンバーで受け止める

絹旗も窒素装甲を纏い、殴りつけるなどを試みるが、ぐらつくだけで決定打にはならない

 

(くっそ…流石に二人相手だとキツイものがあるな。クロニクルが完成していればまだしも、調整の域を出てないこいつじゃあいつ変身が解除されるかわかったもんじゃない)

 

焦りを感じているガタックと絹旗とは別に、クロニクルもまた別の焦りを感じていた

どうにかこうにか〝なんか強そうなやつ感〟を出して演技してきては見たが、壊れて解除されちゃおしまいだ

どうやって突破口を開こうか

 

「ちっ…仕方ない、あまり使いたくなかったけど―――クロックアップ!」

 

そう言ってガタックは腰にセットされてあるあるスイッチを起動させる

 

<clock up>

 

するとそのような短い電子音の後に、ガタックの姿が見えなくなった

否、肉眼では視認できないレベルで高速移動しているのだ

巻き込まれないように絹旗は一度バックステップで距離を取り、それを確認したのか、ガタックをカリバー二本で攻勢に出る

最初こそブレンバーを用いて何とか防御していたが、やはり見切ることはできず、次第に攻撃を受け始めてしまう

攻撃を受けながら、片膝をつきつつ、クロニクルを決意する

 

(―――仕方ない…イチかバチか…!)

 

そう言ってクロニクルはクロノドライバーのAとBボタンに指を添えて、その両方を同時に押した

 

 

 

<―――ポーズ…!>

 

 

 

刹那、時が、止まる

固まった時空の中で、動いてるのはクロニクルのみ

クロニクルはまず真っ直ぐ絹旗へと駆け寄り、腹部に手を当て、最大限力を抜いて掌底を放った

 

「あぅぐっ!?」

 

当てられたその瞬間だけ僅かに時が動き、絹旗は苦痛に顔を歪める

次にクロニクルはガタックの方へと駆け寄り、カリバーを振り上げ、今まさに斬りつけようとしているガタックの腹に向かって全力で拳を打ち付けた

そしてそのまま壁に叩きつける勢いでもう一度全力で回し蹴りを叩き込む

 

<リ・スタート…!>

 

直後、時がまた動き始めた

絹旗は口元を抑えながら、こみ上げる吐き気を堪え、壁に打ち付けられたガタックは変身を強制的に解除させられた

それぞれの表情には、何が起こったのかわからないというような驚きと戸惑いがあった

 

「―――じゃあ、そういうことで」

 

僅かに声が震えていたが、何とか気丈にそう告げて、クロニクルはその場を後にする

追いかけようにも体が思うように動いてくれない

絹旗はようやく吐き気が収まってきたが、動けるという訳でもないし、鏑木はまだ地面に倒れたままだ

 

「―――、な、なんなんですか、アイツは…超訳分かんねぇ、です…!」

「な、何が起こったんだ…?」

 

鏑木は何とか身体を起こして、去っていたアイツの方へと視線を向ける

そこにはもう暗闇しか見えず、完全にアイツは見失ってしまっただろう

 

「…任務失敗、かな」

「超悔しいですが、そうですね…麦野たちに合わす顔がありません」

「そう、だね…でも、生きて帰って来れただけでもよしとしよう」

 

鏑木の呟きに絹旗は小さく頷く

命があっただけでも、幸運だと思おう

 

◇◇◇

 

「…この研究所は、破棄されたみたいだね」

 

地下の方でドンパチしていたら、上の方では人っ子一人いなくなっていた

研究データは全て削除され、多少いじってはみたが閲覧もできなくなっている

まぁデータなんぞコピーでもとっていれば問題はないだろうし、例の研究が凍結したとも思えない

研究所から出たクロニクルは周囲を確認しつつ、デバイスを引っこ抜き、ベルトを腰から外す

瞬間、ベルトは火を拭き、思わず身の危険を感じた白衣の女は放り投げてしまった

直後、ボォン! と小さく爆発する

からから、と地面に落ちるのは、クロノドライバーだったものだ

 

「ま、やっぱり無理させすぎたよねぇ…」

 

短く感想を漏らしながら、白衣の女―――沢白凛音はふと、自分の口元から何かの液体が流れ出していた事に気づいた

軽く手を伸ばし触れてみると、それは赤い色をした自分の血液だ

沢白は軽く血を拭うと口内に溜まっていた血液を唾と一緒にそのへんに吐き出すと

 

「…ポーズに身体が耐えられなかったか。まだまだ改良の余地アリ、だネ」

 

そう小さく呟くと、沢白は自分の研究室に向かって歩き出す

今頃布束たちもついているはずだろうし、神那賀もトレーニングを終えて戻っているかもしれない

自分がいないと気まずいだろうから、早く戻ってやらねば

 

◇◇◇

 

「えぇ? そっちも訳わかんないのに襲撃されたの?」

<うん。…おかげで、しくじった。…ごめん麦野、言い訳はしないよ>

 

麦野は研究所から外に出て、ワンボックスカー付近で待機していた滝壺とフレンダと合流する

そして向こうの様子はどうだろうと電話を掛けようとしたとき、向こうから電話がかかってきた

どうやら向こうでも予測不能の事態が起きたらしく、任務に失敗してしまったようだ

 

「…いや、気にしなくていい。こっちも似たようなことがあってよ、しくじっちまった。…とにかく二人も戻ってきてちょうだい。一度合流しましょう」

<わかった。…ありがとう、麦野>

 

そう言って向こうの電話が切れる

麦野も携帯の通話ボタンを押してそれをしまうと麦野は手に持っているファイルへと視線を向けた

それはここに戻る道中で落ちていたものだ

恐らく急いでここを後にしようとして焦って落としてしまったのだろう

んで、流石に気になったから合流する傍らでこのファイルを読みながら戻ったのだが

 

(―――はっ、第一位様も大変だな。スライムプチプチ潰してレベリングってか。なぁるほど…統括理事会も大変だねぇ)

 

麦野は手に持ったファイルを空中に放り投げると、自身の原子崩しでそれを消し飛ばした

その口元に笑みを浮かべながら

 

(常盤台の超電磁砲(レールガン)…まぁせいぜい頑張んな。アタシらは高みの見物と洒落こませてもらうから)

 

◇◇◇

 

御坂美琴はゆっくりと目を覚ました

そしてそのまま上半身を起こす

 

「…あれ、私…」

 

起床したことで、頭が冴えてくる

そういえば昨日あの白いライダーの仲間を名乗る連中にこのホテルに連れてこられたのだ

代金は連中が持ってくれたみたいだが…妙な貸しを作ってしまった

とりあえず美琴は己の右手をゆっくり見つめ、意識を集中させる

数秒のあと、バヂリッ! と雷が迸った

調子は良好、体調も問題ない

 

「―――行ける」

 

美琴はそのまま立ち上がって出かけようと思ったが、ふと自分の格好を見やる

自分の格好は昨日の戦いの影響でボロボロになったまんまで、流石にこれには美琴も苦い顔をした

 

「…改めて見るとひっどい格好。…時間帯も時間帯だし、制服で行くか…あれ?」

 

キョロキョロと周囲を見渡すとテーブルの上にきっちりと折りたたまれた常盤台の制服があった

先日着替えた時は少し急いでいたから椅子の上に放り投げた記憶があるのだが

よく観察してみると、その服の上に一枚の紙があるのを見ことは見つけた

 

「…なんだこれ」

 

近づいてその紙を手に取り、一瞥する

書かれていたのは一言だった

 

―――無理するんじゃないわよ

 

誰の言葉かはわからない、短い激励の言葉だった

だけどその書き方は、昨日少しだけやり取りしたあの男を連想させる

はっきり言ってしまえばオネェ口調の変なオカマだったが

 

「…わかってるわよ」

 

美琴はそれに短く呟き、その紙を折りたたむとポケットにしまいこんだ

そして荷物をもう一度まとめ直し、部屋を後にする

今日で何もかも―――終わりにするんだ

 

 

そう勇んで出かけたはいいが、結果はひどく呆気ないものだった

日中件の研究所を付近のビルの屋上から監視しては見たが、人の出入りしている気配はまるでなし

警備してる人も全然見ないし、試しに侵入を試みたがセキュリティすら機能していなかった

否、セキュリティ機器だけじゃない、電子機器のほとんどが機能していないのだ

 

罠を警戒したが、それならもうその術中にかかっているだろう

侵入出来た時点で罠の可能性は消えた

生きているコンピューターにハッキングを試みる

しかし画面には在り来たりなフォルダ郡が表示されるだけで、研究らしいデータは一切なくなっていた

 

もしかしたら昨日の攻防戦で、何かがあったのか

あるいはここの研究施設一つでは計画の続行が困難だと判断されたのか

詳しい実態はよくはわからないけど―――

 

「アイツらを撤退まで追い込んだ…?」

 

ひっそりと、自分に聞こえる声量で呟く

呟いた後で思わずハッとして、周りに誰かいないか思わず探してしまう

誰もいないことは、ここの部屋に入るときに確かめたはずなのに

 

 

どういう事だろう

仮にアイツらの撤退が事実だとしても、どうにも実感が沸かない

今日までありえないような体験をしたからだろうか

 

「みゃあ」

 

不意に、聞こえてくる猫の鳴き声

美琴の前にトコトコと歩いてくる子猫

その無垢な瞳は美琴を真っ直ぐ見据えていて―――いつか、ミサカ(じぶん)と出会った時のことを思い出す

あの時も、猫がきっかけだった

 

〝さようなら。お姉さま〟

 

夜、彼女は無機質な声で短い別れの言葉を発した

そして、神那賀と共に向かったが、間に合わず殺されてしまった

怒りと共に立ち向かったが、全く敵うことなく、文字通り一蹴された

 

―――改めましてェ、一方通行だ。―――よろしくなァ?

 

思い出すだけで身体が僅かに震えだす

 

―――なんでよ…!? 生きてるんでしょ!? アナタたちにも! 命があるんでしょう!? なのに―――! なのにッ!!

―――ミサカは、単価十八万円の模造品です。作られた身体に、作られた心。スイッチ一つで出来る、実験動物ですから

 

その子達は、迷うことなくそう言いきった

 

過去は、戻らない

起こってしまった事実を覆すことなんで出来はしない

当然、自分にはやらないといけないことがたくさんある

だけど、それでも今言えることは一つ―――

 

「実験を…止めることが出来た…!」

 

美琴は空を見上げた

照り輝く太陽の光が、眩しい

失った命は戻らないけど…あの子達は、もう死ななくていいんだ…!

 

 

妙な解放感と一緒に、何となく歩いていた美琴は、ふと喉の渇きを覚えた

そういえばこの近くに自販機があったはずだ

確かいつもちぇいさーしている自販機が

とりあえずそこに向かっていつもどおり飲み物を買おう(?)とした時だ

不意に耳に、見知った声が聞こえてきた

 

「な、なぁ。今、俺の目の前で何が起きているんでせうか?」

「さぁな。…ってか、わかってんだろう?」

 

その自動販売機には、知人がいた

一人は上条当麻

そしてもうひとりは―――鏡祢アラタ

 

当麻は自販機のつり銭レバーやら何やらをガチャガチャといじり、それを隣でアラタが眺めているなんの変哲もない日常だった

そんなどこにでもあるような風景に、御坂美琴は思わず笑みを零す

そのまま笑みを浮かべたまま、美琴は二人に話しかけるべくそっと足を踏み出した

 

 

 

何もかもが終わったと、思い込んだままで




仮面ライダークロニクル(仮名称)

少なくとも原点よりはクッソ弱体化してます
ポーズにも時間制限あり

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