全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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合間合間の科学者お姉さん達の話は容赦なくカットしてます
あとあからさまに露骨なフラグ立ててますけどスルーしといてください
たぶんきっとそのうち描写します

そしてあいも変わらずな出来ですけどご容赦を

あとハイスクールD×Dの方を楽しみにしている方(そんなものはいない)、すまない…展開はふわっと考えてはいるけどまだ文字に起こしていないんだ…すまなごめんなさい○| ̄|_

それではどうぞー


#25 妹達

「うっはー…木漏れ日が眩しいわねぇ…。日焼けは困るけど、こうじゃないと夏って感じがしないわねぇっ」

 

今目の前にいる常盤台の生徒は一体誰なのか

事前に誘いを受けて、アラタは部屋を出て知人の二人と合流する

黒子と美琴―――なのだが

 

「…黒子、どういうことだこれは。アイツは誰だ」

「わ、わかりませんのっ! なんか今朝起きたらこんなテンションにっ!」

 

アラタと黒子は二人少し距離を取って小さい声で話し合う

なんでこんなこちになってしまっているのだろう

愉快なことでもあったのだろうか

 

 

 

「あっ、セミの抜け殻っ」

 

 

 

「―――こんな気色悪いお姉様は初めてですのっ…!」

「気持ち悪いの間違いじゃないのか…?」

 

彼女がセミの抜け殻を見つけたとき距離を取っていた超電磁砲の知人二人は言いたい放題だった

 

「また約束の時間まではあるわね…っふっふーふっふーん♪」

 

鼻歌交じりで彼女は自販機へと駆け寄っていく

いつもの彼女ならここで〝ちぇいさーっ〟って言いながら自販機に廻し蹴りを叩き込んでいるところではあるのだが

 

「黒子ー、アーラターっ。なに飲むー? 美琴さん奢っちゃうゾー?」

 

(オメェ誰なんだよマジで)

 

いつも廻し蹴りを叩き込む故障自販機に金を投入し、あまつさえこっちの分を奢るときた

なんだろう、天変地異でも起こるのだろうか

それ以前に明日は来るのだろうかっ

 

「ちょっとー?」

「あ、じゃ、じゃあアイスコーヒーを―――」

 

黒子は駆け足で駆け寄り、アラタは彼女の後ろを歩いていく

が、前を歩く黒子は地面のでっぱりにつまずき、転びそうになってしまった

思わずアラタも手を伸ばすが手は届かず虚空を切り―――それを美琴が受け止めた

顔の位置は美琴の胸部であった

まぁこれは偶然ではあるのだが

 

「す、すみませんお姉様っ!? け、決してお姉様の胸に飛び込みたいとかいうやましい気持ちなどでなくっ!?」

 

言葉に出してしまうと露骨な感じがするのだが

しかし美琴はそれに対して

 

「ふふっ、わかってるって。気を付けないと、ダメよ?」

 

そう言って黒子のオデコをこちんと指で突っついた

突っついた後に美琴はスキップを挟みながら自販機へと戻っていく

黒子、数秒のフリーズ

その間にアラタが隣に移動し黒子に耳打ちする

 

「…なぁ、アイツは本当に俺たちが知ってる御坂美琴なのか。偽物なんじゃないのか?」

「は!? その可能性を失念していましたわッ…! こうなればこの白井黒子、身を賭して確認しますの…!」

「なんか秘策あるの?」

「お任せあれお兄様ッ! …見守っててくださいましっ」

 

そう黒子は小声で言うと飲み物を狙う美琴に向かってズンズン歩いて行った

そして優しく、彼女の肩に手を置いて視線をこっちに振り向かせる

 

「? 黒子?」

「―――今日のお姉さまの下着は、オレンジ水玉―――」

 

(アイツアホちゃうか!?)

 

アラタが心の中で突っ込んだ一瞬、ドデカイ雷の音が耳に届いた

黒焦げとなった黒子を視線に捉えつつ、アラタはゆっくりと美琴に近づいてその肩へと手を置く

この行動が出れば偽物という線は消えた

肩に手を置かれた美琴はキョトンと、そして僅かに頬を染めつつ

 

「な、なによ?」

「いや、なんでもない。いつもどおりで安心したよ」

「はぁ?」

 

「あー、いたいたー!」

「お待たせしましたーっ…て、何してるんです?」

「いつものことだよ、気にするなって」

 

ちょうど良いタイミングで初春、佐天、春上の三人が合流する

また春上が黒焦げの黒子を見ながら発した「こんがりなのー」って言ってる姿に少し和んだ

 

 

早い話が買い物である

それで、アラタは荷物持ち的な役割である

実際はいつものメンツを呼んだだけなのではあるが、アラタは特に気づいていない

 

「それで、今日はどこ回るんだ?」

「あ、私、広域社会見学用に買いたいのあるんだけど」

「広域社会見学ぅ? ランダムで選ばれた生徒達が九月の三日から十日まで遠征しに行くっていうあれか?」

「そうそれ。たしか場所は学芸都市っていう…」

 

そんな美琴のつぶやきに初春が反応する

彼女は少しずい、と顔を美琴に近づけて

 

「それって、カリフォルニアにある…?」

「? うん」

「私たちとおなじなのー!」

「そうなんですの?」

「そっか、おんなじグループなんだ」

「っていうか、みんな行くのか、広域社会見学」

 

意図せずしてハブられた

元々行く気もなかったが

 

「アラタさんは?」

「残念だが選ばれてないね。選ばれても辞退する予定だったし」

「そうなんですか…ちょっと残念です」

 

佐天は僅かにショボーンとしたような様子を見せたが、すぐに表情を変えると

 

「じゃあ待っててくださいっ、お土産にはとびっきりの買ってきますから!」

「オッケー、期待させてもらうよ。…ところで結局何を買いにいくんだ?」

 

そう視線を美琴らに向ける

美琴は一度指に顎を乗せて僅かに考えると

 

「そういえば向こうにビーチがあるんだったわ。水着も新調しなくっちゃだね」

「ホントですか!? ―――だけど先立つものがなー。こんな時、あのマネーカードがあったら―――」

「佐天さんっ」

「っはは、冗談だってば」

 

初春にビシッと怒られ笑う佐天

そこで不意に思い出したように佐天が言葉を発した

 

「そういえば、マネーカードについては、なにか進展あったんですか?」

「昨日の今日で早々進展するはずありませんの」

「それもそっかぁ…うーん…なーんか引っかかるんだよなぁ」

「なにか気になることでもあるんです?」

「いやぁ、なんかこういうのって、背後にもっと大きな組織とかありそうじゃないですか! 都市伝説ハンターの勘が騒ぐんです!」

「また始まりましたの?」

「ちょ、またってなんですかまたって!」

 

そうして目の前で黒子と佐天がプチ口論をスタートさせる

美琴の横に座っている春上と初春は事件なの? と心配する彼女を初春は佐天さんの冗談ですからとぶった切ることにより安堵させ、それに佐天が「ちょ、初春!?」と反応する

 

そんな光景を美琴は微笑みながら眺めていた

そう、あんなのあくまで都市伝説

昨日あんな情報見つけたときは流石に肝が冷えたが、凍結されているのならもう大丈夫だろう

 

「どうした?」

「うん?」

 

自分の隣に立っているアラタが、こちらを伺うように顔を覗き込んでくる

美琴は見つめてくる彼の瞳を見つめ返しながら笑みを浮かべて

 

「なんでもない」

 

そう言っておもむろに立ち上がった

そしてパンパン、と自分の両手を叩きながら

 

「はいはい、行こうみんな! 時間は有限なのよー!」

 

そんな美琴の声を皮切りに一行はそれぞれ笑顔を浮かべ、彼女の後ろをついていく

アラタも一番最後を歩きながら、談笑している女子連中を見守りながら、ふと笑みがこぼれた

まぁよくわからないが、美琴(アイツ)が笑ってるなら、それでいいか

そう結論づけて、歩を進め―――

 

「ほらほら、アラタさんも会話に入ってくださいって!」

「そうですよ、アラタさんもメンバーなんですから!」

「うお、ちょっと、押すなってば飾利、っと、服引っ張るな涙子っ!」

 

◇◇◇

 

セブンスミスト

 

「あー! 買った買ったーっ!」

 

そう言って背伸びする美琴

そこまで購入したのは多くなくアラタが持つ分もほぼゼロだ

 

「買うもんは全部か?」

「うん。なくなってたの買い足したかっただけだし。みんなは?」

「あ、それじゃあ―――」

 

そう言って初春の先導のもとにたどり着いたのは家電を取り扱うフロアだった

現在は炊飯器エリアに一行はおり、初春が色々と炊飯器を眺めている

 

「炊飯器?」

「春上さんとルームメイトになってたから自炊するようになって…」

「? でも初春って持ってたよね?」

 

そう佐天が聞くと初春は頬を掻きながら笑みを浮かべ、それに春上が申し訳なさそうに顔を赤らめる

 

「あはは…持ってるには持ってるんですが…」

「あ…そういえば言ってたね。足りないって」

「ごめんなさいなのー…」

「あ!? 春上さんは何も悪くないですよ!? 私もいっぱい食べますし!」

「そうそう。初春の食い意地だって相当だし」

「佐天さん!?」

 

そんな会話を耳にし、アラタはクスリと笑う

そして視線を向けようと周囲を見渡すが、ふと美琴の姿が見えない

どこに行ったのかと探す前にその美琴の声が聞こえてきた

 

「ねぇ! こんなのとかどう?」

 

美琴は別の炊飯器の前に移動しており、それを指差していた

その前に移動するとそれはなかなかに性能の良さそうな炊飯器だ

自炊をあまりしないアラタから見ても正直まったくわからないのだが

 

「なんかすごそうなの…」

「確かにすごいですけど…ちょっと予算が…」

 

―――ですから、そこはもうちょっと…はい、そうです!

 

ふと変な会話が耳に聞こえてくる

頭に疑問符を浮かべて同じく気づいた黒子と一緒に声の方を見てみると美琴が定員さんと何やら交渉でもしているのか、話をしていた

 

―――仕方ありませんねぇ

 

そこで店員さんが苦笑いをしながら美琴の言葉を承諾したようにそう言葉を発する

それを聞いた美琴はこちらを向いて、がっしりと親指を立て、こちらにサムズアップした

 

◇◇◇

 

「す、すごいの買っちゃったの…!」

 

まさか美琴の交渉でさきの炊飯器を購入できるとは思わなかった

おまけに自宅へとお届けしてくれるサービスも勝ち取っているとは

 

「夢の炊飯器生活の第一歩ですよ春上さん!」

「美味しい御飯がいっぱいなのー…!」

 

で、現在いる場所は食器コーナー

クッキーの型どりに使えるようなものや、タッパーなど、そういう日用品が販売されているところだ

 

「へぇ、色々あるんだね?」

「でしょ!? ここ品揃え抜群なんですよ!」

 

佐天と一緒に物色する美琴

彼女の少し後ろでキョロキョロと視線を動かしている

 

「!」

 

そこで美琴のセンサーがなにかに引っかかったのか一つの型どりを手にとった

それは可愛らしいクマさんの形だ

 

「か…可愛いっ…! あ!? でもこれじゃ食べられないっ!?」

 

彼女の言葉は当然、割と大きめであり

 

「―――はっ!? な、なんてねー? そ、そんなことないんだけどっ? あはははっ」

「お前嘘下手くそかよ」

「やっかましいっ!」

 

もはやこんな光景など完全に日常風景

そのやりとりに春上も初春も佐天も思わず笑い出してしまった

 

(…やっぱりお姉様はいつものお姉様ですね…。今朝のはなんだったんでしょうか…)

 

それを見て黒子はふむぅと考える

だけどそれを差し引いてもちょっと今日の美琴はテンション高めなような気もしないでも…

そんなことを考えながら時間は過ぎていく

 

 

水着売り場にて

流石に女性の水着売り場に男性が一人いるのはとても恥ずかしいので少し距離を取って一行の様子をアラタは見守っていた

 

…しかし遠目から見ても今日の美琴のテンションは妙におかしいとアラタは思っていた

今現在も春上の水着を選んでいるが、やはりテンションが高い(全部子供っぽいって言われてるが)

特に問いただす気などはないが…と考えていたところで不意にアラタの携帯が鳴り出した

何事かと思いながら画面を見ると、少し前に知り合った名前が表示されている

アラタは通話ボタンを押し、電話を耳に当て

 

「もしもし? そっちから連絡してくるなんて珍しいじゃんか」

<そうかしら。though 貴方にしか頼めないから>

「…どういうことだ」

<詳しいことはあとで話すわ。…今晩会えないかしら>

 

その声色にアラタは只事じゃない気配を感じる

〝彼女〟が何かをやろうとしているということだけは、なんとなく察した

 

「…わかった。あとで詳細をメールしてくれ。こっちも今用事―――」

「アラタアラタ! 見てあの春上さんの水着! 可愛くない!?」

 

不意に美琴がアラタの腕をくいっくいっと引っ張る

思わず電話を落としそうになりながら、片手で美琴を制止しつつ

 

「あ、ごめん…電話してた?」

「いや、大丈夫だ。…そんなわけで改めてあとでメールくれ。あとでこっちから行く」

<Thanks じゃあまた後で>

 

そう返事して電話を切って、改めて美琴へと視線を向ける

 

「悪かった。で、春上さんの水着がなんだって?」

「ありがと! で、これなんだけど―――」

 

そうしてアラタと美琴が春上へと歩み寄っていく様子を少し離れた位置で初春と佐天が見守っていた

うーん、と首をかしげながら佐天が

 

「なんか今日の御坂さん、テンション高くないです?」

「初春もそう思う? …白井さん、御坂さんなにかいいことでもあったんですか?」

「う、うーん…」

 

二人の後ろで腕を組んでいた黒子は、その佐天の言葉にうーん、と首をひねるだけだった

なにせ自分でもどうしてああなっているのかがわからないのだから、答えようがないのである

 

 

セブンスミストのカフェテラス

時刻はすっかり夕方、そのテラスの一つのテーブルで、一行は座って注文したコーヒーなどを飲んで体を休ませている

 

「…あっ! そういえばここですよ、御坂さんのそっくりさんを見かけたの」

 

なんか不意に佐天がそんなことを言ってきた

 

「…そっくりさん? コイツの?」

 

アラタはコーヒーを一口飲んで、視線を美琴に移しつつ、そんなことを聞いてみる

もしかしたら兄弟姉妹の類はいるのかもしれないが、あいにくと本人からはそんな話なんて聞いていない

 

「あぁ、そういえば昨日電話でしてましたね、そんな話」

「あー、そういやそんなこと話題に出てたな、クローンとかなんとか。…コイツのクローンなんて想像したくもないが」

「あのねぇ!」

「あだっ!」

 

隣の席のアラタの足を美琴は思い切り踏みつける

思わず足を椅子の上に持っていき、靴を脱いでさするアラタを尻目に美琴は頬杖をついて

 

「でも、クローンか…。もし自分のクローンがいたら…佐天さんならどうする?」

「えっ? うーん…そうですねぇ…宿題を手分けしてやるとかかなぁ…」

「部屋に置いておけば、寮監の目を欺くこともできますわね」

「ご飯ふたり分食べれるのー…」

「それいいですね、メニューに迷ったら両方頼めばいいですし!」

「それどっちも半分しか食えないじゃんか」

『はっ!』

 

それぞれが思い思いにそんな想像を話していく

 

「アラタだったらどうするの?」

「あぁ? あいにくとそんな存在はノーサンキューだ。世界に俺は一人でいい。…いきなり目の前にもう一人現れたら現れたで、気持ち悪いだろ」

「もー。夢ないなーアラタさんはー」

「だけど、らしいといえばらしいかも」

 

アラタの夢のない返答に一行はくすくすと笑みをこぼす

数秒のあと、今度はアラタが聞き返した

 

「お前ならどうするんだ。目の前にそんなんが出てきたら」

「私? んー…」

 

そう言って美琴は一度ストローへと口をつけて、中の飲み物を飲んでいく

ごくりと嚥下させやがて彼女は言葉を発した

 

「―――そうねぇ…」

 

そう言って美琴はなんてことのない日常の一言を呟いた

 

◇◇◇

 

そんな他愛のない話を終えて、一行は帰路についている途中だ

 

「はぁ…もう一日も終わりかー。…きっと夏休みもこれくらいあっけなく終わっちゃうんだろうなー」

「世間じゃあもうお盆ですからね」

「あー…もうそんなシーズンか…」

 

佐天のボヤキに初春がそう返事して、アラタが返した

基本的に学園都市にいると世間のそういった催し物などはあんまり意識しなくなる

帰省する人もあまり見ないことも相まってなおさらだ

 

「でもいいじゃない。おかげでみんなでいられるんだから」

「ふふっ、そうですねっ」

 

そう美琴が明るく言葉を発し、佐天がそれに付け足す

そして夕焼けを背に受けて美琴はくるりとみんなの方に顔を向けた

こちらを振り向く美琴の顔は、とても楽しそうで/何かを恐れているような/笑みを浮かべて言葉を続ける

 

「楽しまなきゃ。―――夏はまだまだ、これからなんだから」

 

 

美琴らと別れたあと、アラタは一度荷物を置くために伽藍の洞へと足を運んでいた

カツンカツンと階段を上がっていき、アラタはコンコンを扉をノックする

するとドアの向こうから「はーいっ」という明るく可愛らしい声が聞こえてきた

声を確認するとアラタはガチャリと扉を開けた

 

視界に入ってきたのはソファに座りながらパソコンをいじっているアリステラの姿が見える

キョロキョロと視界を見渡してみるとこの場の主である蒼崎橙子の姿は見当たらない

他にはアリステラの対面の席に横になってスヤスヤと寝ている黒桐鮮花の姿も見える

 

「あれ、ゴウラムや橙子は?」

「ゴウラムちゃんなら下のガレージで寝てて、橙子さんはお仕事です。そして私はお手伝いっ」

 

そう言ってにぱーっと笑みを浮かべるアリステラ

ちょっと前の事件にてアラタに知人のクラスメイトと一緒に助け出された女の子

現在はクラスメイト―――右京翔と平穏な日々を過ごしてはいるが、こうして時たま伽藍の洞にお仕事しに来るのだ

 

「翔は?」

「カケルくんは橙子さんのお仕事のお手伝い行ってます。たまにドライバーが出てくるから、結構働いてると思うよ?」

 

いつの間にか知人が仕事に駆り出されてた

いや、別に問題はないのだけれど

 

「まぁいいや。橙子が戻ってきてからでいいんだけど、俺が来て荷物置いてったってこと、言っといて貰える?」

「いいですよ。これからお出かけなんです?」

「んー…まぁそんなところ。それじゃあよろしく」

 

アラタはカバンを橙子の机に置いて携帯と財布だけをポケットに入れて伽藍の洞を後にする

そして電話の相手にメールを送ると、少しだけアラタは真面目な顔つきになり、人垣の中に消えていった

 

◇◇◇

 

その日、神那賀雫がなんとなく公園を通りがかったのは全くの偶然なのだろう

だからそこで、子供たちと戯れる御坂美琴を見かけたときは、無意識に笑顔を作っていた

神那賀は手をあげながら美琴の方へと駆け寄っていく

 

「あ、神那賀さん」

「やっほー御坂さーん」

 

美琴は一通り子供達と遊んだ後で、ベンチに座って一息ついていたところだった

彼女は今も元気に遊び回る子供達を見守りながらはふぅ、ともう一つ息を吐く

 

「いやー…子供って元気だなー…」

「あはは…私らも十分子供なんだけどネー」

「ははっ、そうなんだよねー」

 

美琴は笑いながら神那賀の言葉にそう返答する

そう言って美琴はなんとなく視線を泳がした

すると激しく動いて熱くなったのか、上に着ていた服を脱いだ女の子が目に入る

その下の上着に―――ゲコ太の缶バッジをしているのを美琴が見逃す訳もなく

 

眼をネコのように一瞬変化させた美琴は一切迷うことのなおい力強い足取りでその女の子のところまで歩み寄る

その間後ろから「み、御坂さん?」とこちらを心配するような神那賀の声が聞こえたが美琴の耳には入ってこなかった

美琴はゲコ太缶バッジをしている女の子の肩に手を置いて言葉を発する

 

「お嬢さん! そのバッジ、どこで手に入れたモノですかっ!?」

「御坂さんそんなキャラだっけ!?」

 

後ろの方でツッこむ神那賀をスルーしつつ

 

 

子供たちを連れてやってきたのは商店街のコンビニ―――の、ガシャポンコーナー

野外に設置されたそれは色々なガシャポンが見受けられるが、美琴が睨んでいるのはただ一つ

それは一回百円のガシャポンで、色々な缶バッジが出てくるのだが、そのリストの中にゲコ太タイプの缶バッジがあるのだ

これは取らない訳にはいかない

 

もしこれが何かしら電子機器を用いているタイプなら思いっきり不正してゲコ太缶バッジを手に入れるのだが、これは硬貨を入れてレバーを回すタイプ

そんな不正は許されない

 

いつ出てくるかはわからない、完全な博打

だが、退くこともできない戦いなのだ

美琴は意を決して百円をガシャポンに突っ込みレバーを回す

出てきたのは全く関係ないキャラの缶バッジ

次、ネクストである

 

二回目にガチャガチャとレバーを回し次のカプセルを取り出す

全く違う缶バッジ

 

そんなわけで延々と百円を投入し続けて回し続けたが―――お目当てのゲコ太缶バッジは手に入れることができなかった

空になるまで回したのに…

ズーンと落ち込む美琴に缶バッジをつけた女の子が

 

「あ、あのよかったら―――」

「そうだ、駅前にもう一個あったよ!」

 

別の女の子が言った言葉に周囲は一瞬固まった

主に驚きで

 

―――移動中

 

 

駅前を歩いていたのは単なる偶然だったのだろう

メールを見て彼女たちが現在いる場所へと向かった所が、たまたま駅前のコンビニが近かったこと

そしてそこは〝博士〟が提供してくれた場所であることも知って、邪魔もないだろうということも予想できた

そこでアラタは晩の十時ごろからその実験を見守り続け、この時間まで一睡もしていない

根性で歩いているが、恐らく寮についたらろくな片付けなく速攻で床につくだろう

…まぁ、まだ戻れないのだけれど

 

とりあえず腹に何か入れるべく駅前のコンビニで何か買おうかな、ついでにタンパク質のある食物でも持って行ってやろう、と通りかかったとき、それを見た

 

子供達に囲まれながら一心不乱にガチャリ続ける常盤台の制服を着た女の子と、その光景を隣で心配そうに見守るロングの女生徒

思いっきり見覚えある

 

「…何してんの? 課金?」

「あっ、アラタさん…。やっほー」

 

アラタの接近に気づいた神那賀は彼を視界に捉えると手を振って挨拶する

そして美琴はまだ回している

お目当てのは出ていないようだ…というか彼女の近くに置いてあるかごを見て内心驚いた

三つのかごにいっぱいまでカプセルがある

 

「…いくら突っ込んだだよ」

「ははは…〝二軒目〟だしねぇ、これ」

「二軒目…!? …一軒目じゃ出なかったのか!?」

「二つのかごいっぱいになるまで回したけどカスリもしなかったよ」

 

彼女のゲコ太に関する情熱を甘く見ていた

…もし学園都市の外に出る用事とかあって、その先でゲコ太グッズ見かけたら買ってあげよう

 

「でたーっ!!」

 

そうしてる内に美琴がとても喜びに満ち満ちた声をあげる

彼女は見事手に入れたゲコ太缶バッジを空に掲げ、とても嬉しそうに顔を綻ばす

 

「おめでとう御坂さんっ」

「課金した甲斐があったな」

「うん! 神那賀さんも付き合わせてごめんねってなんでアンタがここに入んのよ!?」

「ちょっと前に見かけたから気になって来たんだよ。俺が来た時はお前無心で回してたから無理ないかもだけど」

「おねーさん! おめでとーっ!」

「っと、うん! ありがとーっ!」

 

パチパチと周りの子供たちから祝福される美琴はアラタを見てそんなリアクションを取る

子供達の何人かは眼を閉じたうえで頷いているような仕草をしている

子供心にも何かクルものがあったのだろう

 

「あたし袋もらってくるー」

「あ、俺もっ」

 

子供達がコンビニに入って行くのを尻目に、美琴は手に入れた缶バッジを改めて眺める

じーっと眺めている内に、ある一つの疑問が生まれる

 

「…お前それ何に使うんだ?」

 

タイミングよくアラタが自分に向かって言ってきたその言葉に激しく同意する

なにに使えばいいんだ!? これはっ!

子供みたいに服に付けるのは流石にアウト…っていうか黒子に絶対に弄られる、想像すら容易い

 

「カバンとかにつけるならまだいいんじゃないかな?」

 

神那賀が何気なく呟いたその言葉に美琴はハッとする

そうだ、流石に衣服はアウトでもカバンとかならまだギリギリセーフのラインではないだろうかっ

どっちにしても黒子には弄られそうな気もするが服よりはまだマシなはずだ

 

とそこまで思考している内にピピピッとアラームが耳に聞こえてきた

子供達の誰かが持っている門限知らせるアラームかなにかだろうか、と考えてふと景色を見る

すると太陽は沈みつつあり、夕焼けの朱色に変わりつつあったのだ

 

(―――わ、私の一日って…)

 

なんだろう、今日一日を割と雑に過ごした気がする

 

◇◇◇

 

アラタとはその場で別れ、神那賀雫は女の子と手を繋いで前を歩く美琴は同じように子供達を代わる代わる手を繋ぎながら歩いていた

…たまにはこんな風に子供達と遊ぶのも悪くないかも

あすなろ園のときも割と楽しかったし

 

と、そんな時にぽふっ美琴の背中が神那賀にぶつかった

 

「あだっ…? 御坂さん?」

「―――」

 

何やら彼女は呆けているようにぼーっとしており、子供達の声に美琴はようやくハッと我を取り戻した

美琴はすぐに笑顔を作り

 

「な、なんでもないっ! さ、行こう!」

 

 

子供達をバスに送り届けて、お互いに別れの挨拶をして、バスを見送る

子供達を乗せたバスはすぐに視界から見えなくなら、バス停には美琴と神那賀だけが残された

そしてすぐに、美琴はさっき来た方向を見返した

 

「…御坂さん?」

「ごめん、神那賀さん…先帰ってて!」

 

美琴はそう言ってその場から走り出す

 

「えぇ!? ちょ、御坂さんっ!?」

 

流石に唐突過ぎたので思わず神那賀は美琴の後ろを追いかけた

―――同時に、変な胸騒ぎもしたのだが、今はそれは置いておくことにする

 

◇◇◇

 

ありえない

それが美琴が導き出した結論だ

あの研究所で見たことは全て終わっていること

クローンなんているわけない

なのになんで、自分と同じような力を感じたのだろう

妙な胸騒ぎを覚えて、美琴は妙な感覚を感じたところへとひた走る

神那賀には帰ってて、と行っては見たが、後ろを追いかける足音を聞くについてきているようだ

だけど、正直それはありがたかった

もし自分が感じたことが現実なら、一人じゃ受け止め切れる自信がなかったからだ

 

「たしか、この辺りから―――っ!?」

「御坂さんっ、ホントどうし―――え?」

 

それに気づいたのは、ほとんど同時

夕焼けに映る木の陰、その影の近くに、もう一人の人影がある

ゆっくりと視線を上にあげ、その影の主は誰なのかを確かめる

 

〝見慣れたスカート〟

〝見慣れた上着〟

〝見慣れた制服〟―――そして、〝見慣れないゴーグル〟

 

私の目の前に、一体何が写っている?

 

「…う、そ」

 

神那賀の呟きが聞こえる

私も嘘だと信じたい、信じたい―――信じたいのに

そんな美琴の気持ちを知ってか知らずか、目の前にいる〝見慣れた制服〟を着込んだ、〝見慣れないゴーグル〟をしている人物は、こちらに気づいたのかゆっくりとこちらに視線を向けた

 

切り揃えられた髪―――御坂美琴とよく似てる

端正な口元―――御坂美琴によく似てる

目の形…瞳、色彩―――何から何まで、〝御坂美琴〟とそっくりだ

 

唯一の違いが、頭にしているゴーグルだけで、それ以外は、〝そっくりだ〟

今…私は何を見ているんだろう

搾り出すように、美琴は震える唇で言葉を発した

 

「―――あ―――アンタ―――」

 

この邂逅が、これから巻き起こる悲劇の引き金だということを―――今はまだ、誰も知らない


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