全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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後半はプチオリ展開(
流れは変えることはないですが




#23 オリジナル 後編

一七七支部にて

すっかり日も落ち、当たりには街を照らす街灯が光り、夜の街を照らし出している

余談だが、流石にツルギはもう帰らせた

ここから風紀委員のお仕事なので、これ以上一般人の彼に協力してもらうわけにはいかないのだ

 

今現在は買い出しに出かけている固法を待ちつつ、集計している初春にアラタはコーヒーを持っていってる最中である

ちなみに戻った時は黒子もここにいたのだが、直後に美琴から電話がかかってきたらしく、そのまま空間移動(テレポート)で帰ってしまった

何があったのだろうか

 

「ほら飾利、コーヒー」

「あ、ありがとうございます」

 

アラタから差し出されたカップを彼女は受け取って、初春は一息つく

ふー、と軽く息を吹きかけて熱いコーヒーを覚ましながらくぴー、と一口

こくり、こくりとコーヒーを嚥下させ、はふぅと気分を落ち着ける

 

「終わりそうか?」

「はい、もうほとんど終わってます」

「さっすが。仕事が早いな」

「えへへ。それほどでも」

 

にへら、と笑みを浮かべながら頬を染める初春

戦闘が苦手で後方支援メインの彼女ではあるが、コンピュータで彼女に叶うやつはいないだろう

もしかしたらいるのかもしれないが、少なくとも彼女以外をアラタは知らない

 

「それにしても、このマネーカード本当になんなんでしょうねぇ」

「さぁな。そればっかりはなんとも」

「本当にお金が入ってる点でも謎ですし…バラまいてる人は大金持ちかなんかなんでしょうか」

「だとしたらだいぶもったいないことしてるな」

「本当ですよ全く」

 

などとしょうもない会話をしていると、出入り口ががちゃりと開き、誰かが歩いてくる足音が聞こえる

誰か、とは言わずもがな固法であるが

 

「あ、おかえりなさーい」

「戻ったか、固法」

 

コンビニ袋片手に固法はカツカツとこちらに歩み寄りながら

 

「ただいま。集計は済んでる? 初春さん」

「はい。えっと…今日の合計は…七十三件です」

 

からから、と椅子を動かしながら画面を覗いた初春は数を報告する

アラタも改めて画面を覗き込みながら

 

「しかし、比べてみると日に日に増えてんのな、これ」

「それだけ浸透してるってことね。…あれ、白井さんは?」

「アイツなら急用っつってんで先に帰ったぞ。美琴絡みだとは思うけど」

「ふぅん?」

 

そうやり取りしたあたりで、初春の携帯がピリリと鳴り始めた

 

「あ、電話…」

「…ちょうどいいか。そろそろ飯にしよう。飾利も電話済ましちゃえ」

「わかりました、アラタさんと固法先輩は先に食べててください」

「あいよ。…ってなわけで固法、夕飯にしよう」

「そうね。―――ごっはんー♫ ごっはんー♫」

 

そんな変な歌を口ずさみつつ、固法は持参している弁当箱を用意しながら、先ほど購入してきたコンビニ袋からムサシノ牛乳を取り出す

アラタも事前にコンビニで購入していた惣菜パンをカバンから取り出しながら同じく事前購入していた飲み物を冷蔵庫から取り出す

 

少し離れたところから初春の話し声が聞こえてくる

声色の砕け具合から察するに、電話の相手は佐天と見ていいだろう

 

「え? 佐天さんもマネーカード拾ったんですか? ―――わかりました、じゃあ明日にでも。あ、それとなんですけど私帰るまで時間かかっちゃうので、よかったら春上さんと一緒に過ごしてもらえると―――。…え? 御坂さんですか? はい、昼間は白井さんと一緒にマネーカード届けにいましたけど…同じ時間にアラタさんもいますから。―――どうかしたんですか? はい、お願いしますー」

 

◇◇◇

 

電話を終えて初春も夕飯に合流し、もくもく食べている時である

 

「…美琴のそっくりさんー?」

「はい。なんか佐天さんが見たらしくって」

「勘弁してくれよ、一人でも手一杯だってのに、アイツが二人もいたら過労死しちまうよ」

 

なんて呟きを固法はジトーっと、初春は苦笑いと共にアラタを見つめる

アラタは雰囲気を変えるように、ワザとらしくん、んん! なんて咳払いをする

圧倒的に手遅れ

ふぅ、とため息とともに固法が弁当の卵焼きを食べたとき、ふと思い出したように言葉を紡ぐ

 

「そういえば、昔、超能力者(レベル5)のクローン、なんて噂、あったわね」

「…クローン?」

「クローンって、あのクローンですか?」

 

アラタと初春の言葉に固法はきんぴらごぼうをもむもむしながら頷いて、それを飲み込んだあと

 

「どこかの研究機関が、その技術を用いて超能力者(レベル5)を量産しようとしている…みたいな話なんだけど」

「学園都市らしいっちゃらしいが、はっきり言って夢物語に近いな。そう簡単にそんなクローン出来てたまるかだぜ」

「ですけど、佐天さんが食いつきそうな話ですね」

「ふふっ。そうね」

「我先に、って食らいつくだろうな」

 

そして三人はくすり、と笑い合う

こことは違うどこかの寮にて、くしゅんとくしゃみをする黒髪ストレートの女の子がいたとか、いないとか

 

◇◇◇

 

常盤台中学女子寮

廊下をカツカツと歩く女性が一人

彼女はこの寮の寮監である

領内での能力使用は基本的に厳禁―――破った者には恐ろしい罰があるとかないとか

ともかく、この女子寮にてとても恐れられている人物なのは間違いないだろう

 

定期的な見回りの時間帯、次の部屋は白井と御坂の部屋である

扉の前に立ち、彼女はツーノック、すぐに向こうからの返事が返ってくる

 

「はーい」

 

返ってきたのは白井の声だ

声のあとでがちゃりと扉が開け放たれ、そこには笑顔の白井がいる

 

「こんばんわですの寮監さま。見回りご苦労様です」

「うむ。…うむ?」

 

部屋を見渡して感じる違和感…その正体にはすぐに気づいた

同居しているはずの御坂の姿が見えないのだ

シャワーでも浴びているのだろうか

 

「おい、御坂は―――」

 

問いかけようとした時だ

 

「ちょっと黒子ー? シャンプーが切れてるわよー?」

 

推測通り、シャワールームからそう声が聞こえた

それに答えるように白井は「はーい!」と短く返事をしたあと

 

「もうお姉様ったら。それでは寮監さま、申し訳ございません」

 

そう答えて黒子はシャワールームへと駆け足で向かっていく

入った後も「黒子ー早くしてよー」「はいはい」などといった掛け合いが聞こえているあたり、御坂もシャワールームにいるのだろう

そう結論づけて寮官は次の部屋へと向かうべく、白井と御坂の部屋を後にした

 

 

足音が遠ざかっていくのを扉越しに聞き届けながら、白井黒子はシャワールームを後にする

彼女が手に持っているのはボイスレコーダーだ

 

<黒子ー…て、何入ってんの―――>

 

ぽちり、と電源をオフにして再生されていた美琴の声を止める

寮官に部屋に入られた時点では電源をオフにしたままで、後ろ手に忍ばせていたのだが、美琴のことに触れるやいなや電源をオン、そしてそれをシャワールームへと空間移動させたのだ

 

一通り偽装工作も終わり、はふぅ、と黒子は息をつく

 

「全くお姉様も。門限までには帰れないから、寮監の目をごまかしておいて、だなんて。黒子秘蔵のお姉様ボイスコレクションがなければどうなっていたことやら」

 

本人がここにいればいつ録ったのかとドつかれそうな気はするが

 

「ですけど、こういうのも久しぶりですわね。…昔は結構ありましたけど」

 

ボイスレコーダーをしまいながら黒子はなんとなく窓の外を見やった

そしてまだ帰ってこない彼女を心配しつつ、呟く

 

「…お姉様…」

 

◇◇◇

 

件の連中を追いかけてたどり着いた建物は廃墟みたいなものだった

しかし三階のところは電気が付いており、誰かが居るのが見て分かる

窓ガラスは変に割れてはいるが

 

美琴と神那賀が一定距離を保ちながら連中を追いかけた

 

 

出入り口付近にいるパンチパーマの男性が部屋の中を見る

散らかった部屋の中に白衣を着た女性が一人、背を向けて何かの作業をしている

片付けでもしているのだろうか

出入り口付近のパンチパーマが合図をして、一行は部屋の内部へと入っていく

 

「はぁーい! ちょっとお邪魔しますよー?」

 

パンチパーマがそう声を上げながら、ぞろぞろと部屋の中に入っていく

彼の後ろをついてくるのは白いバンダナの男性に、黒バンダナの男性、そしてリーダー格の男だ

それぞれが下卑た笑みを浮かべつつ近づいていく

それに対して白衣の女性はちらりと視線を向けるだけだ

 

「大人しくしてれば乱暴はしないぜぇ」

「―――何か用かしら」

 

パンチパーマの言葉に白衣の女性は短く返す

さして興味なさそうな声だ

リーダー格の男は

 

「いや何。お前さんがバラまいてる例のマネーカード。…俺たちがまとめてもらってやろうと思ってな?」

「…」

 

白衣の女性はひとつだけ息を吐くと、おもむろに持っていたカバンへと手を突っ込み―――

 

「おっと!? 防犯ブザーかなんか鳴らされても困るからなぁ。俺たちでチェックさせてもらうぜぇ」

 

パンチパーマの男が視線を仲間たちの方へを向ける

彼の仲間たちがそれぞれ彼女のカバンをあさり、黒バンダナの男性が彼女が先ほどまで来ていた白衣をまさぐる

 

「…なんだ、二枚しかねーじゃねーか」

「はぁ!?」

「こっちの白衣にもなんもねーぞ。…たく、わざわざ来てこんだけしかねーんじゃ、話になんねぇぞ」

 

黒バンダナの男が毒づくとリーダー格が女を睨む

 

「…おい、あんま女に手ぇあげんの趣味じゃねぇんだけど、とっとと」

「ここにはないわ」

「―――何?」

 

リーダー格の男の言葉を遮り、女が言った

 

「equal 手持ちはこれだけよ」

「おいおい! そんなわけねーだろ! …ってかお前、こんな状況なのに随分落ち着いてんじゃねーか…」

 

拘束していたパンチパーマがそう呟いた時だった

自分たちが入ってきたところから、別の足音が響いてくるのが聞こえてきたのだ

リーダー格がパンチパーマに聞く

 

「…一人だけじゃなかったのか!?」

「わ、わかんねぇよ! けど、出入りしてたのはこの女だけだったから…!」

「―――起きたのね」

 

女が呟く

 

 

その足音は息を潜めていた美琴と神那賀にもちゃんと聞こえていた

思わずどこかに身を隠そうとするが、隠れそうなものなど見当たらない、仕方なく影が濃いところに移動して、二人はできる限りで気配を殺し、さらに彼らを見守った

 

 

入ってきたのは十四、あるいは十五くらいの男性だった

半袖のワイシャツに、どこにでも売ってそうな黒いズボン…そして腰に装着されてあるように見える、変なベルト

寝ぼけ眼で目をこすりながら入ってきた男は、こちらを見やる

 

「…砥信、誰、そいつら」

「おいお前! 誰だか知んねぇけど、この女の仲間か! そこで大人しくしてねぇと―――」

「…うん。もうわかった。〝敵〟なんだね、そいつらは」

 

無感情な声色で、彼はそう呟いた

砥信と呼ばれた女性は唐突に口を開く

 

「命が惜しいなら、逃げた方がいいわよ。貴方たち」

「あ!? 一体何を…」

「or else ―――死ぬわよ」

 

砥信がそう呟いたのと

 

―――OMEGA―――

「―――〝アマゾン〟」

 

彼が口にしたのは同時だった

 

 

部屋全体に強い衝撃が巻き起こる

遠目で見ていた美琴と神那賀にもその衝撃は強く襲ってくる衝撃を両手で庇ったのち、もう一度あの部屋を見てみる

変化はどこにあったのか

女性は変わらず、連中の場所も変わってない

唯一変化があったのは、入ってきた男性の方

彼がいたところには、緑色をメインカラーとした―――仮面ライダーの姿があった

 

「神那賀さん、あれ…!」

「―――嘘、仮面ライダー…!?」

 

だけどあんなライダーは見たことがない

ていうか、あれは仮面ライダー、なのだろうか

 

 

姿を変えた衝撃で、パンチパーマは拘束を解いてしまった

解かれた女性はゆったりと緑のライダーへ歩み寄りながら彼の隣に立つ

そしてまるで案じるように、彼女は言葉を口にした

 

「…逃げないの?」

 

その何気ない一言が癪に触ったのか、リーダー格はギリリ、と歯を食いしばる

本人に特にその気はないのだろうが、見下されているように感じたのだ

 

「―――舐めんじゃねぇぞ! クソがぁぁ! おい、テメェら! 構わねぇヤッちまえ!」

 

リーダー格はそう言いながら、たまたま自分の近くに落ちていた鉄パイプを握り締め、緑のライダーへと振りかぶる

叫んだリーダー格に釣られて、ほかのメンバーもそれぞれ近くにあった折れた木材や蛍光灯を握り締め、同じように振りかぶった

が、結果は明白

手に持つ武器は容易く砕け、リーダー格が持っていた鉄パイプもあっさりと折れ曲がった

攻撃を仕掛けた緑のライダーから返ってくるのは無感情な赤い複眼

それがさらにリーダー格の男を刺激する

 

「―――んこなクソォォォ!!」

 

ほとんど衝動のままに今度は女性へとその折れ曲がった鉄パイプを振りかぶった

対する女性は全く動かず、さらにそれより先に緑のライダーが動いた

真っ直ぐ突き出しただけであるその手は、リーダー格の頬を掠める

掠めた頬から、赤いどろりとした何かが垂れていくのを感じる

 

―――Violent Punish―――

 

無機質な音声が聞こえ、緑のライダーは今度こそ己の命を刈り取ろうと―――

 

「待ちなさい」

 

声が入った

その声に室内の全員が出入り口を振り向く

そこにいたのは御坂美琴と神那賀雫の二人だ

神那賀のほうはバースドライバーを巻きつけており、いつでもその姿を変える準備を整えたままで

 

「…もう十分よ。殺す必要なんてないわ」

「ほら、あんたたちもとっとと逃げなさい。これ以上ここに留まってるなら、本気でヤバイわよ」

 

美琴と神那賀によりそう言葉を告げられて、感情が爆発したのか、はたまた我慢の限界だったのか、リーダー格含めて一斉に皆が出入り口に向かって走り出す

恐らくはもう来ないだろうが…と、考えていたとき、緑のライダーが御坂と神那賀に向けてその手を構える

 

「…お前らも仲間か。もしそうならぼくが―――」

「いいえ、仲間じゃないわ。…まぁここに来るのにさっきの連中の後をつけてたのは事実だけど…」

「私らは、このマネーカードをバラまいてる方に、個人的に興味があってここに来たの。…って、うん?」

 

緑のライダーの言葉を受けて、神那賀と美琴はそう弁解していく

そんな言葉を話しているとき、ふと美琴は女性の視線がずっと自分に向けられていることに気がついた

ジトーっと言う視線はさらに細くなり、静かに自分を見据えるその姿に、美琴は僅かに汗を垂らす

僅かに押し黙った美琴に代わり、神那賀が女性に向かって問いかけた

 

「…えっと、彼女が、なにか?」

「―――貴女」

 

―――オリジナルね

 

興味本位でここに来た、はずだったのに

ここでの出会いは、自分がいずれ知る真実のプロローグに過ぎなかった―――


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