全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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この時点で一万超えそうなので分割します
相変わらずのクオリティで申し訳ない

一応確認はしましたが、誤字脱字見かけましたら遠慮なく指摘していただいて結構です
多分あると思うので(自分に自信持てないニキ

FGOでまさかキアラが来るとは思わなんだ
メルトに全力ぶっ込んだのでキアラさんはフレンドさんだよりかなぁ
CCCイベントは最高でした、あれはメルトヒロインですわ

ではどうぞ


#23 オリジナル 前編

幼い頃の記憶だった

どこの研究施設か、それとも病院だったのか、自分がいた場所がどこかは思い出せないではいたが、はっきりと覚えているのは、ガラス越し映っている男性患者だった

彼は自分の左右にある手すりを掴んで、懸命に歩こうとしている

しかしそれはどこかおぼつかなく、一歩踏み出すだけでもかなりの時間を有していた

 

「あの人、何をしてるの?」

「彼はね、筋ジストロフィーという病気なんだよ」

「きんじす?」

 

幼い御坂美琴は、なんとなくそう聞き返す

それはどんなものかを聞こうとしたとき、ガラスの向こうで人が倒れる音を耳にした

目を向けるとそこには先ほどの男性患者が地面に倒れ付している

 

「筋力が、少しづつ低下していく病気だよ。彼はそんな、理不尽な病気を背負って生まれてきたんだ」

 

言葉の途中でも、男性患者は手すりを必死に掴み、力の限り立ち上がる

地面には夥しい汗が滴り落ち、今も彼の額を伝いさらに地面に落ちていく

歯を食いしばりながら、体を立たせようと手すりを持つ手に力を込めた

 

「彼はその病を克服するために、ああやって戦っているんだ」

 

病を克服する、ということはいつか彼の病気は治るのだろうか

今を乗り切ることができれば、あの人も太陽の下をまた走れるようになるんだ

そんな想像をして、幼い美琴は男性に笑顔を見せた

しかし幼い美琴の内心とは裏腹に、男性は残酷な事実を告げる

 

「だが、彼の病気は治らない」

「―――え?」

「現在の医学では、根本的な治療法はないんだ。彼の筋力は低下を続け、いずれは立ち上がることすらもできなくなる。…そして、最後には…」

 

最悪の想像をしてしまい、幼い美琴は涙を浮かべた

どうあってもあの人を助けることはできないの…?

そう思った幼い美琴に希望を与えるかのごとく、男性は言葉を発した

 

「けど、それは今現在の話なんだ」

「…そうなの?」

「あぁ。君の能力を使えば、彼や、同じ筋ジストロフィーの病気にかかった人たちを助けることが出来るかもしれないんだ」

 

そう言って男性は―――どこか歪な―――優しい笑みを幼い美琴に向ける

そして続けた

 

「君のDMAマップを、提供してくれないだろうか?」

 

そう言われて、改めて幼い美琴はガラスの向こうでリハビリをしている患者たちを見る

そこには先ほどの患者の他にも、同じような症状の患者が何人かリハビリをしているのが見えてくる

自分のDNAが、ああいった人たちを助けることが出来るのなら

治せない病気を、治せる病気に出来るなら

だから、幼い美琴は満面の笑顔を浮かべて

 

「うん!」

「…ありがとう」

 

幼い美琴の言葉に、男性は短い感謝を述べて、彼女に手を差し伸べる

彼女は差し伸べられた手に、幼い美琴は手を伸ばした

 

そして、少し離れた所で、それを見る一人の女性の視線が向けられていた―――

 

◇◇◇

 

「っ!」

 

ふと、目が覚めた

常盤台女子寮の自室のベッドで、御坂美琴は目が覚めた

窓から差し込む日差しに、美琴は抱き枕代わりのキルグマーの人形を抱き抱え

 

(なんであんな昔の夢…。あ、そっか…枝先さんのお見舞いに行って…)

 

そこまで考えて、自分に触れる妙な感触に美琴は違和感を持った

わきわきと触られるお腹の感触に、美琴は一瞬ゾクリとした

誰かが自分のベッドに潜り込んでいるのだ

誰か、の正体は分かりきっているのだが

 

「な、に、してんのよーっ!」

「おっふっ!?」

 

とりあえずゲンコツをカマしておくことにした

 

◇◇◇

 

「カ・ガーミン! 宝探しをしようじゃないか!」

 

唐突に自分の部屋に飛び込んできた神代ツルギは、そんなことを言ってきた

休日である今日、これから朝ごはんでも食べたあとは橙子のところにでも顔を出そうかな、って考えた矢先の出来事である

 

「…宝探しって何さ。なんかそういうイベントでもあるのか?」

「いや何。そういうわけではない。探すものはこれだからな」

 

そう言ってツルギは懐から一枚のカードを取り出した

アラタはそれを受け取って、さまざまな角度から観察してみる

 

「…マネーカード?」

「そう。最近この七学区のあちこちにコイツが封筒で入れられてるのを拾った、という噂がSNSで広がっていてな。何やら怪しい匂いがすると思わないかカ・ガーミン」

「…確かに妙な感じはするけど…誰かがイタズラで置いてるだけなんじゃないか?」

「俺も最初はその線を疑った…が、なんとこのマネーカード、〝本物〟なのだ」

「! マジで金入ってるのか!?」

「そのようだ。少ないものなら千円、一番多いので五万円。…イタズラにしては額が大きすぎると思ってな」

 

ツルギに言われてふぅむ、と考える

口コミとかで広まっていると聞いたが、あんまり耳には入ってこなかった情報だ

今のとこ金銭面での問題はないのであまり興味はないが、確かに少々気にはなる

 

「よし、とりあえずこのカードもってって、固法に報告してみよう。もしかしたらもう行ってるかもだけど」

「お、クォ・ノーリのところに行くのだな。無論、俺も行くぞ。その道中、ついでにカードも探してみようではないか」

「面倒くさいから却下。とりあえずこれを巡ってのトラブルは起きてないっぽいから、一旦は放置しておくよ」

 

あからさまにショボーンとしているツルギと一緒にアラタは男子寮の自分の部屋を出る

しかし、あちこち、というとスキルアウトの根城とかにもあったりするのだろうか

問題はまだ起きてはないが、時間の問題かもしれない

二人は改めて支部へと歩き出した

それからも道を歩いてく際に、路地裏から出てくる人を何人か見かけた

 

 

「誰かいるかー?」

「クォ・ノーリ! 俺だ!」

 

軽くノックしてから入った後にアラタはそう言いながら扉を開ける

するとパソコンに向かっていた初春と、その近くの席に座っていた黒子、そしてその近くに立っていた美琴が一斉にこちらを向いた

 

「まぁ、お兄様。いかがされましたの?」

「いや何。実は―――」

「こんなものを拾ったのだ、スィ・ライン」

 

アラタの言葉を遮り、ツルギがずいっと前に出て黒子に先ほどのカードを差し出した

ツルギから受け取ったカードを見て、マネーカードとわかると黒子は

 

「…神代さんも、このカードを拾いましたの?」

「? 神代さん〝も〟とはどういうことだ?」

 

ツルギの言葉に答えるように初春が

 

「実はここ数日、第七学区のあちこちでマネーカードを拾った、っていう報告を聞いているんです。…今五十六件…あ、また増えた」

「そんなにあるのか」

「実際には報告されていない件もあるみたいですから、もっと」

「…それでいて、これ全部本物って聞いたんだが」

「えぇ、届けられたカードは全部本物よ」

 

奥の方から一人の女の人の声が聞こえてきた

彼女はミニパックのムサシノ牛乳を持ちながら、こちらの方へと歩いてくる

固法美偉

学年的には同学年だが、風紀委員的には先輩に当たる、ナイスバディなメガネ美人である

 

「…けど、なんでこういうのがあんのに、報告とかないんだ?」

「貨幣を故意に遺棄したり破損させるのは禁止ですけど、マネーカードは対象外なんです」

 

初春の言葉にツルギと二人してアラタはなるほど、と頷いた

…しかしそれでも中に入っているのは本物なのだから問題が起きそうなものだが

 

「カードの金額はマチマチで、決まって人多りの少ないところに置かれているの。同じ封筒に入れられて、ね」

「なるほど。誰かの故意である可能性が高いわけだな」

 

ツルギはマネーカードを見ながらそう呟いた

十中八九そう考えて間違いはないだろう

 

「…指紋とかはこれらから検出されたのか?」

「いいえ。残念ながら」

 

そう答えながら固法は手に持つムサシノ牛乳を飲み始める

こくり、こくりと何度か喉を鳴らし嚥下した後で

 

「用意周到なのか、カードにも封筒にも、指紋残してないのよね」

「だけど、もう噂は結構広まってるっぽいぞ。ツルギなんか堂々と宝探ししようぜなノリで俺の寮来たんだから」

「ちょカ・ガーミンそれは」

「―――あなたねぇ…」

 

メガネをきらりと光らせて固法はツルギに詰め寄った

静かに怒られているツルギを眺めつつ苦笑いしながら初春は言葉を続ける

 

「けど、宝探し感覚で裏路地を彷徨いている人たちがいるのは確かです。他にも、カードを奪い合ったり、スキルアウトの縄張りに入って絡まれたりで…」

 

「放っておくわけには…」

「えぇ。いけませんわね。お姉様、残念ですが、デートはまたの機会に―――」

「ううん。私、一人で行ってくるから気にしないで」

「…へ?」

 

笑顔でそう黒子に言ったあと、美琴は出口へと歩いていきこっちに向けて笑みを浮かべて

 

「それじゃあ頑張ってねっ」

 

美琴はそうこちらを激励しつつ、扉をがちゃりと閉めてその場から歩いて行った

支部に残っているのは、怒られているツルギと、怒っている固法

そして初春、黒子、アラタである

 

「…そういえばお前と美琴はなんでここに?」

「いえ、お姉様とお出かけしてて、近道として路地を通ったら神代さんが拾ったと言われるカードをわたくしたちも拾いまして…報告がてら来たのですけど…お姉様…それはそれで寂しいですの…」

 

だいたいこっちと一緒だった

黒子は若干涙目になりつつ、自分の指と指をつんつんしている

 

「…飾利、とりあえずなんか情報をくれ。黒子と一緒に回っていく」

「はい。それではアラタさんたちは、ここからお願いしますねっ」

 

携帯端末で送られた情報を見て、場所を確認する

移動に関しては黒子の空間移動があれば、まぁ問題はないだろう

 

「…おら、黒子行くぞ」

「―――はっ! お、お待ちくださいお兄様っ!」

 

―――いや、これは…これで

 

そんなことを思う白井黒子なのでした

 

◇◇◇

 

黒子と別れた美琴は背伸びをしながら道を歩いていた

別段一緒にいても問題はないのだが、一応自分は一般人なわけだし、あの程度なら自分がいなくても大丈夫だろう

アラタもいるわけだし

 

と、そんなことを考えながら歩いていると路地から出てきた他校の女子生徒とぶつかってしまった

 

「わわ!? ごめんなさいっ!」

「い、いいえ、別に」

 

すかさず謝られたが特に気にしてない美琴はそう返す

すると路地からもう一人女子生徒が歩いてくる

さっきぶつかった女子生徒と同じ制服を着ているので、恐らくは同級生だろう

 

「あーあ。ここにはないみたいねー」

「そっかぁ…残念」

 

改めて先ほどの女子生徒はこちらに「ごめんなさい」と礼をしたのち、もう一人の女子生徒と一緒に歩きだした

 

「やっぱりあの話ただの噂なんじゃないの?」

「えー、でもでも、B組のりっちゃんは拾ったって」

「えっ、そうなの―――」

 

そんな話を聞きながら美琴は彼女たちをなんとなく見送る

 

「噂かぁ…私そっち系は疎いもんなぁ」

「あ、御坂さん」

 

そう呟いて歩き出そうとしたそのとき、目の前から声が聞こえてくる

視線を前に向けるとそこにいたのはこちらに手を振りながら走ってくる神那賀雫の姿だった

 

「神那賀さん」

「偶然だね。どこか行く予定だったの? それとも帰り?」

「ううん、これからだよ。よかったら神那賀さんも一緒に行く?」

「え、いいの?」

「もちろん」

 

そんな会話を交わして、今度は二人で歩き出す

他愛のない雑談をしながら、いつしか話題はマネーカードの話となった

 

「そういえば御坂さんは知ってる?」

「え、何を?」

「マネーカード。この第七学区にばらまかれてるって噂の」

「あぁその話? うん、詳しくは知らないけど」

「変な事する人もいるんだねぇ。もったいないって思わないのかな」

「ははっ。本当にね…ん?」

 

不意に美琴が前方へと視線を向けた

釣られて神那賀も視線を向けると、そこには路地から出てくる女性の姿が見えた

しかし路地から出てくるとき、何故か四つん這いの状態で、一番最初に目に入ってきたのはその人のお尻だったのだが

やがて体全体がでてきて、顔も見えるところまで出てくる

その人物は、自分たちの友達、佐天涙子その人だった

 

何やら彼女はくんくん鼻を効かせながら何かを探しているように見える

辺りを探し回ってふむぅ、という様子で顎に手をやって

 

「…この辺にはもうないのかなー…」

「あの、佐天さん?」

「何やってるの…?」

 

ふたりの声に気がついた佐天はこちらをくるりと向けると、笑顔を浮かべて

 

「あ! 御坂さんに神那賀さんっ」

 

佐天は立ち上がってこちらに歩きながら

 

「もー。さっきはどうしたんですか御坂さん。黙って行っちゃって」

「え?」

「とぼけないでくださいよ。御坂さんさっきセブンスミストの前歩いてたじゃないですか。声かけたのに全力でスルーして」

 

…佐天の話についていけてない

さっき? 先ほどは一七七支部にいたと思ったのだけど

 

「―――多分、それ私じゃないと思うけど」

「え? でもあの制服は常盤台のだったような…」

「私、黒子やアラタたちと一緒にいたし…」

「…じゃあ、違ったのかな…」

 

ふむぅと言うふうに佐天は腕を組んで考える

そんな佐天に神那賀が問いかけた

 

「そういえば佐天さんはどうしてここに? 噂のマネーカード探しとか?」

「! わかります!? へっへーん…じゃーんっ!」

 

そう佐天は笑いながらごそごそとポケットから合計五枚ほどの封筒を取り出した

恐らく中身は全部マネーカードなんだろう

 

「…これは凄い」

「こんなに見つけてるなんて…」

 

彼女がこれらを探すのに費やした時間はわからないが、それでも五枚も回収するのは素直に凄い

 

「なんか私、こういうのに鼻が効くみたいなんですよねー。…くんくん」

 

言いながらも佐天は目を閉じてくんくんと匂いを嗅ぐように鼻を鳴らす

ひとしきり匂いを嗅いだ彼女はカッと目を見開かせ、神那賀と美琴の手を掴み走り出す

 

「次はあっちに行ってみましょーっ!」

「えぇ!? あ、あたしたちも!?」

「いいからいいから!」

 

楽しそうな笑顔を振りまく佐天に美琴と神那賀もお互いに苦笑いを浮かべて、引っ張られるままに彼女のマネーカード探索に付き合うことにした

 

◇◇◇

 

一方で黒子と一緒に飛んで置いてあるであろう箇所を回っているアラタ(+ツルギ)

何件か案の定スキルアウトの縄張りに潜り込んで絡まれているのを発見し、それらを取り締まっていたのだ

 

「お兄様方、もう一件見つけましたわ」

「了解だ」

「退屈しない都市(まち)ではあるがな」

 

まずアラタとツルギが地面に着地し、黒子がスキルアウトの連中に胸ぐらを掴まれている一般の学生を救出する

そしてアラタが腕に付けてある腕章を見せつけようとして

 

「やべぇ! 風紀委員だ!」

「気にすんな、俺たちには〝これ〟がある…」

 

そう言いながら二人の男子が取り出したのは、USBメモリ―――ガイアメモリだ

それぞれSとAと文字が書かれてある

ほかのメンバーもメモリを持ってる人たちを信じているのか、ニタニタと笑っているだけだ

メモリを見たアラタとツルギが互いに顔を見合わせて、ため息をつく

 

「黒子、一般の人連れて警備員に連絡入れといてくれ」

「分かりましたわ。お兄様も…あと、神代さんもお気をつけて」

 

そう言って黒子は空間移動を使いこの場から消える

その場に残されたのは、メモリを持ってる二人と、彼らの部下のメンバー

そしてアラタとツルギの二人だ

 

「行くぜ、ツルギ」

「おうとも、お前こそ、準備はいいな? カ・ガーミン」

「問題ない」

 

<STANDBY>

 

ツルギがサソードヤイバーを取り出すと同時、地面からボゴンと紫色のサソリが這い出てきた

連中はそれに意を介さず、メモリのスイッチを起動させる

 

<SWEETS><APE>

 

電子音声のあと二人の男は手のひらにそれらのメモリを差し込み、その姿をスイーツドーパント、エイプドーパントへと変化させていく

ツルギとアラタはその変化を改めて確認すると、アラタは腹部の下あたりに手をかざしアークルを顕現させ、ツルギは自分の方に飛んできた紫色のサソリ―――サソードゼクターをキャッチした

 

アラタはそのまま右手を斜め左につき出し、左手をアークル右側へと持っていき、開くように左右を移動させながら身を変える言葉を口にする

 

「変身!」

 

同様にツルギもゼクターをサソードヤイバーにセットし、彼も身を変える言葉を叫んだ

 

「―――変身!」

 

<HENSHIN>

 

彼らの言葉と同時に、二人もまたその体を変化させていく

一人は赤い鎧と赤い複眼、そして二本の角を持つ、戦士へと

一人はチューブ状の触手で覆われたような形状の外観の、剣の戦士へと

 

クウガ、サソードマスクドフォーム

 

それが今の彼らの名前である

 

「行くぞ、ツルギ!」

「あぁ!」

 

互いに声をかけ、サソードマスクドはスイーツドーパントへ、クウガはエイプドーパントへとそれぞれ駆け出した

 

 

スイーツドーパントはクリームのようなものを飛ばしこちらに攻撃してくる

飛んできたそれらを回避、あるいはサソードヤイバーで切り捨ててつつ、サソードマスクドは一気に接近して二度、三度と斬りつけた

 

どうやら手に入れたはいいが、相手は自身の力の特性をよく把握していないみたいだ

畳み掛けて速攻で倒してしまおう

と、一瞬思考に埋没している内に相手の放ってきたクリームの塊を胴体にもらってしまった

それらは少しづつ固まっていき、こっちの動きが鈍くなっていく

 

「…なるほど、拘束もできるようだな…! ならば!」

 

サソードマスクドはヤイバーにセットしてあるゼクターの尾を押し込む

するとサソードに装着してあるマスクドの鎧が浮き上がり、少しづつパージされていく

それらの鎧が完全に外れたとき、サソードは呟く

 

「キャストオフ」

<CAST OFF>

 

言葉と共に電子音声が鳴り響き、それらの鎧が弾けとんだ

同時に拘束されかけていたクリームの塊も吹っ飛び、そこには身軽な、サソリのような紫色のライダーが残る

 

<Change Scorpion>

 

その電子音声とともに、緑色の複眼が発光する

 

「ぐ、ちくしょうっ!」

 

焦り、そして怒りながら目の前のスイーツはクリームの塊を乱射してくる

だがサソードはそれらを避けつつ、腰に手を添えて

 

「悪いな、もう構ってはいられない。―――ライダースラッシュ」

 

サソードは先ほど差し込んだゼクターの尾を一度抜いたあと、もう一度押し込んだ

バヂリとゼクターからエネルギーが迸り再び電子音声が鳴る

 

<Rider Slash>

 

サソードはヤイバーを構え直し、そのままスイーツへと走り出す

それに乗ったのか、スイーツも拳を構えてこちらに向かって駆け出してくる

向かってくるのなら、斬り捨てるだけだ

 

走りながらサソードはそのままヤイバーを振り抜き、スイーツの胴体を一閃し、そのまま斬り抜ける

 

「が、ぁぁぁぁあぁぁっ!?」

 

後ろで爆散するのを感じながら、サソードは変身を解き倒れているスキルアウトの男の方に向かっていく

気絶している男の近くにあるのは、ガイアメモリだ

ツルギはそれを手に取って軽く上に放り投げる

そのまま持っているヤイバーでガイアメモリを叩き切って破壊した

 

 

一方でクウガとエイプドーパントの戦い

両者は互いににらみ合いながら、ゆっくりと歩きながら間合いを取りつつ構えを取る

先に動いたのはエイプの方だ

猿のような瞬発力から繰り出される拳撃をいなしながら、クウガはカウンターで腹部に一撃を叩き込む

一瞬のけぞったが、エイプはそのまま強引に態勢を立て直し、今度は顔面に向かって廻し蹴りを放った

動きからそれを読んでいたクウガはしゃがんでその蹴りを回避しつつ、その場で回転し、足を払う

足を払われてバランスを崩したエイプに向かって、もう一発拳を打ちつけて吹っ飛ばした

 

「ごがぁぁぁ!?」

 

周囲にいた彼の手下たちが左右へと逃げ、エイプはそのまま壁へと叩きつけられた

 

背中をさすりながら、エイプはクウガを睨みつけギリリ、と歯ぎしりのような音を鳴らす

 

「―――っクソがァァァァァ!」

 

叫びながら、エイプはその場で勢いよく跳躍し、天高く舞い上がる

そのまま手頃な壁を蹴りつけて、その勢いを利用しこちらに向かって飛び蹴りを繰り出してきた

 

「おうらぁ! ライダーキックって奴だァ!」

「―――超変身」

 

呟きと同時、霊石アマダムが赤から紫へと変化する

霊石の変化と一緒に先ほどまで赤かった鎧が、紫色に縁どられた銀色の鎧へと変化していき、赤い複眼が紫色へと変わっていった

紫のクウガ―――タイタンフォーム―――へと変身した彼は繰り出されたその蹴りを、両手で受け止める

 

「―――マジかよ」

「マジだよ―――」

 

エイプがつぶやくのと、クウガが足を掴みなおすのはほぼ同時だった

そのまま勢いよく地面へと叩きつける

ごはぁ!? と言うエイプの悲鳴と共に完全に男は気を失った

体からメモリが排出され、コロリと地面に落下する

 

クウガはそれを手に取ると、思い切り力を込めて握りつぶした

 

◇◇◇

 

ざわついている連中の仲間のスキルアウトたちを尻目に、サソードとクウガはそれぞれ変身を解除して、そこに黒子も戻ってくる

黒子はとてとてと二人に向かって走り寄ってきながら

 

「終わりましたの?」

「あぁ。ベストタイミングだったな」

「そうですわね。少しすれば、眞人さんがいらっしゃるはずです」

「あの人がくるのか。なら安心だな」

 

三人でそんなことを話していると、ふと黒子が時計を確認しだした

釣られてアラタも携帯をみて時間を確認してみると、既に夕方付近、結構いい時間となっていた

 

「後のことは眞人さんたちに任せて、わたくしたちもそろそろ戻りましょうか」

「そうだな。割と見て回ったし、また明日回ればいい」

「うむ。戻って夕飯でも作ろうではないか。この俺がトロピカルラ・メーンを―――」

『それは遠慮する(それはご遠慮しますわ)』

 

◇◇◇

 

―――まもなく、完全下校時刻になります…

 

そんなアナウンスが耳に届いてくる

結局美琴と神那賀は佐天と一緒にマネーカード探しに付き合うこととなった

割と楽しかったが

 

「はは! こんな時間になっちゃいましたねー」

 

沈みゆく太陽の光を受けながら、佐天はそう笑顔でこちらに言ってくる

おもむろにガサガサとポケットをまさぐって、それぞれ両手に三枚ずつマネーカードの入った封筒を差し出してくると

 

「はいこれ、神那賀さんと御坂さんの取り分です!」

「ダメだよ佐天さん。ちゃんと届けないと」

 

思わず流れで美琴はありがとうと言ってしまいそうになったが、先に神那賀が言葉を紡いでくれたおかげで、事無きを得る

神那賀の言葉を受けて佐天は笑を浮かべながら

 

「やっぱりそうですよね。うーん…あとで初春に連絡しておくか」

 

そう言う佐天に対して、ふと美琴は思い出したように問いかけてみる

それはちょっとだけだが、気になっていた事柄だ

 

「そういえば佐天さん。それをバラまいてる側の噂って聞いたことない?」

「バラまいてる側? うーん…そういうのは聞いたことない…ですねぇ…」

「…そっか」

 

都市伝説好きで噂好きな彼女なら何か知っているかも、とも思ったが彼女が知らないのではこれ以上調べようがない

大人しく今日は戻ったほうがいいだろうか

 

「それじゃあ御坂さん、神那賀さん。今度は初春やアラタさんも交えて探しましょうね!」

「ふふ、そうだね」

「それじゃあ佐天さん、また!」

「はい、御坂さんも神那賀さんもまた!」

 

短いやり取りを交わして、佐天は踵を返して走っていく

そんな彼女の背中を見送って、二人はふぅ、と一つ息を吐いた

 

「結局一日使っちゃったね」

「楽しかったけどね。…途中まで一緒に帰ろうか」

「そうね。帰りましょう」

 

そうしてまた適当に雑談でも交わそうか、と口を開こうとしたときだ

 

 

―――ホントだって!

 

 

路地裏からそんな声が聞こえてくる

美琴は神那賀と顔を見合わせて互いに頷くと、聞き耳を立てる

何故だか、妙に気になったからだ

 

 

「用でも足すかとE地区の路地入ったら、女がこの封筒置いてんの見えてよ、あと付けたんだよ! そしたら、C地区にある雑居ビルに入ってったんだ。きっとアジトだぜ!」

「女が一人で、かぁ?」

「仲間がいるかも知んねぇぜ?」

「ちゃんと調べたって! マジで女一人だって!」

「―――ふぅん。行ってみるかぁ…」

 

リーダー格の男がそう呟くと、連中がいそいそと歩きだした

 

「お前どうやって調べたんだよ」

「ずっと見張ってたんだよ」

「マメだなぁお前」

 

向かっていく連中からはそんな会話が聞こえてくる

そんな奴らの背中を見送って、美琴と神那賀はお互いに再度頷いた

音を立てないように神那賀が後をつけて、美琴は彼女の後ろをゆっくりと追いかけながら電話を掛ける

 

「あ、黒子? 悪いんだけど、ちょっとお願い、聞いてくれるかしら?」


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