全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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こっちではお久しぶりです
今回からは超電磁砲S編です
フェブリ編は今のとこ未定ですが、楽しんでもらえれば幸いです

あとウチの作品の食蜂はだいぶ丸いです(性格的に
いつも以上に出来はあれなので、ご了承くださいませ

それではどうぞー



妹達(シスターズ)
#22 超電磁砲(レールガン)


青空快晴、今日も飛空挺がのんびりと空を行く学園都市

待ち合わせ場所にて、一人の少女が携帯を弄っていた

待ち合わせしていた人たちが一向に現れないからである

 

「…遅いなぁ…。なにやってんだろ…」

 

また何やら面倒なことに巻き込まれているのだろうか

知人の大半は風紀委員ではあるので、そんなことがあれば一つ連絡くらいはするとは思うのだが

彼女はしばらく考えて、小さく口元に笑みを作り

 

「―――よしっ」

 

周りに聞こえないように、それこそ呟くみたいにそんな言葉を口にしてその場から歩き始めた

いっそのことこっちから出向いてみよう

 

◇◇◇

 

学園都市

東京西部に位置する完全独立教育機関の事

そこには総勢二百三十万人もの人口(その八割は学生)が滞在し、日々自身の能力開発に打ち込んでいる

 

そんなとある学区、とある路地裏にて

 

「だから、なんか変な連中に絡まれてるんだってば!」

 

まるで何かから隠れるように一人の少女が身を潜め、携帯に向かって声を荒げる少女が一人

彼女の名前は佐天涙子

学園都市に住んでいる学生の一人…なのだが

 

「私は別に何もやってないってば! むしろ普通に歩いてただけで―――」

「おい」

「ひっ!?」

 

声がした方向へ佐天は振り向いた

見るとそこにはさっきまで自分を追い回していた連中が四~五人ほど

身なりからしてチンピラか、あるいはスキルアウトの類かはわからないが、このままここにいてはいけないことだけは本能で佐天は察していた

故に、取るべき行動は一つ

 

「やばっ!」

 

佐天は急いでこの場から駆け出した

当然向こうからも「待ってよー」なんてチャラけた声と一緒に追いかけてくるが振り向いてる暇などない

佐天は走りながら携帯を耳に当て、声を発する

簡潔に

 

「とにかく! 急いでェェェェ!!」

 

 

「ちょ、ちょっと、待ってくださいね…っと、これを、こうして…」

 

そんな佐天の叫びを聞きながら、花のカチューシャをつけた女の子―――初春飾利は手に持っている携帯端末を操作して、彼女の携帯から居場所を特定しようとしていた

声の感じからすると、これは結構危ない予感がするので少しばかり本気を出し初春は彼女の位置を割り出すのに成功する

 

「っ! 佐天さんの携帯の位置、特定完了しました!」

 

その言葉を聞きながら彼女の目の前にいるツインテールの少女―――白井黒子は風紀委員の腕章を右腕にかけ、初春の横で携帯を持っていた男性―――鏡祢アラタは彼女に携帯を返しつつ、ポケットから腕章を取り出した

準備万端、と言った様子で黒子は

 

「でかしましたわ初春。…では、行きますよ二人共」

「あぁ。ったく、涙子も災難だな。準備はいいか、飾利」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」

 

そう言いながら初春は自分が持っているカバンの中に手を突っ込みガサガサと何かを探している様子だった

恐らく腕章を取り出そうとしているのだろう

しかしかなり急いで探してはいるがなかなか腕章は見つからない

そんな初春を見て黒子ははっしと彼女の肩に触れ、今度はアラタの肩に触れ

 

「飛びますわよ」

「うえ!? ちょ、白井さ―――」

 

言い切る頃にはヴォン、という空間移動特有の効果音と一緒に三人はその場から消えた

傍目にはいきなり消えたことに対して驚いている一般人もちらほらだが、些細なことである

 

◇◇◇

 

あれからどれくらい走っただろうか

カバンを肩にかけながら走るのな割とシンドイし、向こうも一向に諦める気配もないし、撒ける気もしない

もう少し基礎体力を鍛えておけばよかったかなぁ、なんて思い始める始末だ

 

「いい加減諦めろって」

 

後ろの方でそんな声が聞こえた

誰が諦めるか、こうなったら初春たちが来るまで意地でも逃げ続けて―――と、考えている内に足がもつれてしまった

 

「うわぁっ!?」

 

結果、佐天はその場に転んで、掛けていたカバンも落としてしまう

痛みに耐えながらも佐天は立ち上がろうとする、が―――

 

「ほうら、そんなに急ぐから転んじまうんだよ」

 

―――完全に追いつかれた

カバンを拾って再度逃げることはできるだろうか

向こうはニタニタと笑いながらゆっくりこっちに詰め寄ってくる

 

「あ、あのぉ…」

 

苦笑いとともに言葉を模索する

こんな時なんて言葉を紡いで時間を稼げばいいのだろう

言葉に迷っていると、不意に上空からヴォンッ、とそんな効果音が耳に聞こえた

そして自分の目の前に降りてくる一人の人影―――その後ろ姿を佐天はよく知っていた

 

「わひゃあ!?」

「おっと」

 

一番最初に着地したアラタが同じように上空から降りてきた(落ちてきた?)初春を受け止め、アラタの隣に黒子が現れた

アラタは受け止めた初春を下ろしつつ、黒子はかけてある腕章を見せつけるようにし

 

「風紀委員ですの」

「暴行未遂の容疑で、アンタたちを拘束する」

「―――初春、白井さん、アラタさん!」

 

佐天は喜びを乗せた声色でそれぞれの名前を呼んだ

よかった、間に合ってくれた…

彼と彼女が来てくれれば、この程度の奴らなんて、と思ったが向こうは割と数が多い

二人の実力を信じていないわけではないのだが、それでも一抹の不安はある

 

「―――へっ、いくら風紀委員でも、この人数なら…」

「案の定舐められてるな。なぁ黒子」

「全くですわお兄様。わたくしたちを侮―――」

 

 

「あー、いたいたー」

 

 

不意に聞こえた第三者の声に、アラタと黒子はギョッとする

そして初春も佐天もその声の主をとてもよく知っている

声がしたのは不良たちがいる方向

徒党を組んでいる奴らの間を平然とすり抜け、こちらに歩いてくる短髪の女の子

 

「もー。みんな遅いなぁって思ったら」

「み、こと」

 

アラタは苦笑いを浮かべる

このままでは色々とまずい

彼女が、ではなく彼らが、だ

 

「なんだお前。お前もこいつらの仲間か」

「よくわかんねぇけど、邪魔するんならお前から先に―――」

 

「―――アラタ」

 

声をかき消すように、目の前の短髪の女の子は少年の名前を呼んだ

 

「…いい?」

「―――…ほどほどに」

 

思いっきりため息を吐いてアラタはそんな言葉を口にする

黒子もまた同様に息を吐きながら構えを解いた

そしてアラタからそんな言葉をもらうと口元に笑みを浮かべ

 

「ありがと、アラタ」

 

そう短く感謝の言葉を述べた後、頭のあたりからバヂリ、と雷を迸らせ―――

 

ズドンと周囲一帯が衝撃が迸った

 

 

目の前にはすっかり気を失っている不良連中

そんな連中には目も呉れず、美琴はこちらに向かって歩いてくる

 

「…ところで、こいつら一体なんなの?」

「やってから聞くなよ。全く」

「本当ですわ…」

 

初春も佐天も呆気にとられている

いつものことだ、と言えばいつものことなのだけれども

 

「…え?」

 

ただひとり、状況を把握していない御坂美琴から、そんな言葉が漏れていた

 

◇◇◇

 

翌日

 

とある高校の男子寮にて

居間に置いてあるテーブルにあるパソコンと向かい合ってる男性がひとり

彼の名前は鏡祢アラタ

この学園都市にいる数多の生徒の一人である

 

今現在彼は風紀委員のお仕事として軽く書類仕事をしており、無言でカタカタとキーボードを叩いているのではあるが

 

「ねぇ、まぁだお仕事終わらないのぉ?」

 

後ろにいる金髪の女の存在は軽くスルーしつつ、作業を数時間続けてきたが、いよいよアラタは折れた

 

「っていうかなんでお前俺の寮の場所知ってんだよ。操祈」

「ふっふ~ん。その程度私の情報力でどうとでもなっちゃうのよねぇ」

 

そう言って胸を張る目の前の金髪女性、食蜂操祈

彼女はこの学園都市にいる七人の〝()()()()〟の一人である

自室で作業をしていたら不意にチャイムがなって出たらなぜか彼女がいたのだ

作業の邪魔しないでくれよと念を押してはいたが、あんまり効果はなかった

そんな彼女となんで一介のレベル0…いわゆる無能力者である自分と親交があるのか

それはおおよそ一年前ほど前に親友当麻といろいろ巻き込まれたのだが、この場では割愛するとして

 

「まぁ実際はちゃんと道聞いてきたのだけどぉ」

「それを聞いて安心した。…お前さんの力だから使用に関して文句はないけどほどほどにしとけよ」

「わかってるわよぉ。無益な争いは、私だって嫌だしねぇ」

 

そう言って人差し指を口に当てふふんと笑む操祈

タイミングを同じくして、不意にアラタの携帯が鳴り出した

携帯を開いて画面を見ると初春飾利からのメールだった

内容は寮をでましたよーという短くて簡素な文章

そういえばもうそんな時間か

仕事にかかりっきりで時間のことを完全に失念していた

もうこんな時間になってしまっては待ち合わせには間に合うかどうか正直わからなくなってきた

この際だ、自分はここからもう直接目的地である枝先の入院している病院に向かおうか

返信でそのことを伝えて、美琴たちにも伝えておいてくれ、と送信すると初春からか〝了解しましたー〟と短い文が返ってきた

ひとまずこれで準備は終わった

 

「操祈、俺はそろそろ出掛けるけど、お前はどうする」

「出掛ける? どこか行くのぉ?」

「飾利…初春の友達の見舞いに行くの。知ってるだろ? 水着モデルん時に」

「あぁ、初春さんの。その友達って、何かの病気…とかぁ?」

「病気…とかじゃあないんだけど、長い間眠ったまんまで、最近目を覚ましたんだ。色々あってな」

 

脳裏に思い浮かぶテレスティーナの顔

今はもう捕まっており、出てくることはないと思うが

 

「そんで、どうする? もし常盤台とかに戻るなら近くまで送ってくけど」

「いいわ。私も一緒に行けないかしらァ?」

「え? まぁ、問題ないと思うけど…どうして」

「挨拶したいの。個人的なワガママだけどぉ。久しぶりに初春さんたちにも会いたいからねぇ」

「…まぁ、今のお前さんなら枝先さんや春上さんとも仲良くなれるか。わかった、とっとと行こうぜ」

 

アラタは部屋に置いてある二つの内の一つを食蜂に渡すと彼女はそれを受け取って小脇に抱えた

今更だがここは男子寮、女子、しかも常盤台の食蜂なんか誰かに見られたらエグいことになるに違いない

特に土御門や青髪とかに見られたら絶対に嫌な噂されることは確定してるので、細心の注意を払いながら下に降り、無事にビートチェイサーのところにたどり着くと、後ろに食蜂を乗せて、アラタはバイクを発進させた

 

◇◇◇

 

「…あれ、白井さんどうしたんですか?」

 

常盤台中学校門前にて

学舎の園を案内し終え、待ち合わせ場所の常盤台中学の校門前で待っていると、美琴と共に彼女の後輩である黒子も一緒に出てきたのだが、何故だか彼女は頭をさすりながら歩いてきていた

黒子は佐天の問いに頭をさすりつつ

 

「いつものスキンシップですの」

 

スキンシップ

なんとなく美琴の方をちらりと見てみるが、彼女のジト目具合からなんとなく察する

美琴は瞬きのあと笑顔を作って

 

「ごめんね、春上さん。わざわざこんなところまで」

 

初春、佐天と一緒の来ていた春上衿衣はうんうん、と首を振りながら

 

「そんなことない。すごく楽しかったの。美味しそうなお土産もたくさん買えたし」

「ここは、学園都市の中でも有名なお店が集まってますからね」

「初春、春上さんにここを紹介したいって、とっても楽しみにしてたんだよ」

 

そう佐天に言われると初春は頬を染めながら

 

「だって知的な街ですし…。それになんといってもこの空気…! ザ・お嬢様というかっ…! 上品な薔薇の香りがするというか―――」

「あぁ、だからか」

 

不意に初春の言葉を遮って佐天が納得したような声を上げた

意味が分からず初春はたまらず聞き返す

 

「へっ? なにがです佐天さん」

「いや、だから今日はその雰囲気に合わせたのかなって」

「合わせたって…何を―――ハッ!!」

 

何か気づいた初春はぶるりと体を震わせた

そういえば一点だけ、初春は心当たりがある

せっかく好きな街を春上さんに紹介できる…せめて中身だけでもという思いで着込んだあの一点

 

「ぬぁ! なぜ佐天さんがそれをっ!?」

「ふふ。さっきね、初春がケーキを選んでた時に、そっとね」

「薔薇がいっぱいで綺麗だったの…」

「は! 春上さんまで!?」

 

目の前で繰り広げらるいつもの日常に、美琴は微笑み、黒子はやれやれと言った様子でため息を吐いた

そういえばアラタはどうしているのだろうか

いつまで経っても来る気配はないのだが

 

「あれ。そういえばアラタとは途中で会わなかったの?」

「あ、アラタさんなら先に病院に行ってるって連絡が来ました!」

「おりょ、そうなんだ。…そういうことなら、行きましょうか」

 

美琴の声に一行は頷く

これから向かうのは、春上衿衣の友人、枝先絆理のお見舞いで、春上さん以外のことは秘密にしているサプライズだ

まぁ一名先に行ってしまったから、予定とはちょっと違ったのだが

 

◇◇◇

 

枝先絆理が現在入院している病院にて

アラタは受付の人と色々話をして自分が面会であることなどを話していると

 

「あっ、アラタくん」

 

不意に左側から声が聞こえてくる

振り向くとスーツを着込んだ男性の警備員(アンチスキル)、立花眞人が歩いてきた

彼は手に持っていたカバン型のG3ユニットを地面に置くとこちらに向き直り

 

「その様子だと、お友達の面会かな? …あれ、隣の女の子は…」

「あぁ、彼女は俺の知り合いの―――」

「はじめましてぇ、食蜂操祈でぇす」

 

いつもと同じ甘ったるい口調ではあったもの、礼儀正しくペコリと彼女はお辞儀をする

それに対して眞人の方も礼をしながら

 

「ご丁寧に。僕は立花眞人、よろしくね、食蜂さん」

「立花さんはお仕事ですか?」

「うん。僕たちと争った過激派モドキの人たちの一人が治療を受けててね。ようやく回復したから、これから警備員の附属病院に移送して、取り調べを行うんだ。もっとも、実行する人は黄泉川さんなんだけどね」

「あっはは…似合うなぁ…それにしても、過激派モドキ、ですか」

「うん。テレスティーナを捕らえても、相変わらずこの街は問題を抱えているんだよね」

 

あはは、と笑いながらふと腕時計を確認する

すると彼は地面に置いてあるG3ユニットを改めて持ち直すと

 

「そろそろ、黄泉川さんと鉄装さんが合流する時間だ。それじゃあ僕はここで失礼するよ」

「はい。ではまた」

 

短く挨拶を交わすと眞人は手を振りながら自分たちとは反対方向へと歩いて行った

その背中を見送ったあと、食蜂はポツリと呟く

 

「真面目そうな人ねぇ」

「それがいい所なんだよ、あの人の」

 

そんな風に食蜂に返したあとで、アラタは必要事項を記入し終える

割と慣れた手つきでその用紙を記入していたアラタに向かって、食蜂は問うた

 

「…書き慣れてるの?」

「俺の友人の見舞いに行く時とか、割とね」

 

今も変わらず、不幸に巻き込まれているのだろうか

きっと自分の知らないところで、誰かの幻想をぶっ壊しているのだろう

 

「さて、そろそろ行こう。美琴たちが来ちまうよ」

 

アラタの言葉に食蜂は頷いて、二人は枝先のいる病室へと歩いて行った

 

 

コンコン、と扉をたたく音が聞こえる

衿衣ちゃんが来てくれたのかな、とも思ったが僅かに見えるガラスからのぞく服の色は衿衣のものではない

そのへんまで考えて、ガラガラと扉が開かれた

 

「失礼しまーす。…枝先さん?」

「あっ! お兄ちゃん!!」

 

扉の向こうで食蜂がぶふぉと思いっきり吹き出した

アラタはそれに苦笑いで受け止めつつ

 

「誰がお兄ちゃんか誰が。俺と枝先さんには接点なんもないでしょうに」

「えへへ…そうだけど、アラタさんみんなの中では一番年齢上でしょ? それに、なんとなくお兄ちゃんって言ってみたくなって」

「全くもう…」

 

頭を掻きながら入ってくるアラタの後ろに、ついていく金髪女性

会ったことのない枝先は? と頭に疑問符を浮かべて問いかけた

 

「あれ、アラタさんその人誰?」

「この子は、俺の友達で、飾利たちの友達でもある食蜂操祈さんっていう人だ。君の事話したら、友達になりたいって言ってね」

「そういうこと。改めましてぇ、食蜂操祈でぇす。よろしかったら、仲良くしてくれると嬉しいゾ?」

 

いつもの調子で軽く自己紹介を終える食蜂

そして今服装に目がいったのか、枝先の表情が驚きと笑顔に代わり

 

「食蜂さん常盤台の人なんだ!? 御坂さんとおんなじ!?」

「えぇ、御坂さんとも知り合いよぉ」

 

割と意気投合は早かった

あいあいと話す二人を尻目に、アラタは持ってきたフルーツの一つであるりんごの皮を携帯ナイフでむき始める

あとは向こうの到着を待つだけだ

 

 

少しして、コンコン、と病室の扉がノックされた

その後で勢いよくガラガラと開けられ、春上衿衣が顔を出す

枝先は彼女の顔を見るとまた嬉しそうに顔を綻ばせて

 

「あっ! 衿衣ちゃんっ」

 

その後で彼女は顔だけ部分が見えるように開けられていた扉を改めて開け放ち、そこに美琴たち四人が見えた

 

『こんにちはーっ』「ですのーっ」

「みんなも!」

 

流石に枝先もみんながここに来ることは予想していなかったのか、その表情をさらに笑顔へと変化させる

一向に向けてアラタも椅子から立ち上がって

 

「よう。みんな来たな」

「はいっ。お待たせして…あれ、食蜂さん」

 

初春の言葉に美琴がピクリと反応する

聞き慣れない名前を聞いて、春上は疑問符を頭に浮かべながら初春に聞いた

 

「どちら様、なの?」

「春上さんは、食蜂さんと会うの初めてでしたよね。こちらは食蜂操祈さん、御坂さんと同じ、常盤台の人なんですよ!」

「あはは…図々しく友達の病室までお邪魔してごめんねぇ。改めましてぇ、よろしくねぇ」

 

申し訳なさそうな笑みを浮かべながら食蜂は手を差し出す

春上は彼女の握手に応じながら

 

「そんなことないの。こちらこそわざわざ枝先さんのお見舞いに付き合ってくれてありがとうなの」

 

そんなやり取りのあと、初春と佐天を中心に、一行は枝先や春上と話し始めた

美琴と黒子はアラタの方へと歩きつつ

 

「食蜂さんがいらしたんですの?」

「あぁ。寮で仕事してたら来てな」

「りょ、寮に行ったの!? 食蜂さんが!?」

 

半ば驚きつつある美琴

一応彼女も盛夏祭の招待券渡しに来てくれたのだが

 

「飾利に久しぶりに会いたいって言ってたからさ。ついでだから枝先さんや春上さんにも紹介しようと思ってね」

「まぁ確かに…」

 

そう言って美琴は楽しそうに会話を弾ませている食蜂の表情を一瞥する

初春や佐天、春上、枝先を交えて話している彼女は楽しそうに笑顔を浮かべており、晴れやかだ

そして今更ではあるが、彼女は普段持ち歩いているリモコンの入ったバッグを肩にかけていなかった

それに心の底から楽しそうに笑っている彼女を見て、美琴は釣られて笑みを浮かべる

 

―――そういえば、水着モデルの時もあんな顔してたかな

 

「…これなら、大丈夫かもね」

「ではお姉様、私たちも話に混ざりましょう。お兄様もっ」

「わかってるって」

 

◇◇◇

 

そんなわけで

初春たちが差し入れとして持ってきたケーキを食べながら一行は話をしていた

美琴と黒子は枝先の隣にある誰も座っていないベッドに腰掛け、初春はアラタが用意した椅子に座りケーキをもにゅもにゅし、佐天と食蜂は枝先側のベッドへと腰を掛けていた

 

アラタは出入り口近辺の壁に背中を預けながらその光景を見守っている

当然、時折降られたら会話に参加しているが、割と見守ってるだけでも楽しいものだ

 

「けど、随分良くなったみたいね。安心したわ」

 

不意に美琴が枝先に向かってそう言った

枝先は美琴の方へと視線を向けて「うん」と頷いて

 

「リハビリは大変だけど…こうしてみんながお見舞いに来てくれたし…」

 

一度言葉を切って食蜂へと視線を向け

 

「新しい友達も出来たし、頑張る!」

「そうなの! リハビリ終わって、二学期からは一緒の学校行くんだもんね!」

 

枝先の言葉に続くように春上が言葉を繋げる

微笑み合う二人を見て、アラタは無意識に笑顔になる

今更だが、助けられてよかったと心から思うのだ

 

「ね、ねぇ。喉、乾かない?」

「はぁ?」

 

唐突に美琴がそんなことを言い出した

思わずそんな素っ頓狂な言葉を口に出してしまった

当然周りの反応もそんな感じである

佐天と初春も首をかしげながら美琴を見つめ、食蜂も同様に疑問符を浮かべながら美琴を見ていた

しかし黒子は

 

「そうですわねぇ。何か、飲み物でも買いに行きましょうか」

 

と、美琴に同意するような発言をする

 

「いいわねぇ! それじゃあ春上さん! 私たちはちょっと」

「…わたし」

「たち?」

「あれ、それ俺らも出る流れなの?」

「さぁ、参りましょうお兄様方」

「そういうわけで。すぐ戻るから、じゃあ後で!」

 

そう言って立ち上がる黒子と美琴に促されるまま、春上と枝先以外のメンバーは二人に連れられて病室の外に行ってしまった

春上と枝先は顔をお互いに見合わせて首をかしげつつ

 

「なんなんだろう?」

「わからないの…」

 

そんな話を交わしていた

 

 

「で、結局目的はなんなんだ?」

「まぁまぁ。まずは飲み物を…ん?」

 

アラタの言葉に返すように美琴は笑を交えてそんな言葉を話す

そしてふと、たまたま通った道のガラスの向こうに、リハビリをしている人たちが目に写ってきた

ガラスの向こうには手すりを用いて懸命に歩く練習をしている患者の姿や、足のマッサージを受けている患者の姿が目に入ってくる

 

「あれって、リハビリ、だよね?」

「枝先さんも、頑張ってるんですね…」

 

その光景を見た美琴は、かつて似たような光景を幼い頃に見ていたを思い出す

 

―――自分が託したモノは、誰かの役に立っているのかな

 

「御坂さん? 御坂さぁんってば」

「え」

 

食蜂の声に、ふっと我を取り戻す

視線を向けると、みんなの目線が自分に集まってきていた

 

「どうかなさいまして? お姉様」

「なんだか考え事してたみたいだけどぉ…」

「う、うぅん。なんでもないわ。ごめんね、さ、行きましょう」

 

まぁ本人がそう言うのなら、問題ではないだろう

多少気にはなったが、一行はそのまま足を進めた

 

 

「サプライズ…」

「ですか?」

 

自動販売機の前にて

それぞれ飲み物を買い終えたあと、美琴から告げられた言葉を復唱する

佐天と初春がそう返すと美琴はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに

 

「えぇ。例のプレゼント、普通に渡すだけじゃインパクトがないと思うのよ! やっぱムードっていうか、雰囲気が大切っていうか!」

 

熱弁する美琴の隣で黒子ははぁっと笑顔混じりのため息をしていた

あの様子だとなんとなく察していたのだろう

 

「…本当は、ケーキの中に、とか、シャンパンの底に! とかやりたいんだけど…流石にそれは無理」

「お前サプライズガチ勢かよ」

「うっさいアラタ! …そこで、あの花束よ!」

 

アラタの呟きに一喝しつつ、美琴は自販機近くの売店に視線を向けた

そこにはおあつらえ向きに花束も売っている

 

「…花束で、どうサプライズするのぉ」

「考えてあるわ。…名づけて、ただの花束かと思ったら中にプレゼント大作戦! ―――どう!?」

 

いや、どうと言われましても

 

「…い、いいんじゃないかしらぁ。ねぇ初春さん」

「え、えぇ! とっても素敵だと思います!」

「でしょ! それじゃあ早速買ってくるね!」

 

食蜂と初春の言葉に反応した美琴はくるりと身を翻し、売店の中へと入っていった

売店に入っていった美琴の背中を見送ったアラタは黒子へと視線を向ける

彼女はのほほんと笑みを浮かべてるだけだ

 

「…黒子ぉ…!」

「まぁ、ああいうお姉様も…」

 

彼女はほっこりした笑顔のままだ

佐天と初春も何かを言いたそうに苦笑いで黒子を見つめているし、食蜂に至っては手を顎に持っていきながら

 

「…なんだか、意外な一面を見た気分ねぇ…」

 

妙な笑顔で頷いている

まぁ確かに意外ではあったのだが

 

「あぁぁぁぁぁ!?」

 

そんな時売店から美琴の絶叫が聞こえてきた

彼女の方を見てみると、花の前で項垂れている

気になったアラタが彼女に近づいて

 

「どうした」

「さ、財布入れたカバン…枝先さんの病室に忘れてきちゃった…!」

「あっ…それは、うっかりだな…」

 

美琴は頭を抑えてうずくまりつつ

 

「うあーっ…! 私としたことがぁぁぁ…!」

「いや、いいよ。金くらい俺が貸すから選んじゃえって」

「! い、いいの!? 本当にいいの!?」

「いいってば。後で払えよ、花の代金」

「当然! っていうか、ありがとうアラタ! やっぱり持つべき友はライダーね!」

「全然関係ないだろ全く。調子のいい奴だ、っとに」

 

目の前の売店で行われているまるで兄妹みたいな様子に黒子と初春、佐天、食蜂はそれぞれ顔を見合わせて笑い合う

このやり取りを見てると、ふと思うのだ

今日も学園都市は平和だな、と

 

◇◇◇

 

「ったく。連絡寄越しときながら移送手続きにどんだけ時間かかるじゃんよ」

「まぁまぁ。そう言わずに」

「そうですよ黄泉川さん、一応お仕事ですから」

 

通路を黄泉川、鉄装、立花の三人が歩いていく

色々と面倒事が重なり、愚痴を言う黄泉川に鉄装、立花がなだめつつ前を歩いていく

 

「そういえば、矢車隊長はどうしてます?」

「矢車さんなら、多分今も書類仕事に付きっきりだと思うじゃんよ」

「影山さんも、それに付き合ってる感じですねー」

 

なんとなく問いかけた立花の問いに、黄泉川と鉄装が答えた

まぁテレスティーナを捕らえた時も色々バタバタしていたし、片付けなければならない書類も溜まっていたのだろう

と、そんな世間話をしていると、からからと隣を病院のスタッフがベッドを運びながら通りがかった

そのベッドには誰かが寝ており、布団を頭まで被っている

睡眠が深いのだろうか

 

通路を横切って、ここを真っ直ぐ進めば例の移送者の病室だ

仮にも過激派モドキが入院している病室、見張りの人も一応は―――

 

「あれ? 見張りの人は…?」

 

鉄装の言葉と、その直後だった

 

不意に扉がガラリと開き、そこから〝見張りの人〟が倒れてきたのだ

ご丁寧に簀巻きに猿ぐつわをされた状態だ

 

『!?』

 

それから導かれる想像は一つ

そしてすぐ横を通った、ベッドに乗った患者を運んでいる彼らは―――

幸いにも、まだそう距離は離れていない

 

「そこの人たち! 止まりなさい!」

 

立花の叫びと、ベッドに寝ていた人物が飛び起きてこちらにマシンガンを構えてきたのは同時だった

 

「黄泉川さん鉄装さん隠れて!」

 

そう言い放ち、射線から隠れるように通路の角に三人は身を隠す

直後バララララ! と銃声が鳴り響き、流れ弾が警報センサーに当たったのかジリリリとやかましく鳴り響いた

隠れながら、立花はカバン状態にG3ユニットの側面にある穴に手を突っ込んで、そのまま胸のところへ持ってくる

 

「G3ユニット、着装!」

 

そのまま穴の奥にあるグリップをひねるように動かすと、カバンが変形していき、立花の体を包んでいく

青い姿に赤い複眼が光り、装着を完了させる

 

「黄泉川さん、僕はこのまま追います! お二人は下に連絡を入れ、緊急配備をお願いします!」

「わかった! ほら、鉄装! 立つじゃんよ!」

「は、はいぃぃ!」

 

G3はそう言うと太ももにセットしてあったスコーピオンを引き抜くと構えながら角から飛び出た

しかし目の前には誰もおらず、どこにいったかと視線を探しているとチーン、という音と一緒にエレベーターのドアが閉まる瞬間を目にした

 

「しまった…!」

 

慌てて走り出すが、とき既に遅し

どこに行くのかを確認すべく横にある表示を見ると矢印は上を指していた

屋上へ向かうつもりなのだろうか

 

 

 

◇◇◇

 

ジリリリリ、とけたたましく鳴り響く警報に、枝先の病室で駄弁っていた三人は、その音にびくりと体を震わすと揃って天井を見上げた

 

「…なんだろう?」

「わかんないねー…」

 

枝先、春上の二人はそれぞれ顔を見合わせてそんなことを口にする

 

同時刻

売店前で同じく警報を耳にしていた一行は、つい先ほどけたたましく鳴り響いていた警報が不意になり止む

 

「あ、止まった」

 

<只今、非常ベルが作動しましたが―――>

 

と、館内アナウンスが再生されると同時、黒子がリンとした声で

 

「初春、お兄様」

「はいっ!」

「あぁ」

 

黒子の声に答えたあと、つい先ほど購入した飲み物を佐天に預けると、三人は腕章を腕に装着する

 

「お姉様、一応状況を確認してきますわ。お兄様は念の為に春上さんたちと合流を」

「わかった。二人も無理はするなよ」

「承知していますわ。…それと、お姉様?」

 

黒子はジトッとしたような視線を美琴に向けながらグイっと顔を近づけ

 

「決して何があっても介入するような行動は慎むようお願いします。よろしいですわねお姉様」

「わ、分かってるわよ…」

「お兄様も昨日みたいに許可など出さないよーに!」

「オーケーだ」

 

超能力者ではあるが、それでも美琴は一般人だ

昨日はうっかり出してしまったが

 

同時刻

 

「…何かあったのかな」

 

枝先が不安げな表情でそう呟いた

春上は美琴が忘れていったカバンを手に持ちながら

 

「私、ちょっと見てくるの」

「衿衣ちゃん、気をつけてね」

「うん」

 

そう返事して、春上は病室の出口へと歩いて行った

ガラリと扉を開けて、何があったのだろうと思いながら少し歩いていくと目の前の通路から血相を変えた人たちが走ってきて、そして―――

 

◇◇◇

 

「おい、早くしろよ!」

 

屋上へと続く通路にて

短い階段の先に屋上への扉があり、そこに数人の過激派モドキグループが鍵の掛かった扉を開けようと奮闘している

そんな一向に声を掛ける人物たちがいる

 

「止まりなさい!」

 

凛としたその声にバンダナを巻いた一人の男性がこっちを向いた

そこにいるのは青い姿に赤い複眼の仮面ライダー、G3がスコーピオンを突きつけて身構えていた

すぐ近くにはいつでも出れるように鉄装と黄泉川もハンドガンを構えたままで待機している

 

「抵抗は無意味です。都市全域への緊急配備も手配は終わっています! おとなしく―――」

「うるせぇ! 少し黙ってろよ!」

 

そう言いながらバンダナを巻いた男性とはまた別の男がこちらに振り向いた

―――春上衿衣を人質として、拘束しながら

 

「! あの娘…!」

「貴様…!」

 

鉄装の言葉に、立花は珍しく口調を荒げ仮面の下で歯を食いしばる

バンダナ男はちゃきり、と持っていたハンドガンの銃口を春上のこめかみにつきつけながら

その事実に、春上は瞳に涙を浮かべている

 

「余計な真似してると、このガキの頭が吹き飛ぶぜ?」 

「―――くそっ」

 

このままではどうすることもできない

大人しくしていないとダメ、か

 

◇◇◇

 

「全く。黒子ったら私のことなんだと思ってるのよ」

「日頃から喧嘩っぱやいからな、お前」

「う。そりゃあ、私もちょーっとは反省してるけど…」

 

一方で

現状の把握を黒子と初春に任せ、自分は万が一に備え春上達を守るべく、彼女たちに合流するために食蜂、美琴、佐天と一緒に道を歩いていた

 

「心配してるんですよ。御坂さん、アラタさんと同じでいっつも無茶するから」

「コイツは私以上に無茶してるじゃない」

 

親指でずびし、とアラタを差しながら美琴は若干ジトーっと目を細める

それにアラタは苦笑いを浮かべながら

 

「あいにくと、自分ではそんなつもりないんだけどなぁ。俺は俺にできる無茶をしてるだけだし」

「アラタはそれが人を心配させてるってことにぃ、いい加減気づくべきねぇ」

 

食蜂の言葉にう、とアラタは言葉を詰まらせる

それを見て佐天はふふ、と笑顔を浮かべ

 

「まぁ、それも御坂さんとアラタさんのいい所―――あれ?」

 

曲がり角に差し掛かったところで、佐天が誰かを視界に捉える

佐天の視界を追いかけるようにアラタと美琴も目線を向けるとそこにはどこかしらに指示をしている黄泉川と、G3が警戒体制をとっている姿が目に入ってきた

 

「黄泉川先生?」

 

不意に聞こえてきた佐天の声に黄泉川は振り向いた

彼女は自分たちの姿を捉えると驚きに染まった表情で

 

「お、お前たち!? なんでここに…!?」

「…何かあったんですね」

 

警戒態勢のまま首だけをこちらに動かす姿を見て、アラタはそう確信する

そもそも本当に何もないならG3を纏っているはずがないのだ

G3は屋上に続いている扉を睨んだまま

 

「…過激派モドキの人たちが、屋上を封鎖して、立てこもってるんだ」

「お前たちも早く安全なところに行くじゃん。ここは危ない」

 

黄泉川と立花の言葉を聞いて、四人は顔を見合わす

とりあえず、一旦当初の予定通りに枝先の病室に戻ろうとして―――視界に一人の女の子を捉える

それは壁伝いにこっちに歩いてきていた枝先絆理その人だった

 

「枝先さん!?」

 

美琴の声が響く

その声を聞いた枝先は懸命にこらえながらも、こちらに向かって声を発する

 

「衿衣ちゃんが、戻ってこないの…!」

「えぇ!?」

「そ、それって、つまりぃ…」

 

視線が黄泉川とG3へと向けられる

流石にもう隠し通せないと判断したのか、苦い顔をしながらその事実を告げる

 

「…君たちの友達が、人質に取られてる」

「! 本当ですか、立花さん」

 

そうアラタが聞くとG3は顔を俯かせながら頷いた

 

「そんな…!」

 

佐天が声をあげる

彼女の気持ちもわからんでもない

だが今はそれよりも―――

 

「涙子、まずは枝先さんを」

「アラタさん…そうですね、わかりました…」

 

佐天が頷くのを確認すると、美琴と食蜂にも視線を向ける

二人もまたそれに頷いて、美琴が枝先の隣に駆けていき、彼女に肩を貸しアラタも彼女の反対側へ言って自分の肩を貸し、彼女の病室へと歩みだした

 

 

病室へと戻ってくると、ゆっくり彼女をベッドへと腰掛けさせる

まだ歩くことは辛いのだろう、彼女の表情には疲れが見えた

 

「ごめんなさい、ありがとうなの…でも、衿衣ちゃんが…!」

 

彼女の叫びを聞いた美琴は笑顔を浮かべる

 

「大丈夫」

「…え?」「御坂さん…?」

 

その呟きの意味を理解したアラタはやれやれ、と言った様子で首を振った

けど、流石にこれは黙ったままではいられない

とか考えていると美琴がアラタに向けて声を発した

 

「アラタ、付き合って!」

「へいへい。そんなわけで操祈、枝先さんのこと頼んだぜ」

「わかったわぁ。行ってきなさいなぁ、お二人さん」

 

食蜂からの言葉を受けて、美琴とアラタの二人は窓を開け放ち、そのまま外に飛び出した

美琴は磁力を用いて壁を蜘蛛みたいに登って行き、アラタは近くにあったハシゴへと飛び移って登っていく

 

「ちょ、御坂さん!?」

 

思わず佐天も追いかけるが、流石に自分では壁は登れない

そこでふと、アラタが登っていったハシゴに目がいった

佐天は小さく笑みを浮かべて

 

「―――くぅーっ…! ホンットあの人たちは…!」

 

―――カッコイイなぁ…!

 

◇◇◇

 

「いやぁ! はなしてぇっ!!」

「うるせぇ! ジタバタしてんじゃねぇ!」

 

屋上

仲間が操縦しているヘリコプターに乗って飛び、そのまま逃走をしようとしているが、人質の女―――春上がどうしても抵抗をやめない

彼女からしたらとばっちり以外の何者でもないが、男たちからしたら大事な切り札だ

ここで手放す訳にはいかなかった

 

「よしいいぞ! 出せ!」

 

パイロットにそう指示し、ヘリコプターは上空へと飛ぼうとして―――ガクン! と急停止したようにヘリコプター全体が震え、上昇しなくなりその場に停滞するようになっている

外を見ると、一人の女の子が地面に向かって手を当てて、体から雷を迸らせている

地面を伝い走る雷の磁力で、ヘリコプターが逃げるのを食い止めたのだ

春上はその人物をよく知っていた

 

「御坂さんっ!」

 

美琴は雷を迸らせたまま、表情を怒りに染めて

 

「―――私たちの友達に、なにしてくれてんのよぉ!」

 

ヘリの中にいるバンダナは舌を打ちながら

 

「能力者か…! おい、もっとパワー上げろ!」

「やってる! だがコントロールが効かねぇんだよ!」

 

操縦席からそんな言葉が聞こえてくる

このままでは拉致があかない、と人質を持っている男が春上を一瞥して

 

「コイツの仲間か…! だったら返してやらないとなぁ!」

 

勢いよく男は春上を外へと放り投げる

コイツの仲間なら、確実に能力の使用を中断し助けに入ると踏んだ男は、人質を手放すことを選んだのだ

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

「! 春上さんっ!」

 

放物線を描き、飛んでいく彼女の落下先は、屋上を過ぎて地面へと向かっていた

もしこのまま屋上に投げ出されていたら能力の使用しながら、なんて出来たかもしれないが、これは流石にかかりっきりにはできない、美琴は能力の使用をやめ、彼女を助けるべく走り出す

が、伸ばした腕はあと一歩で届かずに空を切る

 

 

ハシゴを登っていると、不意に投げ出された人影をアラタは捉えた

ひと目でわかる、春上衿衣だ

上で何があったか知らないが、このままではヤバイことだけは確かだった

アラタは全身に力を込め、自らを変える言葉を発しながら、そのハシゴから跳躍した

 

「―――変身っ!」

 

アークルを顕現させ、ベルト中央の霊石が青く輝き出す

霊石が光ると同時、徐々に彼の全身を変化させていき、彼の体を青い〝仮面ライダークウガ〟へと変身させ、跳躍した勢いを利用して春上をキャッチする

不意に誰かに抱き抱えられた感覚に、思わず春上はクウガへと視線を向けた

 

「―――アラタさんっ!」

「ナイスタイミングアラタっ!」

 

クウガが屋上に跳躍したときには、もうヘリコプターは遠いところに飛んでいってしまっていた

ゴウラムでも居れば追えるのだが…

 

「春上さーんっ!」

 

ちょうどそこで、先ほどアラタが登っていたハシゴから佐天が登ってくる

登りきった彼女は地面に下ろされた春上へと駆け寄っていき

 

「大丈夫春上さん!? 何か、変なことされてない!?」

「うん、大丈夫なの…」

 

ひとまずこれで一件落着か、と思い美琴は変身を解除したアラタに向かって親指でサムズアップをした時である

 

「―――あれほど念を押しましたのに。お二人ったら全くもう」

「く、黒子!? い、いやだってこれは仕方なくない!? 下手したら―――」

「おねーさま!!」

 

ピシャリ、と美琴の言葉を遮ると美琴が苦笑いしてお茶を濁す

今度は黒子はこちらに向かってジトーっとした目線を送ってきた

返す言葉もない

 

「春上さんっ!」

 

屋上の扉が開け放たれ、G3と一緒に初春が救急箱を持って春上に向かって走ってくる

 

「大丈夫ですか! 怪我とかはありませんか、春上さん!」

「うん。心配かけてごめんなの…」

 

初春と春上の会話を耳にしつつ、G3も装着を解除し、ユニットをカバンの状態へ戻すとアラタたちの方へと駆け寄ってきた

 

「良かった、無事だったんだね…」

「はい、どうにか…。すいません、こんな行動起こして…」

「結果オーライだよ。…もちろん、あんまり褒められた行動じゃないんだけどね」

「あっはは…」

 

立花にそう言われ、アラタは苦笑いするしかなかった

そんな時、急に春上が「あぁっ!?」と思い出したように声を上げた

 

「春上さん、どうしたんですか…?」

「カバン…」

「カバン?」

「…御坂さんのカバンが…」

 

『え?』と立花以外の声が重なる

なんとなく察した事実に、『えぇぇぇぇっ!?』と今度は声が驚愕に変わった

 

距離的にはどう足掻いても追うのは不可能な距離だ

っていうかもうこの場ではあいつらのヘリコプターは見えない距離だ

 

「くぅろぉこぉ…!」

 

バヂリ、と雷が頭に迸り、美琴が黒子の名前を呼んだ

対する黒子ははぁ、とため息を吐きながら

 

「仕方ありませんわねぇ…」

「そんなわけでアラタ、みんな! ちょっと行ってくるわね!」

「うえ、ちょお姉様っ!」

 

言いながら美琴は黒子の手を掴む

何か言いたそうだったが、観念したのか美琴と一緒に空間移動でその場から二人は消えていった

向かった先の空を仰ぎ見ながら、アラタは小さく笑顔を浮かべた

すると、その先の空に、キラリ、と何かが光ったような気がした

 

「…?」

 

アラタが目を凝らしながら見てみると、何やらクワガタのような形の飛行物体がこちらに向かって飛んでくるのが見えた

その物体を、アラタはよく知っている

 

「―――ゴウラム」

 

ゴウラムはそのまま勢いを殺すように屋上にいる初春たちや立花の近くを通りつつ、少しづつ速度を落とし、最後にはアラタの前でその身を停止する

 

「ゴウラム…なんでここに」

<呼ばれた気がした>

 

…確かに先ほど、ゴウラムがあれば、なんて思ってはいたが

まぁこの際いいや、とアラタは割り切って

 

「ゴウラム、これから迎えに行くぞ」

<迎え? 誰を? っていうか敵は?>

「もう敵はいない! ほら、行くぞ」

 

そう言ってアラタはゴウラムに飛び乗った

ゴウラムはむぅ、と唸りながらも羽を羽ばたかせ先ほど黒子たちが向かった先へと飛んでいく

屋上に残された初春、佐天、春上、立花が取り残されるだけだ

 

「…一旦、枝先さんの病室に戻りましょうか」

「そうだね、あの人たちなら、心配ないでしょ!」

 

初春と佐天の言葉に、立花と春上は苦笑いしながら頷いた

彼らの実力はもう分かりきっている

心配するだけ無駄だということもよくわかっているのだ

 

―――あの人たちなら、大丈夫だと

 

◇◇◇

 

ヘリコプター内部にて

安心しきった過激派モドキたちがふぅ、と安堵のため息を吐きながら雑談を交わしていた

 

「なんとか上手くいったな」

「本当になぁ。あぁ、助かったぜぇ…あ? なんだこれ」

 

不意に視線はヘリ内部にあったカバンに目がいった

そういえばさっき人質にしていた女の子がこれを持っていた気がする

放り投げた時こっちに落としてしまったのだろう

 

「あぁ、そりゃさっきのガキのだろ」

「そっか。あ、ガキって言えば、さっきの能力者凄かったなぁ。あれは電撃(エレクトロ)使い(マスター)ってやつか?」

「あぁ。それにあの制服、ありゃあ常盤台の制服だったぜ」

「マジか!? あの名門校の!?」

 

後ろの座席にいる二人がそんな会話を繰り広げていると、操縦席の隣の席に座っている男が記憶を辿るように言葉を巡らす

 

「…ちょっと待て、たしか常盤台の電撃(エレクトロ)使い(マスター)って…!」

 

 

同時刻

上空にて、黒子と手を繋ぎながら空間移動で高い高度を位置取り、落下しているときだった

 

「黒子」

「? なんですの?」

「あ、えっと…」

 

苦笑いをしつつどこか困ったような顔をしながら、彼女はどこか言葉を探している様子だった

時間にして数秒、彼女から告げられた言葉はシンプルなものだった

 

「ありがとね。こんな―――うんうん、いつもワガママに付き合ってくれて!」

「!」

 

告げられた言葉を耳にして、黒子は僅かに頬を染める

きっと最初のありがとう、には色々な意味が込められているのだろう

それに対して、黒子は笑顔を作り出す

 

「―――とんでもございませんわ。―――いつものことですもの」

「ふふっ。―――じゃあ、ちょっと行ってくるわね!」

 

美琴はそう言うと黒子から手を離し、落下する速度を加速させていく

例のヘリコプターはここから下を飛んでいる

美琴の磁力で自分を引っ張れば、付近までは飛んでいけるだろう

自分は、人質の保護と、カバンの回収が主だろう

 

「えぇ、いってらっしゃいませ。お姉様」

 

 

「思い出したぁ!」

 

操縦席隣の男が声を荒らげた

身を乗り出しながらこの場にいる全員に言い聞かせるように視線を向けながら

 

「常盤台の電撃(エレクトロ)使い(マスター)って言ったら、この都市(まち)最強の電撃使い!」

 

 

美琴は落下しながらも、冷静な手つきで一枚のコインを取り出し、それを弾く

己の能力で距離、位置などを微調整しつつ、ベストなタイミングであのヘリを射抜くために

 

 

超能力者(レベル5)の―――」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

不意にパイロットが驚きの声を上げた

というか、誰でも驚くであろう

例えば、車を運転していたらいきなり目の前に誰かが現れたとしたら

今がまさに、その状況だったのだ

 

ヘリコプターの目の前に、常盤台の制服を着た女の子が、雷を迸らせながら現れたのだから

 

「―――超電磁砲(レールガン)…!」

 

その呟きを、誰が口にしたのかは分からない

呟いていた時には、その女の子が音速を超えるメダルを撃ちだしていたのだから

放たれたコインは真っ直ぐ突き進み、ヘリコプターのプロペラ部分を打ち砕く

当然ヘリは浮力を失いそのまま地面に落下していくが、いつまで経っても衝撃は来なかった

代わりに来たのは一瞬の浮遊感と、地面に軽く叩きつけられたような感覚

いつの間にか過激派モドキの連中は空間移動を使う能力者に助けられたのだ

 

「おかえりなさいませ。過激派モドキさん?」

 

そして近くの川に、つい先ほどまで乗っていたヘリコプターが落下したのを確認する

同時に、これ以上は逃げ切れない、ということも彼らは察したのだった

 

◇◇◇

 

撃ち抜いて、美琴はどこかへと自分を磁力で引っ張って降り立つつもりでいた

だが不意に美琴の視界に見知った人たちがこちらに向かってきているのが見えた

それはゴウラムに乗った鏡祢アラタだ

彼らを見つけた美琴は彼へ向かって手を伸ばす

同じように手を伸ばし、彼女を手を掴んでゴウラムに乗せると美琴はふぅ、と一つ息を吐いた

 

「また派手にやったな」

 

アラタの言葉に美琴は苦笑いする

 

「でもま、これで連中も懲りたでしょ」

「違いない」

 

美琴の言葉に短く返事し、ゴウラムを病院へと向かわせる

 

「落ちないように捕まっとけよ」

「わかってるわ、飛ばしてちょうだい」

 

美琴はアラタの言葉に返事しながら、彼の背中にしがみついた

バイクで彼の後ろにたまに乗るときも背にはしがみつくから、初めてではないのだがゴウラムでのこれは、なんだか多少恥ずかしい

彼のお腹に回した手を、きゅ、と強く握りながら美琴は目を閉じて病院への到着を待つ

背中の暖かさを、その身に感じながら

 

◇◇◇

 

『はい、枝先さんっ』

 

初春と佐天の声が重なり、枝先にプレゼントが渡される

枝先はそれを受け取り、そのプレゼントを見つめながら

 

「これ、御坂さんのカバン…?」

「いいから開けてみて!」

 

枝先の疑問に佐天は笑顔でそう開封を促した

枝先はうん、と頷きながら困り顔でその中身を取り出して、驚いた

 

「うわぁ…これって!」

「制服? 絆理ちゃんの?」

 

枝先と春上の言葉が続く

黒子は枝先を励ますように

 

「早くそれが着られるように、頑張ってくださいね」

「昨日、みんなで買ってきたんです」

「なるほどぉ。これがサプライズだったのねぇ」

「ふふっ、驚いた?」

「喜んでもらえると、嬉しいな」

 

黒子の激に続けるように初春、食蜂、佐天、アラタが言葉を紡ぐ

春上は枝先の喜びを代弁するように、「うん!」と頷き、春上は僅かに目尻に涙を浮かべながら「ありがとう…」と返答する

 

「御坂さん…、?」

 

なお、このメンバーの中で一人、なぜか美琴はうずくまったままであった

そういえばサプライズしたがっていたな、とアラタは思い出す

あのあと割と急いで帰ってきたのだが、案の定売店は閉まっており花束は買えなかったのだ

色々あったし、仕方ないのだが

美琴は勢いよく立ち上がると

 

「ごめんなさい枝先さん! ホントはもっと素敵な渡し方を考えていたのよ! だけど色々ゴタゴタしてお店締まっちゃってそれで―――」

 

「御坂さんっ」

 

美琴の怒涛の謝罪を遮るように、枝先はそう切り出した

彼女は満面の笑みを作り

 

「とっても驚いたし、とっても嬉しかった! ―――ありがとうっ!」

 

そう告げられた、まっすぐな感謝の言葉

アラタは枝先の笑顔を見ながら

 

「どうやら、もう十分サプライズにはなってたみたいだな」

「―――うん!」

 

アラタの言葉に美琴は大きく頷いた

今日一日で色々と事件があったが…喜んでくれてよかった

彼女の笑顔と、その言葉だけで、十分だったのだ

 

病室を照らす夕日を、ちらりと食蜂は見やった

ゆっくり沈みゆく夕日は、こちらを見てなんとなく微笑んでいるような気がしてならない

 

「―――ホンット、退屈しないわねぇ、この都市(まち)はぁ」


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