全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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途中の会話の削除と追加くらい




#18 声

 

花火が打ち上げられる夜空の中、テレスティーナの声が聞こえる

どこか連絡を取っているようだ

その内容は恐らく被害状況などの報告だろう

その報告が終わるまでアラタは美琴と黒子と共に待っていた

 

ピ、と携帯のような通信機のような物を切った後タイミングを見計らって黒子が頭を下げた

 

「友人を救出していただいて、ありがとうございました」

「気にしないで。怪我がなくてよかったです。それに、彼女たちを守ったのは彼でもあるんですから」

 

そう言って彼女はアラタの顔を見る

視線を向けられた時、少々戸惑ったがアラタは軽く礼をする

所で、空気を変えつつアラタは地震で崩れ去った方を見ながら

 

「…あそこにいる人は、この場所のAIM拡散力場を調べているんですか? もしかしたらMARでは事前に感知とかできたりするんですかい? …対応が迅速だったので少し気になって」

 

問われたテレスティーナは柔和な笑みを浮かべて

 

「貴方、お名前は?」

「…風紀委員一七七支部、鏡祢です。で…こっちは白井です」

 

ポンと黒子の頭を撫でながら軽く自己紹介をする

テレスティーナはアラタに向き直り

 

「その支部には、とても優秀な風紀委員が揃っているのね。ASPKとMIM拡散力場についてもう把握してるなんて」

「―――RSPKは第三者による人為的な干渉が原因と聞きました。そいつの同時多発がポルターガイストを起こしてる…」

「合同会議の時に仰ってくれれば、風紀委員でも不審者の割り出し等、お手伝いできましたのに」

 

テレスティーナは笑みを崩さず

 

「それは警備員の管轄。会議でも言ったけど、風紀委員には風評被害の対策や日常の安産対策に専念してほしかったの」

 

ちゃんとした理由があるなら仕方がない

警備員にも眞人や黄泉川のような頼りになる人がいるしそれなら大丈夫だろう

と、思ったところで美琴が呟いた

 

「…AIM拡散力場への人為的干渉…そんな事出来る人がほかにいるんでしょうか…」

「他にも…?」

 

「すいませーん!」

 

その時佐天の声が聞こえた

佐天はアラタたちに向かって手を振りながら

 

「心配なんで病院についていきまーす!」

 

付近には初春に連れられてトレーラーの中に入っていく姿が見えた

 

「あ、私たちも―――」

「ダメですわお姉様。そろそろ寮監の巡回が…」

「あ…」

 

ひとまずその場はそれでお開きとなった

本心を言ってしまえばアラタもついていきたかったが女子同士の方が春上もきっと話しやすいだろうと考えてアラタは学生寮に帰ることにした

 

その光景をテレスティーナはどこかつかめないような表情で眺めていた

 

 

深夜

 

「そっか、よかった…。あぁ、気を付けて」

 

先ほど佐天から連絡を貰い、春上は無事だという事を知る

一言二言言葉を交わしアラタはテーブルに携帯を置いた

そして鏡祢アラタはベッドに腰掛けて考えた

そもそもこの事件はAIM拡散力場への人為的干渉が原因だという

そう言えばAIM拡散力場を利用した事件では他に幻想御手(レベルアッパー)事件が挙げられる

思えば捕まったとき〝気に入らないなら邪魔しに来い(意訳)〟みたいなことを言っていたしもしかしたら…なんて思ってしまう自分がいる

 

しかし木山は今は十七学区の特別拘置所に拘留しているはずだ

だが可能性としてはなくはないのでとりあえずこれは保留としよう

そしてもう一つの仮説をアラタは考える

 

もう一つの仮説は春上だ

ポルターガイストの発生前の彼女の様子はどこかその場にいない誰かを探しているようにも見えたのだ

しかしこれは友達を疑う、という人としてはどうかという考えだ

無論、アラタはそんな事は有り得ない…と信じている

しかし確率としてはこっちの方が俄然高いのだ

こんな考えを突きつけては美琴たち―――特に初春に確実に嫌悪されてしまうだろう

 

そこまで考えて―――そんな思考に埋没する自分に嫌気がさした

 

一度気になると気になって仕方ない

そんな可能性もある、という事にしてとりあえずアラタはベッドに横になった

とりあえず目を閉じて寝ようと心掛けようとしたその時、テーブルに置いた携帯が鳴った

こんな時間に誰だよもう、と思いながら携帯の画面を見るとその画面には御坂美琴の名前があった

 

<もしもし? …もしかして寝てた?>

「いや、大丈夫だよ。…どうした」

 

話を聞くとどうやら美琴も自分と同じ仮説に至ったらしい

そしてわずかではあるが、春上に疑念を抱いてしまったことも

 

<友達を疑うなんて最低な行為だと思うけど…黒子に指摘されてどうもそれが離れないの…>

 

そう小さな声で呟く美琴の声をアラタは黙って聞いていた

そして気づいた

彼女もどこか不安なんだ、と

 

「…じゃあ、調べてみるか」

<え? でも…>

「お前は気にするな。いざとなったら俺が言い出したことにしておく。…それじゃ、また明日」

<ちょ、待ってアラ―――>

 

言葉の途中でアラタは携帯を切った

そして念のために電源を落とし、それをテーブルに軽く放り投げる

 

「…友達を疑う…か」

 

理解はしている

それが最低な行為だということは

 

 

翌日の伽藍の洞にて

少し早めに来て時間を潰していたアラタは鉛筆でもくるくる回して暇を弄んでいた

しかし彼の表情は完全に心ここにあらずと言った感じで、ものすごく無表情だ

 

「…元気ない。どうしたのアラタ」

「あ…ゴウラム」

 

そんなところにとてとてと歩いてくるゴスロリチックな服を着込んだ女の子が歩いてくる

名をゴウラム、自分がクウガとして戦う時に手助けしてくれる心強い存在だ

当初はクワガタのままだったのだが、いつのまにか人の姿へと超変身できるようになっていたのだ

今は割と自由に橙子のところで気ままに住んでいるのだが

 

「…っていうか、元気ないように見えるか」

「うん。あからさまに元気ない。きっとアリスや右京にも言われるよ」

「あー…それはやばいな」

 

まさかそこまで顔に出ていたとは思ってなかった

不意にゴウラムはぽふ、とアラタの隣に座る

彼女にしては何かを言うか考えているようにも見えた

少しして彼女は呟く

 

「…大丈夫だよ」

「え?」

「何があっても、何が起きても…私はアラタの味方だから」

 

その短い言葉は、きっと精一杯頑張ってひねり出した言葉なのだろう

ゴウラムの励ましの言葉に、アラタは思わずくすりと笑みを零す

その仕草にゴウラムはむむ、と顔をちょっぴり頬を膨らませ

 

「なにさ。頑張って慰めようとしたのに」

「いいや、ありがとうゴウラム。ちょっと元気出たよ」

 

ぐしぐし、とゴウラムの頭を優しく撫でながら、アラタは立ち上がる

悩んでいたって仕方がない、とりあえず今は、行動あるのみだ

友達を疑うのはやはり心苦しいが…今はそれしかないのだから

 

 

一七七支部

 

「えー!? なんであたしも誘ってくれなかったのー!? ていうか非番ってあたし聞いてないよ?」

 

そんな感じで初春でと電話をしている佐天

電話から声が聞こえる

 

<す、すいません…! た、たまにはマイナスイオンを吸うのもいいかなって…ぜェ…!>

 

どういう事だか電話の向こうにいる初春は息が切れている

 

「…どうしたの? なんか息荒くない?」

 

<あ、荒い…ですかっ!? そ、そんな事…ないです…よっ!>

 

実際彼女は船をこぎながら電話を春上に持ってもらって通話をしている

じゃあ止まればいいじゃないかと思うかもしれないがこの際触れないでおく

それから少し話してから佐天は電話を切った

 

「ハァ…せっかく遊びに来たのに振られちゃった…」

 

それ以前に本来ここは遊び場ではないのだが

そんな固法の視線を感じ取ったのか佐天は苦笑いを浮かべて

 

「あ、あはは…すいません…! そだ、よかったらあたし何か買ってきましょうか? 冷たい飲み物とか…」

 

佐天がそう言うと国法はうーんと考えて口を開く

 

「そぉね…じゃ冷やし中華と五目炒飯、それからマカロニサラダとエビフライとか…」

 

注文に飲み物が全くないのですけど

そんなやり取りをする佐天らを尻目に黒子と美琴、そしてアラタの三人はパソコンの画面を睨んでいた

三人はこれから春上衿衣の事を調べようとしているのだ

 

「…やっぱり気が引けるわね」

「えぇ。…そうですわね」

「だがここにきて退けない。…美琴」

 

アラタが彼女に視線をやると意を決したように彼女は頷いてパソコンにす、と手をあてる

そして美琴はパソコンに軽く電撃を流し、ハッキングを実行した

改めて美琴は超能力者なのだと改めて思い知る

 

少し時間が経ってやがて画面にウィンドウが表示されていく

最後に春上の顔写真が載ったデータが表示された

書かれてある能力名は精神感応(テレパシー)、レベルは2の異能力者だ

 

「…レベル2ってことはまだ実用の域をでない…やっぱりこの心配は杞憂だったんだ―――」

「いえ、お姉様…これ…」

 

そう言って黒子は画面を指差した

特記事項としてその欄にはこう書かれていた

 

〝特定波長下において、能力レベル以上の力を発揮する〟と

 

◇◇◇

 

ここは自然公園にある、湖のボート漕ぎ場

先ほどまで汗だくになってボートを漕いでいた初春にはベンチで座りながら身に風を受けるこの場所は心地がいい

 

「うーん…風が気持ちいいですねぇ…!」

 

大きく背伸びをしながら初春は春上に声をかけた

彼女は先ほど売店で購入した巻きずしを食べつつ初春に笑顔を見せる

それに笑顔で答え初春も同じように巻きずしを口に運んでいく

 

そこでふと春上が口を開いた

 

「…初春さんには、ちゃんと話しておかなきゃ」

 

彼女は巻きずしを一つ食べ終えると座っていたベンチを立って初春の前に立った

春上は首にかかっていたネックレスを握りしめる

 

「…春上さん?」

「私、友達を探してるの」

 

彼女は続ける

 

「その子とはずっと友達で…よく遊んでて…けどある日突然離れ離れになって」

「春上さん…」

「その子は約束してくれた…。また会えるからって。だから、ずっと待ってた…。けど、待ってるだけじゃダメなの。こうしてる間も。あの子は―――」

 

言葉を遮るように初春は彼女の手を握りしめた

唐突に握られたその手に春上は「えっ?」と目を丸くする

 

「一緒に探しましょう、春上さんのお友達を」

「え…?」

「大丈夫、きっと見つかります! いえ、見つけます!」

 

思わず涙が出そうになった

まだ会って数日しか立っていないのに彼女はこんなにも自分に真摯になってくれている

その優しさに

 

「ありがとう、初春さん。―――っ?」

 

ふと春上は声のようなものを聞いた

春上は初春の手を話し、歩きながら呟く

 

「…どこなの―――?」

「え? …春上さん?」

「どこ…? なんでそんなに苦しんでいるの!? どこにいるのっ!?」

「は、春上さ―――」

 

ん、とまで続くはずの言葉は続かなかった

何故ならつい先ほどまで湖を扱いでいたカップルのボートがどういう訳か中空に浮いているのだ

その光景を見て察する

ポルターガイストだ…!!

そう自覚した時ゴゴゴ、と大きな揺れが初春と春上を襲った

 

◇◇◇

 

一七七支部

唐突にピー、ピーとやかましい音と共にメールが届いた

ちらりと固法に視線をやるが彼女は食べるのに夢中である

今現在彼女の中では〝仕事<食事〟なのか

ハァ、とため息をつきながらパソコンを操作しメールを読んでいく

 

「んっと…第二十一学区の自然公園で…大規模なポルターガイスト!?」

 

思わずアラタは声に出していた

支部の中の空気が張り詰める

そこで佐天が思い出したように

 

「自然公園って…今初春たちがいる場所じゃないですか!?」

「なんだって!?」

 

アラタの声に美琴も黒子も驚く

これはもう、支部でのんびりしてる暇はなさそうだ

 

◇◇◇

 

付近のMARの隊員に聞くと現在初春は病院にいるらしく、アラタたちは案内の下その病院に駆け付けた

その病院に向かう最中ちらりと自然公園を覗いてみたが酷いものだった

木々が倒れ地面に地割れが多く、壊れたボートが山ほどあった

病院に足を踏み入れた時、目の前にはベンチに座っている初春の姿があった

 

「初春!」

 

佐天が声を上げる

彼女の声に気づいた初春が立ち上がりこちらに向かってくる

 

「みなさん…」

「大丈夫? 怪我とかは…」

 

美琴に心配された初春は笑んだままちらりと足の膝を見せる

そこには湿布が張られていた

 

「私はちょっと擦りむいただけです。平気だ、って言ったんですけど…」

「ハァ…よかったぁ…」

「心配したんですのよ? ホントにもう…」

 

そんな三人のやり取りに少し安堵の空気を感じながらアラタはふとこの部屋の中を見渡してみた

一言で表すならやはりというか、怪我人が多かった

恐らくこの場にいる怪我人たちは先ほどの自然公園でのポルターガイストの被害者だろう

一通り見回してアラタはふと思った

春上衿衣の姿が見えないのだ

その疑問に気づいたのか佐天が初春に向かって聞く

 

「…あれ? そう言えば春上さんは?」

「際に搬送されましたから多分どこかに。大丈夫、怪我はしてませんよ。ただ気を失ってしまっていて…」

 

気を失っている。という事はだ

もしかしたらこのポルターガイストが始まる直前、彼女に何かが起こったのではないのか

黒子と美琴と顔合わせ、アラタが少し前にでた

 

「初春」

「? はい、なんですか?」

「ポルターガイストが発生する前、春上に何か変わった事はなかったか?」

「あの…どういう事でしょう…?」

「だからこの前の花火大会みたいなことがなかったかって」

 

彼女は戸惑った表情でアラタを見る

何を言ってるのだろう、という表情で

 

「話が…見えないんですけど…」

「調べたところ彼女はレベル2のちょっと変わった感応系。…もし花火大会に見られたときと同じような―――」

 

「…なんで」

 

ボソリ、と初春が呟いた

それに動じることはなかった

何故なら必ずそう言った反応になると分かりきっていたからである

 

「なんでそんな事調べてるんです。…もしかして、アラタさん春上さんを疑ってるんですか…?」

「…。まぁ。結果だけを言えば、そうなるかな」

 

だがアラタは退かなかった

最低な事とわかっていても

 

「酷いですアラタさん! …春上さんは転校してきたばかりで、私たちを頼りにしてて…不安なんです! それなのに―――!」

「だからって疑わないのは筋違いだよ。…あくまで可能性を提示したまでであって彼女だとは言っていない」

「同じじゃないですか! 隠れて友達を調べたり…あげくに原因にしようとしたり…見損ないました…! アラタさんは、そんな事する人じゃないって信じてたのに…!」

 

胸が痛む

正直そこまで信じてくれたのは嬉しい、がそれを砕いたのも自分だという事にどことなく嫌悪感を抱く

 

「あ、あのね初春さん…、アラタは別に―――」

精神感応(テレパス)が、AIM拡散力場の干渉者になる確率は、ないという訳ではないわ」

 

助け船を出そうとした美琴の声を遮って一人の女性の声がした

振り返るとそれはこちらに向かって歩いてくるテレスティーナの声だった

 

「だけどそれには少なくともレベル4以上の能力値が必要だし、よっぽど希少な能力と言わざるを得ない。…レベル2にその可能性はないと思うけど、ちゃんと検査した方がいいと思うかしら? お友達の名前は?」

「春上衿衣、という人だ」

「! アラタさん!!」

 

間髪入れずその名を口にしたアラタに初春は怒りをあらわにする

その名を聞いたテレスティーナは通信機で部下にいくつか指示を飛ばした

初春は歯を食いしばりながら

 

「あ、あのっ!!」

「友達の潔白の為だと思いなさい。…あと、ここは病院だから、静かにね」

 

テレスティーナにそう論されると初春は俯いた

彼女はどこか、苦い表情をしていた

 

◇◇◇

 

テレスティーナに案内されるまま、五人は先進状況救助隊の本部に来ていた

 

事前に春上は運び込まれていたらしくもう検査は始まっていた

ベンチに行くまでアラタはキョロキョロと周囲を見渡す

メンテナンスをしている駆動鎧とかしっかりとした銃火器とか結構ある

しかしメインは災害救助ではないのか、とアラタは疑問に思った

確かに駆動鎧は瓦礫の中から人を救出するときとかに使いそうな気もするが銃火器はなんだろう

 

(…ここもきな臭いな)

 

大広間へと到着し適当にベンチに腰掛けて報告を待つことにする

その際、アラタの座っている場所と初春の座っている場所がえらく離れていて妙に気まずい空気が美琴や佐天、黒子を襲う

 

「検査が終了したわ」

 

しばらくしてテレスティーナが戻ってきた

彼女に真っ先に向かって言ったのは初春である

 

「そ、それで、あの…春上さんは!?」

「慌てないで。結果が出るまでもう少しかかるの。ついてきて」

 

テレスティーナに言われるままに彼女たちとアラタはついていく

 

案内された場所はテレスティーナの自室、と思われる場所だ

室内は結構広く、棚の上には可愛らしい小物が置いてある

ちなみに美琴は早速その小物に釘づけだ

あとで聞いたところによるとこれらはすべてテレスティーナの趣味らしい

 

「改めて自己紹介するわ。私は先進状況救助隊付属研究所所長のテレスティーナです」

「…所長…って、もしかしてMARの隊長も兼任なさってるんですか!?」

 

驚いた様子で美琴がそう問うと笑顔で彼女は頷いた

 

「そう言えば、白井さんと鏡祢くん以外は名前を聞いていなかったわね、貴女名前は?」

「え…あ、と…御坂美琴です。そして彼女は―――」

「さ、佐天涙子です…」

 

おずおずといった感じで二人は名前を名乗っていく

美琴の名前を聞いた時テレスティーナは驚いた表情をして

 

「まぁ…常盤台の? こんな所で出会うだなんて…。案外、学園都市も狭いわね」

 

そう笑顔で美琴を見たあと、今度は初春を見て―――

 

「風紀委員一七七支部所属、初春飾利です!」

「あら? じゃあ白井さんと鏡祢く―――」

「あの! 春上さんは干渉者じゃ…犯人じゃないですよね!?」

 

あまりの剣幕にテレスティーナは驚きつつも笑顔を崩さず

 

「―――試してみようかしら?」

「え?」

 

テレスティーナは徐にポケットに手を伸ばすとそこから筒状の容器に入ったマーブルチョコを取り出した

 

「貴女、好きな色は?」

「…なんでも好きですけど、強いて言うなれば黄色です」

「黄色ね? OK」

 

そう言ってテレスティーナはシャカシャカとマーブルチョコの入った容器を振る

少し振った後でテレスティーナは初春に手を出させた

怪訝な顔をする初春の手に彼女はチョコを容器から一つ、出した

出たチョコの色は黄色だ

 

「あら? 幸先いいわね」

 

『…は?』

 

何だか意味が分からなかった

 

◇◇◇

 

その後しばらくして彼女の検査結果がコピーされたプリントを持った研究者が入ってきた

 

「結果が出たのね?」

「はい」

 

そう言って研究者はプリントをテレスティーナに手渡した

「どれどれ…」と言いながらテレスティーナはそのプリントを見ていく

しばらくして彼女は笑顔を作った

 

「安心して。彼女は干渉者じゃないわ」

 

その言葉に皆が安堵したような溜息をもらす

アラタも顔には出さなかったが、それでも一つだけ聞いていないことがあった

 

「彼女はレベル2の精神感応(テレパス)、受信専門のね。自ら発することはできないわ」

「しかし書庫(バンク)には特定条件下に至っては能力値以上の―――」

「アラタさん!! まだそんな事…!!」

 

このままではまた口論してしまう事を予期したのかテレスティーナは目を細めて

 

「検査結果を見ると、どうやら相手が限られるみたいね。その人物に限って、距離や障害物の有無に関わらず、確実にとらえることが出来る…。けど、いずれにしても彼女は干渉することなど出来ないわ」

 

それを聞くと初春は満面な笑顔を浮かべて

 

「ほ、ほら! ほらっ!」

 

周囲に向けて初春は喜びを振りまいた

そんな初春にアラタは

 

「いや、違うなら違うでいいんだ。…悪かった、初春」

「ふぇ!? あ、い、いえ…そう真っ向から謝られると…えっと…その…」

 

流石に初春も困り顔である

別にアラタも彼女が犯人だと思ってはいなかったし結果が分かってむしろすっきりした

そして目の前のこの女に悟られないように瞳だけでテレスティーナを見る

アラタはこの女だけは如何せん信用できない

…本能によるものだろうか

 

 

その後テレスティーナに案内された場所は春上衿衣の病室だった

そこにはベッドくらいしかなく、まさしく安静にするための部屋だった

現在、彼女はベッドで寝ており、目を覚ますのはもうしばらくかかるかもしれない、とはテレスティーナの言葉である

 

少し経って、彼女が目を覚ました

 

「春上さん…」

 

彼女はゆっくりと上半身を起こすと頭を押さえる

 

「私、また…」

「大丈夫ですよ、心配しなくていいですから…、あ、そうだ…あと、これ」

 

初春はポケットからネックレスを取り出して春上に渡す

春上はそれを彼女から受け取ると笑みを見せる

 

「ありがとう…友達との、思い出で…」

 

そのネックレスの先にはロケットのようなものがあり、春上はその部分を大事そうに握りしめる

 

「友達って…探してるっていう…」

「うん。声が、聞こえるの」

「声?」

 

美琴の言葉に春上はうん、と頷いた

それは彼女の能力である精神感応(テレパス)によるものだろう

 

「たまにだけどね? …それを聞いてるとボーっとして…」

 

つまり花火大会の時も彼女はその声を聞いていたのだ

そして完全に彼女は無関係だと悟る

その時、窓際で身体を預けていたテレスティーナの表情がわずかではあるが強張った気がする、がそれに気づくものはいなかった

 

「そのロケットの中に何か入ってるんですか?」

 

春上は頷いてそのロケットを開いた

付近にいた美琴と初春、アラタは彼女の手元を覗き込んで

 

「…っ!?」「…なっ」

 

美琴とアラタは息を呑んだ

 

春上のロケットの中身は写真だった

写真の中に映っている人物は黄色いヘアバンドをしたオールバックの女の子

その女の子をアラタと美琴は知っている

いや、正確には、知ってしまったのだ

そうだ、彼女の名前は―――

 

「〝枝先絆理〟ちゃんって言うの」

 

思わず声に出して驚きそうになったがそのことはここにいる人の中でアラタと美琴しか知らない

声に出したい気持ちを抑え、美琴はアラタに目で視線を送る

その視線にアラタは小さく頷いた

そんな二人の驚きを知らず、春上は続ける

 

「…私もね、置き去り(チャイルド・エラー)なの」


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