全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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超電磁砲一期終わるまではこんなもんです

誤字脱字見かけたら報告ください

ではどうぞ


#10 木山せんせい

木山の操る車が道路を駆け抜ける

疾走感漂うその車内で佐天は初春と木山の会話に耳に澄ませていた

 

「演算、装置?」

「AIM拡散力場を媒介にしたネットワークを構築して、複数の脳に処理を割り振ることによってより高度な演算をすることを可能とする。…それが幻想御手(レベルアッパー)の正体だよ」

 

口調は淡々としたものだったがそれは冷静に考えて恐ろしい事ではないか?

もしかしたら自分も一歩間違えばそう言った道具になっていたのでは、と考えると背筋が凍る

 

「…どうして…!」

 

ぎゅ、と悔しさを現すかのように初春がスカートの裾を握りしめる

木山は変わらぬ表情でまた淡々と言葉を続けていく

 

「ある目的のために樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用許可をしたのだが、どういう訳か断られてね。代わりになる演算装置が必要だった…」

「…代わりになるって…!?」

 

呟くように佐天が会話に割って入った

木山はちらり、と佐天に視線を向けたあとまた前を見る

 

「一万人ほど集まった。…十分代用してくれるさ」

 

代用、という言葉に反応したのは初春である

まるで人を道具としか見ていないその発言に怒りを抱いたのは佐天だって同じだ

彼女らの視線を感じたのか小さく笑いを浮かべながら

 

「…ふふ。そう怖い顔しないでくれ。もうすぐ全部終わる、そうすれば皆解放するさ」

 

そう言いながら徐に木山は白衣のポケットに手を突っ込んだ

数秒ほど探すようなしぐさの後に取り出したのは一つの音楽プレーヤーと一枚のメモリースティックである

す、とそれを初春に渡しながら

 

幻想御手(レベルアッパー)をアンインストールするプログラムだ。…君に預ける」

「えっ…!?」

 

耳を疑った

行動の意味を理解するのに少々時間がかかる

…彼女が言うすべてが終わったらこれを使えとでもいうのだろうか

 

「後遺症などはない。すべて元通り…ハッピーエンドと言う奴だ」

「いきなりこんなの出されて、信用しろっての!?」

 

一瞬心が動きかけるが、佐天の言葉で持ち直す

そうだ、この人は幻想御手(レベルアッパー)を開発しそれをばらまいた張本人だ

もしかしたらこれもなんかの罠かもしれない、という一抹の不安はどうしても拭いきれるものではない

 

「佐天さんの言うとおりです、唐突に渡されても、気休めにもなりませんよっ!」」

「…ふふ。手厳しいな…、む?」

 

ふと単調な電子音が耳に聞こえてきた

木山がそこに顔を向ける

向けた先はカーナビのようなものでその画面には赤い文字が表示されている

 

「もう踏み込まれたのか。…君たちとの連絡が途絶えてからにしては、早すぎるな。別ルートでたどり着いたのかな」

「…どういうことですか」

 

初春の問いに木山は「うん?」と短く呟いた後

 

「一定の手順を踏まずに起動させると、セキュリティが動くようプログラムしておいたんだ。…これで幻想御手(レベルアッパー)に関するデータはすべて消えた。使用者を起こせるのは、君の持つそのアンインストールプログラムだけだ」

「えっ!?」

 

思わず手元にあるプログラムに視線をやり、そのあとで思わず佐天と顔を見合わせる

もしそれが真実なら無下にはできない、いや、本人が言うのだ

恐らくそれが事実だろう

 

「大切にしたまえ」

 

最後にそう呟いたのち、車の中での会話は途切れた

何とも言えぬ空気を醸し出しながら木山の車はその走りを加速させていく

 

 

しばらく走っていたら急に木山が急ブレーキをかけた

割と速度も出ていたので一瞬ガクンッ! となったがシートベルトをしていたおかげかそれでのダメージは少なかった

何事か、と思いフロントガラスの先を見てみるとそこにはアサルトライフルを構えた大勢の警備員(アンチスキル)姿があった

 

それを掻き分けるかのように一人のスーツ姿の男性が前に歩きながら拡声器で

 

<「木山春生、だな」>

 

落ち着いたような声色で男は聞いてきた

その男の視線は車の中にいる木山に向けられている

 

「…警備員(アンチスキル)、か。上層部(うえ)から連絡が入ったときだけは、動きが早いものだ」

幻想御手(レベルアッパー)頒布の被疑者として拘束する。速やかに車から降りてもらおう」

 

そんな木山の呟きをかき消すかのようにそう男が拡声器でそうしゃべりかけた

 

「…どうするんです? 年貢の納め時ですよ?」

「降参した方がいんじゃないですか?」

 

そう二人に言われるものの木山の表情は変わらない

むしろうっすらと笑みさえ浮かべて

 

「…幻想御手(レベルアッパー)は、人の脳を使用した演算機器を作るためのプログラムだ」

 

そう呟くように口にした

その言葉が何を意味するか分からず初春は佐天と顔を見合わせてまた木山へと視線を戻す

 

「しかしそれと同時に、使用者にある副産物をもたらしてくれるのさ」

「?」

「…面白いものを見せてあげよう」

 

 

ほどなくして木山は車から降りてきた

見たところ何か武器を隠しているわけでもなさそうだがそれでも油断することは出来ない

矢車は再び拡声器を用いて

 

「そのまま両手を頭につけて、地面に伏せろ。…人質の安否は?」

 

そう言って矢車は自分の隣にいる部下、影山シュンへと首を向ける

視線を投げられた影山は双眼鏡で車の中を確認している鉄装へと視線を向け、同時に鉄装は頷いた

 

「人質の女の子たちは無事です。両方異常は見られません」

「…よし、確保だ」

 

矢車の一声で警備員(アンチスキル)の部隊がじりじり、と距離を詰め寄る

ゆっくりとではあるが着実に詰める

このまま何もなければ―――そう思っていたその時だった

 

 

 

ダァン! と一発の銃声があたりに響き渡った

 

 

 

「貴様っ!?」

「何を!?」

 

それは警備員(アンチスキル)のうちの一人が仲間に向けて発砲したものによるものだと理解するのに時間がかかった

 

「違う!! 俺の意思じゃないっ! 信じてくれ!」

 

たった一発の銃声が引き金となり、部隊は混乱の坩堝へと突入していく

そんな混乱を狙ってか、ふと木山はこちらに向かって手を突き出した

そしてゆっくりと何かを潰すように少し掌を動かすと

 

 

ヒュオォッ! と風をその場に巻き起こし始めた

 

 

「何!?」

「能力者だと!?」

 

黄泉川と矢車が叫んだその時には木山は風の中で不敵な笑みを浮かべていた

 

巻き起こる烈風

吹き荒れる砂嵐

 

「黄泉川! 鉄装、影山と一緒に残っている部隊を率いて一度退くぞ! このままでは―――分が悪すぎる…!」

 

 

橋の方で大きな爆発が聞こえた

その爆発から察するに交戦でもしているのだろうか、とも思ったが考察は後だ

アラタはビートチェイサーをどこか適当な場所に停め、エンジンを切る

 

後ろでは美琴が黒子と電話でやり取りをしている

今の自分に出来るのは美琴の道を作る事だ

彼は先導し立ち入り禁止と看板が張られた金網の扉を思い切り蹴破ってぶっ壊す

状況が状況だ、大人も許してくれるだろう

 

「彼女、能力者だったの!?」

 

そんな美琴の驚きの声が聞こえてくる

となると橋の上で戦っているのは間違いなく木山晴生だ

相手は警備員だろうか

いずれにせよ危険なのは確かである

しかし一体どういう事だろうか、木山晴生が能力者などという情報はなく、書庫(バンク)のデータにも載っていなかったハズだ

 

「そんな! 能力者に一能力者に一つだけ! それに例外はないはずじゃ…!」

 

一つだけ?

それはつまり木山はいくつかの能力を使用しているという事なのだろうか

もしそうだとするならば木山は実現不可能と言われた多重能力者…

 

考察しながらカンカンと鉄でできた階段を走って上がっていく

やがて美琴も電話を終え、アラタの後ろへと追いついた

階段を登り終えた二人の視界に最初に入ってきたのは―――

 

 

視界に広がってきたのはまさしく地獄絵図

幸いにも死人などが出ていなかっただけでも十分奇跡だろう

 

警備員(アンチスキル)が、全滅…!?」

 

倒れた車両、ボロボロの道路に立ちこむ煙

それだけで何がこの場所で起こったのか容易に想像できた

 

「おい美琴!」

 

周囲を見渡している内に何かに気づいたアラタは指をさして叫んだ

美琴もそれに釣られて指をさした方向を見やるとそこには一台の車があった

そしてその車内の中には二人がよく知る人物の姿があったのだ

 

「初春さん! 佐天さん!」

 

思わず駆け寄って中の二人を確かめる

 

「気を失ってるだけみたいだな…」

 

様子を見る限りそんな感じだ

しかし同時に気持ちを切り替える

そうだ、すぐそばにはこの状況を作った張本人、木山春生がいるのだ

 

「来たようだね。…御坂美琴に鏡祢アラタ」

 

不意に背後の方で声がした

三人が振り向くと煙の中から一人の人影が現れる

ポケットに手を入れたその姿からは正直気迫にかけるが、身に纏う気配は研究所出会った時とは全然違った

外見にも多少ではあるが変化しており、よく見ると左目が充血しているように真っ赤だった

アラタと美琴は身構え、いつでも雷撃を繰り出す準備をする

そしてアラタもいつでも駆けるように身構えようと―――

 

「―――む。君は変身しないのか?」

 

まるで生徒の間違いを指摘するかのように木山はアラタに向かってそう呟いた

一瞬アラタは何を言われたのか分からなかった

当然だ

アラタは木山に変身を見せたことはないし、研究所を潰すときだって監視カメラには細心の注意を払っていたはずなのだが

 

「何を言っているのよ! アラタは無能力者(レベル0)よ!? 能力なんか何にも…!」

「…あぁそうか、彼女には黙っているのか。…となると、あの風紀委員(ジャッジメント)の同僚にもいっていないんだね。…まぁ、当然か」

 

アラタの戸惑いを知ってか知らずか木山はぐんぐんと話を進める

いや、それ以前にどうして彼女には自分の正体が割れているのだろうか

そしてこの状況で一番戸惑っているのは隣にいる美琴自身のはずだ

 

(…ま、いいや。どうせバレるのも時間の問題だったし、むしろいいタイミングだ)

 

いずれにせよ正体がバレたのは自分の責任だ

それに、いずれバレるとは思っていた

ただそれが、早まっただけの事

今更後には退けない

 

「…美琴」

「な…何?」

「文句とかは、後でな」

 

彼の表情から何かが伝わったのか美琴は戸惑いを隠せないままそう聞き返した

直後内側から浮き出るように彼の腰に〝アークル〟と呼ばれるベルトが顕現する

そのベルトを見て思わず美琴は息を呑んだ

そんな美琴を一度視界に入れたのち、再び木山に向き直り、右手を自身の左上に突き出し、左手はアークルの右上に軽く添える

 

「変身っ!」

 

アラタはその姿を変えていく

 

数秒の一瞬の静寂が訪れる

そこにはいつぞや初春たちが見せてくれた映像に映っていた都市伝説の姿があった

確か、名前は仮面ライダー

 

「よっし美琴。行くぜ?」

 

美琴は頷く

驚くには驚いたがそのことを追及するのはまた後だ

 

「…ええ。わかったわ」

 

変身したアラタの言葉に頷きながら構える

その光景を眺めていた木山は「ふふ…」と笑みを浮かべ

 

「…あえて問おう。…君たちに、一万の脳を統べる私を止められるかな?」

「止められるか、…だと? 決まってる」

「そんなの…! 当たり前でしょ!!」

 

美琴の叫びに呼応して一気に三人は木山に向かって駆け出した

これ以上、被害を拡大させるわけにはいかない

 

 

くん、と一瞬ではあるが木山が充血したかのような左目を細めた

何か来る、と判断したその時はそれぞれ行動を起こしていた

頭が理解する前に本能でそれぞれ前に飛び込んだ

瞬間、先ほどまで自分たちがいた場所がぽっかりと穴が開いていたのだ

 

「ちっ!」

 

美琴の雷の援護を受け、クウガが木山に向かって一つ蹴りを叩き込む

生身の人間に繰り出すのは御法度だが、油断していたら倒されるのは自分たちだ

 

「流石に早いな。…だが」

 

放たれたキックは木山に届くことなくその攻撃は見えない壁のようなもので防がれた

ガキンっ! とまるで本物の壁に蹴ったかのような感覚を感じ、クウガは驚愕する

 

「念動力…!? ―――!!」

 

直後、大きな爆発が生じた

爆発を予想することができず、爆炎の一撃をモロに食らってしまい、クウガは後方にゴロゴロと転がりながら体勢を立て直す

発火能力、なのか?

いや、どちらかというよりは、爆発能力(エクスプロージョン)と言った方が正しいかもしれない

どちらにせよ厄介なことに変わりはない

一度距離を取ったクウガの背後からと飛び出すように美琴が現れる

その手にはバチリ、と雷を迸らせ

 

「これなら、どう!?」

 

迸らせた雷撃の槍を木山に向かって真っすぐ撃ち出した

放たれた一撃は直線となって木山に襲いかかるがその雷は木山に当たる寸前でかき消される

どうやら直前で念動力か何かの壁に当たりそのまま相殺させたのだろう

しかし避雷針か何かを生み出す能力は今のところなさそうだ

もしかしたらあるのかもしれないが、被害者にはその能力を所持する人物がいなかったのか

 

「なら…!!」

 

美琴は再び右手に雷を迸らせ大きく弧を描くように地面に雷を走らせる

バリバリ、と音を響かせて木山の視界を遮るように煙が浮き上がる

 

「…む?」

 

木山は一瞬訝しんだ

しかしそれだけという理由だけで気を抜くわけにもいかない

彼女は煙が収まるのを待った

瞳を細くしながら警戒心をあらわにする

どこから来る?

いや、それ以前に―――もう一人はどこにいる?

 

「上か!」

 

殺気を覚え木山は念動力の壁を作る

途端にその壁に何かがぶち当たったような衝撃が駆け巡った

それは誰なのかなど、確かめるもでもない

 

「っぐ…! っ!!」

 

木山は一気に一瞬壁を解き、そのまま波動を生み出しそいつを直撃させる

 

「のわっ!?」

 

そいつは飛び退いたことによって威力を軽減させる

そのまま彼は美琴の隣に移動して、持っていたロッドをシャン、と構えた

 

「…少し考えればわかったものを。うっかりしていたな」

「まさか直前までバレないなんて思わなかったよ」

 

男―――クウガは赤い姿から青い姿へと変化していた

…どうやらあの青い姿は素早さを増すようだ

そして手に持ったロッドはその反動で低下した腕力をカバーするもの…

 

「それにしても、ホントにいくつもの能力が使えるのね…!」

「あぁ、多重(マルチ)能力《スキル》ってやつか?」

 

ふふふ、と木山は小さく笑んだ

そんな彼女の姿にムッと来たのか、美琴はこちらを見て言ってくる

 

「アラタ!」

「え、お、おう!」

 

正体が露見してしまったといえど、彼女はいつもと変わらない表情を見せてくれる

それが少しだけ嬉しかった

そんな事を思いながらクウガは手に持ったドラゴンロッドを大きく振りかぶり、そのロッドに美琴の雷撃を纏わせた

振るわれたロッドは木山に届くことなく、彼女の周囲に展開されたドーム状のバリアに阻まれた

 

「!? これも念動力か!?」

「どう捉えるかは君たち次第だ。…こんなのはどうかな?」

 

不敵に笑みを作った後何か音波のような波動が周囲に発せられた

なんだ、と考える暇もなく突如として地面が崩壊する

ガガガ! と音を立てながら態勢を立て直しながらクウガは美琴の手を引いた

 

「わ!?」

 

半ば強引にこちらに引き寄せ彼女を抱き寄せる

崩壊する瓦礫を背後にクウガはその橋の下に着地し、美琴を傍らに下ろす

下ろされた美琴は「ありがと」と小さく声を呟いて同様に木山へと視線を見やった

一方で木山はポケットに手を入れながら軽く息を吐いた後

 

「…。もうやめにしないか? 私はある事柄を調べたいだけなんだ」

 

何を思ったのか唐突にそんな事を言い出した

三人が怪訝な表情を浮かべる中、木山は続ける

 

「それが終わればすべて解放する。…誰も犠牲にはならない―――」

「ふざけるな!」

 

木山の言葉を遮って叫んだのはクウガだ

当然である

ここまで大多数の人間を巻き込んでおきながら今更犠牲はださない、と言ったのだこの科学者は

 

「…確かに犠牲は出てないかもしれない。けど被害は出てんだろうが!! …他人(ひと)の心をもてあそぶような奴を、見過ごすわけにはいかないんだよ」

 

彼の言葉に同意するように美琴も頷きながら木山を睨みつけた

その光景を見た木山はやれやれというように髪を掻きながら

 

「…やれやれ。やはりライダーや超能力者(レベル5)と言えど、所詮世間知らずの子供、か」

『アンタにだけは言われたくないっ!!』

 

美琴とクウガの声が見事にハモった

ところ構わず脱ぎだすような女に世間知らず、とか死んでも言われたくない

そんな言葉を受けてもなお、木山は冷静に彼女はクウガと美琴、両方を見ながら

 

「…君たちが日常的に受けている能力開発。それが本当に安全で人道的だと、思ってるのかな」

「…何が言いたいんだ」

 

その場を代弁するかのようにクウガが問いかけた

問われた木山は頭を掻いていた手を再びポケットに仕舞いながら

 

「学園都市の上層部は、能力に関する重大な〝何か〟を隠している。…それを知らずにこの町の教師たちは、学生の脳を、改造(かいはつ)してるんだよ」

 

妙にニュアンスの籠った言い方に背筋がぞくりと震えあがる

もし本当に何か裏があって、それを知らずに自分たちが毎日開発されているのだとしたら

 

「…へぇ。なかなか面白い話じゃない」

 

その話を聞いてもなお美琴は怯まなかった

彼女自身興味はあるのだろうが、優先順位を目の前と決めただけなのだろう

彼女は地面へと手を伸ばしながら

 

「アンタを捕まえた後でその話、たっぷり調べさせてもらうわっ!!」

 

バチバチっ! と雷を走らせて砂鉄を一斉に槍へと変えた彼女の攻撃は真っ直ぐに木山へと向かっていく

 

「…残念だが、私はまだ捕まるわけにはいかないのだよ」

 

対する彼女は手をポケットに突っこんだまま周囲の瓦礫を操ってその砂鉄の攻撃を受け止めながらそのへんのゴミ箱を彼女たちの周囲へとばら撒いた

 

「なんだ!? 空き缶!?」

「いや、これは…!」

 

その空き缶のほとんどが〝アルミ缶〟

アルミ缶、と言えば―――

 

虚空爆破(グラビトン)だ!」

 

自分たちの上空にある空き缶は数えきれないほどだ

緑になれば撃ち落とせ―――いや、無理だ

 

「さぁどうする。流石にこの数は対応しきれていないのではないかな…」

「舐めんなっ…! 私が全部、吹き飛ばすっ!!」

 

小さく笑みを浮かべたのち彼女は上空に無数に位置するその空き缶へと雷を放電する

雷を受けた空き缶は連鎖的に爆発を起こしどんどんと数が少なくなっていく

その圧倒的な姿を見てクウガは改めて彼女は|超能力者なのだと思い知らされる

そして、カッコいいじゃんか、とも

 

「…すごいな。…だが」

 

一方でその光景を見ていた木山も似たような感想を考えていた

しかし彼女は手にあった空き缶を転移させる

どこか、などはわかりきった事

 

「はぁ、はぁ…! どう!? もう終わり!?」

 

やがて全てを破壊し終えた美琴の表情にはやや疲れの表情が見て取れる

しかしそれを感じさせない辺り流石だ

 

「相変わらず、やるねぇ」

「…ありがと。一応賞賛はもらっとく―――」

 

そう言いかけたところで言葉が止まった

油断しきっていた二人の目の前に一つの空き缶が出現したのだ

介旅で大能力クラス…

木山ならその上のレベルでの威力を撃ち出すことが出来るはず―――!

そう考えに至ったクウガは美琴の前に出て―――

 

 

ドォォォンッ!! と大きな爆破が木山の前に広がった

黙々と広がる黒煙に向かって木山は誰にともなく言葉を紡ぐ

 

「…てこずるとは思っていたが、こんなものか」

 

不意を突いたといえどこうもあっさり終わるとは

拍子抜けにもほどがある

近づいてみると紫色のクウガが美琴を守るように抱きとめて倒れている

 

「恨んでもらって構わない」

 

一瞥すると木山は踵を返して歩き出した

…そういえば、いつの間に紫色に―――紫色?

 

 

ガシッ、と背中から誰かに掴まれた

 

 

自分を掴んだのは他でもない御坂美琴だ

今しがたようやく理解できた

なんで倒れている時に見抜けなかったのか

 

「介旅の時は防げたけど、流石にアンタのはちょっと堪えたね」

 

どうやら油断していたのは自分の方だったようだ

しかし拘束されていようと能力を行使してあがくことはまだできるはず

そう思いたった木山は同じように電気の力を用い周囲の砂鉄を固形化し―――

 

「遅いっ!!」

 

木山の表情がハッとするのも束の間

バチバチッ!! と大きな音を上げ木山が痛みを堪えるかのように声を張り上げた

このまま近くにいては巻き込まれかねないのでクウガは変身を解き、少し離れた位置に移動する

やがてその雷は終わり、ぐったりとした木山を彼女は支えながら

 

「…一応、手加減したからね」

 

―――せんせいっ―――

 

「っえ…?」

 

唐突に頭の中に声が響いた

それは子供の声だった

まだ幼く、小学三年生くらい、だろうか

 

それは付近にいたアラタにも聞こえていたようで

 

「なんだ…これは木山の記憶なのか?」

 

だとしたらどうして電気を介していない自分たちに繋がったのかが説明できない

しかし頭に響いてくる声は変わらない

 

(…霊石が何か拾ったっていうのか…?)

 

そう言われてアラタも自身のベルト出現位置の所を見る

あり得ない話ではないかもしれないが、どうも信じられない

…いや、この霊石(アマダム)ならあり得ない話じゃないかもしれない

そう考察するうちにも徐々にその声は鮮明に聞こえてくる

 

はっきりと、親しみが込められたその言葉

 

 

―――木山せんせいっ―――

 

◇◇◇

 

 

「私が、教鞭を…?」

 

最初その話を聞いた時木山春生は耳を疑った

自分のような無愛想な女などがそのような事来るはずないと確信していたからだ

しかしそんな木山の想像とは裏腹に目の前の老人、木原教授は朗らかな笑みを崩さない

 

「君は、教員免許を持っていたよね?」

「確かに持っていますが…しかしそれはついでに取ったようなもので…」

「なら問題はないじゃないか」

 

そう言って教授は老人特融の優しげな笑顔をする

しかし今現在している研究を手放してなど…

 

「別に研究から離れろと言っているわけではないよ」

 

教授は腰掛けていた椅子から立ち上がり窓から見える景色が見える位置に移動する

 

「…あの子供たち」

 

教授が視線を移したその先には元気よく遊ぶ子供たちの姿があった

彼、あるいは彼女たちは勢いよくボールを蹴っ飛ばして校庭を走り回っている

…こんな炎天下なのに、元気だな、と思わずその時の木山は思ってしまっていた

 

「彼らはチャイルドエラーといってね。何らかの理由によって捨てられた、身寄りのない子供たちだ」

「…はぁ」

「そして今回の実験の被験者でもあり、君が担当する生徒でもある」

「…え!?」

 

あの子供たちが自分の?

…気が合うとは思えない、そもそも自分は根っからの根暗に近い性格だ

奔放な少年少女についていけるとは…

 

「実験を成功させるには、被験者の詳細に成長データを取り、彼らのコンディションを整えておく必要がある。それらの事を踏まえると、担任として受け持った方が効率がいいでしょう」

「…それは、そうかもしれませんが」

 

そう言われると言い返せない

少し木山は悩む素振りを見せた後、仕方なく教授の申し出を受け入れた

 

 

そうして、私の教師としての生活が始まった

教室内にかつかつ、とチョークで黒板に書く音がする

やがて私は自分の名前を書き終えると改めて生徒たちとなった子供たちへと向き直り

 

「…えー。今日から君たちを受け持つことになった、木山春生だ。…よろしく」

 

『よろしくお願いしまーすっ!!』

 

…厄介なことになった

もう何度目かと思うその言葉を私は心の中でもまた呟いた

 

 

正直言って私は子供が嫌いだ

デリカシーがないし、失礼だし、イタズラするし、論理的じゃないし、なれなれしいし、すぐに懐いてくる

純粋な好意を向けてくる子供という生き物自体が私は苦手だった

私のような研究者が彼らの好意に応えていいものなのか、と自問自答したほどだ

 

そんなとある日の事だった

雨が降りしきる中傘をさして帰路へとついていた私の目に飛び込んできたのはしりもちをついている枝先絆理という女の子だった

 

「どうした? 枝先」

「あっ…木山せんせい…あっはは…滑って転んじゃった」

 

あはは、と大きな笑みを浮かべておちゃらける枝先

表情こそ笑ってはいるもののその日は雨、しかもどしゃ降りだったために彼女はずぶ濡れだった

―――だから、魔が差したのだろう

 

「…私のマンション、すぐそこだから…風呂貸そうか?」

 

そう言った時の枝先の嬉しそうな顔は忘れられないくらいとてもいい笑顔だった

それもそのはずだ

枝先の施設では一週間の間に二回ほどのシャワーしかない

だからお風呂、などというのは憧れなのだ

 

「ねーせんせい」

「ん?」

 

風呂から聞こえるその声に反応する

 

「私でも、頑張ったら大能力者とかになれるかなー?」

「…今の段階では何ともいえないな。…高能力者に憧れでもあるのか?」

「んー。もちろんそれもあるけどー…」

 

その後ちゃぷん、と水面が動く音が聞こえた

そして

 

「私たちは、学園都市に育ててもらってるから。この都市の役に立てるようになりたいなぁって」

 

役に立つ、か

私の行っている研究は、役に立っているのだろうか

やがて彼女もお風呂から上がり、私は眠気覚ましにコーヒーを淹れ居間に戻ると枝先がソファの上ですやすやと眠る姿が視界に入ってきた

 

「…研究の時間がなくなってしまった」

 

口ではそう言いながらも内心悪く思っていない自分がいる

なれとは恐ろしいものだな、とコーヒーを飲みながらソファに座り枝先をちらりと見やる

そんな枝先を見て、思わず口元が緩んでしまう自分がいた―――

 

子供は嫌いだ

 

騒がしいし、デリカシーがない、イタズラするし、論理的じゃない

だけど、共に過ごしていくうちに、そんなのもいいかな、と思えてくる

しかしそんな日々もやがて終わりを迎え、実験の日がやってきた

 

 

木原教授指導の下、係員の行動は迅速だった

私は一人の女の子の下に歩いていき、こんなことを聞いて見た

 

「怖くないか?」

 

問われた女の子、枝先絆理は即答する

 

「全然! だって木山せんせいの実験なんでしょ?」

 

その言葉のあと枝先は満面の笑顔でこう付け足した

 

「せんせいの事信じてるもんっ!」

 

笑顔につられて私も小さく笑みを作る

せんせいゴッコもこれでおしまい、か

そう思うとこれまでの日々がどこか懐かしく思えてならなかった

必ず成功させよう

そう心の中で誓うまでに至るほどに

 

 

 

だけど、現実は残酷だった

 

 

 

響き渡るアラームの音

対処しようと駆け回る他の科学者たち

 

…何が、起こっている?

 

「早く病院に連絡を―――」

「ああ。いいからいいから」

「しかしこのままでは―――」

「浮き足だってないで早くデータを纏めなさい。この実験については所内にかん口令を敷く」

 

耳に入ってこなかった

ただ目の前で起きている出来事(げんじつ)に頭が理解(つい)ていけなくて―――

 

「実験はつつがなく終了した。君たちは何も見なかった。…いいね」

 

有無を言わさぬ迫力で教授は他の研究員に告げる

そして教授は茫然となっている木山の下へと歩み寄りポン、と肩を叩いた

たったそれだけの事のなのに、全身が震えあがった

 

「木山くん。よくやってくれた」

 

よくやった、だと?

そんな、こんな、ことになっていながらよくやっただなんて―――

 

「彼らには気の毒だが―――」

 

そう言いながら教授は笑みを浮かべ

 

「―――科学の進歩(はってん)には、付き物だよ」

 

そこに、かつて見せた笑みはなく、ただただ先を追い求める狂気の笑みがあった

 

◇◇◇

 

「…こと。美琴」

「―――え?」

 

自分の名前を呼ぶ声で美琴はハッとした

目の前にはドサリ、と倒れた木山春生がいる

 

「…どうした?」

 

自分を心配して覗き込んでくるアラタの顔から少しだけ視線を逸らし赤くしながら「大丈夫…」と返答しながらも視線で合図する

 

「っう…見られた、のか…?」

 

頭を押さえながらよろよろと立ち上がる木山を見て美琴を思い出す

そうだ、今はそんな事気にしている場合ではなかった

 

◇◇◇

 

「…道が無くなってる…!?」

「あたしたちが気を失ってる間に、なにが…」

 

意識を取り戻し木山の車から降りた初春を佐天は目の前で起きたことに思考が追いつけていないでいた

今見える視界の範囲で一番目を引くのぽっかりと空いた大きな穴だ

 

「…う! ぐ、あああ…!」

 

その穴の下から誰かのうめき声が聞こえた

声色から察するに、恐らく木山春生のものだろう

二人は頷きあい、その穴へと近づいてその中を見た

 

「あ…! 御坂さん…!」

「アラタさんも…!」

 

ここからでもかろうじてではあるが声が聞こえてくる

その会話の内容を聞くために、二人は耳をすませた

 

◇◇◇

 

「…なんで、あんな事をしたのよ」

 

美琴が確信を突くように誰もが思った疑問を問いかけた

記憶を見る限りでは木山自身もそのことを知らないような素振りを見せていたのだが

美琴の疑問に木山はよろよろと立ち上がりながらも

 

「…あれはね、表向きはAIM拡散力場を制御するための実験とされていた。事実、私もそう思ってた…! しかし実際は、暴走能力の法則解析用誘爆実験だったんだ…!」

 

「…え?」

「…それは、AIM拡散力場を刺激して暴走条件を知るための実験だ」

 

木山の返答に美琴とアラタは愕然とした

 

「…じゃあ、暴走はあらかじめ仕組まれていたってことなのか!?」

 

アラタの声に木山は後ろ姿でありながら頷く

 

「もっとも、気づいたのは後になってからだがね…」

 

よろよろ、と態勢を治しながら木山はこちらを振り返り

 

「あの子たちは今も目覚めることなく眠り続けている…! 私たちはあの子たちを、〝使い捨ての実験動物(モルモット)〟にしたんだ!!」

 

木山は声を張り上げる

悲痛に満ちた叫び、木山本人としてはそんなつもりはなかっただろう

しかし、結果的にはそういうことになってしまったのだ

 

「それなら、警備員(アンチスキル)にでも―――」

「二十三回」

 

アラタの声を遮り木山は何かの数字を口にする

 

「…それ、は」

「あの子たちの回復手段を探るため、そして事故の原因を究明するシミュレートを行うために、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用を申請した回数だ。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算装置をもってすればあの子たちを助けられるはずだった…! もう一度陽の光を浴びながら元気に走らせてあげることもできただろう…!」

 

だが、と木山は続ける

 

「却下された!! 二十三回ともすべてっ!!」

「…そんな…」

 

嘘だろう、と言わんばかりに美琴が呟いた

いくらなんでもそんなに申請をして全部断られるなんてありえない

つまりそれが、意味しているのは―――

 

「統括理事会が共犯(グル)なんだっ!! 警備員(アンチスキル)が動くわけないっ!」

「だからってこんな、一万人もの人間を巻き込んでまで―――」

 

 

「君たちに何が分かるっ!?」

 

 

アラタの言葉を遮った怒号に思わず体が震えた

彼女の瞳には迷いがなかった

彼女は覚悟している

このまま止めなかったら、世界を敵に回してでも彼女は歩みを止めないだろう

世界を混沌に落としてでも

 

「あの子たちが助かるならなんだってする! 悪魔にだって魂を売る!! たとえ世界を敵に回しても!! 私は、諦めるわけにはいかないんだぁぁっ!!」

 

彼女がそう咆哮した直後だった

ドクンっ! と何かが躍動したような音が聞こえた

それと同時に、木山が頭を抱え苦しみだす

 

「な…!?」

「ちょっと…!?」

 

心配する美琴とアラタ

二人の視線を受けながら彼女は小さく呟く

 

「ネットワークの、暴走…!? いや―――これは…―――」

 

そのまま木山はドサリ、とその場に倒れ込んでしまった

思わず駆け寄ろうとした美琴は向かい、アラタは向かおうとしたとき、

 

「いや、待て!」

 

はしっ、と美琴の手を掴む

 

「な、なに!?」

「あれを見てみろ!」

 

アラタに促され

不意に木山の身体から何かが召喚された

まるでRPGみたいに彼女から何かが生まれたのだ

 

「…胎児…?」

 

美琴の呟きは的を得ていた

生み出されたものは赤ん坊の胎児に似ているが大きさは何倍も大きい

内側には何か水色の体液のような目立つ

極めつけは頭にある天使のような輪だ

しばらく眺めていると、その胎児の眼が開き、ぎょろりと三人をその赤い瞳孔が捉える

悪寒が走る

第六感が告げている

こいつは、在ってはいけないものだと

そんな意図を知ってか知らずか、目の前の胎児は奇声を上げた

その言葉は耳で聞きとれるものではなくただの叫びか

まるでこの世に生を受けた赤子のように産声を上げた―――

 

◇◇◇

 

同時刻

 

きぃ、と崩壊した橋に車が停まる

赤い車の運転席から出てきたのは琥珀色の髪色をした女性、蒼崎橙子である

同じように後部座席から飛び出してきたのは右京翔とその相棒アリステラ

反対側の後部座席から、黒い髪の少女も出てきた

 

「…ちょ、なんですか、あれ」

 

倒壊した橋から見下ろす形で右京が胎児を見て呟いた

同じようにアリスも右京の後ろからその胎児を見てみたが、若干青ざめている

 

「さぁな。少なくとも私にはわからん」

 

同じように見下ろしながら橙子はタバコに火をつける

その傍らにとことこと黒髪少女が歩いてきた

 

「いきなり出てきて彼が危ない、と言っていた時は意味がわからなかったが、そういうことか?」

「うん。手助けしなくちゃ」

「あぁ、なら止めはしない。行ってくるといい」

 

橙子に促されて黒髪の少女はうんと頷く

そのやり取りが気になったのか、右京が

 

「え、ど、どういうこと、です?」

「見てればわかる」

 

橙子の返答に意味が分からず、彼は再度黒髪の少女を見た

一度その視線に黒髪少女は合わせ、小さく笑んだあとに彼女はその場から飛び降りた

瞬間彼女の体が光輝き、その姿を黒いクワガタへと変える

彼女の変化に右京とアリスは驚愕し、一人橙子は小さく笑んだ

そのクワガタは羽根を広げ飛んでいく

そこで戦う、相棒の元へ―――


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