蒼の彼方のフォーリズム 彼は挫折の果てに何を見る   作:ソモ産

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お久しぶりでごぜーます。
ソモ産です。

まず一つ、更新が遅くなりまして本当に申し訳ないでごぜーます。

今回はそのお詫びというわけではありませんが、いつもより少し長め。
たくさんの思いを込めて書かせていただきました。

では、どうぞ。

改定
主人公の一人称を『俺』から『僕』に変更しました。


楽しいから…

「さて、それじゃあ練習を始める前に集まってください。」

「「はい!」」

 

真藤先輩の呼びかけに、FC部の全員が返事をして集まる。

すごい、信頼度だ。佐藤院さん話じゃ、真藤先輩はまだ2年生。

 

この中には、先輩より年上の人もいるはずなのに。

誰も、いやそうな顔一つしていない。

それだけ、真藤先輩のFCがすごいってことなんだろうな…。

 

真藤先輩が、部員の方々を集めて僕が指導する旨を説明していく中。

僕の手に知らず力が籠っていることに気づいた。

 

年上の、それも名門高藤に来るほどのFCプレイヤーが認める真藤先輩の技術。

それを僕は間近で見てみたいと思っていた。

 

―――――――

 

「先ほど真藤先輩が言っていた通り

 今日のみなさん練習のコーチをさせてもらいます、笹原です。よろしくお願いします。」

 

高藤学園FC部のみなさんの前で挨拶をする。

それに合わせて、ちらほらと拍手が起きた。

 

そりゃそうだ、いくら真藤先輩からの話とはいえ歓迎なんてされるわけによね。

うーん、やりずらそうだなぁ…。

 

でも!受けたからにはしっかりやり遂げる!

僕にどれくらいの事ができるかわからないけど、精一杯やろう!

そう決め、早速練習に入っていった。

 

「それではまずは、片足立ちで、そうですね3分ほどたち続けてください。」

「「はぁ!?」」

 

僕の最初の一言に、部員のみなさんから一斉に非難の声が上がる。

それもそうだろう、一般的なFCの練習は海上に浮かべた4つのブイを

永遠と回り続けるフィールドフライから始めることが基本となっている。

 

それにより飛行姿勢の安定化と、より激しい練習をするためのウォーミングアップを行っていく。

とても理にかなったいい練習法だと思うけど、俺はそれより前にこれをやるべきだと考えた。

 

FCにおいて飛行時の姿勢というのは、安定した飛行をする上でとても重要になってくる。

それが綺麗であればあるほど速度の上昇や方向転換をスムーズに行うことができるのだ。

そのFCにおける基本ともいうべき飛行姿勢を維持するのは、内転筋や腹斜筋といった体幹。

 

その体幹ができてなければ、どれだけフィールドフライをしても

大きな効果は得られないし、怪我のリスクが高まるだけ。

つまり無駄ということになる。

 

今回僕がみなさんに、指示した片足立ちもこの体幹がどうなのかを確認するためでもあった。

部員の方々を初めて見るわけだし、体幹の程度によって練習する内容は違うしね。

 

といった、僕なりの理由や見解を部員のみなさんに説明した。

すると、あちらこちらでざわざわと声が。

 

よく耳を澄ませると

「なるほど…」だったり「そうだったのか…」と言った感心したような声えがちらほらと。

うし、理解を得られたところで改めて。

 

「それではさっそく、3分間の片足立ちお願いします!」

「「はい!!」」

 

全員がそろって、返事をして、それぞれ片足立ちを始める。

うわ、すっごい期待を感じるなぁ…。

 

果たして僕で、この人たちの期待に応えられるのか。

不安でいっぱいだけど、精一杯やるぞー。

 

そう自分に活を入れ、部員の方々の様子を見て回った。

とはいっても、砂浜という不安定な足場で、3分間片足立ちを続ける。

ほとんどのFCプレイヤーは、できないだろう。

 

ここの部員の方々もほとんどが軸足が、ブレ始めていた。

だから、2分ほどブレずにたててれば上等。

 

と、思ってたんだけど…真藤先輩、全然ブレねぇ…。

あの人に、僕なんかの指導いるのか…?

それに佐藤院さんも、真藤先輩ほどじゃあないけど、ほかの人たちよりブレが少ない。

 

これは…、ちょっとさっき考えたメニューを見直した方がいいかもな。

そんなことを考えていると、ちょうど3分間が終了した。

 

うーん、と見た感じだと部員35人のうち甘く見て、10人ってところか。

思ったより少ないな…、うし!じゃあさっそく

 

「それでは、右端の先輩からちょうどここまでみなさんは右側に。

 残りの方々は、左側にまとまってください。」

「「は、はい。」」

 

さて、ここからが本番っと。

言いずらいなぁ、それも年上の人もいるのに…。

でも、指導をお願いされた以上しっかりやらないと、か。

 

「え、えっと右側に集まってもらったみなさんはとりあえず、

 100m間隔のインターバル走を30本お願いします。」

 

インターバル走とは、全力ダッシュと軽い流しを一定の間隔で繰り返し行うことだ。

多くのスポーツでも取り入れられるこれは、

運動するための体力と体幹を同時に鍛えるのに効果的とされている。

 

ただ一つ欠点が、あまりにも地味そして、辛いこと。

ひたすらに走り続けるというこの練習法は、想像できないほどに辛い。

 

僕はそんな、辛い練習をさせてしまうことに少し罪悪感があった。

FCの名門に入れるほどの人たちだ、それなりにプライドもあるだろう。

だから、反発が来ることを予想していた。

 

けど、指示を出した部員の方々は全員が予想とは真逆の返事を返してきた。

 

「「はい!」」

 

真摯に、練習に取り組もうという気持ちが伝わってくるようなまっすぐな返事。

指示を出した誰一人として、文句を言うことなく3年生の先輩が音頭を取って練習を始めていく。

 

予想もしていなかった事態に、僕は少しの間固まってしまった。

とても重要な練習で、うまくなるためには絶対に必要なものであるのは確かだと思う。

 

けど、ほとんどの人は好き好んでやったりはしない。

それに年下で、どこの馬の骨ともわからないような奴の指示なんて無視すると思ってたのに。

あの人たちは、どうして従ってくれたんだろう…。

 

そんな風に疑問に思っていると、後ろから声をかけられる。

 

「彼らは、FCを心の底から楽しんでるからかな。」

「真藤先輩?」

 

気づくと、僕の後ろには真藤先輩が立っていた。

FCが好きだから…、か。

でも、それは何も言わずに僕の指示に従ってくれることには…。

 

その疑問が顔にも出ていたのだろう、真藤先輩はこう言った。

 

「君にもすぐにわかるよ。いや思い出せる、って言った方がいいのかな?」

「はぁ…」

 

何か含みのある真藤先輩の言葉。

思い出せるって、いったい何を?

どういう意味だったんだろう。

 

言葉の意味を考えようとすると

真藤先輩が苦笑を浮かべながら口を開く。

 

「そんなことより笹原くん、僕たちは何をすればいいのかな?」

「あ!すみません。

 えっとそうですね。まずはフィールドフライを僕がいいっていうまでお願いします。」

「了解。それじゃあみんな、笹原くんの指示通りフィールドフライ、始めるよ!」

「「はい!」」

 

真藤先輩の掛け声で、左に集まってもらった部員のみなさんと佐藤院さんが空へと上がる。

いけない、今はFCの練習の事に集中しないと。

もともと乗り気ではなかったとはいえ、引き受けたからにはやり遂げる。

 

僕は、両手で頬を一度たたいてから目の前の指導に集中した。

 

―――――――

 

「「ありがとうございました!」」

 

部員の方々が俺に、一斉に頭を下げてお礼を言ってくれる。

改めてお礼を言われると、体中がこそばゆくなる。

そもそも、こんな俺の指導でよかったのだろうか…?

 

改めて不安が僕を襲う。

年下で、それもFCなんてここ何年やっていないか。

そんな人間の指導が、高藤で必要だとは。

 

すると部員の列にいた真藤先輩は、一歩前に出て僕に近づく。

 

「笹原くん、今日は本当にありがとう。君の指導は本当にためになったよ。」

「いえ、そんな僕の指導なんか、大したことないですって…」

 

真藤先輩は、そんな風に言ってくれるけど実際大したことない。

僕が今日の練習で指導したことはただの基礎づくり。

特別な技術とかの指導なんてできていないわけだし。

 

俺が、そんなようなことを伝えると

真藤先輩は真剣な表情になり、もう一度口を開く。

 

「その当たり前のことを指導することが難しいんだよ。

 現にうちの今の監督はできていないしね…。」

 

確かに、基礎ってのは難しい技術みたいに派手ではないし。

目に見えて効果がわかるようなものではない。

それで、派手ですぐに効果がわかる難しい技術を覚えたくなる気持ちは、すごくわかる。

 

けど、それだといつか限界が来る。

身体もそうだし、実力的にも。

基礎が出来ていなければ必ず壁にぶち当たる。

だから基礎は大切で、とても練習されにくい部分ではある。

 

「そう思ってくれたなら幸いです。それじゃあ僕はこれで」

「うん、本当にありがとうね。それとこの間のお願いの返事、期待してるから。」

 

そういって、練習場から離れていくと後ろから誰かの足音が。

振り向くとそこには、息を切らした佐藤院さんがいた。

 

「ちょ、ちょっと!なんで先に帰るんですの?」

「え?だって、まだミーティングがあるって言ってたし…」

 

高藤のFC部は練習の後に必ずその日の振り返りをするらしい。

どうすれば今日より効果的な練習ができるのか、どうすれば部の実力を底上げできるのか。

そういったことを部員全員で、アイデアを出し合って形にしていく。

 

部全体の結束力を高め、それぞれの自主性を養うとてもいい手段だ。

 

「だから、部員になった佐藤院さんも参加すると思ってたんだけど…」

「何を言っていますの?わたくし、まだ入部していませんわよ?」

「え、だって…」

「わたくしが入部届を出すのは、笹原さんが答えを出してからですわ。」

 

佐藤院さんの言葉に思わず僕は顔をそらす。

 

なんだよ、ホント…。

佐藤院さんはずるいなぁ、こんなことを簡単に言えるなんて。

本当にすごい人だよ。

 

佐藤院さんは僕の隣へ来ると、フッと表情を緩めてこういった。

 

「それじゃ、帰りましょうか。笹原さん」

「だね、帰ろっか」

 

2人並んで、校門へと歩いていく。

そういえば、色々あったけど佐藤院さんと一緒に帰るのって初めてだ。

 

あまり落ち着いて話す機会はなかったしな。

それもそうか。

 

「……」

「……」

 

二人で何も話さないまま、黙々と歩く。

うーむ、気まずい。

 

何か話さなければ、でも何を…。

あ!そうだ!

 

「ねぇ、佐藤院さん聞いてもいいかな?」

「何をですの?」

「いやね、佐藤院さんってFCいつから始めたのか気になってさ。さっきだってすごく安定した飛行してたし。」

 

そう、佐藤院さんが真藤先輩の次に体が安定していたからだ。

細かい技術とか、引き出しの量とかはそこまでではなかったけど、一番鍛えるのが難しい基礎。

 

それをどのくらいで身につけたのか。

僕はそれが気になっていた。

 

「お遊びでは幼い頃からやってましたが、本格的には始めたのは中学からですわね。」

「たった、3年でそこまで…。佐藤院さん、すごいよ!」

「そんなことありませんわ。」

 

そう佐藤院さんは言うけど、実際すごいと思う。

さっき真藤先輩が言っていたように、体幹はFCにおいての基礎となっている。

そしてその基礎を、当たり前のように鍛えるのは難しくて苦しいことだと思う。

 

それを、何でもないことのように。

それもたった3年で、身に着けてしまった佐藤院さん。

やっぱりすごい…。

 

「いや、本当にすごいよ!」

「何を言いますの、貴方は3年で全国大会準優勝。わたくしなんて大したことありませんわ。」

 

え?なんで佐藤院さんはそれを知っているんだろう。

確かに僕は、FCを初めて3年ぐらいで全国には出たけども…。

 

すると佐藤院さんは、はっとした表情をしてしゃべり出す。

 

「あ!申し訳ありません。この間調べたときに、その情報が載っていたものですから…」

「いやいや、気にしなくていいよ。ってかそんなことまで、調べられるんだ。」

「あたりまえですわ!我が佐藤グループの手に掛かればこの程度、造作もありません。」

 

あれ?、佐藤院って名前なのに、会社は『佐藤』なんだ。

なんか変なの…?

 

それにしても、すっごくいい笑顔。

この笑顔守りたい…、なんて現実逃避をしてないでっと!

 

確かに僕は、あの時たった3年で、全国大会に出場して、準優勝ができた。

けど、あれは僕の実力ってよりは…。

 

「それで、僕が3年で全国で準優勝って話だけど。」

「ここまできて、誤魔化しは通用しませんわよ。」

「もちろん否定するつもりなんてないよ。

 けど、あれは教えてくれた人が良かったから。」

 

そういって、少し昔のことを思い出す。

あの人とは、もう何年会ってないんだろう…。

 

どんな時も、厳しく丁寧に教えてくれた。

本当にあの人が教えてくれてなかったら、あの時あそこまで行けてなかったって今でもそう思う。

 

「そんな謙遜を…。」

「謙遜なんかじゃないよ。

 あの人が教えてくれなかったら、僕は絶対に全国には出れてなかった。」

「そ、そうなんですか。笹原さんがそこまで師事する方、ぜひお会いしたいですわね。」

 

佐藤院さんはそんなこと言ってるけど、たぶんあったことはあるんじゃないかな。

この島でFCに携わってる人なら、ほぼ全員があってると思うんだけど。

 

ま、知らなくてもしょうがないか。

あの人は、どちらかというと裏方に回りがちだったし。

サポートをした人が、ものすごい高みに昇ってしまったから。

 

「うん、会ってみるといいよ。会えばいろいろな発見があると思うから。」

「えぇ、いつか紹介して下さい。」

 

そんな他愛のない話をしながら、僕たちは帰路についた。

一度話してしまえば、もう話に詰まることはなくスラスラと話が弾んだ。

 

家はどのあたりなのか、何人家族で家でどんなことをしているのか。

そんな当たり障りのない話題を、話し続けた。

 

しばらくすると、海岸沿いの道へ出た。

 

「えっと、ここでお別れかな。」

「そうですわね、笹原さんの家は反対のようですし。

 って、あら?あれは?」

 

佐藤院さんが顔を向ける方向へ目を向けると、夕焼けで染まる空に4つの小さな影が見えた。

その4つの影は、互いの位置を激しく入れ替えながら飛び回っていた。

 

「あぁ、空オニだね。懐かしいなぁ」

「ですわね、わたくしも幼い頃に友達とやりましたわ。」

 

空オニは、まだFCを始めたばかりの人がする練習だ。

遊びの要素を入れて、FCの試合で必要な多くの技術を実戦形式で身に着ける。

楽しみながらできる、とてもいい練習だ。

 

僕も始めたばっかのころはたくさんやったなぁ…。

 

そんなことを考えていると、空を飛んでいた4つの影が僕たちのところへ近づいてきた。

どうやら小学生らしく、そのうちの1人が話しかけてきた。

 

「ねぇ!にいちゃん、ねぇちゃん!」

「あら、どうかしましたの?」

「2人とも、たかふじの人でしょ!」

「そうだけど…」

 

そう答えると、男の子は目を輝かせてそう言った。

このあたりで、FCをしてる子どもならだれもが憧れる高藤の名前。

 

昔の僕も同じで、みんな高藤に憧れてたっけ。

そんなことを思い出していると、さっきの少年はもう一度口を開いた。

 

「じゃあ!空オニしようよ!!」

「なんでわたくしたちがそんなことを…」

「あ、ねぇちゃんもしかして僕たちに負けるのが怖いんだー。」

「なっ!!」

 

またやっすい挑発だなぁ~。

いかにも小学生くらいの男の子が言いそうな言葉。

でも、まぁそれだけ空を飛びたいってことなんだろうなぁ…。

 

でも、僕らは高校生。

中学生ならいざ知らず、そんな挑発に掛かるなんて。

 

「ほ、ほぉ…。聞き捨てなりませんわ…」

「え、何か言った??ねぇちゃん?」

「いいでしょう!わたくしたちが相手をしてあげますわ!!」

 

ビシッと、少年を指さしそう言った佐藤院さん。

え、ってか何、もしかしてその挑発に乗っちゃうの…。

 

それにわたくしたちって、もしかして僕も?

 

「あの、佐藤院さんもしかして、僕もやるの?」

「当り前ですわ!ここまで馬鹿にされて笹原さんは、悔しくないのですか?」

「いやぁ…、あんま――」

「わたくしは、悔しいですわ!

 ここまでコケにされては佐藤院麗子として、黙っているわけにはいきません!!」

 

僕の言葉を遮って、力説した彼女。

全然聞いてないし…。

はぁ、意外に子供っぽいなぁ佐藤院さん。

 

いつかのように、俺を置いたまま話が進んでいく。

 

「よーし!それじゃあ、おれたち対ねぇちゃんたちで勝負な!!」

「えぇ!望むところですわ!!」

 

はぁ、気が進まない…。

そんな僕の気持ちは、置き去りにして

話はまとまったのか、少年たちは再び空へと飛びあがっていく。

 

それを僕は眺めていると、隣から声をかけられた。

 

「さ、笹原さん!あの子供たちに高藤の生徒の恐ろしさ見せてあげますわよ!!」

「いや、そこまでしなくても…」

「我が翼に、蒼の祝福を!」

 

僕の言葉をかけらも耳に入れず飛び上がる彼女。

 

――ここまで来たらもう、やるしかないか――

 

そう渋々自分を納得させて、彼女の後に続いて飛び上がる。

夕焼けに染まる空に、僕を含めた6つの羽が飛び立った。

 

―――――――

 

日はもうすでに、その姿を海に半分以上隠し、空が夜に染まろうとしていた。

 

これがラストプレー、男の子たちはそう決めたのか覚悟を決めた表情で

佐藤院さんに、視線を向けた。

 

「いまだ、いくぞ!みんな。」

「「「うん!!」」」

 

1人の男の子の掛け声に合わせて、ほかの3人も一斉に佐藤院さんへと殺到する。

左右上下、すべての方向からほぼ同時に向かって来られれば、普通は避けられない。

 

けど……。

 

「甘いですわよ!はぁ!!」

 

彼女は名門高藤に、入学したFCプレイヤーなんだ。

そう簡単にはいかない。

 

4人に存在する微妙な、速度のズレを見抜いて綺麗に彼らの攻撃をさばいていく。

その動きには、どこか流麗さがあって美しさすら感じた。

 

本当に、たった3年でここまでの技術を身に着けたなんて信じられないくらいだ。

そんな風に佐藤院さんの動きに見とれていると、男の子たちが僕の方へと向かってきていた。

 

――なるほど、さっきから全く動いていない僕に目をつけたわけか…――

 

思い切りのいい判断だ。

きっと彼らは、いいFCプレイヤーになる。

 

そう確信させるくらいの判断だった。

 

「このままいけぇー!!」

「「「やぁーー!!」」」

 

さっきの佐藤院さんの時とは違って、ほぼ全員が同じ方向からの攻撃。

普通なら避けやすいんだけど、速度はさっきの倍近く。

 

一瞬の判断を誤れば、激突はさけられない。

でも、このぐらいの速さなら…!

 

「ふっ!」

「「「「え!?」」」」

 

男の子たちの軌道を予測して動く。

 

最初は右に、次は左、そのあとすぐに急上昇。

でも、頭の中で思い描いた動きには程遠い。

 

あの時ならもっと早く動けた、もっとキレのある動きができた。

そんな家庭が頭の中を、駆け巡る。

 

「す、すげぇ……」

「「「うおぉぉー!!!」」」

 

1人の男の子のこぼした言葉で、周りの子たちが一斉に騒ぎ立てる。

その光景を、ぼんやりと眺めてふと、思い至る。

 

――あれ、なんで僕本気で飛んでるんだ?――

 

最初は、成り行きだったはずだ。

佐藤院さんに巻き込まれて、引くに引けない状況になって…。

仕方なく、空に上がったはずだった。

実際さっき、あの子たちが向かってくるまではそんな感情だったと思う。

 

けど、全力なあの子たちを見たら。

僕にタッチしようと殺到する子たちを見たら、いつの間にか本気になっていた。

 

もっと鋭く、もっと速く。

最小限の動きで、最大限の効果を。

 

あの時、教えてもらったことを思い出しながら。

自分の世界で自問自答を続けていると、男の子たちが目を輝かせながら僕の前に。

 

「にいちゃん!いや、ししょう!!」

「え??」

 

男の子の言葉に思わず反射的に声が出る。

師匠って、なにそれ…。

 

僕の反応に構わず男の子は言葉を続ける。

 

「おれたちに、FCをおしえてください!おねがいします!!!」

「「「おねがいします!!!!」」」

「いや、えっと…」

 

なんなんだろうか。僕にこんなお願いをするのが流行ってるのだろうか。

真藤先輩に、引き続きこの子達まで。

 

僕には人を指導するだけの実力なんてないのに。

すると、いつの間にか傍へ来ていた佐藤院さんが、男の子たちに話しかける。

 

「あなたたちは、なぜ笹原さんに教わりたいのですか?」

「そんなの、FCがうまくなりたいから!うまくなって、もっと楽しくFCをしたいから!」

「楽しく…?」

 

学校でも、真藤先輩から聞いた『楽しい』って言葉が胸に引っかかる。

FCが楽しい、言葉にしてしまえばなんてことのないことだろう。

 

練習してうまくなって、試合に勝つ。それがFCを楽しむことだろう。

でも、それだけじゃない気がする。

 

何故だかそう思った。でも僕にはわからない。

けど、以外にもその答えは男の子の口から出てきた。

 

「だってさ!今までできなかったことができるようになるってたのしいでしょ!?」

「できないことが、できるように…」

「うん!そしたらこんどは別のことをおしえてもらうんだ。そしたらずっとたのしいでしょ!!」

「ふふっ、ですわね。それはすっごく楽しそうですわ。」

 

男の子の言葉に、佐藤院さんだけでなく周りの子たちも同意を示している。

そんな中、僕は昔を思い出していた。

 

1日中、あの人が止めるのも聞かずに飛び回った。

あともう一回、もう一回ってできるまで何度も同じ練習をした。

 

食事をしてる時だって、風呂に入ってる時だって。

さらには寝てる時だって、ずっとFCのことばっかり考えてた。

 

これが『楽しい』ってことだった。

勝つことだけがFCの全てじゃない、そりゃ勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。

でもそれはそのときだけ、負けたら次は勝てるようにFCを楽しみながら練習をする。

 

こんな当たり前のことだったんだ。

真藤先輩が言ってたのも、きっとこういうことなんだろう。

 

どんなにつらくても、どんなにしんどくても。

FCが楽しくて仕方ないから、FCが大好きだから続けられる。

 

「そうだね、FCは楽しいもんね。いいよ、教えてあげる。

 でも、僕の練習は厳しいよ?」

「ほんとに!?やったーーー!!」

 

僕にそのことを思い出させてくれた男の子に少しばかりのお礼を込めてこの言葉を返す。

1人の男の子が、宙返りをしてほかの子たちは跳ねるように飛び回る。

その光景を見ながら、僕は真藤先輩からの話に対する答えを出す。

 

あの時みたいに飛べないかもしれない、さっきみたいに理想との差異に苦しむかもしれない。

けど、もう一度FCをやろう。

 

たくさん辛くて、悔しい思いをすると思う。

でも、僕はFCを楽しみたいから。

練習して練習して、それでやっとできるようになるあの感覚をもう一度味わうために。

 

 




読了ありがとうごぜーます。

いかがだったでしょうか。
自分の持てるものをできるだけ注ぎ込んだつもりですが、

うまく言葉にできていないところなど多々あったと思います。
その点につきましては、感想などで指摘くださると幸いです。

しかし、あおかなアニメ。
無事終わりましたね。終始、昌也君が主人公してなかったことが印象的でしたがww
とっても面白かったことには変わりありません。

そして、あおかなZwieの発表。
いやはや、楽しみがまだまだつきませんね。
ではこのあたりで、次回もお願いします。

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