蒼の彼方のフォーリズム 彼は挫折の果てに何を見る   作:ソモ産

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一か月ぶりでごぜーます。
ソモ産です。

みなさんが見てくれてるかわかりませんが、第2話の投稿です。

では、どうぞ!


似た者同士

自分のことをおごってるわけじゃないけど、僕はそれなりの選手だったと思う。

だからFCの名門である高藤学園に入学したんだ、

いつかはこんなことが起こるとは思っていた。

 

けど、まさか入学初日になんて…。

それも、嘘をついた彼女の前で。

 

僕は、何かにすがる思いで真藤先輩に言う。

せめてこの場だけは、何とか…。

 

「そ、そんなわけないじゃないですか!もしかしたら、同姓同名ってこ―」

「いや、あり得ないよ。僕が、目標である選手の顔を見間違えるわけない。」

 

真藤さんは、怖くなるほどまっすぐな目でそういった。

その目に見つめられていると、自分の全てが覗かれているようで思わず目をそらす。

 

「もう一度言うよ、見間違えるわけない。だって君は、あの―」

「笹原さん!!お聞きしたいことがあります!」

 

佐藤院さんの大きな声が、真藤先輩の言葉を遮る。

真藤先輩も、佐藤院さんの迫力を見たからか、何も言わずに見守ってくれた。

 

僕は、覚悟を決め佐藤院さんへ顔を向ける。

 

「真藤先輩の話は、本当ですか…?」

「…あぁ、本当だよ。確かに俺はFCをやっていた。」

「そうですか……」

 

僕がそう答えると、佐藤院さんは黙り込む。

静寂が、グラウンドにいる俺たち3人を包み込んだ。

 

何か言わなければ、でもなんて…。

 

嘘をついたのには理由があるんだ、だから許してくれないか、とでも?

ふざけている、そんなことを言われたって納得なんかできるわけないだろ…。

 

でも何か言わないと…。

 

「あ、あの―」

「笹原さん、それじゃあなんで引っ越してきたなんて言ったんですか…?」

「そ、それは…」

 

佐藤院さんのその言葉には、うまく答えることができなかった。

自分のために嘘をついた、なんて。

他人のために何かができるような彼女に対して、恥ずかしくて言えるわけない。

 

「わたくしに嘘をついて、それを見て笑うためだったんですね!?」

「ち、ちが―」

「笹原さんが、そんな方だとは思いませんでしたわッ!失礼します!

 我が翼に、蒼の祝福を!」

 

僕の弁解を聞いてもくれず、佐藤院さんはグラウンドから飛び立った。

何も言い訳できない、間違いなく僕が悪い。

僕は、ジッと佐藤院さんが飛んでいた先を見つめる。

 

すると、先ほどまで気を使って黙ってくれていた真藤先輩が申し訳なさそうに口を開いた。

 

「も、もしかして僕、余計なことを言っちゃたかな?」

「い、いえ、そんなこと!」

 

すまなそうに言う先輩に、慌ててそう返す。

確かに、真藤先輩があの話をしなければ、こんなことにはならなかった訳だけど

もとはと言えば、僕が佐藤院さんに嘘をついてしまったのが原因だから。

 

「でも、僕に何かできることがあれば言ってほしい、力になるよ。」

「すみません、先輩。ありがとうございます」

「うん、それじゃあ僕はこれで。」

 

そのまま背を向けて、グラウンドから離れる真藤先輩。

こういった気遣いができる真藤先輩も、佐藤院さんと同じで優しい人なんだろう。

学校入学、初日から佐藤院さんを含めこんないい人たちに出会えたんだ。

 

これは大切にしないと、きっとこの出会いは僕にとって大きなものになると思うから。

そのためには、まずは佐藤院さんに謝ることから。

早速明日、謝ろう。

 

そう決め、僕も家に帰るため校門に歩いていった。

 

―――――――

 

翌日、寝坊をせず学校へ向かった僕は、

何事もなく午前の授業を終え、教室にて1人で弁当を食べていた。

 

しかし、佐藤院さんにどう謝るかなぁ…。

昨日の夜からずっと考えているけど、さっぱりいい案が浮かばん。

それも、はっきりした理由があるわけではなくて自分勝手な理由だしなぁ…。

 

ただ、どれだけ時間がかかろうが絶対に謝る!

そう改めて決心し、残りの弁当へ箸を伸ばす。

すると、最近聞いたような声が頭の上から聞こえた。

 

「お、美味しそうなの食べてるね?」

「え?って、真藤先輩!?」

「やあ!昨日ぶりだね、笹原くん。」

 

その声に振り返ると、いい笑顔の真藤先輩が。

って、なんでいるんですか…。またクラスで噂が、って今更か…。

 

すると先輩は、誰も座っていない椅子を手に持つと、それを僕の机の前において座った。

 

「さて、笹原くん。どうだい?何かいい案は浮かんだかい?」

「い、いえ特には。」

「昨日の今日だし、それもそうか。ま、詳しいことはわからないけど謝るなら早いほうがいいよ。」

 

真藤先輩が言ってることはすっごくよくわかるし、

だから、今日謝らなきゃとは思ってる。

 

けど、なんて言えばいいんだろう…。

どうしてもそこが引っかかってしまった。

 

「でもなんて言えばいいのか…」

「あはは…、悩んでるようだね。でも、そんなに深く考えなくていいと思うけどな?」

 

そう言って、真藤先輩はすっと教室後ろのドアへ視線を向けた。

ん?なんで急に。俺も先輩の視線を追ってそちらに目を向ける。

 

「ッ!!」

「ん??」

 

何かが、一瞬だけ見えたような…。

気のせいかな。

 

「ふふっ、君たちはなかなかに似た者同士なのかもしれないね?」

「は?えっと、何のことです?」

「なんでもないよ。さて、そろそろ僕は教室に戻るよ。」

 

そう言って、真藤先輩は立ち上がり、自分のクラスへと戻っていった。

それにしても、最後の真藤先輩の言葉…。

 

なんだったんだろう、似た者同士だとかなんとか…。

でも、気にはなるけどそんなことより目下は佐藤院さんとの問題。

 

本当、なんて言って謝ろう……。

放課後までの時間で、なんか考えないとな。

 

 

―――――――

 

 

午後の授業中ずっと、佐藤院さんになんて謝ろうか考えていたわけだけど、

結局思いつかなかった。

 

しかし、思いつかなかったものはしょうがない。

ここは切り替えて、誠心誠意頭を下げようじゃないか。

ぶっつけ本番、当たって砕けろの精神である。

 

いや、砕けたらダメなわけだが…。

 

「うし、それじゃあ行くか!」

 

1つ掛け声を入れて、席を立つ。

その勢いのままに廊下へ。

 

目指すは、下駄箱。

僕は佐藤院さんのクラスを知らないし、探している間に帰られちゃったら元もこうもない。

というわけで、必ず通る下駄箱で待ち伏せすることにしたのだ。

 

廊下を歩く人みんなが走っている僕のことを見る。

そりゃそうか、こんなに全力で走ってる人がいたら何事かと思うよね。

 

たぶん僕でも見る。

また噂が生まれたわけだけど、今はそんなことなんかどうでもいい。

何よりも佐藤院さんに謝ることが今は大事。噂とかは、後で考えればいい。

 

そう自分に言い聞かせ周りからの視線を意識の外へと追いやる。

とにかく今は、走ることだけ考える。

 

廊下を抜け、階段へと。

ここまでの勢いのままに、階段を1階へと降りる。

 

今は、昇降口まで走る、走る、走る。

無心で走っていると、ようやくゴールの昇降口が見えた。

 

息も絶え絶えになりながら、たどり着くと

佐藤院さんが帰るところに、何とか間に合った。

 

「佐藤院さん!!」

「ッ!?―笹原さん…」

「本当にすみませんでした!!!」

 

大声で佐藤院さんを呼び止め、間髪入れずに頭を下げた。

とにかく会ったらすぐに謝ろう、そう昨日から決めていたから

迷いなく行動に移すことができた。

 

あ、あれ、なんか周りが騒がしいような……。

そう言えば、僕今どこにいたんだっけ?

頭は下げたままに、これまでの自分の行動を思い出してみる。

 

佐藤院さんに謝るために、ホームルームが終わってすぐにここまで走ってきて、

ついたと思ったら、彼女が帰るところで、

大声を出して、呼び止めてそれから……。

 

そこまで考えたところで、急に腕が引っ張られる。

ふと顔を上げると、ほのかに顔を染めた佐藤院さんが目に映った。

 

「え、あの佐藤院さん、なんで急に?」

「いいから!黙ってついてきてください!!」

 

え?は!?なんなの?

うまく状況が呑み込めないまま、佐藤院さんに外へと連れ出される。

 

いったいどこに行くんだろうとか、何か気に障ること言っちゃったかなぁとか

いろいろなことが思い浮かんだけど、それは頭の片隅に置いて、佐藤院さんについていくことにしよう。

 

そのまま、彼女に手を引かれながら歩き続けると

校門から少し脇に入った、ちょうど人の出入りが少ないところで止まった。

 

「ここなら、誰もいませんわね…?」

 

そう言ってあたりをきょろきょろと見まわして誰もいないのを確認した後、

少し眉が吊り上げ、口をへの字に曲げた彼女はこちらを向いた。

 

「笹原さん!あなた、どういうつもりですの!?」

「え、えっと昨日のことを謝ろうと…」

 

一刻も早く謝りたかったから、と

事実をありのままに伝えると、佐藤院さんは顔をわずかに赤らめながら声を張り上げた。

 

「それを大勢の人がいる所でする必要はあったのかしら!?そ、それも大声で!」

「ん?」

 

そう言った

彼女の言葉をもう一度、頭の中で繰り返す。

 

それっていうのは、彼女に謝ったことだろう、たぶん。

 

人の大勢いるところって、下駄箱のことだよな。

うん、これも間違いじゃないはず。

 

で、この2つを組み合わせると…。

 

――大勢の人の前で佐藤院さんに大声で謝った、それも腰を90度近く曲げて

 

あああああああああああああ!?

 

「す、すみません!!とにかく早く謝らなきゃって、そればっかり考えてて

 周りのことをよく見てませんでした…。本当に申し訳ないです。」

 

僕がしてしまったことを、改めて理解してもう一度頭を下げる。

それも、今度は地面に頭をぶつけるぐらいの勢いで。

 

あぁ、僕はなんてことを。

謝りに行ったのに、逆に怒らせるとか…。

 

あり得ない、本当にあり得ない…。

 

「も、もう…。ほら顔をあげてください」

「で、でも!」

 

佐藤院さんは、俺を気遣ってくれたのかそんなことを言ってくれたけど

そんなことできるはずがない。

 

だって、嘘をついた上に恥ずかしい思いもさせちゃったんだから。

むしろこれでも、足りないくらいだ。

 

そんな僕に対して彼女は、予想もしていなかった言葉をかけてきた。

 

「そ、その昨日は、わたくしも言い過ぎたところもありますし…」

「それってどういう?」

「嘘をつかれたのは今でも納得していませんわ。

 けど、そのあとの事は言い過ぎでした、申し訳ありません。」

「え?」

 

思わず顔を上げると、佐藤院さんは僕に対して頭を下げていた。

呆けてしまう。だって、しょうがないことだろう。

 

謝ろうと思った相手に逆に謝られるってそうないことだ。

それに、しかもその上しっかりと頭まで下げて…。

 

本当に、この人はすごい人なんだ。

つくづくそう思う。

 

だからこそ、僕は彼女にもう一度謝りたい。

 

「そういうことですので、笹原さん。今回はお互いさまと―」

「佐藤院さん!」

 

何かを言いかけた佐藤院さんの言葉を遮り、彼女の名を呼ぶ。

ここで、もし謝れなかったら俺は一生後悔する。

 

だから、ここはけじめをつけないと。

 

「気持ちはうれしいです。でも、やっぱり俺はあなたに謝らないといけないと思うから。」

「笹原さん、で、ですから……。」

「佐藤院麗子さん。あなたに嘘をつき、つらい気持ちにさせてしまって

 本当に申し訳ありませんでした!!」

 

本日3度目の謝罪。

これまでの謝罪の中でも、一番気持ちを込めて言えたと思う。

 

嘘をついてしまったこと、恥ずかしい思いをさせてしまったこと。

それと、佐藤院さんに謝らせてしまったこと…。

いろんなことをさせてしまったから、それ全部に対する謝罪の気持ちを込めて伝えた。

 

今の僕にできる最大の謝罪。

 

「笹原さん…、わかりました。あなたの気持ち、しかと受け止めました。

 だから今回は、許してあげますわ。」

「佐藤院さん、ありがとうございます!」

「ただし!条件があります。」

 

佐藤院さんはそういって、人差し指をぴんっと立てた。

条件か、そりゃそうだ。

 

初対面なのに嘘をついて、その上恥ずかしい思いもさせちゃんたんだから。

俺にできることなら、何でもしよう。それで彼女に許してもらえるなら…。

 

そう覚悟を決め、彼女の言葉を待つ。

でも、佐藤院さんは僕の予想とは裏腹にこう言った。

 

「わ、わたくしと、友達になること…ですわ。」

「へ?」

「昨日今日と話して笹原さん、あなたが後先を考えない人だということがはっきりしました。

 ですから!わたくしが、近くで見守っていて差し上げると言っているのですわ!」

 

顔を真っ赤にしながら彼女はそんなことを言った。

正直言えば、わけがわからなかった。

 

普通に考えても、このタイミングでこんなこと言うわけもなく

どう考えたっておかしいだろう。

 

申し訳ないけど、僕はそう思ってしまった。

でも、おかしいと思うと同時にうれしいとも感じた。

 

僕も、しっかり謝った後同じことをお願いしようと思っていたから。

返事を返さなかったからか、佐藤院さんがおずおずと口を開く。

 

「そ、それで返事はどっちですの?」

 

不安そうな顔で彼女が、そういうものだから

僕の頬は少し緩んだ。

 

だって、さっきまでと立場が逆だし、

何より、強気だった人がこうも、しおらしくなるなんて、

誰が想像できるだろうか。

 

なんか変だけど、気持ちを籠った言葉には、しっかり答えるのが礼儀。

だから僕のありのままを伝えよう。

 

「そのいろいろ迷惑かけたり、

 また今回みたいに佐藤院さんを悲しい気持ちにさせてしまったり、たくさん心配かけるかもだけど…」

 

これが、僕のありのままの気持ち。

すぐ謝るって決めた理由も、これが根底にあった。

 

それを今伝えよう。

1つ大きく息を吸って、佐藤院さんの目をしっかりと見る。

 

「僕でよかった喜んで、むしろこちらからお願いします!」

「ッ!!し、仕方ありませんわね、そこまで言うのならお願いされてあげますわ。」

 

照れくさそうに笑った佐藤院さん。

そんな彼女を見てふと思う。

 

なんだか思っていたのと全然違う方法だったけど。

こういう仲直りの仕方も、ありかなって。

 

でも、佐藤院さんにはちゃんと話そう。

僕がFCをやめた理由も、それがあって嘘をついてしまったって。

でもこれは明日、話そう。

 

これが悪い癖だってわかってるけど

今だけは、彼女の、佐藤院さんの笑顔を見ていたい。そう思ったから。

 

すると、佐藤院さんはもじもじとしながら

 

「そ、それで笹原さん。わたくしたち友達になったのですからその……」

「やぁ、2人とも仲直りできたようで何よりだね」

「「え?」」

 

でも、彼女が何かを言い終わる前に、別の人の声が響く。

僕も佐藤院さんも誰もいないと思っていたから、声が重なってしまった。

 

そして二人で、声の方へと振り向くと

 

「やぁ、2人とも昨日ぶりだね、いやさっきぶりかな?」

「「し、真藤先輩!?」」

 

そこには、真藤先輩が優しい笑顔を浮かべながら立っていた。




読了ありがとうございました。

どうでしたでしょうか?
うまく書けたか自信はありませんが、
少しでも面白いと思っていただけていたら幸いです。

では、これにて今回は終わりです。
批判批評、さまざまな感想は引き続き受け付けていますのでよろしくお願いします。

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