ぼっちじゃない。ただ皆が俺を畏怖しているだけなんだ。 作:すずきえすく
こうして、小説を作成したり投稿するのは初めてという事もあり、
至らないであろう点が多々あるかとは思いますが、
生温かい目で見守っていただければ幸いです。
第1話 タモさんって、今フ○テレビ出てたっけ?
あれから数年が経ち、俺は大学生となった。
千葉を愛する気持ちは誰にも負けないと自負していた俺が、進学と同時に千葉を離れ、とある地方都市へと移り住む事になったのは、まぁ...御愛嬌という事にしてもらえると、八幡的に超ポイント高い。
卒業後、戸塚は地元の大学へ進学し、由比ヶ浜は都内の専門学校へ…そして雪ノ下は海外へと旅立っていった(材木座は知らん。)。
それにしても、高校生までの視野と卒業してからのそれってのは、これでもかって言うくらい変わるもんだな。高校までは、世界の全てが”学校内で完結”という感じだったのだが、卒業した途端に全ての壁が取り払われて、そこには無限の荒野が広がってたって感じだ。
つまり、目立たず地味に生きる事を常に探求してきた俺のスタイルは、荒野に出没する賊(・・・例えばほら、アキバとか歩いてたら、絵を売りつけてくる若いお姉さんとかいるだろ?色香に惑わされ、気が付いた時にはラッ〇ンの絵を12回ローンとかで買わされてたっていうアレだ)から身を守る上で有効であり、これまでの俺は、時代を先取りしていたのだ・・・と、声を大にして言いたい。
そうそう、メイクとスーツでばっちり決まった、美人なお姉さんに気後れして、”え…あ…”と戸惑っているうちに連行されるケースもあるから要注意だ。まぁ、お姉さんも狙ってやってんだろうけどさ。
ここまで回りくどい話をしてきたが…
詰まるところ、俺は大学に入って尚、孤高な生き方を貫いているという訳だ。
…言わせんな、恥ずかしい。
要は、年齢を重ねようが、環境が変わろうが人は、そんなに大きくは変わらないって事だ。それがアイデンティティというものなのだろう。
結論。契約書に判を押してもアイデンティティはそうそう変わらないが、財布の中身は(主に財政破綻する方向に)結構変わるから気をつけろ。
第1話
タ
モ
さ
ん
っ
て、今フ○テレビ出てたっけ?
俺以外に誰もいない自室で、誰に聞かせるでもなく下らない事を考えていたのだが‥そういう時って、人間ってのは大概油断しているものだ(野生を失うとはそういうことだ)。そんなタイミングを狙い澄ましたかのように、もはや電話としての機能なんかあったっけ?なんて思うほどにゲーム端末と化していた俺のスマホが、本当の実力を見せてやんよと言わんばかりに"ムーンっ、ムーンっ”と、いきなりその存在感を声高らかにに主張し始めたのと、これまた運の悪いことに、脇腹の当たる内ポケットにそれを入れていたので、その振動にビクッとなってしまい、テーブル裏で膝を打ち付けて”がこっ”っと大きな音を立ててしまった。
もし、ここが奉仕部の部室だったら…
”比企谷君、挙動不審な動きはやめなさい。身の危険を感じるわ。”
”ヒッキーまじキモい♪”
と、誰かさん達にディスられていたところだ。俺にとってそれなりに身近なあの2人は、俺をディスろうとする時、何故かとっても嬉しそうな顔をするんだ‥解せん。
…っていかんいかん、メールが来てたんだったな。
早速確認してみると、差出人の欄には”☆★ゆい★☆”の文字が。先程出てきた、それなりに身近な2人のうちのビッチ担当の方だ。”ビッチ言うなしっ!”って怒られそうだけどな。
登録名がスパムっぽいのは、面倒なので直してないからだ。そもそも本人が打ったものだし、変えるのも何々だよな…。一度だけ”ゆいゆい”にしようか?と提案した事があるんだが、”もうそのネタ止めてぇぇぇ”と全力で拒否られた。自分で自分に渾名を付けるのもなんだけど、ネーミング自体が由比ヶ浜にとって、黒歴史となっているらしい。
以前、由比ヶ浜からのメールに気が付かず…ってか、携帯の電池が切れちまったんだけど、どうせ誰も連絡してこないやと思い、2~3日放置していたら
結衣「小町ちゃん、ヒッキーと連絡とれない・・・(´・ω・`) 」
小町「えっ・・・ホントだ。電源が入ってませんって・・・。」
結衣・小町「何か事件に巻き込まれたんじゃ!?」
危うく、捜索願を出されるところでした…。
そんな事もあり、今ではなるべく早くチェックする様にしている。
あの時は、サイレンの鳴らないパトカーに乗ったお巡りさんがやって来て、ちょっとした騒ぎになった。その様子を見てた近隣の住民が、俺を見て何かをヒソヒソ話すんだ。
”前から怪しいと思ってた”って、一体何を!?
法に触れる様な事を一切してないにも拘らず、あんなに居た堪れない思いをするのは、正直勘弁願いたい。そもそも、目が死んだ魚みたいだってのは関係ないだろ…。
うっかり黒歴史を紐解いてしまい悶絶していた俺だったが、なんとか落ち着きを取り戻し、指紋だらけの画面を袖口で拭って、画面に目を向けた。
そこには
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差出人:☆★ゆい★☆
やっはろー(`・ω・´)ノ
お台場を歩いてたらタ○リさん見かけたよー
。*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*。
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という、古代エジプトも真っ青な大層煌びやかな装飾と共に、文字が紡がれていたのだった。
満面の笑みを浮かべたコージー富○の写メと共に。
・・・・・。
これは釣り・・・なのか?
いや・・・由比ヶ浜の事だからこれは素だな(断定)。
とりあえず俺は、『コージー○田でググってみてくれ』とだけ返信したあと、慈愛に満ちた眼差しでそれらを一瞥し、スマホをそっと‥テーブルの上に置いたのだった。
あぁ…我らが神よ!天の恵みに感謝致します…。
俺は、いつになく澄んだ心で神に祈りを捧げると、昼飯であるラーメンを食べる為、箸に手を伸ばした。さっきから妄想したり悶絶したりしていたから、若干伸びているかも知れないが、食えなくはないだろう。カップ麺‥あれから進化したからな。
そして、箸で麺を掬って口に運ぼうとしたその瞬間、再びスマホが吠えた。ちなみにこの間、時間にするとおおよそ10秒程度だ…。
調べるの速えぇよ!そしてメール打つの速えぇよ!
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差出人:☆★ゆい★☆
知ってたしっ٩(๑`^´๑)۶
ヒッキーを試しただけだしっ
ノ`⌒´)ノ ┫:・'.::・┻┻:・'.::
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嘘だ・・・絶対嘘だ。
平塚先生!由比ヶ浜さんが、僕に虚言を吐いてきますっ!
でもまぁ…俺も、たまにやらかすから気持ちは分からんでもないけどな。ってな訳で、ここは敢えてそういう事ににしておいてやろう。真実はいつも一つだが、それを常に追い求める必要なんてないのだ。
この複雑に入り組んだ現代社会の片隅に、慎ましく咲くタンポポのような優しさがあっても良いはずだ。うん、今日の俺ってば、超ガンジー。
あぁ、この慈愛に満ち足りたこの気持ちを誰かに伝えたい。そんな清々しい気持ちを伝えるべく、俺は再びスマホを手に取った。
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由比ヶ浜がそう言うのなら、
そうなんだろうな(´ー`)
P.S タ○さんによろしく。
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‥送信してから言うのもなんだが、結局タ○さんと思い込んでた前提で書いてね?まぁなんだ‥人間、正直が1番だな。無理な気負いは良くない、だってハゲるから。
こんな具合に一頻りの結論が出たところで、この地から遠く離れたお台場の海浜公園にて、一人悶絶しているであろう由比ヶ浜に、俺はそっと囁いた。
「ドンマイ、ゆいゆい(´ー`*)」
とまぁこの様に、由比ヶ浜は時々こうしてメールをよこしてくる。孤高であるはずの俺も、ほんの少し気が緩むひとときだ。
べ、べつに由比ヶ浜からのメールが嬉しいって訳じゃ無いんだかんねっ!
奉仕部で過ごした3年という時間に加え、グラデュエーションによってヴィジョンがチェンジしたからだろうか?俺のアイデンティティも、少しフレキシブルになったのかも知れないな、うん。
なんだか、どっかの生徒会長みたいな言い回しだな。
由比ヶ浜とのやりとりもひと段落し、俺は自室でぼんやりとしていた。辺りはシンと静まり返り、窓から暖かな陽射しが絶え間なく注ぎ込んで、穏やかな時間を演出している。
あぁ、何もせず怠けるってのは最高だな!
日曜日で且つ課題も出ていないので、恐らく今日は一日こんな感じだろう。ついでに言えば、明日まで学園祭なので講義も無い。あんなリア充の巣窟たる騒々しい場所に、赴こうという発想など湧き起こるはずもなく、俺は事実上の3連休を謳歌していた。
初めの頃は予習復習、加えて課題に四苦八苦していた俺だったのだが、ようやく講義と課題のペースを掴めて来たところだ。だが慣れるまでの間、買ったラノベを読む時間を作れず、それでも”後で読むか”と買い続けていたら、いつの間にやら30冊近く溜まってしまい俺の机に高々と積まれてしまっていたのだった。
うん、とりあえず買ったラノベを片っ端から読んでいくか‥そう思い、書棚の本に手を伸ばした時だ。
"コンコン"
来客など皆無なはずなのに、入口のドアがノックされた。
なんだよ‥またお巡りさんじゃないだろうな。
心当たりなどなくても警官に声をかけられると、なんとなくキョドっちまうってことってあるよな。まぁ‥俺の場合、警官に限らず、学校で普通に話しかけられた時も似たようなものだけど。
ともかく、来客なのは間違いない。俺は一先ず
「し、証拠はあるんですか?」‥とか
「アリバイ?その時間は友人と遊んでました」‥とか
「べ、弁護士が来るまで黙秘します」‥とか
「刑事さん‥俺がやりました」‥などなど
一通りのシミュレーションを済ませ、ドアを開ける事にした。
"ガチャっ"
だが、扉を開けると、そこに立っていたのは高橋英○や高田純○に似の刑事達などではなく、何のことはない、この部屋の貸主である大家のおばちゃんだった。
‥まぁ、普通に考えたらないよな。そもそも、俺は何もやってないし何なら働きたくない。
そんな胸のうちを他所に、大家のおばちゃんは俺が部屋から出てきたのを見計らい、こう言った。
「比企谷さん、妹さんが来てはりますえ。」
ちなみに、ヒキタニじゃないからな?そうそう、今にして思えば、戸部とかクラスの奴らはともかく、葉山のやつはワザとヒキタニって呼んでたんだよな‥何気にモヤモヤするな。
まぁその点大家のおばちゃんは、多少ご高齢とはいえ、自分の店子は流石に間違えないだろう。
信じても‥良いよね?
俺はマンションやアパートではなく、築数十年の下宿家の1室を間借りしている。大学の斡旋する1ルームのアパートを借りるという選択肢もあったのだが、色々あってここに落ち着いた。
晩御飯付で月45000円は魅力だ…ってのもあるが、
「誰か面倒を見てくれる人がいないと心配だよ・・・ってお兄ちゃんを心配してる小町、超ポイント高い♪」
という意見が、両親に取り入れられたって訳だ。まぁ、店子は俺一人だけなんだけどな。
いや、そんな事はどうでも良い。今は小町が最優先だ。
「済みません、ありがとうございます」
俺は大家のおばちゃんに礼を言うと、スリッパを履くのも忘れ、急いで階段を駆け下り玄関へと急いだ。
それにしても小町のやつ、来るなら来るで連絡すれば良いのに。まぁ、次世代型ハイブリッドぼっちなだけに、自由気ままなヤツではあるのだが。
一人暮らしとはいえ、見られては不味いものは、全てベッドの下だから抜かりはない‥おいそこ、訪ねてくるような友達はいないだろう?とか言うな、悲しくなるから。
やれやれ仕方ないやつだなぁ‥などと思いつつ、その実、浮足立った気持ちを隠そうともせずに、俺は軽やかなステップで廊下を駆ける。小町と顔を合わせるのは、かれこれ半年ぶりくらいなのだ。
わざわざ訪ねてくるなんて、お兄ちゃんは嬉しいよ!
だが、そんな有頂天な俺の心に、冷や水を浴びせかけるような現実が待ち受けていようとは‥
数分後、廊下にたどり着いた俺は、そこに立っている人物を見てすこぶる驚いた。
「な、なんでお前がここにいんの?」
「もうセンパイ、遅いですぅ…むぅーっ」
俺を待っていたのは・・・あざとい溜息を付きつつ、上目遣いで見つめてくる亜麻色の髪の後輩だった。
つづく
【おまけ】
「そんで…お前、誰だっけ?」
「センパイ!酷いです!!今すぐ土下座してください!」
「いきなり土下座かよっ!」
「当然の報いです。さぁ早く!」
「け、決してお前を忘れてた訳では…これは…そう、大人の事情なんだ!」
「大人の事情ですかぁ…それなら仕方ありませんね♪」
「じゃ、じゃあ許してくれるか!」
「はい♪土下座は服着たままで許してあげます♪」
「全裸土下座だったのかよ…。」
このサイトに寄せられています、素晴らしい作品の数々に感化され、
いざ書いてはみたものの・・・拙い文章であるにも関わらず、
なんて骨の折れる作業なんだろうと、驚いております。
もしお付き合いしてくださる方がいらっしゃるのであれば、
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
2020.1.31 修正