やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
これから更に一色との関係が爛れたものになりそうなのを不安に思いながらも、結局彼女を抱きしめ続けて十分程が経った。一色はなるべく俺の身体に密着するようにぎゅうぎゅうと身体を押し付けてきたり、頭をぐりぐりと俺の胸にくっつけてくる。
まるで俺に自分の匂いを残すかのようにするその行為に、自然と身体が熱くなってしまう。触れている彼女の全てが柔らかくて、一色が一人の女子だと改めて認識させられる。
つーか、こいつは本来の目的を忘れているんじゃないだろうか。今日は朝からずっと発情してるようにしか見えないんだけど。本人に言ったら怒られそう。
「はあああ……幸せぇ……」
「……一応聞くが、今俺達がしていることは?」
「ふぇ……? 先輩とわたしはラブラブハグをしています……?」
「何で疑問形なんだよ。……モテるための練習」
「あ……や、やだなー、覚えてるに決まってるじゃないですかー」
やっぱりそうですよね。その建前すら忘れてやがったこいつ。
まぁあんだけやることをやっちまった身として、今さら一色を放置して他の女子に積極的になろうなんて考えられる訳ないんだよな。一色がどうして俺にこうして甘えてきてるのかなんて、今の俺なら聞かなくても分かるし。違ったらほんと恥ずかしいしいろはすマジビッチってなるんだけどね!
……それに、昨日の時点で俺の気持ちはもうとっくにこいつに傾いていて。冬休み中に俺が予想していた展開とは大きく違いはあるが、こうして誰かに積極的になろうと思っていたのは事実だしな。
ただ、朝からのこいつの暴走具合を考えると不安に思うことが多々あるわけで。もし公衆の面前でもこの甘えっぷりだったらと思うとさすがにちょっとな……。
「今は二人だからまだ良いが、これからは少し加減をだな」
「え、や、やだ……」
「え、ちょ」
え、いろはすマジ泣きしそうってマジ? テンパって語彙力の低下がマジヤバたんなんだけど。
俺が慌てていると一色はぎゅうっと抱きしめる力を強めてきて、寂しそうな瞳で俺を見つめながら首を傾げぽしょりと。
「先輩は、いやですか……?」
「うぐ……」
そう言われると非常に弱い。……半分落とされちまってるからかもしれんが、めっちゃ可愛く見えてずるいわこいつ。本人も俺の心情なんか理解した上でやってるからなおさらタチが悪い。
「……ああもう、あざといんだよお前は」
「えへへ……こういうの、お嫌いですか?」
「……聞かなくても分かってるだろ」
わしゃわしゃと頭を撫でてやると、一色はふふんとよく分からん声を漏らしながらドヤ顔をする。さっきのはやっぱり泣きそうになるフリかよ畜生……。
「先輩はチョロいですねー」
「チョロいのはどっちだよ。昨日から先輩先輩言って甘えまくってきてるのはどっちだ」
「満更でもないくせにー」
いや、満更でもないのはどっちだよ……。今自分がどんな顔してんのか見せてやりたいわ。ほっぺたゆるゆるの幸せそうな顔しやがって。
「先輩成分が不足しそうになったら、またこうやって抱きついたりしてもいいですか? あ、もちろん抱きしめるだけじゃなくて他にも色々してもらいます」
「……ちなみに不足したらどうなるんだそれ」
「先輩の前で大泣きします。周りに人がいっぱいいてもお構い無しです」
「やりたい放題するな本当に……」
結局モテるための練習という建前すらなしのやりたい放題さに思わずため息が漏れてしまう。しかもいざ本人に頼まれたら絶対に断れないのが容易に想像できるし。
つーか、色々っていうのが何やらされるか分からなくて怖すぎる。……このまま一色のペースのままなのは何だか癪だし、俺も少しは積極的になってみるか。
「……俺からしたいって言ったら」
「ふぇ? ……ええっ!?」
ただでさえ抱きついてて至近距離だからめっちゃうるさい。驚いて口をぽかーんと開けたままの間抜けな顔につい笑みがこぼれてしまう。
「マ、マジですか? せ、先輩からわたしに?」
「あー、今のやっぱなし。聞かなかったことにしてくれ」
「いやいやいや、そんなことできませんよ! おっけーですよおっけー! いつでも抱きしめてください!」
うん、うるさい。よくそんな恥ずかしいこと大きな声で言えんなこいつは。
「あ、で、でも、あんまり人前ではだめですよ?」
「……一応理由を聞いとくが」
「そ、その、我慢できなくなっちゃうので……色々と」
言って、一色はもじもじと身体をよじりながら頬を朱に染めて上目遣いで見つめてくる。その瞳はさっきまでと違って明らかに熱がこもり、漏らす吐息も荒くなっていて──。
「ん……っ」
気づけば、柔らかな感触が唇に伝わっていて。背伸びをした一色に抱き寄せられながら、今日初めてのキスをしていた。
柔らかくて温かい感触と、甘ったるい吐息に頭がくらくらしてしまう。すぐに一色は離れると、恥ずかしそうに視線を逸らしながらぽしょぽしょと呟く。
「こ、こんな感じで我慢できなくなっちゃいます……」
「……今はまだ何も言ってないはずなんだが」
「嬉しいこと言われちゃったので、つい」
へにゃりと頬を嬉しそうに緩め、再び俺の胸に身体を預けてくる。その言葉も行動も全てが魅力的に感じてしまって、自分でも驚くくらい自然と彼女の頭を撫でてしまう。
「……ほんと可愛いなお前」
「えへへ……またして欲しいんですか?」
「……どうだろうな」
答えなんか分かりきっているのに、ここで濁してしまうのは本当に情けないなと思いつつ。タイミングが悪いことに昼休み終了五分前の予鈴が鳴った。
「解散だな」
「むぅ……」
言うと、一色は不満そうに頬を膨らませて俺の胸に顔を埋めて動かなくなってしまう。あざといし可愛いし時間ないしで色々と大変。
「離れてくれませんかね……」
「……もっと一緒にいたいです」
「……っ」
不満そうに、それでいて甘ったるい声音で漏らすその言葉はどこまでも魅力的で。ただ、彼女の立場を考えたら授業をサボるようなことはあってならない。
……こいつは方法もやり方も大胆な上ちょっと変で、それなのにどこまでも健気に俺にアピールしてきてくれてんだ。いつまでも俺が受け身のままなのは駄目だよな……。
「あー、その、……放課後暇か?」
「え、あ、はい、特に何もないです」
きょとんと本当に何も分かっていないように言う一色に少し呆れてしまう。こいつは俺からアピールされることはないと本気で思ってそうだしな。
まぁ、普段の俺の態度からしてそれが当たり前なんだろうけど。だからこそ、今から言うことが恥ずかしくてついがしがしと頭を搔いてしまう。
「……また放課後、練習するか」
「っ……! そ、そうですね。先輩はまだまだ女の子の心が分かっていないのでそうしましょう」
「はいはい、そうだな」
俺の気持ちを汲んでくれたのか、話を合わせてくれた一色に彼女なりの優しさを少し感じたり。……いや、こいつも恥ずかしくて話合わせたなこりゃ。
一色はぎゅうっと最後に力いっぱい抱きついてきて、満足そうな吐息を漏らして俺から離れる。上目遣いで俺を見つめ、真っ赤に染まった頬を隠しもせずにくすりと微笑んで──。
「えへへ……嬉しいです」
「……ん」
お互いモテるための練習なんて建前がもう意味がないなんて分かっている。それでも、この状況をまだ少しだけ楽しんでいるのは俺だけじゃないと容易に分かってしまっていて。
……告白、か。先にやることやったせいで逆にハードル上がってんじゃねぇかこれ……。
まぁ、一色が喜んでくれるなら少しは頑張ってみますかね……。
お久しぶりです。最近半年ぶりくらいにssを書くのを再開しました。直近では五等分の花嫁のssを二作品書きました。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10452228
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10458559
興味のある方はぜひ読んでください。ハーメルンの方の投稿も再開したのでこれからも読んでもらえたら嬉しいです。
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!