やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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もう一度、あざとかわいい後輩と……。⑶

 

 一色に実践と言われて頭を撫で始めてからしばらくの時間が経つ。それでも俺は隣に座っている一色の頭を撫でて……撫でて……ひたすら撫で続けていた。いや、これいつまで撫で続ければいいの……。

 当の本人はどれだけ経っても終わりとは言わないし、もう目はとろんとして口元も緩みきってるし。ゆるっゆるになってますね。

 

「……一色」

 

「ふぁぃ? なんれすかー? えへへぇ……」

 

 しかも酔ってるのこの子は? って思うくらい舌っ足らずで上機嫌になっちゃってますし。だからあんまり言いたくはなかったが、そろそろ俺が恥ずかしくなってきたしな。

 

「このまま俺が撫で続けるだけで本当に意味あるのか?」

 

「……もちろんあるに決まってるじゃないですかー。あ、撫でるのやめないでください」

 

「おい、何でちょっと間があったんだ今」

 

 と言いつつ、言われた通りに普通に撫でてしまう俺も悪いのかもしれないが。

 

「……先輩は嫌ですか?」

 

「え?」

 

 一色はうるうると瞳を潤ませながら、縋るようにちょこんと制服の袖を握ってくる。いい加減これが計算された行動だっていうのが分かっていても、思わずドキリと心臓が跳ねてしまう。

 

「わたしに好かれるのは、嫌、なんですか……?」

 

「そ、そんなことはねぇけど……」

 

 ただそれだと趣旨が思いっきり変わってくると言いますかね……。モテる方法を教えてもらうみたいな話だったのに、ひたすら一色の頭を撫でてるだけってどういうことなの。

 ……うん、俺も積極的になるってことは冬休みの間に決めたしな。全てを一色に任せるわけじゃなくて、ここは俺自身の自主性も大事にしていくべきじゃないだろうか。

 我ながら都合の良い解釈をしたなと呆れつつ、一色の頭を撫でるのを継続する。まぁここからは少しパターンを変えていくけどな。

 

「……一色」

 

「えへへ、そうですそうです。分かればいいんで……す、よ……?」

 

 頭を撫でていた右手をするりと頬に移動して、さわさわと優しく撫でるようにする。それに合わせて一色はかぁっと頬を真っ赤にして、話していた言葉も最後は聞こえないくらい小さくなっていた。

 おお、めっちゃ柔らかいしスベスベしてる……。と思ったら少しだけしっとりしてきたか……? 一色も相当緊張しているってことか。

 

「……一色」

 

「……っ、ど、どうしたんですか……?」

 

 どことなく不安と期待が入り混じった視線を向けてくる一色。その期待に答えられるかは分からないが、頬に添えていた手を一色のあごに滑らせる。

 

「……一色」

 

「せ、先輩……」

 

 つーかさっきから俺ずっと、「……一色」ってしか言ってねーな。緊張しすぎて何て言えばいいか全く分かってません。

 しかし、思わず勢いであごクイまでしてしまった訳だが。これからどうしようかと考えようとする暇もなく、一色は俺の予想もしない行動に出た。

 

「ん……っ」

 

「……え」

 

 思わず素で声が漏れてしまったが、どうやら一色には聞こえていなかったようだ。

 え、えっと……この子は何で目を瞑っちゃったんでしょうか。え、な、何を待ってるの……?

 

「……」

 

「ん……」

 

「…………」

 

「ん……っ、んっ……」

 

 唇をもにゅもにゅさせて、しまいには早く早くと言わんばかりに、こちらに唇を差し出してくる一色。艶のある柔らかそうな唇に視線が釘付けになってしまうが、首をぶんぶん振って無理やり視界から外す。

 いや、いやいやいや。いかんでしょこれ。ど、どうしてこうなった……?

 ……俺が変に積極的になったからですね。いや、それにしては一色も簡単に乗りすぎだろ……。

 

「じ、じらさないでくださいよぉ……」

 

「い、いや、そこまでやらんから……。ただの練習だからな?」

 

「へっ?」

 

 その声に合わせてぱちっと目を開いた一色は、そのままおめめをぱちくりぱちくりさせる。そして、俺の表情を見て察したのか、残念そうにため息を漏らす。

 

「あ、あー……そういうことでしたか……」

 

「ん、そういうこと。お前相手に通用するなら他の奴らにしても大丈夫ってことだよな?」

 

「え? あ、だっ、だめですよ! わたし以外にこんなことしたら!」

 

「……え、何で?」

 

 素直に疑問に思ったので聞くと、一色は視線をきょろきょろさせながらあわあわと慌て始める。え、どうしたのこいつ。

 

「え、えっと、こっ、こんなこと先輩がしても気持ち悪いだけですよ! みんなトラウマ抱えて頭おかしくなっちゃいますからね!」

 

「えぇ……基準が分からんのだが。つーかそれなら何でお前はすぐにやめさせなかったんだよ」

 

「そ、それは、そのぉ……」

 

 胸の前で指をもじもじさせながら、上目遣いで俺のことを見ながらぽしょりと。

 

「と、とにかくだめですからね?」

 

「……分かったよ」

 

「分かったならいいですよ。……あんなのされちゃったらみんなイチコロに決まってますし」

 

 最後の方はごにょごにょ言っていて聞こえなかったが、何か色々とゴリ押しされてしまった気がする。本当に一色に弱すぎるな俺。

 つーか俺は一色相手にしか積極的になれないってことなの? いや、別に悪いことではないが本人はそれを理解しているのだろうか?

 そのこれから更に俺の悩みの原因になりそうな一色は、また何かを思いついたのかこほんこほんと余りにもわざとらしい咳払いをする。あざとい。

 

「先輩の自主性を尊重しようと思います」

 

「……つまりどういうこと?」

 

「もう一度さっきと同じことしてください」

 

「えぇ……」

 

 そんな簡単に言うけど、あれかなり恥ずかしいんだけどな……。今日はもう十分練習的なことはしたしどうにか断れないものか。

 

「そもそも俺がそれやると気持ち悪いって言ったのはお前だしもうやる意味なくない? お前以外にもしちゃ駄目って言われたし」

 

「うっ……変なとこでいらないことを気にして……あ、そうだ。気持ち悪く感じないようにする練習に決まってるじゃないですかー」

 

 手をぱんっと叩いて、さも当たり前のように言ってくる一色。いや、お前今「あ、そうだ」って言ったよな。言葉と動きが合ってねーぞ。

 ……まぁここまで来たら最後まで付き合ってやるか。何なら俺の気持ち悪さですぐに終わりそう。

 

「……分かったよ。また同じことすればいいのか?」

 

「はいっ。でも今度は立ちながらやってみましょうか」

 

 そう言って、一色が視線を向けたのは生徒会室の奥の方だった。あそこならもしも誰かが急に来てもまだギリギリ対応可能かもしれない。

 いや、まぁ鍵閉まってるの知ってるんだけどね。生徒会室に俺が来た瞬間に一色が速攻で閉めてたの見たし。

 それでも用意周到な彼女にある意味感心しながら、彼女の後に続いて奥の方へ移動する。俺と向かい合った一色は高さの関係上、上目遣いで恥ずかしそうに俺を見つめてくる。

 

「ど、どうぞ……」

 

「お、おう……」

 

 そのどこか色っぽさを感じる表情から視線を少し逸らしつつ、先ほど同様に一色の頭の上にぽすりと手を乗せる。そうすると、緊張しているのか彼女はきゅっと目を閉じてぷるぷる震え始める。

 ……しかし、こうされると疑問に思うことが一つ。

 

「……なぁ」

 

「ん……っ、え、あ、な、何ですか?」

 

「目、閉じてたら俺がどんな風なのか分からねーだろ」

 

「で、でも……」

 

 そこで言い淀んだ一色は、かぁっと頬を染めて視線を下に向ける。

 

「は、恥ずかしいじゃないですか……」

 

「……そういう練習なんだろ」

 

 はぁ……急にしおらしい態度になるなよ……。こっちまで恥ずかしくなるじゃねーか。

 

「うー……わ、分かりました。やってやるですよ! 何でも来てくださいっ!」

 

「おい、何かテンションおかしくなってんぞ」

 

 大丈夫かこいつとちょっとばかり呆れながら、一色の頭を撫でるのを再開する。一色は今度は目は閉じないで、熱の篭った瞳で照れながらも見つめてくる。

 

「はぅ……せんふぁい……せんふぁい……っ」

 

「う……」

 

 な、何これ恥ずかしい……。ずっと見つめ合ってるようなもんだし。つーかこいつ、撫で始めると舌っ足らずになるのは本当に何なの? 可愛すぎない?

 

「せ、先輩? 手、止まってますよ……?」

 

「え、あ、お、おう」

 

 今度はもう少し積極的にと思い、右手はそのまま頭を撫で続けて、左手は頬に添えて撫でるようにふにふにと動かす。

 

「んっ……ぁ、ふぁっ、んぅ……っ」

 

「……目、また閉じてんぞ」

 

「あ、だ、だって、先輩にだらしない顔、見られたくないですし……」

 

 それはさっきから十分見てんだけど気づいてなかったのか……。しかし、こんな反応を何度もされてしまうとつい嗜虐心というか、そういう感情が芽生えてしまう。

 少しだけな、少しだけ。……後で怒られそうだけど今は気にしない。

 

「……目、そのまま開けとけよ?」

 

「え?」

 

「開けとけよ」

 

「ひゃ、ひゃい……っ」

 

 俺の雰囲気の変化に気づいたのか、口をぱくぱくさせながら一色の頬はどんどん真っ赤に染まっていく。髪を梳くように撫でると、にへっと頬を緩ませた。

 ……やっぱ恥ずかしいなこれ。変なこと言わなきゃよかった。

 

「……で、どうだった?」

 

「え、何が……ですか?」

 

「いや、だから練習だろ。どうすれば気持ち悪くなくなるかっていう。趣旨忘れたのか?」

 

「え、えと、あの……」

 

 どこか気まずそうにする一色は、何をどう思ったわけか頭の上に置いていた俺の手をぎゅっと握ってくる。そのまま自分の胸の前に持ってきて、ぷにぷにと押したりさわさわと撫でたりひたすらいじくってくる。地味に恥ずかしいんだけど。

 

「わ、分かんないです……」

 

「は?」

 

「あたま、真っ白になっちゃって……」

 

 ……今のは素直に可愛いと思ってしまった。意外とこういうこと慣れてないんだな。

 そう思ってしまうと、今度は俺が我慢出来なくなってしまうわけで。未だにふにふにと触られていた手を、再び頭の上に乗せる。

 

「ふぁ……せ、先輩……」

 

「……じゃ、落ち着くまでは今のまま、な」

 

「は、はい……っ」

 

 もう薄々気づき始めているのだが、今やっているこれは「モテるための練習」って名目を利用しただけの別の何かだ。そう思っているのはおそらく俺だけじゃなくて、先に仕掛けてきた一色もそうであるはずだろう。

 彼女が昨日から今日にかけて、何をどう思って二人きりの生徒会室でこのような事をさせようと思ったのか。その理由を知ってしまったら、俺と彼女の関係が変わってしまうことだけはハッキリと分かるのだが。

 色々と考えていると気づけば、一色が漏らす熱っぽい吐息は荒くなっていて。うっすらと涙を浮かべた瞳と目が合うと、唇が微かに震えていた。

 

「も、無理です……」

 

「え?」

 

 何をと聞き返す暇もなく、カチッ──と何かが少しだけぶつかった感触がすると同時に、唇に柔らかい物が押しつけられる。すぐに離れていったそれを全く理解できず、自分の唇につい指を触れてしまう。

 え、えっと、今のは……? 最初に少し歯が当たったのと、次は一色の唇……?

 

「んっ……えへへ、もらっちゃいました」

 

「え、あ、おま、お前……」

 

 全くと言っていいほど言葉が出てこない。絶対にそこまではいかないと思っていたので、こんな不意打ちをされてしまったら当たり前だ。

 

「……これも練習ですから、その、今度は先輩から、ね?」

「っ……」

 

 どこまでも蠱惑的な表情で、それでいて懇願するように腰に手を回されて密着される。そんな彼女の魅力的な誘惑を、今の俺に断れるわけもなく。

 俺からも彼女の背中に手を回すと、艶のある笑みを浮かべた一色が、んっとこちらに唇を差し出してくる。

 そのうっとりとした表情に吸い込まれるように、今度はこちらから唇を重ねた──。

 

 




次回でおそらくラストになると思いますが、今回のは第一章的な感じなので第ニ章、第三章と今後も続いていく予定です。付き合ってはいないけど、付き合っているかのようにイチャイチャする展開がとても好きです。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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