やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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いろはす誕生日おめでとう!(誕生日ssではないです)

というわけで、ずっとやりたかったいろはす√のPart2です。

プロローグの次にあるいろはす√とは全く別世界のお話です。ですので、関係はリセットで付き合ってない状態からスタートします。


いろはす√part2
もう一度、あざとかわいい後輩と……。(1)


 冬休みが明け、学校が始まってから数日が経ったある日。新学期といえど特に変わったこともなく、今日も一日何事もなく過ごしていた。

 いや、一応変わったこともあるか。まぁあれだ。変わったことといえば、俺が恋愛に積極的になろうと考えたことくらいなのだが。

 しかし、これが面白いくらいに上手くいかないのだ。だって全然女子と二人きりなんてなれないし。

 

 うん、悲しい(自己完結)。

 

 そんなこんなで多少の悲壮感を覚えながら部活を終えて、ゆきのんとゆいゆいが百合百合しながら鍵を返しに行くのを見届ける。よし、元気出た。

 んじゃ、俺は先に帰らせてもらおうかしらね……と下駄箱へ向かう途中のことだった。

 

「あ、せんぱーいっ!」

 

「……ん、どした」

 

 その聞き慣れた声で振り返ると、我が校の生徒会長兼ゆるふわあざとビッチこと、一色いろは様がいた。今日初めての対面である。

 んで、その一色さんは何でかぽかんと間の抜けた表情でこちらを見ていた。

 

 え、なに。どしたの。

 

「え、なに、どしたの」

 

 思わず心の声が漏れてしまった。呼ばれて返事したのにそんな顔されてもこっちも困るっていうか……。

 あ、もしかして先輩って俺のことじゃなかったってパターン? 何それ恥ずかしいじゃないですかーやだー。

 

「い、いえ……先輩ならこんなところで話しかけても反応とか絶対してくれないと思っていたので」

 

「あー……」

 

 確かに完全下校時間が近いとはいえ、廊下であんな大きな声で先輩なんて呼ばれたら目立つしな。この前までだったら絶対に振り向いてなかったと思う。

 や、やだ、もしかしなくても俺って女に飢えすぎ……?

 

「……」

 

「……?」

 

 こうして考えると、ようやく女子と二人きりになったんだよな(廊下だからもちろん他に人もいるけど)。それはいいのだが、いざ二人きりになってみるとどうすれば良いか分からないし、その相手が一色ってのもなぁ……。

 ……どう考えても振られる未来しか見えないんだけど。最近はどうか知らんけど、普段から男子を手玉に取ってたやつ相手に俺のにわか仕込みの技術が通用する気がしない。

 俺がどうするべきかうんうんと思案していると、一色は恥ずかしそうに身をよじりながら自分の身体を両腕で隠すように抱いた。

 

「み、見すぎなんですけど……」

 

「おお、悪い。それじゃあな」

 

 よし、やっぱ無理だ帰ろう。というわけで、颯爽と戦略的撤退をしようと思ったのだが。

 

「……なに」

 

「むふふー」

 

 一歩目を踏み出す前にがっしりと腕を掴まれてしまいました。めっちゃニコニコしてる。超怖い。

 

「俺もう帰るんだけど……」

 

「えー、いいじゃないですかー。今日は先輩のお手伝いなしで頑張ったんですし、少しだけ話しましょうよ、ね?」

 

 掴んだ俺の腕をぶんぶんと揺らしながら、そんな呆れるようなことを言ってくる。そもそも俺に仕事手伝ってもらうのが当たり前って考えをそろそろやめようね……。

 ……まぁ、一つも頼られないってのもあれだが。あ、あれ? 俺にも本格的に社畜魂が染みついてきたのかな……?

 

「はぁ……で、なに。何か用でもあんのか?」

 

「えっとですねー、もう外も真っ暗で夜遅いじゃないですかー?」

 

「そうだな」

 

「女の子ひとりで帰るなんて危ないじゃないですかー?」

 

 あ、これ八幡知ってる。絶対に面倒くさいことになるやつだって知ってる!

 

「あ、そこに戸部が」

 

「あ、それはいいですから」

 

「ああ、そう……」

 

 と、戸部……お前はなんて使えないやつなんだ……。後輩に舐められると大変だよな……分かるぞその気持ち……。

 

「ということで、今日はわたし頑張ったんですし、ご褒美として駅前まで送ってもらえないかなーと思いまして」

 

「えぇ……」

 

 何で俺がご褒美するしかないのかはこの際置いとくことにしよう。しかしこれは悪い案ではない。

 一色相手に積極的になるってのはある意味危険かもしれないが、このチャンスを逃したらいつ二人きりになれるかなんて分からないしな。

 

 ……よし、やってみるか。

 

「まぁ……そんくらいならいいぞ。……俺に頼らずよく頑張ったな」

 

「……ふぇ」

 

 え、な、なに。積極的になるってこういう感じじゃないの? もしかしてドン引きしちゃったやつ?

 当の本人は、ぴたりと一つも動かずに固まっていたのだが、すぐに顔を真っ赤にしながらわちゃわちゃぶんぶんと腕を振り始めた。

 

「な、ななな、何ですかそれ口説いてるんですか急に優しく褒めてくるなんてどういうことなんですかそういうのはもうちょっと心の準備が必要なのでもっと落ち着いたときにお願いしますごめんなさい」

 

 言い終えて、肩で息をして頬を真っ赤にした一色はぷいっと視線を逸らしてしまった。

 つーか俺はこいつに何回振られればいいのかね。まだちょっとしか積極的になってないのにもう振られちゃったよ……。

 

「……ほれ、行くぞ」

 

「は、はい」

 

××××××

 

 ということで、積極的になってみることも兼ねつつ一色を駅前まで送ることになった。一色の歩調に合わせてゆっくりと歩いていくこの時間に、本人には絶対に言えないが俺は少しばかり心地良さを覚えて……はいなかった。それっぽく言ったはいいがそんなことは一つもなかった。

 いや、違うんだ。別に居心地が悪いわけじゃないんだが、積極的になるって決めたからとりあえず出来ることを色々としたりしてたからな。

 カバンは俺から言って自転車のカゴに入れてやったし、気の利いた話をしてみようと頑張ってみたり等々。何というか、その、この行動をしている自分を想像したら気持ち悪くてですね……。

 一色も最初は俺の顔を見て嬉しそうに笑ってくれていたのだが、次第にその顔には疑問の色がどんどん膨らんでいった。そ、そろそろマズい気がしてきたぞ……。

 

「んー……?」

 

 って感じでもう明らかに疑問を口にしちゃってるし。やっぱり何か間違えていたのだろうか。出来る限りのことはやってみたんだけどな……。

 あ、単に俺のこの行動が気持ち悪かったってことか。そう言われたら涙で前が見えなくなるな。

 

「先輩先輩」

 

「んー」

 

「先輩ってもしかして彼女欲しかったりするんですか?」

 

「は?」

 

 え、なに。こいつエスパーなの?

 

「んなことねぇよ……。つーか何でそう思ったんだよ」

 

 聞くと、一色はんーとあごに手を当てて考えるような仕草をする。少しすると「あっ」と何かを思い出したように一色が口を開く。

 

「今日の先輩って、すぐにでも彼女が欲しいっていうのがすごい伝わってくる男の子って感じでしたから」

 

「……例えばどういうところがだ?」

 

「んー、色々としてくれたじゃないですか。かばん受け取ってくれたり気の利いた話をしようと空回りしてたりとか」

 

 あ、やっぱり空回りしてたのね……。そこも含めて彼女が欲しい系男子ってカテゴライズされてるのがなおさら辛いな。

 

「あとはそうですねー、いつもより優しかったりとかですかねー」

 

「は? ばっかお前、俺が優しいのはいつものことだろ?」

 

「そうですね、先輩はちょー優しいです」

 

 俺が冗談混じりに言った言葉に、一色はそんなことを何食わぬ顔で言ってくる。

 え、な、なに。突然どうしたのこいつ。

 

「だ、誰なんですか」

 

「何がだ?」

 

「その、ですね……」

 

 そこで一色はふと足を止めて、きゅっと自分の胸の前で手を握って。

 

「先輩の、好きな人って……その、……だれ、なんですか……?」

 

 少しだけ震える声音で、一色はそう伝えてきた。赤らんだ頬、恥ずかしそうにしながらも真っ直ぐに見てくる視線、潤んだ瞳の中に混じっている微量の緊張の色。

 その全てが一色いろはという少女の魅力を最大限まで引き出していた。

 

「い、いない、けど……」

 

「ぶっぶー、だめだめです」

 

「え?」

 

 え? 今何て言ったこいつ? さっきまでの切なげな表情はどこへ言ったのん……?

 

「今日の先輩っていつもよりわたしに優しくしてくれてましたよね?」

 

「……まぁ、多少は」

 

 ここまで来たらもう嘘は付けないよな。一色にはもうバレちまったようだし。

 

「ですよね。なんとなくですけど彼女が欲しい男子って感じも伝わってきましたし」

 

「……で、さっき駄目って言ったのは何なんだよ」

 

「ああ、それはあれですよ。普段より露骨に優しくしてきてアピールしてるのに、いざこっちから好きな人を聞いたらいないって言ってくることについて言ったんですよ」

 

「……ごめんなさい」

 

 もう何も言い返せないですねこれ。完全に論破されて、しかも手玉にまで取られてしまいました。さすがっすいろはすぱねぇっす……。

 あまりの恥ずかしさに一色がいる逆の方へ顔を逸らしていると、小さな声でぽしょりと。

 

「普段の先輩だからこそ、いいんですよ」

 

「は? どういう意味だよ」

 

「……にぶちんさんの先輩には分かりませんよーっだ」

 

 言って、ぷいっとわざとらしく顔を逸らしてしまった。

 

「……まぁ、なに。変なことして悪かった」

 

「別にいいですよ、さっきの先輩もそれはそれで……あ」

 

 そこで、一色は何か面白いことでも思いついたのか、にやぁっと意地の悪い笑みを浮かべる。

 ……嫌な予感しかしないんですが。

 

「わたしが教えてあげましょうか?」

 

「……何をだ?」

 

「ふふっ、女の子を落とす方法、です。知りたくないですか?」

 

「……まぁ、多少は」

 

「ふふ、素直な先輩も悪くないですね。じゃあ普段のお礼ということで、わたしが教えてあげますよ」

 

 ここは大人しく従っとくか。そもそも完全にバレてしまったこの状況で今さら隠す意味もないしな。

 それに言いふらされたら怖いし……。これからそれで弄ばれる未来しか見えない。

 

「ではではさっそくですけど、一ついいですか?」

 

「もう何でもどーぞ……」

 

 言うと、一色は少しだけ緊張した表情で「えいっ」とよく分からん掛け声と共に俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。

 …………え?

 

「なっ、お、おい、歩きづらいし離してくれませんかね……」

 

「せ、先輩こそ、その反応はひどくないですか? 女の子が勇気を出してしてきた行為を、そんなふうに拒んだらだめなんですよ?」

 

 ……女の子ってずるいな。

 

「はぁ……さいですか」

 

「えへへ、さいですよーだ」

 

 その楽しそうな笑みを浮かべる横顔を見て、かなりの不安を覚えつつ。

 まぁ、あれだ。意図せずとも女子と二人きりになる機会は作れたんだもんな。そこは少しだけ感謝だな。

 こうして、俺と一色の今までより更に不思議な関係が始まった。

 




いろはす√をもう一度1から書きたかったので今回は書かせてもらいました。誕生日ネタでも書きたかったんですけどそれはまた来年ということで……。

初めていろはす√を書いてから早いもので一年半ほど経ちました。今までのいろはす√とはまた違う感じで書いていけたらなと思います。これからもよろしくお願いします!

ということで、しばらくはオリキャラ√と交互で書くことにする予定です。二月三月はほとんど更新できてなかったのでこれからは更新頻度も上げていこうと思います。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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