やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
四限目の授業終了のチャイムが鳴り、昼休みになった瞬間に俺は逃げるように教室を抜け出した。そのまま購買でパンを買ってから足早にベストプレイスに向かう。
「はぁ……疲れた」
ベストプレイスに着き腰を下ろすと、ため息と共に愚痴のように言葉が漏れてしまう。だって本当に疲れたしな……。
まぁ何が言いたいかというとあれだ。朝からクラスで俺と関わりのある奴ら全員に話しかけられ続けた。
やったね俺! 今日からクラスの人気者だよ! やだ、全然嬉しくない。
話しかけてきた奴らの共通点はただ一つ。どうやら全員俺の見た目についてより、見た目を変えた理由についてのが気になっていたようだ。
もちろん見た目についても聞かれたんだけど。そこら辺はとりあえず適当に濁しといた。
他の名前も知らないモブ共はとりあえず視線が面倒くさいし気に食わなかったです。あ、むしろクラスで一番のモブは僕でしたねごめんなさい。
隣の席の女子(可愛い)の視線が熱視線すぎたのが一番疲れた……。小さい頃初めて遊園地行った時の小町みたいに目がキラキラ輝いてた。
普段はクラスでも目立たずに大人しい部類の子(多分)だからその分さらに可愛く見えましたまる。まぁ視線に悪意がなかっただけマシか……。
戸塚に褒められたり隣の席の女子の可愛い一面を見れたのは良かった。だけど、やっぱり見た目変えるのは精神的にも疲れるし間違いだったかなぁ……。
そんなこと考えながらパンをもぐもぐごくりんこしていると、ポケットからスマホの着信音が鳴り響く。正直誰だか見るまでもないけどまさか電話してくるとは思わなかった。
ため息を吐きながら着信を押し、多少警戒しつつ電話に向かって声を発した。
「……もしもし」
『おいっすー』
何故か少し腹立たしい、それでいて明るい挨拶が飛んできた。
「……何の用だ」
『あははっ、疲れた顔してそうだねー』
問うと、質問とは全然関係ない質問が返ってきた。やだ、この子全然話聞いてくれない……。
「お前は楽しそうな顔してそーだな……」
皮肉混じりに言うと、折本は電話口で笑い声をあげた。
「うん、マジウケてたよ。だって比企谷めっちゃラインしてくるんだもん」
「や、だってしょうがないだろ。周りからの視線怖すぎて寝るフリもできないから仕方なくお前にラインするしかなかったんだよ……」
俺の言葉に折本の返事はなく、わずかな沈黙の後小さくため息を吐かれる。
『仕方なく、ね。……それでどうだった?』
「……とりあえず視線がすごかった。これ見た目変える必要なかったんじゃねぇの?」
ていうかこれ自信云々について全く関係ないよね! や、まぁ確かに自分の見た目結構イケイケなんじゃね? とは思えたけどそんなの別に嬉しくないしな。
『まあまあそこは気にしないで。あ、そうだ比企谷』
「なんだ?」
『今日の放課後って空いてる? ちょっと頼みたいことあってさ』
「や、俺普通に部活あるんだけど」
部活という単語を聞いた折本はぷっと吹き出す。ああ、そういや変にツボ入ってたんだっけ。
『奉仕部だっけ? マジウケる』
「どこがウケんだよ。……まぁ部活の後でいいなら話くらいは聞くぞ」
『うん、じゃあ部活終わったら連絡して。それじゃねー』
「分かっ……切るのはえーよ……」
ううむ、何か俺、昨日から折本に振り回されてばっかな気がするぞ……。
いや、別に退屈はしないから良いんだけど。でも流石にちょっと疲れたわ……。や、マジで。
××××××
部活を終えてから、俺は昨日彼女と再会したドーナツショップへと向かっていた。折本はもう既に着いているらしい。
部活でも俺への質問を止むことはなく、雪ノ下と由比ヶ浜から色々と質問されまくった。何故かいた一色にはお化けを見たような顔された。目を見開いたまま「せ、先輩が整形しちゃった……」とか言い出しちゃったし。流石に失礼だった。
その後もずっと三人からの視線はすごかったし、終いには写真まで撮られ始めるし。俺は見せ物じゃないんだぞ!
部活でのことを少し呆れながら思い出しつつ自転車を漕ぎ続けると、彼女との集合場所である目的地が見えてきた。自転車を止めてから、店内に入って適当に注文する。二階へ上がると昨日と同じ場所に折本はいた。
「おう」
「よっ、昨日ぶり。ほんとに見た目変わってるね。結構いい感じじゃん」
彼女の言う「昨日ぶり」という言葉に少し違和感を感じた。一日中ラインしてたせいで感覚狂ってんのかね。まぁどっちにしろ中学の頃の俺が知ったら多分色んな意味で死ぬな。
ドーナツを美味しそうに頬張る彼女の隣に座り、コーヒーに口をつけてから本題に入る。見た目の話はスルーの方向で。今日の質問攻めのせいで半分トラウマになりかけてる。
「……そりゃどーも。それで、用ってなんだ?」
「明日あたしらと遊び行かない?」
「はい?」
ん、んん……? な、何か聞き慣れない単語が聞こえてきたんだけど……。今折本なんて言った?
遊び? あそび? アソビ? ASOBI……?
ほむん。どれも知らない単語ばかりだな。俺には理解できない異世界の言語のようだ。これはもうゼロから始める異世界言語講座とか開かないと駄目だよね!
うん、冗談はさておき。とりあえず話だけは聞いてみるか。
「……なんで俺? ていうかあたしらってことは他にもいるってことか?」
「うん、そゆこと。あたしと千佳と千佳の他の学校の友達二人とで遊ぶはずだったんだけどさ。あっちがクラスの男子何人か連れてくって言い出しちゃってさー」
「……で?」
めっちゃ嫌な予感しかしないんですがそれは……。ていうかまたチカちゃんいるの? それだけはマジっべーわ(錯乱)。
「それでこっちも呼んできてって言われたんだけどやっぱり急じゃん? だから比企谷にお願いした」
「いやいや折本さん? 俺も今言われたばっかで超急なんですけど……」
言うと、折本は少し身を乗り出して俺の顔をじーっと見つめてくる。その視線に耐えきれず思わず目を逸らしてしまった。いかん、何かちょっと恥ずかしいんだけど……。
「うん、やっぱ今の比企谷結構イケてるから大丈夫だって」
「何が大丈夫なのか教えて欲しいんだけど……。……はぁ。しょうがねーな」
俺の言葉に折本は驚いた顔をしながら目を何度もぱちぱちと瞬かせる。いやまぁ、俺も何で引き受けちゃったか自分でも謎だしな……。折本の気持ちも分からんではない。
「え、ほんとに来てくれるの?」
「……仮にあっちの男がヤバいのばっかで何かあったりしたら困るからな」
高校生男子とかマジで性欲の塊だし。ソースはもちろん俺。
それにあっちの男子の目的なんてどうせ折本とチカちゃんと仲良くなることだろうしな。絶対俺みたいなぼっちとは違って女遊びしまくってるチャラ男だろ(偏見)。
「やっぱ比企谷ってそういうとこ気遣えるんだ。ウケる」
「まぁ一応な。でも俺がいたって役に立つかは分からんけど」
「ううん、そんなことないよ。ありがと」
折本は明るいけど柔らかさを含んだ笑みを浮かべる。裏表のないその笑顔にどくんと心臓が跳ね、少しだけ動揺してしまった。
「お、おう、おう……」
……全然少しじゃなかった。オットセイみたいになってる。超恥ずかしい。
「なにキョドってんの? マジウケるんだけど」
前言撤回。一瞬で冷静になったわ。
「じゃあ明日、よろしくね?」
「……おう」
まぁこれも何かの縁だしな。折本と遊ぶのも悪くはないだろう。
それよりもあれだ。と、とりあえずはチカちゃんとの和解の方法考えなきゃ……!
いろはす√ぶりの中編②でした。次回はやっと折本ちゃんとイチャイチャできるかも……?
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!