やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
翌日の朝。いつもより早く起きた俺は折本に言われた通りに髪のセットを試してみようと思い、とりあえず全力でいじくり回していた。
ある程度いじって多分いい感じにできたはずなので、折本から不本意ながらもらった伊達眼鏡をかけてみる。
「お、おお……」
鏡に映った自分を見て思うことは一つ。
こ、この人誰……? え、ほ、本当に私なの……? これが私なんて嘘みたい! キャー!
いやまぁ、実際そこまでではないにしても正直結構変わっていると思う。俺ってやればできる子なんだ! やったね!
……はぁ。学校行きたくねぇ……。
半ば現実逃避をしながら洗面所から出てリビングへ向かう。まずは小町の反応がどうなるかだよな……。
「おはよう小町」
「あ、お兄ちゃんおは……よ……う?」
俺の顔を見た小町は目をぱちくりぱちくりぱちくりぱちくりさせる。
いや、長すぎだろ。ぱちくりがゲシュタルト崩壊してる。
「え、ええっと、どちら様ですん……?」
え、何で小町ちゃんれんちょんみたいになってるのん?
「そこまで変わってるか?」
「いやいやお兄ちゃん変わりすぎたよ! 急にどうしたの!?」
「や、なんだろうねほんと……」
俺も本当にそう思うよ、うん。
「だってお兄ちゃん彼女作りたいとは言ってたけど、見た目は変えるつもりないって言ってたじゃん」
「や、まぁこれはちょっと色々あってだな……」
俺の中途半端な反応に小町の目が妖しくきらんっと光る。うへぇ……絶対面倒くさいやつだこれ。
「……ほーん?」
「何そのムカつく反応」
「ふっふっふ。小町はわかってしまいました」
人さし指をふりふりしながら俺の周りをぐるぐる回り始める小町。めっちゃ鬱陶しいんだけど……。
「……何を」
「普段からお兄ちゃんと関わってるお義姉ちゃん候補のみなさんは見た目を変えようなんてことは言わないはずです」
「…………」
まずお義姉ちゃん候補ってなんたよ。恥ずかしいからやめてくれ……。
「だから小町の予想としては普段あまり関わりのない人。ていうことは他の学校の人かな?」
「はぁ……何でわかっちゃうんだよ……」
これで小町が「小町はお兄ちゃんのことなら何でもわかっちゃうんだよ! あ、今の小町的にポイント高い!」とか言い出したら絶対許さない。
「小町はお兄ちゃんのことなら何でもわかっちゃうんだよ! あ、今の小町的にいひゃいひゃい!」
こ、こいつ、俺が考えてたことそのまま言おうとしやがった……! むしろ俺の方が小町のこと知ってるな。うん、これは八幡的に超ポイント高い。
「それで、その新しいお義姉ちゃん候補って誰なの?」
「勝手にお義姉ちゃん候補にするんじゃねぇよ……。別にそんなんじゃないしただの中学の時の同級生だ」
「へ……?」
まぁそりゃそんくらいは驚くとは思ってたけど。俺の中学時代を知ってる小町からしたら……そりゃ、ねぇ?
何か自分で言って泣きそうになってきた……。
「……もしかして地雷?」
「多分一番の地雷」
言うと、小町はくりんと首を傾げながら可愛らしく顎に手を当てる。
「何でその人とまた関わり始めたの?」
「この前クリスマスイベントあったろ? そん時に会ってな。それでまぁなんやかんやあったんだが昨日また会った」
「そーなんだ。……平気?」
小町の不安げに揺れる瞳が、本気で俺を心配してくれてるのだと自覚させる。これじゃお兄ちゃん失格だな……。
「まぁ関係自体は悪くはないから平気だぞ。……ありがとな」
「ならよかった」
何となく気恥ずかしくなったからわしゃわしゃと小町の頭を撫でると、小町は「きゃー!」と楽しそうな声を上げる。ほんといい妹持ったな俺……。
「それにしてもお兄ちゃんさ」
「ん?」
「昔の地雷さえもフラグに変えちゃおうとしてるとかちょっとヤバくない? お兄ちゃんはギャルゲの主人公なの?」
小町はにやにやとした表情で意地の悪いことを聞いてくる。
むぅ。何かムカつくし軽く反撃してみるか。だいたい俺まだ誰にも積極的になったことないから軽い練習ということで。
「……別にフラグに変えるつもりはねぇよ。それに俺がギャルゲの主人公だったら真っ先に攻略するのはもちろん小町に決まってんだろ」
俺のいたずらめいた言葉に反応した小町の頬がかぁっと真っ赤に染まる。
「はわ、はわわ……ちょ、ちょっとそれは反則だよ……」
いや、そんな反応されたらこっちまで恥ずかしくなるんだけど……。
「あ、そうだ小町。写真撮ってくんねぇか。髪セットしたら送れって言われててな」
「あ、じゃあ小町も今のお兄ちゃんと一緒に写真撮りたい!」
「おう。ほれ、スマホ」
スマホを渡すと小町はカメラのアプリを起動し、左手を俺の右腕に絡めてぎゅっと腕に抱きついてくる。そのまま右手をふんすっと可愛らしく息を吐きながら頑張って極力前へ伸ばそうとする。
「はいっ、ちーず!」
小町の掛け声と共にパシャッとカメラの無機質な音が鳴る。
「ん、いい感じかな。あとで小町にも送っといてね」
「おう」
小町にスマホを返されたのでそのままラインを起動して、折本のトーク画面へ移動する。昨日の夜少しだけ折本とラインしたからある程度は覚えた。
『写真送っといた。妹も混じってるけどそれは気にすんな』
画像と一緒に送ると一秒もせずに画面に既読の文字が浮かぶ。早いな……。こいつもしかして待ってたのか?
『どっから画像拾ってきたの?』
お前もその反応かよ……。
『いや、拾うも何もどう見ても俺がかけてるのお前からもらった眼鏡だろ』
『ほんとイメージ変わるもんだねー。マジウケる』
『うっせ。じゃ、もう俺学校行くから』
『じゃあクラスの人の反応どんな感じか連絡してねー!』
『覚えてたらな』
どうやら折本は顔文字とかスタンプを使わないタイプらしい。や、多分相手が俺だからだろうけど。なにそれ悲しい。
「小町、自転車乗ってくか?」
「おお、お兄ちゃんが自分から言うなんて珍しい」
「今の俺の格好のが珍しいんだけどな……」
本当に珍しい。これ学校で珍獣扱いされるの確定だな……。
――――
小町を学校まで送ってから、時間に余裕もあったのでのんびり自転車を漕いで学校まで来た。現在俺は教室前で立ち止まってます。
……。
…………。
……………………。
うおああああああああ!!!!! こわいよおおおお!!!!!
え? え? え? これほんとに教室入るしかないの? や、まぁずっとここにいた方が違和感あるしな。うん、入るしかないよね。
よ、よしっ、行くぜっ!(謎のハイテンション)
意を決して教室の扉を開ける。いつもなら俺をチラッと見てから「なんだあいつか……」みたいな視線を向けてくるはずのクラスメイトだが、今日は全然違った。
今教室にいる全員が面白いくらいぽかんとした顔をしている。一番面白い顔してんのは相模。ほんとに珍獣見たような顔してる。何か腹立つ。
う、うん。無視だ無視。じゃなきゃ心がへし折れる。
必殺のポーカーフェイスを発動しながら席に座る。隣の席の女子(可愛い)がぽけっとした表情で俺をずっと見てくるからなおさら居心地が悪すぎる。
「…………」
…………。
「…………」
え、ええっと……。
「…………」
と、とりあえず折本に連絡しなきゃ……!(錯乱)
バックからスマホを取り出し電源をつけると、既に彼女からの通知が来ていた。
『どうだった?』
『クラスの反応がヤバい。助けて』
今は折本の「どうだった?」って言葉が天使にしか見えない。心配してくれて(してない)ありがとう!
『マジウケる!』
うわ、一瞬で悪魔に変わったよこの子……。え、もしかして折本さんそれで終わりですか?
『や、ほんとに全然ウケないからね?』
『あたしはウケてるから平気平気!』
何が平気なのか分からないけど折本が楽しそうに笑ってる姿は容易に想像できますよ……。
イメチェンしたの本当に無意味なんじゃね……? と脱力感に陥っていると、俺のアホ毛がピクりと反応した。
こ、この感覚は……!
「八幡おはよっ」
「おう、おはよう戸塚」
うん、戸塚の挨拶でもう元気でたわ。脱力感とかどっかに消え去ったわ。
戸塚は俺をじっと見ながら不思議そうに首を傾げる。
「八幡イメチェンしたの?」
「ま、まぁ少しな」
「そっか。いつもの八幡もかっこいいけど今の八幡もかっこいいね!」
「おうっ。ありがとな」
「じゃあそろそろHR始まるしもう行くね」
結婚しよ。歩きながら胸の前で小さく手を振ってくる俺の嫁(戸塚)に俺も軽く振り返す。
あ、そうだ。スマホを起動しさっき返事をし忘れていた彼女にメッセージを送る。
『良いことがありました。本当にありがとうございました』
『なにそれウケる』
や、まぁ戸塚については良いんだけど他の奴らはウケないんだよなぁ……。
はっきり言おう。さっきから視線が超怖い!
今回の話は折本がメールでしか登場できなかったので小町√と戸塚√、更には隣の席の女の子(可愛い)√の三つが開拓できそうな勢いでした(゜∀。)
次回は折本さんいっぱい登場させる予定です!折本が好きな皆さんはそれあるー!して待っていてください!(意味不明)
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!