やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
実は大魔王が超絶ぴゅあぴゅあ天使なのはまちがっていない。【前編】
学校からの帰り道、俺は千葉に来ていた。今日は久々に書店にでも行って新刊のチェックをしようと思ったからだ。
最近は家に引きこもって少女漫画やら恋愛ドラマばっか見ててそんな暇なかったしな。
今は書店で新刊をぼーっと眺めている。欲しいものを探しつつ、暇つぶしに今週のことを振り返ってみることにした。
…………うん、考えてみたは良いけど特に何もなかったわ。誰とも二人きりになれず、奉仕部への依頼もなくただただ平和な毎日を過ごしていた。
これって嵐の前の静けさなんじゃね? とか思うけど、こんなことを考えてるとフラグが立ってあんまり会いたくない人に会っちゃったりしちゃうから考えるのはやめておくことにする(フラグ)。
「およ? 比企谷くん?」
後ろから聞こえてくるその声に思わずため息が漏れてしまった。
余りのフラグ回収の速度にびっくりだぜ……。
「あ、やっぱり比企谷くんだ」
振り返ると陽乃さんが俺に手を振ってきた。
……よりによって一番エンカウントしたくない人と遭遇してしまった。っべー、マジ俺の人生終わったっしょー。
うん、これはあれだ。逃げるが勝ちだ。
ワタシ、アナタ、シラナイ、と視線を逸らしながら陽乃さんの前を横切るとゾクッとした寒気が背筋を走る。死んだ。
「お姉さんを無視するとはいけない子だなー」
「……こんにちは、陽……雪ノ下さん」
やべ、動揺しすぎて心の中と呼び方が混じってしまった。絶対この人なら今のこと反応するだろうな……。
「テンション低いなー。それに陽乃さんって呼んでもいいんだよ? なんなら呼び捨てでもいいし。むしろ推奨」
陽乃さんは「あ、お義姉ちゃんでもいいぞー」と付け足した。絶対そう言ってくると思ってた。
ううむ、でもあれだ。学校が始まってから女子と二人きりになった時に名前を呼ぶことだってあるだろう。
それなら陽乃さん相手に練習をするっていうのもありなのかもしれない。呼んだ後が怖いけど。
よし、八幡頑張る!
「……陽乃、……さん」
ちょっと調子に乗って呼び捨てで呼んでみようと思ったけど無理だった。何この中途半端な呼び方。恥ずかしくて死にそう。
陽乃さんを見ると、きょとんとした顔をしながら眼をぱちぱちと二、三度瞬かせる。しかし、すぐにいつもの調子に戻って訝しげな視線を向けてくる。
「……ふーん。どういう心境の変化かな?」
「……名前で呼んでって言ってきたのは陽乃さんの方じゃないですか。俺はただそれに乗っただけですよ」
「……へぇ」
ぞっと底冷えするような声に思わず身体が強張ってしまう。
俺は単純にこの人が怖いんだろう。完璧な外面はもちろんのこと、見抜かれても隠そうともしない苛烈な内面も。
うん、本当に怖い。怖いからもうお家帰る!
「……じゃ、俺はもう帰りますね」
名前で呼ぶだけ頑張ったしもう退散するとしよう。この人を落とすとか絶対無理だし。ギャルゲーだったら絶対攻略不可能なキャラだな。
歩き出そうとすると陽乃さんに腕をがっちりと掴まれてしまった。どうやら逃がしてはくれないらしい。
「え? もう帰っちゃうの? せっかく会ったんだしお茶でもどう?」
「えぇ……」
ため息混じりの声が口から漏れてしまうと、陽乃さんは腰に手をやりふくれっ面を作る。
「こんな美人なお姉さんが誘ってるのに断るなんてありえないぞー」
「……分かりましたよ」
降参とばかりに軽く両手を上げると陽乃さんはくすりと笑った。
折角のことだし言い方は悪いだろうけど陽乃さん相手に練習をすることにしよう。
「よしっ、じゃあ行こっか」
楽しそうな声音で言いながら陽乃さんが俺の腕に抱きついてきた。
うん、やっぱりこの人相手とか絶対無理。腕に柔らかいたわわな実りが当たってて天国……じゃなくて死にそう。
××××××
陽乃さんと一緒に近くの喫茶店に入る。ついさっきまで陽乃さんが俺の腕に抱きついたまんまだったから歩きづらいし周りの視線が怖いしで本当に大変だった。
強引に引き離そうとしたら耳元で「だーめ」って言われるし。めちゃめちゃゾクゾクしちゃいました。正直もうお腹いっぱいです。
「あれから雪乃ちゃんとはどう?」
俺の隣に座った陽乃さんがコーヒーに口をつけてから話しかけてくる。
「いや、特に何もないですけど」
「つまんないなー。そんなに雪乃ちゃんって魅力ないの?」
何でこの人は毎回俺と雪ノ下をくっつけようとするんだろうか。正直謎だな。
……よし、ちょっと試してみるか。練習開始だ。
「まぁそうですかね」
何食わぬ顔で言ってやると、陽乃さんの雰囲気がガラリと変わった。形の見えない重圧が俺の両肩にのしかかるような錯覚に陥る。
マジで大魔王にしか見えないぞ……。
「へー……これは雪乃ちゃんに報告かな」
うーむ、完全に地雷踏んだな。まぁ分かりきってたけど。
だってこの人俺と同じくらいシスコンだしな。
「いや、別にそういうわけじゃないですって」
選択肢間違えたら終わるなこれ……。やっぱやめときゃ良かったかも……。
「じゃあ、どういうこと?」
試すような視線を陽乃さんが向けてくる。
「さっきのは言い方が悪かったです。確かに雪ノ下にも魅力はあると思います」
「ふーん、そっか。それで?」
陽乃さんが冷たい声で言ってくる。その目は続けろと言っているような気がした。
大きく一つ、息を吐いてから覚悟を決める。
「ただ、俺は彼女より陽乃さんの方が魅力があると思っているんですよ」
「え?」
はっきりとした口調で言うと、陽乃さんからは意外そうな声が漏れる。
「? どうしました?」
「う、ううん。なんでもないよ?」
それきし、陽乃さんは口を閉ざしてしまった。
……もしかして怒らせちゃったか?
でも俺、陽乃さんの方が魅力あるって言っただけだしな……。
「……比企谷くんって年上好きなの?」
どうするべきかうんうんと悩んでいると、陽乃さんらしくもない突拍子もないことを言ってくる。
「……まぁ嫌いじゃないですね。むしろ好き、ですかね」
好きという部分に重みを掛けて言うと、陽乃さんの目にほんの少しだけ動揺の色が見えたような気がした。
え、どうしたの、この人?
「へ、へぇ……そ、そっか、そうなのかー……」
小さな声でぽしょりと何かを呟いているが、本当に小さい声なので聞き取れない。
……もしかして熱でもあんのか?
「ちょっとすみません」
断りを入れてから陽乃さんのおでこに手を当てる。
ほむん、熱はな……あれ? どんどん熱くなってるんだけど。
陽乃さんの顔を見ると、頬はほんのりと朱色に染まっていて口はぽかんと開いていた。
「ひ、比企谷くんってそんなに大胆な子だったっけ?」
「や、大胆も何もこれくらい普通じゃないっすか?」
だって熱あるか確認しただけだし。どうでもいいけどお互いのおでこをこつんって当てて熱を測るあれはありえないと思います。
あんなの結局ドキドキして熱上がるだけだろ。アホじゃねぇの。
それに比べれば今のなんて大したことじゃない。単に俺の感覚が麻痺してるだけなのかもだけど。
「普段から他の子にもこんなことするの?」
「……俺だって相手くらい選びますよ」
うへぇ……めっちゃくさいセリフ言ったなぁ。
「そ、そっか……」
陽乃さんは指をもじもじと絡ませながら今まで全く見たことのない柔らかい微笑を浮かべていた。その笑顔に心臓がどくんと跳ね上がる。
え、この人陽乃さん?
素直に疑問に思ってしまった。
ちょっとというかめっちゃ可愛く見えるんですけど……。
「そ、そろそろ帰りましょうか」
「う、うん。そうだね」
ちょっとだけ気まずい雰囲気のまま陽乃さんと店を後にした。
「……送っていきますか?」
「ううん、大丈夫だよ」
「そうですか」
「うん」
さっきのこともあって会話が全然続かない。少しだけ見せた陽乃さんの笑顔を思い出すだけで顔が熱くなる。そのくらい魅力的な笑顔だった。
……本当はこんなことをしようとするつもりはなかった。
ただ、ほんの少し。ほんの少しだけ。俺が陽乃さんに対して見る目を変えたらどうなってしまうのか気になってしまった。
俺のことをちらっと見てきた陽乃さんをぐいっと抱き寄せる。
「あっ……」
陽乃さんの背中に両腕を回してぎゅっと抱きしめると、陽乃さんから小さく甘い吐息が漏れる。
「また今度、会いましょうね」
陽乃さんの耳元に顔を寄せて吐息混じりの声で囁くと、陽乃さんも俺の背中に両手をゆっくりと回してきた。
「……うん、そうだね。また、今度ね」
陽乃さんも俺の耳元でぽしょりと囁いた。耳にかかる吐息が熱くてくすぐったい。
途端に恥ずかしくなって抱きしめるのやめて離れると、瞬時に陽乃さんが距離を縮めて来る。そして、ちゅっと音を立てながら俺の頬にキスをしてきた。
「な、ななな」
「ふふっ、これはお姉さんを楽しませてくれたご褒美だよ」
陽乃さんは蠱惑的な笑みを浮かべてパチっと可愛らしくウインクをしてから、まるで何もなかったかのように駅の方へ歩いて行ってしまった。
これはちょっとヤバいかもしれん。何がヤバいかって俺が既に陽乃さんの虜にされてる気がする……。
……よし、決めた。俺は絶対に陽乃さんを落としてメロメロにする。じゃないと俺が先に虜にされて陽乃さんに手玉に取られちゃうからな。
でも、俺って陽乃さんと会えることってほとんどないんじゃね?
うん、やっぱり色々と不安しかないわ……。その辺も色々と考えとかなきゃな。
他の書き手さんが色々な陽乃さんを書いているので私は超絶ぴゅあぴゅあな陽乃さんを書きたいと思います。
年上のお姉さんなのに年下みたいに甘えてくるとか最高ですよね!そんな感じで書いていく予定です!
バレンタインSSはもしかしたら書く?かもです。間に合わなかったらはるのん中編です!
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!