やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
仕事を始めて、30分ほど経っただろうか。
さっきまで会話もなく黙々と仕事を続けていた一色は、暇になったのか俺のことをちらちらと見てくる。その目は「早く話しかけろよ」と言いたげで、思いっきり不満が滲み出ている。え、何? 俺から話しかけなきゃダメなの?
「……なぁ」
「はい? なんですかー?」
一色は待ってましたと言わんばかりに表情を明るくした。どうしよ……なんも面白い話なんてないんだけど……。
「えーっと、お前ってその、まだ葉山のことが好きなのか?」
……俺何言ってんだろ……。でもまあ、聞いておいて損はないだろ。一色が今も葉山のこと好きなら俺が落とすのなんて不可能だしな。
「もちろんそうですけど?」
「……だよな」
あぁ……やっと女子と2人きりになれたのになぁ……。
俺が落胆して肩を落としていると、一色は何かを思いついたのか意地の悪い笑みを浮かべた。うわぁ、良い笑顔だなぁ……。
「あれー? もしかして先輩嫉妬してるんですかー?」
「……してる、かもな」
これぞ必殺、『お前のこと意識してますよ』アピールだ。こうやってあざとく答えれば大抵のやつは「あれ? これ俺のこと好きなんじゃね?」と勘違いする。後、大事なのは濁して答えることだ。そうしないと明確な好意があると思われるし、相手が自分に好意がなければ、都合の良いやつとして弄ばれてるだけだしな。ソースはもちろん一色。こいつのあざとさに一体何人の男が騙されたんだろうか。騙されなかったのって俺と戸部と葉山くらいじゃないか?
まあ普段一色がしてることを本人にしても無意味だろうけど、今後の為にも軽い練習はしておこう。
……それに嫉妬してるってのはあながち嘘でもないしな。俺って独占欲強すぎ?
「ふぇ? え、ほ、ほんとに嫉妬してくれてるんですか?」
んん? な、何この反応。なんでちょっと頬を赤らめてるのん?
……もうちょっとだけ押してみるか?
「さあな、どっちだろうなー」
あ、さらに濁しちゃった。全然押してないじゃん。むしろ引いてるまである。
一色は俺の言葉が気に入らなかったのか、俺の制服の袖をくいくいと引いた。
「せんぱーい、どっちなんですかー?」
ふぅ……落ち着け、落ち着いて押してみよう。もしかしたらこれで一色が俺のことをどう思ってるのか分かるかもしれないし。
「……してるぞ」
あ、断言しちゃった。ううむ、こういうのって意外と難しいもんだな。
さて、一色の反応は?
「ななな、なんですかそれ口説いてるんですか急に嫉妬してるなんて言われたらなんかもう嬉しいですし恥ずかしいですし心の準備がまだ……」
一色の顔はみるみる赤くなり、視線を泳がせてから俯いてしまった。
……これはあれだな、落とせるかもしれん。というか既に攻略済み? だっていつもみたいに振られてないし、心の準備って何なの? 俺別に告白とかはしてないからね? それに君葉山のことが好きなんじゃないの?
「とりあえず落ち着けって、な?」
そう言い、俺は一色の頭を撫でた。仕事が終わった後に撫でる約束だったけど、一色を落ち着かせるためだからしょうがないよな。
……俺ってこんな簡単に女子に触れるようなやつだったっけ? 気にしたら負けだな、うん。これは一色を落とすためだ。そう、落とすためだから。
俺が一色をひたすらナデナデしていると、耳まで真っ赤にした一色が顔を上げて急に立ち上がった。……びっくりするからやめてくれよ……。
「そ、そうだ! 先輩ってアイス食べますよねー?」
「は?」
……まじで話がぶっ飛びすぎて何言ってるか理解できなかった。こいつはいつも突拍子もないことを言うからほんとに困る。
一色は完全に私物である冷蔵庫からアイスを取り出してきて、トトロのカンタばりに「ん!」と言い俺に押しつけてきた。あれカンタが将来良い男になるって分かった名シーンだよな。
「お、おう。ありがとな」
勢いに負けて普通に受け取っちゃったけどこの季節にアイスって……。一色さんちょっと悪意がない?
とりあえず一口食べた。うん、冷たい。知覚過敏じゃないと信じたい。てか一つ気になることが。
「お前のはないのか?」
「あ、わたしは大丈夫ですよ? それは日頃のお礼ってことで受け取ってください」
そのお礼の気持ちは嬉しいんだけど俺だけ食ってるのもな……。あ、ここであれを試してみるか。
「いや、俺だけ食うのもあれだろ。ほれ、あーん」
「え!? ほ、ほんとにですか?」
「いいから早くしろよ。溶けちゃうだろ」
まあ溶けるわけがないんだけど、正直これは恥ずかしいから早くしてもらいたい。まず間接キスだし。今日は気にしたら負けなことが多くて困るぜ。
一色の口元にスプーンを差し出すと、「間接キスがぁ……」「先輩が積極的すぎるよぉ……」とかうんうん唸っている。そんなこと分かってるから早くして欲しいんだけど……。この体勢結構キツいから腕がプルプルし始めた……。
決心がついたのか、一色はすーはーと深呼吸をしてから勢い良くパクリと食べた。
「美味しいか?」
「はい……、甘すぎです……」
一色のそれは味の感想だけなのか、はたまた別の物なのか。
……ま、これも気にしたら負けだな。何も今日一日で落とそうとしてるわけじゃないんだし。
とりあえず俺もまた一口食べた。うん、やっぱ美味しいけど冷たい。一色は「なんで先輩平気そうにしてるのぉ……」って言ってるけど、家に帰ったら発狂するから心配すんな。
「まだ食うか?」
「え、えっと……た、食べます」
「ん、あーん」
さっきと同様、一色は深呼吸をしてからパクりと食べた。
なんだか今の一色は、普段のあざとさがなくて小さい子どもみたいだな。口元にちょっとアイスついてるし。うん、今の一色をロリはすと名付けよう。これはロリエたんに並ぶ革命だな……。
「ちょっと動くなよ」
今の一色を見てると小さい頃の小町を見てるような感覚がして、何を血迷ったのか俺は一色の唇にちょこんとついたアイスを人差し指で取り、そしてそのまま食べてしまった。
……やばい、ここまでやるつもりは……。
「なななななにしてるんですか!? 今日の先輩いつもより変ですよ!?」
一色の顔はこれでもかってくらい真っ赤になってぷんすか怒りだしてしまった。
というかいつもより変ってひどくない? 俺っていつも変だと思われてんのかよ……。
「す、すまん。さすがに嫌だったよな」
「い、いえ、嫌ってわけじゃ……せ、先輩になら別に……」
一色さんちょっとデレすぎじゃないですかね……。俺がちょっと変わるだけでこうなるのか。
「……まだ食べるか?」
「た、食べます……」
一色は俯きながら小さな声でもにょもにょと答えた。
……あれだ、もう正直言おう。めっちゃ可愛いんですけど! 何この子! あざとくないとこんな可愛くなるなんて聞いてないんですけど! いや、最近はあざとくても可愛いと思ったこともよくあったんだけどな。
俺が心の中で一色を褒めまくってると、一色は待ちきれなかったのか目をうるうるさせながら俺の手をぎゅっと握ってきた。
「せ、先輩……早く食べさせてくださいよぉ……」
ぐはぁっ! え、今の破壊力は何? 手握ってきた意味なくない? なんであなたこんなに可愛いの? ははっ、もうこれ俺が落ちそうなんですけど……。
「お、おう。あーん」
「あーん、……ん、美味しいですね」
……いや、これはもう無理だろ。一色さんロリはすじゃなくてエロはすに進化しちゃった? さっきと違って口の開け方といい妙に色っぽかったんですけど……。
結局この後、俺は食べずに一色にひたすらあーんをした。だってしょうがないだろ! 一色が頬染めながら色っぽくアイス食うのを目の前で見ちゃったらそりゃ何度でも食わせたくなるだろ!
結論:冬でもアイスは最高でした☆
次回でいろは√ラストです!ラストにできるかな……?
とりあえず今回もお読みいただきありがとうございました!