やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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久しぶりの投稿なので話を思い出せない方は前編からどうぞ!もしくはアフター前の本編から読んだらより楽しめると思います!


やはり俺が彼女にお持ち帰りされるのはまちがっていない。【後編】

 目の前にいる雪ノ下のことを見て、思わず身体が硬直してしまう。朱に染まった頬、どことなく期待と不安が含まれている潤んだ瞳、きゅっと胸の前で握っている手は断らないでと切に伝えてきていて。その振る舞いの全てが雪ノ下という少女の魅力を最大限に引き出していた。

 え、えっと……理性が軽くぶっ飛びそうになったけど、一回落ち着いて雪ノ下が言っていたことを思い出してみよう。

 

『……お風呂、一緒に入らないかしら……?』

 

 うん、ヤバいですねこれは。いや、えぇ……マジで……?

 今俺の目の前にいるのが本当に雪ノ下なのか疑っちまうような言葉だなほんと。それだけ今日のことが嬉しかったのかって思うと、まぁ、悪い気はしないな……。

 いや、それでも風呂はちょっとな……。今日の俺と雪ノ下だったらどうなるかなんて考えなくても分かっちまうし。

 

「い、いや、それはちょっと……」

 

「え……い、嫌、なの……?」

 

 俺の曖昧な反応に、雪ノ下は寂しそうに眉をくにゃりと下げる。ちょっと泣きそうな表情を見ると思わず抱きしめそうになってしまうが、それをしたら本当に歯止めが利かなくなるからな……。

 

「あー……そのだな。一緒に風呂なんて入ったら何しちまうか分からないし、そういうのはもっと時間をかけてだな……」

 

「……そう。優しいのね」

 

「ま、まぁな。俺ほど人畜無害の優しさで溢れた人間なんていないからな」

 

「ごめんなさい。やっぱりへたれの間違いだったわ」

 

 ……っべーわ。あっという間にいつもの雪ノ下さんに戻っちゃいましたよ。さすがですわ。

 まぁそっちのが俺の精神衛生上助かるんだけど。

 

「……じゃ、風呂場まで案内してくれ」

 

「ええ」

 

 言って、俺は彼女の後を自分の焦りを気づかれないように大人しく付いていく。雪ノ下が恥ずかしそうに部屋から男用の下着を持ってきたのに更に変な気持ちになったり。

 ……それとやっぱりどことなく残念そうな表情をしてたのは、まぁ、ちょっと後ろめたさはあるけど今は気にしないって方向で。

 

××××××

 

 というわけで、俺の風呂なんて誰得なんですかって話だしもちろんカット。雪ノ下が先に用意してくれていた下着とスウェットを着て、リビングのソファでだらだらしながら待機している状況だ。雪ノ下は俺と入れ替わりですぐに風呂場に行ったから時間はそれなりに経っていると思う。

 ……そういや風呂から出た直後の俺を見た雪ノ下が、俺の頬をぺたぺた触ってきて「生きてる……」って言ってきたのは不服の極みだったな。どんだけゾンビ扱いするの好きなんだよ。

 というか、ほんとにスキンシップが激しくなったというか何というか……。昼間の俺が積極的だったから雪ノ下も同じことしてきてるんだろうけど心臓が持たないですね。

 ため息を漏らしつつ、これからの自分の言動や行動その他もろもろに不安を募らせていると、リビングのドアが開いた。考えていたら思ったより時間が経っていたらしい。

 

「……ま、待たせた?」

 

「ん、いや、別にそんな……っ!?」

 

 思わず呼吸が止まってしまった。いや、冗談抜きで。

 ついでに瞬きすら忘れてガン見もしてると思います。完全にヤバい人ですね。

 

「な、何でそんな格好をしているんでしょうか……?」

 

「へ、へん……?」

 

「いや、そういう問題じゃなくてだな……」

 

 風呂から戻ってきた雪ノ下の服装は、端的に言ってしまうとあれだ。裸ワイシャツに類似しているような格好……だと思う。

 まるでこの時のためだけに用意したかのようなワンサイズ大きめのワイシャツ、そのワイシャツからうっすら透けて見える淡い水色の下着。少し屈んだりしたら下の方は完全に見えてしまうんじゃないだろうか。

 その格好で俺の隣に座ってくるんだから俺の頭はワニワニパニック。うん、これはさすがにセーフとは言えないですよね……。

 

「お前どこでそんなの覚えてきたんだ……」

 

「そ、その、姉さんに聞いたら男の人はこういうのが好きだって……」

 

 もじもじしながらそう答える雪ノ下さんを見て、興奮とか呆れとか色んな感情が混ざりすぎてちょっとおかしくなりそうです。そっかぁ、俺のために苦手なお姉ちゃんにまで聞いてまで調べちゃったのかぁ……。

 ……いや、まぁ、俺を喜ばせるためにしてくれたって思うと、正直嬉しいっちゃ嬉しいんだが。それでも年頃の女の子にしては危機感がなさすぎじゃないですかね……。

 

「ひ、比企谷くんはこういうの、嫌だった……?」

 

「……嫌じゃないけど」

 

「そう……やっぱり変態ね」

 

「あー、うんそうだね。俺は変態です」

 

 いくら陽乃さんにそう言われからってその格好を本当にしちゃうお前のが……なんて思うのは無粋ということで。多分本当に俺のことを喜ばせるためだけにしてくれたんだろうし。

 ……もうハッキリと言わせてもらいます。可愛すぎて辛いです、はい。だって大した褒め言葉も言ってないのに嬉しそうにしてるんだもんこの子。

 

「……まぁ、俺は十分喜んだからもう着替えてこいよ」

 

「その必要はないわ」

 

「は? そりゃ今は風呂出たばっかだから暑いだろうけど、すぐに冷えちまうぞ」

 

「い、いえ、そうではなくて……」

 

 どこか恥ずかしそうに視線を俯かせた雪ノ下は、俺のスウェットの袖を遠慮がちにきゅっと握ってくる。そこから伺える彼女の顔は、おそらく湯上りだから火照っているだけではなくて。

 そして多分、風呂から出てしばらく経っている俺も似たように赤くなっているんだろう。……だって近いし。

 

「今日は私専用の湯たんぽがあるもの……」

 

「……むしろ熱すぎると思うけどな」

 

 恥ずかしくなって勢いでつい髪をわしゃわしゃ撫でると、雪ノ下は不満そうに眉をひそめたがそれでも撫でるのを止めるようには言ってこなかった。つーか、その湯たんぽって謎チョイスは何なんだよ可愛いなお前。

 それ以前に俺って雪ノ下と寝るのはもう確定なのん……?

 

「じゃあ、行く?」

 

「お、おう……」

 

 ……まだ十時にもなってないことに気づいてないのかなこの子は。そのことに呆れつつも俺を連れていくために優しく握られた手を見て、頬が緩んでしまっている自分を今日ばかりは気持ち悪いとは思えなかった。だってしょうがないもんね。

 

××××××

 

「ど、どうぞ」

 

「お、おう……」

 

 歯磨きなどのやることを済ませ、めちゃくちゃ緊張をしながら雪ノ下の寝室に入る。人の寝室に入るってのはどうも気が引けてしまうものだ。いやそんな経験全くないんだけどね。

 部屋の中は雪ノ下らしくシンプルなシングルベッドのみ……と思ったのだが。パンさんがちらほらと視界に……。

 うん、何か言ったら怒涛の勢いで罵詈雑言を浴びせられそうだから黙っておこう。

 

「2人だと少し狭いかもしれないけれど……」

 

「ん、分かった」

 

 そう言い、雪ノ下はベッドに座り、俺をその隣に座るようにぽんぽんと叩いて促す。それに素直に従って座ると、ベッドが沈むと同時に肩がぴたりと触れ合った。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……何これものすごく気まずいんですけど。そもそも雪ノ下の格好が結局ワイシャツ姿のままだから、座ってると色々見えそうというか若干見えてて尚更緊張するし……。

 

「緊張してる?」

 

「そりゃするだろ。お前は?」

 

「……どうかしらね」

 

「顔赤いぞ」

 

 恨みがましい視線を向けてきて、無言で頬をつねられました。素直に痛いです。

 

「はぁ……あなたはどうしてそんなにデリカシーがないのかしら」

 

「俺にそれを求める方がおかしいだろ」

 

「あら、少なくとも昼間のあなたは今よりまともだったと思うのだけれど」

 

「あれは、まぁ、……お前に楽しんでもらいたかったからな」

 

「……そう」

 

 そして、また気まずい沈黙が訪れる。ああもう何言ってんだ俺は恥ずかしすぎるわ……。

 

「……今日はもう寝ましょうか」

 

「早くないか?」

 

「あなたの事だから、色々考えた結果どうせ眠れなくなるでしょう?」

 

「まぁ、……多分」

 

「なら少しでも横になって楽になりなさい」

 

 雪ノ下さんマジ優しい……って思ったけど何で命令系なんですかね。既に上下関係が明らかになってますねこれ。元々だろとかそういうのはもちろんなしで。

 げんなりとしていると雪ノ下は俺の肩に頭をこてんと乗せてきて、小さな声でぽしょりと。

 

「……それに、私も寝れる気なんてしないから」

 

 ……ああ、それ言うのと頭乗せてくるのが恥ずかしかったからあんな命令口調になってたのね。可愛すぎませんかねほんと。

 

「……んじゃ、とりあえず横になっとくか」

 

「え、ええ……ひゃっ!」

 

 返事をしたと同時に雪ノ下が可愛らしい声を上げた理由は、俺が横になるのと同時に雪ノ下も一緒にベッドに押し倒したからだ。あ、もちろん雪ノ下に覆いかぶさった訳ではなく、お互いただ横になっただけです。ついでに毛布もちゃんと掛けました。

 ただやらかしたのが顔が向き合うように横になってしまったので、お互いを見つめ合う状態になってしまった。熱っぽい吐息を漏らす雪ノ下から歯磨き粉の香りがほんのりと伝わってくる。

 

「……変態」

 

「も、申し訳ございません……」

 

「…………」

 

 謝る俺を見て雪ノ下は赤くなった頬を隠そうともせず、返事もせずにぎゅっと抱きついてきた。

 

「う、お……っ」

 

 思わず気持ち悪い声が漏れてしまうくらい、雪ノ下の柔らかい感触が直に伝わってくる。加えて顔の距離も一気に近くなったので、彼女の大きな瞳や透き通った肌から目が逸らせなくなる。

 

「あたたかい……」

 

「……それはよかった」

 

 緊張から震える手でくしゃりと髪を撫でると、雪ノ下は目を細めて抱きしめる力を強めてくる。ほんの少しだけ頬が緩んだのが分かっただけで、俺の心臓は何かもう爆発しそうです。

 

「不思議ね……」

 

「あ? 何がだ?」

 

「……あなたとこうして一緒に寝るだなんて思ってもいなかったから」

 

「……それなら何で俺用のスウェットとか下着の用意を痛い痛い」

 

 それについてはどうやらこれ以上触れてはいけないようですね。

 

「……もう」

 

「す、すまん……」

 

「反省しているなら誠意を見せなさい」

 

「……どうすればいいのでしょうか」

 

 聞くと、雪ノ下は何をさせるか最初から考えていたかのように即答してくる。

 

「腕をかしなさい」

 

「は?」

 

「……う、腕枕よ」

 

「……ほれ」

 

 大人しく従って左腕を伸ばすと、雪ノ下はゆっくりと頭を乗せてくる。それに合わせて、右手は彼女の背中に回して抱き寄せる。

 すると、背中に手が触れただけなのに雪ノ下は甘ったるく熱っぽい吐息を漏らした。身体はぷるぷると震えて、目をきゅっと瞑ったまま俺の胸をぽかぽかと叩いてくる。

 

「……不満か?」

 

「ん……そ、その、……よく分からないわ……」

 

 目を開いた雪ノ下の瞳は、とろんとして焦点が合わなくなっていて。

 

「ん……っ」

 

 だから、おそらく無意識に重ねてきた唇は今までで一番熱くて湿っていて。熱っぽい吐息と共にとろけてしまうんじゃないかと思えるくらい柔らかかった。

 ……ちょっと抱きしめただけでこんなことになるんだから、やっぱり風呂は一緒に入らなくて正解だったな。

 

「ん……比企谷、くん……」

 

「……どした」

 

「も、もっと……」

 

「……おう」

 

 俺のぶっきらぼうな返事にくすりと優しく微笑む彼女を見て、やっぱり今日はしばらく寝れるわけがないなと思いつつ。

 それが全く嫌じゃない自分と、これから彼女と送る日々に思いを馳せながら。

 

 この後、やっぱりめちゃくちゃ睡眠した。

 




まさかの一年ぶりの投稿となりました。久しぶりに積極的シリーズで書くゆきのんとても楽しかったです。というか一年経つの早いですね……。

https://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7590534

宣伝です。pixivで今回の話に似た感じで八幡が色んなヒロインに抱き枕にされちゃう話を書いてます。近いうちに最新話を投稿する予定なので宜しければぜひぜひ。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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