やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
時刻は飛んで夜の10時である。や、飛びすぎだな。まぁちょっと色々あったしな……。
あの後、部室に戻ったら雪ノ下が机に突っ伏してぷるぷる震えていた。超可愛かった。
で、俺に見られたのが恥ずかしかったのか今度は軽く泣きそうになったのですぐに土下座した。どれだけの罵倒雑言を浴びせられたことか……。
流石の俺もメンタルがブロークンハートしてしまった。
と、ここでリビングのドアがガチャリと開き、マイスウィートハニーの小町ちゃんがやって来た。なので今日の報告をしようと思う。
「なぁ小町」
「どうしたのお兄ちゃん?」
炬燵にもぞもぞと入って来てから話しかけると、小町はくりんと首を傾げる(可愛い)。
「俺な、今日雪ノ下に壁ドンしたわ」
ふふんとドヤ顔で言ってやると、小町は眼をぱちぱちと二、三度しばたたせた。
「え、本当に?」
「おう。本当にだ」
言うと、小町の目がキラキラと輝く。ふむ、兄妹なのに何が違うんだろうか。俺ももうちょっとキラキラさせたい。
「きゃー! お兄ちゃんが壁ドン! きゃー!」
うるさいうるさい。近所迷惑になっちゃうから。
「ふぅ……それでそのあとはどうしたの?」
一通り騒ぎ終えてから(長い。絶対に怒られる。俺が)、小町が聞いてくる。
「壁ドンしただけだ。それが限界だったわ」
色々と悟って冷静になってしまったからな。賢者の力ってすげー! ……いい加減汚いからやめよう。
まぁ雪ノ下に逆に壁ドンされてから、勢いで抱きしめたことは内緒でいいや。恥ずかしいし。
「ぶぇー。やっぱお兄ちゃんはダメダメだなー」
あからさまにがっかりした表情になるが、小町はんーっと考える仕草をしてから何か閃いたのか、アホ毛をぴこーん! と動かした。なにそれ怖い。
「じゃあさ! 明日土曜日なんだしデート行ってきなよ! どうせ壁ドンしたら雪乃さんデレデレになったんでしょ? だから大丈夫だよ!」
「お、おう」
勢いよくまくし立てられてしまい了承してしまった。えぇー……デートって。……まじで?
「というわけで、雪乃さんに今から電話かけるから。途中でお兄ちゃんに代わるからからちゃんとデートに誘うんだよ」
「は、はい」
「あっ、あとちゃんとデートって言うんだからね。デートって。女の子はそう言われたほうがポイント高いんだからね」
大事なことだから二回も言われてしまった。ハードル上がったんですけど……とげんなりしている間に、小町は雪ノ下に電話をかけていた。
「あっ、もしもし雪乃さんですか? あ、どーもどーも、いつも兄がお世話になっております」
相変わらずサラリーマンみたいな話し方してんな。ま、電話中に話しかけると怒られるから黙っとこう。
ある程度話し終え、むふーと満足げに息を漏らした小町が俺に視線を向けてくる。
……何か、来る……! や、かっこよく言ったけど俺が電話代わるだけなんだけどね。
「そうだ! ちょっとお兄ちゃんが用あるらしいんで代わりますね!」
ポイっとケータイを投げてくる。そしてグッと親指を立ててばちこーんとウインクする。お前は戸部かよ鬱陶しいな。
「あ、あー、……もしもし」
ふぇぇ……電話すること自体ほとんどないから緊張するよぉ……。
『こ、こんばんは比企谷くん』
「……おう」
わずかな沈黙の後、電話口の向こうからため息を吐かれる。
ご、ごめんね? 頭真っ白になっちゃって……。
『……それでどういう用件かしら?』
「あー、その、なに……」
ヘタレるなー、ヘタレちゃダメだー。……小町ちゃん睨まないで怖いから。
一つ、大きく息を吐く。そして、覚悟を決める。
「……明日、俺とデートしないか?」
よし、言ってやったぞ。俺超頑張った。顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
やめろ小町! ニヤニヤするな余計恥ずかしくなるだろ!
『え、ええ。場所はどこにするのかしら?』
え、なに。そんなすんなりOKしてくれるの?
その後、場所やら時間を決めて軽く話をしてから電話を切った。
「はぁ……疲れた」
ぐったりとしてしまう。今日でもう体力使い切ったのに明日はデートって……。
「じゃあ明日頑張ってね! 役目を果たした小町は勉強に戻ります! おやすみお兄ちゃん!」
「お、おう。おやすみ」
あざとく敬礼をしてから小町は「お義姉ちゃん♪ お義姉ちゃん♪」と楽しそうに歌いながらリビングから出ていった。何言ってるのこの子……。
××××××
時刻は現在1時30分です。集合時間は2時だけど小町に早く行けと言われたもので……。
急遽決めたってことで、場所は以前クリスマスパーティーの買い出しに訪れたショッピングモールだ。雪ノ下と話し合ってここなら適当にぶらぶら回れるし無難だろうという結論に達した。
ちなみに俺の服装はいつも通り小町が全部決めた。何が違うのかは知らんが「バッチリだよ!」って言われたからいつもとは違うんだろう。
あとはあれだ。今日はたまたま休みだった親父に対して小町が「今日はお兄ちゃん女の子とデートするの! だからお金ちょうだい!」って言ったら親父がめっちゃ金くれた。
振られても自暴自棄になるなよって言われた。もうちょっと息子を信じろよ。まず告白するとも言っていない。
家にいた時のことを思い出して若干うんざりとしていると入り口に雪ノ下がいることに気づく。向こうも俺がいるのに気づいたようで、胸の前で軽く手を振る。
「ごめんなさい。待ったかしら?」
小走りで俺の方に走ってきた雪ノ下の服装は白のコート、チェックのミニスカートから覗く脚は黒タイツだ。
俺がじっと見てしまったから恥ずかしいのか、もふっとしたマフラーに顔を埋めている。
「いや、別に今来たとこだから気にすんな。それにまだ集合時間より全然早いしな」
「そう。では行きましょうか」
そう言い、雪ノ下は俺に右手を差し出してくる。
「え、なにその手」
「あ、あなたがで、デートと言ったのでしょう? だから、その、手くらい繋ぐのが常識じゃなくて?」
雪ノ下は恥じらうように頬を染めてぷいっと顔を背ける。
……まぁデートだしな。
「……ほれ」
雪ノ下の手をぎゅっと握る。え、めっちゃすべすべしてるんですけど。本当に同じ人間なのこれ?
「ふふ、今日はエスコートを任せてもいいのかしら?」
繋いだ手を見て微笑を浮かべる雪ノ下に思わず見惚れてしまう。
「……俺にそれを期待するのは無理だろ。ま、適当に回ろうぜ」
照れくさくなって顔を逸らしながら言うと、
「そうね。あなたにそんなものを期待できるわけないものね」
明らかにバカにするように言われた。イラッ☆としたけど言い返せないです。
あ、そうだ。
「……あー、その、なに。服、似合ってるぞ」
小町の躾によって叩き込まれたからな。これだけは言っておかなきゃいけない。それにほんとに似合ってるし。
「そ、そう、……ありがとう」
ほんのりと頬を染めた雪ノ下はぽしょりと呟きながら嬉しそうに微笑む。
そんなに嬉しいのか……と思っていると雪ノ下は俺の肩をちょんちょんと叩く。どうやらしゃがめということらしい。
軽く頭を下げると、雪ノ下が俺の耳元に顔を近づける。
「あなたも似合ってるわ……」
耳元でそっと囁くように言われてしまい、自分の顔が熱くなるのを感じる。
耳元から顔を離した雪ノ下は、口元に手を当ててくすりと微笑む。おちょくりやがって……。
「……そりゃどーも。……行くか」
「ふふっ、そうね。行きましょうか」
そんなこんなで、俺と雪ノ下、二人の今後が決まるであろうデートのスタートである。
……大げさか? うん、大げさだな。
早く書けちゃったので連日投稿です。
書いてて「あれ?こいつらもう付き合ってるんだっけ?」と錯乱しました。ゆきのん凄い。
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!