やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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ゆきのん√スタートです!


ゆきのん√
やはりどこまでいっても、雪ノ下雪乃には敵わない。【前編】


 

 今日も今日とていつも通りの授業を終えて、いつも通り部活へ行く天使を眺めてから、いつも通り俺も部活へ向かおうとすると、いつも通り……ではないな。珍しく教室内で由比ヶ浜に声を掛けられた。

 

「ヒッキー」

 

「ん、なんだ」

 

「ゆきのんには昨日言ったけど、あたし今日優美子たちと遊びに行くから部活休むね」

 

 こんなクソ寒いのに遊びに行くとか……。リア充には寒さを無効にするアビリティでもあるのだろうか。俺もそのアビリティ欲しいけどぼっちだから無理らしい。

 というか、なんで俺には昨日のうちに教えなかったんですかね……。

 

「おう、分かった。楽しんでこいよ」

 

「うん! じゃあまた明日ねっ」

 

 にこっと微笑んでから三浦たちの方へぱたぱたと走りながら戻って行った。教室で走るんじゃない。パンツ見えちゃうでしょ!

 ふむ、白か……。んじゃ、俺も部室に向かいますかね……。

 

 

 部室への道をだらだらと歩いているとあることに気付いた。

 俺、今日雪ノ下と二人きりになれるんじゃね……? ほんと今さらだな。

 ううむ、俺はあの雪ノ下相手に積極的になるしかないのか……。友達になるのさえ拒否られたのに(辛い)、どうすればいいものか。

 まぁ正直なところ、誰と一番二人きりになれる確率があるか考えたら断トツで雪ノ下がトップなのは分かっていたから考えはあるんだけどな。

 あの負けず嫌いさんの特性を上手く利用するだけだけど。

 

 どうその話題に持ち込むかウンウン考えていると、いつの間にか部室の前に着いていた。

 や、やっぱりやるしかないのかなぁ……。通報されないよね?  

 自分のチキンさにため息を吐きながら部室の扉を開くと、雪ノ下もこっちを見てからため息を吐いた。

 

「はぁ……こんにちは」

 

「お、おう……」

 

 こいつ由比ヶ浜が来ないからってその反応かよ。ちょっと酷すぎない?

 お前ら最近ゆるゆりしすぎなんだよ。眼福ですからもっとお願いします。

 若干不機嫌そうにも見えるが(絶対不機嫌)、それでも雪ノ下は紅茶を注いでくれる。自分のも注いでるってことは俺が来るの待ってたってことか。意外と律儀だな……。

 

「……どうぞ」

 

「おう、サンキューな」

 

 紅茶は冷めるまで放置しとくとして。舌が焼けるし。

 さて、さっきは思いつかなかったからどうやってその話題に切り出すか考えよう。

 ううむ、ダメだ、全く思いつかない。もう直球勝負で聞くか? 聞くしかないのか? 別に聞くだけなら楽だもんな。でも一度聞いたらその後大変なんだよな。

 ふぇぇ……どうすればいいのぉ……。お家帰って小町のことを撫で回したいよぉ……。

 

「さっきから動きが挙動不審で気持ち悪いのだけれど……」

 

「お、おう。すまん」

 

 ゴミを見るような目で言われてしまった。俺にそっちの趣味がないのをそろそろ分かってもらいたい。目覚めたら困るし。

 ……もう埒が明かないから直球勝負で行こう。

 

「……お前さ、壁ドンって知ってるか?」

 

 そう。俺がさっきから言うのを悩んでいたのは『壁ドン』だ。雪ノ下は世間一般の女子校生とはずれている。まぁ人のことは言えないけどな。

 だからそれを生かす。雪ノ下が壁ドンを知っていたら元も子もないが、あの負けず嫌いさんのことだ。「比企谷くんが知っているのに私が知らないのは解せないわね。早く教えなさい(裏声)」とか言われそうだし。そっから壁ドンをするまで話を持ち込む。で、壁ドンする。それで落とす。

 ……壁ドン一つで落ちたらチョロインすぎるけどな。

 

「な? か? かべ? ……え? ごめんなさい。何を言ってるか全然わからなかったわ……」

 

「あぁ、やっぱり……」

 

 流石に俺でも壁ドンは少女漫画とか読む前から知ってたぞ……。雪ノ下さん大丈夫なの?

 

「……比企谷くんが知っているのに私が知らないのは解せないわね。早く教えなさい」

 

 まさかの一字一句も違わずに言いやがった。

 

「ん、これだ」

 

 椅子から立ち上がって雪ノ下の方へ歩いて行き、全知全能のグーグル大先生からの教え(画像)を雪ノ下に見せる。

 

「……これがかべどん?」

 

 スマホを見ながらくりんと首を傾げる。そういうの可愛いからやめろよ。

 あと、壁ドンの発音の仕方が違う。ついでに文字にしたら絶対平仮名だと思う。

 

「ん、そうだ」

 

「……これになんの意味があるのかしら? 男性が女性を襲っているようにしか見えないのだけれど?」

 

 雪ノ下は不思議そうにさらに首を傾げる。画像見てもダメなのか……。まぁそっちのが好都合だけど。

 

「……試してみるか?」

 

「そうね。ではやってみましょうか」

 

 椅子から立ち上がり雪ノ下が壁の前まで歩くのに付いていく。

 壁の前に立った雪ノ下に、深呼吸をしてから問う。

 

「じゃあいくぞ? あ、あと通報だけは勘弁な」

 

「? え、ええ」

 

 あー、こいつ壁ドンの意味を分かってないから通報とか言った理由も分からないのか。

 

「じゃ、じゃあ行くぞ」

 

 こくりと雪ノ下が頷くのを確認してから右手を壁に付ける。

 自然と顔が近くなるけど、俺がやってもムードの欠片もねぇな……。

 

「……どうだ?」

 

「そ、その……近いわ」

 

 やっと壁ドンの意味を理解していただけたか。

 この状態だと自然と上目遣いになってしまうので、頬を朱に染めて上目遣いをしてくる雪ノ下を見て、緊張で頭真っ白になってしまう。

 で、でも、もう少しだけ頑張る。家に帰ったらきっと小町が褒めてくれるから頑張る(混乱)。

 

「雪乃……」

 

 雪ノ下の右耳に顔を寄せて、吐息混じりに囁く。これ以上恥をかくことはないので名前呼びで。

 

「ひゃうっ!」

 

 可愛らしい声をあげて体がびくっと跳ねる。や、本当に可愛いからやめろって。

 

「き、急に名前でなんて呼んでどうしたの?」

 

 耳もとに顔を寄せているのでどんな表情してるか分からないが、多分顔は真っ赤になっていると思う。耳赤くなってるし。

 

「可愛いよ……」

 

 ……これが限界。顔を離すと雪ノ下は顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。

 

「あ……あうう……」

 

 え、なにその可愛い唸り声。

 

「……ま、こんな感じだ。どうだった?」

 

 壁から手を離して雪ノ下に聞いてみる。

 

「……」

 

「あ、あのー……雪ノ下さん?」

 

「……」

 

「……聞いてる?」

 

「……」

 

 機能停止ですねはい。顔真っ赤にしたままずっとぷるぷる震えてるんだけど。スマホのバイブレーションかよ。

 暫くぽけーっと待っていると、雪ノ下が顔を上げてようやく口を開いた。多分10分くらい待った。長いですねはい。

 

「も……ちど」

 

「え? なんだって?」

 

 難聴ではない。ほんとに声が小さくて聞き取れなかった。もう一度言う。俺は難聴ではない。

 俺の返答が気に入らなかったのか、真っ赤な顔をした雪ノ下がキッ! と睨みつけてくる。怖い。

 

「だ、だから……も、もう一度……やりなさい」

 

「え? なんだって?」

 

 完全にわざとである。え、なんでもう一回? ワッツ?

 

「殺されたいの?」

 

「は、はい! ぜひやらせてもらいます!」

 

 こんなに直接的に言われたのは初めてかもしれん。切れ味が抜群すぎて超怖かった。チビってないか一回確認したレベル。

 

「じゃ、じゃあいくぞ?」

 

 雪ノ下が頷いたのを確認して右手を壁に付けようとしたその直後――雪ノ下に右手を引っ張られ、そのまま回転させられる。状況が理解できないまま、気づいたら雪ノ下に壁ドンされてた。

 しかも両手で。両手ドンですねわかります。いや、やっぱ分からないわ。 

 

「あ、あのー、雪ノ下……さん?」

 

 超ビビりながら恐る恐る聞くと、雪ノ下はくすりと微笑む。わぁ……いい笑顔。

 

「あなたも私と同じ目にあいなさい」

 

 そう言い、少し背伸びをしてから顔を耳元に近づけてくる。しかし、俺より身長の低い雪ノ下が同じことをすると自然と体まで密着してしまう。

 やばいやばい近い近いいい匂い柔らかい。……まじで何でこんなにいい匂いするの?

 

「は、はち、はち……、はち……まん」

 

 俺のテンパり具合など露知らず、雪ノ下は震える声で俺の名前を呼ぶ。いやいやそんなにテンパるなら最初からやらないでくださいよ。

 このままやられっぱなしだとちょっと死んじゃうから、俺も一矢報いることにした。

 さっきまで所在なさげにしていた両手を雪ノ下の背中に回して、ぎゅっと抱きしめる。

 ……そのせいで更に体が密着するけど気にしない。

 

「あっ……」

 

 雪ノ下は俺に抱きしめられると甘い吐息を漏らす。そして壁に付けていた両手を俺の首に回してきた。

 や、ちょっと何が起きてるのか分からない。あれ、今回のメインイベントは壁ドンだったはずじゃ……。

 

「はちまん……」

 

 背伸びすることをやめて俺の胸元に顔を埋めながら、恥ずかしそうな、それでいて甘い声で雪ノ下が俺の名前を呼ぶ。

 

「ももも、もう無理!」

 

 抱きしめるのをやめてするりと抜け出し、そのまま全力ダッシュ。部室を出てトイレに駆け込み個室に入って座る。ここまで僅か12秒フラット。

 

「はぁっ、はぁっ……まじかよ……」

 

 大きく肩で息をしながら呆然としてしまう。なんだよあの破壊力。危うく理性が崩壊するとこだったわ……。絶対雪ノ下のがスイッチ入ってたじゃん……。

 それにしても、あいつの身体柔らかかったな。それにぺったんこだと思ってたのに意外と……(失礼)。いかん、息子が起床した。

 ……。

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

「ふぅ……」

 

 どうして世の中から争いはなくならないのだろうか。世界が百人の戸塚ならやっぱり戦争なんて起きないと思うんだ。

 賢者になって(賢者にはなっていない。タイムに入っただけです)落ち着いた俺はしっかりと手を洗ってから部室へと戻った。

 




えー、なんか汚い表現が多かったですね☆ま、まぁ男子高校生だししょうがないよね!
……不快に思ったらごめんなさい。そのぶん次回はゆきのん更に可愛く書けるよう頑張ります。

ひっそりとピクシブでも短編を上げ始めました。もし良ければぜひ。名前は部屋長で今回はいろはすを書いてみました。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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