やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
目が覚めると、ほんのりと温かく柔らかい感触が左頬に伝わる。起きたばかりでぼーっとしている頭。半開きの瞼では今自分が何に頭を乗せているのかも分からない。
霞んだ視界からうっすらと見える、頭一つ分くらいのサイズの隙間。眩しい電気の光を遮るように、俺はその隙間に顔を埋めた。
「んん……まぶしい……」
「ひゃんっ! ひ、ヒッキー……」
その隙間に顔をむぎゅーっと思いっきり埋めると、可愛らしく大きな声が頭上から響く。
…………ひゃん?
大きな声に意識が覚醒し、重い瞼をゆっくりと開くと、見慣れたスウェットが眼前いっぱいに広がる。
うん、ちょっと状況を理解しよう。
……俺、今由比ヶ浜の股に顔埋めてね……?
「はわ、はわわわ……」
「お、おはようございます……」
とりあえずこの状況でも挨拶をする俺マジクール。や、ごめん。完全にアホですねはい。
「お、おはよ。と、とりあえず……ね?」
それに普通に挨拶し返す由比ヶ浜もどうかと思うんだけど……。
股の間から顔を離して顔を上げるがメガロポリスがあって彼女の顔が見えない。随分ご立派な物で……。
……ていうかそれ以前に何で俺は由比ヶ浜に膝枕されてるのん?
「わ、悪い。俺寝相悪かったか?」
「う、ううん。さっきまでほとんど動かなくて死んじゃってるのかなーとか思ってたけど急に動いて……うぅ……」
や、死んじゃってるってのは流石に酷いんじゃないかと……。泣くぞ。
そういや由比ヶ浜さんは下着なしなんですよね。ていうことは俺スウェット一枚越しで……。
……やば、改めて状況理解したら恥ずかしすぎて死にそうなんだけど……。
「……悪かったな。暇だったろ」
「ううん、全然そんなことないよ。ヒッキーの寝顔見たり頭撫でたりしてるの楽しかったし」
「……さいですか」
出来ればそれは聞きたくなかった……。さっきから顔が熱すぎてヤバい。
「……そろそろ寝るか?」
言いながら身体を起こして彼女の横に座る。時計を見るともうそろそろ短い針がてっぺんになりそうになっていた。俺何時間寝てたんだよ……。
「ね、寝る……」
隣で由比ヶ浜が小さな声で何かをぽしょりと呟いた。
そして、頬を朱に染めた由比ヶ浜は俺の手をきゅっと優しく握りしめながら、上目遣いでちろりと見つめてくる。
「……や、優しく、して……ね?」
「い、いや、俺そういうつもりで言ったんじゃ……」
この子何て勘違いしてんのマジで……。危うく目の前で「だっああああああああ!!!!」って叫びながら悶え転がって軽蔑の目で見られるところだったわ。ちょっと具体的すぎた。
「も、もう……ヒッキーのバカ……」
「悪いな……」
まさか俺もそんな勘違いされるとは思わなかったわ……。
「ていうかあたしってそんなに魅力ないのかな……?」
「別にそんなことねーよ。でも今はまだ……な。そんな急ぐこともないだろ。これからもずっと一緒なんだし」
あー、マジで恥ずかしい。どんだけくさいセリフ言ってんだよ俺……。
「ずっと……」
「ん、ずっと」
「えへへ……そうだよね。これからもずっと一緒なんだもんね」
向日葵のように明るい笑顔を咲かせる由比ヶ浜。ちょっと眩しすぎて見えない。
「ま、その代わり一緒には寝てあげよう。あ、寝る……(意味深)の方じゃないぞ」
「もうそれ引っ張らなくていいから……。それに何で上から目線なんだし」
「ははっ、感謝せい」
何でか知らんけどテンションおかしなことになってるわ。顔in股事件があったからですねはい。
「でも意外。ヒッキーなら『じゃあ俺リビングで寝るからお前はベッド使っていいぞ』みたいなこと言うと思ってた」
え、何それ俺の真似? 死ぬほど似てないんだけど。まだ小町のが似てたぞ……。
「あー、うん。もう何でもいいから俺の部屋行こうぜ」
「あっ、待ってよー」
××××××
「はー、ここがヒッキーの部屋……ほおおー……」
部屋に入るなりきょろきょろと見回し始める由比ヶ浜さんです。
「や、別に普通の部屋だろ」
「ほぇええ……へえええ……」
「そんな見られると流石に恥ずかしいんですけど……」
どう見ても犬にしか見えないです。名付けて犬比ヶ浜さん。尻尾とかあったら絶対ぶんぶんしてそう。
「んじゃ、寝るか」
「う、うん! そそそうだね!」
「……何でそんなテンパってんの?」
「だ、だって……その、え、えっ……ちなことしなくても一緒に寝るとか恥ずかしいし……」
由比ヶ浜は胸の前で指をもじもじさせながら、恥ずかしそうに俯いてぽしょりと呟く。そんな反応されたら本当にしたくなっちゃうから……。
「あー、ならあれだ。俺のことを抱き枕だと思えばいい」
「抱き枕?」
「ん、そうだ。それならそんな緊張もしないはずだ。……多分」
「何で最後自信なさそうなの……。でもヒッキーが抱き枕かぁ……抱き枕がヒッキー……えへへ」
抱き枕にするのでも想像でもしたのだろうか。頬が蕩けちゃうんじゃないかってくらいにでろっでろに緩んでるんだけど(可愛い)。
両手で頬を包んできゃーきゃー言ってるお花畑状態のガハマさんを無視して布団に潜る。
「んじゃ、来い……」
ぽんぽんとベッドを叩くと、由比ヶ浜は不安げにおずおずと近づいてくる。
「お、おじゃまします……」
その表現はおかしいんじゃないかしら……と思っていると、由比ヶ浜はぎゅっと抱きつきながら胸元に顔を埋めてくる。
「ヒッキーの匂いでいっぱい……」
「まぁそりゃそうだろ。じゃ、電気消すぞ」
「う、うん」
上擦った声で返事をする由比ヶ浜の声を聞いてから電気を消す。誰かと寝るのなんて小学校以来だから緊張するな……。
それにあれだ。さっきから俺のお腹辺りに柔らかいのがずっと当たっててマジ天国。
「ヒッキーの胸、とくんとくんいってるね」
由比ヶ浜は俺の胸に顔を埋めながらくすりと笑う。暗くてよく見えないけど絶対楽しそうな顔してんだろうな……。
「そりゃ俺だって生きてるからな。いや、やっぱり心臓バクバクしすぎて死にそうだわ」
「あはは、ヒッキーも恥ずかしいんだ」
「そりゃお前みたいな可愛いやつに抱きしめられたらな」
「可愛い……えへへ」
嬉しそうに笑いながら由比ヶ浜は更にむぎゅーっと抱きついてくる。そんな押し付けられると八幡の八幡がやっはろーしちゃうから……。これ由比ヶ浜に言ったら本気で怒られそうだな。
「はぁ……お前ほんと可愛すぎ」
本当にこんな子が俺の彼女だと思うと、考えるだけで愛おしくなってしまいつい頭をくしゃくしゃと撫でてしまう。
撫でて気づいたけどいつものお団子がないことに今さら気づいた。さっきは色々ありすぎて気づかなかったから明日の朝ちゃんと見ることにしよう。
絶対可愛いんだろうなぁ……。うん、恥ずかしいくらいに俺由比ヶ浜にベタ惚れだな……。
「ヒッキー」
「ん?」
「お前、じゃないよ?」
子供をあやすように大人びていて、それでいてからかうような声。何を言えと言われているのかはすぐに分かった。
「……結衣」
「ふふっ、素直でよろしい」
「何で上から目線なんだよ……」
「ヒッキーだってさっき上から目線だったじゃん」
「まぁそうだな」
そして、お互いくすりと笑い合う。彼女といると本当に心が満たされて幸せになれる。
「……ね、ヒッキー」
「ん」
「ありがと」
「……ん」
由比ヶ浜……いや、もう結衣か。ちゃんと名前で呼ばなきゃまた言われそうだしな。
今の結衣の言葉は何のことをどんな意味で言ったのだろうか。何となくでしかその意味が分からなくても、今の俺に取ってその言葉は十二分に心に響く嬉しい言葉だった。
気づけば、俺も結衣のことを抱きしめていた。
「ん……えへへ……大好きだよ、ヒッキー」
「……おう、俺も大好きだぞ」
「あうう……そんなストレートに言われたら恥ずかしいよ……」
相当恥ずかしかったのだろう。結衣はあうあう唸りながらおでこをぐりぐりと擦りつけてくる。本当に可愛いやつめ……。
「ていうかそろそろ寝るか。布団入ってから結構時間経ったしな」
「そうだね。でもその前にお願いがあるんだけど……」
「ん、何だ?」
聞くと、結衣はもぞもぞと身体を動かして俺の目の前にひょっこりと顔を出す。
部屋が暗くても分かるくらいに顔を真っ赤にした結衣が、俺の頬に手を添えながら小さな声で、
「キス……して?」
と、今にも消えてしまいそうな儚げな声でぽしょりと呟いた。
「……おう」
すっと目を閉じた結衣に促されて、俺はゆっくりと顔を近づける。
微かに震える手を彼女に頬に添え、彼女とは反対に顔を傾げる。
そして──。
「んっ……」
甘い吐息を漏らしながら唇を離した結衣は、満面の笑みを浮かべながら再び俺の胸元に顔を埋める。
「おやすみ、ヒッキー」
「ん、おやすみ、……結衣」
こうして、昼から色々あった俺と彼女のお泊まりデートはひとまず幕を閉じた。一つ言えるとしたらあれだ。
やっぱり付き合ってすぐに一緒に寝るとか俺には無理ですわ……。名前呼びやらキスとか頑張った分の恥ずかしさが今になってやってきて大変なことになってる。
いや、でもまぁ俺も結衣も幸せってことだし別に今日くらいは寝れなくても良い……かな。
ガハマさんアフターいかがでしたでしょうか?初めてヒロインを地の文でも名前呼びさせましたけどあれですね。何か甘さが倍増した気がする……。
何度もアフターやってるいろはすはそろそろ名前呼びにしようかなと考え中です。
次回は誰になるかまだ未定です。最近ネタが思いつかない病を本格的に患ってしまったので活動報告などで協力してくれたら幸いです。割と重症です。
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!