やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
冬のある日。悲しいことにこんな寒い中でも学生の皆は、将来社畜になったときの予行練習のように毎日毎日学校へ行くしかないのだ。もちろん現在進行形で社畜をやってる社会人は当たり前のように出社してるんだろうけど。お疲れ、親父。フォーエバー親父。
専業主夫志望の俺でさえこのルールには逆らえず、朝っぱらから自転車を漕いで死地へ向かうしかないのが世の常なのだ。ほんと理不尽!(逆ギレ)
しかし、今日は珍しく天敵の眠気がほとんどなく気持ちのいい朝を迎え……てはないな。むしろ迎えすぎて通りすぎちゃってるまである。
……今やってしまった俺の行為は、世間一般では寝坊と言うんだろうか。すっとぼけもいいとこだなこれ。
ここまで長ったらしく言いましたが、要するに遅刻ですねはい。
というわけで、平塚先生の鬼の形相を拝んでから教室へ向かう。教室の前で恐怖のあまり漏れていないかを一度確認。
ドアをガラッと開けると、クラス中の視線が俺に一気に集まる。しかし、俺が重役出勤をするのはよくあることだし、そもそも誰も俺には興味がないのでその視線もすぐになくなる。
うんうん、今日もいい感じにぼっちしてるな俺。今のは謎発言すぎるな。
そんなクラスの中で、青みがかった黒髪の女子だけが唯一あわあわしながらせわしなくポニーテールを揺らしていた。何してんだあいつ……と疑問に思っていると、バックからスマホを取り出していた。
それを横目にしながら俺も席に着く。……一応メール来てるか確認するか。
『何かあったの?』
……これを送るためにあんなに慌ててたのかと思うと何かムズムズするな。隣の席の女子(可愛い)がびくんっと怯えるように身体を跳ねさせたのでどうやら頬が緩んでいたようですごめんなさい。
『布団が俺を離してくれなかった』
『何馬鹿なこと言ってんのさ。あんた遅刻の回数多いんだから気をつけなよ』
『いや、お前だって人のこと言えないだろ。バイトしてた頃は重役出勤めっちゃしてたし。あんときは店名からして朝までいかがわしいことして働いてるのかと思ってたわ』
川崎の羞恥を煽るように送ったが、これはヤバいと即座に気づく。川崎の方を見てみると、案の定顔を真っ赤にして俺をキッと睨めつけてきた。
こ、怖い……! そ、そんなに睨まなくたっていいじゃん……。……とりあえず。
『ごめんなさい』
よし、完璧。ていうことで、今日も一日頑張るぞい!(逃避)
××××××
特にこれといったことはなくあっという間に昼休みを迎える。今日はベストプレイスではなく屋上へ行く日なので、川崎と一緒に屋上へ行き給水塔に上って隣同士で座る。
「……ん、今日のお弁当」
「お、おう、いつも悪いな」
「……別に悪くない」
どうやら今日の川崎はいつもより機嫌がよろしくないようである。理由は考えるまでもなく朝の俺のメールのせいですね。
「さっきは悪い。ちょっとふざけすぎたわ」
「……ん、いいよ別に」
言葉ではそう言うが、その表情はまだ少しだけむすっとしてる。怖いけどちょっと可愛く見えてきたな……。
付き合い始めてからは前よりもどんどん色んな表情を見せてくるから、俺はそういう彼女にどんどん惹かれてるんだろうな……。いや、今はそうじゃなくて。
「あんときはお前も家族に迷惑かけないように必死だったんだもんな。それなのに変なこと言ってほんと悪かった」
「……うん、許してあげる」
言って、川崎はすぐに「そもそも」と付け足してくる。
「あんたさ、仮にもあたしはあんたの、か、彼女……なんだし、そういうこと言うのはさ……」
川崎は彼女と言うだけで恥ずかしかったのか、頬を朱に染めながら視線を逸らす。
「そ、そうだよな。あれは言いすぎたわ」
「そ、それとも本当に、その、今までそんなことしてるって思ってたの……?」
不安そうな声音で言いながら、そのまま俯いてしまう。手はぎゅっとスカートの上で握られていて、見えなくても川崎が今どんな表情をしているのか容易に想像できてしまった。
ざ、罪悪感がやべぇ……! まさかあのメールがここまで悪影響を及ぼすとは思わなかった……。
「いや、それだけはねぇよ。さっきのはちょっとした冗談のつもりだったんだ。本当に悪い」
「……そ」
短くそう言うと、川崎はぷいっと顔を逸らしてしまう。さすがに今回の件は言葉だけでは駄目か……。
「なぁ、その……とりあえず飯食い終わったらいいか?」
「……うん」
××××××
「ごちそうさま。今日も美味かった」
「……ん、ならよかった。それで、なに?」
川崎が言う何とは、食べ始める前に俺が言っていた用事のことだろう。いざこんなことを言うと思うと、何だか気恥ずかしくてつい頭をがしがし掻いてしまう。
「あー、その、なんだ。……さっきお前のこと嫌な気持ちにさせちまったからさ……」
言いよどんでしまうが、川崎は俺をじっと見ながら黙って聞いてくれている。
ふぅ……と一息吐く。
「もう俺川崎の下僕でも奴隷でも何にでもなりますしめいっぱいの奉仕もしますんでどうか機嫌を直してください……」
「……は?」
川崎は何言ってんだこいつみたいな困惑の表情で頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべる。だが、すぐにその顔は真っ赤に染まっていく。
「は、はぁ!? あ、あんた何言ってんの!?」
「いや、だってもう機嫌直してくれるにはそれくらいしかねーかなって」
「だ、だからって下僕とか奴隷なんて馬鹿なこと……」
いや、まぁ俺も言ってみてこれはどうかと思ったけどね。空気も重いしちょっとギャグ的な意味も含めたんだけどマジだと思われちゃいましたねこれ。
「……ほ、ほんとに?」
「へ?」
「だ、だから……ほんとにめいっぱい、ほ、奉仕してくれるの……?」
言って、恥ずかしそうに頬を朱に染めながら川崎が視線を逸らす。胸の前で指をもじもじとさせながら俺の返答を待っている。
……うーん、本当にマジな方で捉えられちゃったな。それに今さら断るわけにもいかないしな……。
「……川崎がそれを望むなら」
「じゃ、じゃあ……あ、頭」
いやいや、こういうときの川崎さん語彙力なさすぎでしょ……。何で頭しか言わないんだ。いや、何が言いたいかは分かるけど。
「それっていつも飯食った後にやってるじゃねぇか。それでいいのか?」
「い、いいから……はやく……っ」
震える声音で言いながら、川崎がこちらに少し近づいてくる。川崎がそれでいいなら……と、そっと川崎の頭の上に手を乗せる。ぴくりと川崎の肩が跳ねたが、撫で始めるとすぐに猫のように目を細める。
「ん……っ」
「他にはあるか?」
聞くと、川崎が頭を撫でている手に自分の手を重ねてくる。そして、ちろりと上目遣いで見つめながら、甘えるような声音で。
「……抱きしめて」
そう、伝えてきた。川崎はこういうことでそこまでストレートに言葉を伝えるタイプではないので正直驚いた。
……そこまで俺の冗談で川崎を不安にさせてたと思うと、俺自身も反省と共にそんな川崎をどうしようもないくらい愛おしく感じてしまう。
──ぎゅっ、と川崎の腰に手を回して抱きしめる。んっと吐息を漏らしながら川崎も控えめに俺の腰に手を回してくる。
「ばか……ほんとばか……」
「悪い……」
「な、なら、その、……こ、行動で……」
恥ずかしそうに、それでいてどこか期待を孕んだ声音で川崎がぽしょぽしょと呟く。具体的なことなんて一つも言われていないが、それだけで川崎が言わんとすることが分かってしまう。
俺を見つめていた潤んだ瞳が閉じて、こちらに唇を差し出してくる。
それに答えるように俺は彼女の頬に手を添えて、彼女とは逆に首を傾げる。
そして──。
「んっ……」
唇を離すと、川崎が甘い吐息を漏らし、今日初めて頬を緩ませながら甘えるように首に手を回してきて。
「も、もっと……」
……しばらくは心配性なお姫様へのご奉仕になりそうです。
お久しぶりです!約三ヶ月ぶりの投稿になりますね。サキサキ√に関しては10ヵ月ぶりです。時間の流れが早すぎて怖いものです……。
今回はいつもデレが多めなのでちょっぴり不機嫌なヒロインも書きたいと思ってのサキサキでした。最後は結局デレデレですけど気にしません、はい(逃避)。
実はこのシリーズを投稿し始めてから一年が経ちました。いつも読んでくれてる皆さんには本当に感謝しかありません。これからもよろしくお願いします!
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!