やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
川崎を落とすのに行動する前に、とりあえず現状を整理しよう。
・川崎にブレザーを貸して俺はワイシャツのみ。
・さっきまで背中に当たっていた感触が柔らかすぎて、思い出すだけで死にそう。
・隣でもじもじしている川崎がめっちゃ可愛い。普段の気だるそうな雰囲気とのギャップがやばい。
・そして何より、誰も来ない屋上で二人きり。
……。
…………。
……………………ちょっと理性がギリギリ。あとさっきまで暑かったけど、もう寒くなってきて思考能力も低下中。
それに俺が特に何もしなくても、川崎さんの様子おかしいんだもん……。もう何すればいいか分からなくなってきた。とりあえずなんかしなきゃ昼休み終わっちまう……。
俺は立ち上がって川崎の後ろで膝立ちになり、後ろから首に手を回して覆いかぶさるようにして抱きついた。
「ひゃうっ!? ななななな、あんたなにしてんの!?」
川崎は俺の行動にびっくりしたのか、顔を真っ赤にしたまま固まってしまった。うん、俺もびっくり。寒さのせいで気づいたらやってた。今日のヒキタニ君はいつもの八万倍大胆だよ!
ふぅ……まだ抱きしめられるよりは緊張しないな……。自分でも予想外の展開だけど、これなら好都合かもしれん。
「……嫌か?」
川崎の耳元に顔を近づけて囁くように言うと、ぷるぷると川崎が震えた。耳元に顔を近づけたからシャンプーのほのかな香りが鼻腔をくすぐった。
「え、えっと……ううぅ……」
なんか唸り出したんだけど……。これに関してはちゃんと返事をしてもらいたい。これが怖くて何も言えなくなってるんだったら、速攻でやめなきゃ通報されちゃうし。
「ほら……どっちなんだよ。嫌なのか?」
「い、嫌……じゃない」
よし、とりあえず通報は免れた。川崎って俺のこと好きなんじゃねって勘違いしちゃいそう。というか、なんか勘違いじゃないような気も……。さすがに自意識過剰か。
なら、ここからは言葉攻めだな。普段から海老名さんには「ヒキタニくんはもちろん誘い受けだよね! ぐ腐腐腐……」って言われてるけど(怖い)、俺だって攻めることができるって証明してやる。
だいたい俺が受け前提で話を進められてるのに納得できない。これからは「はちはや」って言ってもらおう。それならいいや(全然よくない)
「川崎ってさ、好きなやついるのか?」
「な……なんで急にそんなこと……」
川崎は首を俺の方に向けて、涙目で俺のことを見てきた。
……やばい、めっちゃいじめたい。よし、ちょっとだけいじめよう。どうでもいいけど、ちょっとだけと先っちょだけは似てると思いました。
川崎が押しに弱いことは前から知っているから、ここは少しだけ強めの口調で言ってみるか。
「いいから、どっちなんだよ」
「うぅ……い、いる……」
恥ずかしそうに小さな声でぽしょりと呟いた。え、まじで? いるのにこんなことしてて平気なのん?
「へぇ……それは誰なん……あ」
ここで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。なんだよタイミング悪いな。こんなラブコメ展開いらねーから……。
抱きつくのをやめて離れると川崎は勢いよく立ち上がり、自分のバックを持って梯子を使い下に降りて、全力ダッシュで屋上から出ていった。そんなに恥ずかしかったのね……。
……というか、俺のブレザー持ってかれたんですけど……。
××××××
翌日。
昨日はあの後から特に何もなく終わった。何かあったかといわれたら、俺がブレザー着てなかったから教室に戻った時めっちゃ変な目で見られたくらいだ。でも戸塚だけは心配そうに見てくれた。ほんと戸塚とゴールインさせて欲しい。ちなみにブレザーは机の上に置いてあった。川崎許すまじ。まぁ元凶は俺なんだけど。
今日は昨日のこともあって早く目が覚めた。だって俺自身が女子に抱きつくのも抱きつかれるのも初めてなんだぞ? そりゃあ健全な男子高校生なんだし悶々とだってしちゃいますよ。
たまには学校に早く行くのもいいかなと思い、いつもより1時間くらい早く家を出てしまった。はい、完全にアホですね。
教室に誰かいるかなー、どうせいたとしても会話なんてしないんだよなーと、思いながら中へ入ると、川崎は気だるそうに窓の外を見ていた。なんだ、川崎も早起きしちゃったのか。
教室には他に誰もいないから、とりあえず話しかけてみることにした。
「よう」
「ひっ!」
川崎はびっくりしたのか、さっきまでの気だるそうな雰囲気とは一変、椅子から立ち上がり数歩後ずさりした。その目には驚きと怯えが入り交じっている。いや、その反応はさすがに傷つきますよ? 普通に挨拶しただけじゃん……。
教室内で俺が川崎にアプローチしてる時に他のやつらが来たら大変だし、今は特に話すことはないから自分の席に座って寝ようとしたら、川崎は俺の方に近づいてきた。俺の席の横まで来ると、何か言いたそうに俺を見ながらもじもじしている。これ絶対俺から聞いた方が早いよな。
「……どうした?」
「あ、あのさ……こ、これ、お弁当作ってきたから」
そう言い、俺に弁当箱を渡してきた。な、なんで……? 俺弁当作ってくれなんて頼んでないんだけど……。
でもまあ、ここで「なんで作ってきたんだ?」なんて言うのも野暮だよな。
「おう、ありがとな」
「別に……。あたしがやりたくてやったんだし……」
「んじゃ、昼休みどこで食う? また屋上行くか?」
「へ?」
川崎は素っ頓狂な声をあげた。俺今変なこと言ったか……?
「え、一緒に食わねぇの?」
「だ、だって……」
「は?」
「お、怒らないでよ……」
だめだ。全然噛み合ってない。川崎さんテンパりすぎじゃないですかね……。
「別に怒ってねーから……。で、なんか一緒に食いたくない理由でもあんの?」
聞くと、川崎は頬を赤らめて、もじもじしながらぽしょりと呟いた。
「だ、だって……い、一緒に食べたら、あんた味の感想とか言うんでしょ……? は、恥ずかしいじゃん……」
……吐血した。え、何この子。めっちゃ乙女じゃん。口下手な川崎のことだし、これ素でやってるんだよな……。どこぞのあざとい後輩や妹にも見習ってもらいたいものだ。
このままだと川崎が一緒に食ってくれそうにないから、ここは強硬手段に出よう。
俺は椅子から立ち上がり、川崎を抱き寄せて耳元に口を寄せて囁いた。
「俺は沙希と一緒に食べたいよ」
……なんだろ。うまく言えないけど、やりきった感が半端ない。自分から抱きしめて名前呼びまでしちゃったよ……。それに攻めると楽しくなって饒舌になっちゃうな。
「うぅ……わ、わかったよぉ……」
川崎はうわずった声で了承してくれた。もうあれだな、川崎は押せば何でも許してくれそう。
「おう、楽しみにしてるから……」
吐息混じりの声で囁き、抱きしめる力を強めると、川崎はびくーんと背筋を伸ばした。
「ももももも、もう無理!」
川崎は俺を腕で押し返して、走って教室から出ていってしまった。なんかごめんね……? ちょっとやりすぎたな。
はぁ……さっきまでのことを思い出すと恥ずかしくて死んじゃいそうだし、昼休みどうするか考えながら寝るとするか……。
このサキサキ√の八幡がただのすけこましにしか見えない……。まぁやっとタイトル通りの展開にできた気もしますけど……w
閑話休題。今年の冬はいつもより寒くない気がします。それで調子に乗ってパンツのみで1日過ごしたら余裕で風邪ひきました……w皆様は体調にお気を付けてください!
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!