ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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外伝4 酔月

 アリス・マーガトロイドは、何故か風見家の宴会に招待されてしまっていた。八雲紫がいきなり現れたかと思うと、いきなりスキマに引きずり込まれて、ここに連行されたのだ。

 いきなりの非礼に文句を言おうとしたら、同じように被害を受けた面々が集められていた。具体的には、レミリア・スカーレットと、西行寺幽々子、そして新参である守矢の神とやら。ついでに伊吹萃香までいる。こちらは笑顔で上機嫌だが。

 

「まったく、神をいきなり異界に引きずり込むかね。早苗以上に常識外れだな。これが幻想郷の常識なのか?」

「それはそれは失礼を致しましたわ。でも、親睦を深める良い機会になると思って。もうお一方には逃げられてしまいましたけど」

「それはそうだろう。あいつは勘が鋭いんだ。なにせ野生の権化だからな」

 

 家主の風見幽香は、しかめっ面で酒をちびちびと煽っている。もう何を言っても無駄だと諦めているのか。

 

「まぁ、私はこれくらいのことは気にしないよ。くくく、私の心は宇宙のように広大だからね」

「流石はレミリア嬢。神輿に相応しい器の広さですわ」

「そうだろうそうだろう。どんどん褒めろ」

「……今のは褒めてるのか?」

 

 神奈子の突込みは軽く流された。

 

「さぁさぁ、そんなことよりも今日は飲み放題の食べ放題。自動お酒発生装置も連れてきましたの」

「それは私のことか! あはは、まぁいいんだけど! さ、景気よくどんどんやろうじゃないか。宴会といえば私、私といえば宴会だ!」

 

 萃香が瓢箪を持ち、酒を注いで回っている。丸テーブルには、幽香が用意したらしい料理が並んでいる。和洋中華、色々なジャンルが見境なしだ。料理の練習でもしていたのだろうか。気になったので確認してみる事にした。

 

「……ねぇ」

「なに」

「今日は何か目的のあるパーティーじゃないわよね?」

「ええ。強引に押しかけられただけね」

「その割には、やけに料理に力が入ってるような」

「実験台よ。初めて作るものばかりだし。それに、八雲の狐にも手伝わせた」

「なるほどね」

 

 アリスは納得した。積み上げられた本を見れば一目瞭然。燐香にご馳走するための料理を、自分達で試してみようということだろう。でなければ、こんなに手間暇かけるわけが無い。

 と、そうこうしている間に、八雲紫と八坂神奈子が巫女談義に入っている。レミリアはそれに一々茶々を入れる。

 

「ご存じかしら? 赤って主役の色なの。緑は添え物。それは幻想郷でも変わらないのです。幻想郷は全てを受け入れますが、ルールを理解してもらわないといけませんわ。郷に入っては郷に従えという言葉はご存知でしょう?」

「くくっ、固定概念に囚われてはいけない。今は緑が主役になれる時代なのだ。何より、緑は自然、そして勇者の色なのだ。私はそれを早苗のそばで見届けたぞ。緑の勇者は確かに世界を救ったのだ」

 

 トライフォースがどうこう言っている。意味が分からないが、誰も突っ込まない。勢いとは恐ろしい。

 

「うふふ。言って分からないのならば、実力で勝負を決めるしかありませんわね」

「おう、望むところだ。妖怪になめられては沽券に関わるからな」

「いざ!」

 

 

 そう言うと、凄まじい勢いで飲み比べをはじめる妖怪の賢者と守矢の神。世界は実に平和である。少し前のあの異変が、はるか昔のことに感じられるではないか。

 

「くくっ。まぁ、こいつらが何を言おうが、最後に笑うのは私なんだがな。神ですら私はしがたえて――ゴホン、従えてみせるぞ」

「なぁ、今噛んだろ。大事なところで噛んだよな? な?」

 

 萃香がレミリアの羽根を突く。顔を赤らめて嫌そうな顔をするレミリア。

 

「う、うるさいわね。全然噛んでないわ」

「偉そうにしてるくせに大事なとこで噛んでやんの! それで吸血鬼とは笑わせる。やーい、この鬼の面汚しめ!」

「なんだとこのチビ鬼ッ!! よーし、まずはお前から締めてやる! 後で吠え面かくなよ!」

「お、やるかい! 先手必勝、鬼の酒を喰らえ!」

 

 レミリアと萃香が取っ組み合いを始めている。萃香が瓢箪をレミリアの口に押し込むと、苦悶の声が上がる。萃香の背中を必死に叩いてギブギブとアピールしている。吠え面をいきなりかいてしまったようだ。

 

「皆、楽しそうね。ああ、なんだか見てるだけで幸せ。このお料理も美味しいし。雪のことなんてどうでもよくなっちゃった」

 

 西行寺幽々子はひたすら料理を食べている。酔いが回っているのか、雪がどうとか言っている。

 

「雪?」

「ああ、気にしないで。さ、貴方も食べなさいな。美味しいわよ、これ。モチモチしてるし、巻くのが楽しいわ」

 

 沢山の具を皮で巻いて楽しそうに食べている。そのまま成仏しそうな至福の表情だった。

 

「子供たちはいないのに、既にいつもの宴会の光景ね」

「…………」

 

 幽香が、何の気の迷いかこちらのグラスに酒を注いできた。アリスは思わず目を見開いてしまう。

 

「な、なに」

「……前の礼を言っていなかったと思って。花梨人形のこと、感謝しているわ」

「私は用意されたものを、繋ぎ合わせただけよ。あの回路がなければ、全ては崩壊していた。悔しいけど、それは事実よ」

「それでもよ。貴方さえよければ、これからもあの子のことを宜しく。そうしてくれると、助かる」

「……本当にそれで良いの? もうお前の役目は終わったと、今日こそ言われるかと思っていたのに」

 

 アリスはそれを恐れると同時に、仕方がないとも思っていた。自分は親でも家族でもないのだから。湧き上がる感情はあったが、それを堪える事ぐらいはできる。

 

「あの子は一箇所で大人しくしていられるような性格じゃない。あちらこちらで遊び回るに決まっている。私一人で、常に見ていることはできない」

「…………」

「以前のように束縛をしたくないの。できるだけ、自由に生きて欲しいと思っている。だからよ」

「……それなら、分かったわ。ただし、これだけは言っておくけど。貴方に頼まれたからやるんじゃない。最初はそうだったけど、今は違う」

 

 アリスは幽香の目を見据えて言った。最初は取引があったから、燐香の教育を引き受けた。だが、もう違う。自分がやりたいからやるのだ。

 幽香は一度深々と頷いた。

 

「それと、前に尋ねられた花梨人形についてだけど」

「ええ」

「人形自体を強化するのは難しいわ。下手に弄ると回路を傷つける恐れがある」

「……そう」

「各部位の修理は可能だけどね。スペアの製造も試してみるけど、期待はしないで欲しい」

 

 あの携帯回路はとても複製できるとは思えない。だが、やる前から無理と決め付けては進歩がない。自分の人形の改良にも併用できそうなので、色々と研究を行なうつもりだ。

 

「それでも助かる」

「例えばだけど、鎧を着せるとか、結界を常に張るとか、そういう形での強化が良いのかもしれない。まぁ、それはそれで問題はあるのだけど」

 

 花梨人形に西洋式の鎧兜を装着させる。外見がゴツくなってしまうが、物理的な衝撃からは守ることはできる。問題は、燐香が調子に乗りそうな点だ。確実に槍か何かを持たせて、兵隊ごっこをやるに決まっている。危険から守ろうとしているのに、それが逆効果になりかねない。

 結界はといえば、おっちょこちょいの燐香が展開を忘れるであろうという大きな問題点がある。

 幽香にそう言うと、苦笑しながらグラスに口をつける。

 

「あの子の場合、どれも十分に考えられるわ。さて、一体どうしたものか」

 

 てっとり早いのは、背中にリュックのように背負わせてしまうことだ。花梨人形を戦闘には参加させられないが、そもそも弱点なのだから目立たせる必要は全くない。格好悪いと反論しそうだが、今度提案してみることにする。燐香は花梨人形を使ったスペルカードを考えているから、説得するのは骨が折れそうだ。

 

「しっかり教育するしかないでしょうね。『君子、危うきに近寄らず』を徹底させる。これからはそういう授業も行なっていくわ。丁度妖夢もいるしね」

「ええ、お願い。私も言い聞かせるけど」

「人形についての指導も並行してやっていくわ。あれが命綱だと、しっかり理解していない気がするの。事故が起こってからじゃ遅いわ。貴方も極力注意してあげて」

「ええ」

 

 幽香が短く頷いた。こちらが何を言いたいのかは分かっているようだ。

 燐香は、花梨人形が自分の弱点だということは認識している。だが、本気で心配をしていない。花梨人形の破損は、即自分の死に繋がるというのに。白と黒、陽と陰を循環させている影響なのかもしれない。前と違うのは、それが諦観からくるものではないということ。

 

 今の燐香は、『今が最高に幸せだからそれで十分だ』と言いたげな表情をする時がある。充実した人生を送った老人のようなそれ。最近は幸せな日々を満喫しているが、ふわふわしていて、見ていて危うさも感じる。時間をかけて大地に根を張らせなくてはならない。物語がハッピーエンドで終わっても、燐香の生はこれからも続いて行くのだ。

 幸いなことに、これは差し迫った脅威という訳ではない。以前とは違い、もう時間制限はない。いきなり強烈な攻撃を仕掛けてくる危険な存在は、今の幻想郷には存在しない。妖怪の山、地底には絶対に近づくなと言ってあるし、自分と幽香、それに妖夢が目を光らせている。

 他のことは少しずつ教えていけば良い。本人が嫌がってもだ。閻魔が日課で行なわせている座禅は、それを叩き込む意味も含まれているらしい。隙を見つけてはサボるので、そのうち幽香と説教しなくてはならないだろう。

 

「親になるって、本当に大変ね」

 

 幽香がポツリと呟いた。

 

「それを今更、しかも貴方が言うの? あんなに苦労してきたのに?」

「前よりも更に実感してるのよ。前とは、何もかもが違うから」

「その割には、なんだか嬉しそうだけど」

「……そうね。私は嬉しいのかもしれない」

「曖昧な回答ね」

「否定出来る材料がないと思って。かと言って、素直に認めるのも癪よ」

 

 幽香が苦笑したので、アリスは思わず笑ってしまった。お互いにひとしきり笑った後、グラスを打ち鳴らして乾杯した。

 今日は少しくらい飲んでしまっても良いかもしれない。なんだか色々な胸のつかえが取れた様な気がしたから。

 

 

 

 

 

「ふー」

 

 アリスは大きく息を吐いた。グラスが空なので、注ぎ込もうとする。が、瓶の中身も空だった。ポイっと放り投げて、次の酒瓶を人形を使って取り寄せる。人形がフラフラ動き、萃香の頭に直撃するが、特に問題はない。相手も気付いていないし。

 

 ――宴会開始から4時間は経過しただろうか。もう日付は変わり、普通は寝床に入る時間か。食材や酒が減ると、紫がスキマから次々と取り出し、代わりにゴミが片付いていく。スキマの向こうでは八雲藍が作業をしているようだ。いつまでやるのかと悲鳴が聞こえていたから。

 途中、神奈子とレミリアに絡まれたり、萃香に私にも人形を作ってくれとか訳の分からないことを言われたりしたが、あまり覚えていない。結構お酒が回ってきている。それは自分だけではなく、幽香も顔が赤くなっている。

 部屋の中は凄まじい酒の臭いが充満している。身体がだるい。頭も少し重い。気分が高揚する。うん、酔いが回ってきている。二日酔いにならないように気をつけねば。萃香が窓を開けて深呼吸している。流れ込んでくる冷たい空気が気持ちよい。いや、寒いくらいだ。

 酒を飲み干す。一瞬ふらつきを覚えた。と、目が合ってしまったので、幽香に話しかける。なんだか更に疲れた表情である。

 

「……ねぇー幽香。もう結構飲んだ気がするけど、これって、いつまで続けるのー?」

「さぁ。私は知らないわ。あの馬鹿に聞いたら」

 

 幽香が紫を指差す。あの乱痴気騒ぎに混ざりたいとは思わない。視線を逸らす。

 

「あれに絡まれるのは嫌。なんだか頭痛がしそうだからー」

「それは同感ね。まぁ、絡まれる前に放り出すけど」

「あはは、それにしても、徹夜で飲むなんていつ以来かしら。なんだか故郷を思い出すわぁ」

「……貴方も、しっかり出来上がってるみたいね」

「はい? 何が出来たの? 新しい料理? 悪いけどもう食べられないわ」

「なんでもないわ。とにかく、陽が昇る前に酔っ払い共は例外なくたたき出すから。私も暇じゃないし」

「うんうん、それでも十分寛容だと思うわ。レミリア以外にはでしょうけど。あははは」

 

 灰になる危険に気付いているのだろうか。まぁ、頑丈なのでなんとかするだろう。殺しても死にそうにない。そのレミリアは、萃香に強引に窓際に引き摺られていた。本当に騒がしい連中である。

 

「こら、レディに何をする! うー、私は血のように紅いワインをだなぁ! あー、零れる零れた服が汚れた!」

「わはは、元から赤っぽいし別にいいじゃないか! そんなことより、ちょっと外見てみろよ! 雪と雹が交互に降ってるんだぞ! まだ冬には早いのになぁ! あはははは! わけわかんねー」

「おい、お前は何を寝ぼけたことを言ってるんだ。こ、これしきで酔いが回るとは鬼の面汚しめが。先ほどの言葉そーっくりそのまま返して――って。本当に雪と雹が降ってるぞ! なんでだ!? まさか私も飲みすぎたのか!」

 

 萃香とレミリアが窓から身を乗り出しておおはしゃぎ。紫と神奈子は顔を赤くしながら酒の飲み比べを行なっていて全く聞いていない。頭がおかしいのではと思う速度で飲みまくっている。人間なら致死量だ。

 アリスは火照った頭で、少し考える。そういえば、何か変わったことが今日はあったような。

 

「なんだったかしら。うーん」

「アリス、大丈夫なの?」

「うん、へーきへーき。あれ、そういえば、燐香はどこだっけ。幽香、燐香は?」

 

 さっきから姿が見えない。おかしな話である。

 

「燐香は白玉楼よ。しっかりしなさい」

「あ、そうだった。後で見に行こうっと」

「……しっかり駄目みたいね」

 

 幽香が疲れきった表情で目元を押さえている。幽々子が楽しそうに会話に混ざってくる。ちょっと聞いてよと、井戸端会議でも始まりそう。

 

「そうそう、白玉楼といえば。さっき、ウチで雪が積もったのよ。妖夢が目を丸くしてて面白かったわぁ。はたてちゃんを呼んで写真を撮れば良かったわね」

「それ、本当なの?」

 

 幽々子に尋ねると、ニコニコ笑いながら頷いていた。

 

「ええ。そうしたら、燐香ちゃんと妖夢が雪合戦始めちゃって。そのうち、早苗ちゃんもやってきて、なんだか凄い事になってたわ。若いっていいわねぇ。今年の冬も楽しくなりそう」

 

 幽々子が楽しそうに幽香の肩をベシベシ叩いている。迷惑そうな幽香が軽く押しのけるが、全く効果はないようだ。娘が白玉楼でお世話になってるから拳を出すのは我慢しているらしい。やはり、少し丸くなった。まんまるである。

 と、肝心なことに気がついてしまった。アリスはポンと手を叩く。

 

「ん! もしかして、これは異変? 異変じゃない? 異変よね?」

「ええ、多分異変でしょう。誰がやってるのかは知らないけど」

「あー、今朝方から緋色の霧が漂っているのは気付いてたんだけど、それかぁ! なるほど、それが、絡んでいたのかぁ。あははは、そっかそっか。謎は全て解けたわね」

 

 ようやく思い出した。アリスの家にも、短時間だが雹が降っていたのだ。ただの自然現象かと思い気にしていなかったが、僅かに緋色の霧が漂っていた。特に人体に害はなさそうだったので放置していた。

 ――と。突然幽香の表情が変わった。

 

「……あれ。いきなり怖い顔してどうかしたの、幽香?」

「燐香が白玉楼を抜けだしたわ。東風谷早苗と一緒に。この方角は――いつもの博麗神社か」

「うわぁ。そんなことまで、よく分かるわねー。貴方って、本当に凄いわ」

 

 アリスは思わず呆れながらも感心する。幽香もこちらを見て呆れている。

 

「警戒用の向日葵を各所に設置してるのよ。あの子の性格は嫌と言うほど分かっているわ。言っても簡単には聞かないこともね」

 

 幽香が溜息を吐く。そういえば燐香は脱走常習犯であった。アリスも一度痛い目に合っている。あの死体もどきの一件は今もトラウマである。時折夢に見るのだから溜まらない。誰にも言わないけれども。その次の日は燐香の姿を確認して安心するのである。

 

「でも、方角だけで神社と分かるのは、いつものことだから?」

「ええ。毎回確認に行ってるから。勿論、見つからないようにだけど」

 

 射命丸文の新聞に、時折博麗神社襲撃ネタが載る。四馬鹿が悪戯を仕掛け、霊夢にボコられるのがお約束。最早鉄板ネタとなっている。霊夢は一見迷惑そうだが、本気で嫌がってはいないのかもしれない。じゃなければ毎回付き合ってはくれないだろう。

 しかし、わざわざ確認にいくとは幽香も相当苦労している。

 

「そうなんだぁー。じゃあ、今度私も手伝うわよ。私に任せて! 人形いっぱいあるし!」

「気持ちは嬉しいけど、どうせ、明日には覚えてないでしょうね」

「覚えてる覚えてる。超覚えてるから」

 

 ばっちり覚えたとアリスは親指を立てる。幽香が微妙な顔をした。

 

「んー。ところでウチの妖夢はどうしたの? 自分は用心棒件庭師だと張り切ってたのに」

「側にはいなかったみたいね」

「あらあら、こんな時間にお風呂にでも入ってたのかしら。寝てて抜け出したことに気がつかないというのもアレよねぇ。修行が足りないわ」

 

 幽々子が困ったわねぇと呟きながら、ムシャムシャとから揚げを食べている。全く緊張感がない。そう演じているのかもしれないが、一見しただけでは判別できない。八雲紫同様、喰えない存在なのは確定している。

 

「行くなら付き合うわよ、うん。この異変と関係あったら厄介でしょうし。なかったらお説教しなくちゃ」

 

 そんな偶然があるとは思えないが、東風谷早苗と一緒というのは気になる。何もなければそれで良いだけだ。とっ捕まえて朝まで説教コース。

 

「アリス、貴方酔ってるわよね? そんな状態で大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。ちょこーっとお酒が回ってるだけだから。へーきへーき。うえっぷ」

 

 笑いながら大丈夫と言っておく。実際大丈夫だから問題ない。ちょっと胃がシェイクされてるけど。

 

「……それならよろしく。丁度、便利な移動手段もあるしね。あの馬鹿を軽く締め上げて、開かせましょう。ついでに今までのお礼もしておこうかしら。家の中を散々散らかしやがって」

 

 幽香が青筋を浮かべながら、ギャーギャー騒いでいる紫に近づいていく。アリスは腕組みをして少し考え、戦闘用の人形を適当にばら撒く。どれにしようか悩んでいたのではなく、考えていたら気分が悪くなってきたのだ。背中を冷や汗が伝う。エマージェンシーレベルがぐんぐん上昇していく。

 幽々子はこちらを見てニコニコしながら、立ち上がる。どうやらついてきてくれるらしい。水をくれたのでありがたく受け取って一気飲み。

 暫くして紫の悲鳴が盛大に上がった後、宴会をしていた面々は全員連れ立ってスキマを抜けて博麗神社に移動していくのであった。

 ちなみに、紫と神奈子はスキマを通るときに何度も吐いていた。これが妖怪の賢者と神なのかとアリスは呆れるが、魔界の神を思い出してそういうものかと納得してしまった。

 ちなみに、アリスも結構ヤバイ。頭の中で警報と頭痛がガンガン響いている。口元に手を当てて、必死に堪える。都会派を称する自分が中身をぶちまけるのは色々とまずい。なにより、燐香にでも知られたら折角の威厳がガタ落ちである。よって、別のことを考えて、思考を逸らす。そうしないと数秒後にアリスリバースになってしまう。

 

「本当に大丈夫なの? 無理なら家にいていいんだけど」

「ううっ気持ち悪い。……え、何が大丈夫って?」

「貴方の人形、さっきからダンスしてるんだけど」

「――え?」

 

 幽香の指摘にアリスが人形たちに目を向けると、全員空中コサックダンスしていた。意味が分からなかったので、とりあえず笑っておいた。

 




羽目を外してしまいポンコツに。素面に戻って後悔するタイプ。

シリアス展開にはならないです。
あくまでにぎやかな後日談です。

本編だったら、更にパルスィを絡ませて色々やったと思いますが!

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