ハッピーエンドではありません。
閲覧時には注意をお願いします。
これで完結ではありません。
苦手な方は、76話投稿までお待ち下さい。
◆ Caution!! ◆
「行かせないって言ってるでしょう!! 絶対に通さない!!」
「馬鹿フランが!! 早くしないと時間がなくなるんだぞ!」
「お嬢様、ここは私が」
「駄目だ。お前が行くと、間違いなく着火する。もういいから外で待機してなさい」
「は、はい」
フランはレミリア・スカーレット、十六夜咲夜ペアに強引に押し通られてしまっていた。止めようとしたら、本気で引っ叩かれ、そのまま手を掴まれて紅魔館内部に連れ込まれてしまった。そのまま主の間へ行くのかと思ったら、一番近くのメイド妖精の部屋へと押し込まれた。
「なんのつもり? 今は楽しい異変の最中なのに! そんなんじゃ白けちゃうよ!!」
「フラン。私の最愛の妹。いいか、良く聞きなさい。お前はこれから選ばなければならないんだ」
「何を! というか一々私に指図するなよ! 今は敵同士――」
「いいから黙れ。至極簡単な話よ。私が殺すか、お前が殺すか。二つに一つだ。いずれにせよ、お前には傷が残る」
「私がお姉さまを? それ良いね。今すぐ握りつぶして――」
左手を前に出したが、それを巨大化させたレミリアの右手で強引に押し戻される。
「もう運命は変えられない。この世界の運命は、定まってしまった。後は、配役をどうするかだけ。お前と私、どちらが止めを刺すかだ」
「はぁ? なに言ってるのお姉様は。さっぱり意味が分からないし」
「何も気付いていなかったのか? 誰にも教えてもらわなかったから、だからお前は気付かなかったと。本当に、お前はそこまで愚かなのか? 違うだろう、フランドール。お前は、分かっているはずだ」
フランは口ごもる。反論は沢山ある。だが、舌が蝋で固められたかのように動かなくなった。呪いだろうか。
「どうして風見燐香はいきなり異変を起こしたのか。分かっているだろう、フランドール。ただ、お前との約束を果たすためだよ。死の間際に、お前の友は約束を果たす事を選択したのだ」
「そんなの嘘だよ。だって、私や妖夢に黒い力をくれたんだから。あんなに元気だったのに」
「もう間もなく、黒が白を飲みこむ。だが、私がそうはさせない。黒一色の世界など、私は真っ平ごめんだからだ。だが、フランドール。お前には介入する権利がある。先を譲ってやろう」
「先を譲るって」
「お前が殺してやれ。風見燐香はそれを待っている」
「うるさいうるさいうるさい!! ふざけたことばかり言って!!」
フランは、レミリアの身体を突き飛ばして、燐香がいるであろう主の間へと向かった。全力で飛び、扉を開ける。
「り、燐香!!」
主の間は、真っ黒に変色していた。これは、蔦だろうか。部屋の中を、黒の蕾が耳障りな音をあげて飛び回っている。中央の椅子、そこには体内から黒蔦が何本も飛び出ている変わり果てた燐香がいた。奇怪な植物とほぼ同化しかけている。これが『時間切れ』ということなのか。
燐香のなれの果て。その口が、かすかに動き、声をはっする。
「…………フ、ラ」
「なんなのこれ!! や、止めて。止めてよッ。止めろおおおおおおおおッッッ!!!!!」
フランは駆け寄り、黒の蔦を全力で薙ぎ払う。部屋中に生い茂る黒の彼岸花を焼き払う。壁ごと蕾を吹き飛ばす。目についた黒を、全て『目』で絡めとり、握り潰していく。
だが、その度に燐香の身体から黒い瘴気が発生し、蔦は再生していく。蕾が現れ、さっきよりも大量の黒をばら撒いていく。
燐香の身体は、先程よりも蔦に埋め尽くされていく。もう、胴体が見えない。髪は黒く変色し、顔色も灰色になっている。まだ生きているのかすら分からない。目からとうに光が失われている。
「なんで。なんでよ! 殺したんだから消えてよ!! 燐香が死んじゃうよ!!」
「フランドール!! 早く止めをさしてやれ! もう限界なんだ!!」
「嫌だよ!! だって、私の初めての友達なんだよ。殺せるわけがない!! 出来るわけないよ!!」
「ならばどきなさい! お前がやらないなら、私がやってやる!!」
神槍『スピア・ザ・グングニル』。レミリアが急速に右手に紅い光を迸らせていく。これに巻き込まれれば、フランとてタダではすまない。そして、邪魔するなら容赦しないとレミリアが殺意の篭った目で睨みつけてくる。
フランが全力を出せば、これを遮ることはできる。だが、それでなんになるのだ。燐香はこのまま黒に飲み込まれて死ぬ。では、見過ごせば。姉が友を殺してしまう。どうすればいい?
フランは、涙を堪えながら燐香の顔を振り返る。その変わり果てた口が、僅かに動き、そして少しだけ笑った。
最後の言葉を、フランは受け取ってしまった。
「フランドールッ!!」
「うわあああああああああああああッッッ!!」
フランは、激情のままに燐香のなれの果て、その最後に僅かに残された白のそれを、『目』で捉える。
――そして、握りつぶした。
◆
「ねぇ、パチュリー」
「何かしら」
「私ね、魔法の勉強をもっとしたいのだけど」
「へぇ。中々面白いことを言うじゃない。もしかして、魔女にでもなりたいの?」
「うん。それでね、蘇生の魔法を覚えようと思って」
フランは笑った。友をその手で殺したあと、一年間フランは引き篭もっていた。なにもせず、ひたすらぼーっとしていた。
羽についていた虹色の宝石。あの異変から、ずっと真っ黒のまま。それは、まるで自分の罪を示しているかのようだった。それを見るたびに、フランは跪いて蹲りたい気持ちになる。でも、ずっと友達が傍にいてくれるような気がして、直ぐに立ち直る。そう考える事にして、フランは地下から再び外にでることにした。
「――蘇生魔法。一体何人の魔術師がそれに手をだして、運命を狂わされたのか。先輩として忠告しておくけど、碌な結末を迎えないわよ」
パチュリーの厳しい視線。フランは、特に気圧されることもなく、首を横に振る。
「結末なんてどうでもいいんだよ。私がやりたいんだから。私の好きなように生きて、私の好きなように死ぬんだ」
「……その研究の協力はしないわよ。勉強の方は手伝ってあげないこともないけど」
「ありがとう、パチュリー。準備ができたら、呼んでね。それまで独学でやってるから」
「……ええ」
図書館を出ると、咲夜を従えたレミリアが現れた。もう前のように反発することはない。相手をしている時間がもったいない。
「ごきげんよう、お姉様」
「ああ、良い夜だね、フラン。……ちょっと待ちなさい」
「何かご用?」
「……大人になったな、とでも言ったらいいのかな。随分と成長したと思ってね」
「色々とやることができたんだよ。そのために生きようと思っただけ」
「そうか。それで、蘇生魔法か」
レミリアが眉を顰める。
「文句があるなら受けてたつけど」
「……お前の努力は、この世界ではきっと報われないよ。それでも、お前はやるのだろう?」
「うん。第一、私はお姉さまの能力を信用してないんだ。運命を操れるなんて眉唾だし」
「ははは。言ってくれるじゃないか」
「変えてくれるなら、今すぐハッピーエンドにしてみせてよ。代償はなんでも払うからさ。ね?」
「…………」
レミリアは無言で首を横に振った。
「無理だ。思うがままに操れるなんて、都合のいいものじゃないんだ。それができるなら、とっくの昔に私は世界の支配者になっているよ」
「ま、そうだろうね。私と同じで、大げさだけど使い勝手が悪い。姉妹そろってどうしようもないね」
「くくっ、ひどいことを言うじゃないか」
「でも本当のことじゃない」
フランが苦笑すると、レミリアが笑った。
「……それを貰ってから、変わったようだな」
「うん。形見、みたいなものだし。形は大分変わっちゃったけど、大事な宝物」
ルーミアがいきなりやってきて、篭っていたフランに押し付けてきたもの。意味が分からなかったけど、順番だからと渡してきた。やっぱり意味が分からなかったが、とりあえず受け取って置いた。ルーミアいわく、カイロではなく回路なのだそうだ。やっぱり意味は分からなかった。
そして、部屋にこもりながらその八卦炉もどきに進化してしまった携帯回路を眺め続けた。真ん中の黒いぐるぐるが、ひたすら回っているのを見ていたら、なんだか気分が悪くなってきた。そうか、これはバランスが悪いのだ。黒しかないから。
だから、なんとかしようと色々試してみたけど、上手く行かなかった。黒の勢いを殺す事はできなかった。何らかの力で固定化されているようだった。
「それにね。蘇生っていっても、魂を呼び戻すわけじゃないんだよ。パチュリーは勘違いしてるみたいだけど。私は、白を蘇らせたいんだよ」
「ほう?」
「私の『目』で捉えたから、色と形と構成はしっかり覚えている。どれだけ時間が掛かるかはわからない。でも、私ならできると思う。それで、またいつか、巡り巡って、彼岸花に宿ってくれたら。もしかしたら」
「……くく、夢のある甘っちょろい話だなぁ。だが、嫌いじゃないぞ」
レミリアがフランの頭を馴れ馴れしく撫でてくる。それをすぐに振り払う。
「暑いからくっついてこないでよ」
「つれないな。その変な道具から風が出ているからいいじゃないか」
「ああウザい。邪魔邪魔!」
「この紅魔館当主、レミリア・スカーレットが宣言しよう。お前の目的を叶える為、私はどんなことでもお前に協力するとな!」
大げさに宣言すると、腰に手を当てて威張るレミリア。咲夜は苦笑を堪えている。
フランは両手をあげて呆れてみせた。
「別にいらないし。ほら吹きはあっち行っててよ」
「おい! そこは感動するところだろう!」
「あー勉強しなくちゃ。忙しい忙しい」
紅魔館は、少しずつ賑やかさを取り戻していく。フランは泣き叫びたくなる感情を必死で抑える。泣いている時間などないのだ。
◆
「こうして集まるのは久しぶりですか」
「あの異変以来じゃないのかなー」
「うん。私が引き篭もってたからね」
「はっきり言うようになったね。もしかして、別人? 人形?」
「どう見ても本人だよ。ほら、牙もあるでしょ」
ルーミアが疑いの視線を向けてくる。妖夢は苦笑している。四馬鹿のうち、ここに三馬鹿が久々に揃った。
「幽香はまだ見つからないの?」
「たまに戻ってくるみたいだけどね。畑の様子を見に。妖精が見かけたって」
「そっか」
フランは幽香に会うのが怖かった。なんと言えばいいのか分からない。今もだ。だから、内心でホッとしてしまっていた。だが、いつかちゃんと謝らなければならないだろう。それが責任というものだ。
「ここの彼岸花も、元気みたいだね。白玉楼に咲かせてくれたのも元気なんですけど」
「うん。ウチは美鈴が世話してるからね」
「フランもやってみたらどうです?」
「美鈴がうるさいから止めとく。私がやりますってうるさいんだもん」
前に、燐香が紅魔館で咲かせてくれたもの。美鈴が今もしっかりとお世話をしている。手を出そうとしたら口うるさく止めてきたので、枯らしたら半殺しにすると脅しておいた。
「後、博麗神社やアリスさんの家のも元気ですよ。アリスさんは気晴らしに花の世話をしているみたいで。……まだ元気になったとは言い難いですが」
「そっか」
あの異変で、フランが燐香を殺してから色々変わってしまった。彼女の死は、近しかった者に大きな傷痕を残した。幽香、アリス、魔理沙、妖夢。多分、感情をあまり外に出さないルーミアもだろう。暫く手のつけようがないくらいに、魔法の森で暴れていたらしい。咲夜が愚痴っていたから。
その傷を負った者には、手を下した自分も含まれている。認めたくないけど、そうなのだ。客観的に見る事で、感情を制御する。その術をフランは覚えたのだ。そうすることで、泣きたくなる気持ちや、暴れ回りたくなる気持ちを抑えることができる。
「ね、ルーミア」
「何?」
「本当は怒ってるんでしょ? 私が、殺しちゃったから」
「さぁ。もう終わったことだし。それを聞く為に呼んだんなら、もう帰るけど」
「ううん、ごめん。本当に言いたかったのはそれじゃなくて」
つい自虐的になってしまった。責めて貰えたら、罪悪感が少しは薄れるような気がして。
「あのね。良かったら、一緒に勉強しない? ルーミアだけじゃなくて、妖夢も。私だけでもやるつもりだけど、皆でやった方が早いかなって思って」
フランは勇気を出して、自分の考えているプランを話した。白の再生計画。多分、以前の燐香が帰ってくることはもうないけれど。それでも、何かが残せるような気がした。だから、一緒に。
「私は、構いません。白玉楼の仕事があるから、その合間になるけど」
妖夢は賛成してくれた。蘇生と聞いて、最初は警戒を露わにしたようだが、ちゃんと説明したら肉体蘇生やら魂召喚術ではないと理解してくれたようだ。
「……どうしようかなー。なんか自己満足っぽいし。意味あるのかなー」
ルーミアはやっぱり難色を示した。結構な面倒くさがりだし、ルーミアは束縛を嫌う。自由に動く事を好み、居場所を固定されることを望まない。それがルーミアの在り方なのだ。何より、結局は燐香が帰ってくるわけじゃないと理解しているから。
それでも、フランはルーミアも一緒に手伝って欲しい。友達だから。
「これが上手く行けば、その途中で、これももっと完成に近づくと思うよ」
フランは携帯回路を取り出す。今も黒がぐるぐる回っている。
「白をこのぐるぐるに入れてみたいんだ。黒だけじゃバランスが悪いと思うの。だから、白を」
「えーと、なんだか既視感があるような。それはともかく、これに白を入れるとどうなるの?」
妖夢が当然の疑問を示す。
「白と黒、ぐるぐるが二つになると思う。多分、前みたいな効果になるんじゃないかな。予想だと、冷暖房機能が復活すると思う」
全然分からないけど。
咲夜に言って、河童に直せるか見せたら、『高度な魔改造が施されてるし、触るのが怖いから嫌だ』と追い返されてしまったとか。『回路とは言いえて妙だね』ともお墨付きを頂いたらしい。何の得にもならないお墨付きだ。
ついでに、『なんだか厄い。でも厄くないかも』と鍵山雛とかいう妖怪にも言われたとかなんとか。その意味はよく分からない。
「ふーん。じゃあ、いいよ。紅魔館の血のワインくれるなら、一緒にやってあげる」
ルーミアがようやく頷いてくれた。
「ありがとう」
「なんだか、調子狂うな。本当に、あの我が儘なフランなの?」
妖夢が苦笑する。
「そうだよ。一年篭ってたから、悟りを開いたんだよ」
「へー。そうなのかー」
「そうなんだよ」
「じゃあ、星空も綺麗だし、一杯飲みますか? 今日は私も仕事は残っていませんし」
「それいいね。これは、大丈夫な奴でしょ?」
ルーミアがどこからか瓶を持って来た。紫の綺麗な液体が入っている。あれはパチュリー愛用のものだ。
「うん。それパチュリーのだし。血は入ってないよ」
何が入っているか、そもそも何の液体なのかは分からない。見覚えはあるような気がするけれど。
「じゃあ、燐香にお裾分けをしようかなー」
彼岸花に、特製の液体を振りかけていくルーミア。紅魔館で作られ、さっきフランが渡したものだ。ついでに、自前らしい謎の肉も放り込んでいく。なんだか嫌そうに笑う燐香を想像してしまい、少し楽しくなって、悲しくなった。
「……では、私も」
「じゃあ私も!」
妖夢に続き、フランも液体を彼岸花に掛けていく。ちゃんと、花の栄養になるようになっている。肥料と水をばら撒いているようなものだ。
「この酒……というか、謎の液体、飲めるんですか?」
「知らない。飲んでみようか」
「じゃあ、乾杯で」
適当にグラスに注ぎ、皆で乾杯。一口飲んで、げほげほと咽る。
「まずい、ですね」
「げろまず!」
「今思い出したけど、パチュリーも飲まないほうがいいって言ってた。というか、魔法植物用だよこれ」
「早く言ってよー」
「アハハ」
フランはむせ返りながら、笑った。笑いながら、泣いた。すると、妖夢も笑い泣き。ルーミアは顔を背けて、こちらに表情を見せようとしない。意地悪しようかと思ったけど、やめた。
三人で彼岸花を背に星空を見上げながら、その晩はずっとそのままで過ごした。
◇
――白の蘇生計画。フランは、アリス、魔理沙、パチュリーの協力も得る事になる。そして、魔法技術を習得した妖夢、ルーミアと協力して、ついに白のカケラを再生することに成功した。
まだまだ完成には程遠いけど、フランにとっては大事な第一歩。そのカケラを壊さないように、丁寧に携帯回路のぐるぐるに移植する。すると、白と黒はまるでぴったりと噛み合うかのように回転を増していき、やがて、見覚えのある陰陽型へと姿を変えていった。
フランはそれを妖夢、ルーミアも含めた皆の宝物にしようと決める。本当は、燐香がいれば、もっと良かったのにと思った。
それをつい口に出してしまったら、妖夢が元は燐香の持ち物だから、共同制作みたいなものだと言ってくれた。
フランはありがとうと言ってから、それをアリスの家に置かせてもらうことにした。四馬鹿が一番集まったのはあの家だから。
アリスは少し躊躇したが、やがて笑って受け入れてくれた。
「さてと。次はいよいよグレードアップしないとね」
「私はちょっと休憩したいなー。最近、美味しい肉食べてないし」
「別にいいよ。その間、私が進めておくから」
「じゃあ一週間で戻ってくるね」
ルーミアはそういうと、出て行った。なんとなく止めて欲しそうだった気がするが、別に慌てる必要はない。妖夢も今は白玉楼で庭師の仕事に励んでいるし。
「なぁフラン。私もよければ手伝いたいなぁなんて。お前がどうしてもと言うのならばだがな。うん」
「いらないかな。私たちだけで十分だし」
「いやいやいや。こう見えて私って結構強力な吸血鬼だし。絶対に何か役に立てると思うぞ! さぁ、我が力を使うが良い!」
レミリアが執拗に迫ってくる。最近構ってやらなかったからだろう。パチュリーがあきれ、咲夜が苦笑し、美鈴があちゃーと言っている。小悪魔は非常につまらなそうな視線である。フランが引き篭もっているときは、死ぬ程幸福そうだったのだが。
「気持ちだけで、十分嬉しいよ。お姉様」
「……そ、そうか? ならいいんだ。うん。でも、いつでも協力するからな!」
「分かってるよ。それじゃあね」
フランは手を振って、地下へと戻っていく。多少精神が改善したとはいえ、フランは地下で相変わらず暮らしている。その方が落ち着くからだ。レミリアはもう大丈夫だから上で暮らせと執拗に言ってくるが、止める気はない。
「だってねぇ。こうして、遊んでいる姿を見たら、また気が触れていると思われちゃうし。というか、悪化したと思われるかも」
フランはトランプを取り出し、相手と自分に配り始める。相手はそれを手に取り、笑う。顔はフランだが、白いお面と赤いカツラを被っている。丸が二つと、口が一つだけ開いた、ただのお面。服装は、昔の燐香のもの。幽香の家から勝手に拝借してしまった。
「それはそうだよ。燐香役を自分で演じるなんて、頭がおかしいよ。狂ってるよね」
「でも、誰にも迷惑掛けてないからいいよね? 外ではちゃんと普通だし。家でも皆がいるときは普通なはずだよ」
「うん。それに結界もちゃんと張ってるからね。大丈夫だよ、私。普通にまともで、普通に狂ってる。私が保証するよ」
「それはありがとう、燐香」
「じゃあさ、今日はスピードやろうよ。その後は神経衰弱。最後に幻想郷征服ゲームね」
「分かったよ、燐香。でも、途中で交代しようね。私も燐香やりたい」
「そのうち、ルーミアと妖夢もやってみようよ。そうすれば、あの時に完全に戻れるよね」
「うんいいね。ああ、本当に楽しいなぁ。これからも、毎日忙しくて楽しいよね」
「現在と、過去、そして未来。私たちはどれも味わう事ができる。だから、絶対に幸せなはずだよ。皆もそうでしょう?」
「もちろんだよ。私は今、とても幸せだな」
四人のフランドールは、心から幸せそうに笑った。
フランドールエンド終了。
◆※◇エンドロック解除。
なんとなく後書きをADV風にしてみました。
特に意味はないです。
実はゲームの世界のお話だったんだよ! なんだってー!?
みたいなオチじゃないです。