ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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◆ Caution!! ◆


ハッピーエンドではありません。
閲覧時には注意をお願いします。
これで完結ではありません。

苦手な方は、76話投稿までお待ち下さい。


◆ Caution!! ◆


ルーミアEND 『黒になれ』 (挿絵あり)

 ルーミアは、住む者のいなくなった家屋の屋根に腰掛け、のんびりと昼食を取っていた。見かけは真っ黒だけど、食べると普通のお肉。骨まで黒いのはどうかと思うが、美味しいから問題はない。大事なのは見かけではない。

 それに、これと同じモノがここにはいっぱいある。いつでも新鮮で、わざわざ狩りにでかける必要もない。あの、生贄の祭壇でぼーっと待つ必要もない。でも、あそこはお気に入りだから、お昼寝するときはたまに行く事にしている。

 

「よいしょっと」

 

 ルーミアは骨を齧りながら、集落の真ん中に降り立つ。片腕の無い黒いヒトガタ。意識はないはずなのに、その顔は苦悶の形相が張り付いている。そんなことに遠慮するルーミアではない。容赦なく右手を引きちぎる。ちぎれたそこからは何か黒い瘴気が空へと昇っていく。血液の代わりみたいで面白い。

 肉がなくなった骨を投げ捨て、新しいお肉を頂く。紛い物と違ってとても美味しい。ルーミアは幸せを感じていた。

 

 ――が、無粋な連中がまた現れたのを感じる。毎回食事時や昼寝しているところを狙ってくる。

 

「もう。本当に邪魔だなー」

 

 ルーミアが右手を翳し、そこから闇を展開する。闇といっても、その黒いモノたちはなにかがもぞもぞと蠢いている。無念や憎悪が寄り集まったものとか誰かが言っていた。確か上白沢慧音とか言ったっけか。何度も仕掛けてくる面倒で煩い女妖怪。あしらうのが面倒な相手なので、あまり見つかりたくはない。特に、ペアの藤原妹紅が面倒なのだ。死んでも蘇るから。ルーミアとの勝負では、永遠に決着がつかないような気がする。

 

「と、今はこっちに集中しないとね。えいっ」

 

 闇が、遠方から飛来してきた強力な妖力弾を吸収する。お返しに黒蛇弾を発射する。細長い弾が最初は一つだけ。だが、それは恐ろしい速度で増殖し、分裂しながら一挙に空中を埋め尽くす。当たると死なないけど痛いし苦しいらしい。前に遊んだ、『へび花火』を参考にしたものだ。うねうねしながらだんだんと大きくなっていく。ああ、思い出すと楽しくなってくる。もう一度、皆で遊びたい。

 そうそう、人間にはかなりの毒のようで、流れ玉にあたった不幸な農民が真っ黒になって死んでしまった。美味しくいただいたので、無駄にはならないだろう。無駄に殺すのはいけないが、食べるので問題ない。

 ちなみに、霊夢や魔理沙などの知り合いを相手にするときは、極めて気をつけている。間違って殺してしまわないように。壊れやすい壺に触れるように、丁寧にあしらっている。面倒だけど仕方がない。他の人間はどうでもいいので、掛かってきたら食べている。

 

「また、お狐様か」

「――前鬼、後鬼!! 道を拓け!」

「※※※※※※※※ッッッッ!!」

 

 器用に黒蛇弾を回避しながら八雲藍が近づいてくる。お供には式神か。あれが被弾しながら藍の道を作っている。あれはつぶしてもつぶしても何度でも蘇る。だから遠慮なく今回もつぶしてしまおう。

 ルーミアはもう一発黒蛇弾を発射。直撃してしまった哀れな式神達は炭化して、地面に落下していった。

 

「今度は黒狐になっちゃったりして」

「黙れっ!! 死ね、化け物め!!」

 

 藍がいよいよ攻撃態勢に入る。相手は、ルーミアを殺す気満々である。一方のルーミアは、特に気にしていない。

 本来、ルーミアとは妖怪としての格が違う。それをなんとか戦えるようにしたのがスペルカードルール。本気で戦った場合、普通なら手も脚も出ずに粉々にされてしまうだろう。

 

「いくぞッ!」

 

 楔形弾幕が数百、いや数千まで一気に構築された。流石の妖力だ。それらは全てルーミアに向いている。

 

「あれー?」

 

 何かが動きを阻害する。スキマがルーミアの足を拘束していた。拘束というか、骨が完全に粉砕されている。気がつけば両手両脚が致命的なダメージを受けている。いつのまにか、スキマが絡みついていた。

 

「――藍」

「はっ!」

 

 ルーミアがのんびりと空を見上げる。回避行動をとりはじめる藍。その上には紫。冷徹な視線でこちらを見下ろしている。幾百ものスキマが目を開けている。

 

「この世界に貴方のような存在は相応しくないの。今日こそ、塵芥と消えなさい」

 

 返事をする間もなく、ルーミアに数十万発の妖力弾が浴びせられた。絶え間なく降り注ぐそれは、黒の彼岸花で多い尽くされた集落ごと焼き尽くす。地面はクレーター状になり、それでもまだまだ抉り取っていく。

 ――ここにいたルーミアは、肉片一つ残らずに蒸発した。紫はそれを、表情を変える事無く見つめ続けていた。

 

 

 

 

「効いたー」

「やはり、駄目みたいね」

「うん。昼間に攻撃を集中させるのは、良い案だと思うけど。無駄なものは無駄だよ。水に石を叩きつける様なものだし」

 

 溜息を吐く紫。ルーミアは何事もなかったかのように再び現れた。呆然とする藍の影から。別に取り殺したりはしない。ちょっと出口を借りただけである。

 

「今回はもう諦めるわ。ちょっと、情報を集めたいから話をしない? 貴方を殺しきる手段を考えなくちゃいけないから」

 

 胡散臭い笑みで、とんでもない提案をしてくる紫。燐香がいれば、突っ込みをいれていただろう。

 

「攻撃を仕掛けてきたくせに我が儘じゃないかなー」

「それが紫ちゃんだからね。私から我が儘を取ったら優しさしか残らないもの」

「あはは。面白かったからいいよ。疲れるから座るね」

 

 ルーミアがクレーターの中央に着地し、手を払う。茶色いむき出しの土に、一挙に黒い彼岸花が咲き乱れる。それを座布団代わりにして、ルーミアは座り込んだ。前に行儀良く座る紫と、警戒態勢をとったままの藍。

 

「ポチっとな」

 

 ルーミアは、燐香が気に入っていた携帯カイロをポケットから取り出し、スイッチを入れる。ルーミアを説得にきた妖夢から何故か受け取ったもの。外見はなんか奇怪な感じになっていたけど、折角なのでもらっておいた。カイロというより、なんだか回路みたいである。河童が見たら喜ぶだろう。あいつらはガラクタが好きだから。

 スイッチを入れると、真ん中のグルグルが回って微風が出てくるのがちょっと面白い。でも、しばらく使っていると、風を取り込んでいるであろう背部が嫌な音を出し始めた。真ん中のグルグルもなんだか真っ黒になってきた。多分、黒の瘴気を吸い込んでいるからだろう。

 このままだと壊れちゃいそうだったので、ルーミアが能力を使って黒が増えないように固定化している。黒は大好きだけど白がちょっと残っていた方が、ルーミアは好きなのだ。珈琲と一緒。ブラックよりも、ちょっとだけミルクを入れたほうが美味しいし。今は白はないけれど、誰かがなんとかしてくれるかもしれない。

 

「――で、何が聞きたいんだっけ?」

「そうね。じゃあ、まずは貴方が普段つけていたリボンのこと。その封印が解けたのが、貴方の異常の原因かしら」

「さぁ、どうなのかな。邪魔だから取っただけ。気に入ってたけど、もういらないから」

 

 燐香が暴走し、いよいよ耐え切れないと思ったとき。ルーミアはリボンを取り払った。なんだか分からないが、何かが広がった気がした。そこに、燐香だったものを全て取り込んだ。こうすれば、いつも一緒だから。そうしなければ、普通に霧散してしまっていただろう。だからそうした。

 でも、そうしたら、人間が死ぬ程憎くなってきた。だから世界を一気に黒くしてみた。知り合いのいるところ以外、真っ黒に。黒い彼岸花で覆い尽くすだけじゃない。増殖する闇を世界にばら撒いた。今もやっている。集落の人間は黒化し、生きているか死んでいるか判らない状態になった。家や草木、水に至るまで真っ黒だ。普通に飲めるし、食べられるので問題ない。本当は太陽も黒くしたいのだが、それは上手くいかなかった。だから、近いうちに月を黒くすることにしている。――道は見つけた。

 逆に返り討ちにあって殺されてもそれはそれでいいやとルーミアは思っている。その時は自分の中の黒が一気に拡散して面白い事になるだろう。見れないのは残念だけど。

 

【挿絵表示】

 

 

「この瘴気を用いて、封印を解除したのではなくて? 既に限界を迎えていた風見燐香を煽って。黒を暴走させて、貴方が力を取り込む。いや、最初からそれが目的で、風見燐香に近づいたのでは――」

「…………」

 

 ルーミアの表情を見て、紫が途中で言葉を切る。知らぬうちに、怒気が露わになっていたようだ。息を吐いて、感情を鎮める。手が怒りで震えていた。大事な思い出が汚されたようで、酷く腹が立つ。

 

「ごめんなさい。もう二度といわないわ」

「……そっか」

 

 ルーミアは頷いた。紫が本気でしまったという顔をしていたから。珍しかったので、許してあげた。そういう気分になった。

 

「では別のことを聞かせて。貴方の本当の目的は何?」

「前にも言った気がするけど」

「本当のところを知りたいのよ。貴方相手に、腹の内を探るような真似をしても徒労に終わるだろうし」

 

 紫の言葉にルーミアは薄く笑う。それはそうだ。だから、分かって欲しいのに。言っていることは全部本当なのだと。

 

「だから、私の目的は美味しい物を食べて、適当にやるだけ。ただね、私たちの方は、ちょっと違うみたい」

「というと?」

「どうでもいい人間たちを全員黒化して、思い知らせることみたい。自分達の憎悪を」

「なるほど。だから、こうして黒くして回っているわけね。……後先を何も考えずに」

 

 紫の目に殺意が再びこもり出す。自分の愛する世界をこんなにされて怒っているのだろう。さっきのルーミアのように。

 

「ねぇ、やっぱり怒ってるの?」

「ふふ。怒ってないように見える? 八つ裂きにしても飽き足りないくらいの怒りを覚えているわ。だから、そういうつもりで何度も何度も私たちは攻撃をしかけた。殺すための闘い――戦争をね」

 

 八雲紫、西行寺幽々子、レミリア・スカーレット、八意永琳、八坂神奈子に洩矢諏訪子。それらの勢力が結集して、ルーミアを殺すために一斉に攻撃をしかけてきたことがある。流石の火力に、何度も何度もルーミアは殺された。だが、一ヶ月経っても死なないので、ようやく諦めてくれた。あれは参った。本当におなかが空いていて、霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗を食べてしまうところだった。

 でも我慢した。あれは燐香が知っているから食べてはいけない。特に、妖夢は友達で、魔理沙はお世話になった。だから駄目。殺して良いのはどうでも良い人間だけなのだから。

 

「率直に尋ねるけど、貴方、もしかして不死になったの? あの蓬莱人たちのように」

「ううん、なってないよ。私はちゃんと死ぬ――」

 

 そう言い切ることなく、藍が刀をルーミアに振り下ろした。容易く首を刎ねられるルーミア。首は笑いながら黒い血反吐を吐くと、地面に吸収されていく。頭部を失った胴体も藍により焼き尽くされた。

 そして、また近くの枯れた黒木から再生し、何事もなかったかのように座りなおす。

 

「――あはは、本当に容赦ないね。まぁこんな感じで死ぬけど。でもね、負の思念がある限り、私は何度でも再生するんだ。全部取り込んだから」

「じゃあ聞き方を変えましょうか。どうしたら、貴方を殺せるの? 私は貴方――貴方達を完全に殺しきりたいのだけど」

 

 流石のルーミアも目をちょっと丸くする。

 

「凄くストレートだねー」

「回りくどくしても、貴方には通じないでしょうから」

 

 そう言うが、紫も本当の答えが返ってくるとは思っていないだろう。だが、何かしらのヒントにはなるかもしれない。だから、こうやって軽口を敢えて叩いているのだ。

 

「あのね。幻想郷に残留する全ての負の思念や感情が解消されれば、私はサクッと消えるよ。そして、この黒塗れの世界も元に戻ると思うなー」

「……全て?」

 

 紫が怪訝な表情を浮かべる。

 

「そう。私たちは恨み、殺意、嫉み、妬みといった負の感情の集まり、集合体になったんだ。だから、世界中、全ての人間たちが善人になれば、消えてなくなるよ」

「…………」

「信じられないのかなー? ハッキリ言うけど、皆が私にしていることは、川に小石をなげつけているようなもの。波紋は起きても何も変わらない。たまに岩をなげいれてくるからビックリするけどね。そこまですれば塞き止められちゃうし。でも、雨は降り続けるから、私は消えるどころか更に力を増していくんだよね」

「……そんな馬鹿な」

「本当だよ。だって気付いているんでしょ? 私の力が最初よりも上がっている事に。それは当たり前。幻想郷の人間が、困窮し始めて負の感情を滾らせているから。それにこの黒化したナニか。凄い苦しそうな顔でしょ? こうしてやると、常に負の思念を生み出していてくれるんだ」

 

 負の感情の生産拠点。それでいて、食べたら美味しい。霊夢たちが寿命で死んだら、即座に人里と残りの集落を黒化してやるつもりだ。残しているのは、人里への食糧供給拠点として必要と判断したから。これは、新しい仲間からのアドバイスである。そっちの方が長持すると。

 

「止めろといえば、止めてくれるのかしら」

「それは無理かなー」

「こんなことが続けば、龍の怒りを必ず買うわ。そうなれば、貴方も私たちも破滅する。それは、望んでいないはず。出来る限りの対価は支払うから、やめてくれないかしら」

 

 紫が頭を深々と下げてきた。目を見開いた後、唇を噛み締める藍。そして、同じく頭を下げてくる。もう時間がないと思っているのだろう。だが、そうではないのだ。時間はいくらでもある。

 

「それなら心配しないでいいよ。この世界は、私に都合良く回るんだ。何度まわしても、必ず“00”に止まるルーレットみたいに」

「悪いけど、意味が分からないわ」

「裏ボスの龍は黒くなっちゃったから、もう何も見えないよ。でもちゃんと生きてるから安心してね」

「何を――」

 

 動揺する紫。こんな顔は初めてみる。

 

「あはは。世界を黒く塗る前に器を壊されたら嫌だからね。先手を打って黒くしちゃった。紫たちが私に必死に攻撃を仕掛けているときにね」

「そんな馬鹿なことがッ!!」

「信じないなら別にいいよ。私はどうでもいいし。聞かれたから答えただけ」

 

 紫は猜疑心の塊のような目で、こちらを睨んだ後、音も無く立ち上がる。

 

「貴方だけに都合のいい世界なんて、ふざけるんじゃないわ。私たちは、道化じゃないのよ」

「ねぇ、饅頭は好き? 私は好きだなー。あれ、甘くて柔らかくて」

「…………」

「でね、饅頭が百個あったとして。その中に毒饅頭が一つ入ってる。99人は美味しい思いができるけど、後の一人は地獄を見る」

「それが何か?」

「ここはそういう地獄なんだ。どう足掻こうと無駄。他の世界では私は呆気なく撃墜されてそれなりに平和。でも、この世界では私が選ばれた。だから、全部真っ黒にすることにした」

 

 ルーミアは立ち上がると、ニヤリと笑う。目と口からは黒い液体が際限なく溢れてくる。

 

「私は燐香と一緒に、世界を黒く塗りつぶすよ。全部黒くしちゃえば、燐香も喜ぶと思うんだ。あ、でも心配しないで。霊夢たちは寿命が来るまで待ってあげるから。ちゃんと赤い彼岸花で囲ってあげてるでしょ? 霊夢たちが死んだら、人里と神社をつぶすから」

「――お前は!!」

「じゃあ、頑張ってね。時間はまだまだいっぱいあるよ。結果は絶対に変わらないけど。ここは、そういう世界だから」

 

 ルーミアは手を振ると、立ち去ろうとする。が、巨大なスキマが展開し、ルーミアの全身を飲み込もうとする。

 ――が。スキマからはもぞもぞと動く黒いナニカが大量に顕れる。紫が叫びながら、スキマを閉じる。

 

「――ッッ!? な、何よ、何なのこれはッ!!」

 

 予定外の出来事に紫は弱いらしい。だから、ちょっと驚かせてやった。八雲紫のスキマには、すでに黒を大量に侵入させている。巣食っている。

 

「あはは。スキマを開けたら、直ぐに閉めないと駄目だよ。戸締りは大事。それに、夏は蚊がいっぱいいるから」

 

 移動するのに紫はスキマを多用する。しかもあけっぱなしで。だからその隙を衝いて侵入させただけ。この世界で、一番厄介なのは、紫と幽々子。幽々子は、一度撃退してからはあまり関わらなくなった。冥界は黒い彼岸花で覆われても、それ以上に影響はなかったからだろう。妖夢にも手を出していない。

 そして、紫も今回のでスキマを使いにくくなったはずだ。こちらに手をだすより、内部に巣食ってしまった黒をなんとかしなければならない。その恐れが更に黒を増やしていくのだが。

 

「それじゃあね。ばいばい」

 

 ルーミアは、今度こそ手を振ってその場を立ち去った。

 

 

 

 

「アンタさー。本当に趣味悪いわよね。あそこまで言わなくてもいいんじゃないの。あのスキマ妖怪、最後泣きそうだったわよ」

「本当にしつこいからね。あ、これ食べる?」

「そんなモノいらないわよ。私はこれがあるから」

 

 比那名居天子は黒い桃を食べる。ひまつぶしに良いからと、なぜか率先してルーミアに協力している変な奴だ。天界を黒くしてくれと言われたので、やってやったら凄い喜んでいた。黒い桃がお気に入りらしい。色々なアドバイスをしてくれる。ためになったりならなかったりと、滅茶苦茶な天人崩れ。面白いので問題はない。

 

「妬ましい……。私より強い嫉妬パワーを持つお前が死ぬ程妬ましいわ」

「じゃあ嫉妬パワーあげる」

「更に私を見下して施すなんて。ああ、殺したいほど妬ましい。私じゃ殺せないけど。口惜しや」

「あ、いつでも裏切っていいからねー」

「……妬ましい」

 

 座り込んでいじけているのは水橋パルスィ。地底に黒い彼岸花をばら撒いたときに、いつの間にかついてきていた。音もなく近寄ってくるので、逆に脅かしてやったら悲鳴をあげていた。リアクションが面白い。

 

「それで、これからどうするの? また人間虐めて遊ぶの?」

「うーん、少し飽きちゃったな。だから、気分転換に博麗大結界を侵食してるんだけど」

「凄いじゃない。どうやってるの? 私でもできるかしら」

 

 暇つぶしに神社を潰しに行って、霊夢と萃香にボコボコにやられたらしい。それでも反省せず、ルーミアに同行している。どうしても神社を潰したいらしい。その後は守矢神社だとか。ありとあらゆる神社を潰すのが夢だとか。理由は特になし。

 

「こう、えいって」

「あのね。それじゃ全然意味が分からないわ」

「妬ましいわ。その純粋さで悪を働けるその精神が妬ましい。死ねばいいのに」

 

 ルーミアは面白い連中だと声をあげて笑った。

 燐香、フランドール、妖夢とはもう遊んでいない。でも新しい友達は増えた。燐香がいれば、もっと面白くなる。今も一緒のはずだけど、少し寂しい。

 だから、世界を黒くする。そうすれば、また彼女が現れるかもしれない。そんな予感がする。なぜならば、この世界はルーミアに都合の良い世界だから。いずれ終わる世界だとしても、それまで楽しければ良いのである。だから、好き勝手にやるだけだ。

 

「結界に小さな穴を開けて、そこから瘴気を逆流させるんだ。外は、私たち妖怪を否定する世界。真っ黒な世界になっても、そう言っていられるかなぁ」

 

 ルーミアは笑う。メディスン・メランコリー、黒谷ヤマメには協力をお願いしている。毒と病気を混ぜ合わせた、強化した『黒』を外にたくさんばら撒いてやろう。苦しみは負の感情を生み出す。それが更に強まればどうなるだろうか。実に楽しみである。

 いずれ、博麗大結界など必要なくなりそうだ。

 

「黒だけって、寂しいけど。でも、ちょっとだけある色が逆に新鮮に感じるわよね。これが芸術ってやつかしら」

「……落ち着く。ああ、嫉妬パワーが消えていくわ。世界が妬ましい」

「アンタ、いつもそれよね。馬鹿なのかしら」

「うるさいわね。馬鹿天人崩れ」

「そうだけど、それが何か?」

「……口惜しいわ。その動じなさが腹立たしい」

「そうなのかー」

 

 ルーミアは、磔けられた聖者のポーズを取ってみた。天子とパルスィは、何をやっているんだという顔。だが、どこかで、誰かが『ようやく見れた』と、満足気な表情を浮かべてくれた気がした。

 

 

 一つ、とても残念なのは、それを隣で見れなかったことだった。




ルーミアエンド終了。
フランドールエンドロック解除。




なんとなく後書きをADV風にしてみました。
特に意味はないです。
0時に次を投稿します。

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