「……あれ」
また綺麗に意識が飛んでいた。八雲紫が幽香の部屋に入ってから一体どれくらい経ったのだろう。もう時間の感覚が分からない。ぼんやりと時計を見れば、時刻は11時。まもなくお昼だ。
私はふらふらと立ち上がり、幽香の部屋を開ける。部屋の中は酷い有様だった。なんだか嵐の後のよう。壁に大きな穴は開いてるし、窓ガラスはバラバラに割れてるし、花瓶やら机やらが見るも無残に粉砕されている。部屋の中で猪か熊でも暴れたのだろうか。よく分からない。隙間風がビュービュー吹き込んでいる。
被害が特に顕著なのはベッドだろうか。ベッドは中央部から真っ二つ。ここに誰かが寝ていれば、上半身と下半身は見事なまでに分かたれたことだろう。でも、血痕はあるけど、臓物や肉片はない。ということはまだどこかで生きているのだろう。
私は箒とちりとりを玄関から持ってきて、綺麗に掃除を行なうことにした。窓ガラスとベッドを新調したいところだが、そんな時間はない。汚れてしまったシーツを外し、丸めて洗濯籠に突っ込んでおく。
「お母様は行方不明と。なら、今日は外でお昼を食べようかな。いい天気だし」
なんとなくそう思った。やることを終えた私は、幽香の部屋を後にしようとする。
と、なんだか肌がゴワゴワして気持ちが悪いことに気がついた。半壊状態の鏡を見れば、血塗れの自分の姿が目に入る。
ほぼ半裸状態だった。私は怪我を負っていないので、何かの返り血なのかもしれない。どうでもいいことである。意識がないうちに、適当な動物や妖怪でもぶち殺したのかもしれないし。
そんなことよりも、少し気になる事がある。
「あれれ。……私、大きくなってる」
今気がついたが、私はなぜか成長していた。良く分からないけど、幽香の娘から双子の妹ぐらいまでは成長した感じに。髪の色は赤黒く変色している。私は色鮮やかな赤が好きだったのだが、ちょっと残念だ。まぁ、もうどうでもいいことだけども。妖怪の成長が人間と同じとは限らない。植物の開花みたいに、こうやって一気に変化するのかもしれないし。
私は風呂場に向かい、血痕を綺麗に洗い流した後、幽香の服を拝借することにした。サイズはちょっとゆったりめだけど、文句は言えない。それに、なんだか風見幽香になった感じがして気分が良い。この姿なら、どんな理不尽にも立ち向かえる気がするではないか。
――実際には、そんなことはありえないのだけれど。
「持っていくのは、パンだけでいいかな」
私はパンを手に取り、出かけようと玄関から一歩足を踏み出す。なんだか後ろ髪を引かれる気分になる。何かやり残している気がする。
もう一度自室に戻り、やり残したことについて考える。そうだ。手紙を書かなくては。お誘いには招待状が必要不可欠。ついでに、お母様あてに書置きも必要だろう。分かりやすく一言だけで良い。シンプルイズベスト。
丁寧に最後の言葉を書き終えた後、ぺらぺらの紙を幽香の部屋にもっていき、壊れたベッドの上にわざとらしくおいておく。重石代わりに、紫のバラの人からもらった携帯カイロを置いておく。とても役に立ったし、大事な宝物だけど、もう私には必要がない。
つたえるべきはただ一つ。『さようなら』。
◆
「それにしても、紅いなぁ。紅霧異変も、こんな感じだったのかも」
まだ昼過ぎだというのに、世界は赤みを帯びている。山は色彩豊かな秋色。平野部は、それとは異なる艶かしい真紅の色。なるほど、確かに彼岸花がたくさん咲いている。所々濃い赤があるのは、人間の集落だろうか。無意識のこととはいえ、中々愉快なものである。見覚えのある蕾が気侭に飛び回り、何か妖力みたいなものをばら撒いている。塗り絵みたいで見ていて退屈しない。
「――ッ」
ドクンと一度だけ、鼓動が強く脈打った。どこかで力が暴発したようだ。私たちのうちの誰かが、勝手に復讐を成し遂げたらしい。身体から黒い靄が消失していく。本当に勝手で気侭な連中だ。でも、その負の力があるから私は存在できているわけで。表裏一体、お互いに切っても切り離せぬ関係だ。ならばこちらの都合も少しは考えて欲しいというものだ。
「さてと」
パンを食べ終えてしまった。一枚でお腹一杯だ。やはり力が漲っている。
私は小さく溜息を吐いた後、お気に入りの場所に向かう事にした。きっと彼女はそこにいる。そして、最初に誘うべきも彼女だ。なぜなら、私の最初の友達だから。
ルーミアお気に入りの場所、通称『生贄の祭壇』に到着する。やっぱりルーミアはそこにいた。私の咲かせた彼岸花を座布団代わりにしながら、焼いた骨付き肉をご機嫌に頬張っている。
「こんにちは」
「こんにちはー」
「ここにいてくれて、助かりました。家、知りませんから」
ルーミアは結局家を教えてくれなかった。もしかしたら、本当に家はないのかもしれない。暗闇を恐れないルーミアには、作られた小さな家の中は我慢できないのかもしれない。
「だからずっとここで待ってたんだよ。ここにいれば、会えるかなって思ってた」
「それはどうしてです?」
「なんとなくかなー。燐香は、絶対ここに来ると思った」
ルーミアは笑うと、私に肉を差し出してきた。私はひとまず遠慮しておく。
「あれ? もう食べてもいいんでしょ?」
「どうでしょうね。分かりません」
「だってそんなに大きくなったんだし。人間くらい、一回は食べた方がいいよ。病み付きになるかも」
そうは言っても、やっぱり食べたくない。
「私、風見幽香に見えますか?」
「凄く良く似てるよ。はは、当たり前の話だった」
「それはそうです。だって、私は一応娘ですから」
「じゃあ大人になったんだね。なんだか凄く落ち着いてるし」
「別に反抗期だったわけじゃないですよ」
私は彼岸花の上にごろんと転がる。というか、ほぼ埋め尽くされてるので、避けようがないのである。
「さっきね、ここの常連の人間が慌てふためきながら生贄を捧げにきたんだよ。それがこのお肉になったの。いつもより乱暴な殺し方だったね」
子供のなれの果てが、花の下にあった。
「そうなんですか。全然見当外れなのに。まぁ、何を信じるのかは勝手ですけど」
「うん、本当に滑稽で面白いよね。集落が赤い彼岸花で埋めつくされたんだって。それでね、神様の祟りじゃないかって思ったらしいよ」
「へーそうなんですか」
「いきなり花が黒くなったと思ったら、住んでいる家の中まで侵入してきたとか、花に押しつぶされたとか泣きながら喚いてた」
「あー、もしかしたら」
「覚えがあるの?」
「さっき、何かが暴発した感覚があったので。多分そのせいかと」
消え去ったのは前に捧げられた子供のものだったのだろうか。もう分からない。全てがぐちゃぐちゃに混ざり合っているから。
私は人差し指を立てる。すっと、なれの果てから黒い瘴気が立ち上る。そして私たちに合流する。魂はすでにあちらへ行ったらしい。後で爆発したとき、どれだけの報いが与えられることやら。実に楽しみなことである。見れないだろうけど。
「そうなんだ。ま、どうでもいいや」
「それで、集落に死人は出たんですか?」
「知らないし全く興味ないかなー」
ルーミアは骨をポイッと投げ捨てた。骨はいつもの墓穴に吸い込まれるように入っていった。
「人間の集落に手を出しちゃったから、もう私は処罰対象でしょうかね」
八雲紫が出張ってきたら、私の命はここでお終いだ。それではフランとの約束も果たせない。だから、もう少し猶予時間が欲しい。
「まだ異変の範疇じゃないのかなー。この生贄だって、直接手を下したのは人間だしね。今はお花がたくさん咲いて、大変だーって感じだよ。セーフセーフ」
ルーミアが呑気に笑う。私も表情を崩す。
「ならいいんですけど」
「で、やるんでしょ? 風見燐香の最初で最後の異変」
「付き合ってくれますか?」
「もちろんだよ。最後の最後まで一緒にいてあげる。だって、心の友だからね」
ルーミアが満面の笑みを浮かべた。この笑顔にご用心。私は何度も騙されてしまったから。
でも嬉しかったので、手を差し出すと、ルーミアも握り返してくる。私の手は肉の汚れでべちゃべちゃになってしまった。やっぱり油断できない友人である。
「では、心の友に一つお願いが」
「……えー」
嫌そうな顔をする。人から頼まれごとをされるのが大嫌い。束縛が嫌いなのがルーミアである。ただし、興味をもったことを除く。自分勝手なのが妖怪だから問題なし。
「この招待状を、妖夢とフランに届けて下さい。私はここでこそこそ隠れているので」
「えー」
露骨に面倒くさそうな顔をするルーミア。
「心の友なら、それぐらい良いじゃないですか。ケチくさい」
「自分でいけばいいんじゃないかな。私、食べたばっかりで動きたくないし」
妖怪のくせに怠惰。いや、妖怪だから怠惰。
「ほら、この姿は目立ちすぎますから」
私の今の姿は、完全に風見幽香2Pバージョン。髪が緑から赤黒に変化しているだけ。あからさまに怪しい。
「じゃあ仕方ないなー。適当に渡してくる」
「宜しくお願いします」
ルーミアが立ち上がり、私から招待状を受け取る。異変への招待状だ。ふらふらと浮き上がると、そのまま上空へと飛び立って行った。
フランは多分来てくれると思う。約束しているから。でも妖夢は無理かもしれない。彼女は真面目だから。でも、できたら来てくれると嬉しいなぁと思う。四人で派手に遊べたら、きっと素敵な思い出になる。
◆
特にやることもないので、彼岸花に埋もれながら寝転んでいると、誰かの気配を感じた。どうやらルーミアとは違うようだ。彼女よりも、明らかに身体が大きい。踏みしめる彼岸花の音でそれくらいは分かる。
私は欠伸をするフリをしながら、ムクリと起き上がった。
「どなたです? 新しい生贄なら、今日は間に合ってます」
「通りすがりの死神さ。残念ながら手ぶらだよ。ま、この騒ぎの下手人に文句の一つくらい言いたい気分は分かるだろ?」
軽口を叩いてくる赤髪の死神。私もそれに合わせておどけてみせる。
「さっぱり分かりません」
「ははは、まぁそりゃそうか。力が勝手に暴走してのことだろうし。今も派手に塗ってるしねぇ」
「世界が少しにぎやかになりましたか?」
「まぁそうなのかもなぁ。いや、賑やかというか、混沌というのかね。ところで、その姿はどうしたんだい。つい最近まで童妖怪だったはずなのに」
試すような口調の小町。知っているが、あえて聞いているような。そんな感じ。
「ああ、子供の成長は早いんですよ」
「あはは、そうかいそうかい。そりゃあいいや。うんうん、アンタの母親と瓜二つだ」
死神は鎌を一振りすると、周囲に咲いていた彼岸花を一挙に刈り取った。私との間に開けた空間ができる。死神はそこにどすんと座り込む。
「あたいは小野塚小町。そしてお前は風見燐香」
「はい」
「なに、話は至極簡単なことさ。……私の役目とはちょっと違うが、今ならお前を苦しませずに消してやれる。輪廻には乗れないが、これ以上の苦痛を味わうこともない。私の仕事も減って一石二鳥というわけさ。で、どうだい?」
「……どうだいと笑顔で言われても。まだ消えるにはちょっと早いので、遠慮しておきます」
「どうしても?」
「はい。私には約束がありますので」
「あたいの仕事が後で沢山増えるのに? というか、きっと面倒な事態になるのに?」
遠慮なく迫ってくる小野塚小町。仕事を減らしたくて仕方が無いのだろう。
「そこまでは知らないです」
私が一蹴すると、小野塚小町はあーあと溜息を吐いて肩を落す。
「まぁそうなるよなぁ。あーあ。あのとき、四季様が猶予期間なんて与えるからあたいの仕事が増えるんだよ。全く」
「あのときって?」
「覚えてないか。60年前のあの日のことさ。ったく、いつも偉そうなのに子供には甘いんだから。あたいには厳しいくせに。平等にしてほしいもんだよ」
「誰が甘いですって?」
「げえっ! 四季様!?」
仰天している小町の頭に、勢いのついた悔悟棒の一撃が炸裂する。森の中に、鈍くて重い音が響いた。ばたんきゅーと倒れる小野塚小町。これはいわゆる会心の一撃だ。
さりげなく帽子を直し、哀れな死神を見下ろす少女。四季映姫・ヤマザナドゥが現れた。
「まったく、目を離すと直ぐに仕事をさぼるんだから。それでいて減らず口ばかり叩く。救いようがないとはこのことかしらね」
いきなり辛口の映姫。小町はすでに涙目である。
「そ、そんなぁ。私は仕事を減らすために最大限の努力をしようと」
「そんな努力をする必要はありません。貴方は私が与えた仕事を果たせば良いのです」
「で、でも。彼岸花に憑いた霊がそこら中にうようよしてますよ。これ以上放っておいたら」
「それについては、他の死神に応援を頼みました」
「そ、そうなんですか?」
「何も考えていないはずがないでしょう」
映姫と小町の会話が続いている。私はなんだか疲れてきたので、横になろうとすると、映姫に首をつかまれた。
「お待ちなさい」
「え」
「少し、話をしましょうか」
「あはは。私は遠慮しておきます。閻魔様はお忙しいでしょうから」
なんだか話が長くなりそうなので、ここはお断りしておく。
「拒否した場合、時間がくるまで説教になりますが」
「ぜひ話をしましょう。できれば手短に」
私は襟を正すフリをして、映姫の目を見つめる。
「今年は、60年に一度訪れる生まれ変わりの年。そして、それに引き摺られて“貴方たち”の力が暴走している。それは、分かっていますね?」
「はい」
「そして、もう止めることはできない」
「はい」
「この異変が終わったとき、どうなるかも、“貴方”は理解している」
「はい」
「私が貴方を裁くことがないことも」
「それも知っています。私には魂がない」
「ええ、そうですね。それ故、貴方は裁かれることも輪廻の輪に入ることもない」
「さすがは閻魔様。全てお見通しなんですね」
私は軽口を叩いた。八雲紫と同じくらい、四季映姫・ヤマザナドゥも相性が悪いだろう。彼女の一振りで私は霧散するに違いない。そういう存在だから仕方がない。その時は大人しく散っていくことにしよう。
その映姫は両目を閉じてしばらく考えた後、口を開いた。
「貴方は既に覚悟を決めたのかもしれない。けれど、それが誰かを深く傷つけていることに気がついていない。そう、貴方は、諦めるのが少し早すぎる。貴方がすべきは、物事を冷静に見て、自分を見つめなおし、良く考える事なのです」
「既に暴走してしまっている私に、難しいことを言いますね。見つめなおしたからなんだっていうんです?」
「努力はいくらしても罰はあたりませんよ。むしろ望ましいこと。こんなときだからこそ善行を積むべきなのです」
「あはは。天国に行ける訳でもないのに馬鹿馬鹿しい。それに、一体誰を傷つけると言うんですか?」
「それは自分で考えなさい。私は貴方の親でも先生でもないのです。考える努力を放棄した者を助けるつもりなどありませんよ」
冷淡な映姫の言葉。白黒はっきりつける閻魔様だけのことはある。慈悲と無慈悲を平等に兼ね備えた存在なのだろう。
「…………」
「その不満そうな今の貴方の顔、風見幽香に本当にそっくりですよ。どんな経緯があろうとも、やはり親子なのでしょうね」
「そんなことを言われても、別に嬉しくないです」
映姫は少し悩んだ様子を見せた後、口を開いた。
「……今日に至るまで、貴方は色々な経験を積み、学んできたはず。それは決して無駄ではありません。最後の最後、それを良く思い出しなさい」
四季映姫・ヤマザナドゥはそう言い切ると、返事を待たずに踵を返した。結局何が言いたかったのか、私には分からない。
「……四季様、本当に何もしないんですか? 一応やる覚悟を決めてたんですけど」
「それは貴方の仕事ではない。私は今回の後始末の段取りを組まなければいけません。貴方は役目を果たすように」
「後始末?」
「霊に当たり前のように現世をうろつかれては困るのです。滞ることなくあちらへ向かわせなければなりません。当たり前のことです」
「ですから、その元凶を放っておいていいんですか? いつ爆発するか分かりませんよ」
「だから貴方を監視役につけているのですよ」
「まぁそうなんですけど。ずっと見張ってるのは大変というかなんというか。いつもみたいに、さっさと白黒つけてしまえばいいじゃないですか」
「まだ何者でもないものには白黒などつけられないわ」
「は、はぁ。んー? でも既に白黒分かれてますよね。それは一体どういう意味で」
「答えばかり求めてないで少しは自分で考えなさい。とにかく、貴方は今までサボっていたのだから、その分働くように。でなければ、貴方が地獄に落ちますよ」
四季映姫・ヤマザナドゥはそう言い残して飛んでいく。それに続いて小野塚小町も立ち上がる。
「やれやれ。四季様は他人事だと思って簡単に言うなぁ。しかもまたお小言だ。ま、アンタも精々後悔のないようにしなよ。それが一番だろうさ」
「ありがとうございます。できれば一回くらい渡ってみたかったなぁ。三途の川」
「はは、気が向いたら見に来るといいさ。乗せてはやれないが、自慢の船を披露してやるぐらいはできる。……そのついでに、望むなら介錯もしてやる」
「じゃあ、辞世の句を用意したらお邪魔します。ただ、約束があるので、いけないとは思いますが」
「そいつは大変だ。約束を破ると舌を引っこ抜かれちまう」
小町が舌を出しておどけてみせる。
「それにしても、泣く子も黙る死神なのに、なんだか緊張感がないですよね」
「やるべきときはやる、やらないときはやらない。仕事っていうのはオンとオフが大事ってね。長続きと長生きの秘訣さ。四季様は常にオンだけど。あの人は仕事が趣味なのさ」
「あはは。もっと早く聞いていれば、何かに活かせたかもしれませんね」
思わず苦笑する。来世で活かすなどとお茶を濁すことは、もうできない。
「こんなこと言っちゃあ本当は駄目なんだが。……約束、果たせるといいな。どんな形で終わるにせよ、私たちの出番がないことを祈っておくよ」
小野塚小町はそういってヒラヒラと手を振ると、鎌を振り回しながら去って行った。
小町は映姫とは違い、笑いながらも私を観察するように常にこちらを見ていた。見かけの軽薄さは見せかけ、彼女は全く油断していなかった。
私が自我を失っていたら、多分あの鎌は容赦なく振るわれていたのだろう。そうならなかったのは、運が良かったのか。それとも。
「やっぱり見逃してくれたのかな。良く分からないけど」
いわゆる執行猶予というやつだろうか。だが、時間がくれば彼女は再び現れる。彼女たち、かもしれない。分からないけど。
時間切れによる破綻を彼女たちは絶対に許さない。私の自我が完全に乗っ取られた場合、恐らく未曾有の大惨事に発展するだろう。種はもう撒かれてしまった。私は防殻であると同時に起爆装置でもある。
つまり、私は誰かの手により壊されなければならない。恐らく、博麗霊夢がその役目を担うのであろうが。彼女がやらなければ八雲紫、それも駄目なら小野塚小町が最後に現れるのか。どうなるかはその時のお楽しみと言うやつだ。
今八雲紫が現れないのは最後の情けというやつか。もしくは霊夢に経験を積ませたいのか。いずれにせよ、彼女の気が変わるまえに、私はこの異変をスタートさせなければいけない。
――ああ、私には時間が足りない。私に、もっと時間を。
草属性は成長が早いから育てやすい。豆知識です。