「すごいですね」
「混ざりたいなら飛び入り参加するか?」
「いえ、遠慮しておきます」
「ま、寝起きには辛いかもな」
夜の空を埋め尽くすように、弾幕がこれでもかと飛び交っている。八意永琳、鈴仙・優曇華院・イナバのペアと、霊夢や妖夢や咲夜にアリスが激しくスペルの応酬をしている。アリスとルーミアは先ほどから離脱しようとしているのだが、永琳が厳しく牽制してそれを許さない。さすがは月の賢者、全く隙がない。
「魔理沙さんは行って来ても良いですよ。私はここから応援していますから」
「そういう訳にはいかないぜ。相方を置いていくほど薄情じゃないのさ」
「それは、その、ありがとうございます」
「はは、なに恥ずかしがってんだよ。今回は少し残念だったけど、次があるさ」
「次?」
「ああ。私は懲りないからな。今度異変が起きたら、また一緒に挑戦しようぜ。今回は一番槍、次は一番に解決を目指そうぜ!」
魔理沙がグーサインを出してきた。私は暫く考えた後、同じポーズを返す。
カシャっと眩しい光。先ほどからはたては上じゃなく、こちらを撮りまくっている。
「あの。上を撮った方が良いんじゃないですか?」
「あれはもう撮ったし。記事にする分は確保したからいいの」
「そうなんですか」
「そうよ。そ、それに私が何をしようと勝手でしょ!」
「そ、そうですね」
はたてがツンとそっぽを向いた。古に伝わるツンデレというやつだ。
「お、いよいよラストスペルだな。決着がつくぞ!」
「本当ですか?」
魔理沙の声につられて、私は夜空を見上げる。なるほど、確かに霊夢がとどめのスペルを宣言している。いや、妖夢か? 咲夜にアリスも同時に宣言しているような。なんだか、ぼやけて見える。
「貴方には違う光景が見えるのかしら」
「え?」
輝夜の小さな呟きに、私は声をあげる。
「道は沢山あるけれど、結末はこうして一つに収束する。物語はめでたしめでたしで終わるのよ」
「は、はぁ」
「イレギュラーだからって、気にする事はないわ。むしろ異端であることを誇りなさい。貴方たちだけが、今宵の真実の目撃者となれるのだから。――そして、次はきっと貴方が主役になる」
そう言うと、輝夜はふわりと浮き上がって永琳たちのもとへと飛び立っていく。魔理沙は反応しない。いや、上にいる面々も動かない。時が止まっているようだ。これは、蓬莱山輝夜の能力なのだろうか。分からない。彼女の能力は、抽象的過ぎて理解するのが難しい。
輝夜は七色に輝く、蓬莱の玉の枝をどこからか取り出すと、それを掲げて眩い光を放つ。
「紛い物の夜など私には不要。何人だろうと、私の能力から逃れることはできない。かくして喜劇の夜は終わり、誰もが待ち望む平穏の朝が訪れる。私は未来永劫、それを見続けることでしょう」
輝夜の身体から、強烈な光が迸る。私は目を開けている事ができない。これは、眩しいどころじゃない。神々しいとでも言えば良いのか。
「――永夜返し」
◆
異変は終わり、朝日が顔を出し始めた。なんだか良く分からないけど、兎たちが料理やら酒を庭に運び始めている。どうやら宴会が始まるらしい。
魔理沙はすでに運ばれていく中から酒を奪い取り、一杯やりはじめている。
「ほら燐香、お前も飲めよ! 一番槍なんだから、酒も一番に飲む権利があるぜ!」
「あ、はい。ありがとうございます」
杯をうちつけて、一気に飲み干す。流石は永遠亭、口当たり滑らかなお酒である。
「ちょっとアンタら! なに自分たちだけ祝杯あげてんのよ。大体、今までなにしてたわけ?」
「何って、そりゃ色々さ。まぁ色々あって捕虜になってたのさ。凄いだろう」
「はぁ? 捕虜って何よ」
「捕虜は捕虜だ」
何故か偉そうな魔理沙がけけけと笑うと、霊夢は意味が分からないと顔を顰めている。その後ろでは、八雲紫、西行寺幽々子、レミリア・スカーレットがなんだか口げんかを繰り広げているし。
「いい加減になさい。貴方達、本当に頭がおかしくなったんじゃないの? 貴方達はボコボコのケチョンケチョンに撃墜されたじゃない。その後、ウチの霊夢が華麗に黒幕を打ち倒したでしょう。素直に負けを認めなさい!」
「その言葉、熨斗をつけてお返しするわ、紫。勝ち誇った瞬間、無様に撃墜されたからってごまかすのは良くないわ。大体、妖夢の剣さばきはその目にしっかり焼きつけたでしょう。――ああ、素晴らしかったわよ妖夢。勝利の栄光は貴方にもたらされたの。良くやったわね」
「は、はい。ありがとうございます! 私も本当に嬉しいです!」
幽々子が妖夢の頭を撫でる。妖夢は天にも昇らんほどの満面の笑みだ。
「馬鹿を言うなよ亡霊。死んで相当経つみたいだから、頭が腐ってきてるんじゃないか? ほら、ちゃんと思い出してみろ。咲夜が時を止めて、全員サクッとやっつけたじゃないか。……なんだか違和感を感じるが、私が言うのだから間違いない。世迷いごともほどほどにしないと、このレミリアが許さないよ?」
「お、お嬢様。太陽が出ていますから!」
慌てて日傘を翳す咲夜。レミリアの羽からは煙があがっていた。
「おっと。流石は咲夜、気が利くね。お前は私の誇りだよ」
「ぷっ。主従そろって地べたを舐めたのに? 確かに埃はついているかもしれないわね」
幽々子が袖で口元を抑えて挑発的に笑う。
「ああ? 冗談はその変なぐるぐるマークだけにしておけよ?」
「小娘にはこのセンスが分からないのね。千年経ったらまたお話ししましょうね」
「あーうるさいうるさい! 異変は私の霊夢とこの紫ちゃんが見事に解決したの! 有象無象の三下どもはすっこんでなさい!」
そんな感じで弾幕勝負第二ラウンドが始まりそうな気配。なんだか良く分からないけど、放っておこう。巻き込まれたらタダじゃすまない。
……ん? 何か大事なことを忘れているような気がする。そもそも、なんで私は永遠亭に突入してきたんだっけ。誰かに追われていたような。
「呑気にお酒なんて飲んでるよ。結構勇気あるよねー」
「……おはよう。さっきの閃光弾、本当に目に染みたわ。中々やるじゃない燐香。思わず感心したけど、その格好は感心できないのよね」
聞き覚えのある声が耳に入ってくる。私は視線を逸らしながら、花梨人形を手に取る。服はアリスの変装のままだし。このまますっとぼけて、逃げてしまおう。後で追及されても知らぬ存ぜぬで押し通すのだ。そう、私はすっとぼけの達人!
「あ、あはは。なんのことやら。私は燐香なんて間抜けな人じゃありませんよ。私は、アリス・マーガトロイド! 何処にだしても恥ずかしくない完璧な人形遣いです!」
「その格好だと、何処にだしても恥ずかしいと思うけどなー。しかも本人の前だよ」
ルーミアのクールツッコミ。敢えてスルー。スカシという笑いの技術の一つ。普段の私は絶対に使わない。何でもくらいつくのが芸人である。でも今日は完璧なアリスだから仕方ない。
「へぇ。その小生意気な表情も私の真似? そんな顔しているように見えるのね」
「に、似てないかしら?」
「腹立たしい顔をしているわね。ついでにその偽の金髪と言葉遣いもムカつくわ。思わず抓りたくなるくらい」
アリスの目がやっぱり鋭い。ルーミアが横から回り込もうとしている。今すぐ退却しないとまずい。魔理沙はなんだか複雑な表情だ。助けて! いや、他人任せはよくない。ここは私の逃げ足の速さの見せどころ!
「あ! そういえば大事なことを忘れてたわ。帰って魔術の研究をしなきゃ。人形のメンテナンスもしなくちゃいけないし。それでは皆さん、ごきげんよう!」
「待ちなさいっ! この悪戯娘!」
「待てー」
「待てといわれて待つ馬鹿はいません!」
彼岸花煙幕タイプを生じさせ、ルーミアのとびつきを躱す。さらにアリスが上海と蓬莱を繰り出してくる。それも横転して回避! 私の回避能力は進化し続けているのだ!
踵を返してとりあえず迷いの竹林に逃げ込もうとしたら、柔らかい壁にぶつかってしまった。私は尻餅をつく。
「な、なに! 邪魔な柔らかい壁が! ボヨーンって!」
「久しぶりね。まだ生きてたの?」
幽香が笑っていた。でも私には口裂け女にしか見えないわけで。
「げ、げえっ! か、か、風見幽香!! なんでお前がここに!!」
「お前?」
「い、いえ。お前じゃなくて悪魔――いえ、お母様。ぶべ!」
私は顔を凄まじい勢いで掴まれると、何か奇妙な液体を頭に塗された。そしてぐしゃぐしゃに掻き混ぜられる。ジュワーという爽快な音がする。何故か金髪が赤色に戻ってしまった。私の完璧な変装が解けてしまった。
「で、夜の散歩は楽しかったかしら」
「ひ、ひゃい」
「綺麗な花火と、汚い花火、お前はどちらになりたい?」
「わ、わひゃひは、ひゃい(貝)にひゃりたいでひゅ」
幽香は掴んでいる手を離すと、私のこめかみに右手と左手を当てる。そして、ぐりぐりと凄まじい勢いで圧迫しはじめた。これは、古の拷問術ウメボシである。
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああ!!」
「毎度毎度、面倒をかけさせるな、このクズが。お前の頭には何が詰ってるの? どうも働いてないみたいだから、少し刺激してやるわ」
「ぎ、ぎぶ! ギブギブ! 本当に死ぬし!!」
「妖怪はそう簡単に死なないわよ」
「死ぬわこのボケ!! 鬼! 悪魔ッ!」
「今の言葉遣い。プラス30秒」
「ぎゃああああああああああ!!」
みっちり三分間拷問された後、私はボロ雑巾のようにポイッとアリスにわたされた。ようやく一息つける。
「た、助かりました」
「本当にそう思うのかしら?」
「へ?」
私の頬を両手で挟みこむアリス。その目は、さっきと同じく怖い。やばい。やっぱり怒ってた。自分で言うのもなんだが、アリスの真似は完璧だと思ったのに。
「これから一時間お説教よ。貴方は宴会している場合じゃないものね」
「そ、そんなぁ」
「あはは。私が代わりに食べてあげる!」
「ルーミア、アリスの真似、似てませんでした?」
「外見はちょっと似てたよ。表情は似てるけど、雰囲気が決定的に違うし」
「ルーミア。余計なことを言うんじゃないの」
「あはは。私も怒られちゃった」
アリスのありがたいお説教を畳の上で喰らっている間、珍しいコンビが会話をしているのに気がつく。
風見幽香と霧雨魔理沙だ。二人は顔見知りだったっけか。説教を聞いているフリをして、そちらに聞き耳を立てる。
「なるほど、お前が霧雨魔理沙か。この馬鹿が色々とお世話になったみたいね」
「強引に連れ出して悪かった。ああ、燐香をあんまり怒るのは止めてやってくれ。私が強引に誘ったんだ」
「……花畑の罠の解除もお前がやったの?」
「罠? あー、あれくらいなら私でも避けれるぞ。前より数が減ってたし」
「……ということは、アイツか。お節介なのは相変わらずね」
「どういうことだ?」
「なんでもないわ。ただ、小憎らしい顔をしていると思っただけよ」
「へへ。そいつはありがとうよ」
なんだか良く分からない会話だった。
「ちょっと。聞いているの燐香」
「勿論聞いていますよ。私は同時に十人の言葉を聞き取る程度の能力を持っています」
「じゃあ、今私が何を言ったか教えて」
「えっと、あはは。お酒はほどほどにでしたっけ? 酒は飲んでも飲まれるなですよね」
「全然違う。あの魔法使いについていくのはやめろと言ったのよ。このお馬鹿!」
上海のげんこつ。手が小さいから痛くないけど、精神へのダメージが大きいのであんまり喰らいたくない。
「ま、お前が何を言おうと、次の異変も一緒に行動するって約束したからな。諦めてくれ、アリス先生」
「黙りなさい。幽香、貴方も監視を緩くしないで。こいつはどこからともなく侵入する鼠なのよ」
「生憎だけど、私は緩くした覚えは欠片もないわ。ただ、どこぞの誰かが破る手助けをしているのよ。それを止めるのは、中々難しいでしょうね」
「…………。とにかく、もう近づかないで。今日のことも全部聞いたわ。貴方、自分が何をしたか分かっているの?」
「ああ、分かってるさ。心配させる事態になったのは悪かったと思っている。本当にごめん」
「謝るくらいなら――」
「だけど、大体の事情は分かった。私が近づかない事が解決に繋がるとは思わない。だから、そこらへんは今度ゆっくり話したい。アリス・マーガトロイド、お互いの情報を交換しようぜ」
「…………」
なんだか難しい話に発展している。アリスと魔理沙が何か言いあってるし。というか、今がチャンス。私はこそこそと抜け出して、霊夢達のところへと脱出する。ルーミアもついてきた。さすがは心の友、私の行動はお見通しらしい。
「お疲れ様です、霊夢さん」
「お疲れじゃないわよ。アンタ、一体何考えてんの。全力で突っ込んで捕虜になってりゃ世話ないわ」
「あはは。速さ重視したら足元がお留守に」
「全く。妖夢じゃないんだから」
「ちょっと! なんで私の足元がお留守なんだ!」
「半人前だからよ。主も認めてたじゃない」
「う、うるさい! 聞いてよ燐香。こいつ、私に負けたのに負けを認めようとしないんだよ。巫女のくせに往生際が悪いというか!」
妖夢が泣きついてくる。酒が入っているようだ。泣き上戸なのか。
「そうなんですか?」
「私が負ける訳ないでしょ」
「まぁそうですよね」
「違う違う違う! 私が勝ったんだよ! 勝者はこの魂魄妖夢! 異変を解決したのは、私と幽々子様だ!」
「いいえ。勝ったのは私だと思うのだけど。難題を打ち破ったのも私じゃない」
「だからそれも私! どいつもこいつも!」
咲夜が冷静に突っ込むとまた妖夢が激昂する。霊夢が呆れながら口を挟む。
「さらにややこしくなるからやめときなさいよ。なんか、妙な感じもするし」
「それは、私たちの認識の差異のことかしら。確かにおかしな話よね。最後に奇妙な感覚も感じたわ」
「まぁ、異変は無事に解決したからどうでも良いんだけどさ」
霊夢がなげやりに呟いた後、団子をぱくつく。
「はぁ。ま、お嬢様は喜んでくれているし、私もそれでいいわ」
「ちょっと咲夜さん。貴方聞き分け良すぎでしょ! こいつに負けを認めさせないと、いつまでも図に乗り放題だよ! ね、燐香!」
「は、はぁ。そうかもしれませんけど。私は捕虜だったので発言権はありません」
「なんで捕虜になってるの! 脱走しなさいよ! それか腹を切れ! いや、私は腹切らないし!」
酔っている今日の妖夢はいつもよりボケ度が高い。ツッコミのキレも増している。大した奴である。
「ノリツッコミとは。この短時間でやるようになりましたね」
「酔っ払いの面倒はアンタに任せたわ。こいつ疲れるし」
今日の妖夢は絡み酒だった。私は妖夢をよしよしと撫でていると、輝夜がニコニコしながら近づいてくる。ござに座ると、空の杯を差し出してくる。私は頷き、お酒をそれに注ぐ。
「今日は本当に面白かったわ。貴方達、にぎやかで良いわね」
「生憎だけど、私は眠いわ。主にアンタたちのせいでね!」
「ええ。私も仕事が溜まってるのよね。掃除が待っているわ」
「難題を打ち破ったのは私ですよね? ね? ね?」
輝夜に絡んでいる妖夢。永琳のこめかみに青筋が立っているが見なかった事にしよう。
「うふふ、皆が勝者でいいと思うわよ。誰も間違っていない。私が言うんだから、間違いないわ」
「何よそれ。やっぱりアンタ、何かしてたって訳?」
霊夢が問うが、輝夜は胡散臭い笑みを浮かべる。カリスマタイプはこういう顔が得意なのだ。
「謎掛けよ。貴女にはちゃんと解けたかしら、博麗霊夢」
「……奇妙な感覚はしていたわ。アンタが何かしたんでしょうけど。終わりよければ全て良しなのは変わらないわ」
「それが正解! 正解した貴女には、私と結婚する権利をあげるけど。欲しい?」
「全くいらないわね」
「あら残念。フラれちゃった」
輝夜は笑いながら、つまみの筍の煮物を軽快に食べ始める。
「たまには、保護者の手から離れるのもいいものね。新鮮よ」
「八意永琳さんのことですか?」
「ええ。常に一緒であることに慣れ過ぎてしまった。だから、こういうやりとりはとても新鮮なの。もちろん、嫌いになったわけじゃないのよ?」
「アンタらのことなんか知らないわよ」
「じゃあ、知りなさい。私は姫だから、それなりに敬うと良いわ」
「それなりでいいんだ」
「ええ。それなりで」
『ははー』
私と妖夢が頭を下げると、褒美にお団子を貰った。妖夢はお酒が入っているのでノリが良い。
「うふふ。素直でいいわね。って、これだと私が保護者みたいじゃない。私も貴方達と歳相応に楽しみたいの」
「はぁ。もう好きにしなさいよ。とにかく、二度と騒ぎを起こすんじゃないわよ」
「気が向いたらそうするわね」
「燐香、アンタもよ!」
霊夢がギロっと私を睨んでくる。
「な、なんで私まで」
「いつか、何かやらかしそうだから先に釘を刺しておくの。悪い?」
「わ、分かりました」
とりあえず頷いておき、霊夢にお酒を注いであげた。なんと、霊夢も私に注いでくれた。そこそこ親しくなれたのだろうか。でも、この巫女は笑顔で私を退治するだろう。情け無用の博麗霊夢だからね。仕方ない。ルーミアが私の口に煮物を押し込んでこようとするので、何とか噛み砕く。背中に隠した手でこっそり謎肉を用意しようとしているが、霊夢が感づいたらしく素早く御札で叩き潰してしまった。油断も隙もない奴である。
そのうち魔理沙とアリスもやってきて、私の両隣に座る。この二人は相変わらず仲が悪いらしい。しかし私という潤滑油のおかげで宴会は更に賑やかに。
一方の保護者組は剣呑な感じで酒を酌み交わしている。八意永琳、八雲紫、西行寺幽々子、レミリア・スカーレット、風見幽香が円を組んで座っているし。なんか幻想郷頂上会議みたい。大体ろくな事を思いつかない連中なので、幽々子以外は全員封印した方がいいと思う。
「私もそう思うわ」
「私も」
そんなことを呟いたら、博麗霊夢が全面的に同意してきた。ついでに輝夜もだ。意外と愉快な姫様だった。
「アンタはやらかす方でしょうが」
「今回のは仕方なくなのよ。分かってくれるわよね、燐香」
「えっ」
キラーパスを私にふる輝夜。霊夢が睨んでくるので、やめてほしい。
「なにかやらかすなら、人質には私を選んでちょうだいね。そうすれば永琳は手を出せないわ」
「お、覚えておきます。でも、余計に酷い目に遭いそうな」
絶対酷い目に遭う。磔獄門間違いなし!
「だから、やるんじゃないって言ってるでしょうが!」
「博麗霊夢、燐香にあまり近づかないで。今日は一度倒れているみたいだから」
「黙りなさい、この親馬鹿魔法使いが! 大体アンタは甘やかしすぎなのよ! 少しは幽香の躾の仕方を見習いなさいよ。妖怪は打たれて強くなるのよ」
刀剣じゃないんだから、そういう誤解を招く言い方はやめてほしい。
「はぁ。何を言っているのかよく分からないわ」
「なんてことを言うんですか霊夢さんは。アリス、あんな悪魔を見習うなんてなんて止めて――」
霊夢に大いに異議ありと言おうとしたら、謎の果実が私の顔に炸裂する。ベチャッと飛び散る果実――いや果実の形をしたお菓子だった。私の顔はおかげでべとべと。ルーミアは嬉しそうにそれを摘んでいる。投げられてきた方向を見ると、幽香が素知らぬ顔をしている。でも顔がニヤリと歪んでいる。犯人は間違いなくこいつだ。この野郎と団子を投げつけたら、余裕で受け止められてしまった。その上クイックイッと指で挑発してきた。超ムカツク! でも素直に行くと酷い目にあうので、なかったことにした。
「ちょっと私の話を聞いてるの? それになんか魔女同士で企んでるみたいだけど、私に迷惑かけたらタダじゃすまさないわよ」
「へぇ。どうタダじゃおかないのかしら」
「分からないなら、今教えてやるわ」
いきなり喧嘩が始まりそうになってるし。展開がカオス過ぎる。というか妖夢が私の膝を枕に寝転がり始めた。寝るならあっちいけ!
「おい止めろよ霊夢。あー、酒が零れる! 暴れるなこの馬鹿!」
「うるさいわね。また注げばいいでしょ。どうせタダ酒なんだし」
「貴方、一日に二回も敗北を味わいたいの? 巫女の名が泣くからこれ以上傷をつけないほうが良いわよ」
「それはこっちのセリフよ、この七色馬鹿!」
「だから酒が零れるだろうが! というか、アリスはなんで私まで警戒してるんだよ」
「言うまでもなく貴方が一番危険だからよ」
もう滅茶苦茶だった。アリスは私を霊夢と魔理沙からガードするように人形を配置している。霊夢は酒瓶を持って魔理沙とやり合い始めた。それに萃香も乱入してきて更にカオスに。もうわけが分からない。
私の膝の上の妖夢はすでに夢の世界。咲夜はほろ酔い気分で、なんだかずっと微笑んでいる。うん、楽しそうで何よりだ。
なんにせよ、これにて東方永夜抄は無事終了! なんか流れがちょこっと変わってしまったけど、めでたしめでたし。一件落着だ。
……あれ、本当にそうだったっけ?