ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第六十六話 RISING SUN

「すごいですね」

「混ざりたいなら飛び入り参加するか?」

「いえ、遠慮しておきます」

「ま、寝起きには辛いかもな」

 

 夜の空を埋め尽くすように、弾幕がこれでもかと飛び交っている。八意永琳、鈴仙・優曇華院・イナバのペアと、霊夢や妖夢や咲夜にアリスが激しくスペルの応酬をしている。アリスとルーミアは先ほどから離脱しようとしているのだが、永琳が厳しく牽制してそれを許さない。さすがは月の賢者、全く隙がない。

 

「魔理沙さんは行って来ても良いですよ。私はここから応援していますから」

「そういう訳にはいかないぜ。相方を置いていくほど薄情じゃないのさ」

「それは、その、ありがとうございます」

「はは、なに恥ずかしがってんだよ。今回は少し残念だったけど、次があるさ」

「次?」

「ああ。私は懲りないからな。今度異変が起きたら、また一緒に挑戦しようぜ。今回は一番槍、次は一番に解決を目指そうぜ!」

 

 魔理沙がグーサインを出してきた。私は暫く考えた後、同じポーズを返す。

 カシャっと眩しい光。先ほどからはたては上じゃなく、こちらを撮りまくっている。

 

「あの。上を撮った方が良いんじゃないですか?」

「あれはもう撮ったし。記事にする分は確保したからいいの」

「そうなんですか」

「そうよ。そ、それに私が何をしようと勝手でしょ!」

「そ、そうですね」

 

 はたてがツンとそっぽを向いた。古に伝わるツンデレというやつだ。

 

「お、いよいよラストスペルだな。決着がつくぞ!」

「本当ですか?」

 

 魔理沙の声につられて、私は夜空を見上げる。なるほど、確かに霊夢がとどめのスペルを宣言している。いや、妖夢か? 咲夜にアリスも同時に宣言しているような。なんだか、ぼやけて見える。

 

「貴方には違う光景が見えるのかしら」

「え?」

 

 輝夜の小さな呟きに、私は声をあげる。

 

「道は沢山あるけれど、結末はこうして一つに収束する。物語はめでたしめでたしで終わるのよ」

「は、はぁ」

「イレギュラーだからって、気にする事はないわ。むしろ異端であることを誇りなさい。貴方たちだけが、今宵の真実の目撃者となれるのだから。――そして、次はきっと貴方が主役になる」

 

 そう言うと、輝夜はふわりと浮き上がって永琳たちのもとへと飛び立っていく。魔理沙は反応しない。いや、上にいる面々も動かない。時が止まっているようだ。これは、蓬莱山輝夜の能力なのだろうか。分からない。彼女の能力は、抽象的過ぎて理解するのが難しい。

 

 輝夜は七色に輝く、蓬莱の玉の枝をどこからか取り出すと、それを掲げて眩い光を放つ。

 

「紛い物の夜など私には不要。何人だろうと、私の能力から逃れることはできない。かくして喜劇の夜は終わり、誰もが待ち望む平穏の朝が訪れる。私は未来永劫、それを見続けることでしょう」

 

 輝夜の身体から、強烈な光が迸る。私は目を開けている事ができない。これは、眩しいどころじゃない。神々しいとでも言えば良いのか。

 

「――永夜返し」

 

 

 

 

 

 異変は終わり、朝日が顔を出し始めた。なんだか良く分からないけど、兎たちが料理やら酒を庭に運び始めている。どうやら宴会が始まるらしい。

 魔理沙はすでに運ばれていく中から酒を奪い取り、一杯やりはじめている。

 

「ほら燐香、お前も飲めよ! 一番槍なんだから、酒も一番に飲む権利があるぜ!」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 杯をうちつけて、一気に飲み干す。流石は永遠亭、口当たり滑らかなお酒である。

 

「ちょっとアンタら! なに自分たちだけ祝杯あげてんのよ。大体、今までなにしてたわけ?」

「何って、そりゃ色々さ。まぁ色々あって捕虜になってたのさ。凄いだろう」

「はぁ? 捕虜って何よ」

「捕虜は捕虜だ」

 

 何故か偉そうな魔理沙がけけけと笑うと、霊夢は意味が分からないと顔を顰めている。その後ろでは、八雲紫、西行寺幽々子、レミリア・スカーレットがなんだか口げんかを繰り広げているし。

 

「いい加減になさい。貴方達、本当に頭がおかしくなったんじゃないの? 貴方達はボコボコのケチョンケチョンに撃墜されたじゃない。その後、ウチの霊夢が華麗に黒幕を打ち倒したでしょう。素直に負けを認めなさい!」

「その言葉、熨斗をつけてお返しするわ、紫。勝ち誇った瞬間、無様に撃墜されたからってごまかすのは良くないわ。大体、妖夢の剣さばきはその目にしっかり焼きつけたでしょう。――ああ、素晴らしかったわよ妖夢。勝利の栄光は貴方にもたらされたの。良くやったわね」

「は、はい。ありがとうございます! 私も本当に嬉しいです!」

 

 幽々子が妖夢の頭を撫でる。妖夢は天にも昇らんほどの満面の笑みだ。

 

「馬鹿を言うなよ亡霊。死んで相当経つみたいだから、頭が腐ってきてるんじゃないか? ほら、ちゃんと思い出してみろ。咲夜が時を止めて、全員サクッとやっつけたじゃないか。……なんだか違和感を感じるが、私が言うのだから間違いない。世迷いごともほどほどにしないと、このレミリアが許さないよ?」

「お、お嬢様。太陽が出ていますから!」

 

 慌てて日傘を翳す咲夜。レミリアの羽からは煙があがっていた。

 

「おっと。流石は咲夜、気が利くね。お前は私の誇りだよ」

「ぷっ。主従そろって地べたを舐めたのに? 確かに埃はついているかもしれないわね」

 

 幽々子が袖で口元を抑えて挑発的に笑う。

 

「ああ? 冗談はその変なぐるぐるマークだけにしておけよ?」

「小娘にはこのセンスが分からないのね。千年経ったらまたお話ししましょうね」

「あーうるさいうるさい! 異変は私の霊夢とこの紫ちゃんが見事に解決したの! 有象無象の三下どもはすっこんでなさい!」

 

 そんな感じで弾幕勝負第二ラウンドが始まりそうな気配。なんだか良く分からないけど、放っておこう。巻き込まれたらタダじゃすまない。

 ……ん? 何か大事なことを忘れているような気がする。そもそも、なんで私は永遠亭に突入してきたんだっけ。誰かに追われていたような。

 

「呑気にお酒なんて飲んでるよ。結構勇気あるよねー」

「……おはよう。さっきの閃光弾、本当に目に染みたわ。中々やるじゃない燐香。思わず感心したけど、その格好は感心できないのよね」

 

 聞き覚えのある声が耳に入ってくる。私は視線を逸らしながら、花梨人形を手に取る。服はアリスの変装のままだし。このまますっとぼけて、逃げてしまおう。後で追及されても知らぬ存ぜぬで押し通すのだ。そう、私はすっとぼけの達人!

 

「あ、あはは。なんのことやら。私は燐香なんて間抜けな人じゃありませんよ。私は、アリス・マーガトロイド! 何処にだしても恥ずかしくない完璧な人形遣いです!」

「その格好だと、何処にだしても恥ずかしいと思うけどなー。しかも本人の前だよ」

 

 ルーミアのクールツッコミ。敢えてスルー。スカシという笑いの技術の一つ。普段の私は絶対に使わない。何でもくらいつくのが芸人である。でも今日は完璧なアリスだから仕方ない。

 

「へぇ。その小生意気な表情も私の真似? そんな顔しているように見えるのね」

「に、似てないかしら?」

「腹立たしい顔をしているわね。ついでにその偽の金髪と言葉遣いもムカつくわ。思わず抓りたくなるくらい」

 

 アリスの目がやっぱり鋭い。ルーミアが横から回り込もうとしている。今すぐ退却しないとまずい。魔理沙はなんだか複雑な表情だ。助けて! いや、他人任せはよくない。ここは私の逃げ足の速さの見せどころ!

 

「あ! そういえば大事なことを忘れてたわ。帰って魔術の研究をしなきゃ。人形のメンテナンスもしなくちゃいけないし。それでは皆さん、ごきげんよう!」

「待ちなさいっ! この悪戯娘!」

「待てー」

「待てといわれて待つ馬鹿はいません!」

 

 彼岸花煙幕タイプを生じさせ、ルーミアのとびつきを躱す。さらにアリスが上海と蓬莱を繰り出してくる。それも横転して回避! 私の回避能力は進化し続けているのだ!

 踵を返してとりあえず迷いの竹林に逃げ込もうとしたら、柔らかい壁にぶつかってしまった。私は尻餅をつく。

 

「な、なに! 邪魔な柔らかい壁が! ボヨーンって!」

「久しぶりね。まだ生きてたの?」

 

 幽香が笑っていた。でも私には口裂け女にしか見えないわけで。

 

「げ、げえっ! か、か、風見幽香!! なんでお前がここに!!」

「お前?」

「い、いえ。お前じゃなくて悪魔――いえ、お母様。ぶべ!」

 

 私は顔を凄まじい勢いで掴まれると、何か奇妙な液体を頭に塗された。そしてぐしゃぐしゃに掻き混ぜられる。ジュワーという爽快な音がする。何故か金髪が赤色に戻ってしまった。私の完璧な変装が解けてしまった。

 

「で、夜の散歩は楽しかったかしら」

「ひ、ひゃい」

「綺麗な花火と、汚い花火、お前はどちらになりたい?」

「わ、わひゃひは、ひゃい(貝)にひゃりたいでひゅ」

 

 幽香は掴んでいる手を離すと、私のこめかみに右手と左手を当てる。そして、ぐりぐりと凄まじい勢いで圧迫しはじめた。これは、古の拷問術ウメボシである。

 

「ぎ、ぎゃあああああああああああああああ!!」

「毎度毎度、面倒をかけさせるな、このクズが。お前の頭には何が詰ってるの? どうも働いてないみたいだから、少し刺激してやるわ」

「ぎ、ぎぶ! ギブギブ! 本当に死ぬし!!」

「妖怪はそう簡単に死なないわよ」

「死ぬわこのボケ!! 鬼! 悪魔ッ!」

「今の言葉遣い。プラス30秒」

「ぎゃああああああああああ!!」

 

 みっちり三分間拷問された後、私はボロ雑巾のようにポイッとアリスにわたされた。ようやく一息つける。

 

「た、助かりました」

「本当にそう思うのかしら?」

「へ?」

 

 私の頬を両手で挟みこむアリス。その目は、さっきと同じく怖い。やばい。やっぱり怒ってた。自分で言うのもなんだが、アリスの真似は完璧だと思ったのに。

 

 

「これから一時間お説教よ。貴方は宴会している場合じゃないものね」

「そ、そんなぁ」

「あはは。私が代わりに食べてあげる!」

「ルーミア、アリスの真似、似てませんでした?」

「外見はちょっと似てたよ。表情は似てるけど、雰囲気が決定的に違うし」

「ルーミア。余計なことを言うんじゃないの」

「あはは。私も怒られちゃった」

 

 アリスのありがたいお説教を畳の上で喰らっている間、珍しいコンビが会話をしているのに気がつく。

 風見幽香と霧雨魔理沙だ。二人は顔見知りだったっけか。説教を聞いているフリをして、そちらに聞き耳を立てる。

 

「なるほど、お前が霧雨魔理沙か。この馬鹿が色々とお世話になったみたいね」

「強引に連れ出して悪かった。ああ、燐香をあんまり怒るのは止めてやってくれ。私が強引に誘ったんだ」

「……花畑の罠の解除もお前がやったの?」

「罠? あー、あれくらいなら私でも避けれるぞ。前より数が減ってたし」

「……ということは、アイツか。お節介なのは相変わらずね」

「どういうことだ?」

「なんでもないわ。ただ、小憎らしい顔をしていると思っただけよ」

「へへ。そいつはありがとうよ」

 

 なんだか良く分からない会話だった。

 

「ちょっと。聞いているの燐香」

「勿論聞いていますよ。私は同時に十人の言葉を聞き取る程度の能力を持っています」

「じゃあ、今私が何を言ったか教えて」

「えっと、あはは。お酒はほどほどにでしたっけ? 酒は飲んでも飲まれるなですよね」

「全然違う。あの魔法使いについていくのはやめろと言ったのよ。このお馬鹿!」

 

 上海のげんこつ。手が小さいから痛くないけど、精神へのダメージが大きいのであんまり喰らいたくない。

 

「ま、お前が何を言おうと、次の異変も一緒に行動するって約束したからな。諦めてくれ、アリス先生」

「黙りなさい。幽香、貴方も監視を緩くしないで。こいつはどこからともなく侵入する鼠なのよ」

「生憎だけど、私は緩くした覚えは欠片もないわ。ただ、どこぞの誰かが破る手助けをしているのよ。それを止めるのは、中々難しいでしょうね」

「…………。とにかく、もう近づかないで。今日のことも全部聞いたわ。貴方、自分が何をしたか分かっているの?」

「ああ、分かってるさ。心配させる事態になったのは悪かったと思っている。本当にごめん」

「謝るくらいなら――」

「だけど、大体の事情は分かった。私が近づかない事が解決に繋がるとは思わない。だから、そこらへんは今度ゆっくり話したい。アリス・マーガトロイド、お互いの情報を交換しようぜ」

「…………」

 

 なんだか難しい話に発展している。アリスと魔理沙が何か言いあってるし。というか、今がチャンス。私はこそこそと抜け出して、霊夢達のところへと脱出する。ルーミアもついてきた。さすがは心の友、私の行動はお見通しらしい。

 

「お疲れ様です、霊夢さん」 

「お疲れじゃないわよ。アンタ、一体何考えてんの。全力で突っ込んで捕虜になってりゃ世話ないわ」

「あはは。速さ重視したら足元がお留守に」

「全く。妖夢じゃないんだから」

「ちょっと! なんで私の足元がお留守なんだ!」

「半人前だからよ。主も認めてたじゃない」

「う、うるさい! 聞いてよ燐香。こいつ、私に負けたのに負けを認めようとしないんだよ。巫女のくせに往生際が悪いというか!」

 

 妖夢が泣きついてくる。酒が入っているようだ。泣き上戸なのか。

 

「そうなんですか?」

「私が負ける訳ないでしょ」

「まぁそうですよね」

「違う違う違う! 私が勝ったんだよ! 勝者はこの魂魄妖夢! 異変を解決したのは、私と幽々子様だ!」

「いいえ。勝ったのは私だと思うのだけど。難題を打ち破ったのも私じゃない」

「だからそれも私! どいつもこいつも!」

 

 咲夜が冷静に突っ込むとまた妖夢が激昂する。霊夢が呆れながら口を挟む。

 

「さらにややこしくなるからやめときなさいよ。なんか、妙な感じもするし」

「それは、私たちの認識の差異のことかしら。確かにおかしな話よね。最後に奇妙な感覚も感じたわ」

「まぁ、異変は無事に解決したからどうでも良いんだけどさ」

 

 霊夢がなげやりに呟いた後、団子をぱくつく。

 

「はぁ。ま、お嬢様は喜んでくれているし、私もそれでいいわ」

「ちょっと咲夜さん。貴方聞き分け良すぎでしょ! こいつに負けを認めさせないと、いつまでも図に乗り放題だよ! ね、燐香!」

「は、はぁ。そうかもしれませんけど。私は捕虜だったので発言権はありません」

「なんで捕虜になってるの! 脱走しなさいよ! それか腹を切れ! いや、私は腹切らないし!」

 

 酔っている今日の妖夢はいつもよりボケ度が高い。ツッコミのキレも増している。大した奴である。

 

「ノリツッコミとは。この短時間でやるようになりましたね」

「酔っ払いの面倒はアンタに任せたわ。こいつ疲れるし」

 

 今日の妖夢は絡み酒だった。私は妖夢をよしよしと撫でていると、輝夜がニコニコしながら近づいてくる。ござに座ると、空の杯を差し出してくる。私は頷き、お酒をそれに注ぐ。

 

「今日は本当に面白かったわ。貴方達、にぎやかで良いわね」

「生憎だけど、私は眠いわ。主にアンタたちのせいでね!」

「ええ。私も仕事が溜まってるのよね。掃除が待っているわ」

「難題を打ち破ったのは私ですよね? ね? ね?」

 

 輝夜に絡んでいる妖夢。永琳のこめかみに青筋が立っているが見なかった事にしよう。

 

「うふふ、皆が勝者でいいと思うわよ。誰も間違っていない。私が言うんだから、間違いないわ」

「何よそれ。やっぱりアンタ、何かしてたって訳?」

 

 霊夢が問うが、輝夜は胡散臭い笑みを浮かべる。カリスマタイプはこういう顔が得意なのだ。

 

「謎掛けよ。貴女にはちゃんと解けたかしら、博麗霊夢」

「……奇妙な感覚はしていたわ。アンタが何かしたんでしょうけど。終わりよければ全て良しなのは変わらないわ」

「それが正解! 正解した貴女には、私と結婚する権利をあげるけど。欲しい?」

「全くいらないわね」

「あら残念。フラれちゃった」

 

 輝夜は笑いながら、つまみの筍の煮物を軽快に食べ始める。

 

「たまには、保護者の手から離れるのもいいものね。新鮮よ」

「八意永琳さんのことですか?」

「ええ。常に一緒であることに慣れ過ぎてしまった。だから、こういうやりとりはとても新鮮なの。もちろん、嫌いになったわけじゃないのよ?」

「アンタらのことなんか知らないわよ」

「じゃあ、知りなさい。私は姫だから、それなりに敬うと良いわ」

「それなりでいいんだ」

「ええ。それなりで」

『ははー』

 

 私と妖夢が頭を下げると、褒美にお団子を貰った。妖夢はお酒が入っているのでノリが良い。

 

「うふふ。素直でいいわね。って、これだと私が保護者みたいじゃない。私も貴方達と歳相応に楽しみたいの」

「はぁ。もう好きにしなさいよ。とにかく、二度と騒ぎを起こすんじゃないわよ」

「気が向いたらそうするわね」

「燐香、アンタもよ!」

 

 霊夢がギロっと私を睨んでくる。

 

「な、なんで私まで」

「いつか、何かやらかしそうだから先に釘を刺しておくの。悪い?」

「わ、分かりました」

 

 とりあえず頷いておき、霊夢にお酒を注いであげた。なんと、霊夢も私に注いでくれた。そこそこ親しくなれたのだろうか。でも、この巫女は笑顔で私を退治するだろう。情け無用の博麗霊夢だからね。仕方ない。ルーミアが私の口に煮物を押し込んでこようとするので、何とか噛み砕く。背中に隠した手でこっそり謎肉を用意しようとしているが、霊夢が感づいたらしく素早く御札で叩き潰してしまった。油断も隙もない奴である。

 そのうち魔理沙とアリスもやってきて、私の両隣に座る。この二人は相変わらず仲が悪いらしい。しかし私という潤滑油のおかげで宴会は更に賑やかに。

 

 一方の保護者組は剣呑な感じで酒を酌み交わしている。八意永琳、八雲紫、西行寺幽々子、レミリア・スカーレット、風見幽香が円を組んで座っているし。なんか幻想郷頂上会議みたい。大体ろくな事を思いつかない連中なので、幽々子以外は全員封印した方がいいと思う。

 

「私もそう思うわ」

「私も」

 

 そんなことを呟いたら、博麗霊夢が全面的に同意してきた。ついでに輝夜もだ。意外と愉快な姫様だった。

 

「アンタはやらかす方でしょうが」

「今回のは仕方なくなのよ。分かってくれるわよね、燐香」

「えっ」

 

 キラーパスを私にふる輝夜。霊夢が睨んでくるので、やめてほしい。

 

「なにかやらかすなら、人質には私を選んでちょうだいね。そうすれば永琳は手を出せないわ」

「お、覚えておきます。でも、余計に酷い目に遭いそうな」

 

 絶対酷い目に遭う。磔獄門間違いなし!

 

「だから、やるんじゃないって言ってるでしょうが!」

「博麗霊夢、燐香にあまり近づかないで。今日は一度倒れているみたいだから」

「黙りなさい、この親馬鹿魔法使いが! 大体アンタは甘やかしすぎなのよ! 少しは幽香の躾の仕方を見習いなさいよ。妖怪は打たれて強くなるのよ」

 

 刀剣じゃないんだから、そういう誤解を招く言い方はやめてほしい。

 

「はぁ。何を言っているのかよく分からないわ」

「なんてことを言うんですか霊夢さんは。アリス、あんな悪魔を見習うなんてなんて止めて――」

 

 霊夢に大いに異議ありと言おうとしたら、謎の果実が私の顔に炸裂する。ベチャッと飛び散る果実――いや果実の形をしたお菓子だった。私の顔はおかげでべとべと。ルーミアは嬉しそうにそれを摘んでいる。投げられてきた方向を見ると、幽香が素知らぬ顔をしている。でも顔がニヤリと歪んでいる。犯人は間違いなくこいつだ。この野郎と団子を投げつけたら、余裕で受け止められてしまった。その上クイックイッと指で挑発してきた。超ムカツク! でも素直に行くと酷い目にあうので、なかったことにした。

 

「ちょっと私の話を聞いてるの? それになんか魔女同士で企んでるみたいだけど、私に迷惑かけたらタダじゃすまさないわよ」

「へぇ。どうタダじゃおかないのかしら」

「分からないなら、今教えてやるわ」

 

 いきなり喧嘩が始まりそうになってるし。展開がカオス過ぎる。というか妖夢が私の膝を枕に寝転がり始めた。寝るならあっちいけ!

 

「おい止めろよ霊夢。あー、酒が零れる! 暴れるなこの馬鹿!」

「うるさいわね。また注げばいいでしょ。どうせタダ酒なんだし」

「貴方、一日に二回も敗北を味わいたいの? 巫女の名が泣くからこれ以上傷をつけないほうが良いわよ」

「それはこっちのセリフよ、この七色馬鹿!」

「だから酒が零れるだろうが! というか、アリスはなんで私まで警戒してるんだよ」

「言うまでもなく貴方が一番危険だからよ」

 

 もう滅茶苦茶だった。アリスは私を霊夢と魔理沙からガードするように人形を配置している。霊夢は酒瓶を持って魔理沙とやり合い始めた。それに萃香も乱入してきて更にカオスに。もうわけが分からない。

 私の膝の上の妖夢はすでに夢の世界。咲夜はほろ酔い気分で、なんだかずっと微笑んでいる。うん、楽しそうで何よりだ。

 

 なんにせよ、これにて東方永夜抄は無事終了! なんか流れがちょこっと変わってしまったけど、めでたしめでたし。一件落着だ。

 

 ……あれ、本当にそうだったっけ?

 

 


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