ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第六十三話 狂気の瞳

 竹林をひたすらに彷徨っていた魔理沙だったが、なんらかの能力による『認識阻害』の術式、もしくは結界が組まれていることをようやく看破。霊夢だったら一瞬で気付いていただろうにと、魔理沙は小さく舌打ちをする。もちろん燐香には気付かれないように。異変解決の先輩としては情けない姿を見せるわけにはいかない。

 だが、時間が掛かったとはいえ気づけたことは僥倖だった。普通の魔法使いでも、タネが分かれば手品を見破ることくらいはわけない。というより、この『認識阻害』もそこまで強力なものではなかったのだ。これくらいに惑わされるようでは、真実にたどり着く資格がないとでも言いたげである。

 

「いよいよ目的地だぞ」

「それは、楽しみね」

 

 相変わらずの燐香。

 

「竹林を抜けたら、そこは――」

 

 雪国ではなく、和風建築の大きな屋敷があった。いつの間にこんなものが幻想郷にできていたのか。魔理沙の記憶にはない。霊夢ですら知らないだろう。

 庭園には、兎妖怪たちが竹やりを持って慌しく動き回っている。あれがこの屋敷の私兵団なのだろうか。とても弱そうである。だって兎だし。

 

「うーむ? これはなんと例えたらいいのやら。白玉楼とはまた違う趣があるよな」

「ふふ、知らないの魔理沙。この屋敷は永遠亭よ」

「永遠亭?」

「そう。永遠を生き続ける呪われし者たちが住む牢獄。今回の異変をおこしたのもそいつらよ」

 

 アリス・マーガトロイド――ではなく、アリスの変装をしている燐香が意味ありげに笑う。アリスとルーミアの追撃を振り切ってからというのも、ずっとこの調子なのだ。最初は違和感が凄まじかったが、段々と慣れてきてしまっているのが怖い。本当に、あの愛想のない自称都会派魔法使いと話しているような気分になってきてしまう。

 

「永遠亭、か。で、なんでお前がそんなことを知っているんだ?」

「私は何でも知っているのよ。だって、アリス・マーガトロイドだから」

「答えになってないぜ。ま、とりあえずお邪魔するとしようかね。多分お待ちかねだろうしな」

「ええ。早くしないと、後続が追いついてきてしまうでしょう。吸血鬼もこちらに向かってるわよ」

「おいおい、嘘だろ?」

「嘘じゃないわ」

 

 ありえない話ではない。月の異変に気がつけば、あの出たがりお嬢様は確実に動くだろう。ということは咲夜もセットか。霊夢、紫、妖夢、幽々子、レミリア、咲夜、アリス、ルーミア。多種多様すぎて頭が痛くなりそうだ。

 異変を解決するのは自分だなどと皆が言い張るのは目に見えている。協調性のなさは折り紙つきだが、それを煽るような連中まで参加している。自分のことを棚に上げて、家で大人しくしていろと言いたくなる。少しだけ霊夢の気持ちが分かったかもしれない。

 こうなればさっさと異変を解決して、素敵な朝日を拝むというのが最善だろう。できるだけ早くが望ましい。燐香の様子が少々おかしいのが気に掛かるから。なんだか、良くない予感がする。

 

「とにかく、黒幕を倒せばいいだけの話だぜ。さて、堂々と正面突破と、コソコソと庭園からの侵入。どっちを選びたい?」

「勿論正面突破よ」

「へへ、良い答えだ。それじゃあ派手に行くとするか!」

 

 魔理沙は永遠亭の正門目掛けて滑空し、そのまま内部へと突入した。

 

 

 

 

 案の定といえば案の定だが、内部の妨害はかなり激しい。まず、配備されている兎妖怪がやたらと弾幕をばらまいてくる。屋敷が壊れることなど全く気にしていないようだ。持っている竹やりはただの飾りだったらしい。見かけで油断でも誘うつもりなのか、それとも趣味なのかは分からない。

 

「ああ、鬱陶しい!!」

 

 回避、回避、回避。ついでに弾幕をプレゼント。いくらぶっとばしても、通路を塞ぐように新手が現れる。ご丁寧に槍衾を組んでから弾幕を放つ兎たち。こいつらは弾幕勝負がなんたるかをまるで分かっていない。足を止めてどうするんだという話だ。

 それはそれとして、この屋敷の内部はどこかおかしい。外から見た構造と、内部の大きさが全くつりあっていない。ぐねぐねと入り組んでいるし、なにより廊下が長大すぎる。巨大迷宮にでも放り込まれた気分になる。また何かの術式が掛かっているのだろうか。

 

「魔理沙、ここは私に任せて」

「それは構わないけど。どうするつもりだ?」

「行く手を遮るものは叩き潰すのみ。魔理沙がいつもやっていることでしょう」

「ま、まぁそうだけど」

「変な魔理沙。もしかして、月の魔力にあてられたのかしら。まぁ、私の人形捌きを見ていると良い。結構上手いものなのよ?」

 

 『贄符サクリファイスドール』。青白い顔をした燐香が宣言すると、周囲に燐香を模した擬体を5体生成する。変装した姿ではなく、赤髪の燐香。その目には光がなく、濁っているのがとても印象的だ。だが、とても精巧で一見では本人と見間違うかもしれない。それほど良く出来ている。まさに、燐香の『死体』そのものである。

 

「お、おい」

「いきなさい、私たち」

 

 両手を前にだらりと垂らした三体の『燐香』たちが、兎妖怪たち目掛けて前進していく。先頭の『燐香』が、槍衾に突っ込んで歪んだ笑みを浮かべながら自爆していく。ぎゃーと叫んで吹っ飛んでいく哀れな兎たち。死んではいないようだが、かなりダメージを受けていそうだ。

 

「ぜ、全員撤収するよ! 時間稼ぎは十分だし、後は鈴仙に任せちゃおう!」

 

 指揮官らしきピンクの服を着た兎が撤収命令を下す。流石の兎たちもこれには恐れを為してしまったらしく、悲鳴をあげながら散り散りになっていく。燐香はそれ目掛けて残りの『燐香』をけしかける。が、指揮官兎の精密な弾幕で足止めされてしまう。哀れな偽物たちは、爆音を轟かせて自爆してしまった。首や四肢がばらばらと散らばった後、黒い靄を生じて消え去っていく。

 言葉には出さないが、趣味が悪い技だと思う。自分の死体を見て気分がよくなるはずもないだろうに。

 

(……なのに、なんで燐香は笑っているんだ?)

 

 金髪の燐香は、自分の分身が霧散していくのを愉しそうに眺めていた。

 なんと声を掛けていいか分からず、魔理沙は唾を飲み込む。

 

「あ、あのさ」

 

 だが、その後の言葉は兎によって遮られる。

 部下が無事退散したのを見届け、ふーっと息を吐いて額の汗を拭っている指揮官兎だ。

 

「全く。子供のくせに恐ろしい技をつかうね。あんなの見たら兎達のトラウマになっちゃうじゃないか」

「おい、お前がここの指揮官か? とぼけた顔して中々できるみたいじゃないか」

「うん? まぁ第一防衛線担当みたいなものかなぁ。初めまして、人間に妖怪さん。私は因幡てゐ、人間を幸せにするとっても優しい善良なうさぎなんだ。末永く仲良くしようね!」

「嘘つけ! いきなり攻撃をしかけてきたくせに」

「ははは! そりゃあ、泥棒を迎撃するのは当たり前じゃん。親しき仲にも礼儀ありってね」

「私達は正面から堂々と入っただろう。つまりはこの屋敷の客人だ。ほら、ちゃんともてなせ」

「あははは、なんと愉快で剛毅で傲慢な客人なんだろう! うーん、アンタら面白そうだから、この騒動が収まったら色々とお話ししたいな。――っと、次があるから私はこれで。実は結構忙しいんだよね」

「おい!」

 

 因幡てゐと名乗った兎妖怪は、煙幕を張って逃走していった。その逃げ足は流石指揮官というべきものだった。見かけた兎たちの中では一番速い。

 

「なんなんだよ、全く」

「あ、言い忘れてたけど」

「うわぁああああ!」

 

 魔理沙の背後から、にょきっとてゐが現れた。全然気付かなかったので、思わず悲鳴をあげてしまう。燐香は、特に動じずにてゐを見つめている。何を考えているかさっぱり分からない。いくらアリスの真似をするにしても、ちょっとおかしい気がする。声を掛けようとすると、先にてゐが話し始める。

 

「赤いお嬢さん。ずっと自分を偽るなんて無理なことなんだ。どう着飾ろうともアンタはアンタでしかない。あまり無理をすると、どこぞの誰かさんみたいに、皮を剥がれてめそめそと泣くことになるよ」

「…………」

「なんだそりゃ。どういう意味だ?」

「なあに、年長者から子供へのちょっとしたアドバイスだよ。それじゃあ、後はお若いもの同士で頑張りなよ。それじゃあね!」

 

 てゐは歯を見せてニッコリ笑うと、ぶらぶらと手を振って去っていってしまった。まるで緊張感がない。

 それと入れ替わりに見知らぬ兎が颯爽と登場した。こちらは敵意バリバリだ。

 

「止まりなさい侵入者ども! 狼藉はそこまでよ! 武器を捨てて大人しく投降しなさい!」

「うわぁ。またでた」

 

 魔理沙がわざとらしく溜息を吐くと、ブレザーを着た紫ロンゲ兎が怒声をあげる。その背後には竹やりを持った兎連隊が控えている。

 

「またとは失礼ね! ただの人間のくせに!」

「あれ、お前は人間じゃないのか?」

「全然違う! あんたらと一緒にしないで!」

「じゃあなんなんだよ」

「ふふん。教える義理は欠片ないけど冥土の土産に教えてやる。私は鈴仙・優曇華院・イナバ。永遠亭の防衛指揮担当よ。実質的な指揮官ね。さぁ、身の程を知ったら、今すぐ跪きなさい。命乞いをしろ!」

「ふーん。なんでもいいけど、お前の部下たち、どっか行っちゃったぞ」

「え? あ、あれ。ちょっと前までは一緒だったのに!」

 

 鈴仙が演説している間に、また因幡てゐがやってきて竹やり連隊を引き連れて行ってしまったのである。兎兵たちの中では、鈴仙・優曇華院・イナバよりも因幡てゐの方が命令系統が上位なのだろう。

 

「いるのはお前だけだぜ。指揮官とか言ってたのにぼっちじゃないか」

「……う、うるさい!! とにかく今は忙しいの! 回れ右して家に帰りなさい!」

 

 鈴仙が、右人差し指をこちらにむけてくる。その指の先端に妖力らしきものが溜まっていくのが分かる。あれが発射されたときが勝負開始の合図となるだろう。

 

「へへ。大人しく従うやつが竹林の罠をくぐってこんなとこまで来ると思うのか?」

「ま、それもそうよね。でも、竹林の罠にてこずるような連中に、この廊下を突破できると思ってるの?」

「廊下がどうかしたのか? そういやぁやけに広いし長いよな」

「はぁ、本当に呆れて物も言えない。いい? この廊下――催眠廊下は私の罠の一つなの。教えてあげるけど、お前達は真っ直ぐに飛べてすらいないのよ?」

 

 鈴仙の目が赤く、怪しく光る。なるほど、何かを惑わしているのはこいつの能力のようだ。ならば、この兎を叩き潰して解除させれば全て元に戻る。分かりやすい。

 

「凄いのは認めるが、だからどうだっていうんだ」

「は?」

「真っ直ぐだろうがねじれていようが、肝心なのはお前を倒すことだ。それで万事解決だろう?」

「ふん、よく吠える人間ね。できもしないことをベラベラと」

 

 鈴仙の表情が剣呑なものへと変わる。いよいよ戦闘開始だ。

 

「……戦う前に、一つ尋ねるけれど。 歪な月の異変は、貴方たちの仕業でしょう?」

 

 燐香が、何故か苦しそうに声を出す。いや、絞り出すと言った方が正しいか。呼吸がひどく乱れている。脂汗が玉のように浮かんでいる。魔理沙の背中を掴む手が、小刻みに震えている。

 

「そうだけど。……ちょっとそこの白黒。そいつ、なんだか顔色が危なくない? それに、波長が――」

 

 鈴仙がなにやら聞き捨てならない事を言っているが、今は一旦保留だ。

 

「おい燐香! しっかりしろ!」

「大丈夫です。何も、問題……ありません。あと、2つです。そこの鈴仙を倒し、正しい道を選んで、か……輝夜を倒せば」

「ちょ、ちょっと! なんで姫の名前をあんたが知っているの!? それにそいつの波長、なんだか絡まりあって異質すぎるし! あんたら、一体何者なの!」

 

 鈴仙が混乱した様子で叫び声をあげている。燐香は返事に答えることはない。そのつもりがないのか、余裕がないのかは分からない。

 いずれにせよ、ゆっくりと話している時間はなさそうだ。

 

「長話はもう終わりだ! とにかくお前と黒幕を倒して、とっとと異変を解決して、燐香をゆっくりと休ませれば万事上手く行くのさ!」

「さ、最終警告、それ以上近づいたら全力で攻撃する! 本当にやるからね! 嘘じゃないわよ!」

「へっ、来ると分かってるのに誰が落とされるかよ!」

 

 ミニ八卦炉を握り締め、魔理沙は『行動』を選択しようとした。立ち止まって休ませるという選択肢は頭に浮かばなかった。ここで止まってしまえば、折角の異変一番乗りが無駄になってしまう。それでは燐香も嬉しくないだろう。二人の力でこの月の異変を解決したい。そう約束したのだから、当たり前だ。

 

 

 ――だが。

 

『魔理沙』と、脳裏に懐かしい声が響いてくる。たまにこの感覚が現れる事がある。魔理沙が危険を承知で何かを実行、決断しようとしたときに限ってだ。まるで、引き止めるかのように。警告するかのように。

 別に聞かなくても実害はない。実行、決断したことによる代償が魔理沙にもたらされるだけである。いまのところ100%の確率で痛い目に遭っている。

 これは霊夢の直感みたいなものなのかもしれない。このことを誰かに相談したことはもちろんない。頭がおかしいと思われるのは癪だからだ。

 それを理解してからは従ったり、従わなかったりと半々だ。声を判断材料にすることはない。誰かに誘導、指図されて生きるなど、魔理沙にはとても耐え難いから。

 だから、今回もそうするつもりでいた。

 

 ――だが。

 

『魔理沙! 頭を冷やして良く考えな!』

 

 今までにはなかった、二度目の警告だ。しかもいつもより声が大きく厳しい。誰かは知らないが、一体何を考えろというのか。

 自分は何も間違っていない。戦って負けたとしても、行動した上での敗北なら成長の糧となる。失敗は成功の元なのだ。ならば進んだって何も問題ないはずだろう。

 でも、それが取り返しのつかない失敗につながったらどうだ。自分の決断で、もうどうしようもない事態を招いてしまうとしたら。

 パチュリーの言葉が鮮明に思い出される。無知による行動ははたして許されるのか。

 

(……まさか、燐香のことか?)

 

 なんとなくそんな気がした。普段と違うといえば、燐香の様子がどうにもおかしいこと。魔理沙は箒を急停止させ、鈴仙との距離を素早く取る。

 

「おい紫兎! 戦う前に一つだけ教えろよ!」

「な、なによ。それに人間のくせに偉そうに!」

「私の能力は、魔法をつかえることだ」

「あ、あっそう。それがなんだってのよ!」

「だからお前の能力も教えてくれよ」

「はぁ? 嫌に決まってるでしょう。あんたは敵、みすみす手の内をさらすような愚かな真似を誰が――」

「そこをなんとか頼む。私たちは、既にお前の能力の干渉を受けているんだよな?」

 

 魔理沙が確認するようにもう一度尋ねると、鈴仙がこめかみに手を当ててから、深い溜息を吐く。

 

「だから、私は教えないと――」

「お前、さっき燐香の波長がどうとか言ってたよな。それに惑わすこともできるって。もしかして、精神に干渉するような能力ってことか?」 

「ああ、もう!! 大体はそんなところよ、だからあんたたちは絶対にこの先へは辿りつけない。私があんたたちの波長を一定間隔で乱しているからね。ほら、教えてやったんだから素直に帰りなさい」

「波長を、乱す?」

 

 魔理沙の頭の中のパーツが、まざりあい、徐々に形を成していく。白玉楼での一件、アリスが燐香に自分を近づけさせない理由、燐香の変貌とその性質。確信はない。だが、もしかすると。

 魔理沙の背筋に冷たい物が走る。後ろを素早く振り返る。燐香は虚ろな目をしている。先ほど弾けた死体の目に近づいている気がする。呼吸が徐々にだが遅くなってきている。背中を掴む力が、弱々しくなってきている。そして、その小さな身体からは何か、黒いモノが僅かにだが生じてきているような。

 

「ま、まずい」

「はぁ?」

「おい紫兎! 今すぐその能力を解除しろッ!」

「なにを馬鹿なことを! そんなことするわけがないでしょう!」

「そうかよ! じゃあこうするまでだ!!」

 

 魔理沙は箒を全力で下降させ乱暴に着地させると、ミニ八卦炉を鈴仙へと投げわたした。

 

「え、な、なにをする気?」

「大人しく投降する!」

「は?」

「さっきお前が武器を捨てて投降しろって言ったんだろうが! とにかく、早くお前の能力を解除するか、能力の範囲から燐香を出してやってくれ!」

「え、ええっ!?」

 

 鈴仙から先ほどまでの刺々しい雰囲気がなくなり、いきなりおどおどしはじめた。こちらが地なのかもしれないが、そんなことに構っている余裕はない。

 魔理沙がずんずんと近づいていくと、さっき立ち去ったはずのてゐが再び現れた。

 

「おやおや。なんだか立て込んでるみたいだねぇ。鈴仙、動揺するのは分かるけど、アンタは指揮官なんだし。もっとシャキっとしなよ」

「そ、そういわれても。本当に投降するなんて思わなかったし。こんなことは想定外よ」

「どうするか早く決めないと、捕虜虐待で訴えちゃうよ」

「なんでてゐが訴えるのよ! 味方でしょうが!」

「ほらほら、本当にどうするのさ。言っておくけどここに牢屋なんてないからね」

「と、とりあえずどこかの客間に連れて行きましょう。廊下の罠を解除するわけにはいかないし。私がここを守ってるから、てゐが連れていって。奥の間だけ能力を解除するわ」

「あいあい」

「そいつらから絶対に目を離さないように! 私たちを騙す罠かもしれないからね!」

「それは心配いらないと思うよ。だってほら、すごくヤバそうだし」

「ま、まぁそうだけど」

 

 昏倒している燐香を見て、なんだかへこんでいる鈴仙。

 

「白黒魔法使いさんは赤いお嬢さんを宜しく。私が永遠亭の客間に案内するから。さ、急いでいこう!」

「悪い。助かる」

 

 魔理沙はとりあえず礼を言っておく。どういう扱いをされるかは分からないが、今はこれが正しい選択だと思いたい。鈴仙とてゐを見る限り、ひどい扱いはされないと思うが。

 

「なぁに。困ったときはお互い様ってね。もちつもたれつで世の中は回るのさ」

「私たちはお前達を退治しに来たのにか?」

「ははは、まぁ迷惑かけてるのは確かみたいだし。こっちも仕方なくのことなんだけどね。ま、長く生きていれば色々あるよね」

 

 てゐは意味ありげに何度か頷いた後、ピョンと跳ねて魔理沙の先導を始める。魔理沙も燐香の身体を抱えて全力で飛ぶ。

 

「……アリスが私を近づけたくなかったのは、燐香の精神が不安定になるから。そして精神に作用する能力を喰らってこうなった。でも、なんでなんだ? 普段はなんともないのに。一体どういう」

「…………」

「分からないことは、分かる人に聞くのが一番ってね。ほら、考えてないで急ぐよ!」

「ああ。確かにその通りだぜ」

 

 分かるであろうアリスは教えてくれないだろう。幽香は言うに及ばずだ。

 ならば本人に聞けば分かるのだろうか。でも、それは聞いても良いことなのだろうか。分からない。とりあえずここは保留にして、鈴仙の能力から逃れる事が最善だろう。魔理沙は異変解決のことは一旦頭からどかし、燐香のことに考えを集中することにした。

 腹立たしい限りだが、魔理沙たちが何もしなくても異変は霊夢がなんとかしてしまうのだ。本当に頭にくるが、仕方がない。

 でも、自分はきっと正しい選択をした。魔理沙はそう思った。

 






魔理沙さんBADEND神回避!


感想返しはちょっと時間がなくてできないのですが、
全て見ております。いつもご覧頂きありがとうございます!
誤字等は随時修正しております!




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