ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第六十二話 魔女の舞踏会

 竹林での東方フライトレーシングが始まった。追ってくるのはアリスとルーミアコンビ。スピードならば魔理沙が有利だが、ここは障害物が多すぎる。魔理沙は竹に当たらないようにするだけで一杯一杯。アリスとルーミアは器用に回避しながら距離を詰めてくる。やばい。彼女達の方が、小回りが利いて速いかも。魔理沙はスピードが乗ると超速い、いわば玄人仕様だ!

 私は魔理沙の背中にしがみつきながら、後ろの状況を報告する。

 

「まずいです魔理沙さん。もうすぐアリスの射程に入っちゃいます! って、マジでヤバい! 左舷後方から人形の射撃が来ます!」

「あらよっと!」

 

 魔理沙が切り返しで回避。戦艦のオペレーターばりにナビゲート。左舷ってどこだという話だが、こういうのはノリである。魔理沙なら言わなくても回避していただろうけども。

 

「お見事!」

「ありがとうよ!」

「でも、このままじゃ埒があきませんね」

「全くだ。ハッキリ言って目的地がさっぱり分からないから、適当に飛んでるだけなんだ」

「そうなんですかって、うわ」

 

 振り返ると、ニヤリと笑うルーミアが。なんかいつになく楽しそうである。

 

「また射程距離内に入りました! 今度はルーミアです!」

「と見せかけて本命はアリスだろうな。牽制はできそうか?」

「と、とりあえずやってみます!」

 

 『草符 葉っぱカッター乱舞』を使用。カードを取るのに格好つけてる余裕がないので、適当に宣言。迫りつつあるアリス、ルーミアに対して妖力を篭めた葉っぱをばら撒く。狙いも適当だ。当たれば痛いぐらいの勢いで!

 

「本気でこないなら、こっちからいくね」

 

 ルーミアが妖力弾を適当にばらまき、葉っぱカッターと相殺。ついでになにやら物騒なことを呟きだした。

 

「『月符 ムーンライトレイ』。楽しかったけど、これで落ちちゃうかもね?」

「ルーミアが本命でした!」

「マジでか!」

 

 ルーミアが最後の葉っぱカッターをひらりと回避。その拍子に胸からカードを取り、颯爽と宣言。ずるい。あれは私が教えてあげたポーズだ。回避しつつ宣言したら格好良いよと、二人で練習したのだった。

 さらに両手から光のレーザーを放ち、私たちを挟み撃ちにしようとする。レーザーは結構な幅があるので、上手く上下で避けないと押しつぶされてしまう!

 

「魔理沙さん、また来ますよ!」

「分かってる! お前は弾幕をとにかくばら撒いてくれ!」

「了解!」

 

 ブライトさんに弾幕薄いよと言われた気分になったので、威力を下げて本当に適当に弾をばら撒く事にした。ついでに『蕾』も放出だ!

 数は適当に10個。ヒャッハー並みに撃って撃って撃ちまくる。

 

「いきなさい、私の可愛い蕾たち、眼前の敵を打ち滅ぼせ!」

 

 アリスになったつもりで攻撃宣言! 思ったよりも格好良かった。そう思っているのは本人だけだろうけど。ルーミアがまたニヤニヤと笑っている。あいつめ、後でデコピンしてやる!

 

「『騎士 ドールオブラウンドテーブル』。二人を拘束しなさい」

「――うげ」

 

 竹をなぎ倒しながら迫るレーザーを上昇して回避したところへ、蕾の弾幕をかいぐぐって迫る人形たち。私は手から蔓のムチを生じさせて、それをペシペシと必死の形相で打ち落としていく。難易度の高いもぐら叩きみたいな感じ。というか超大変なんだけど!

 

「まだ来るのか!?」

「すみません、私の弾が全然当らなくて! 『蕾』もなんかやるきないって感じで」

 

 私の出した蕾は、なんだかイマイチやる気を見せない。以前霊夢と対峙したときの鋭い動きはカケラもない。形だけぽんぽんと緩い弾を吐き出している。これではただの妖力の無駄遣いである。

 

「まずいな。何か良い考え良い考え! あー、竹が邪魔で集中できない!」

「魔理沙さん、真後ろから弾幕! 来ます!」

「おおっと!」

 

 華麗にローリングで回避。私はやっぱりオペレーターなのか。メビウス1、ミッソーミッソーみたいな。

 

「こうなったら、私がルーミアを説得してみます」

「良く分からんが任せる!」

「ルーミア! ここは見逃して下さい! 私たちは心の友でしょう!」

 

 私が拝むと、追撃してくるルーミアがニコニコと笑う。

 

「うん。だからアリスを手伝って止めに来たんじゃない。こんな危ない夜に無茶は良くないよ」

「いや、異変が終わったら戻りますから!」

「駄目」

「じゃあ後でお菓子をあげます。甘くて美味しいチョコレート饅頭があるんですよ!」

「それはそれでちゃんともらうけど、まずは捕まえてからね」

「この鬼! 悪魔! ルーミア!」

「あはは。でね、燐香は手加減するけど、魔法使いさんの方は特に何もいわれてないんだ。だから、ちょっと味見しないとね」

「お、恐ろしいこと言ってやがるぜ! 私は絶対に捕まらないぞ!」

 

 魔理沙が加速を高める。少しだけ距離が開いた。しかし、迷いの竹林を抜けられる気配はない。鈴仙の支配領域ということなのだろうか。色々と歪められているのかも。

 実は、少しだけさっきから頭が痛い。内緒だけど。これは波長を歪められているせいかもしれない。私が妖怪だから分かるのか。魔理沙は特に感づいていないようだけど。

 少し気持ち悪くなってきた。そう、これは乗り物酔いだ。箒って、結構アレだ。動きが激しい。3D酔いした。

 

「うえっ」

「だ、大丈夫か?」

「え、ええ、ちょっと酔っただけです。ただ、このままじゃ本当に埒があきませんね」

「ああ。時間はかかるが、こうなりゃやりあうしかないか。もし霊夢たちに追いつかれたら、そっちも叩き潰す。全員ぶっ潰して、異変の黒幕も叩けば問題ないだろ!」

 

 やる気モードの魔理沙はとても凛々しくて格好良い。女でも思わず見とれるほどの凛々しさ。なるほど。これは人妖が惹かれる理由も分かる。

 背中を掴む手を、魔理沙の細首に回して捻り潰してやったらどんなに爽快だろう。絶対にやってはいけないことをやるというのは、どんな気分になるだろうか。放出している『蕾』たちが、嬉しそうに私を催促してくる。

 私はそれを睨みつけ、消失させる。消えても私の中に帰ってくるだけなのだが。あれと私は一心同体。最後の時まで一緒なのである。

 

「魔理沙さん。私に名案があります」

「お。どんな案なんだ?」

「魔理沙さんの魔力を少し貸してください。私のとっておきをアリスたちにお見舞いします」

「良く分からんが、考えがあるなら任せる!」

「これに魔力をお願いします」

 

 私は左手に彼岸花を作成。魔理沙の手をそれに握らせる。そこに魔力を注いでもらう。人間の力を借りることに、私の一部分が激しく抵抗するが、強引に抑え込む。捕まったら、この異変はそこまでだから。私は連れ戻されて、魔理沙は一人で行ってしまうだろう。

 別にそれでも良いような気もするが、ここまで魔理沙がお膳立てしてくれのだ。最後の最後まで協力したい。私のために、彼女はこんなことをしてくれている。本当はアリスと行くはずだったのに。偽物のアリスである、私と行動を共にしてしまった。その分の仕事はしなければ。

 

「それぐらいでOKです。絶対に後ろを向かないでくださいね。とっておきの余波を喰らっちゃいますよ」

「わ、分かった」

「――行きますよ、アリス、ルーミア!」

 

 魔理沙の魔力と私の妖力をブレンドした特製彼岸花。色は折角なので白黒のツートーンカラーにしてみた。なんか微妙な感じだが、まぁ良いだろう。

 それを手裏剣の要領でくるくるとアリス、ルーミアの正面へと投げつける。

 アリスは人形を使って、それを切り払おうとしている。

 

「白黒の彼岸花……一体なんのつもり?」

「――あ、それマズい」

 

 ルーミアは感づいたようだが、もう遅い。ルーミアが警告を告げる前に、私は目を閉じ更に両手で顔を覆う。そして彼岸花に篭めた妖力を炸裂させる。弾けるのは力ではなく光である。簡単に言えば、強化型閃光弾だ。

 

「――くっ!!」

「うわぁ。やられたー」

 

 アリスの苦悶の声とルーミアの棒読み声が聞こえてくる。彼女達の足止めには成功したようだが、なんと私にも効果は抜群だった。

 なぜかというと、溢れる光が瞼の上から突き刺さったのだ。手のひらは焼け石に水で全く効果を為さなかった。距離的に、私の方が近かったかも。ちょっと距離の目測を誤った。目が痛い。眩しい。くらくらする。私は魔理沙の背中にぎゅっとしがみつく。

 

「ぐ、ぐう」

「なるほど、目晦ましか! こいつは上手い手だな! 偉いぞ燐香、お手柄だぜ!」

「め、目が。目が」

 

 どこぞのム○カ大佐になってしまった。ちょっと強力すぎた。アリスとルーミア、きっと怒ってるだろう。後で土下座して許してもらう事にしよう。

 

「だ、大丈夫か? まさか、目を開けてたのか?」

「い、いえ。閉じてたんですけど、その上から突き刺さりました。目がチカチカします」

「そ、そうか。ならしっかり掴まってろよ。今のうちに飛ばすぜ!」

「アリスたちは?」

「目を抑えながら、悶絶してたぜ。まぁ引き篭もり魔法使いと闇の妖怪だし、今の光は効くだろうなぁ」

「ちょっとやりすぎたかも」

「ま、後で私も謝ってやるよ。大事なのは今! 優先すべきは異変解決一番乗りだぜ!」

「分かりました、“魔理沙”」

 

 魔理沙が私を励ましてくれた。なんだか元気が出てきたので、私も笑顔で頷いておく。ドサクサ紛れに呼び捨てにしてみた。魔理沙はとくに何も思っていないようなので、いいのかも。

 このおかしい月の異変を解決したら、魔理沙とももっと仲良くなれそうだし。友達が増えるのは本当に嬉しい事だ。

 思えば、紅霧異変ではなにもできず、春雪異変は勝手に飛び出して墜落。萃夢想では美味しいところを貰った気もするけど、あんまり異変という気はしなかった。

 だから、この永夜異変は全力で参加できてなんだか楽しい。魔理沙とペアになり、最初のステージから挑めている気がする。私のような存在が、こうして表舞台に立っているのだ。外見はミニアリスの格好だけど。なんだか本当にアリスになったみたいで、嬉しい。

 だって、アリスは主人公の一人だもの。魔理沙とアリスは本当にお似合いのコンビだと思う。だから、アリスである私と、魔理沙が異変を解決するのは必然である。

 そう、アリス・マーガトロイドは完璧なんだから、もっと皆から尊敬を受けてしかるべきである。普段のお礼も兼ねて、アリスの評判を上げる事にしよう。それが今の私の使命である。うん。間違いない。

 私は大きく深呼吸し、霧雨魔理沙の服を強くつかむ。

 

「どうかしたのか? まだ酔いが治らないなら、少し休憩してもいいけど」

「いいえ。なんでもない。さぁ、早く目的地を探しましょう。時間が押してるわ」

「お、いいね。それはアリスの真似だろ? 見下す目つきと表情は怖いくらいに完璧だぜ」

「当たり前じゃない。だって、私がアリス・マーガトロイドなんだから」

「……そ、そうか」

「変な魔理沙。月の魔力に当てられたのかしら。私はいつも通りでしょう?」

「…………」

 

 私が笑いかけると、魔理沙はちょっと妙な表情をした後で前を向いた。ああ、今日は本当に月が綺麗だ。偽物には実に相応しい月である。うん、とても良い夜だ。

 

 

 

 

 ――先程よりも、頭痛が激しくなっている。


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