ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第五十四話 ともだち (挿絵あり)

 今日の私は、ルーミアと一緒にお出かけ中だ。場所は、以前こっそり教えてくれた秘密の場所。そう、あの生贄の祭壇だ。

 手入れをしていなければ枯れているはずの彼岸花は、未だ元気そうに咲き誇っている。ルーミアがちょくちょく様子を見に来ては、世話をしてくれているようだ。本人はとぼけていたが。私はちょっと嬉しくなったので、ありがとうと言うと、ルーミアはそっぽを向いた。多分照れているのだ。付き合いも結構長くなってきたので、大体分かる。

 ちなみにいつものように上海人形がお目付け役である。つまり、こんな遠くまで魔力の糸を伸ばしているということになる。私からすればまさにありえないレベル。流石はアリスだ。まさにブラボー。

 

「もうお肉は寒くなるまでこないかー。残念だけど仕方ない」

「そうなんですか?」

「うん。届く期間は秋から冬までだね。それ以外であったことは一度もないかな」

 

 それもそうか。冬を乗り越えたというのに、わざわざ子供を殺す親はいないだろう。決断せざるを得ないのは、収穫が少なかった秋、もしくはギリギリまで耐えて限界を超えた冬か。『仕方がない』、『どうしようもなかった』という言葉とともに殺されるのだ。ここは楽園じゃないから、仕方がない。

 

「ま、ないならないでいいや。昼寝するには良い場所だよ。本当に静かだし」

「確かに。それに桜も結構植わってるんですね」

「でも、大分散っちゃった。ちょっと前は本当に凄かったよ。上は桜で下は彼岸花。まるで天国と地獄の境界にいるみたいだった」

「おおー。それは凄いです」

「でも今は葉桜だから諦めてね」

「残念ですが、そうします。じゃあ、来年は一緒に見ましょう。私も見たいです」

「うん。一緒に見れたらいいね」

 

 ルーミアはそう言うと、小さな闇を展開して中から袋を取り出す。なんだか液体が染み出ている。……ちょっと汚い。というか嫌な臭いが。

 

「あー。考えただけで憂鬱だけど、やるかなー」

「なにをです?」

「仕分けだよ」

「はい?」

 

 よく分からないと私は首を捻る。ルーミアは袋を四方に破くと、包みを展開する。中には挽肉みたいなのが入っていた。液体が滴っている赤肉だ。

 

「これ、なんだと思う?」

「お肉です」

「何の肉かを聞いてるの」

「まさか。……に、人間ですか?」

「半分当り。これはね、紛い物なんだ」

 

 ルーミアが前に教えてくれたことがあったはず。お願いすると支給されるらしい食料。やっぱり人間の肉なのだろうか。

 

「でも、このままだと本当に不味いんだ。だから、面倒だけど仕分けるの」

「……というと?」

「マシなのだけ取り出すんだよ。これ、二つの肉が混ざってるんだと思う。片方はそれなりに不味い肉。もう片方は吐き気を催すほど不味い肉。それが混ざり合ってるのがこれ」

 

 うわぁ。昔あったと言われる、ブレンド米ならぬブレンド肉だ。今考えると、その米の生産国の人からしたら相当失礼な話である。日本人は米にうるさいから仕方ないのだけど。ところで、今の私は日本人ではないと思う。なら日本妖怪だろうか? なんかパッとしなかった。

 

 ルーミアは溜息を吐きながら、挽肉のかたまりを解して、ほいほいと摘んでテキパキと仕分けていく。動作は速いけど、とても気が遠くなりそうな作業だ。

 

「そこまでしないと、これ、食べられないんですか?」

「……噛めば噛むほど不味くなるんだよね。空腹は紛れるけど、死にたくなるよ。仕分けた後なら、泣きたくなるぐらいで済むけど」

「そ、そうですか」

「うん」

 

 どちらも悲惨である。どれぐらい不味いのか気になるが、食べたいとは全く思わない。そもそも、ルーミアがそこまで言う不味い肉とは一体なんなのだろう。

 

「その死ぬ程不味い肉って、一体何なんでしょうね。同じ人間なんでしょう?」

「んー。河童の話だと、部位だけを量産してるとかなんとか。だから、魂が宿った事のない肉なんじゃないかな。知らないけど」

「なるほど」

 

 クローン技術を使ったお肉かな。生産工場を想像すると酸っぱいものがこみ上げてきそうだ。いや、新鮮なのも嫌だけど。

 

「普段はこんなの食べないよ。今日は、特別に見せてあげようと思って貰ったんだ。嬉しい?」

「全然嬉しくないです」

「これから団子にして焼くから、ちょっと待っててね」

「いらないです」

「タレは醤油でいいよね」

 

 ルーミアがニコニコと笑いながら、醤油の入った容器を取り出す。

 

「いらないです」

「おかわりも沢山あるよ。むしろ全部あげる」

「いらないです」

「後は、普通の団子もあるよ。これも焼こう」

 

 白い団子。こっちはお米系っぽい。これなら安心だ。

 

「そっちは欲しいです」

「燐香は我が儘だね」

「私が火を用意するので、それで勘弁して下さい」

「じゃあよろしくー」

 

 私は近くから枝やら葉っぱを掻き集め、着火。そこにルーミアの買ってきた、ホイルで包まれた団子を突っ込む。どんど焼きみたいなものだ。ルーミアは再び仕分け作業に戻っている。没頭するタイプなのかもしれない。

 

「その紛い物の肉って、誰が作ってるんでしょうね」

「偉い妖怪に命令された妖怪じゃない? 知らないし興味もないけど」

「じゃあ、どうやって届くんです?」

「妖怪ポストに、名前と欲しい量を書いて手紙を入れると、いつの間にか届いてるよ」

「そうなのかー」

 

 よ、妖怪ポスト。鬼太郎がでてきそうだけど、届くのはやばい肉。不幸の手紙とかいれたら、何が届くかわかったものじゃない。場所は聞かないようにしよう。悪戯したくなっちゃうと困る。

 

「人間の肉以外食べないっていう妖怪もいるから、そのためなんだってさ。こんなの毎日食べてたら、頭おかしくなりそうだけど」

 

 ルーミアが舌打ちしながら、肉団子を弄る。相当お気に召さないようだ。

 

「そうですね」

「でも、いつか一緒に食べようね。妖怪なら、死ぬまでに一度くらい食べた方が良いよ」

「は、はは。どうでしょうね」

「ね」

「あはは」

 

 笑って誤魔化しておいた。ルーミアも笑っている。いつか本当に喰わされそうで恐ろしい。いや、妖怪だし良いんだろうけど。食べたっておまわりさんに捕まるわけじゃない。霊夢にしばかれることもないだろう。支給品だし。でも嫌だ。食べたら変わってしまいそうで怖いし。

 

「あ、そういえば。ルーミアにはまだ見せてなかったですよね」

「なにが?」

「アリスが私に人形を作ってくれたんです。ほら、これです!」

 

 鞄から花梨人形を取り出し、じゃじゃーんとルーミアに見せる。ルーミアは仕分け作業をしながら、へーと頷いた。そこはもっと驚こうよ!

 

「……なんか反応が薄いですね。もっと、こう、すげー! とか、腰が抜けた! みたいなのはないんですか」

「だって、そこにアリスの人形いるし。見慣れてるかなー」

「まぁ、そうですけど。でも、これは私が操作するための人形なんです。凄いでしょう!」

 

 どや顔をしてみる。が、反応が薄い。もっとこう、なんかあって欲しい。興味を持って!

 

「へー。ということは、それを使って弾幕ごっこでもやるの?」

「い、いえ。実はまだ全く動かせなくて。今は、操るための糸を作る練習中です。後、私の妖力を馴染ませています」

「……そっか、そういうことか。その考え方は魔法使いらしいね」

 

 ルーミアが納得して一人で頷いている。その度に、頭のリボンがちょこちょこ動く。

 

「そういうこと? 魔法使いの考え方?」

「うん」

 

 話は終わってしまった。ルーミアの表情が一瞬、鋭くなった気がするが気のせいだろう。思いつきで行動するのがルーミアだから。

 こうなったら、いつか人形マスターになってルーミアを驚かせてやろう。人形劇とかやったら楽しそうだし。

 ルーミアは仕分け作業にひたすら没頭している。団子はまだ焼けない。というわけで、私は人形を操る練習をすることにした。時間を無駄にしてはいけない。

 

「むむむ」

「はぁ。不味そうな肉だなー。見てたら首吊りたくなってきた」

「お、落ち着いてください。それより私の人形さばきはどうですかね」

「糸が出てるだけ」

 

 肉の仕分けをするルーミアと、人形に向かって糸を伸ばし続ける私。謎の光景である。

 と、私はあることに気がついた。人形遣いといえばアリスだ。つまり、アリスになりきるというのはどうだろう。なんだか凄い上手く行きそうな気がする。

 ものは試しだ。早速やってみよう!

 

「よいしょっと!」

「急にどうしたの?」

「折角なので、アリスになりきってみます」

「なんで?」

「人形といえばアリスだからです。アリスになりきることで、私は一流の人形遣いに近づけるのです」

「なるほど。その考え方は燐香らしいね。うん」

 

 隣の上海が呆れているような気がするが、私は気にしない。両手を交差させ、全ての指から糸を伸ばすイメージをする。そしてキリッと格好よい表情を作る。複数の黒い糸は花梨人形に纏わりつき、やがて一体化した。おお。やっぱり上手くいった。前よりも伝達が強固になりそう。よし、この調子でいこう。

 

「――私は完璧な人形遣い、リンカ・マーガトロイド。この世界に操れない傀儡など存在しない。そう、私は神ですら操って見せる!」

 

 私は右手の甲を見せて、腰を捻って格好良いポーズを決めた。なんだか凄い決まってる! 花梨人形も一緒に動いてるし。私と同じポーズをしてる。やった、大成功だ!

 

「……ぷっ。ね、それって誰の真似? もしかしてアリス?」

「アリスの戦闘モードをイメージしてみました。アリスは常に完璧なんです。多分、前口上もこんな感じかなーって」

「うーん、顔というか目つきだけは似てたよ。でも、そんな馬鹿っぽいことアリスは絶対に言わないと思うけど」

 

 アリスはそんなこと言わないらしい。でも私がそう思うのは勝手である。

 ルーミアに同意するように、上海がべしべしと私の肩を叩いてくる。やけにツッコミが激しい。もしかしてアリスが怒っているのかも。

 

「えー。何が気に入らないんですか」

「今度宴会芸で見せてあげたら良いよ。多分、ウケると思うなー。アリス以外には」

「そうですか? じゃあ今度――」

 

 と、背後の草むらに気配を感じた。なんだか、必死に何かを堪えているような。怪しい!

 

「――曲者ッ!」

「ぎゃっ」

 

 謎の気配を察知した私は、妖力の糸を草むらに放出した。あっさりと捕らえられた。意図したわけじゃないのに、絡みついてるし。なんだか汎用性のある能力だった。色々と活用できそうだけど、取りあえずは尋問だ!

 

「……って、妖夢じゃないですか」

「な、なにこれ! ねばねばする! 蜘蛛の糸にしては頑丈だし!」

「何してるんですか?」

「何って、貴方の護衛ですよ! こっそりと護衛してくれってアリスさんに頼まれたから」

「でも、見事に見つかってますよ」

「燐香がいきなり笑わせるからでしょ! あ、あんな真似いきなりされたら、笑うに決まってるでしょ!」

「失礼ですね。あー、ごめんねルーミア。秘密の場所がバレちゃいました」

「いいよ別に。アリスにはバレてるし。あんまり広めないでくれれば。お肉の競争率が上がっちゃうのは嫌だなー」

「広めませんよ。大体、私はそんな肉に興味はありません!」

 

 糸を解き、妖夢を解放するとプンプンと怒りだした。子供っぽいが、言うと怒るので我慢しておこう。

 

「あ、団子焼けたみたいだよ」

「本当ですか? 妖夢は丁度良いタイミングででてきましたね。まさか、それが狙いだったんじゃ」

「そんなに意地汚くありません! 幽々子様じゃあるまいし」

 

 と、妖夢が口を押さえる。私はニヤリと笑う。ルーミアも。しっかりしているように見えて意外と迂闊。それが妖夢である。

 私が言うのだから間違いない。アリスいわく、私は見かけもおっちょこちょいだそうだ。幽香と同じような顔をしているから、それは違うと思うのだけれども。

 それはそれとして。

 

「口止め料、何にしましょうか、ルーミア」

「甘いものがいいなー」

「う、ううっ。ふ、不覚」

「あはは、冗談ですよ。さ、一緒に団子を食べましょう」

「実はね、他にも良いものがまだあるんだ。これを飲みながら食べようか」

 

 ルーミアが闇から、瓶を三本取り出す。歯で蓋を強引に開けると、中からシュワーっと泡がでてきた。これは、ビールか。

 

「外からたまに流れてくるの。幻想郷のと違って、変わった味がするのが多いんだ。見つけたらいつも買ってる」

「へー。それは凄い。ありがとうございます、ルーミア」

「わ、私は護衛中なので、遠慮させて――」

「そうですか。じゃあ言いつけちゃいますね」

「そんな横暴な!」

「はい、一本あげる」

「いや、そういう訳には」

「一本がノルマね。絶対飲み干してね」

「うう、わ、分かりました。お付き合いします」

 

 流石にルーミアの善意を断りきれなかったらしく、妖夢は瓶を受け取る。私は瓶を調べる。よく分からない言語に、ピーチの絵がついている。果汁入りのビールかもしれない。そういうのがあるのは知っている。でも美味しいかはしらない。

 

「それじゃあ、乾杯!」

「はやっ! 待ってくださいルーミア」

「嫌だよ。お腹すいたし、紛い物触ってたら気分が滅入ってきた」

 

 仕分け終えたらしい紛い物。死ぬ程不味いといっていた方を、土の中に埋めている。それほど食べたくなかったようだ。

 

「……うっ。こ、これは、中々変わった味ですね。なんというか、うん。わ、悪くはないですね。はは」

 

 妖夢が顔を顰めながら、褒めている。嘘が下手くそだ。顔がこれ以上飲みたくないと言っている。

 

「団子には全然合わないね。あはは、口当たり最悪だ。……なにこれ! 不味ッ!」

 

 持って来たルーミアがうげぇともがき苦しんでいる。後から効くタイプのようだ。私も飲んでいるから間違いない。本当に不味い。なんだこれは。

 

「うーん、不味い! 醤油との相性は最悪ですね。ねっとりと甘ったるい桃と香ばしい麦の味に、醤油味が混ざって絶妙な不協和音を奏でています。しかも生温いし。間違っても買いたいとは思いませんね」

「ちょっと。折角フォローしてあげたのに! ならなんでこれを用意したの。普通に焼酎とかでいいじゃない」

「気分かなー。それに、不味い肉には不味い酒かなって」

「あはは、ルーミアらしいですね」

 

 団子は美味しいので、それを口に入れて浄化する。幻想郷入りしたビールだけはある。これは売れない。桃は桃、ビールはビールで飲むべきだ。

 

「よし、夏は美味しいビールにしましょう。麦100%で」

「そうだねー」

「はぁ。貴方達と話してたら頭痛がしてきました」

「でも、見つかったのは全部自分のせいじゃないのかなー」

「そうですよね。第一こっそり見張るからいけないんです」

「うっ、それを言われると。いや、私は気を遣わせない様にと思って」

 

 悩める人妖夢。私は笑顔で慰める。

 

「ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分です。妖夢はとても立派です」

「燐香にフォローされると、なんだか微妙な感じが。というか全然嬉しくないし」

「失礼ですね」

「燐香にだけは言われたくないよ」

 

 妖夢が拗ねた顔で口を尖らせている。とても可愛らしい。友達になってからは、こういう所も見せてくれる。真面目だけどからかい甲斐があるのだ。弄られキャラとしての素質は十分。しかもツッコミもいける。貴重な人材だ。

 

「さーて、肉団子も焼こうっと。これも不味いんだよなー。あー、泣きそう」

 

 ルーミアが顔を顰めながら肉団子を火にくべはじめる。嫌な臭いが漂ってきたので、少しだけ離れる。妖夢も慌てて離れている。

 

「に、臭いが強烈ですね」

「うん。紛い物だからね。仕分けないともっと酷いよ」

「は、鼻が曲がりそう。あ、服に臭いがついちゃう!」

「もう手遅れです。諦めて下さい」

 

 泣きそうな妖夢の肩を叩く。必死に手で扇いでいるが、焼け石に水だろう。

 

「ね、二人とも一口どうかな。食べたら新しい世界が開けるかもよ。さ、勇気を出して」

「私は、遠慮しておきます。妖夢は食べたいかもしれませんが」

 

 私はいらない。でも、妖夢は欲しいかもしれない。だから、『私は』を強調しておいた。

 

「ちょっと、燐香! 私だっていらないよ! というか、私は半分人間だし!」

「そうなのかー?」

「当たり前だ! 私をなんだと思ってたんだお前は!」

 

 私がルーミアのネタを披露すると、妖夢が当たり前だとツッコミをいれてきた。

 

「でも、共食いすると闘争力増強になると言い伝えが――」

「そんな話聞いたことないし!」

 

 甲賀の忍犬は共食いを行なうことで闘争心を増強したらしい。そう民明書房の本に書いてあったし。だから間違いないのである。

 

「あはは。二人とも、滑稽で面白いなー」

「こ、滑稽。わ、私が滑稽?」

 

 妖怪に滑稽呼ばわりされてショックを受けている妖夢。リアクションもばっちりだ。

 

「ルーミアは意外と毒舌なんですよ」

「ただ、性格が悪いだけなんじゃ」

「うん。だって妖怪だからね。半分死んでるだけあって、妖夢は鋭いなー」

「それは関係ない!」

「妖夢はツッコミが鋭いですよね。やっぱり剣術をやっているからですか?」

「それも関係ない! 第一、剣術と何の関係もねーし!」

「勿論知ってますよ。ね、ルーミア」

「うん、知ってる。あはは、馬鹿だなぁ妖夢は」

 

 私とルーミアの連携ボケが炸裂する。流石は心の友、阿吽の呼吸である。

 

「うがああああああああああ!! お前らちょっと正座しろ! 今日こそその腐った性根を叩きなおしてやる!」

 

 妖夢が剣を抜いてぶんぶんしている。私は笑いながらそれを回避。日頃の鍛錬の成果がでている。

 それにしても今日はいつも以上に賑やかだった。この三人が集まるというのも滅多にないだろう。中々珍しい経験ができた。私は笑みを浮かべながら、アツアツの団子を頬張り、ピーチビールを口に含む。うん、やっぱり不味い!

 

「――あれれー。フランの幻が。飲みすぎたかな?」

 

 いるはずのないフランの姿が見える。しかし、そんなに頭はグルグルしていないのだが。

 

「幻じゃなくて、本物だよ。というかこんなところで遊んでたんだ! 彼岸花も咲いてるし。なんだか秘密基地みたい。本で読んだことあるよ」

「これは、アリスさんの案内がなければ分かりませんでしたね。獣道の奥でしたし」

「美鈴、私に任せてとか自信満々に言ってたくせに」

「あはは、申し訳ありません。辿りつけたからいいじゃないですか。あ、これ差し入れです」

 

 なんとフランと美鈴までやってきた。お酒を大量に抱え、蓬莱人形に先導されての登場だ。今日も遊びに来ようとしていたらしいが、うっかり寝坊してしまったとか。吸血鬼だから仕方ないのである。で、どうしても私と遊ぶと大騒ぎしたらしく、アリスが人形を操って案内してあげたのだ。アリスは本当に保母さんになれそうである。

 

「また賑やかになっちゃったなー」

「まぁまぁ。ちゃんと後片付けしますから」

 

 ルーミアが秘密の場所が秘密じゃなくなると、少しだけぼやいていた。けど、ルーミアのご馳走を取るような面子はここにはいないので問題なし。私との秘密がなくなってしまうという意味だったら嬉しいけど、そうじゃないだろう。だってルーミアだし。

 

「それじゃあ、改めて乾杯!」

『乾杯!』

 

 そんなこんなで、そのまま宴会突入である。後で幽香やアリスに怒られるのは確定だが、もうどうにでもなれな勢いである。後悔先に立たずと言うが、今の私はそんなことは気にしないのである。

 

 

 

 

 

 このままドタバタで終わるかと思ったら、最後にルーミアが笑みを浮かべながら問いかけてきた。

 

「ねぇ燐香」

「どうしたんです、そんなに改まって。ああ、大丈夫ですよ。ルーミアのご馳走のことは皆に内緒にしてもらいますから。誰もとりません」

「そうじゃなくて。ちょっと大事な話なんだけど。何かやると決めたら、必ず呼んでね」

「はい?」

「多分そろそろなんだと思ったから。今日まで、結構楽しかったから付き合ってあげる。死ぬ程楽しんだ後なら、地獄まで一緒に行っても良いし。心配しなくても、全部私が一緒につれていってあげる。だから“必ず”教えてね」

 

 ルーミアの一緒に地獄に行こうよ宣言。関○宣言とは全然関係ない。私はもちろん行きたくない。鬼に虐められるのはこりごりである。

 

「い、いきなり縁起でもない。飲みすぎですよ」

「そうなのかなー?」

「そうですよ。第一、どうせ行くなら天国の方が良くないですか?」

「あはは。それは無理だよ。絶対に無理」

「じゃあ閻魔様に一緒にお願いしましょう。二人で土下座しちゃいましょうか」

「考える事が本当に面白いなー燐香は」

 

 本当に突拍子もないことを言い出してきたものだ。『アンタ、地獄に落ちるわよ』的な感じだし。流石はいきなり人肉を食べさせようとするだけはある。でも、申し出は少し嬉しいので気持ちは喜んで受け取っておく。だって、彼女は私の最初の友達だから。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 でも“何か”って何だろう。壮大な悪戯計画かな。人里に侵入して、とっておきの悪さをしようとか考えているのかも。それなら地獄行きの意味も分かる。上白沢慧音あたりに見つかるか、巫女にとっちめられるか。どちらにせよ結末は決まっている。

 私としてはやっぱり天国にいきたいけど、多分無理だろう。じゃあ地獄ならどうかな。――それも無理な気がする。じゃあどこへ行くんだろう。

 延々と思考に耽っていたら、横からフランに声を掛けられた。なんか少し怒っている感じを受ける。

 

「……ねぇ、ルーミアと何かやるの? やるなら私も絶対一緒にやるよ。駄目って言ってもついていくから」

「うーん、そう言われても。私もなんのことか良く分からなくて」

「もしかして、誤魔化そうとしてるの?」

「違います。疑うなら、私のこの目を見てください。ね、嘘をついているようには見えないでしょう。お星様みたいにキラキラ輝いているはずです」

「……ほ、星? 星はどこにもないけど、いつも通りおっちょこちょいな顔してるね!」

「誰がおっちょこちょいやねん! ――ってそういうことじゃなくて! 私はちょっとしか嘘をつかないことで有名なんです」

「あ、ちょっとはつくんだ」

「それはもちろん。優しい嘘は許されるのです」

「嘘に優しいとかないと思うけど。というか、返事を教えて」

 

 ツッコミとボケをかましていたら、ルーミアに頬を突かれて返事を催促されてしまった。結局なんのことかは分からなかったが、私は頷いておくことにした。何かをやるとしたら、彼女達を誘わないわけがない。楽しいことは山分けだ。

 

「……良く分かりませんが、とにかく分かりました! じゃあその時は、お願いしますね。女と女の約束です!」

「うん、約束。だって、心の友だもんね。なら、最期まで付き合わないと」

「あはは、その通りです! ありがとうございます、ルーミア」

「別に礼なんていらないよ。私も楽しかったから」

「ちょっと、二人だけでずるいよ。私も一緒にやるよ! 大体、先に約束したのは私だし。もし仲間はずれにしたら噛みついてやる!」

「もちろんフランも一緒です。だって、友達ですからね。あ、ついでに妖夢も!」

「ついで扱いされても全然嬉しくねーし! って、勝手に悪巧み仲間に入れるな!」

「あはは、妖夢って結構面白いんだね。燐香と同じくらいリアクションが面白いし。隠れた逸材だったんだね!」

「そうでしょうそうでしょう。私の見る目は確かですからね。この燐香の目は誤魔化せないのです」

 

 フランが手を叩いて喜んでいる。私も負けじと囃し立てる。

 

「わ、私が燐香と同じ!? あ、ありえない! 絶対にありえないから!」

「まぁまぁ、落ち着いてください。武士は食わねど高楊枝と言うじゃないですか」

「いや、全然意味がわからないし!」

 

 宥めようと思ったけど、ついボケを重ねてしまった。妖夢は誘いうけの天才だ。リアクションに定評のある妖夢が、キレのあるツッコミを見せてくれたところで一休み。

 私はルーミア、フランと肩を組んで上機嫌に酒を呷る。ルーミアは密集しすぎで暑いと文句を言っているが、フランは完全に機嫌が戻ったようだ。妖夢は呆れた表情だけど、なんだか結構楽しそう。美鈴も穏やかに笑っているし。

 なんだか、今、凄く幸せな気がする。アリスも研究がなければ一緒にワイワイ騒げたのに。それだけが残念だ。次は絶対に誘うとしよう。

 

 

 ――結局、アリス本人が迎えに来るまで笑顔で騒いでいた私たち。いつまでもこんな日が続けば良いなぁと、私は強く思ったのだ。

 


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