ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第四十七話 鬼と彼岸花

『で、そろそろ始めていいのかな? 流石に待ちくたびれたよ』

「……あの、もしかして全然効いてないんですか?」

『うん。こそばゆい感じかな』

「……うそん」

『鬼を舐めちゃあ駄目だな。こんな草やら毒じゃあね。いくら私が分身体でも、やられる訳ないじゃん』

 

 エコーを効かせながら、拘束しているはずの両手を自在に動かすチビ萃香。私の操るオジギソウ君も頑張ってるけど、残念ながら力が及んでいない。毒液シャワーを浴びせまくってるラフレシア君も駄目だ。毒のダメージより、再生力のほうが強いみたい。

 努力賞をあげるから、私の身を守る為にもっと頑張って欲しい。進化してビオランテになるとかそれくらいの奇跡を起こすんだ!

 

『あの脳筋妖怪の娘のくせに、案外小賢しい奴だねぇ。もっとさぁ、ガツンとくるような技とかないの?』

「……で、できればこのまま引き分けがいいなぁなんて。あはは」

『やれやれ』

 

 呆れ気味に首を回すと、チビ萃香の目が一気に怒りに染まる。どうしてもガチバトルをやりたいらしい。私は凄く嫌だけど。

 私の狙いは、まきつく、どくどく、かたくなるのコンボで時間切れを狙っていたのだ。周囲の様子を見る限り、霊夢と妖夢は多分勝てる。魔理沙と咲夜は苦戦中。援護にきてくれるのは、多分妖夢だと思う。だって用心棒とか言ってたし。

 そっちの様子を窺っていると、チビ萃香が心から呆れたとばかりに肩を落す。

 

『呆れてものも言えやしない。なぁ、自分でなんとかしようって気迫を少しは見せなよ。一応妖怪だろう?』

「そ、そう言われても」

 

 戦う意義を見出せない。幽香ならともかく、それに匹敵する強さの萃香と戦っても一つも得がない。理不尽すぎる!

 

『全く、こんなガキとやらなくちゃいけないんて、私だけ貧乏クジだよ。まぁ、やる前からちょっとは分かってたけどさぁ。ああ、頭に来る!』

「じゃあ、私との戦いはやめにしませんか? 私は平和が大好きな妖怪なんで。戦いたいなら他の人がオススメです」

 

 呆れられようとなんだろうと、どうでもよい。そもそも、なんで私が戦いに巻き込まれなくてはいけないのだ。今回は私に非はないはず。幽香には殴られる理由はあるけど、萃香にはない。

 宴会に誘われたから、ちょっとお邪魔しただけ。そうしたら変な白い霧に巻き込まれてバトルに強制参加。なんとか援護を得るために時間を稼いでいるだけ。

 

『いやなこった。私は絶対にお前を潰す。実はさ、この中で一番気に入らないのはお前なんだよ。なにもかも世の中が悪いみたいな面しやがって』

「そ、そんな。今回は本当に巻き込まれただけですよ! 私が一体何をしたっていうんです?」

 

 必死に弁解する私。だがチビ萃香は全く聞く耳を持ってはくれない。鬼とはそういう生き物だから仕方ない。

 

『何もしてないけど、気に入らないんだから仕方がない。ま、理不尽には慣れてるみたいだし、軽く半殺しにされても気にしないよな? じゃあ、そろそろいくからさ。歯ぁ食い縛ってろ!』

「――え?」

 

 そう言うと、チビ萃香が腕に力を篭めてツタを一気に引きちぎる。オジギソウ君は裏拳一発で粉みじん。ラフレシア君は口から吐き出された炎で、瞬く間に焼き尽くされてしまった。

 

「よ、妖結界強化ッ!」

 

 私は慌てて結界を更に強化する。が、チビ萃香はスピードが速い。一瞬で私の懐に飛び込んでくると、そのまま左拳を突き出してくる。

 

『おらあッ!!』

「――ぐっ」

『こんな結界、鬼の前じゃ塵紙同然なんだよ!』

 

 ガラスみたいにパリーンと割れる私の結界。どうして一発で割られるの! 5ターンくらいかけて必死に強化したのに! 理解できない。

 が、結界が割れたということはそういうことで。次の一発をすでに萃香は繰り出している。私の腹部に鬼の一撃が突き刺さる。

 

「うぐッ!」

 

 腸が抉られたような凄まじい痛みだ。胃液が逆流しそうになる。口元を思わず抑えてしまった。当然隙ができる。

 腹部に再びボディブロー。さっきより重い衝撃。今度は堪えられない。私は激しく吹っ飛ばされた。だが、周囲を覆う霧がそれを許さない。私は強引にチビ萃香の前に押し戻される。

 

「う、ううっ」

『痛いからって防御を解くなよ。馬鹿かお前は。まぁ丁度良い、その腐りきった性根と甘えた根性、徹底的に叩きなおしてやるよ。あの糞甘っちょろい花妖怪の代わりにさぁ!』

「――ひっ」

 

 チビ萃香の繰り出してきた唸る剛拳。へっぴり腰になりながら横転してなんとか回避。そのまま脇目も振らずに逃走開始。アリスと妖夢に教わった手段を早速活かす。だが、どこに逃げればいいんだろう。皆、一生懸命戦ってるから助けてくれそうにないし。

 

『鼠みたいに逃げまわってるだけじゃ駄目だなぁ。ほら、もっと手を出さないとさ!』

「は、速っ」

 

 逃げようとした目の前に回りこまれた。

 

『はは、お前が遅いんだよ。なんだその情けない格好は。おらッ!』

 

 拳、拳、蹴り、拳拳拳。身体の割に重い攻撃が連続する。私も負けじと反撃を試みる。乱打戦に突入だ。

 だが、経験と地力が違いすぎる。私が放った攻撃はなんなく避けられ、カウンターの強烈なアッパーで顎を跳ね上げられる。マジで痛い。私より背が小さいから、その分良いところに決まってしまった。ああ、膝が震えるし、足が止まってしまう。

 

「う、ううっ。ち、畜生」

『だから言ったろ? そんなんじゃ駄目だって。良い機会だし一から教育してやろう。妖怪のあり方って奴をさ。生き延びられれば、強くなれることは保証してやるよ』

 

 体勢が崩れそうになる私の髪を掴み上げ、執拗にボディブローをお見舞いしてくるチビ萃香。小さいけど、威力は半端ない。しかも、一発じゃなく、反動を付けて何度も何度も叩き込んでくる。一撃一撃が脳天まで響く。もう背骨が折れてるんじゃないだろうか。内臓は無事なのかな。分からない。

 腹部ばかり狙うのは、多分徹底的に痛めつけるためだ。教育してやるとかいってたし。ゲロを吐いても許してくれないだろう。死ぬ寸前になれば、勘弁してくれるかもしれない。そのまま死んじゃうかもしれないけど。

 

「――グエえええッ」

『まだ吐く元気はあるみたいだな。よし、ここからが根性の見せ所だよ。ほら、頑張りな』

「も、もうやめて。ほ、本当に、死んじゃう」

『ああ? 命乞いなんて聞くと思うか? 私は鬼なんだよ鬼。そこんとこ分かってもらわないと。それにさ、死ぬ寸前ぐらいまでいかないと、お前、何を言っても理解しないだろ?』

 

 なんで私がこんな目に。この世からいなくなりたいと思ったことはある。さっさと死にたいと思ったこともある。だけど、こんな虫みたいに嬲られて死ぬ程の罪を犯しただろうか。犯したかもしれない。けど、それは私がしたことだったろうか? 何故私がこんなことだけ引き受けなければならない。

 

「…………」

『他の人間たちは頑張ってるぞ? ほら、お前もあいつらを見習ったらどうだ』

 

 苛烈な攻撃は更に続く。なんとか振り払おうとするのだが、チビ萃香の身体は微動だにしない。なんでこんなに力が強いのだ。鬼だからだ。私は花から生まれただけの妖怪、勝てるわけもない。

 誰か、助けてくれる人は……。妖夢と目があった。こちらに駆けつけようとしてくれているが、妖夢の対戦しているチビ萃香に阻まれている。特に親しくもない霊夢が助けてくれるわけもなし。他の皆は自分のことで精一杯だ。

 

「…………うう」

『なんだよ、まさか泣いてるのか? あー情けない情けない。そんなことだから、いつまでたっても母親の手から離れられないんだよ。本当に餓鬼だなぁ。なぁ、恥ずかしくないの?』

 

 なんでこんなことをいきなり言われなくてはならないのか。私は何か悪いことをしたっけか。ああ、私はイレギュラーだから、存在自体が罪なのだ。だから萃香は私を消しに来た。なら、このままでもいいか。楽になれるなら、それでも。

 

『人間以下とは妖怪の恥晒しだなぁ。本当にそれで精一杯なのか?』

 

 挑発してくるチビ萃香。何かがざわめく音がした。それはもぞもぞと這いずり出て、私にまとわりつく。

 

「…………」

『ん、もう覚悟を決めたのか? 潔いというか、諦めが良いというか。怒らせたら少しは意地を見せるかと期待したんだけどなぁ。……まぁお前の相手もそろそろ飽きたのは確かだ。この惨敗、精々次に活かせよなッ!』

 

 チビ萃香が私の髪を離し、右拳を限界まで振りかぶるのが見えた。これを喰らえば、私は倒れるだろう。力の加減次第では死ぬかもしれない。本当に、理不尽だ。世の中納得いかないことばかり。腹立たしい。憎らしい。殺してやりたい。私達を嘲る奴らは皆死ねば良いのだ。なんだか靄が出てきたような。そうだ、お前達も少しは手伝え。私たちが“私”なんだから。

 チビ萃香の右拳を私たちは受け止めた。

 

『な、なんだ、これ。くそっ、うごかねぇ! お前、何しやがった!?』

「――思い上がるな。私たちはもう誰にも見下されはしない。そして思い知れ」

 

 右拳を握りつぶすと、そのまま霧散する。驚愕するチビ萃香。

 

『こ、拳が潰されたッ!?』

 

 このままでは終われない、絶対に終わらせないと、私の足元からドロリと黒い彼岸花たちが現れる。私達の憎悪と怨嗟の象徴。私はそれに突き動かされるように、チビ萃香を押し倒す。――私達は、まだまだ終わらない。

 

『な、なにをする気――』

「ふふ、捕まえた。鬼がどれだけ頑丈なのか、ちょっと噛み千切らせてもらおうかしら」

 

 口を開けて、チビ萃香の首筋を噛み千切る。これは本体じゃないから、殺そうが何をしようがどうでもよいだろう。

 肉片をぺっと吐き捨てると、首元を掴んで地面にたたきつける。顔面をなんども踏みつけて、大地と一体化させてやる。分身といえども、ダメージは現れるらしい。鼻血を流して、苦しそうだ。私達の痛みを思い知れ。

 

「土に還る気分はどう? 土は栄養が一杯ですから、さぞかし気持ち良いでしょう。ああ、羨ましい」

『――お前、それが本性か!! へへっ、やっと面白くなってきた! できるなら最初からやりやがれってんだ!』

「面白い? 私はそうでもないですよ。こんなに血塗れで、本当に不愉快極まりない。だから、お前も同じようにしてやる」

『ぐうっ! て、てめぇ!』

 

 起き上がろうとするチビ萃香の腹部を、全力で踏みつける。ようやく弱ってきたようだ。分身だから、耐久力も大したことはないのだろう。人間が一対一で戦えてるのがその証左。

 よくよく考えると、こいつの拳にはそれほどの威力はなかった気がする。あれだけ急所をやられたのに、結局腹部は貫かれていないし。手加減したのか、できなかったのかは知ったことではない。

 幽香とは違う。あいつの拳は私の意識を一気に刈り取るのだ。こいつは所詮分身。冷静になれば大したことはない。このままぶち殺すことに決定だ。どうせ分身体だろうし、全く問題ない。というか今更遠慮はいらないだろう。こいつは私を殺そうとしたのだから。原作通りに進もうが進まなかろうが知った事か。

 

『く、首がやられたせいで力がでねぇ!!』

「サービスで3秒待って上げましょう。さぁ、見苦しい言い訳をしたいならどうぞ? 地べたに這い蹲りながら、負け犬の遠吠えって奴をね」

『こ、こんの餓鬼ッ、さっきから馬鹿にしやがって! 後で覚えてろよ! 分身体でも私は私だからな! 怒りは引き継ぐぞ!』

「あっそ。それじゃあさようなら。――消え失せろ」

 

 チビ萃香の胴体を踏みつけたまま、至近距離で妖力光線を発射。螺旋を纏った貫通能力に優れる技だ。光線はチビ萃香の顔面を大地ごと抉り取り、地中深くへ突き刺さっていった。貫通技だから直撃しても見た目がいまいち地味だ。もっと激しく炸裂するような技も考えたいもの。フランならば相談相手に良さそうだ。世界を気分良く壊せる技を考えようと誘えば、喜んで乗ってくることだろう。

 首を失った身体は、暫くすると霧散して、本体へと戻って行った。

 

「ふぅ。――と、挨拶代わりに一発撃っておこう。なんだか無性に苛々するし」

 

 ニヤリと楽しそうに酒を飲んでいる萃香。私は蕾を展開して、妖力弾を連射してやる。かなりの威力のはずだが、萃香は右手一本でその全てを弾き飛ばした。

 

『あははははは、元気が良いねぇ!! だが、そう慌てるなよ。物事には順序ってものがあるだろう?』

「気に入らないから撃っただけ。何か問題がある?」

 

 今気づいたけど、口調が幽香そっくりになってる気がする。まぁいいか、誰が見てるわけでもないし。気に入らない奴は全員ぶっ殺してやる。最初からそうしていれば良かった。邪魔する奴は全員皆殺しだ。

 

『その答え、妖怪らしくて実に良いね。なんだ、あの花妖怪、中々立派な教育してたんじゃないか。要らぬお節介だったかな。いやぁ、馬鹿にして悪かったね。すまんすまん。心から謝るよ』

「謝らなくていいから早く続きをやりましょう。なんだか、どんどん力が漲ってくるんですよ。ふふ、全部お前にぶつけてやるわ。今なら八つ裂きにしてやれそう」

 

 なんだか自分が幽香になったみたいで気分が良い。ああ、力があるってこんな気分なんだ。

 

『はは、確かにそうみたいだね。うーん、本当に良い気迫だよ! よし、丁度終わったみたいだし、一度仕切りなおそうか!』

 

 萃香が豪快に手を叩くと、チビ萃香たちが主の下へと戻っていく。その数は二体。魔理沙と咲夜が戦っていた相手だ。

 後ろを振り返ると、悔しそうに地面でひっくり返っている魔理沙、そしてメイド服がボロボロになった咲夜の姿があった。彼女達は負けてしまったようだ。相性が悪かったから仕方がない。それに人間は弱くて当たり前だ。

 

「……アンタ、派手にやられてたけど、大丈夫なの? というか、目つきと髪がヤバイわよ」

「燐香ッ! その姿は……」

 

 霊夢と妖夢が近寄ってくる。どうでもいいことだ。私は一人で戦える。鬼を倒して幽香も殺す。それで全ては完了だ。

 

「ああ、二人は勝ったんですか。おめでとうございます。でも、ここからは私が引き受けますよ。化物には化物をぶつけておくのが一番です。八つ裂きにするので、そこで馬鹿みたいに見ていてください」

 

 私が嘲笑しながら命令すると、霊夢の目つきが危険な角度になる。鬼の前に巫女でも別にいいか。

 

「ふざけんな。妖怪を倒すのは私の仕事よ。それに、アンタの無茶を見逃す訳にもいかないし。ほら、少し休んでいなさい」

「ああ、うるさい。人間風情が私に偉そうな口を叩くな。死ぬ程目障りよ。どけ」

 

 しっしっと追い払う。良い気分が台無しである。やはり私は人間が大嫌いだ。

 

「なんですってぇ! アンタ、誰に口聞いてるのよ!」

「本当に喧しい巫女。たかが人間のくせに……って、あれ?」

 

 と、勢いで喋っていたら、眩い光がはじけ、ぼやけていた意識がはっきりとしてきた。ざわついていた感情が、静まっていくのが分かる。黒い彼岸花たちが地面に吸収されていく。

 正面には、眉が危険な角度になっている霊夢と、凄く心配そうな表情の妖夢。あれ、なんで私は今こんな偉そうなことを言ったんだろう。というか、普通に殴られるんじゃ。

 

「あ、あはは。あ、あの、違うんです」

「燐香、も、戻った?」

「……たかが人間がなんですって? ああ? もう一遍言ってみろ。全力でぶん殴ってやるから」

 

 胸倉を掴まれる。私は直ぐに手を上げて降参する。霊夢の顔がマジギレ一秒前って感じ出し。

 

「い、いえ。あはは、なんでもありません。お、おかしいな、つい調子に乗って思ってもない事をベラベラと。ご、ごめんなさい!」

 

 ハイテンションモードだったのだろう。うん。じゃなければ修羅巫女霊夢にあんな喧嘩を売るようなこと言うわけないし。よし、なかったことにしよう!

 霊夢は暫く私を睨んでいたが、溜息を吐いて解放してくれた。やった。巫女にも優しさのカケラが存在していたらしい。

 

「なんなのよもう。ったく、不安定すぎるのよアンタは。とてもじゃないけど、あの鬼とは闘わせられないわ。ほら、大人しくここで見てなさい!」

 

 霊夢に両肩を掴まれると、強制的に座らされてしまう。

 

「妖夢、アンタはこいつが勝手なことをしないように見てなさい」

「え、で、でも、そういうわけには」

「でもじゃないの。また面倒なことになりかねないから、あのチビは私が潰すわ」 

『おーい。それはないだろう。私の分身の末路を見ただろ? あんな真似されてなかったことになんてできるもんかい!』

「やかましい! お前は私が徹底的にシバいてやるわ。オニだかなんだか知らないけど、好き勝手しやがって」

『うーん、まぁいいか。アンタ相手でも結構楽しそうだし。あ、気が向いたら全員でかかってきていいからさ。倒れてる奴も遠慮しないでいいよ。不意打ち大歓迎さ。立ち上がる元気があればだけどね、あはははははは!!』

 

 萃香が魔理沙たちを嘲笑すると、腰を落として両手を構える。立ち向かうのは霊夢一人だけ。

 

「あんまり人間を舐めるんじゃないわよ。忘れ去られた妖怪の分際で」

『私たちが怖いから忘れたんだろう? 徒党を組んで卑怯な真似ばかりするのがお前達だ。……と、餓鬼相手にムキになっても仕方ないか。ほら、偉そうなこと言ってないで、とっとと掛かってきな。見習い巫女が!』

「妖怪のくせに良い度胸じゃない。その首とって、見世物にしてあげるわ。最後に勝つのは人間なのよ!」

 

 霊夢と萃香の激しい戦いが始まる。弾幕ごっこの範疇はとうに超え、なんでもありの乱闘みたいになってるし。

 博麗霊夢には天賦の才がある。そう易々とやられはしないはず。だが、伊吹萃香の拳は一撃当れば命取り。多分殺さないとは思うけど、半身不随とかにはなっちゃうかもしれない。博麗霊夢は人間だからだ。本来の萃夢想と流れが変わった以上、何が起こるか分からない。私のせいかといわれると、色々と言い訳したい気持ちで一杯だ。だから、なんとか霊夢を助けたいのだけども。

 

 妖夢に視線を送る。妖夢は霊夢のことが気がかりなようだが、私から離れようとはしない。気持ちは嬉しいけど、さっさと加勢しないと、まずいと思うんだけど。

 

「あのー」

「燐香、大丈夫なの?」

「全然平気ですよ。それより――」

「髪の色が、凄く黒くなってたけど。あの時と同じに」

「あはは、私の髪は赤色ですよ」

「うん、それは知ってるけど」

「何かの見間違いでしょう。それか妖夢の目が悪いかです」

「…………」

 

 妖夢が納得いかないという顔をしている。が、私の髪は正真正銘赤色である。彼岸花と同じ、血のように赤い色。間違えるはずもない。

 それに、今はそんなことを話している場合じゃない。霊夢一人では流石に辛いだろう。いや、修羅の巫女だから大丈夫なんだろうか。分からない。

 

「そんなことより、早く加勢しないとまずいと思うんですけど。幾ら霊夢さんでも、一人で鬼退治は難しい気がします。相手もなんか本気になってますし」

「う、うん。それは分かってるんだけど、入るタイミングが」

「簡単ですよ。助太刀します! って言って入ればいいんです」

 

 妖夢は深々と頷くと、二刀を強く握り締める。

 

「そ、そうか。そうだよね。でも、燐香は一人で大丈夫?」

「勿論大丈夫です」

 

 私も立ち上がる。少しぐらいは手伝うことができるかもしれない。

 

「ちょ、ちょっと。貴方はここにいなさい! 勝手に動かないで!」

「言われなくてもここにいますよ。ただ、ちょっと試したいことがあるので。私が合図したら、霊夢さんに知らせて避けるようにしてください」

「何かするつもりなの?」

「それは、見てのお楽しみというやつで。効くかどうかも分かりませんしね」

 

 私は、とある物体に視線を送る。うん、折角だし試してみよう。上手く言ったら恩の字だ。色々と悪口を言われたし、痛めつけられた借りもある。とても腹立たしい。その怒りははっきりと覚えている。しっかりと返してやらないと気が済まない。

 ――私は意外と執念深いのだ。

 




?「私にいい考えがある」

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