ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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12月31日は、34、35話を連続投稿しております。
まだの方は、34話からお読み下さい。


第三十五話 さようなら

 ――完全決着!

 

 

 私はいわゆる、サイバイマンにやられてしまったヤムチャポーズでくたばっていた。いわゆる負け犬だ。

 しかし、予想に反してそれほどダメージは深刻ではない。そこは弾幕ごっこ、霊夢も加減してくれたのだろう。言葉遣いは不良学生っぽいけど、本当は優しい良い子なのかもしれない。幻想郷はやっぱり平和だった! 勝負の後はお友達になりましょう!

 私はさっさと立ち上がると、無言で降りてくる霊夢に、笑みを浮かべて声をかける。

 

「……お見事です。私の負けですね」

「全然そうは見えないけど。今の、もしかしてわざと喰らったの?」

「逃げられないように、貴方が針で牽制したんじゃないですか。お蔭で私はボロボロです。お気に入りのマフラーまで、汚れてしまいました」

 

 私は苦笑すると、服についた埃を払う。なんだか、見る見るうちに霊夢の顔が険しくなっていくので、ちゃんと謝る事にした。いきなり友達は無理そうだし。勝負の後は仲直り、というか喧嘩をしたわけではないのだけれど。

 

「どうして、もっとあの蕾を出さなかったの? あれを際限なく出し続けていれば、多分、私が負けていた」

「無理を言わないでください。あれは本当に疲れるんです」

「スペルでもないのに?」

「はい。それに、空間を塗りつぶすような戦い方はスペルカードルールに相応しくない。美しさと思念に勝る物はないのでしょう?」

「…………」

 

 納得してくれない霊夢。確かに、あれを1000個ぐらいばら撒けばそれは圧倒できるだろう。だが、そんなもの維持できるわけもない。その論法は、さっきの巨大陰陽玉を100個撃ち続けろと同じようなもの。無理を言ってはいけない。

 そして、逃げ道をなくして勝っても仕方ない。あの蕾は所詮通常弾幕。スペルじゃない。私の力じゃない気もするし。

 

 ――というわけで。

 

 

「とにかく、私は3回被弾しました。スペルも完膚なきまでに打ち破られました。私の負けです」

 

 3回被弾したら負けというのが定番ルールらしい。一発でノックアウトされたらもちろん負けだ。ここらへんは結構曖昧。ストライクゾーンが変化する審判みたいなもの。曖昧だから幅がでる。知らないけど。

 それと、スペルカードを全部使い切っても負け。切り札みたいなものだから、なくなったら潔く負けを認めないと駄目なのだとか。通常弾幕で粘るなどという見苦しいのは美しくない。アリスがそう言っていた。変化球を用いた戦い方も美しくない気がするけど、それは良いらしい。アリスゾーンは意外と私に甘い。

 

「あの。負けを認めたんで、そろそろ許してくれませんか。あと、私は異変の黒幕ではないので」

「…………」

 

 それでも無言の霊夢。なんだか、『全然やりたりねぇ』と言った表情。まさかまさかの第二ラウンドが始まるのだろうか。負けた私が泣きの一回を要求するのは分かる。しかし、勝った方が納得いかないからといって再戦を求めるというのは聞いた事がない。

 

 だが、常識に囚われない幻想郷ならありうる話だ。修羅道ではまかり通ってしまう。故に、修羅道などいうものは一刻も早く廃れた方が良い。修羅をつぶすには修羅。霊夢、貴方ならできる。頑張って。

 

「いやぁ、中々見ごたえのあるバトルだったな。最後はこっちも手に汗握ったぜ」

「……アンタ、そっちの魔法使いと勝負するんじゃなかったの?」

「弟子の初陣を見守りたいとか言って駄々をこねるんだから仕方ないだろ。しかし霊夢、ルーキー相手に結構本気の面してて面白かったぜ」

「ルーキー? どういうことよ」

「こいつ、これが初の弾幕勝負だってよ。はは、それに泣く子も黙る巫女様が被弾させられるとはな。いやぁ、当分酒の肴にできそうだ」

「……うるさいわね。アンタも、こいつとやれば分かるわよ」

 

 霊夢と魔理沙が楽しそうにじゃれついている。それをやんわりと制止する咲夜。見ていても当分は飽きないと思う。が、先ほどから霊夢の視線がかなり恐ろしいので、私は目を必死に逸らす。

 と、アリスが近づいてきて、私の頭を撫でてくれた。更に抱擁つき。勝ってないけど、なんだかハッピー。

 

「初めての弾幕勝負で、あれだけできれば大したものよ。しかも、博麗霊夢相手にね。このまま鍛錬を積んでいけば、いつか必ず勝てるはずよ。本当に良く頑張ったわ」

「ありがとうございます。全部、アリスのおかげです」

「そう言ってくれて嬉しいけど、私は二割ぐらいよ。後は全部幽香の修行によるもの。含むところはあるでしょうけど、それは認識しておきなさい」

 

 全く認識したくないので、その言葉は聞き流しておいた。強くならなくていいので、もっと優しくして欲しいものだ。ま、無理だろう。和解の道は既に諦めている。無駄なことはこれ以上しないのである。

 

「チビスケ……じゃなくて燐香だっけか。私は霧雨魔理沙だ。今度会ったら、私と勝負しようぜ。何事も経験を重ねていかないとな。私の修行相手にも丁度良さそうだし」

 

 魔理沙が人懐っこい笑みを浮かべてくる。先ほどとは違い、なんだか打ち解けやすい。やっぱり、幻想郷はこうでなくては。間違っているのは極一部なんだろう。うん。

 

「何を偉そうに。馬鹿がうつるから、この子にあまり近づかないで。パチュリーから色々と聞いてるのよ。このこそ泥」

「人聞きの悪いことを言うなよ。あれは盗んでるわけじゃない。ちょっと借りてるだけさ。私が死ぬまでだけどな!」

「減らず口ばかり。本当に呆れるわ。燐香、絶対にこいつは見習わないように」

「器が小さいなぁ。都会派のくせに」

 

 今度はアリスと魔理沙が楽しそうにおしゃべりを開始した。聞いていて飽きないので、どんどんやってほしい。なんとなく輪から外れて、咲夜の隣へと移動する。

 

「皆、楽しそうですね」

「そう? 私にはただ喧しいだけに思えるけど」

「そうだ、一応、二人を止めてくれてありがとうございました。最終的に、私はボコボコにされましたけど」

 

 紅魔館で、私を庇って霊夢と戦ってくれたことを感謝しておく。その戦闘は原作にはないはずだし。

 

「ごめんなさいね。あいつらは話を聞かないから。本当に仕方のない連中よ」

 

 咲夜が溜息を吐く。そうだ、今のうちにお礼を言っておこう。

 

「それと、いつも紅魔館ではありがとうございます。騒がしくしてしまってごめんなさい」

「気にしないでいいわ。賑やかなのはいつものことだし、お嬢様も結構楽しんでいらっしゃるから。貴方が来ると、妹様も本当に喜んでいらっしゃるの。だから、何も気にしないで」

「フランは大事な友達ですから」

「……そういうことを素直に言えるのが、多分妹様が心を開かれた理由なのでしょうね。本当、私には真似できないわ。……はぁ」

 

 咲夜がなんだか暗い表情だったので、元気だすようにと背中を擦っておいた。ちなみに、私に敬語を使わないのは、気を遣わなくて良いと何度も言ったからだ。咲夜の方が年長だし、仕事も出来るし、あらゆる面で優れている。よって、私がしつこくお願いしたところ、ようやく普通に話せるようになった。

 

 さて、これでお開きかーと思ったら、霊夢に頭を掴まれた。幽香お得意の鷲掴みである。ぐぎぎと、顔の向きを変えられる。

 

「待ちなさい。この異変、本当にアンタらの仕業じゃないのよね?」

「違いますって」

「フランドールやルーミアは本当に遊びにきてたらしいぜ。アリスは燐香の先生だってよ」

「……なによ。完全な無駄骨じゃない。アンタ、私に喧嘩売ってんの?」

「売ってきたのはそっちです」

 

 私が思わず漏らすと、霊夢が反応する。しまった。巫女は地獄耳だった!

 

「文句があるなら、今すぐ受け付けるけど」

「いえ、やっぱりありませんでした。あはは」

 

 この論法、幽香にそっくりである! いつの間にか私が弾劾されているという恐ろしい会話術。で、私がこのように反論するとパンチが飛んでくるのだ。これぞ風見流の話術。

 

「止めなさい霊夢。貴方もとっくに気付いているんでしょうに。だったら早くそっちへ向かいなさい。私達は異変とは無関係よ。それでもまだ疑うのなら、私が相手をする」

 

 アリスが私の前に庇うように立つと、霊夢が御幣を面倒くさそうに下ろした。

 

「……ふん。夜分に邪魔して悪かったわね。私たちの勘違いだった。謝るわ」

「全然謝っているようには見えないのだけど」

 

 アリスが突っ込むが、霊夢は気にも留めない。そして、私に視線を向けてくる。

 

「それと、アンタ。リベンジならいつでも受け付けるから。なんだか勝った気がしないからね。次はもっと徹底的に叩き潰してやるわ」

「いや、だから私は負けを認めて――」

「私も一度被弾したから、今回は引き分けみたいなものよ。第一、顔が綺麗過ぎて気にいらないの。敗者に相応しい顔をしてもらわないと、退治したって気分にならないの。分かるかしら?」

 

 ちょっとデレたと思ったら、次はもっとボコボコにするぞという予告を頂いた。非常に難解な相手である。パンチがとんでこないので、風見流話術の使い手としては、まだまだ初級である。達人になると、口を開く前に顔面に拳がめりこんでいる。恐ろしい。

 と、とにかく、これも霊夢流の挨拶と拡大解釈することにして、私も相応に応じることにした。話が終わらないし!

 

「なら、次は絶対に負けませんよ。博麗の巫女」

「……私の名前は博麗霊夢よ。博麗の巫女なんて名前じゃないの。それをしっかり頭に叩き込んでおきなさい、チビ妖怪」

「私の名前はチビではなく、風見燐香です。これから、宜しくお願いしますね、霊夢」

「私は全然宜しくしたくないわ」

 

 私が差し出した手を、軽く御幣であしらわれてしまった。妖怪と巫女の平和条約交渉はこうして決裂したのであった。おわり。

 

「いやぁ青臭いねぇ。見てるだけで身体が痒くなる!」

「あ?」

「さーて、面白いものも見れたし次の容疑者を締め上げにいくか――って、痛ッ! いきなりなにするんだ!」

「アンタが馬鹿なこと言ってるからよ。さっきのも合わせてのお仕置き」

「お前、いつか覚えてろよ?」

「嫌よ。私は忘れっぽいから」

「さっきと言ってることが違うぞ!」

 

 魔理沙と霊夢のじゃれあい。見ていて飽きない。うーん、平和っていいなぁ。

 

「はぁ。私はもう帰っていいかしら」

「ご主人様に異変解決を命じられたんだろ? だったらきっちりと働けよ」

「どちらかというと、妹様の我が儘というか。まぁいいわ。黒幕にはこの鬱憤を全力でぶつけてやるから」

「お、頼もしいねぇ」

「というか、アンタたちはもう帰っていいわよ。邪魔だから」

「へへ、ここまで来て抜け駆けは許さないぜ?」

 

 

 なんだかんだで結論がでたらしく、霊夢たち三人は空へとあがりそのまま飛んでいってしまった。嵐のような人間たちである。毎日がさぞかし賑やかで輝いていることだろう。本当に羨ましいものだ。

 

「さて、私達は帰りましょうか。紅茶とお菓子を用意するから、少し休みなさい。汚れはお風呂に入って、と言いたいところだけど」

 

 そろそろ帰る時間が迫っているはず。だが、私はお願いしてみることにした。

 

「今日は少し、遅れてもいいんじゃないでしょうか。なにせ、博麗霊夢と勝負したんですから」

「……まぁ、そうかもね。仕方ない、言い訳は私がしてあげるから、お風呂に入って少しのんびりするといいわ」

「ありがとうございます!」

 

 ――計画通り。アリス、ごめんなさい。

 

 

 

 

 私はアリスの家に戻り、お風呂に入って汚れを落とした後、部屋へと戻る。私の荷物を置かせてもらっている部屋。ちょっとした仮眠を取れるようにと、わざわざベッドまで用意してくれている。最初は、アリスの家に住まわせてもらっているようで、本当に恐縮してしまったものだ。

 アリスはというと、多分作りおきしてあったアップルパイを温めなおしているのだろう。ついでに紅茶も淹れてくれているはず。このままそれを楽しみたいところだが、私にはやらなければならない計画がある。

 

「贄符『身代わり人形』」

 

 妖力と私の能力を用いて身代わり君を作成。いわゆるドッペルゲンガーの劣化版。でも喋ったりといった高度なことはできない。単純な行動すらできない役立たず君である。まともに歩けないし。しかし寝た振りは結構上手い。何もしなくていいから。

 布団を被せてしまえば、簡単には見破れないだろう。外見だけは完璧だ。最初に作ったときは、あまりに挑発的な表情だったので反射的に蹴飛ばしてしまったほどだ。自分の顔なのに。多分幽香アレルギーである。

 

「し、死体みたいで凄い気持ち悪い」

 

 だらんとした自分を動かすというのはとても気分が悪い。一度も瞬きしないし、息もしないしで本当に死体みたい。しかも冷たいし気色悪っ!

 それはともかくとして、身代わり君をベッドに寝かせて、布団を被せておく。これでしばらくはもつだろう。アリスは疲れて眠ってしまったとしか思わないはず。たたき起こすほど、アリスは乱暴じゃない。仕方のない奴だといつものように困った笑みを浮かべるだろう。そのことにちょっとだけ罪悪感が湧く。しかし、ここで止めたらもう機会はない。今しか、悪魔の手から逃れるチャンスはないのだ。

 

「これを握らせてっと」

 

 身代わり君の手に、前もってしたためておいた手紙を持たせる。行動させた場合はすぐに妖力が尽きて、身代わりは消えてしまうが、この状態ならば三時間はもつはずだ。アリスが異変に気付いたときには、私はすでに冥界だ。冥界は西行寺幽々子の領域。さすがの幽香も乱暴はできまい。晴れて私は自由の身というわけ! 色々あったけど、最終的には完璧だ!

 

「……名残惜しいけど、行かないと。アリス、今まで親切にしてくれて本当にありがとう。別に今生のお別れじゃないけれど。あー、もしかしたら、会えないかもしれないか」

 

 私は悲しいけれど、アリスにはその方が良いのかも。面倒ごとが減るし、自分の夢に掛ける時間も増える。

 お邪魔虫である私がいなくなれば、アリスには再び平穏な毎日が戻る。そうすれば、魔理沙や霊夢たちと交流を始めるようになるだろう。それが正しい在り方だ。そこに私たちの居場所はない。イレギュラーは消えなければならない。

 私は冥界でそれをのんびりと眺めているとしよう。見てるだけで十分に幸せである。冥界には亡霊たちがうようよいる。私が一人増えたくらいで目くじらを立てる者もいまい。駄目だといわれたらその時に考えよう。地底もあるし妖怪の山もある。

 

 私は精神を集中して丁寧に隠形術を掛けた後、極めて慎重に窓を開ける。荷物は持ったし、忘れ物はない。心残りはあるかもしれない。それは仕方ない。時間が解決してくれるはず。

 意を決すると、私は冷たい空気を身に浴びながら全力で夜空に向かって飛び立った。幸い地図はある。目的地は冥界だ。

 

「――さようなら」

 

 

 

 

 

『親愛なるアリスへ。貴方がこの手紙を読んでいる頃、私はこちらの世界にはいないでしょう。でも心配しないで大丈夫です。私は、本来私がいるべき場所にいると思います。暫くはそこでのんびりしているつもりです。今まで迷惑をかけっぱなしで、本当に申し訳ありませんでした。最後に楽しい想い出が一杯つくれたのは、全部アリスのおかげです』

 

『裏庭に咲かせてしまった彼岸花は、迷惑でしたら全て片付けてしまってください。普通のより丈夫なので、私同様に見苦しく生き続けると思います。火に弱いので根まで燃やすのがおすすめです。お体にはどうか気をつけてください。今までありがとうございました。アリスの夢が叶うことを心から祈っています。アリスなら絶対にできると信じています。また会える日まで、さようなら。 ――追伸、お母様には三途の河に落ちたとでも伝えておいて下さい。それで納得すると思います。――風見燐香』

 




某アポリアさん風にターンエンド!

皆さん、良いお年を!



来年は更新速度は落ちます。
急ぎすぎても仕方ないですしね。
楽しくないと意味がないのです。

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