ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第三十三話 柘榴の実

『災いは 望まなくても やってくる』、風見燐香、心の一句。

 

「ねぇ、ひどく満足気だけど、何を書いているの?」

「この世の真理について記してみました。どうでしょう」

 

 アリスに見せるが、反応はいまいちだった。残念。

 

「……それ、わざわざ書き残すような事かしら」

「いつか誰かがこれを読んだとき、『ああそうだよねぇ、分かる分かる』みたいな共感を得たいのです。そのときのためですね」

「全く。だったらもっと前向きなことを書きなさいよ」

「後ろ向きでも全力なのが私です」

「本当に意味が分からない。早く方向転換するように努めなさい」

「春になったら努力します」

「今からよ」

 

 そんな感じでくだらない話を続ける私達。ああ、良い感じに心が満たされる。

 今は夕食後の、リラックスタイムを満喫中だ。私はソファーにもたれかかり、だらーっとしている。後二時間ぐらいしたら家に帰らなければならない。勿論アリスに送られてだ。

 そろそろ面倒だろうから、一人でいいと言っているのだが聞き入れてくれないのだ。私がふらふらとどこかへ行くと確信しているらしい。うむ、当っている。

 

「そういえば、前に人形が欲しいといってたじゃない?」

「ええ、できれば上海たちみたいな可愛らしい人形を――」

「それはまだだけど、先に別のを作ってみたの」

 

 アリスが、私に掌ほどの人形を差し出してきた。なんだろうこれ。布製の、ヒトガタの人形。可愛いとかそういうのではなく、何だか妙な力を感じる。

 

「お守り代わりに持っているといいわ。貴方は無茶をしかねないから、何かの役に立つかもしれない」

「もしかして、これは凄い効果があるとか?」

「そんなに大層なものじゃないけどね。でも、良い事があるかもしれないわ」

「……ありがとうございます、アリス。本当に大事にします!」

 

 私は大喜びしながら、服のポケットにしまいこむ。これぐらいの大きさなら携帯できそうだ。

 

「喜んでくれて嬉しいわ。ああ、安心して。それとは違う、可愛いらしいものも作っているからね。近いうちに渡せると思う」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

 アリスがどことなく満足そうに紅茶を飲んでいると、急にその動きが止まった。

 

「…………」

「アリス?」

「……ちっ」

 

 顔を顰めて、不快そうに舌打ちするアリス。中々見ることができない表情だ。アリスはいつも優しいから。悪戯したりして怒られている時も、こんなに不機嫌そうではない。仕方ないなぁみたいな感じ。

 

「どうかしたんですか? 急に顔が怖くなりましたけど」

「……招かれざる客人よ。わざわざ揃っておでましみたい。大丈夫よ、私が対処するから。貴方はそこで休んでいなさい」

 

 アリスが上海人形と蓬莱人形を従えて立ち上がる。なんだか本気オーラが出ている。最初に出会ったときのアリスと同じ。威圧感バリバリで、ちょっと怖い。

 しかし、招かれざる客人とは誰だろう。狼男みたいな化物が集団でやってきたらやだなぁ。魔法の森は魔境だから、何がいてもおかしくない。そんな中で逞しく寝起きしているルーミアは尊敬に値する。本人は、強い相手に会ったら、闇をばら撒いて逃げてしまうと笑っていたが。なんとなくだが、本気を出したルーミアは戦闘力が高い気がする。いつかスカウターで計ってみたい。あれが幻想郷入りするのはいつになるだろう。強い妖怪のを計って、ボンっていうのをやってみたい。

 

「…………」

 

 険しい顔をしたアリスが、人形を操って玄関のドアを開けさせる。不意打ちに備えているのだろう。本当に問答無用なら、容赦なく家ごとぶっ飛ばされている気もする。そんなことはアリスも承知しているはず。

 ――そうか、外にも見張り人形がいるのかもしれない。だから、アリスは招かれざる客人とやらに気付いたのだ。流石はブレインに定評のあるアリス・マーガトロイド。私の先生は本当に凄い。

 

「夜分に恐れ入ります、アリス・マーガトロイド。お会いするのは、餅つき大会以来ですね」

「一体何の用かしら? 躾のなってない野犬を二匹もつれて尋ねてくるなんてね。瀟洒なメイドの行為としては、相応しくないんじゃない?」

「本当に申し訳ありません。返す言葉もございません。ですが、幾ら言っても聞かないもので。何せ野犬ですから」

「誰が野犬よ」

「へへ、お前と咲夜の事だろ。片方は狂犬、もう片方は悪魔の狗だ。そして私は素敵な魔法使いさんだから、そこはよろしく頼む」

「私が狂犬ならアンタは野良犬でしょ。キャンキャン吠えてないで、さっさと用件を済ませるわよ」

 

 霊夢が凄みを利かせるが、魔理沙も一歩もひかない構え。見ている分には飽きないが、こちらに降りかかってこないことを祈るしかない。

 

「あ? この魔法使いの前に、お前からつぶしてやってもいいんだぜ、霊夢?」

「やれるもんならやってみなさいよ。私に10連敗中のくせに」

「へへっ、あの日、そんなに私に負けたのが悔しかったのか? でもなかったことにはできないぜ。お前との勝敗表には、きっちり黒星がついているからな。ざまぁみろ」

「……勝負は時の運よ。私だって、たまには負けることもあるわ。たった一回負けたからなんだっていうのよ」

「けけ、そう言ってる割には顔が引き攣ってるぜ。本当は悔しいんだろ? 認めろよ。魔理沙なんかに負けて悔しいですぅってな!」

「よーし、ここで100回潰してやるわ」

「へへ、やってみな」

 

 霊夢と魔理沙が掴みあう勢いで言い合っている。十六夜咲夜はそれを一歩離れたところから疲れた顔で眺めている。

 私はというと、物陰に隠れながらその光景を興味深く見守っていた。この前のパーティでは遠かったが、今度は声が聞こえる距離だ。誰よりも輝いている彼女達を、こんなに近くで見られる私は幸せ者である。あの東方の自機勢たち。サインをもらってもいいぐらいだ。私の動悸が早くなる。

 3人ともただの人間なのに、本当に生命力に溢れている。実に羨ましい。頭蓋を叩き潰してやりたいくらい羨ましい。咲き誇っている人間はやっぱり違うと、私は心から納得するのだった。

 

「ちょっと二人とも。これじゃ話が進まないわ。アリスも待っているし、まずは話を――」

「それじゃあさようなら。お休みなさい」

 

 アリスは素早くドアを閉めて、なかったことにしようとした。が、景気の良い音と共にドアが乱暴に開かれる。

 

「おい、話は終わってないのよ、七色馬鹿が。この異変について、ちょっと事情聴取させてもらおうと思って。ちなみに一番怪しい冬の妖怪はすでに潰したから、アンタのとこは二番目よ。ま、ここが本命だと思うんだけどね」

 

 霊夢が睨みを利かせながら、アリスに迫る。

 

「悪いけど、言っている意味が理解出来ないの。お目出度いのはその服だけじゃなくて、頭までなのかしら。こんなに寒いというのに、春度が高くて羨ましいわ。ま、見習いたくはないけれど」

「ふん、中々言うじゃない。流石は異変の黒幕といったところ?」

「早く吐いた方がいいと思うぞ。狂犬の名は伊達じゃないからな」

「――ああ?」

 

 魔理沙が茶々を入れると、霊夢の顔が歪む。うわぁ。確かに狂犬だ。これは修羅道間違いなし。幽香とも今すぐ殺しあえる逸材だ。私がスカウトなら、ウチのジムにこないかと声を掛けるだろう。ほら、ボクシングなら不慮の事故で片付くし! 未来の幻想郷チャンピオンはきみだ!

 

「おー怖い怖い。咲夜、こいつにちょっと首輪つけてくれよ。噛みつかれそうだ」

「嫌よ。霊夢に絡まれると面倒くさいし」

「魔理沙、アンタ後で覚えておきなさいよ」

「嫌だね。それに私は忘れっぽいんだ」

「大丈夫よ、私がしっかり覚えているから」

 

 霊夢が魔理沙にガンを飛ばしている。やばい。ここの霊夢は、本物の修羅巫女だ。しかも、何故かさっきから私を威圧してくる。大物オーラならぬ、本気巫女オーラで。それは私に効果抜群なのでやめてください。死んじゃうから。助けてアリス!

 耐える為に私は気合を入れてみる。霊夢の顔がさらに剣呑なものになる。ひぃ。

 

「まぁそれは一旦置いとこうぜ。大体さ、冬を延ばして何の得があるんだよ。まさか、寒いのが好きなのか?」

 

 魔理沙が話を逸らすために、アリスに尋問を開始した。多分、何をしようが後でボコられると思う。修羅の人々は執念深いから。私は身をもって実感している。

 

「空気が澄んでいるのは嫌いじゃないけどね。かといって寒いのが好きな訳じゃない」

「流石は田舎の魔法使い。侘び寂びを語るねぇ。でもよ、今はとっとと霊夢に詫びて、早く春にしてくれってとこだな。世間の皆様の迷惑だ」

「生憎だけど私は都会派よ。とにかく私は知らないの。この異変にも何ら関係がない。私も暇じゃないから、とっとと帰ってくれない?」

 

 アリスがいつになく冷たく言い放つと、霊夢が御幣を肩でトントンとやりはじめる。スケバン(死語)みたいでマジこわい。ヤンキー座りしそうなほど目つき悪いし。

 

「とぼけても無駄よ、魔法使い。もう調べはついてるのよ。アンタの家で、妖怪やら吸血鬼が集まって怪しいことをしているってね」

「はぁ?」

「紅霧を撒き散らしたレミリアの妹に、闇をばら撒く人食い妖怪。更にはイカれた花妖怪の娘まで来て何かやってたんでしょ。怪しいことこの上ないわ。疑われるには十分な理由があるってことよ」

 

 眉を顰めたアリスが咲夜へと視線を向けると、申し訳なさそうに謝罪している。フランが来ても別に怪しいことなんてしてないし。咲夜なら説明できるはずなのに。

 

「私は勘違いだと何度も言ったんですけど、こいつら聞かなくて。とりあえず叩き潰してから判断すると言い張って。それで、抵抗した私とお嬢様は、先ほど叩き潰されたというわけです。本当に申し訳ありません。妹様の代わりに謝罪いたします」

 

 咲夜がまた頭を下げてくる。咲夜は普通に話が分かりそうな感じ。魔理沙もイメージ通り。ヤバイのは霊夢だ。こいつはやばい。もしかして、幽香の娘って本当はあっちがなるはずだったんじゃ。中指立てて挑発するポーズが凄い似合いそう。鬼巫女だ!

 

「はぁ。謝罪は一応受け取るけど、厄介事まで押し付けられた気分なのは何故かしら」

「とにかく、異変の臭いを辿ってここまで来たってわけさ。さぁ、洗いざらい全部はいちまいな! いまなら酌量の余地がキノコの胞子ぐらいはあるかもしれないぜ?」

 

 魔理沙がニヤリと笑って、アリス、そしてこちらへと視線を送ってくる。手にはおなじみのミニ八卦炉。その凛々しい姿に思わずみとれそうになるが、それは駄目だ。マスタースパークはやばい。私は知りませんとばかりに、顔をそむける。

 

 ――それにしても、話が微妙におかしなことになっているような。こんなに敵愾心バリバリの展開だったっけ? それとも途中経過はともかく、結果が同じなら問題ないのだろうか。分からない。

 私の計画では、この後アリスが霊夢か魔理沙と弾幕勝負、彼女達はそのまま冥界へレッツゴー。異変は無事解決し、冬はおしまい、めでたしめでたし。私は冥界へ亡命成功して悠々自適の生活を送る。うん、多分完璧だ。完璧だよね?

 

「私が何を説明しても、どうせ聞く耳をもたないのでしょう? どう答え様がやる気みたいだし」

「それはそうよ。私は疑わしきはまず罰するの。何より、妖怪連中が集まって何かしているというだけで、退治する理由には十分過ぎる。さぁ、早く外に出なさい。夜が更ける前にとっととやりましょう」

 

 疑わしきは罰す! 修羅の国の裁判制度は恐ろしい。

 そして、全員表へ出ろと、にこやかに親指で外を指し示す霊夢。頑張れアリス! 先生のクンフーを見せてやれ!

 

 ……霊夢の視線が、明らかにこちらを向いていることは見ない事にする。私は空気、私は空気、私は空気、私はエアー。そう、空気と一体化するのだ。映す価値なしになるのだ。……そろそろなれたかな?

 

「じゃあ、私は同じ魔法使いと勝負するかな。どうも、さっきから私を下に見ているようで気に入らないしな」

「アンタの好きにしなさい。いずれにせよ、アイツは私が直々に叩き潰すって決めてるから。というか、あっちが黒幕っぽいし。相変わらず人間を見下しやがって、本当にムカつくわ」

 

 巫女オーラがますます増大している。この人達、戦闘力をコントロールできるみたい。ゴゴゴゴゴと、なんか嫌な音が。

  

「あの子に危害を加えることは許さないわ。燐香を預かっている私には責任がある」

「なんだよそれ。まさか、妖怪を集めて寺子屋ごっこでもやってるのか?」

「そうだと言ったらどうするの?」

「大笑いするだけさ。興味深いのは確かだけど、おかしいと思うぜ」

 

 魔理沙が愉しそうに笑う。アリスの顔はなんだかいつも以上に怖い気がする。やばい、闘争の空気が漂ってきた。

 霊夢が面倒くさそうに溜息を吐く。

 

「先に言っておくけど、殺しはしないわ。スペルカードルールに則り、本気で勝負するだけ。あっちがそれを守るかは知らないけれど」

「…………」

 

 アリスがこちらを向き直る。

 

「燐香、貴方はどうしたい?」

「え?」

「貴方が嫌だと思うなら、私がこいつらと勝負する。貴方には絶対に指一本触れさせない。もし、貴方がこの巫女と弾幕勝負をしたいなら、それも構わない。命に関わるような事態には絶対に私がさせない。だから、貴方の好きな方を選びなさい」

「…………」

 

 アリスが選択肢を提示してきた。私が悩み始めると、霊夢が不機嫌そうに口を挟んでくる。

 

「何を勝手なことを。アンタたちに選択権なんてないわよ」

「貴方にもないわよ、博麗霊夢。決めるのは燐香であって、貴方ではない」

「ああ?」

「幾ら吠えても無駄なことよ。私に脅しは通じない。絶対にね」

 

 腕を組んだアリスと、御幣を握る霊夢が、顔を限界まで近づけて睨みあっている。キャッキャウフフな雰囲気とは正反対。あれは目を逸らしたら負け的なやつだ。実際に見るのは初めてである。放っておいたら、なんか殺し合いになりそうな。アリスの戦闘力もあがってるし、なんかちょっと顔が修羅っぽい。

 

「えっと」

 

 ど、どうする。どうする、私! 本当は凄くいやだけど、実際問題断れるのだろうか。ここで断ったら、アリスが魔理沙と霊夢と連戦、もしくは二対一になる。この霊夢は普通にやるかもしれない。流石のアリスも二人相手では無理だろう。きっと負けてしまう。その後に私はボコボコになる。

 というか、アリスにそんな酷いことはさせられない。そもそも、こうなったのは私がここにいるからだ。だから、フランとルーミアがやってきて、原作の流れ以上に面倒なことになっている。

 つまり、私が出て行って、霊夢にボコボコにされれば良いのである。簡単な話だった。ここはサクッとやられてしまおう。

 だが普通にやられるのでは味気ない。なにしろ、私の初の弾幕勝負なのだ。大事なのは気分、弾幕はアクション! そして、私は千の仮面を持つ少女。最後まできっちり演じて見せよう!

 

「いいですよ、アリス。私がやりますよ」

「……燐香」

「それに、さっきから随分と好き勝手を言ってくれましたしね。たかが人間の分際で。子供のお遊びはここまでってことを、骨の髄まで分からせてやりましょう」

 

 幽香を真似て、拳をぼきりとやってみせる。ちょっと音がしけっていたのが残念だった。

 

「それはこっちのセリフよ、糞餓鬼が。骨の髄まで、人間の怖さを思い知らせてやる。最後に勝つのは、いつだって人間なのよ」

「燐香。本当に、大丈夫?」

「全く問題ありませんよ」

 

 心配そうなアリスに軽く手を挙げ、スペルカードを装備して表に出る。そして、月と星明りが照らす夜空へと飛び立ち、博麗霊夢と相対する。私の赤いマフラーが、風になびく。今の私はかなり絵になっていることだろう。写真に残しておきたい。何故ならこの後ボコボコに負けちゃうから。

 

「さてと、叩き潰される準備はできたかしら。紅魔館では随分と舐めたことをしてくれたわね。その分も含めて徹底的に潰してやる」

「なんのことです? 生憎と覚えがありませんね」

「……とぼけやがって。私を有象無象扱いしたことよ」

「それが何か?」

「気に入らないから潰す、それだけ。アンタみたいな木っ端妖怪に舐められてたまるかってのよ。私が上で、アンタは永遠に下ってことを魂に刻み込んでやるわ。そうしたら二度とあんな面できないでしょうし」

「なるほど。よく理解できました」

 

 私は頷いた。多分、酷い目に会うだろう。だが、なんとなく戦意も湧いてきた。なぜ理不尽な怒りをぶつけられなければならないのか。全部この巫女のせいである。というわけで、私も弾幕勝負の範疇で全力でいくことにする。こいつは人間版幽香みたいなものだ。遠慮はいらない。

 

「では私も聞きますが、そちらの準備は大丈夫ですか?」

「はあ? 何のよ」

 

 霊夢が怪訝そうな表情を浮かべる。やっぱり言うのをやめようかなぁと思ったが、言ってしまおう。場が盛り上がった方が面白いだろうし。

 

「あっちの世界へ逝く準備ですよ。貴方にも友人くらいはいるでしょう。その方々へどうぞ遺言を書き残してきて下さい。悔いが残ったりして、怨霊にはなりたくないでしょう? 幻想郷の人柱さん」

 

 なんだか勝手にぽこぽこと口から挑発の言葉が出てくる。最後の言葉なんて、私は考えもしなかったことなのに。これは本当に私が喋っているのだろうか。よく分からない。だが、一ついえるのは、今の言葉で霊夢の顔が般若みたいになってしまったこと。超怖い。プレッシャーが百倍ぐらい増した。

 

「……私が人柱ですって?」

「違いましたか?」

「違う。私は部品じゃない。私は私よ」

「そうですか。貴方が言うなら、そうなんでしょうね。ふふっ」

 

 あれれー、地雷を踏んだ? わ、私のせい? その通り! でも口から勝手に出てしまっただけ。そう、もうひとりの私か私達のせいなんだ。いわゆるゴルゴムの仕業みたいなあれ。でもそれって結局私じゃん!

 

「……口だけは達者ね、チビ妖怪のくせに。その生意気な顔、花が咲いたみたいにしてやろうか? 花妖怪の末路には丁度良いんじゃない?」

「ふふっ、先ほどの貴方の言葉を返すとしましょう。『それはこちらのセリフよ』、でしたか」

「調子に乗るのもいい加減にしないと、本気で殺すわよ?」

「……私を、私達を殺す? ククッ、思い上がるな人間め、そして自らの脆弱さを思い知れ!」

 

 親指を首に当てて横に走らせた後、下へ向ける。首を掻き切ってやるぞという挑発だ。一度やってみたかったポーズ! でもここまでやるつもりはなかった。勢いって怖い!

 

「ふん、言葉はもういらないみたいね。なら遠慮なくいくわよ!」

 

 戦意むき出しの霊夢は、陰陽玉を纏わせ、御札を取り出してきた。これが霊夢の戦闘態勢か。隙が全然ない。幽香と対峙するときとはまた違うプレッシャー。なるほど、博麗の名は伊達じゃない。

 私も戦闘用彼岸花『蕾』を六個作成し、周囲に浮かべる。こいつは色々な角度から妖力弾を放てる優れもの。簡単にいうと、ファンネルもどきである。だけど操作は超大変なので、適当に撃たせるぐらいしか出来ない。命中率は悪いので、ばら撒き弾幕用である。数は力だ。

 

「貴方の墓前には、私の彼岸花を供えてあげましょう! 精々あの世で悔やむが良い、博麗霊夢!!」

「泣いて詫びさせた後、土に返してやるわ! このクソチビ妖怪がッ!」

 

 さて、名乗りはこんなものだろうか。なんか場の勢いがラスボス戦ぽいけど。残念ながら私はラスボスではない。ダミー君である。いわゆるはずれボス。本物のボスは白玉楼にいるよ!

 

 しかし、いきなり霊夢が相手とは思わなかった。全くついてない。本当に、災いは向こうからやってくる。ならば私はいつも通りそれに流されるだけ。でもちょっとは頑張ってみよう。アリスがあんなに一生懸命教えてくれたのだから。それに、多分幽香も。あれは多分違うだろうけど、今だけはそう思っておこう。

 

 ――そう、私の初めての弾幕勝負は、これからだ!




みかん

かしこみ巫女の次回作にご期待下さい。

うそ

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