ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

27 / 89
第二十七話 或る冬の一日

 今日の私は紅魔館へと向かっている。アリスが図書館で調べ物をしたいと言い出したからである。アリスは勉強家だなぁと感心して見送ろうとしたら、貴方も来るのよと背中を掴まれた。人形と楽しく遊んでいようと思ったのに。

 私は留守番をしていると言ったのだが、フランドールと約束したことを指摘されたので、ぐぬぬと唸ることしかできなかった。フランと遊ぶのが嫌なわけでは勿論ない。むしろもっと遊んだり話したりしたいぐらい。だけど。

 

 ――だって、外マジで寒いんだもの。ちょっとみぞれっぽいの降ってるし。こんな中元気に外を飛びまわれるのはチルノとかレティぐらいじゃないかな。なんでか分からないけど身体は少しだるいし。

 風邪でもひいたかなと思ったけど、そうじゃないので安心しなさいとアリスに言われた。見るだけで大丈夫と分かるなんて、やっぱりアリスはできる女だった。

 

 実を言うと、昨日ルーミアのとっておきの場所に行ってから、少し記憶が曖昧だったりする。ルーミアが美味しく食事をしていたのは覚えているけど。後は珈琲をご馳走になった記憶もある。多分寒さが限界を超えて、私の思考能力を奪っていったのだろう。雪山で遭難した人が、幻を見るようなあれだ。雪って怖い。雪山の怪談とか思い出すだけで震えちゃう。妖怪でも怖いものは怖いのである。

 で、気が付いたら自分の家にいたからもっと怖かった。目覚めると同時に風見幽香の顔とか、ホラーってレベルじゃない。私は本気の悲鳴をあげたのだった。

 額が割れそうなほど痛むのは、幽香がデコピン(と呼ぶにはあまりに激烈な威力)を放ったから。目覚めの一発には効きすぎであった。

 

「もうすぐ到着よ。ほら、そんなに死にそうな顔をしないの」

「さ、寒いです。そういえば妖怪って凍死するんですか?」

「しないし、させないから安心しなさい。大体、そんなに着込んでいる上に、カイロまで持ってるじゃないの」

 

 何枚も重ね着をし、マフラーとコート、頭にはアリスから借りた毛糸の帽子。ふわふわの手袋。これだけつけても寒い。特製カイロも身につけているが、寒い。

 

「だるまぐらい着込まないとダメですね」

「別の妖怪になるからやめておきなさい」

 

 そんなこんなで凍死することなく、紅魔館に到着だ。名残惜しいがアリスの手を離す。実は、飛ぶときはいつも手を繋いでいるのだ。ちょっと嬉しいけど恥ずかしい気もする。

 アリスが気にしていなければいいのだが。本当は面倒とか思われていたらやだなぁ。って、アリスはそんな人じゃなかった。嫌なことは嫌だとはっきり言う人だし。だからこそ、私はアリスを尊敬している。私の鍛錬ももうすぐ終わりになるんだろうなと考えると、本当に寂しい。でもいつまでも一緒にいたら迷惑なのは間違いない。私は私の居場所を探さなければ。いわゆるベストプレイス。

 

 美鈴がこちらに気付き、軽く手を上げてくる。私も元気よくそれに応える。美鈴も流石に防寒着を身につけ、帽子を纏っている。こんな日にまで門番とは、本当に大変だろうなと思う。――と思ったら、門の傍に屋外用ストーブが設置してあり、メイド妖精門番隊がそこで暖を取っていた。皆でより固まって、おしくら饅頭状態。あれなら寒くないし楽しそう。

 

「こんにちは。ここまで寒かったでしょう」

「いきなりでごめんなさい。ちょっと、図書館に用があって。一応、昨日手紙を送ったのだけど」

 

 伝書鳩でも送ったのだろうか。そういえば、たまに鳥が餌をもらいにやってくる。

 

「ええ、聞いています。パチュリー様も首を長くしていると思いますよ。最近は礼儀がなってない来客ばかりでしたしね。本当に困った人間で」

「例の魔法使い?」

「ええ、十割方そいつです。あれ、魔法の森にすんでいるとか言ってましたけど。会ったことはないんですか?」

「ないわね。森は広いし、特に用事もないし」

「まぁ、勝手に物をもっていく奴ですからね。目をつけられないほうがいいですよ。パチュリー様は気に入ったみたいなんですけど。全く、私の仕事は増えるばかりですよ」

 

 美鈴が疲れたように溜息を吐く。多分霧雨魔理沙のことだろう。本を死ぬまで借りるといって乗り込んでいるらしい。そのうち会えるといいなぁ。魔理沙はきっと眩しいだろう。彼女達は普通の人間とは違うのだから。

 

「と、お嬢さんもこんにちは」

「こんにちは、美鈴さん」

「はは、私の事は美鈴でいいよ。妹様のお友達なんだし。あと、この前の彼岸花、まだ元気に咲いてるよ。ウチの花と同じで活きがいいんだね」

 

 定期的に水とか日光、それに妖力を与えておけば生命力が続く限り枯れることはない。なぜか。それが私の彼岸花だから。私に似て意外としつこい生命力を持っている。流石に枯れたかと思っても、まだ生きている。しぶとすぎる。ちなみに飢餓救済用の植物らしいので、食べてもいいけど多分美味しくない。ちゃんと処理をしないと毒もある。自分を生み出した花を食べるというのは、なんだか妙な話なので食べようと思ったことはない。いずれルーミアが味を教えてくれるだろう。

 

「さあさあ、立ち話もなんですのでどうぞどうぞ。あ、妹様はまだ寝てるけど、そのうち起きると思うよ。ちょっと、館の中は荒れてると思うけど、気にしないでね」

「なにかあったの?」

「ええ。まぁいつものじゃれあいというか。迷惑な姉妹喧嘩の後始末がまだ終わっていないんです。あの咲夜さんが半泣きでしたからね」

「最近大人しかったと聞いていたけど」

 

 フランとレミリアの本気のじゃれあい。巻き込まれたら死んじゃいそうだ。弾幕なら見てみたいけど、あんまり近くは嫌である。カゴメカゴメとかなんかこっちにも被害でそうだし。

 

「そうなんですけどね。アリスさんの手紙が来てからすぐに始まりましたよ。ほら、燐香はお嬢様とまだ会ったことがないでしょう? だからお嬢様が『フランの友なら、私自ら盛大に歓迎してやろう!』と高笑いされた瞬間、妹様の本気の魔法が顔面に直撃しまして。その後はもう滅茶苦茶に」

「……それは、ご愁傷様ね」

「というわけで、妹様は戦い疲れて眠っています。時間切れで判定負けしたお嬢様は、咲夜さんと一緒に不貞腐れながら神社へ遊びに。いやぁ、今回の妹様は本当に激しかったですねぇ。妬けちゃいますよ」

 

 何故かニコニコと嬉しそうな美鈴。レミリアは多分本気じゃなかったのだろうが、フランはプッツンしていたらしい。本気のフランとか、想像したくない。友達なので意味もなく怖がらないが、戦うことにはならないように願いたい。

 実は、レミリアと咲夜には今日は会えるかなと思っていたりしたのだが、今回もニアミスのようだ。ちょっと残念だけど、それを表にだすのはフランに失礼なので、たくさん遊べることを喜ぶことにしよう。

 

「ああ、また話しこんでしまいました。ささ、早く中へどうぞ。すぐに暖かい紅茶を用意します」

「ところで、貴方はこんな寒い中も門番しているの?」

「それが仕事ですから。あそこで妖精と暖を取る事は許されてるし、いつもより多めに休憩はいただけるので問題はありません。寒い中でやる修行もなかなか乙なものですよ」

「――だそうよ、燐香。貴方も家で毛布にくるまってないで、外で元気に飛び回ってみたら? 子供は風の子とも言うみたいだし」

 

 アリスが悪戯っぽく笑う。最近はこうやってからかいの言葉もかけてくる。毛布に包まっているのは事実である。アリスの家は暖かいけど、毛布に包まると更に幸せになれる。くるまりながら上海たちと遊ぶのはまさに至福の時間である。幸せすぎてそのまま寝てしまうぐらいに。ダメ妖怪道まっしぐらである。

 

「遺憾ながら前向きに善処する方向で検討を重ねてみます。それまでは現状維持の方向でお願いします」

「そういう言葉ばかり覚えて。本当に仕方ない子ね」

「あはは」

 

 コツンとアリスに頭を軽く小突かれた後、美鈴と談笑しながら中へと入っていく。

 館の中は本当に結構ひどい状態だった。アリスと私は、うわぁと言うことしかできなかった。応急修理はところどころしてあるが、それでもまだひどい。補修材がいたるところに山積みだ。咲夜もこれでは大変だろう。

 私は瀟洒なメイド長と妖精メイドたちに多いに同情するのであった。

 

 

 

 

 

 

 図書館に入った瞬間、声をかけてきたのはまたもや小悪魔。美味しいお菓子を用意してあるとぐいぐいと押し付けてきた。お菓子はマドレーヌ。食べたらすごくやばそうな気がするが、食べないのも失礼である。

 

「さ、挨拶代わりにどうぞ召し上がって下さい。貴方のためだけに作った特製品なんです」

「い、いただきますから。そんなにくっつけないでください。べ、ベタベタする」

「どうぞどうぞ。がぶっと一口でいっちゃってください。全部食べれば効果はバッチリ――」

「そんなに美味しいなら貴方が食べなさい」

 

 と思ったら、アリスがそれを取り上げて、逆に小悪魔の口に強引に流し込む。アリスも意外とパワータイプだった。

 小悪魔は一瞬呆然とした後、ぎゃーと悲鳴を上げながらどこかへといってしまった。面白い悪魔である。と私に洒落にならない悪戯を仕掛けてくるのだけはやめてほしいが、多分無理だろう。彼女は悪魔だから。

 

「まったく。全然躾けられてないじゃない」

「ごめんなさいね。いくら言っても矯正できないの」

「言って駄目なら、身体で覚えさせなさい!」

「後できっちりやっておくわ。この前徹底的にやったのだけどね。美味しそうな獲物を前にすると忘れちゃうみたい」

 

 妖精メイドが紅茶セットを持ってくると、パチュリーが私達に淹れ始めてくれる。漂う馨しい香りがじつに良い感じだ。

 

「紅茶を淹れるのはあまり得意ではないのだけれどね。咲夜がいないから我慢してちょうだい。妖精よりはマシなつもりよ」

「何も入ってないならそれで十分よ」

「比較対象がひどすぎて、褒められても全く嬉しくないわ」

「まぁそうでしょうね」

「相変わらず陰険ね。人形ばかり相手にしているとそうなるのかしら」

「本が恋人の根暗に言われたくないわ」

「人形とどっちがマシかしら」

「試してみる?」

「今日は寒いからやめましょう。さ、紅茶をご馳走するわ」

「それはどうもありがとう」

 

 言葉の応酬。本気の悪口ではなく、軽いジャブみたいなものだ。その証拠に顔には敵意がない。

 しかし、魔女の会話は実に面白い。聞いていて全然飽きない。ここに魔理沙が加われば完璧だ。私はそれを端から眺めていたい。きっと賑やかだろうなぁ。

 

 ――と、派手な音とともに図書館の扉が開かれる。現れたのは目の下にくまをつくったフランドールだった。明らかに疲れている。羽についている七色の宝石もいまいち光沢が鈍い。多分、寝不足だろう。

 

「い、いらっしゃい。ずっと待ってた。待ちくたびれた。本当は寝ないで待ってようと思ったんだけど、魔力消耗がひどくて寝ちゃったんだ。でも大丈夫。私は吸血鬼だからね。全然平気」

 

 全然大丈夫そうに見えないが、それだけ私が来るのを楽しみにしてくれていたみたい。こんなに嬉しい事はない。私は笑顔で挨拶する。作り笑顔ではなく、本当に嬉しくて勝手に出てしまった。

 

「こんにちは、フラン。約束通り、遊びにきたよ」

「驚いた。本当に守るとは思ってなかった。皆口だけだからね。燐香も絶対にこないと思ってた。でもあの時は楽しかったからそれでも良いかなって思ってた。ほら、私は頭がおかしいから近寄りたがらないし。避けられても仕方がない」

 

 フランが捲くし立ててくる。でも顔はちょっと嬉しそう。

 

「フランは大事な友達です。それに、友達との約束は絶対に守る」

「……そう。うん、本当に嬉しい。じゃあ、とりあえず紅茶を飲もう。パチュリー、私のもお願いしていい? 喉がカラカラ」

 

 フランがふらふらしながら、私の隣に腰掛ける。本当に眠そうだ。

 

「もう準備しているわ。お願いだから、図書館で暴れないでね。本を傷つけたら怒るわよ」

「言われなくても分かってるよ。だから昨日もここでは暴れなかったでしょ」

「そうね。危うく館ごと壊れるかと思ったけど。少しは自重しなさい」

「全部アイツが悪いんだよ。私に友達ができたことが気に入らないんだ。燐香を取り上げて、私が悔しがる様を見たいんだよ。ああ、思い出したらなんだかムカついてきた。やっぱり今から追いかけて決着をつけたほうがいいかな。頭と心臓にそこらへんの杭を打ち込めば消滅するかも。うん、紅茶を飲んだらちょっと行ってくる」

「やめなさい。大人気ないわよ」

 

 姉はレミリア・スカーレット、妹がフランドール・スカーレットのはず。なのに大人気ないといわれるフラン。レミリアはどんな妖怪なんだろう。

 

「それはアイツでしょ。私が咲夜に話しかけるとヘソをまげるくせに。私のものは直ぐに取ろうとする。そのくせ、自分ばかり友達を増やしやがって。博麗の巫女とも仲良くしてるんでしょ? ああ、本当に頭にくる」

「貴方の言う事も分かるわ。レミィのあれは病気に近いからね。性癖とも言うんだけど」

「本当? パチュリーは分かってくれるんだ」

「ええ。だから、貴方が大人になれば良い」

「私は十分に大人だよ。アイツとは違う」

 

 フランが不機嫌そうに舌打ちする。だがパチュリーの言葉は続く。

 

「そうかしら? なら言わせてもらうけど、レミィをアイツ呼ばわりするのがまず大人気ない。もう少し心に余裕を持ちなさい。そしてお友達を少しは信用しなさい。貴方に必要なのは、心の余裕と自分への信頼。そうすればレミィの行動や言動に一々腹を立てることもなくなるわ」

 

 むぅとフランが口ごもる。パチュリーがなんだか先生みたいである。というか、アリスは私の先生。つまり、私とフランはいわゆる問題児的な生徒ということだ。

 

「さ、紅茶でも飲んで落ち着きましょう。怒っていると疲れますよ」

「……うん、そうだね。怒り続けるのは馬鹿馬鹿しい。大事な時間がもったいない。アイツ――じゃなくてお姉さまのために時間を使うのはまさに時間の無駄無駄無駄」

 

 私がフランの背中を撫でてあげると、大人しく頷く。そして、一口飲むと、目を輝かせてこちらを振り向く。

 

「それで今日は何をする? もう弾幕ごっこのやりかたは覚えたの? それともこの前の負けの借りを取り戻したい? 私は沢山時間があるからなんでもいいよ」

「そうですね、何して遊びましょうか」

「燐香。私はちょっとパチュリーに相談したいことがあるの。だから、二人で遊んでいてくれる?」

「分かりました」

「あ、じゃあ外に出ようか」

「そ、外ですか? 超寒いですよ。外に出たことを後悔するくらいに」

 

 私は止めた方がいいと忠告するが、フランは首を横に振る。

 

「だからだよ。今日って太陽でてないでしょ。たまには外の空気を吸って地下の居心地の良さを再確認したいの。敢えて不幸に触れることで、普段の何気ない幸福を再認識できる」

 

 なるほど、そういうのもあるのか。だが、完全に引き篭もりの思考である。家で毛布にくるまっている私に何かを言う資格はないのだが。

 

「進んで辛さを味わい、日常生活を更に新鮮に過ごせるようにする。流石フランは目の付け所が違いますね。目から鱗です」

「そ、そう?」

「ええ。私には全く思いつきませんでした。アリスの家ではゴロゴロ転がっていてばかりでしたので。あの幸福感から逃れるのは難しいものです」

 

 偉そうに胸を張っていたら、アリスにジト目で睨まれた。

 

「……美鈴の目が届く範囲なら構わないわ。ただし、館から遠くへはいかないように。約束できる?」

「うん」

 

 パチュリーが真剣な表情で念を押す。フランが頷く。ほとんど地下で篭っていたはずだが、最近は外に出ることを許可されているのか。この前は確か封印がされていたはず。魔理沙や霊夢が来るようになってから何か変わったのかもしれない。

 

「ならいいわ。ちゃんと厚着をするように。吸血鬼が風邪なんて洒落にもならないわ」

「分かったよ、もう。パチュリーは細かいなぁ。別に、遠くになんか行きたくないし」

「必要なことを言っているだけよ」

 

 そう言うと、パチュリーは紅茶を口にする。彼女も彼女なりにフランを気遣っているようだ。

 

「あ、美鈴を標的に雪合戦でもしよっか。人間や妖精と違って頑丈だから色々やっても平気だよ」

「わ、分かりました」

「石とか入れちゃう? 威力倍増するよね。魔力も篭めればもっと楽しくなりそう!」

「それは止めましょう。ちょっと可哀相です」

「じゃあぎゅーっと握って硬くしよう。美鈴びっくりするかもね」

「驚きのあまりひっくり返ると思います。物理的な意味で」

 

 本当にかわいそうな美鈴。でも、本人は修行の代わりになると喜ぶかもしれない。フランも冗談を言っているだけで、実際はもっと和やかな感じになるはず。だってこんなに可愛いのだから、本気で殺傷力がある弾をぶん投げるはずがない。当てちゃうぞー、やめてー、みたいな。そんな感じになる。うん。

 そんなキャッキャウフフの雪合戦になることを祈っていた私は、そのすぐ後に自分の考えの甘さを思い知るのだった。

 

 これは本当の意味の雪合戦だ。投げる速さが、超やばい。“轟ッ!!”みたいな効果音がついてるし。というか、雪弾の硬さも超ヤバイ。圧縮されすぎ! それを美鈴は必死の形相で逃げている。私もたまになげるが、フランのとは弾速が違う。私が安物銀玉鉄砲なら、フランのはスナイパーライフル。着弾したところが凄まじい勢いで爆発してるし。本当に魔力が篭ってるの? あれには絶対に当りたくない。弾けちゃいそう。

 美鈴の顔が泣きそうになってきたところで、私は雪だるまを作ろうと大声で提案したのだった。これなら死者がでることはない。

 

 フランも飽きていたらしく、簡単に頷いてくれた。美鈴は私に向かって、深々と頭を下げてきた。美鈴は汗だくで顔は真っ赤であった。しかし、最後まで避けきるとは流石は武術の達人である。

 

 ――その一時間後、紅魔館の門前に巨大な雪だるまが完成したのだった。暇そうな妖精メイド門番隊も途中から参加していたので、予想よりも巨大なものになってしまった。融けるまでには相当の月日がかかることだろう。

 

「中々見事なものができましたね!」

 

 私が歓声をあげると、美鈴が納得したように頷く。妖精たちも歓声をあげている。

 

「紅魔館に相応しい出来栄えです」

「皆で頑張った甲斐があったね。あ、これをお姉様ということにしてぶっ壊す?」

 

 フランがその手に、燃え盛る炎の剣を作り出す。私は慌てて止める。

 

「折角作ったのにもう壊すんですか? もったいないですよ」

「それもそっか。じゃあこのまま飾っておこうか」

「なら、皆で飾り付けをしましょう」

「それ、いいですね! 妹様も一緒にやりましょう」

 

 

 私は雪だるまに赤い彼岸花を咲かせて飾り付け。妖精たちが適当に木の枝を突き刺し、美鈴が雪だるまに目を模した岩を埋め込み、フランがレミリアの悪口を胴体に書き入れて終了。紅魔館仕様の雪だるまは、冬の間中、ここに陣取り続けるだろう。記念に一枚、写真でもとりたいところである。

 実に充実した時間を送ったと、私とフランは固い握手を交わした。美鈴がうんうんと、私とフランの肩に手を置いた。実にお姉さん的な振る舞いであった。その直後、フランに『門番の癖に生意気だ』と殴られていなければ。

 




次はイベント発生です。上、中、下予定。まだ春雪異変じゃないです。
本当に偶然でクリスマス期間にかかりそう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。