コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS R2~蒼失の騎士~   作:宙孫 左千夫

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③巻 3話『裏 の 裏』

 白いパイロットスーツに着替え、政庁地下にある格納庫に入ると、技術少佐の階級章をつけた男が近寄ってきて敬礼をした。

「クラブ、S兵装で準備完了しております!」

「行けるかな?」

「いつでも!」

「ありがとう」

 ロイは笑顔で応じて、奥へと進む。

 広い格納庫では優秀な整備士達が所狭しと駆け回っている。そして、それら見下ろす鋼鉄の青い騎士の姿があった。

 ロイ・キャンベル専用KMF“ランスロット・クラブ”。

 ロイは傍に備え付けてあったタラップに足をかけ、早足で一気に駆け上がるとコックピットに滑り込んだ。

 懐から青いキーを取り出し、それを差込口に取り付けて、“クラブ”に読み込ませる。

 ロード、暗証番号入力、確認、認証終了、またロード。

 ひととおりの操作を終えると、目の前のモニターに“クラブ”の起動を知らせる表示が出た。

「んっ?」

 その時、通信を知らせる電子音。

 一瞬、偵察機が黒の騎士団を発見した、という報告かと思った。だが違った。

『キャンベル卿』

 通信をつなげると、ウィンドウに映ったのはギルフォードだった。背景を見るに、どうやらKMFのコックピットにいるようだ。

「ギルフォード卿。出撃したのですか?」

『はい。私たちは枢木卿から連絡を受け、キャンベル卿に乗せていただいたアヴァロンから出撃し、現在T-2031に向かっています。ですが、こちらが先行して飛ばした偵察機によると、そのポイントでは黒の騎士団を確認できません』

「それは本当ですか」

 ギルフォードは小さく頷いた。

 ロイは、新たに通信をつなぐ。ウィンドウに現れた女性オペレーターに、「私だ。こちらが飛ばした偵察機はどうなっている」と尋ねる。

『駄目です。不審な船一隻見つかりません』

 オペレーターからは相変わらずの答えが返ってきた。

(どうゆうことだ……)

 ロイは、分厚い眼鏡の奥で瞳を細めた。

 二つの偵察機でこれだけ探して見つからないとなると、本当にそのエリアに黒の騎士団はいないのだろう。

 しかし、騎士団がこのタイミングで姿を消したという事は、なんらかのアクションを起こそうとしていると見て間違いない。

(本当に空中戦などやるつもりがないのか? となると中華連邦の領事館を出てエリア11のどこかで、空港を襲うべく息を潜めているのか……)

 それならば自分たちラウンズは無駄足を踏もうとしている。いや、そもそも無駄足を踏む事も見越して、このエリアの駐留軍をいたずらに動かさず、ラウンズのみで出撃しようとしているわけではあるが、なにも完全に無駄足と判明したのなら、出撃する必要性がそもそも無くなる。

(ここは動かず、おとなしくエリア11で残った方がいいだろうか……)

 そんな事を考え始めた時、

『おい、どうした。早く出ようぜロイ』

 いつの間にか領事館から帰ってきたらしい、ジノから通信が入った。すでに専用のKMFである“トリスタン”に騎乗しているようで、その姿は白い軍服ではなくパイロットスーツだった。

『ロイ。総督が危険じゃないの?』

 続いて、同じパイロットスーツに身を包んで、“モルドレッド”のコックピットにいるアーニャからも通信が入る。

 ならスザクも帰ってきてるのか? と思って、コックピットから辺りを見渡すと、格納庫端にあるV-TOL機に乗り込もうとする白い影が見えた。スザクだった、だがどうもその足取りがおかしい。

 いつもキビキビと歩くスザクにしては全体的に弱々しい仕草だ。

「スザクはどこかケガでもしたのか?」

 ジノとアーニャに尋ねると、二人は画面上でなにやら意味深な視線を交わらせた後、ジノが気まずそうに言った。

『実は……スザクのやつ。むこうの武官とやり合ってさ』

「やりあった!?」

 ロイは思わず声を張り上げ、ジノが映る画面に体を近づけた。

「どういう事だジノ! あれほど外交問題は起こさないようにと――」

『ケンカを売ってきたのは向こう。ちなみにケガをしたのはスザクだけ』

 アーニャが遠慮気味に口を挟む。

 そんな彼女を、ロイはキッと睨んだ。

「ケンカ売ってきたからって、それを全部買ってどうするんだ!」

『でも……』

 眉をひそめるアーニャ。

 見かねてジノが助け舟を出す。

『大丈夫だ。ナイトオブスリーの名にかけて、絶対に外交問題にはならないと約束する。とりあえず経緯は後で説明するから、今は私を信じてくれ』

「……」

 ジノが信頼に値する時の顔をしていた。

 ロイは、少し間を置いてから「分かったよ」と納得していないながらもこの時ばかりは頷いた。

 そもそも、今、こんな言い合いをしている暇はない。

『ありがとう』と、ジノは前置きしてから続けた。

『よし、じゃあ話を戻すぞ。といっても一体全体どうなってるんだ? 黒の騎士団はポイントT-2031にいるんだろう? 違うのか?』

 ロイはチラリとギルフォードを見やり、お互い困った顔を見合わせた後、その視線を画面のジノに向けた。

「実は……僕とギルフォード卿が飛ばした偵察機によると、そのポイントには黒の騎士団どころか、不審な船一隻ないそうだ」

『海中もか?』

「ああ、海中もだ」

 ジノの眉間に皺ができた。

『じゃあなにか。黒の騎士団はやっぱり空中戦なんかやる気がなくて、実は空港を襲うべく息を潜めている可能性もあるわけか』

「その通りだ。ただ、空港の防備は完璧だ。いくら黒の騎士団の戦力が多少充実したからといって、そこを襲うというのはあまり考えられない」

 空港及び、空港から政庁までのルートの防備に穴は無い。なにせ、あの警護担当のラウンズであるモニカも太鼓判を押したほどだ。ここで、ナナリー総督を襲うのは空中で大アヴァロンを襲うよりはるかに困難だ。

 黒の騎士団が脱出を考えず自殺的な行為に出たとしても、である。

 すると、話を聞いていたアーニャが、相変わらず集中していなかったら聞き逃してしまうような静かな声で言った。

『じゃあ、どうする。T-2031に向かうのはやめて、大アヴァロンと合流する?』

 ジノは、迷いながらもその案に同意した。

『そうだな。その方が確実かもしれない。ポイントT-2031以外で黒の騎士団が大アヴァロンを襲う事は無いと思うが、ありえないわけじゃ無いしな。ロイ。お前はどう思う?』

 ロイは水を向けられて、唇に指を当てて考え込んだ。

 黒の騎士団がなんらかの行動を取ろうとしていることは間違いない。その黒の騎士団の目的が何であるかの検討はこの際置いておいて、今この場で一番に優先されるのはナナリー総督の安全だ。なら、

「……そうだね。そうしよう。その方が確実だ。アプソン将軍はいい顔しないだろうけど。僕たちが護衛につけば総督の安全は保障される。スザクにもそう伝えよう」

 そしてロイは先ほどのV-TOLを見る。

 スザクの乗せたV-TOLは緩やかに地面で旋回し、今にも発進する所だった。

 通信をつなごうと、ロイはそのスイッチに手を伸ばした。

『大アヴァロンはルート変更してるから、合流するのに結構時間がかかりそう』

 ふいにアーニャがポツリと言った。

 それを聞いて、ロイはスイッチに向かっていた指をピタリと止めた。

(ルートを変更している? 時間がかかる?)

 ロイの頭の中で、火が入り、何かの計算がめぐるましく行われ始めた。

 ルート変更。それによって起こされた合流時間の増加。

(……いや、待てよ、まさか)

 一つ一つ、絡まっていた糸が解けていくような感覚。それは、どんどん進み、やがて糸は全てほどけ……。

『結構っていっても、それほどかかんないだろう。とりあえず黒の騎士団が空で襲ってくるっていう可能性はポイントT-2031の線が消えた以上、ほとんど無くなったんだ。自分たちは総督がこのエリアに到着する前に合流して護衛につけばいい――』

「そうか! そういう事か!」

 唐突にロイは、ジノの言葉を遮って叫んだ。その行動に呆気に取られている三人の騎士を尻目に、ロイはスザクのV-TOL機に通信を繋げた。

 スザクはすぐに応じた。ウィンドウから、少し顔色の悪いスザクが現れた。

『なんだいロイ。僕は今から発進――』

 ロイは、スザクの言葉を待たずに尋ねた。

「スザク! 君は大アヴァロンにルートを変更するように指示したらしいけど、それは南のルートか!?」

 ロイにしては珍しい強い口調に面食らって、スザクは一瞬呆気にとられたようだが、すぐに頷いて口を開いた。

『えっ、うん。黒の騎士団が大アヴァロンに襲い掛かるのならポイントT-2031以外ありえなかったから、そこを南に迂回するように連絡した』

 なんてこった! とロイは内心で毒づいた。

 ただ、スザクの判断は間違っていない。おそらく、ロイでもスザクの立場ならそうしただろう。

 そう分かってはいても、スザクの取った行動に歯噛みせずにはいられなかった。

 それはしてはいけない事だった。

(間違っていた。僕はゼロを甘く見ていた……)

 黒の騎士団に都合が良い場所。それは大アヴァロンの予定ルート上でいえばポイントT-2031しかない。しかし、今その大アヴァロンは予定のルートを変更して大きく南に迂回している。つまり、

 誕生した。

 ポイントT-2031より黒の騎士団に都合が良く、さらに本来の大アヴァロンの予定ルートから外れているがためにブリタニアにとって危険度が増す都合の悪い場所が。

 自分たちはルートを変更“した”のではない。間接的にゼロにルートを変更“させられた”のだ。

「失態だ!」

 強く拳を握り締め、ロイは自分の膝を思い切りたたいた。

『ロイ?』

『キャンベル卿?』

 アーニャとギルフォードが、ロイの行動を不思議そうに尋ねてくる。

 ロイは、すぐに顔を上げた。

「ギルフォード卿はすぐに部隊を引き返してください! そして“アヴァロン”と共にアプソン将軍と合流を!」

『はっ? ……あ、いや、まさか』

 ここでギルフォードは一連の仕組みに気付いた様子だった。

『おいおい。一体どういう事だ? 私たちは帰ってきたばかりで状況がよく飲み込めないんだが』

 そう言うジノに、ロイは告げた。

「一杯食わされたんだ! 黒の騎士団は大アヴァロンが進路を変更した先にいる!」

『!』

 聞いていたスザクの顔も、画面上でハッとした。

 その隣に映るジノが、信じられん。といった様子で、

『ちょっと待て。じゃあ何か。黒の騎士団は私たちが大アヴァロンのルートを変更すると読んでたっていうのか? その上で、待ち伏せをしたと?』

「そうだ」

 ロイは頷いた。

『……もしかして、マズイ?』

 アーニャが首をかしげた。しかし、この場合、もしかしなくてもマズかった。

 

   ○

 

「すごい、こっちに来た」

 紅月カレンはそう内心で呟きながらレーダー上で捕捉した大アヴァロンの編隊を、半ば信じられないといった様子で眺めていた。

 V-TOLで吊るされた紅蓮弐式のコックピットの中。カレンは、敵の出現に呆けながらも、戦闘の開始が近いのを無意識にも感じているのか、体だけは自然と操縦桿のグリップの握り具合を確認している。

「まさか本当に、ブリタニアがルートを変更するなんて……」

 ゼロに『われわれはナナリー総督のアヴァロンが、通る予定の無いポイントで待ち伏せする』とミーティングで聞かされた時は耳を疑ったものだが……。

 カレンはフッと下を向いてほほ笑んだ。

(さすがです……。ライ、私たちが守るべきゼロは健在よ)

『うわ、本当に来たよ。にわかに信じられなかったけど』

『こういう先読みに関しては、我らがリーダーはさすがというより無いな』

『……しかし、偶然かもしれない』

 朝比奈、仙波、千葉の声が紅蓮の通信を通して呟いた。やはり、四聖剣のメンバーもこの目の前に広がる事実に、興奮半分、驚き半分と言った感じのようだった。他の団員達も同じで皆一様に驚きの言葉を投げ合っている。

『ゼロが来ると言ったのなら来る』

 その時、少々浮き足立った団員達を諌めるような渋く重い声が響いた。

 黒の騎士団の戦術的要。藤堂鏡志朗だった。いろいろな意味で気持ちが昂ぶっている団員達の中で唯一、波の無い海、澄んだ湖のような静けさを醸し出しながら、触れれば切れるような鋭い瞳をさらに尖らせて、前方の獲物を眺めている。

『ゼロを信じ。我らは刃を振るう。それだけだ。皆、準備はいいな』

 「承知」「了解」と各々返事を返す。

『では、ゼロ……』

 そして、藤堂はゼロに言葉を譲った。

 受け取ったゼロは通信機を通して全団員に呼びかける。

『黒の騎士団よ! 目標はナナリー総督を確保することだ。絶対にナナリー総督に傷を付けるなよ! いいか! 絶対にだ!』

 先ほどよりすこし大きな声で、団員たちが返事を返す。

 カレンも返事をした後、アヴァロンの編隊をにらみつけた。

 ゼロに従う事に迷いは無い。

 ゼロは、いや、ルルーシュは言った。必ずライを助け出すと。

 ルルーシュはライの親友。カレンが信じた男の親友なのだ。

 信用できない道理は無い。

(ゼロの道は、私が切り開く)

 それが、ライを助け出す事にもつながる。

 紅蓮を吊るしたV-TOLは、ナナリーを乗せたアヴァロンに向かって加速していった。

 

   ○

 

 戦闘は始まった。計算によるとギルフォード卿が少し早くラウンズ部隊より駆けつけられるはずだが……。

『ギルフォード卿が大アヴァロンに到着したみたいだ』

 ジノの言葉に、ロイはモニター越しに広がる青い海を睨みながら「そうか」と答えた。

 ギルフォード卿に遅れる事五分。ロイを含む四人のラウンズは、大急ぎでナナリー総督の乗る大アヴァロンに向かっていた。

 フロートシステムの加速についてこれないスザクのV-TOLが少し遅れている以外は特に問題も無い。

「僕たちもあと五分ぐらいでたどり着く。二人とも準備はいいかい」

『問題ない。“トリスタン”はご機嫌だ』

『“モルドレッド”も大丈夫』

 ロイは小さく頷き、そして同僚達に告げた。

「よし、じゃあ僕とジノが前に出る。アーニャは後方で援護」

『援護?』

 すると、アーニャが眉をひそめながら聞き返してきた。

「不満かい?」

 ロイはまた聞き返す。基本、ラウンズ同士に順序は無く、命令口調であろうとそれはあくまで提案になる。

 ラウンズの命令をラウンズが従う道理は無い。ただ、この三人で組む時はロイが指示を出す事が多いため、自然とロイの口調は命令のそれになる。

『……』

 しかし、ロイのその提案に対して、アーニャは声に出して嫌だ、とは言わないまでも、相当に不満のようだった。

 なぜなら、通信画面に映る彼女のその小ぶりな顔には――見事に不満の色しか無かったからだ。

 ロイがそんなアーニャにかけるべき言葉に困っていると、

『私もその意見に賛成だ』

 と、ジノが口を挟んだ。

 ロイも素早く思考をまとめて口を開く。

「敵にはあの紅蓮弐式がいる。あいつの輻射波動に装甲は関係ない。だから、動きの遅い――」

 画面に映るアーニャの眉が不自然に動き、さらに不満の色が表情に充満していく。

 ロイは(しまった……)と内心舌打ちし、慌てて言い直す。

「僕たちの中では動きの遅い――」

『ロイは』

 アーニャは、ロイの言葉に被せるように言った。

『私があの赤いのに負けると思ってるの?』

 ムッとした怒りの色を混ぜた顔でこちらを見るアーニャ。どうやら不満を充満させた上に怒りも充電させてしまったようだった。

「……」

 言葉を詰まらせる、というのはいつ以来だろう。

 失言だった。

 言い方も悪かった。

 基本的に“アーニャ”はロイのいう事をよく聞いてくれるが、ひとたびそれが“ナイトオブシックス”となれば話は別だ。

 彼女は、プライドも誇りも実力も一人前の騎士であり、戦い方には彼女なりの美学もある。それらをロイは結果的に傷つける形になった。

「いや、そうじゃないんだアーニャ」

『そうとしか聞こえない』

 ピシャリと言われて、ロイは冷や汗を垂らしながら、口を閉じる。

 なぜか、猛烈にいけないことをしてしまった気分になった。

 ロイは女性に怒られるということが苦手だった。

 かつて、そのロイの性格を見抜き、

 「弁舌と交渉術でシュナイゼル殿下に称賛され、さらに中華連邦、EUでは影で相当に評価されている英傑も、女の前ではただの雄」という評価をさもおかしそうに下したのシュナイゼルの副官カノン・マルディーニだった。

 ちなみに、シュナイゼルはそれを聞いて「なるほど、確かに君の女性関係を見ているとそう思えてしまうね。でも分かるよ。私も、しょせんは男の一人なのだから」と珍しく愉快そうに笑っていた。

『まぁまぁ、アーニャ。ロイはお前が心配なのさ』

 ジノが軽い口調で口を挟んだ。

『弱いから心配って事?』

 画面の中でジノに視線を移すアーニャ。ジノは肩をすくめた。

『分かってやれよアーニャ』

『何を』

『お前が大切だから、心配なのさ』

『大切だから?』

 ロイは小さくため息をついた。

 ジノが何かうまい事を言ってアーニャをなだめてくれる事を期待したのだが、そんな抽象的かつ当たり前な理由でアーニャが納得すれば苦労はない。

 そもそも心配だったらジノやスザクに対してもしている、このメンバーはロイにとってかけがえの無い仲間、友達なのだから。

 ロイは全く持って役に立たない友を、少々恨めしげに見やった後、正直気が重かったが、しぶしぶアーニャに向き直った。

「あのねアーニャ。ジノが言ったのもあるけど、特性と相性の問題でね――」

『分かった。援護に回る』

「………………へっ?」

 アーニャの子供のような素直な返答に、ロイは目を丸くした。

 そんなロイを尻目にアーニャはどこか満足そうな表情で、

『うん。大切なら仕方がない』

 その言葉を最後に、通信の窓が閉じる。同時に“モルドレット”が“クラブ”と“トリスタン”からスイっと離れた。

 どうやら本当に援護に回るらしい。

「……」

 ロイがその様子を呆然と眺めていると、ジノがクックックと笑った。

『ロイ。お前もまだまだ修業が足りないな』

「? な、なんの? っていうかジノ。今何か魔法使った?」

 ロイが聞くと、ジノは『いやいや』と顔の前で手を振った。

『アーニャは以前から切なくも甘酸っぱい魔法にかかってるんだって。そこん所はどう思うのかな、わが友は』

「甘酸っぱ……って何だって?」

 訳が分からない。といった様子で尋ねると、ジノはそんな友人の様子をさもおかしそうに眺め、また静かに笑った。

『分かんない? まっ、天然なのも魅力の一つなんだろうな』

「天然って……」

『まぁいいか。さてそろそろ作戦区域だ。引き締めようぜ。ラウンズが四人もいて総督が捕らわれたらシャレになんないだろ』

「……分かったよ」

 ジノにはいろいろと聞きたい事があったが、ロイはとりあえず戦闘に集中する事にした。

 少なくとも、今は。


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