コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS R2~蒼失の騎士~   作:宙孫 左千夫

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②巻 13話『エピローグ』

 後片付けの手伝いをするというスザクを学園に残し、ロイ、ジノ、アーニャの三人は政庁に戻ってきていた。

 場所は、政庁の入口である。

 余談だが、ホテルのロビーのようなこの空間に、私服姿の三人は結構目立っていた。

「楽しかったなぁ」

 背伸びをして、大きな背をさらに大きく見せながら、ジノが言った。

「そりゃあ、あれだけ好き勝手に動けば楽しかったろうさ」

 と、後ろに続くロイは、分厚い眼鏡を指で調節しながら皮肉を被せる。疲れてもいたので無意識に、深いため息も出た。

「自由人すぎ。最近特にひどい。自重したら」

 ロイの傍にいるアーニャも、携帯から目を離さないまま言葉を被せた。

 ちなみに、この瞬間も彼女の携帯を触っている指はせわしなく動いていた。おそらく今日のスザク歓迎会での出来事をブログへ更新しているのだろう。

「もう少ししたら、ナナリー総督のこのエリアへの迎え入れもある」

「分かってる。そのあたりはしっかりやるさ」

「その点に関しては、僕は心配していないよ」

「おお、さすがは心の友ロイ・キャンベル。アーニャよ! これが仲間内の信頼ってやつだぞ!」

 大仰に手を広げて感動を示すジノ。それをアーニャは無表情で眺め。

「まぁ、その点に関しては私も心配していない」

 と、あとはその意識を手元の携帯へと移した。

 ロイは、思わず前に進めていた足の動きを止めてしまった。

 ジノもしばらくキョトンとした表情のまま、アーニャを見ていた。

 その時のジノの心境を、ロイは理解できた。

 実際、ロイも少し驚いていた。あのアーニャが純粋に他人を――ジノを信用していると公言したのだ。

 かなり珍しい事である。思っていても、そういうことは口に出さない事が多い、アーニャとはそんな人物だ。

 ジノの視線に気づいたアーニャは、

「……なに?」

 と、携帯から顔をあげた。

「いや、なんでもない。ありがとうな」

 ジノは長い手を伸ばし、アーニャの頭を撫でた。

 アーニャは、表情は変えなかったが、

「……ジノ」

 と、威嚇する猫の呻きを連想させる不機嫌な声を出した。

 ジノは、伸ばした手をサッと引っ込めた。

「おっと、相変わらず私だと怒るわけね」

「子供扱いは嫌い」

「悪かったよ。勘弁してくれ」

「大体、ジノはいつもそう」

 アーニャとジノの間に、微細ではあるが険しい空気が流れた。いつ仲介に入ろうかとロイがタイミングをうかがっていると、

「予定より遅いお戻りですね」

 と、聞き覚えのある女性の声が介入してきた。

 その声の先に三人が顔を向けると、数メートル先にこのエリア11の文官代表であるローマイヤが立っていた。

「……」

「……」

 ジノは表情で、アーニャは身にまとう雰囲気でそのローマイヤとの遭遇を快く思ってない旨を表していた。

 別に、二人ともローマイヤの事を嫌っているわけではないが、相性があまりよくないのだろうなと思うロイだった。

「すまないローマイヤ。少し、羽目を外してしまってね」

 場を和ませるために、この三人の中ではおそらく最も親しいであろうロイが返事をした。

「羽目を外されたのは、主にナイトオブスリーのようですが」

「もう耳に入ってるのか!?」

 ジノが、これまた嫌そうに応じた。

 ローマイヤは、重たい眼鏡を指で調節した。

「あたりまえです。軍部の不祥事は常にマスコミからの批判にさらされる可能性があります。唐突にその批判を浴びせられても、その場で適切な文言で応対できるように、あなたたちの主だった行動は全て頭に入れておりますし、情報が常に入るようにしております」

「マジか。私たちに尾行でも付けてたのかローマイヤ」

「尾行など付けなくても、ナイトオブシックスのブログを定期的に確認するだけで事足ります」

 ジノは一度だけアーニャを見て、なにかを納得したように肩をすくめると、それ以上は何も言わなかった。

 アーニャはわれ関せずといった感じで、携帯に視線を落とし、ブログの更新作業に戻っていった。

「心配をかけるね」

 ロイが代表してわびると、ローマイヤは疲れを絞り出すような息を一度だけ吐いた。

「心配などしてません。かけられているのは苦労です」

「そうか、どちらにせよ、すまないね」

「まぁ、私たち文官もいろいろありますし、お互いさまということにこの場はしておきましょう」

 仕切り直し、と言わんばかりにローマイヤは再び眼鏡を指で調節する。なんとなく、ロイもつられて眼鏡を調節した。

「それはそうと、ちょうど良い時に戻られました」

 そう言って、ローマイヤはナイトオブラウンズの三人に近づく。

 なんとなく空気を察して、三人はローマイヤに顔を近づけた。

「独自のルートで、爆破テロの実施計画を掴みました」

 と、ローマイヤは、小声で言った。

 ロイは、長年の習慣で無意識という部分も大きいが、話の内容もあって付近に気を巡らせた。この声量が聞こえる範囲に、こちらに意識を集中してる――聞き耳を立てている人間はだれもいない。

 ふと気付くと、ローマイヤは言葉を止めて、ロイを見ていた。

 このままこの場で話を続けても良いか? 問題はないか? という判断をロイに求めているのだ。

 ロイが、他人の気配を感じたりできる武道の心得があることを、ローマイヤは知っていたのだ。

 というより、本国にいたときにロイ自らが話をしていた。

「それで?」

 と、ロイは話を促した。

 許可と受け取たのだろう。ローマイヤは、そのまま淀みなく話し始めた。

「テログループの拠点の場所まで掴んでいます。そこで逮捕の協力をお願いしたいのですが」

「それは、まず警察がやる仕事じゃないのか?」

 呟くジノの発言を、ロイは視線で制す。

「僕たちのところに話を持ってきている時点で、警察の手に負えなくなる要因をすでに掴んでるってことだろ。ローマイヤ続けてくれ」

「キャンベル卿は話が早くて助かります」

「鈍くて悪かったな……それで、どこまで分かってるの?」

「はい、実はこのテログル―プは、数カ月前にわがブリタニア軍から兵器の横流しを受けた可能性があります」

「兵器ってまさか……」

「ナイトメアフレーム、ってこと?」

 アーニャが首をかしげ、

「またカラレス総督の不始末関係か……」

 ジノがうんざりした様子で呟いた。

 ローマイヤが肯定の頷きをした。

「横流しの件の調査は継続中であり、まだはっきりとしていません。しかし、裏切り者がまだ軍部内に残っている可能性を考慮し、今回の件はナイトオブラウンズである皆さんに依頼をするのが最善と判断しました」

 いまだ政庁内に裏切り者がいれば、そのテログループ確保の計画が事前に漏れて失敗してしまう可能性がある。それは、味方の被害の増大を招きかねない。

 また、グラストンナイツや、この政庁の軍の中でもコーネリアの直衛部隊ならそんな裏切り者はいないと思うが、彼らを動かすとなるとローマイヤ独自のルートで仕入れた情報である以上、彼らに大なり小なりローマイヤが“軍部”の彼らに指示をする必要がある。

 どう考えても、カラレス総督の武官優位主義、もしくはコーネリア絶対主義に染まった“軍部”が“、文官”代表でかつ、このエリア11に来たばかりのローマイヤの指示を素直に聞く図が想像できない。

 それで手間取っては現場で影響が出る可能性もあるので、ラウンズである自分たちに話をした方が確実、とローマイヤは判断したのだろう。

「分かった。じゃあ――」

 ロイがラウンズ三人の担当を割り振ろうとしたところに、

「僕を入れてくれ」

 と、政庁入口から声がした。

 本日のアッシュフォード学園の主役であり、後片付けを手伝うからと学園に残ったはずの枢木スザクが、そこにはいた。

「スザク。どうして?」

 ロイの問いには、ローマイヤが答えた。

「枢木卿には、私からすでに連絡を入れておきました。エリア11の地理に詳しいのはこの中では彼でしょうから」

 自分たちの仕事には市民の命がかかっている。

 学生の歓迎会より、それを優先するローマイヤの行動に、ロイは一片の疑問も無い。むしろ共感さえ感じる。

 それでも、ロイは尋ねてしまう。

「いいのかい、スザク」

「学園の片付けはもう終わったよ。それに今日は、少し暴れたい気分でね」

「暴れたい気分?」

 スザクの口から出た珍しい言葉に、ロイは眉を寄せた。

「冗談だよ。忘れてくれ」

「冗談って……」

 ロイが冗談について追及しようとするが、険しい同僚の表情に対して言葉が見つからないまま数秒がたったころ、ジノが手をたたいた。

「分かった。人員突入部隊の陣頭指揮はスザクで。私はKMFの方を指揮しよう」

「了解。それじゃあ、三人共準備しようか」

 と、スザクが同僚三人の前を通りすぎる。おそらく、自室へ向かい、軍服に着替えるつもりなのだろう。

 そのあとに、私服姿のラウンズ三人も続く。

「しっかし、休暇が終わったらすぐこれか」

 この政庁に入ってきた時とは対照的に、けだるそうな口調でジノが言った。

 後に続くロイが応じた。

「ああ、休日もここまでだ。気を引き締めよう」

 本当に楽しい歓迎会であり、学園であり、生徒たちだった。

 一時の休息を終え、自分たちはそれらを体験する側から、守る側へと変わる。そのための心のスイッチをロイは一瞬で切り替える。

 今からまた、戦場を駆る日々が始まる。


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