コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS R2~蒼失の騎士~ 作:宙孫 左千夫
アッシュフォード学園、その校庭。
「びびび、びびったぁぁぁ……」
精巧に造られたラッコの着ぐるみの中で、紅月カレンは先ほどの出来事に心揺さぶられていた。
「あ~、もう。遭遇することは予想してたけど……」
このアッシュフォード学園に潜入すると決めた以上、今回のイベントの主役であり、アッシュフォード学園に復学しているスザクと遭遇する可能性はもちろん考えていた。
しかし、それはせいぜい遠目から眺めるとかそれぐらいで、まさかぶつかって、こけさせられて、更には助け起こされて「大丈夫ですか?」なんて声をかけられるとは微塵も思わなかった。
「私だってバレてないわよね……」
心配して、カレンは今まで逃げてきた道を振り返る。
何人かの学生は物珍しそうにこちらを眺めているが、それらはあくまでレジスタンス紅月カレンではなく、彼女を包んでいるラッコの着ぐるみへの視線であり、監視や敵意のそれとは違っていた。
カレンは、昔から体術や格闘技をやりこんでいるので、そういう視線の判別は何となくつくし、例え追跡や尾行をされていても、よほど技量の差が無い限りは、それに気付くことができる。尾行者が同じ達人のスザクでもだ。
「まぁでも。よくよく考えればスザクと顔を合わせられたのはある意味幸運だったかな」
それは過信ではない。
現在、カレンは下着に近い格好をしている。着ぐるみに包まれた悩ましげな肢体には、よく見ると目立たないまでも数多くの傷跡があった。
それは、彼女が“彼”を助けると心に決めた時からこの一年間積み重ねてきた修行という名の苦行の証だった。その代わり、彼女は女ながらに星刻に『大した奴だ』と認められるまでの実力を持つに至った。
しかし、それでもスザクと生身で殺し合いをしたとしても、素手同士なら今も百パーセント敵わないだろう。
でも、こちらにナイフ一本でもあれば……。
「勝率は五分って所かしら」
カレンはその事実を顔を合わせた事で実感でき、それこそ魔女のように影のある笑みを浮かべた。
これは一年前、銃と持っていてもスザクには敵わない、と感じていた頃に比べたら大きな進歩だった。
体に刻まれた傷。
確かに、女性であるカレンにとって体に傷が付くのは耐え難い事ではあった。しかし、カレンは“彼”のために、とうに女を捨てた。
“彼”を必ず助け出す。それは自分の体以上に優先される事柄だった。日本解放もそうである。
いや、カレンが修行を重ねてきた理由はもう一つあった。その目的は日本解放やライ救出に遠く及ばないものだが、しかし、確実に果たしたいものだった。
スザクを殺す。
あの男は生きていては駄目だ。それがカレンがこの一年で出した答えの一つだった
スザクが生きている限り、日本解放においても、ライ救出においても、いや、両方果たせた後でも必ず障害になる。
なによりアイツは、彼を――ライを撃った。
許せるものではない。絶対に、絶対にだ。思い出しただけでも、殺意が膨張して爆発しそうだ。もはや、スザクとは手を取り合うどころか、同じ向きで歩く事さえ不可能だ。
彼は、ライはスザクと同じ向きに向かって歩き出そうとした途端――行政特区に前向きな考えを持ち始めた途端、カレンの傍から消えた。
繰り返さない、そんな事は繰り返させない。そのためにも、その原因は抹殺するしかない。
(スザク。今日は見逃すけど、次に会う時は……って、ん?)
と、ここでカレンは、今回スザクを見逃す事になった原因を見つけた。
学園の隅の方で歩く一人の少女。
「あ、あの女ぁぁぁ!?」
どこで手に入れたのかアッシュフォード学園の制服を着ている。変な耳飾り、綺麗な緑の長髪、物憂げで、苦労など知らなさそうなお人形さんみたいな顔。とびきりの美少女だが、中身はたちが悪いただの不良魔女。
「C.C.ぅぅぅ!!」
カレンは着ぐるみを動かしてドタドタとC.C.の方に向かって走る。
それは、着ぐるみにしては相当なスピードだった。どれぐらい速いかというと、周りの人間が驚いて「お~」と感嘆して拍手を送るぐらいである。
しかし、当のC.C.はそんなカレンに気付いていないようで、何食わぬ顔で校舎の角を曲がり、カレンの視界から消えた。
「逃がすかぁ!」
カレンもすぐにその角を曲がった。だが、
「…………あれ?」
そこに魔女はいなかった。
(ああ、もう! 一体、どこに消えたのよ!?)
カレンは睨みつけるように周囲を見渡す。
その時、
「あっ」
カレンの視界に一つの出店が入り。彼女はC.C.の捜索も忘れて気が抜けたように立ち尽くしてしまった。
○
「死ぬかと思った……」
激辛カレーの感触がまだ舌に残っている。
途中でやめればいいものを、アーニャの声援と、ジノの「早食い勝負!」などという挑発に乗って完食したのがいけなかった。しかも、結果としてジノには完敗した。
「友は、舌が死んでいる……」
そう呟く言葉にも違和感がある。舌が回らず発音が心もとない。元に戻るには、しばらく時間が必要だろう。
ロイ・キャンベルは一階のトイレで用を足しながらため息を付いた。
「酷い目にあったな。いや、現在進行形で酷い目にあってるか……」
視線を下げてみる。見えるのはもちろんチャイナ服。
結局、服は返してもらえなかった。
返してください、と頼んでも、女子学生が返してくれないし、なによりジノが「返さなくていいよ~。俺達このまま回るから」と言って取り合ってくれなかった。なによりアーニャからも「このまま回ろう」と頼まれてしまったため、ロイはしぶしぶ、まだこの格好をしていた。
「何か……僕って女性に弱い気がするな……」
と、ロイはそんな事を思ったりした。
女子生徒にこのチャイナ服を着てください! と頼まれた時も断れなかったし、アーニャのこのまま回ろうという頼みも断れなかった。
ノネットから模擬戦を頼まれたら絶対に付き合ってるし、モニカからお買い物に付き合ってと言われたら付いていっている。それに、ローマイヤから、一緒に図書館で勉強しませんか? という誘いも断った記憶が無い。
セシルの夜食は(逃げる暇が無くて)差し出されたら食べるし、カリーヌのお誘いもほとんど断らない。ナナリーの頼みも公私問わず大体引き受けてるし、ドロテアの模擬戦だってそうだ。
(……ちょっと待て)
と、ここである恐ろしい考えに至る。
(僕って、もしかして本能的に女性の尻に敷かれているタイプ?)
女性の頼みを断れない。それは、女性に逆らえないという意味とイコールではないだろうか? しかし、それはあまりに男として情け無い。
(ば、馬鹿な。違う、そんなわけ無いじゃないか)
ロイは即座にその考えを否定した。
旧来より、騎士とは己のプライドより、女性を大切にするものである。女性を敬うこと。それが騎士の本懐。だから自分は騎士として女性の頼みをあまり断らないのだ。決して、女性に対して自分の意志が弱いわけではない。多分……。
と、ロイはかなり歪曲した騎士道を心の支えとして、何とか心身の体面をギリギリで死守した。
「さぁ、スッキリしたし。こんな馬鹿みたいな考えも同じようにスッキリ忘れて、この祭りを楽しむとしよう」
暗い思考を無理にでも振り払うように明るく言って、ロイは場を離れる。チャイナ服を着て歩き回る事に対する恥ずかしさとかは、感覚が麻痺したのか、あまり感じなくなっていた。激痛を伴う生傷もやがて麻痺して痛みがなくなるのと同じ原理かもしれない。
「ん? あれは……」
ロイがふと窓の外に視線を移すと、トイレを隠すように茂っている木々の隙間から見慣れた着ぐるみが見えた。
つい先程、スザクがぶつかって倒してしまった、ラッコの着ぐるみだった。
○
「懐かしいな……」
屋台のクレープ屋を見つめながら、カレンは少しだけ昔の事を思い出していた。
一年前。学園の文化祭での出来事。二人で待ち合わせして、この学園の色々な場所を回った。
クレープ屋もその一つだった……。
もちろん、このクレープ屋を営業しているのはあの時と違う学生だし、よく見れば営業している場所も全然違う。しかし、久しぶりにこの思い出深い学園に足を踏み入れたというのもあって、カレンはどこか感傷的な気分に浸りやすくなっていた。
記憶が溢れてくる。
一年前。
自分がクレープ屋を見ていたら。「僕が奢る!」と言ってきかなかった彼。
そもそもお金もあまり持ってないくせに、珍しく良い顔をしようとした彼。
そして、自分が豪快にクレープを頬張っていて、その仕草を「地が出るよ」と注意したくせに、直して大人しく食べている自分に、
――僕はやっぱり、大人しく食べてるカレンより、ガツガツ元気良く食べてるカレンの方が好きかも。
「バカよねホント。女の子に言う台詞じゃないわ……」
カレンは懐かしそうに微笑んだ後、
「……」
俯いた。
彼の笑顔。
忘れられない、忘れようとも思わない、忘れたくない。なぜなら、その笑顔はもう一年以上、記憶の中でしか見ていない。
もう、会えないのだろうか?
そんな考えが、何度頭をよぎっただろう。
気が付くと、カレンの目頭はじんわりと熱くなっていた。
「あっ、ちょっと、やだ……」
ここでカレンは、感傷的になっている事を改めて自覚した。
それは仕方が無いのかもしれない。
懐かしい空気、懐かしい場所、懐かしいざわめき、懐かしい光景、かつてライと共有したものが、ここには悲しいほど多く溢れている。
「うう、湿っぽいのは止めよう……」
カレンは心の汗を指で拭う。その時、
「ラッコさん」
「!」
誰かから呼びかけられて、カレンは体を震わす。そして構えるように素早く振り返った。
そこには、
「どうも。こんにちは」
男がいた。
銀のツインテール、顔が見えないぐらいの分厚いぐるぐる眼鏡、筋肉の凹凸が良く分かるピチピチのチャイナ服。
(オ、オカマ? それとも変態?)
カレンはあまりの光景に数歩下がる。その行動に気付いて、チャイナ服の変態は困った顔で微笑んだ。
「あ、警戒しないで下さい。怪しいものじゃないです」
(いや! 充分怪しいし!)
どこか舌足らずに話す男に、カレンは心の中で突っ込みを入れる。
実を言えば。カレンは不幸にも変態とか怪しい男とか、そういうのには数多く出会ってきた。
カレン・シュタットフェルトとしてこの学園に通っていた時期。彼女はモテた。
見た目は文句無しの美少女、清楚なお嬢様、そして病気がちで内気となると、どうやら、そういう趣向の方々の琴線に触れるらしく、下校の途中で変な人に声を掛けられるというのも、一度や二度ではなかった。
もっとも、カレンは実際は内気どころか中身は肝っ玉母ちゃんもびっくりの強気な少女なので、そのたんびに、変態の骸を死屍累々という言葉が相応しいぐらいに積み上げていったものだ。
だが、カレンとて女である以上、多少ながらも恐怖を感じていた。
そして今、目の前に立つ男は、そいつらと似たような格好をしていたので、思わず後ずさりしてしまうのは、濃い経験をしてきたカレンにとっては仕方が無い防衛反応であった。
カレンがそうやって警戒しているとは気付いていない様子で、男は至極普通に話しかけてくる。
「実はさっきあなたがぶつかったのは私の友人なんですよ。大丈夫でしたか? どこかお怪我は?」
(友人? スザクの?)
その言葉が、カレンの警戒を少し解いた。
この女装した男は、先ほどの件で、心配して話しかけてきただけのようだ。
そもそも、カレンは着ぐるみを着ているわけであり、普通こんな着ぐるみの中に入っているのは男だと思うだろう。つまり、目の前の男は本当の変態だったとしても、今の言葉だけは信頼に値する。
カレンは喋るわけにはいかなかったので、着ぐるみにガッツポーズを取らせた。“私は大丈夫です”いうアピールをしたのだ。
伝わったらしく、女装の男は安堵した様子で微笑んだ。
「良かった。大丈夫なんですね。安心しました」
そして、男は視線を横に逸らし、どこかを見つめた。
「クレープ。お好きなんですか?」
その言葉で、カレンは男がクレープ屋を眺めたのだと理解した。この着ぐるみは視界が悪く、目の前にいる男の動作もよく窺えないのだ。
男は、カレンの答えを待たなかった。
「奢りますよ」
驚いているカレンを尻目に、男はチャイナ服のスカートを扇情的になびかせながらクレープ屋に歩いていく。そして店員の学生に声をかけた。
「すみません。クレープ二つ」
「可愛いおじょうちゃんだな、よし、少しサービスするよ」
「はは、どうも……」
という会話を売り子の学生と交わし。男はクレープを二つ手にとって、こちらに戻ってきた。
そして、一つをカレンに差し出した。
「どうぞ」
(え……?)
カレンは男から差し出されたクレープを見つめ、固まってしまった。
男は首を傾げた。
「クレープ屋。ずっと眺めてましたよね?」
カレンは答えない。ただ呆然とクレープと男の顔を交互に見るだけ。
「これは、友人のお詫びの代わりです。どうか受け取ってください」
男は更にグッとクレープを差し出してきた。
カレンの中で男がクレープを差し出す姿と……彼の姿が被った。
――はい、カレン。クレープ。
当然の事だが。目の前の男はライではない。
こんな全体的に野暮ったくないし、女装したとしてももう少し可愛いと思う。つまり全然似ていないのだ。
でも……。
カレンが何もアクションを起こさないでいると、男はあれ? と首を傾げた。
「あの、もしかしてクレープ嫌いでした? ラッコさんがずっとクレープ屋を見てたから、僕はてっきり――」
牛乳瓶底メガネをかけ直しながら、少し困った表情で話す男。
口調は似ていない。仕草も似ていない。何も似ていない。銀髪ぐらいしか同じじゃない。でも、
――カレン。
男がクレープを差し出す姿とライがクレープを差し出す姿が確かに被った。
同時に、カレンの中から言い様の無い感情が湧き上がった。その感情はあっという間に許容量を越えて溢れ出した。
(ライ)
今まで傍にいなかった男を、不意打ちに近い形で感じさせられた事によって、心の中で堰きとめられていたものがあっさりと決壊した。
(何でいないの?)
分かりきっている答え。それでもカレンはそう問いかけずにはいられなかった。
(何で私の傍にいないの?)
自分が弱かったから、
(何で私、こんな見ず知らずの男の前でこんな気持ちにならなきゃいけないの?)
自分が弱かったから守れなかった。
(傍にいてよ……嫌だよ。私、あなた以外の男の前で泣くなんて嫌だよ……)
不条理だと分かっている。それでも、カレンは傍に本物のライがいてほしかった。ずっと一緒にいてほしかった。
この一年。後悔ばかりが先に立った。
なぜ、一年前。彼は自分の事が一番大切だといってくれたのに、自分はそんな彼の気持ちに怯えを抱いたのか。
なぜ、愛されたいと思っていたのに、愛し合う関係になる事に恐怖を抱いたのか。
なぜ、日本解放を言い訳に、問題を先送りにしたのか。
――正直に言えばねカレン。僕は日本解放より、それより、平和な世界で君と過ごせるなら、それで――
そう言われた時、なぜ、自分は「日本解放をおろそかにしないで!」と怒ったのか。
分かっていたのに。ライが日本の事を疎かにしていない事なんて自分が一番よく分かっていたのに。
後悔から始まる寂しさは止められない。
気付けば、今度こそ心の汗などと言い訳のしようのない本物の涙がカレンの頬を伝った。幾筋も、幾筋もだ……。
『お~いロイ。何してるんだ~?』
カレンの思考を遮るように明朗な声が響いた。潤んだ瞳で声のする方に顔を向けると、そこには二階に並ぶ窓の一つから身を乗り出している男女がいた。
一人は金髪で長身、カラフルなドレスに身を包んだ男だ。そしてもう一人は、ピンクの髪を布の髪留めで結った、ウェイトレスの格好をした少女だった。
カレンはその男女に見覚えがある気がした。しかし、どこで見たかは思い出せない。
「あ、ジノ。それにアーニャ」
(!)
にこやかに言う目の前のチャイナ服の男の言葉で、カレンの頭の中の欠けたピースがカチリとはまった。
(まさかジノ・ヴァインベルグとアーニャ・アールストレイム!)
カレンは歴戦の勇士。暗い感情などその事実で一気に吹っ飛んだ。
ナイトオブスリーとナイトオブシックス。まごうことなきカレンの敵がそこにはいた。
一瞬見間違いかとも思ったが、やがて確信に変わる。前に一度見た写真とそっくりだった。
それに、今思い起こせば、あの二人は先ほど自分がスザクとぶつかって、起き上がれなくてもがいていた自分を助け起こす時、そのスザクと親しげに会話していた。
ナイトオブラウンズであるスザクと同じ目線で会話できる人物は、相当限られる。
(待って。となると、今、私の目の前にいる、あのスザクと同じ目線で会話していた男は……)
カレンはゆっくりと目の前のチャイナ服の男に視線を戻す。相変わらずラウンズの二人に微笑みを送っているこの男。
確か、この男はあの金髪の男にロイ、と呼ばれていた。
(……そうか、こいつロイ・キャンベルか!?)
カレンは一歩下がった。
ナイトオブゼロ。ロイ・キャンベル。
違いない。ラウンズの中でも特に目立たない存在だから、この男に関しては完全に失念していた。
(そうか、こいつにライの面影を見たのは、銀髪の他にKMF乗りの体つきをしていたからか……)
KMFに乗っている者には操縦者独特の体が出来上がる。長時間の訓練をこなすラウンズなら尚更だろう。
そのKMFを操縦するという私生活からかけ離れた行動を何百時間と繰り返す事によって、体つきがその行動に順応するために、通常なら付かない体の部位に筋肉を形成するのだ。それは、肩の周りであったり、手首の辺りだったりするのだが……。
確かにこの男の体つきは見れば見るほどKMFのパイロットだったライとそっくりだった。ピチピチの服を着ているからそれが尚更良くうかがえる。
それでも、完全にそっくりというわけではない。どちらかと言えば、このロイという男の方がライより筋肉の付きが一回り大きい。しかし、その体の特徴は本当に良く似ていた。
『おっ、なんだ。そこにいるのはさっきのラッコさんじゃないか。良かったなアーニャ。一緒に写真撮りたかったんだろ?』
『ロイが捕まえててくれてラッキー』
『つうわけで、悪いけどラッコさん。ちょっと一緒に写真とってくれないかな? 今からそっち行くから』
男――ナイトオブスリー。ジノ・ヴァインベルグは叫ぶように言うと、窓枠に手を置いて身をさらに乗り出そうとした。どうやら二階から飛び降りる気らしい。
(マズイ! あいつこっちに来る!?)
カレンはその場から、すぐに逃げ出そうとした。
でも、いきなり走り出したら怪しまれないだろうか? と足を止めた。しかし、あの金髪の男、どこと無く好奇心旺盛な子供のような雰囲気がある。もしそれこそ子供の悪戯みたいに着ぐるみの頭を取られたりしたら万事休すではないか。
エリア11にわざわざやって来るラウンズの事だから、黒の騎士団のエースである自分の顔もおそらく知っているだろう。
(ここに留まり続けるのは危険すぎる。ああ、でも、やっぱり、いきなり逃げるのは怪しいし……)
と、こんな事を考えてる間にも、ナイトオブスリーは窓枠に手をかけて飛び降りようとしている。
迷って、結局カレンは、