コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS R2~蒼失の騎士~ 作:宙孫 左千夫
①巻 0話『プロローグ』
行政特区日本。
ブリタニアの統治を受けながらも、イレブンではない日本人としての権利を取り戻せる政策。
これが上手くいけば、黒の騎士団の役割はなにも無くなってしまう。
それも良いのかもしれない、と黒の騎士団の幹部であるライは考える。
ライの目指すものは日本解放ではない。彼の望みはただ一つ、大切な人と平和に暮らせる世界を作ること。
正直に言えば、ライはイレブンの現状にもブリタニアに対する支配政策にも、あまり強い憤りを覚えていない。しかし、日本解放は彼女が――紅月カレンが望んでいる。
それがライが黒の騎士団にいる理由だ。
進むべき道は既に失われている。守るべき家族はもうおらず、自身が裏切った国への償いをするには時が経ちすぎていた。しかし、自分ではない大切な人が進む未来を手助けすることは可能だということを知った。なにより彼女は――紅月カレンはライを必要とした。必要としてくれた。
ならばそれに応じよう、とライは再び剣を取った。誰でもない、紅月カレンという一人の女性のために。
――彼女の進む道に障害があるのなら、それは僕が取り除こう。
それがライが再び戦いに身を投じる上で立てた誓いだった。事実、この数か月間、ライはカレンの進む道に立ちはだかるものを、彼女と共に文字通り粉砕してきた。
だが、ライはここにきて迷いを覚えていた。
行政特区日本。
この政策はカレンが真に望む日本解放の形でない以上、ライ自身にとってもあまり好ましく無いもののはずだった。
そもそも、ブリタニア皇女ユーフェミアが唱える行政特区日本など、ただの夢物語だ。日本人とブリタニア人が平等に生きていける社会。そんな社会は不可能だ。それを可能とするには、日本人は殺されすぎたし、ブリタニア人は殺しすぎた。
しかし……ライはこうも思うのだ。
それが夢物語で終わると誰が断言できるだろうか、と。
事実、世界とは理想で動いてきた。一人の人間がこうしたい、ああしたい、と思い始めたことが、多くの理解者、共感者によって結束し、拡大し、そして達成されてきた結果が今の世界なのだ。
ただ理想とは無数に存在するため、選出され、歴史となる理想が少ないだけの話である。
それに、このユーフェミアの理想は必ずしもカレンの望む日本解放の挫折を意味しない。
それは始まり。この行政特区日本は、限定的ながらもブリタニアの完全支配の歴史が根底から覆されるものである。
言うならばそれは、ブリタニアへの反逆。
つまり、行政特区日本はカレンが望む日本の形では無いにしろ、カレンが望む日本の形への未来の道筋にはなる可能性がある。
と、ここまで結論付けた時、ライは端正な顔立ちに苦い笑みを浮かべてしまった。
これらは全て自分を説得させるための建前だ、と気付いてしまったのだ。
本当は、もっと感情の根底の部分では、ライは行政特区日本が上手くいけばいいと考えているのだ。
ライの願うものは日本解放ではなく、大切な人と共に平和に暮らせる世界を作ること。
だから、日本解放ができなくても行政特区日本でそれが実現できるならそれもいい。
本心がそこにあった。
だが、ライにとって自身の本心などというものは考慮するに値しない些末なものだ。
カレンが望むなら。
カレンが、ライの望む世界よりも、もっと違うものを望むのならば、
ライはいつでも彼女のために戦場を駆ける。
誓ったのだ。
そして、ライはその誓いを最後まで果たすつもりだった。