絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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犬吠埼姉妹の淡々な日常を描いた特別話。時系列は本編終了後。

ふういつが中心になるかと。

2017/5/1 追記:後書きに後日談の簡単なキャラ設定追加。一部修正。


犬吠埼風 生誕祭記念特別話

「うぬぬ……」

 

犬吠埼樹は多目的用の電子レンジを睨みつけ、今か今かと待ちかねていた。

 

――― チーン

 

焼きあがった品を今回のために樹に協力した4人の前に差し出す。分量の間違いや手順は……多分、間違っていないはずだ。

 

4人は差し出された品を一口頬張り咀嚼する。それを見守る樹の心臓は緊張で今にも張り裂けそうに鼓動していた。目を瞑り食いしばろうとしたが、子犬のように少し震えた。

 

「……悪くはないんじゃないか?」

「極めて平凡だが。…よく出来た」

「うん、及第点です」

「美味しいよ♪」

 

「本当ですか!?」

 

一騎・総士・東郷・友奈の順である。樹はぱぁっと表情が明るくなる。

 

「「やったね。樹ちゃん」」

 

「はい!」

 

樹・友奈・東郷がハイタッチをし合う。

 

「本番で出来れば、いう事なしなんだが」

 

「分かっています。明日の本番ではお姉ちゃんが帰ってくるまでに一人で完成させて見せます!」

 

樹が気合を入れる。明日は5月1日、勇者部()部長である姉犬吠埼風の誕生日だ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-神世紀301年5月1日-

 

あの決戦を終え、あっという間に時が流れた。讃州中学勇者部部長であった風はその役職を後輩へと引き継ぐと讃州中学を卒業した。

 

風は両親を早くに亡くした身であり、妹である樹の事もあり、最初は就労することも考えていた。……が、そんな姉妹を見かねて支援をしてくれた人からの薦めもあり地元の高校へと進学することに決めた。

 

(少し…寂しいかな)

 

進学した風の心境はこんな感じだったらしい。仲間でバカ騒ぎし、女子力を振りまき、または振り回された。そんな仲間との思いが強かったのが影響したそうだ。

 

どうせならまたみんなで高校でも勇者部として人のためにやろう。風は中学での経験を活かし、また勇者部を作ろうと実績を積み重ねていた。

 

「んー、なんか今日は仕事が多いわね」

 

今は生徒会からの依頼で書類作業へと勤しんでいた。生徒会のメンバーはどうやら讃州中学出身のようでその伝手らしい。

 

「風、ごめんね。うちの生徒会長がまたサボってるようで」

 

「このための『勇者部』ですから」

 

副会長と雑談しながら書類を処理する。少しそわそわとしているのを見た副会長が聞いてきた。

 

「……なんか焦ってます」

 

「ふぇ…そ、そんなんじゃありませんよ~」

 

内心焦っていた。今日、妹の樹が早退したという連絡を()()()()()()()から受けたのである。風は早く帰りたいという気持ちを抑え、依頼の遂行をし、一刻も早く終わらせたかった。

 

(そろそろ限界かしらね)

「副会長、こちらの執務はすべて終わりました」

 

他の作業をしていた庶務が戻ってきた。

 

「ご苦労様。風、後は私たちでもできるからもうあがっていいわよ」

 

「あ…ですが…」

 

見ればまだ仕事の量が残っていた。

 

「いいわよ。そろそろうちの怠け者を呼び戻しますので」

 

「あ~……分かりました。それじゃ、お言葉に甘えてあがらせていただきます」

 

風はそそくさと出て行った。入れ違いに生徒会長が戻ってきた。

 

「風は行ったか?」

 

「……言ったわよ。怠け者さん」

「怠け者お疲れ様です。会長」

 

「仕方ないだろ。……総士から頼まれていたんだしさ」

 

散々な言われようだが、これも生徒会の計画のうちであった。

 

「ほぉら、仕事たまってますよ。生徒会長さん」

 

「はいはい」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「こんなに遅くなちゃった! 樹、大丈夫かしら。倒れたりしてないわよね……?」

 

風は帰路を急いでいた。頭の中は、早退した樹の事でいっぱいだ。

 

「こんな時に夏凜やみんなも知らないって一点張りだし…お姉ちゃん、いま帰るからね!」

 

自宅であるマンションの一室のドアを開ける。すると ―――、

 

「ジャジャーーン!」

 

「へっ!?」

 

風が目にしたのは、テーブルに並べられた料理と中央に装飾された箱が置いてあった。

 

「お誕生日おめでとっ!」

 

樹が笑顔で姉を出迎える。風は突然のことで少し思考が停止した。

 

「あ……」

 

「今日はお姉ちゃんの誕生日」

 

「そう……だっけ……いや、そうだった」

 

以前もこんな事があったなと風が思い出した。樹が急かし、風は席へとついた。

 

「今回も全部アンタが飾り付けたの?」

 

「そうだよ~♪」

 

去年もこんな感じで樹は祝ってくれた。風は次第に笑顔が綻んでいた。

 

「だけど……今回の私はちょっと違います!」

 

「え、何々?」

 

樹がテーブル中央の箱を持ち上げた。

 

「ジャジャジャジャーン!」

 

「(!?)これって…ケーキ」

 

中から出てきたのはシンプルなパウンドケーキだった。

 

「樹が作ったの?」

 

「そうだよ。去年は料理の方…少し失敗しちゃったから、今回は挑戦してみました。東郷さんや一騎さんのお墨付きです」

 

「美味しそうね。さっすがあたしの妹」

 

風は樹の頭を撫でる。えへへ~と樹の表情が綻ぶ。

 

「ケーキで時間が掛かっちゃって…ほかの料理は出来合いの物だよ」

 

「ううん、そんな事ないわ。絶対に美味しいに決まってるわよ。アタシのためにありがとう」

 

「お姉ちゃんが高校行ってるから今回は総士さんのお友達経由で生徒会の人たちに時間稼ぎお願いしちゃった」

 

「あぁ~、なんかおかしいと思ったらあの人たちもグルだったのね」

 

風がよそよそしかった生徒会メンバーの行動の真意に気づいた。

 

「さ、食べよ」

 

「うん、あれ?」

 

辺りを見渡すが一緒に暮らしているもう一人の妹分がいないことに気づく。

 

「夏凜さんは今日は園子さんたちの所です。『姉妹水入らずで過ごしなさい。頃合い見てみんなでお祝いに行くわ』だそうです」

 

「あやつめ…余計なんだか粋なんだかの計らいを……。

 

はぐっ! う……く……とっても美味しいわ!本当に涙が出るくらいに(去年と比べると…そっごく進歩してる~~~~!)」

 

大食感である風はあっという間の速度で食べる。昨年は樹の料理の腕前が……少し悪かったせいか余計に美味しく感じたそうな。




樹には頑張ればできる子であってほしいという感じで描いた結果このように。

当話に出てきた生徒会の人たちですが、生徒会長を某イノベイターの中の人で変換すれば……(多分どっかの話で出すかと)。



●後日談の簡単なキャラ設定(一部ネタバレあり)
犬吠埼風:高校へと進学。とある事情で後見人と妹分ができた。
犬吠埼樹:学業・勇者部・歌手と3足の草鞋状態。師匠に恵まれたのかある程度の自活力が付いた。

結城友奈:ゆゆゆ内の出来事によりある感情を自覚した。
東郷美森:記憶を取り戻し、同時にある思いも再び自覚。

三好夏凜:風のもう1人の妹分。ある事を身内に知られた結果である。

乃木園子:原作とは違い。住んでいるマンションでは2人ほど同居人がいる。

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