お盆に備えて纏めて投稿の予定でしたが、予想以上に難産状態です……。それでも完成した心情パートだけですが完成したので投稿。
今話は戦闘前の総士と東郷サイドのお話となります。
視点:皆城総士
勇者部一同が気づくと少女の姿はなく、辺りは樹海の世界へとなっていた。既に瀬戸内海とされる場所から無数の星屑が壁の外から侵入を果たし一部の個体に至っては陸地部分への上陸を果たし侵攻を開始している。
「各員、まずはこちらで指定したポイントに移動。向かってくる敵に対して3方向から迎撃する。新型などの細やかな判断はこちらで行う」
《了解!》
指揮を担当する総士は敵の侵攻パターンなどから最適な戦術計画を練ると一同に命令を出す。一団に対し分担して迎撃する
星屑自体の力は勇者と比べれば雑兵程度だが、その数も物を言わせた人海戦術で襲ってくるため必然的に1人当たりで対応する数が増えてしまう。さらに、星座の名を関した個体程ではないが、星屑を凌駕する新型も交えてくる可能性もある。
星屑だけの対応に当たれば新型に意表を突かれ、新型を優先的に狙おうとすれば星屑の大群に囲まれ分断される。精霊の護りがあるため勇者の『命』は保証される…が、障壁は攻撃の衝撃までは防ぎきることができない。蠍座の猛攻によって友奈が気絶したケースもあり、それは決して万全ともいえる護りではないという考えだ。同じような事が起きれば使える戦力も減ってしまうなどのイレギュラーは避けたい。
今回は神樹を中心に見立て、正面と左右に1人ずつ立ち、その後方に遠距離役の東郷を配置。前衛を勤める3人がバーテックスを迎撃、討ち漏らしを東郷が仕留める。そして、前衛に疲労が認められたら待機していた1人と交代するローテーションを採用することにした。
(集団戦闘に関しては三好を除けば素人でバラバラだったのが当たり前だったが、ここぞという時の連携力には光るものがある。大まかな枠組みを組んで自らの力を発揮できるようにすれば良いだろう……)
彼女たちの持ち味を活かしつつも合理的に事を進め、これまでの戦闘経験も重り、少しづつだが形となり始めていた。
(……しかし、乙姫が最近よそよそしいところがあったが、前々から乃木とコンタクトを取っていたとはな)
勇者たちへの指揮の最中、あの出来事から大赦側に管理されたとされる乃木園子と共犯者的な立場に回った乙姫。彼女の目的を聞く事が出来たが、それは彼の理解の範疇をも越える内容であった。
(さしずめ僕たちは乃木が設定した盤上にいる駒、配役といったところか。……今は乙姫の導きに従うか)
園子が姿を現した以上、総士としては避けたいイレギュラーは起きてしまうであろうと半ば仕方のない気持ちで受け入れる事にした。長期戦への備えもその保険である。
(……1人乱れがあるか。らしくはないな)
その時、クロッシング経由で1人だけ心象的な揺れを感じた。
――――――――――
視点:東郷美森
東郷は1人、狙撃地点にて狙撃銃のスコープ越しに敵の一団を狙撃銃のスコープ越しに覗き見、敵への攻撃合図を今かと待っていた。
「……あの子はいったい……」
勇者部の前に現れ、自らに微笑みかけてくれた子の事が気になってしまう。戦闘開始前ではあるがつい本音をぽつりと呟いてしまう。
東この前勇者部のメンバーと讃州市にオープンされたイネスでにて、彼女自身が覚えていない出来事がフラッシュバックされるという形で浮かび上がってきたのである。東郷は自身を気にかけてくれた友奈の手前心配させまいと気丈に振舞い、あれから少女に関して深く考えることはなかった。
(あの子の事は全く知らない。けれど…何なの、この気持ちは?)
勇者部内でメンバーが東郷が見た夢と同じだと聞いた。東郷は樹海の少女と事件には何らかの接点があると推測し、1日かけて独自に分析を行った。
夢で出てきた少女と片割れを『わっしー』と呼んでいた少女はあまりにも似すぎていたが、何度思い返しても少女の事は思い出せず、東郷自身彼女の事はまったく覚えてはいなかった。
(結局は思い出せなかった。だけど、この心に引っかかるような感じ……)
しかし、知らない筈なのに、東郷は樹海の少女に対し既知感を抱いていた。そのズレが強烈な不快さを生み、疑念を解決しようと思考のループが生まれていた。
《……らしくないな》
「―――ッ!」
思慮に耽っていると脳裏に声が響く。その声で東郷は思考の世界から現実へと引き戻された。
《樹海の少女か?》
「え…あ…うん。もしかして、分かっちゃった?」
総士に自らの悩みの大本を言い当てられ口ごもってしまう。
《君からは不安や苦悩の心理状態が強かったからな》
「……前に言っていたクロッシングでの繋がり? 」
《そんなところだ……すまない、こちらのデリカシーがなかったな》
(いけない…『くろっしんぐ』の事を忘れてたわ……不覚! 筒抜けだったわ……)
東郷の疑問に総士は答えた。『ジークフリード・システム』の詳細は聞いていたがあらゆる感覚や全体の戦況情報などでここまで分かるとは東郷の予測を大きく超えており、覗き見られたよりも戦闘中に余計な事を考えてしまった事に不覚と陳謝の気持ちにかられた。
《接敵には多少なりとも時間がある。何かあるのか?》
慌ててフォローを入れる総士、あと少し遅ければ東郷は間違いなく土下座し陳謝の態勢に入っているところである。総士は東郷の心身の安定のため相談に乗ると促す。
「……あの女の子、どこかで見たような気がするの?」
東郷は少し間をおいてから、イネスで起きた出来事を総士に打ち明けた。
《出会ったではなくて、見た?》
「えぇ、女の子2人が何かの待ち合わせの時間に駆け込んでいくのを。ほんの一瞬だけど白昼夢のような映像で。少女の1人は樹海の少女に似た子でもう1人の女の子を仇名で呼んでたの、たしか……『わっしー』」
《ッ!?》
声をかみ殺したような通信が聞こえた。年不相応とも言える(精神年齢的には大人だが)程に冷静沈着であるはずの彼があっけにとられたのだ。僅かな間のあと、いつもの冷静な感じで総士が尋ねる。
《……その『わっしー』という少女と樹海の少女を見たという事か》
「そ、そうね。総士君はどう思うのかな?」
東郷自身『白昼夢』と答えているが目覚めている状態で見る現実で起きた非現実的な体験ではなく、現実的な体験に近いと語る。
(東郷はそう言った空想で物を言う子ではない筈だが)
濃い物言いをすることはあれど、東郷は現実的に基づいた意見を言うタイプだ。
《(このケースは現実的な記憶の可能性があるのか…!?) 敵に動きがあった》
東郷の身の上から推測する。が、タイミングの悪い事にバーテックスが本格的な侵攻を開始してしまった。
《東郷、少女の言う通りなら敵を倒せば、僕たちの前に現れるはずだ。戦闘に集中できそうにないなら……》
「……大丈夫。戦えます」
《そうか。無理はせずに、確実に敵を倒すんだ。情報は逐一そちらに送っておく》
敵が来たことで東郷も戦闘へと思考を移行する。総士も東郷の意気込みから、無理矢理自らを奮起させようと強がりに感じたが、その言葉を信じ役目を全うさせることにした。
――――――――――
side:皆城総士
東郷の心理状態はまだ不安定だが、バーテックス相手に支援攻撃の任をこなしていることから当面は問題はないだろう。しかし、東郷がイネスで見たという白昼夢の内容を聞いて、僕はガラとなく動揺してしまった。
……無理もないか。東郷の身に起こっているのは、僕が『ジークフリード・システム』を使った際に、その後に散々起きた現象に近いからだ。
(東郷の身に起こっているのは突発的なフラッシュバックに近い現象だろう。しかし、何故彼女が乃木と一緒にいた記憶を)
戦闘の最中だが、並列思考を使い。東郷への考察を行う。
(東郷自身も内心、僕と同じ意見かもしれないが)
彼女は以前、事故で2年間の出来事が記憶からすっぽりと抜けてしまった事を言ってたな。……2年前!?
(瀬戸大橋の戦いと時期が重なる?)
僕らは2年前に戦った3人の勇者の事を知っている。あの戦いの後、乃木は大赦に祀られ、1人はフェストゥム側に接触し、最後の1人は御役目のために招かれた養子でだったが、その存在は大赦によって消された。今でもその行方は掴めてはいない。
東郷の身に起きた現象を聞いたことで僕は彼女に対してある疑念を持ってしまっていた。
「東郷、君は……あの」
運命というものがあったら『――― ふざけるな!』と叫びたくなるような衝動に駆られそうだな。僕はその衝動までもかみ殺し、今は冷徹に眼前の脅威の排除に尽力することにした。
4章後に語ることになるであろう、転生直後の総士編のためのフラグ建て。
タグの『W主人公』なのは、ファフナー側ではなく勇者である側にも当てはまる事。つまりはそういうことです。
次話は山羊座(樹海の記憶編)との決着。元凶である乃木園子との会話回となる予定です。