絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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本年度初投稿となります。

第4章ラスト…『樹海の記憶』ストーリーパート5・6話を統合したの戦いに向けた序章扱いの話となります。


第8話 少女の思い

「一騎君、どうしたの?」

「総士からのメール。讃州中に戻ったから今から部室に来るってさ」

 

総士が乙姫と話したことで確信に至ってから翌日、一騎は勇者部員とともに部室にて総士たちを待っていた。一騎は総士から届いたメールの内容を友奈と東郷に伝える。

 

「御出汁のうまみと天ぷらの風味が渾然一体となって舌の上から流れ込む。これが快感なのよ!」

 

「はいはい、どんだけ鍋焼きうどんが好きか分かったから」

 

その一方で、風は自らのおススメである『鍋焼きうどん』の熱い弁舌を垂れる。夏凜は飄々とし風の演説を聞き流すが、夏凜も香川県民であるためうどんは煮干し並に好物であるが、風の熱い弁舌の前にたじたじとした様子となっている。

 

「行き詰った時はうどんを食べるべし! 勇者部五箇条にもそう書いてるでしょ」

 

「書いてないわよ……、それで昨日うどん食べてから何か浮かんだの。部長さん?」

 

「……樹、追記しといて」

 

「誤魔化すなーーー!!! んでもって、何にも浮かんでなかったんかーい!」

 

「夏凜さん、これがお姉ちゃんですから」

 

夏凜の鋭い突っ込みが飛ぶ。それぞれの席に着いていた樹と友奈、一騎が苦笑いを浮かべていた。夏凜はそんな風の姿を見て深く息を吐き項垂れた。

 

「風先輩、壁が枯れるなんて差し詰った脅威のはずです。大赦の方からそれについて何か?」

 

「……それなんだけど。大赦のほうも何も言ってこないんだよね」

「このまま、壁が枯れ続けたら……いったい、どうなっちゃうんでしょう」

 

風の方でも大赦から調査が滞っているという報告を受け不安にかられて樹がつい口にして言ってしまう。

 

「そう…ですか」

「もしも、壁が枯れてしまったら……考えたくないわね」

「ねえ、一騎君。道生先生から何か聞いてないかな」

 

友奈が一騎へと訊いてくる。昨日に道生の報告を受けていたが、不安げな表情で見つめてくる一同に言うべきかと戸惑ってしまう。

 

「道生さんの方も残念だが芳しくなかったようだ」

 

「総士!」

 

思考中の一騎だったが、部室へと入ってきた総士が勇者部に調査が思いのほかうまくいってない事を伝えてしまう。その後ろには乙姫の姿もある。

 

「だけど、それでも諦めずに調査を続けているよ。だけど、私たちの世界とは勝手が違うし、私たち『ミール』と同じようなもので『神樹様』も人から見ればわからない事の方が多いからね」

 

乙姫が神樹に対してミールの例を挙げて答えていく。一騎たちのいた世界でもミールは極稀に吸収した情報に反応して、生態系に多大な影響を及ぼすほどの行動を起こすほどの大いなる結晶体である。竜宮島などでは解析などが進み、敵の力の利用などに昇華していたものの、どちらかと言えば未知の分野の方が占めていたくらいだ。

 

「それだけの大いなる存在。それも前例のない事を調べつくすのはそれだけ大変な事だし、大赦で奉っている『神樹様』を神聖化しているからかえって慎重になっているものあるかもね(人からみた神樹としてだけどね)」

 

「『神樹様に触れるのは罰当たりだ』っていう感じなのかな」

 

「そういう見方もあると思うよ」

 

「……なるほど」

「私たちも『神樹様』は教えられたことしか知らない。だけど、総士君や乙姫ちゃんの説明を聞いてみると、あまりにも知らない事が多くて、そんな風になっていたなんて考えすらもしませんでした」

 

学校や大赦からの教えでしかそれを知らない友奈たちは乙姫や総士の説明に徐々に理解を示す。

 

「あの、やっぱり私たちも調べてみませんか?」

 

内容なだけに重くなった空気の中、友奈が意見してきた。

 

「うーん、一理あるかもしれないけど」

 

「だったら、行きましょ! せめて、壁の近くまで行ってみれば、何かわかるかもしれません」

 

風としても友奈と同じ意見だが少し難色を示す。顧問でもあり大赦と関係がある(と思っている)道生の指示に反して行動すべきかと考えていた。無論、行き詰っている状況を放ってはおけない友奈たちの気持ちもわかる。

 

「(友奈の気持ちもわかるんだけどなあ。それで勝手に動くのも)。友奈、少し落ち着こうか」

 

一騎にも友奈の気持ちがわかる。それを理解しているからこそ意見を挟むことにした。

 

「一騎君……でも!」

 

「焦る気持ちもわかる。俺だって何とかしたいよ。だけど、何も分からずに動くのもどうかと思ってな」

 

ただ目の前の状況に動くだけの彼女が自分の姿を重ねてしまった。あの時、何も分からずただ従って、自分の気持ちだけで動いたあの出来事を。

 

「結城、君の言い分もわかる。一騎の言う通り、行き当たりばったり動くのがな」

 

「だけど!」

 

友奈は納得ができない様子である。それを見た総士が意見した。

 

「僕たちは『勇者部』という名の目的を達成するための一種のチームのようなものなんだ。一騎は気持ちだけで行動して迷惑をかけるのが良くない…そう言いたいんじゃないか?」

 

「……そうなの。一騎君」

 

「あぁ……島にいた頃だけど、俺もそれで多大な迷惑をかけちゃった事があってさ」

 

一騎がそれをやってしまったように、勇者部のみんなに自分と同じような事をしてほしくないという負い目があったように語る。

 

「……そっか」

 

一騎が普段見せないような表情を垣間見た友奈が思いとどまるが、みんなのためにと思った意見が咎められ、少ししょんぼりとした表情となる。

 

「が、その件に関しては僕としても総て否定するとは言えない。乙姫」

「あのね、友奈ちゃん。私も壁を見にいこうと総士たちに相談していたの。原因の元をちゃんとこの目で見てなかったからね。あ、もちろん道生とか関係者には許可はとってあるよ」

 

「ほんとっ!」

 

それとらしい理由で乙姫が許可を取っていたことを説明してきた。随分手際が良すぎるなと一騎は考えたが、それを聞いた友奈の顔がぱぁっと明るくなった。

 

「総士、チームっていうのも中々かっこいいじゃないの。そうね。許可もでてるなら私としても言う事がないわ」

 

「私も風先輩たちと同じ意見です」

「私も賛成です」

「ま、大赦が言ってこない以上、私たちがやらないとね」

 

「決まりのようね♪」

「うん、ありがと。乙姫ちゃん」

 

風がそれとなく締め、落ち着いてきた頃合に勇者部一同に訊ねる。東郷・樹・夏凜も反対意見はないようだ。いつもの調子を取り戻した友奈が後押ししてくれた乙姫にハイタッチをする。

 

「それじゃあ、早速行こっか」

 

「おー!」

 

「総士……こんなのでいいのか?」

「……それを言うな」

 

押しが弱い男子2人が置いてかれているような感じになっている中、勇者部は『壁』の調査へ赴くことが決定した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「とは言ったものの……」

 

調査に向かった勇者部と一騎たちだったが、讃州市にて壁が一望できる海岸に到着したところで立ち往生していた。

 

「ここからどうやって壁まで行くのよ」

「ボートとか?」

「真壁でもこの人数じゃあ絶対途中でバテるわね……」

 

(俺前提なのか!?)

 

目的である壁は遥か彼方の水平線の先、オールが備え付けられた小型のボートこそあれど労力の面から見れば現実的ではない。

 

「……勇者の姿になって飛んでいこっか」

 

「えぇ! 乙姫ちゃん、勇者の力を使ってもいいんでしょうか?」

 

乙姫の爆弾的な発言に驚愕する勇者部一同。樹に至ってはそんな事で使っていいのかと戸惑い声をあげてしまう。

 

「こうしている間にも神樹の根は枯れ続けちゃうよ。ね、総士」

「……良いだろう。これも後でフォロー入れてもらおう」

 

乙姫が総士に自分の考えを振ってきたが、少し間を置いたものの総士が迷いなく決断した。

 

「う~ん、なんだか乗せられているような気もするけど……じゃあ、さっそく」

 

「やめたほうがいいよ……」

 

風の号令により一同はスマホを取り出す。しかし、タップしようとした瞬間、彼女たちの行動を止めようとする少女の声が聞こえてきた。

 

「わっ、ビックリした!」

「ッ! いつの間に……?」

 

驚きの声を挙げ振り向く一同、樹海にいた少女がいつの間にかそこにいた。

 

「この子…どこかで?」

「あっ! お姉ちゃん、この子…」

「……ええ。やっと会えたみたいね。あなた、樹海にいた子よね?(夢に出てきた女の子にも似てるけど、聞くのは野暮ね) …いったい何者なの?」

 

今回の異変に関わる重要な参考人である樹海の少女に風は問いかける。

 

「あそこには行ってほしくないんだ……私みたいな目にあってほしくないから」

 

「行ってほしくない?」

「私みたいになってほしくない?」

 

少女は壁には行ってほしくないと勇者部に嘆願してきた。少女の言葉に困惑な表情を浮かべる勇者部一同。

 

「?」

 

すると、東郷と少女の視線が合った。少しの間、互いに見つめあっていた。

 

(なんでだろう、こう…支えていたくなるような衝動は……あ、あの子今笑った?)

(嘘や作り話という感じじゃない…よね)

 

東郷と見つめあっていた少女が僅かにほほ笑んだのに東郷は気づいた。少し間延びしたような話し方だが、少女の眼にはその言葉の通りの意志が込められており、嘘などを平気で言ってくるようには思えなかった。

 

(あの子は知っているという事なのか。いや、総士の話通りなら事実しか言ってないんだよな)

 

その様子を静観している一騎は少女の正体を大体しる身であるため、少女の動向に注意を向けていた。しかし、今の状態ではその真意は見えなかった。

 

「……あの、どういうことなのか説明してもらえるかな?」

 

「ごめんね。今はそれどころじゃなくなるから」

 

友奈が少女にさらに問いかけようとするが、少女の意味深な言葉に遮られるとスマホからけたたましい警告音が鳴り響く。敵の襲来を告げる樹海化警報だ。

 

「おっきなお姉さんの質問の答え、樹海にいたのは私だよ……だけど、これ以上知りたかったら、まずはあのバーテックスたちを……」

 

「え……あ、あれ!? いない……」

「……先に行ってるってことなのかしら」

 

樹海化警報に気を取られていると少女が風の問いにぽつりと呟くようにして答える。友奈と東郷はすぐに少女の方へと振り向いたが少女は姿を消していた。

 

「多分、これまでどおりなら向こうでまた会うことになるでしょうね」

「そんな気がします」

 

「詮索は後回しにしましょう、風先輩!」

「ええ、まずはバーテックスを倒すのが先! 行くわよ、みんな!」

「当然よ。この如何ともしない鬱憤、バーテックスで晴らさせてもらうわ!」

 

「美森ちゃん?」

「あ……はい。いい加減、ケリをつけましょう」

 

意識をバーテックス討伐へと切り替える一同、少女の事を考えていた東郷だけは少し遅れたものの戦闘態勢へと入る。

 

「……まずはバーテックスだな」

「あぁ。頼むぞ一騎。(乃木、話させてもらうぞ。君が勇者たちに選ばせようとしているものを)」

 

辺り一帯が光に覆われる。樹海の少女をめぐる戦いへの前哨戦が始まる……。




ゆゆゆ2期『勇者の章』が完結を迎えました。
勇者部の戦いの物語も終わりということになりましたが、彼女たちは『人』として『天の神』にその意思を示してくれた……これほど嬉しいことはありません。僅か6話という短い形などがあり納得できるのか……などの経緯はかなりあると思いますがね。

正直、『勇者の章』で懸念していた点がたくさんありましたが、逆にこのクロスと繋げれる点もあったことでこの小説の完結させたいというモチベはあります。

これからも拙筆な文ですがよろしくお願いいたします。

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