ここ最近、いろんな意味で忙しく。執筆する機会がなかったが久しぶりの投稿です。
視点:3人称
「敵バーテックス、及び『星屑』を撃滅しました」
大型のバーテックス『
「よぅし、お疲れ! みんな、集まって!」
東郷からの報告を受け風が労いの言葉をかける。警戒態勢を解くと、ふと肩が軽くなったと思ったら担いだ大剣が消えているのに気づく。
「アンタもご苦労様。あとでご飯あげるからね」
「お姉ちゃん、お疲れ」
目の前にいた犬神が気遣って大剣を格納してくれたと思い、労いの言葉をかけて撫でる。風的には犬神のこのモフモフとした感じが好きで、犬神自体も満更ではない様子で堪能させていた。そうしている間に樹が風に駆け寄ってきたが、
「(!?)お姉ちゃん、後ろ! この前の女の子が」
風は反射的に振り向くと樹海の根の奥へと走って行っていく制服姿の女の子をちらっと見つけた。
「行っちゃった…。声かける暇すらなかった」
「風先輩! 女の子は?」
やって来た友奈・東郷・夏凜に上手くいかなかった表情で首を振る。友奈がしんみりとした感じとなる。
「そっか。でも、無事なようなんですね」
「そうね。……最初が友奈で、その次が東郷、夏凜に、今回はアタシ達。これで見てないのは真壁や皆城兄妹となったか」
友奈が女の子が怪我ひとつなく無事な様子にほっと安堵する。すると、東郷がふと呟いた。
「そういえば、今回の敵も前に倒した個体でしたね」
「はい、東郷先輩の言う通り『射手座』でした。『蟹座』、『蠍座』に続いてですね」
「襲来もパターン化、前まで周期が乱れていたのに……いったいどうなっているのかしら」
これまでの不規則なパターンではなく、数日の間をおいて攻めてくるというのになっていた。今回の襲撃はこの前から数え4回目なのである。そう話しているうちに一騎たちが戻ってきた。
「あ、真壁、総士、乙姫ちゃんお疲れ様。そっちはどうだった?」
「特に滞りはありません。…今回もフェストゥムの姿はなしでした」
「そう。…ところで、そっちの方でまた女の子見なかったかしら?」
「(!?)いたのですか?」
「残念だけど、私たちは見てないよ~」
「総士の方は?」
「……ないです。あらゆる探知も反応がありませんでした」
総士も首を横に振る。3人の報告に風は深く息を吐く。
「総士、みんな、あの子を探しに行ってこようか?」
「真壁、あの子を探しに行きたいのはやまやまだけど、じきに樹海化も収まるわ」
「勇者システムや総士たちの万能システムが当てにならない以上、戻ってから探すのは針山から針を探すようなもんだしね」
一騎が探しに行くという提案をする。風はありがたく頂くも樹海化も解けるという事でそれを諫める。夏凜からも勇者システムの端末などの探査にも引っかからず、探すのには手間がかかってしまうと主張される。
一同は少女の事が気になってはいたが、仕方ないという感じで受け入れた。
(バーテックスの侵攻の変化。樹海にいるとされるシステムの索敵にも引っかからない少女……何かあるのか)
そんな中、総士はこれまでの事に疑問を感じていた。しかし、情報が不足または不鮮明なため様々な憶測を生んだもののこれといった結論には至らず、何もわからず仕舞いとなっていた。
――――――――――
明くる日の放課後、一同は勇者部部室内に集まっていた。部室内では風が神妙な面持ちで腕を組んで立っており、その表情から友奈はただ事ではないと思い静かに訊ねた。
「全員、集まったわね……」
「どうしたんですか風先輩? 怖い顔して……」
「……単刀直入に言うわ。昨日、大赦から報告があった。…………『壁』が枯れ始めたって……」
「ええっ!?」
「うそっ!? 壁が枯れるなんて一大事よ!?」
風の言葉に数瞬の間を置いてから理解した友奈たちが声を挙げる。神樹の『壁』は、彼女達も含め四国に住む人々にとってなくてはならない。それが枯れ始めるだけでも重大な危機を意味している。
「お姉ちゃん……」
「「……!」」
その事態に樹は不安げな表情で姉風を見つめ、一騎と東郷も息を呑んだ。さすがの総士も風の報告に衝撃を受けていたようだが、報告を終えた風にさらに訊ねる。
「風先輩、大赦はその件に対して他に何か情報は?」
「前代未聞なんだけど、不思議な事にこの件に気づいているのは私たちと大赦だけみたい」
「なんで……壁が枯れるなんて一大事なのに!」
「原因は不明。調査中だって……」
声を荒げる夏凜。風も大赦からの報告を目に通したが、現時点ではわからないと告げるしかなく、少し肩を落とす。今度は樹が恐る恐る手を挙げて訊ねてくる。
「お姉ちゃん、私も聞きたいことがあるの……あの時、女の子がいたよね?」
「そうね。ちらっとだけど見かけたわ」
「私も見ました!」
「む、そういえば」
「はい、私も見かけました」
話題が樹海にいた謎の少女へと移ると、目撃した勇者たちが騒めく。すると成り行きを静かに見守っていた一騎たちが呟いた。
「俺や総士は見てないけど……見間違いとかはないのか」
「うん、たしかにいたよ」
「これが1人だったらまだしも、結城たち複数人見てるとなると幻とか見間違いっていう感じじゃない事は確かだな」
道生がううむと腕を組み唸る。
「……大赦にも確認したんだけど、アタシ達以外には存在しないっていう返答があっただけ……」
「勇者じゃないの? じゃあ、何であそこにいたんだろう」
樹海にいれるのは
「どうしたの、総士君? さっきから静かなようだけど」
静かに佇み何か考え込んでいる様子の総士が気になったのか東郷が声をかける。
「再び現れたとされるバーテックス、樹海にいた少女、四国を守護する壁の異変。ここ最近、立て続けに連続して事が起こっている。しかしな……」
ぶつぶつと言い、さらに考え込む総士。暫くしてから見上げると、
「確証がありませんが。僕としては今回の事態…どれも何かで繋がっているようにしか思えないのです」
事が起こった時期が重なっており、偶然としては出来すぎているのに総士は大きな疑問を持っていた。
「……うむ。言われてみれば」
「神樹様の壁が枯れ始めたのも…樹海にあの少女が現れた頃ね」
総士の推論に風と夏凜が相槌をうつ。勇者部内でもあまりにも的を得ているともいえる意見に思え俄かにざわついた。
「それとこれまでの情報から推測しただけですので、大赦等の調査次第などでは変わってくると思います」
総士が最後にそのように付け加え言葉を終える。
「やはり私たちも何か手伝ったほうが……」
「おっと…調査の方なんだが、今は俺たち大人に任せてくれないか?」
道生から調査の方を任せてほしいと提案される。風が困惑した様子で訊ねてきた。
「え、どうしてですか?」
「言っただろ。戦うのが無理だから、君たちが万全に戦えるようにサポートするって、今がその時だ。ところで、…勇者部の活動の方はどうだ?」
「え、はい。…東郷」
「『子猫の飼い主探し』の方はホームページでの宣伝が完了しています。まだまだ呼びかけるつもりですが、あとは飼い主になりたい人の連絡待ちですね」
「そうか。なら、俺から君たちに言いたいことは只一つ。少し休んでほしい」
勇者部の活動も半ば完了していることを東郷が報告する。そして、活動内容も滞りがない事を確認した道生から休めと告げた。
「(こんな事態なのに!)で、でも……」
風から焦りに近いような感情の言葉が漏れる。
「風先輩、焦っても事はそう簡単には変わりません。『勇者システム』は持ち主の精神状態が大きく関わってきます。バーテックスの襲来が頻発し、壁の事で不安になってるのもわかりますが、張り詰めっぱなしでいざという時に変身できなくなったらそれでこそ弊害が出てしまいます」
総士が風の言葉を遮り、筋立った理由をつけて言い放つ。すると……意外な子が風に対し口を開いた。
「……お姉ちゃん。あまり根詰めるのも駄目だよ…。道生先生や総士先輩の言う通り、休も。……ね? 顔、少し怖かったよ」
「樹……」
樹が風の目をじっと見つめ、いつもと違う姉を宥めるかのように優しく語り掛ける。
「……そんなに酷い顔だった?」
「うん」
その言葉を聞いた風はどうやら思いとどまったようで、再び道生へと向かい合うと
「……わかりました。勇者部一同、休ませていただきます」
「おう、明日は偶然か振替休日ありの連休だ。しっかり休めよ」
「休み! やった!」
勇者たちの反応も多種多様だ。友奈がわいわいと騒ぎ、東郷と樹は喜ぶ友奈の姿に微笑んだ。
「(ふん、別に休まなくてもいいんだけど……。それなら特訓して)」
「あ、せっかくだし。夏凜は朝練以外の訓練禁止ね」
「はぁ、なんで!?」
これまでの学校生活や勇者部の活動で夏凜の生活パターンを知っていた風から先手をうたれ夏凜から素っ頓狂な声があがった。
――――――――――
視点:真壁一騎
話をまとめ終えると解散の運びとなった。風たちは先に帰っていったが、部室内には一騎と総士が残っていた。アルヴィスの一員として道生と話をするためである。
「うまくいってよかった。感謝するぜ」
一騎と総士に会釈をし感謝を述べる。実は2人は道生に頼まれ、風たちを休むように促がしたのである。
「友奈を含めて何かをしてないと落ち着かないような子たちですから」
一騎がここ最近、勇者たちがどうも落ち着いてなく。連続した襲来でどうも不安に駆られていたようだったと語る。それは総士や道生も感じていたようで、少し強引ながらもこのように了承させたのである。
「さてと、お前ら今回の事件はどう思う?」
「妙な点が多すぎると思います。……時間が少ない割に情報が少ない」
「時間がないって……?」
総士の一言に一騎は反応する。
「……壁が完全に枯れてしまったら、四国の結界は失われる。あれからフェストゥムも姿を現していない。もしかしたら…手を下さなくてもそうなる事を知っているのかもしれない」
総士は風たち勇者には語らなかったが、彼自身が考えた最も最悪な可能性を語る。
「―――ッ。させないさ!」
一騎の言葉に思わず総士が真顔となる。一騎自身もそれは理解しているつもりだし、そうはさせるつもりはない。それを垣間見た総士もふっと短く笑う。彼も一騎と同じ心境のようだ。
「ここ最近、乙姫が積極的に動いているそうです」
「へぇ、乙姫ちゃんがか。やっぱ元は島のコアだが、以前と同じで自分で情報を集めているのか」
「そうですね。一騎のこともあったので、春信さんたちが彼女の身辺警護についているそうですが。近く、それとなく彼女に聞いてみようと思います」
『島のコア』としての力をもった乙姫なら今回の件に関して何か知っているかもしれない。建前上は公正であるため、回りくどい事にはなりそうだが、確かな答えや選択を導いてくれるものだと総士は睨んでいた。
これ以上は話すこともなくなってきたので、一騎と総士は勇者部部室のドアへと向かう。
「壁が枯れた原因の調査は迅速に行う。お前らも一応は休みだからといって羽目を外しすぎるなよ」
「「わかりました」」
道生のほうへ振り向き返事をしてからドアを開け帰路につく一騎と総士。この2人も道生から直々に休暇を言い渡されている(総士に関してはアルヴィスの活動を緊急時以外の禁止)。久しぶりの休みもあって友奈たちからある場所へとお出かけしようと誘いを受けている。彼ら自身も四国に忍び寄る危機に大しては思うところもあるが、今の状態ではやれることはない。何か光明を乙姫やアルヴィス・一応は大赦の調査で判明してくれることを細やかに願った。
次話は日常よりの話を描こうと思います。
以下、解説。
●犬吠埼姉妹
この時点では風は御役目への責務を背負い込んでおり、その重圧で必死になっているような状態(原作4話時点)で、樹は姉である風が心配であり思わず言ってしまったような感じとしてあります。