絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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当作品独自の大赦体制の説明回。かなりの独自設定となります。

2017/2/4 一部修正


第4話 真相と歪み(後編)

「……ッ!」

「あの人たちはお前があった人とは無関係だ」

 

一騎は溝口と道生が引き連れてきた人物に気づく。またもや愕然とした表情となった一騎はそれについて言及しようとするも総士に制される。2人が引き連れてきた要人のうち3人は大赦の正装を纏っていたためでもある。

 

「一騎君、この人たちは我らの組織の設立に力添えしてくれた大赦の一族の『乃木(のぎ)』・『鷲尾(わしお)』・『三ノ輪(みのわ)』家の長だ。決して君をかどわかそうとした一団とは関係はない」

 

「(!?)皆城氏、この子がもう1人の…」

 

要人の1人が一騎の事に気づき公蔵が頷き肯定する。

 

『この度は…私たちの不手際で本当に申し訳ありませんでした』

 

すると大社の一族と呼ばれる3人が一騎に深々と頭を下げた。

 

「勇者たちと供に戦ってくれて、それに命まで救っていただいたのに…恩をあだで返すような真似を」

 

「あ、いえ…。俺の方こそ何もなかったわけですし」

 

一騎をかどわかそうとした一団とは打って変わって清々しい態度での謝罪。深く聞けば今回の件は大赦の総意というわけではないらしい。一騎は既に終わった事に対してたじたじとなりながらもそれを制した。

 

「一騎君、今の大赦は一枚岩ではない。これから大赦の内情並びに現状、この世界でアルヴィスを発足させた理由を話す」

 

「…わかりました」

 

総士や乙姫がいたとされる組織『大赦』の事をある程度しか知らず、自らがこのような事に巻き込まれたかの理由を知る必要があると一騎は判断した。

 

「皆城氏、大赦の件に関しては我々が」

 

大赦の乃木と呼ばれる長が代表して、この世界の四国の根幹を支える組織『大赦』の現状の説明へと入る。

 

大赦という組織は、西暦時代においてバーテックス対策において政府から全権限を委任された防衛機構である『大社』がその場しのぎとも言える組織形態であったためこの国の暦が『神世紀』と改めた頃にその名を変え改革が行われた組織である。

 

大赦となってからはバーテックス対策だけでなく、この世界の守護と恵みをもたらす『神樹(ごしんぼく)』を守り奉る御役目も課せられた事により、設立からおよそ300年、かの総理大臣(政府)をも上回る超法的な組織となった。

 

奉っている神樹の力の管理、彼神に選ばれた『勇者』と呼ばれる少女たちのサポートなど、この世界での人類の敵バーテックスに対しての防衛に関するすべてを担っている。また、宗教的な一面をもっており神樹と彼神に選ばれた勇者の神聖性を第一に掲げている。

 

中でも情報管理に力を入れており、これはバーテックスの襲来が起きた頃にそのような未曾有の危機に発生した混乱により住人のモラルが低下、勇者たちを希望の象徴として全面的に押し出してしまった事もあってそれを裏切られたように見られてしまい勇者たちを蔑ろにしてしまった。その教訓から勇者たちに影響を及ぼさない様に徹底、その民心を纏め上げるために秘密をあえて隠した。

 

「司令…あ、俺らが元々いたアルヴィスの司令と随分方針が違うんだな」

 

「竜宮島の真壁司令はそういう情報公開に関しては本当に理にかなっていたんだ。だけど大赦の場合そういう背景があったから敢えて隠していたそうだ」

 

「……襲来当初のままで抵抗していたら、おそらくはこの四国ももたなかったでしょう。それだけ生き残った人類も消耗しており、一種の疑心暗鬼に陥ってましたから」

 

総士からの補足も加え話は続く。乃木から秘密を徹底し隠蔽したことでバーテックスを欺き勇者システムの技術向上のため時間稼ぎを行いなんとか撃退することができる段階までになったそうだ。

 

「(竜宮島はたしか計画の完遂まで7割も満たない時に襲来したって総士が言ってたな。この世界はそれ以上に悪かったって事なのか)」

 

「我らは直接勇者たちとともに戦う事はできないですが、こういう技術向上や勇者に支援を惜しまず、からくも300年四国の守護的存在である『神樹様』を守っておりました」

 

「体制に関しては竜宮島の運営に関わっていた僕たちから見ても非の打ちどころのなく、最初は大赦に協力する機構として事を行おうとした。……だが」

 

「だが?」

 

「僕たちは見たんだ。この神世紀の守護をつかさどる組織の……歪みを」

 

組織として長年続いていた大赦には様々な考えを持った人たちが属していた。その結果、派閥が生まれていた。

 

――― これまでの話に出ていた乃木らを中心とした『勇者を1人の人間として』という考えを持ちそれを貫いた穏健派ともいえる一派。

 

――― 勇者に対し一種の過激的な思想を持っており、これまで築き上げてきた方針を否定しようとする一派。

 

大赦にて密かにフェストゥムとの戦闘準備をしていた総士たちはこの2派の争いを垣間見てしまったのである。

 

過激派ともいえる一団は穏健派ともいえる一団の考えを弱腰と罵りあれこれ否定していた。さらに『神樹に選ばれた勇者が四国を守るために戦う』事を理解しながらも『バーテックスと決戦すべき』と『勇者の人命に配慮しない』事まで主張することがあった。

 

その背景にあったのは、勇者に選ばれるであろう少女をこれまで身内でのみで賄っていたが神樹によってえらばれる以上それだけでは戦力の安定化とは言えないもので時代の移るにつれその数は減っていたのである。

 

それを危機とみた過激派が『勇者たちの候補を四国中に拡大すべきだと』という意見を発した。一団は組織としては有為であり卓越した手腕を展開してくるほど優秀であったが、これまでの実績もあってか穏健派が瀬戸際で制していた。

 

その争いを見た総士たちは過激派からどこか自分の保身に感じたとの事らしい。まるで何かを焦っているかのように…その派閥は目の前の事態しか見えていなかった。

 

「総士、それだと『新国連』のような一団じゃないか!」

 

「大体はそうだ。そして、一騎を狙った奴らは、現在の大赦を運営する上層部の仕業だろう」

 

その強引的な手段や総意遂行のために手段を選ばない事から一騎たちの世界の相違決定機構『新国連』が連想された。総士はそれに肯定し、自らを狙っていた一団の事を知り一騎は声を荒げる。これまでの事、楽園と呼ばれる島を守るために戦った一騎にとっても新国連の考えを許す気にはなれない。それから生じた数々の悲劇を目の当たりにしているからだ。

 

「続いては、何故このような一団が今の大赦を動かすようになってしまったかの話をします」

 

「……三ノ輪さん、いいのですか? 辛いようでしたら……」

 

「……?」

 

三ノ輪の長が説明に入ろうとしたが鷲尾の長がそれを制そうとする。それを気になった一騎は総士にひっそりと尋ねようと視線を送ったが、三ノ輪の長がまるで自分に言い聞かせるようにきっぱりと断り説明に入る。

 

ある時、大赦にとって決定的な事件が起きてしまった。複数体のバーテックスの襲来により勇者の1人が残る2人を逃がしバーテックスを退けたが、勇者システムの端末を残しその行方を晦ました。

 

大赦で調査したが発見には至らず、『戦闘中行方不明』ような形となりこれまで築き上げた防衛体制でついに犠牲が出てしまったのである。

 

(泣いている?)

 

その事を語った三ノ輪の長の目の端にじわりと涙が滲んでおりぽろりと落ちた。一騎はその犠牲になった勇者がもしかしたらこの人に関係のある人ではと感じた。

 

嘆き悲しんだ大赦の人たちはその犠牲を2度と起こさせないために神樹に新たな力を願った。『勇者を死なせないような力を』……その力を授かった残りの2人勇者によりバーテックスに対し痛撃を与えることができた。しかし、またその勇者たちも新たな力の代償の糧とされた。

 

「力の…代償」

 

『勇者を死なせないような力』という新たな力、その名は『満開』と呼ばれその代償を聞いた一騎はこの日一番の衝撃を受けた。そして、総士が以前『満開』に関して彼らしからぬ意見を述べたことを思い出した。

 

「総士、お前!?」

 

「……知ったのは、すべてが終わった後だった……」

 

『勇者を死なせないような力』を手に入れ勢いづいた過激派たちの行動は早かった。その代償すらも気にせずその後の体制が決められただけでなく、その権力のほとんどを手中に治められてしまったのである。

 

「これが…今の大赦です」

 

「……」

 

「そして今回、一騎がその上層部のターゲットとされた。十中八九、目的はアルヴィスのもつ勇者システムに匹敵する力…こちらの世界に来たとされるフェストゥムに対抗するための力をも手中に治める気だろう」

 

こうして、権力の暴走という状態が起きていた大赦では思ったような行動がとれないと判断したため、公蔵らが中心となってかつ影響が大きく及ぶ前に手をまわしてくれた乃木ら一族の後押しなどの大きな支援があってアルヴィスを立ち上げたのである。過激派ともいえる一団の対抗手段としての超法的な組織との事らしい。

 

自らの知らないところで大きく動いていた事態を受け止めた一騎は複雑な思いでいっぱいになっていた。

 

「……一騎、今回の話を聞いたうえでどう思った」

 

「話の内容をそのまま信じるなら今の大赦は信用ならないっていう事しか」

 

「今はそれでいい、ほかに何か聞きたいことは?」

 

「アルヴィスを発足させた理由は分かったけど…肝心の目的は? 話を聞く限りだとフェストゥムだけじゃないように思えるのだが…」

 

「私が教えよう」

 

言いえて妙な質問に公蔵が答える。

 

「現在の大赦上層部の筋書きはこうだ。バーテックスを殲滅できる手段を手に入れた事で一般人から選ばれた勇者を戦わせる。そして、勇者はきっと『満開』を使う。それにより新たな力を手に入れる。そして勇者を管理しバーテックスとの決戦に備えるのが最終目標であろう」

 

「それだと友奈や東郷に夏凜、風先輩や樹まで犠牲になる。……俺はそれを認めたくはない」

 

「そうさせるつもりはない。アルヴィスの最大の目的は『この世界に来たフェストゥム』。しかし、この世界の現状を見た我々はもう一つの目的を打ち立てた。それは大赦という組織の正常化。今の大赦の思想ではこれまで築き上げてきた民意が破壊される。……我々のいた世界にもあった過ちを繰り返してはならないのだ」




今話は一度は完成しましたが、『乃木若葉は勇者である』が最終話をむかえ、かつ大赦の発足に関する事実が判明しましたのですべて書き直しました……。

以下、解説
●大赦に関する改定前と後
改訂前:勇者一族に発言力はあれど、事実的な決定権がない設定
改訂後:2派閥に分かたれた設定

●当作品の大赦
裏話でもあったようにブラックな一面を出した結果、『新国連・人類軍』のような機構に。ただし、それを是としないために初代勇者たちが頑張ったという前提で組んでました(のわゆ最終話を見ればその決意が身に沁みます)

●真実を早期に知る
これも初期プロットのまま。総士たちが最初から大赦に近い位置にいますしね。



次回は続章で、総士と乙姫から大赦にいた頃の話を少々。一騎がある決意をするまでの経緯となります。

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