絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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追加戦闘回(オリジナル)。導入編のような感じです。


第6話 現実(前編)

回想:三好夏凜

 

『いい子ね~』

『お前は本当によくできた子だ』

 

三好夏凜という少女が両親と歳の離れた兄を遠くからじっと見ている。彼女の兄は成績は常にトップ、品行方正で所属のサッカー部でインターハイ優勝、俳句を詠めば県の大賞に選ばれると完璧超人ともいえるものであった。

 

夏凜は最初、そんな兄の背中を自分なりに必死に追いかけようと努力していた。そのためか学校の成績や運動の方も兄と同じように優秀な成績を修めていた。だが、優秀すぎる兄と比べられたためか夏凜が評価されることは決してなかった。

 

両親は優秀な兄を目にかけ、家の廊下には兄の絵は飾られるが夏凜の絵が飾られることがなかった。

 

『……寂しくない…兄貴は優秀だもん』

 

そう言い聞かせながら幼少期を過ごす夏凜。両親を振り向かせられず悔しかった……いつの日か夏凜は両親と兄との間に入ろうとしなくなった。それでも、夏凜は努力を怠る事は決してしなかった。

 

『夏凜はえらいな』

 

夏凜の兄である春信もそんな彼女の努力を陰ながら見守っていたためかその健気な夏凜の事を認めており、努力をするためか自分に無頓着となり両親との間に入らなかったことで人との距離が離れていこうとする夏凜のために彼なりに愛情を注いだ。

 

そんな夏凜に転機がおとずれる。大赦での勇者適性検査の結果、その資格はありということだった。

 

『これで認めてもらえる。…兄貴にはない…あたしだけの事ができる』

 

自分を認めてくれない両親を見返し、優秀な兄を超えれるチャンスがきた事で夏凜は血をにじむような努力をした。

 

『夏凜…』

『何よ。兄貴』

『辛かったら……逃げてもいいんだぞ』

『――― ッ! ……逃げるつもりなんて…ない!』

 

当時大赦でも高い地位に就き、担当する部署の都合夏凜に会うことが少なくなった春信だったが夏凜の身を案じていた。だが、その言葉は勇者になることに固執する夏凜には届かず、兄の心配もむなしく彼女はさらに人とのつながりから離れていった。

 

そして、努力家の彼女は勇者の候補生でもずば抜けて優秀な成績を修め、神樹から選ばれたことで念願の勇者になれた。

 

『これで見返せる。兄貴を…超えられる!』

 

こうして夏凜は大赦の命で讃州中学へと赴任する。そんな彼女が出会ったのは…曰くチンチクリンで緩い感じの勇者たちと大赦曰く異世界から敵を倒すために来たと戦士たちであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-樹海内-

 

「全く……もう夜も遅いのに」

 

勇者姿の風は深夜の敵の襲来に対して苛立ちを露わにする。夏凜を含めた勇者たち、一騎達は合流を果たしており敵の襲来に備え待機、総士は敵戦力の解析にはいっていた。

 

「敵バーテックスの戦力は星屑のみか」

 

さっさと片づけたい風は隣にいる樹の姿を一目見る。夜も遅いことでもう寝ようとした矢先の襲来だったためか寝惚け目になっていた。そのような様子を見て大丈夫なのかと夏凜は哀れむようにして見る。

 

「バーテックスちっこいのしかいませんし…なんだか前よりも数が少ないですね」

「…だったら、さっさと片づけちゃいましょ。夜更かしは女子力が育たないっつうの!」

 

「(だといいがな…むしろ少なすぎる方が気になる…それに大型種が不在なのは妙だ)」

 

戦力の解析を終え総士は今回の迎撃プランを練り終えるも敵バーテックスの戦力が少な過ぎる事に懸念を抱く。

 

「夏凜ちゃん! 今回から一緒に頑張ろうね」

 

「……頑張るのは当然って前にも言ったでしょ」

 

友奈は夏凜の方へと寄るとその顔を覗き見つついつものようにはにかむ。それに対し夏凜は手元のレーダーにて星屑の位置を確認しホーム画面へと戻そうとしたがある画像に目が留まった。

 

「そろそろいいか?」

 

一同は総士の方に視線を送ると夏凜も交え作戦概要の説明へと入る。

 

「状況は見ての通りだ。数は少ない上に星屑のみで一直線に神樹を目指している。今回も同じ方式で敵を叩く。前衛を一騎、結城と風先輩をすぐ後ろに中衛に樹、後方に東郷を配置させ、乙姫の操るノルンには相互的に援護させる。……そして、今回から結城と風先輩の隊列に三好も加える。万一の敵の参入もあるかもしれないがこれを基本としていく」

 

「さすが指揮官ね。みんな、それでいいわね」

 

「「「「はい!」」」」

「了解!」

 

風が気を引き締めさせようと声をあげる。

 

「もう、話はいい? 突っ込むわよ!」

 

「……三好のシステムをジークフリードシステムに登録していない。それに単独は危険だ」

 

「いい…1人でやる!」

 

「夏凜ちゃん、1人じゃあ危ないよ!」

 

「あたしなら十分にやれる…『完全勇者』のあたしで十分よ!」

 

夏凜はツンとした態度で総士と友奈の静止を突っぱねるとその場から跳ぶと先行して行ってしまった。

 

「……どうしたんでしょうか、夏凜ちゃん。何か焦っているような感じが見受けられましたが」

「……東郷もそう思ったか」

 

総士と東郷は夏凜の口調から焦りのようなものを感じていた。勇者部の一同が困惑した様子で夏凜の跳んで行った方向を見つめいた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:三好夏凜

 

「…悪い事しちゃったかな」

 

夏凜は星屑を2本の刀で斬り伏せ一刀で両断すると呟く。夏凜は少し後ろめたさを感じていた。神樹に選ばれた素人ともいえる勇者たちから暖かく迎えられ、自らの誕生日を祝われ、それを夏凜は素直にうれしいと感じた。

 

「だけど、私は大赦に選ばれた『勇者』!」

 

夏凜は自分にそう言い聞かせると跳躍し回転しながら星屑の一群をまとめて切り裂く。着地し舞うように刀を振るう。一太刀するごとに星屑は両断され生物とはおおよそ思えない奇声を挙げ消滅する。

 

夏凜が勇者になったのは兄を超えるところをみせつけ()()を認めさせること。

 

「……今は奴らを殲滅よ。一刻も早く!」

 

潜入してきた星屑はその数こそ夏凜1人に対しては無数と言える数だったが夏凜はそれを圧倒しあっという間に殲滅させた。

 

【諸行無常】

「はっ、アタシと義輝にかかれば楽勝よ……ッ!?」

 

夏凜の方にいた星屑のバーテックスは殲滅されたが、突如、心臓を刺すような悪寒に襲われる。ふと見上げると一筋の閃光が降り注いでくるのが見えた。

 

その正体である金色の体をし複数の触腕を持った生命体が地面へと激突する。

 

「落ちた……」

 

夏凜が唖然としているとその生命体は接触する地面に溶け込むかのようにその色を変える。するとその生命体をまるで背負うかのように2足歩行の土人形のような人間大サイズの生物になるとその足で立ち上がると人間の目ともいえる部位が見開いた。

 

「バーテックス? いや……こいつがフェストゥムってわけね。今回は同時侵攻っていうところかしら?」

 

夏凜は気持ちを切り替え2本の刀を構えると一目散にその距離を一瞬で詰めると、

 

「先手必勝!!!」

 

2本の刀をその生命体の体に突き立てた。だが、夏凜はその手ごたえに違和感を感じる。

 

「わっ! 何よこれ!」

 

突き立てた刀が背負っている生命体と同じ金色に染まる。夏凜は刀からすぐさま手を離したが、その刀はその生命体に取り込まれてしまっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

その一方、一騎・総士・乙姫・夏凜を除いた勇者たちは侵攻してきた星屑のバーテックスとの戦闘に突入していた。星屑のバーテックスと呼ばれる小体の数は前回に比べ多くはないが、それでも無数といってもいい戦力であるが、

 

「とぉりやぁーーー!」

「えぇ~い!」

 

既に3度という実戦を経験した勇者部員たちは星屑を圧倒。風は大剣のリーチを拡張し豪快になぎ倒していき、樹はワイヤーを鞭のように振るい切り裂いていく。

 

「東郷さんは私が守る!」

「それなら…友奈ちゃんの背中は私が守ります!」

 

友奈と東郷は互いに背中合わせとなり答える。星屑の数に東郷はいつも使う狙撃銃ではなく2丁の散弾銃による弾幕を張り星屑を寄せ付けず次々と撃ち落としていく。友奈は総士の指示通りに東郷に近づこうとする撃ちもらしを着実に撃破、裏をとってくる星屑を東郷の元にたどり着せない。

 

「友奈たちは大丈夫そうだな」

 

友奈たちの奮戦をジークフリードシステム経由で知った一騎は星屑にすれ違うついでに両断し突破する。

 

「――― ッ!」

 

乙姫が何かを感じ取りはっとした表情となる。必死な様子で一騎と総士に訴えかけた。

 

【一騎、総士! 今すぐ夏凜を追って!】

《乙姫、何があった!》

【敵が既に来てる!】

 

総士の端末に情報が送られてくる。レーダーに反応しないフェストゥムなどシリコン生命体の接近を知らせ、そしてその種別を判定する『ソロモン』と呼ばれるシステムからだ。

 

《一騎、ソロモンに応答。これは…来るぞ!》

 

順調に夏凜の元に向かっていたがソロモンに応答があったと同時に彼の前方に金色の体をしたフェストゥムがその道を防ぐかのように現れた。

 

《これは……タイプ断定せず、敵と認知していない…?》

 

だが、システムの反応はこれまでとは違う特殊なケースのものである。総士はこの情報に見覚えがあった

 

《厄介な相手が…風先輩、配置を変更します》

「どういうことなのよ?」

 

ただならない様子を感じ風が尋ねると総士が勇者一同に来るであろう敵の事を伝える。

 

「そんな! それでは夏凜ちゃんが危険だわ!」

 

《一騎、お前は三好の後を追え!》

「わかった!」

 

《風先輩は樹と。結城、君は東郷と組んで戦え》

「東郷さんと?」

《あぁ。今回の敵は想定通りなら遠距離の東郷も狙われる可能性が高い…だから、君が東郷を守れ》

「(!?)わかったよ。総士君」

 

一騎が行動を開始しようとするも数体のフェストゥムに行く手を遮られた。

 

《ここを通さない気か》

「……邪魔をするな、フェストゥム!」

 

フェストゥムの出現によりジークフリードシステムの恩恵を受けていない夏凜の身がこれでますます怪しくなった。一騎はスフィンクスの1体にプラズマ弾を発射し命中。爆散しずたずたになったフェストゥムが黒い球体に包まれ消失する間に邪魔をするほかの敵へと切り込んでいった。

 

【勇者たちの事は私と総士に任せて】

 

一方、総士は動揺が走る勇者を落ち着かせ、彼の指揮のもとそれぞれ星屑のバーテックスに立ち向かうのであった。




当作品の夏凜は『結城友奈は勇者であるS』などを加味し、かなり独自の設定を入れています。そのため戦闘方面では実力の高さから単独行動するようにシフトしてあります。

本編では勇者部の活動で部内になじんできた頃に第5話(後に出たゆゆゆのある作品の物語を除けば)ですのに勇者部の子たちと連携とってましたが、今作品では勇者部や一騎たちとの距離を一気に縮められそうな出来事を描きたいということでこの戦闘回となります。

なお、夏凜は現時点で()()()()()()はしておりません。後編はこれが鍵となります。

後編も出来次第投稿します。

蛇足:満開祭2(ゆゆゆの公式ファンフェスタ)までに投稿できればなあ・・・。

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